霊夢達が地霊殿の異変を解決して数ヶ月が経ったある日地霊殿に再び問題が起きる。
「お燐、お燐居ないの?」
地霊殿に声が響く。
「にゃ~~」
黒い猫姿のお燐こと火焔猫燐が姿を現す、だが様子がおかしい事にさとりは気がつく。
「お燐! どうしたの? 調子がとても悪そう」
心配そうに話しかけた。
(さとり様……どうにも体が言う事を利かなくて)人型になるのも負担が大きいらしく心で話しかけてくる。
「大変! お燐、しっかりして……今お空を呼んで来ますから」
燐を部屋で休ませるとお空の元に向かう。
― ― ― ― ―
「ふんふんふ~ん、今日も異常なし♪」
霊烏路空は火力の管理をしつつ警備もしていた。
「お空、お空!」
さとりが叫びながらお空の元に飛び込んでくる。
「さとりさま、どうされたのです? そんなにあわてて」
空は状況が解らずはて?という顔をしている。
「お燐がお燐が……倒れたのです」
「はい? お燐が倒れた?冗談でも笑えませんよ、さとりさま」
空はまだ状況を理解していない。
「お空! こんな事冗談で言うわけ無いでしょう、早く!」
「わ、解りました!! 急ぎますからしっかりつかまっててください」
ようやく理解した空はさとりを抱えると全力で地下を翔る。
地霊殿に二人が戻るとすぐさまお燐の部屋に向かう。
「お燐、大丈夫!?」
さとりと空は駆け寄ると様子を伺う。
「にゃ、にゃぁ~……にゃ」(すいません、駄目です……動けません)人型に戻れず答える。
「お燐、しっかり気を持って、最後の望みを言って頂戴」
「お空、縁起でもないことを言わないので」
「あ、違う違う……何か頼みたい事はでしたよ」
「まったく……この子は……」
さとりは呆れ顔でため息を付く。
「にゃ…」(それでしたら、地上に行って薬を貰って来てもらえませんか、永遠亭に行けば貰えますから)
「了解~、行ってくるからね」
空は急いで出て行こうとする。
「待ちなさい、お空、あなたじゃ薬貰う前に目的から忘れてしまいそうですからここに居なさい」
「えぇ~~、地上行きたいですよ、さとりさま~」
空は涙目で訴えるがさとりは許可しない。
「あなたはここ地霊殿とお燐を守るという仕事を与えます、勝手は許しませんよ
……まぁ、お燐が元気になったら二人で地上に遊びに行く事は許しますから」
その言葉にお空は嬉しそうに頷きさとりの地上への旅立ちを見守った。
こうして燐の願いでさとりは地上に向かう。
― ― ― ― ―
さとりは地上に出るのを正直好まない、自分の能力で周囲の心の声が嫌でも入ってくる。
その騒がしさを嫌い地底に住む事にした、それでも今度ばかりはペットの命が掛かっている
動かないわけには行かないのである。
「そろそろ地上ですね、その永遠亭というのはどこにあるのでしょう……」
燐の言って居た事を考えても人間ではなく妖怪であろうとは思うもののあまりに情報が無い。
当てもなく地上を歩きたくはないといっても探さざるを得ない、さとりは悩みながら地上への出口に着く。
地上に出ると強い日差しがさとりに降り注ぐ
「地霊殿も蒸し暑い所ですが、地上もなかなか暑いところですね……まぁ、悪い気分ではないですが」
そんな事を考えながら人里に近づくとやはり色々な声が聞こえてくる。
「さてさて、どうしたものか……」
とうんざりしながらも里を遠巻きに見ているとその声の中に興味のある言葉があった。
(あぁ……薬間違えて持ってきちゃった、師匠にしかられるぅ~……でも、戻らないといけないし)
(ふむ? これはもしかしたらその医者の関係者かもしれませんね……確かめてみましょうか)
さとりは声の主に検討をつけて里の外で待つ事にした。
その間もその声の主はでも~などずっと迷っているようだった。
(まったく……待つ私の身にもなってほしいものですね)と心で思いつつ。
しばらく待つ事、その声の主が決心がついたのか里を出て駆け出しこちらに向かってくる
「そこの人、待ってください」
走り去ろうとする人に声を掛けて呼び止める。
「……え? な、なんですか?」
急に呼び止められたのと人馴れしていないのか動揺が目に見える。
「これは失礼を、私は古明地さとりと申します、少々お聞きしたい事がありまして」
「はい? なんでしょうか、あ! 私は鈴仙と言います」
警戒はしているようだが聞いてくれるようだ。
改めてしっかり相手を確認するとは若い女性で可愛らしいうさみみが特徴的な妖怪だった。
「これは可愛らしいウサギの妖怪ですね、私のペットに欲しい位です」
「え? え?」
訳もわからず動揺する。
「あーこれは失礼、つい本音がと、実はですね……」
…………説明中
「なるほど、それは私の師匠の八意永琳ですね……丁度私も戻らないといけないので案内しますよ」
「ええ、是非お願いします」
こうして永遠亭の関係者である鈴仙と共に向かう。
― ― ― ― ―
「ここが永遠亭ですよ、さとりさん」
そう言って鈴仙は竹薮を指差した。
「竹薮の中にあるのですね、鈴仙さんに会わなければどうしようもなかったですね」
「確かにまったく知らない人にはここにたどり着くのは難しいですからね」
「あ、鈴仙……と知らない人? まぁいいや、お師匠が呼んでるよ」
見た目が鈴仙より更に幼いうさみみが近づいてくる。
「あぁ……忘れてたぁ、叱られる……叱られる……」
鈴仙は青ざめながら建物に入っていく。
「そこの知らない人、いい話があるけど聞かない?」
悪戯な笑顔を作って近づいてくる。
「ええと、私にその様な話は聞きませんよ、考えてる事などすでに承知ですから
ついでに言えば、今のうち謝っておいたほうが後々いいと思いますよ……薬すり替えた事とか」
「なっ! 何故それを…」今度はこっちが青い顔をしている、面白い所だとさとりは思った。
廊下を進むと鈴仙ともう一人の声が聞こえてくる。
「はぁ……優曇華、駄目でしょう薬間違えるなんて初歩的な事よ?」
どうやらこの声の主が永琳らしい。
「えと、お邪魔します」
真相を知るだけにこれは助け舟を出すべきだろうとさとりは話に割ってはいる。
「その事はあの悪戯ウサギに聞いていただいた方がいいですよ、まぁ、気がつかないのも悪いですけど」
とフォローなのかそうじゃないのか解らない助け舟を。
「あ、あら……そうなのですか? それであなたがさとりさんで?」
「ええ、初めまして古明地さとりです、用件は……」
「聞いているわ、どんな妖怪でも治せるこの恐怖の薬、安くしておきますよ♪」
とにこやかに見るからに危険な色をした液体を渡そうとしてくる。
「……冗談は私には聞きません、とは言えどの薬が欲しいのか聞きそびれて来たのも事実……」
と今更ながら焦りすぎたと思うさとりだった。
「そうですね……鈴仙、あなたさとりさんと地底に行きなさい、そこであなたが見て判断するのです」
と鈴仙に指示する。
「え? 師匠、それは……もし何か遭ったら私では……」
不安をあらわにする。
「大丈夫、あなたの知識だってそこらへんの医者に負けてない、私が保証するわ」
にこやかに返す。
「ふむ……」さとりはその会話を聞きつつその裏を察する。
(この永琳という人物、嘘は言っていないし、鈴仙もそれだけの実力はあると見ていい)
「解りました、鈴仙さん、忙しいと思いますが地霊殿にお越しいただけませんか?」
「え? そう言われましても……師匠」
「鈴仙、しっかりなさい、あなたなら出来ますから」
「わ、解りました。 さとりさん、こちらの件が終わったら向かいますので案内お願いします」
「ええ、了承頂きありがたく思いますわ、永琳さんもまた何かあったらお願いします」
鈴仙は里に薬を届けに出かけるのでさとりはしばらく永遠亭にて待つ事になった。
「地上は私の能力で騒がしい所ですが、こうして静かな所は良い物ですね」
ゆっくりしている所にウサギたちが寄ってくる。
「ここはウサギたちが暮らしているのですね、私のペット達と同じように何か聞けるかしら?」
(てゐ長老は悪戯好き、でも幸せも与えるよ、でもやっぱり悪戯する)
(鈴仙、やさしいよ鈴仙、本当は強いけど性格で損してる)
「どこのペットもよく主人を見てるものね……油断できないわね、ふふ」動物との話は面白いと思う。
「どうですか? 地霊殿の主、さとりさん」
そう言って背後から永琳が話しかけてくる。
「ここは静かでいいですね」そうさとりは答える。
「そうそう、私の心も読めますかしら?」
「知っていらしたのですか? 私の能力」
「ええ、噂には……と言っても地霊殿に行った者達の言葉ですけどね」
そういって微笑む。
「私の印象はどうです?」さとりも包み隠さず問う。
「噂では解らないものです、会ってみて信頼に足る人物と思えますわ」
なおも笑顔を崩さない。
「ありがとうございます……私もあなたに会えて得るものがあったと思います」そう笑顔を向ける。
そうこうしてる間に鈴仙が帰って来て準備が終わったらしい。
「では、師匠行って参ります、てゐ、姫様をよろしくね、あぁ後……」
色々指示を出して出発する。
「心配性なのですね、鈴仙さん」心底働き者だと思いそう口にする。
「そうかもしれませんね、でもそうでもしないとてゐがサボるのですよ」
と呆れたような嬉しそうな複雑な表情をする。
(てゐという妖怪との関係がそうなのだろうと心の声を聞かずとも解るような気がする)とさとりは思う。
― ― ― ― ―
ほどなく地底への入り口にたどり着く。
「私がいるので邪魔はしてこないと思うのですが、一応警戒して下さいね
何分、退屈してるのが多いので珍しい客人を見るとちょっかいを出したがる者ばかりでして……」
と、地底の主として威厳がとか体裁をとり造りたいところだが実際そうなのだから始末が悪い。
しばらく進んでいくと通路の端に桶が置いてある。
「あら、キスメったらもう寝てるのかしらね」
さとりはそういって覗き込む。
「……すぅ……すぅ」桶の中で寝息を立てて眠るキスメを起こさぬよう鈴仙とその場を後にする。
「彼女はここを通る者を驚かせてむやみに進ませない役なのですが、まぁ、暇ですしいいでしょうね」
と鈴仙と笑顔になる。
「おや、今度は地上の妖怪かい?」
そこには地霊殿に続く洞窟の住人、黒谷ヤマメが向かい合う。
「ヤマメ、この方はお客様でありお燐の病気を見てもらうために来たのです、ちょっかいは許しませんよ」
さとりはヤマメの前に一歩踏み出しそう警告する。
「あら、さとり様も一緒かい、私はちょっかい出す気はないですよ、無駄な争いはしない主義ですし」
「それは助かります、私も戦いはしたくありませんし」
鈴仙はそう言ってさとりとともに奥へ進む。
「まぁ、皆気のいい連中ではあるのですが、何分鈴仙さんのような可愛い方はそう多くないので
見かけるとちょっかい出したがると思うのですよ」
とさとりは鈴仙言う。
(そうかな? さとりさんだって子供みたいに可愛らしくてそれでいてしっかりしてるのだから
誰だって興味持つだろうに……)
「……」(鈴仙さんは知らないのだろう、私が”さとり”としての能力を持ち、心を無条件で読む事を)
さとりには鈴仙の心の声、ほめていることが見える、そして私を知らないから心を開いている
私の力を知れば、きっと気味悪がり離れていくだろうと思うと無性に寂しくなりうつむき加減になる。
「どうされたのです? さとりさん、辛そうですけど」
心配そうにさとりを覗き込む。
「え? い、いえ……なんでもないですよ」そう笑顔を作り鈴仙を安心させようとする。
更に進むと開けた場所に橋が架かっている。
「はいはい、そこの妖怪妬ましい波動ビンビンよ」
そう言ってこちらに近づいてくる妖怪は橋姫パルスィである。
「パルスィ、この方は地上の妖怪で鈴仙さん、お燐の治療にお呼びしたお客様、無礼は許しませんよ」
そう言って近づくのを阻止し距離を詰め向き合う。
「へ~、あんたが外の妖怪にね、で、心はもう見たのかい?」
にやりと笑いながら問う。
「くっ、あなたには関係ないことでしょう……それ以上は許しませんよ」
辛そうにパルスィを見上げそう答える。
「パルスィさんと言いましたね、それ以上さとりさんを挑発するのは私が許しませんよ」
鈴仙は距離があった為今の会話を良く聞いては居なかったがさとりが辛そうな表情を見て取り割ってはいる。
「ははっ良かったねぇ、さとりちゃん精精がんばりなよ」
そう言うと道を譲りどこかへ去っていった。
「本当に大丈夫ですか? さとりさん」
鈴仙はしきりにさとりの表情の落ち込み具合を気にする。
「ええ……本当になんでもありませんから」そう言っているものの表情が変えられない。
いよいよ地下の都に入るがさとりは薬だけを貰ってくれば良かったとここまで来て思った。
たとえ数時間とは言え、自分と行動をともしてくれる妖怪ができた事は嬉しかった
でも……自分の本当の力は隠して共に行動した、それがパルスィによって思い知らされた。
「や、これはさとりじゃないか、なにを落ち込んでるんだ?」
そこに居るのは地下の鬼、星熊勇儀である。
酒を飲みすぎているのか少々ふらふらしているが何時もの事だろう。
「なんでもありません……」さとりはそれだけ言うと進もうとする。
「さとりさん……」鈴仙は明らかにさっきから様子がおかしいさとりを心配しながら着いていく。
「お? これは地上の妖怪じゃないか、暴れてる様子はないけどここに来るべきじゃないと思うぞ?
まぁ、ちょっと力試ししてみないかい? 地下じゃ早々相手もいなくてさ」
どういう状況でここまで来たかは知らないでも、ここまで来る力を計りたかった。
「そういう状況では……」と言ったところですでに聞いてない。
「!! 勇儀、やめなさい」さとりは鈴仙と勇儀の間に割ってはいるが勇儀は止まらない。
さとりは勇儀の性格は知っていた、それだけに言葉が足りなかった事を悔いた。
勇儀の一撃は鈴仙ではなく間に入ったさとりに当たる。
「! さとりさん!!」鈴仙の悲痛な叫びが都に響く。
「お、おい!! さとり、大丈夫か?」
勇儀も一気に酔いも覚めさとりに話しかける。
「大丈夫です……でも、勇儀、この方に手を出すのは許しません、
お燐の治療に来ていただいたお客様です…」それだけ言うと気を失う。
「す、すまん……つい」勇儀は鈴仙に向かって何度も謝った。
「いえ……さとりさんは私が連れて行きますので、心配しないで下さい」
そういうとさとりを背に背負い地霊殿に向かおうとする。
「地霊殿に用があるんだよな? 案内する、せめてそれくらいさせてくれ」
勇儀は必死に頼む。
「はい、それではお願いします」鈴仙もその必死さを見るとおかしくなってきてしまう。
― ― ― ― ―
そしていよいよ地霊殿の入り口に案内の勇儀、鈴仙 さとりは着く。
「ありがとうございます、勇儀さん、ここまででいいですよ」
「そうか、すまなかったね……お燐のこと、任せたよ」
勇儀はそう言うと去っていった。
「……さとりさん、どうしてしまったのでしょう、パルスィさんとの会話以降明らかに様子が違う」
鈴仙はそう呟きながら地霊殿の内部をまっすぐ進む。
「侵入者 侵入者」地霊殿の中に居る体色の悪い妖精が口々に叫ぶ。
ようやく大きな扉が見える、鈴仙は扉を開け入ると一人の女性が居るのを目にする。
「ご主人様が居ない時に進入するとはいい度胸だってぇ……さ、さとりさま!!」
そこに居た少女こそお空こと霊烏路空、さとりのペットであり留守を任されたその妖怪である。
「よ、よくもさとりさまを~~」
空は目に涙を溜めて向かってくる。
「え? ええ?? 違う、違うって」
鈴仙も涙目になって叫ぶが聞いていない。
空はいきなり仕掛けてくる「燃え尽きろ~~」
巨大な火弾が迫る。
「ちょ、ちょっと、あなたの主人諸共消す気?」
鈴仙はさとりを背負ってどうにか回避するとひとまず部屋を出る。
「さとりさんを安全な場所に下ろして、あの子を止めないと」
さとりを隣の部屋に下ろすと再び空の居る大部屋に戻る。
「戻ってきたな、悪人め~!さとりさまの仇、必ず取る!!」
「だから話を聞きなさい、この妖怪」
鈴仙は説得しようとするがどうにも話を聞かない。
「無法者に遊びは要らない!」
本気の巨大火炎球を鈴仙向けて放つ。
鈴仙は辛うじてそのスキマを縫うよう移動し直撃を避け反撃。
波符「マインドシェイカー」二重の弾幕を放つ。
「くぅ! こんな物で私が負けるかぁ!!」
だが惑わされた空はバランスを崩す。
「隙が出来たわね、少し狂気に落ちてもらう」
鈴仙は空の動きを抑える為接近する。
……がそこには更なる一手が用意されていた。
「本気だって言ったでしょう」
空が爆炎を纏い鈴仙を巻き込む。
「くっ!」完全に包まれる前に抜け出したが火傷が思ったより酷い状況だった。
(このままじゃ、勘違いのまま殺される……どうしよう)
「どうした!! おまえはさとりさまの仇、まだ終わりじゃないぞ」
空は鈴仙に向かって叫ぶ。
(あの子はさとりさんの仲間、でも、これ以上長引けば私が殺される……殺される?
……嫌だ、嫌だ! 嫌だ!!)
死を意識した瞬間、鈴仙の瞳が真っ赤に輝き、まとう妖気がまったく異種な物に変わる。
「いい妖気を放つじゃないか……仇覚悟しろ、加減しな……!?」
空は言葉を詰まらせた。
「その程度でいい気にならないで貰いたいわね……私ももう手加減しない!」
鈴仙は先ほどとは明らかに違う速度で間合いを詰め、蹴り上た。
「こ、こんな……」
空中で体勢を立て直すが追撃はまだ終わらない。
鈴仙は跳ね上がると空の腕を掴みそのまま床に叩き付け、さらに蹴り飛ばす。
「ぐはっ!!」
壁に叩きつけられ床に倒れこむ、鈴仙は赤い瞳で冷たく見下す。
「これで終わりよ……さような……うぅ!」
頭に響く自らの声に膝をつく。
(もう終わり、それにこれはスペルカードルールに反する
そして私は鈴仙・優曇華院・イナバ 、永遠亭の妖怪兎)
「はぁはぁ……いい加減話を聞きなさいよ鳥妖怪」
先ほどの妖気はすっかり消えている。
「嫌だ……さとりさまを殺した奴なんかの話を聞くもんか!!」
体を必死に起こし睨む。
「誰が殺されたのですか?」
そこには壁に寄りかかりながら立ち上がるさとりの姿があった。
「え? さとりさま……ご無事だったのですか」
死んでいると思い込んだだけにあっけに取られている。
「もちろんです、ちょっと気を失っていてそこの鈴仙さんにここまでつれて来てもらったようです」
「良かった、さとりさん、気がついたのですね……もう大変でしたよ」
鈴仙はすっかり疲れきっていた。
「本当になんといって言いか……お空が思い込みからとんだ迷惑を、申し訳ありません」
「いえ、私もすこしやり過ぎましたし……御覧のように部屋が……ですし」
二人の戦いに部屋はボロボロになっていた。
「私もすいませんでした、まさかさとりさまを助けて頂いた方とは知らず……」
平謝りに謝る。
(お空とこれだけ戦えるというのはやはり彼女も容姿に似合わぬ妖怪としての力があると言う訳ですね)
「では、お燐さんの容態を見ましょう」
ここに来た本来の目的を果たす為さとりに案内を願い出る。
「鈴仙さん、その体ではさすがに無理では……」
「いえ、大丈夫ですよ、これでも私丈夫なんですから」
体をぽんと叩いて笑顔を作るが、やはりちょっと痛いでも、それはそれと再度願う。
鈴仙の心遣いを無駄にするわけにも行かず、さとりは案内する。
「お燐、入りますよ」
部屋の前でさとりは声を掛ける。
ドアを開けるとベッドの上に丸まって眠る燐の姿があった。
「眠っているようですね……どうですか?」
さとりは心配そうに鈴仙に問いかける。
「そうですね、見ただけではどこかに異常があるようには見えませんけど
確かにちょっと熱があるようですね……解熱剤を飲んでもらって一晩様子を見てみましょう」
「はい、では今日は泊まって頂けるようですからお部屋の準備してきますね」
さとりが席を立つ。
「あ、私が準備手伝いますよ」
燐の容態を見る限り、それほど危険ではないという判断も出来、ただ泊まるのも気が引ける。
「いえ、ここは主人である私の顔を立ててくださいね」
そう笑顔で言われるとさすがに手が出せない。
― ― ― ― ―
食事も終わると鈴仙は用意された部屋に案内される。
「火傷も薬塗ったしそれほどでもなかったかな……お燐さんも思ったより容態よさそうだし」
部屋をノックする音が聞こえる。
「鈴仙さん、まだ起きていますか?」
さとりの声が聞こえる。
「どうぞ」「失礼します」
「今回は本当にお燐だけでなく私やお空もお世話になりました、改めてお礼を言わせていただきます」
「いえ、気にしないで下さい、これもいい経験になりましたし」
笑顔でそう答える。
「そう言っていただけると助かります……もうひとつ聞いてもらって良いですか?」
「ええ? なんでしょうか?」
間をおいてさとりは自分の能力を語る。
「私の能力は相手の、いえ……周りに居る全ての心の声を聞く力なのです
……相手の隠したい事が全て見えてします忌まわしき力、私に関わる人たちはそれを嫌い去っていきました」
伏し目がちに語るその背中は小刻みに震えているのが鈴仙の目にも見えた。
「さとりさん……」この時、パルスィが語っていた言葉、心が××という意味が解った。
(さとりさんは心を読む、それは相手の全てが解ってしまうという事、それを喜ぶ物は居ない
それを私が知ったときどうするか見ものだと思っていた)
はっとしてさとりを見ると、一言「今のあなたの考え、心も見えています」
とだけ語る。
「私はこの忌まわしき力と共にこの地霊殿で暮らしていくつもりです
……鈴仙さんには本当にお世話になりました、明日、お燐の容態を見てもらって治療が済めば
お空に送らせます……お話はここまでです、夜分遅く失礼しました」
「……はい」(私は……)
さとりは振り返らず部屋を後にする。
夜が明け朝になると空から朝ご飯に呼ばれる。
「……さとりさんは?」さとりが居ない事を空に尋ねる。
「なんでも、ここ数日の騒ぎでやらないといけない事が終わってないとの事で、部屋に篭っています」
「そう……ですか、では私は食事が終わったら早速お燐さんの治療をしますね」
鈴仙は食事が終わると燐の部屋に向かい、部屋に入る。
「あ、あなたが鈴仙さんですか」
まだ完全ではないが回復した燐が人型になって話しかけて来る。
「ええ、大分回復したようですね」
症状的にも疲労から来る物だと解っていただけに心配ないと判断する。
「おかげで大分体が楽ですよ」
燐は嬉しそうに腕を回したりするが、まだ無理は出来ない。
「良かったです、でもこれでさとりさんも安心できるでしょうね」
「そうですね、今思えば、さとり様に地上に行って貰うなんて大それた事を頼んだ物と後悔したところですよ」と
表情を曇らせる。
(さとりさんの能力ですね)
「もう解っていると思いますが、さとり様はあの能力で避けられ続けてきたのです
どんな思いで地上に行き、鈴仙さんをこうしてつれて来たかと思うと…………でも良かったですよ」
「良かった?」
その真意が理解できず不思議そうな顔をする。
「さとり様が自らの意思で地上の妖怪をこの地霊殿に招くなど、よほど気に入ったのだと解りますもの」
と嬉しそうに鈴仙に笑顔を向ける。
「……」(そうだったのですね、だからこそ昨夜わざわざ私にその力を説明した……)
「どうしました?」
今度は燐が不思議そうな顔を向ける。
「いえ、何でもありませんよ、それよりも数日分のお薬を用意していきますのでしっかり飲んでくださいね」
「飲まないと駄目ですか?」
「ええ、駄目ですよ」
燐は嫌だなぁと言う顔をし、鈴仙は笑顔で釘を刺す。
その後のいくらかのやり取りも終え、無事を確認するとさとりの部屋に向かう。
部屋の前に立つとノックをする前に声が聞こえる。
「鈴仙さん、お燐のこと、改めて感謝します……報告は良いですよ
私は少々手が離せないのでお空に後は任せてあります、この恩は何時か……返しますね」
「……はい、さとりさんもお元気で」
― ― ― ― ―
空の案内で地上に戻ると夜になっていた。
「お空さん、ありがとうございます……でも、もうこんな時間ですが今から戻るのも危ないですし
永遠亭に今夜は泊まられては?」
「いえ、お燐があんな状態でさとりさまもお疲れの様子でしたし、
空けられませんから戻りますよ、それに私は強いんですから問題ないのです」
と自信満々に胸を張る。鈴仙はその様子にくすりと笑う。
「また何かあれば永遠亭を尋ねてくださいね」
「解りました、鈴仙さんもまたですね」
そう言うと空は再び地底への入り口の奥へと見えなくなった。
(さとりさん……私は)鈴仙の頭上に月は明るく輝く。
それから数日がたったある日、再び地霊殿に異変が起きた。
「ごほっ……お燐もお空もそう焦らないで下さい」
辛そう咳をしながら、二人にそう語りかける。
「でも、さとりさま、すごく辛そうですよ」
空は心配そうにさとりに話しかける。
「お空、どうする? どうするのよ?」
元気になった燐は主人の辛そうな状況に空以上に焦りを隠せない。
「大丈夫ですよ、ちょっと休めば……ごほっ、ごほぅ」
辛そうに咳き込む。
「うつってはいけませんから、二人はこの部屋を出ていなさい、私は大丈夫……」
そう言うと、心配する二人を強制的に部屋の外に追いやる。
部屋を追われた二人は地霊殿の外に出ると相談を始める。
「お空、こういう場合って医者だよね?」
「医者って地霊殿には居ないし、ヤマメは治せるのか知らないし…あ!」
二人は同じ人物を口にする。
「一向に良くなりませんね……」
夜遅くではあるが寝付けず朦朧とする意識で天井を見つめる。
その時、ドアの先に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「さとりさん、大丈夫ですか?」
ドアが開きそこに居るのは鈴仙であった。
「鈴仙さん!?」さとりは思わず声が出しにくくなっているのを忘れ叫ぶ。
「お二人に聞きましたよ、今度はさとりさんが病気だって」
燐と空は先日治療してくれた鈴仙を呼びに地上に向かい、鈴仙をつれて急いで戻って来たのである。
廊下で二人とも息を切らして伏せている。
「すいません、またしても手間を掛けるなんて……」
心底申し訳なさそうに呟く。
「何を言っているのですか、友達が苦しんでいるのそれを手間なんて言う訳無いじゃないですか」
とちょっと怒りながらさとりの額に手を置く。
「実はですね、永遠亭に戻った時からずっと悩んでいたのです、あれでよかったのか
……さとりさんに伝えないで良かったのかって」
「それは……」
心が聞こえるさとりではあるが、今は調子が悪いせいなのか聞こえない。
「師匠にも言われたんです、さとりさんがどれだけ悩んでいるのかあなたには解っているんじゃないの……と
そして永遠亭のウサギ達にもそれは解っていました、あ、てゐは嫌がってましたけど」
「それが普通でもあるのですけどね、まぁ、あの子はそれでもでしたけど」
「私もさとりさんの力をすべて受けることは出来ないと思います
……それでも私はさとりさんの友達になりたいです、彼女達を見ればさとりさんの人となりは解りますし」
廊下で潰れてやり遂げた表情で眠る二人を見てそう微笑む。
空はさとりが鈴仙に殺されたと勘違いし必死に向かってきた。
燐はさとりが気に入る妖怪が居た事にとても嬉しそうに笑顔を見せた。
二人共さとりが好きでたまらないのだろう、これほど慕われる人物を鈴仙も好ましく思った。
「……」
涙が出そうになる心を抑え、鈴仙を見つめる。
「いいですか、さとりさんに隠し事は出来ません……つまり私も本心で語る、それでいいですか?」
悪戯っぽく表情を崩すと、さとりの頭をなでる。
「難しいですよ……本心をさらけ出すということは」
涙が頬を伝い枕に染みる
それでも表情はとても嬉しそうに微笑んでいた。
「さぁ、さとりちゃん、お薬飲みましょうね~」
鈴仙はにこやかに水と薬を持って言う。
「私は子供じゃありません」
むくれながらも嬉しそうに笑顔を見せる。
地底に降り立った赤き月。
地底の少女は月の輝きに眩しさを感じ、地底に招く、それは自らの影をより実感させ月は空に帰る。
だが再び月は優しく輝く暖かさをもって地底の扉を開いた。
月の光は地霊殿を優しく照らしてゆく。
しかしさとりと鈴仙の組み合わせとは珍しいですね。
「」の後に続けて地の文が続くのがちょっと読みづらかったです;
しかし、なんだかんだでさとり様は嫌われてないようですね。
加え、月の民となれば尚の事。
>2さん
確かに読みづらかったようですいません、手直ししてみました。
>3さん
描写を会話で作ろうとした結果、無駄になってしまっているようですね
今後作品を作るようなら改善してみたいと思います。
>6さん
確かにあまり見ない組み合わせですね。
>14さん
その設定は存じています。
しかし、ここは全ての設定を完全に使うなら
地底の者は地底のみの組み合わせでしか話を作れず
地上の者は地上でしか話を組む事しか出来ないでは
話としてあまりに限定されてしまうと思うのです。
でも、原作設定は壊さないようにという意見も解ります。
今後はそれも考慮して作れればと思います。
ただ、内容は単調さが目立ち、あまりのめりこんで読むことができませんでした。
起こった出来事やキャラクターの言動をずっと同じペースでなぞっているだけのように感じましたので、
次はぜひ緩急のある展開、華のある文章表現を目指していただければ、読む側としても嬉しいです。
確かに起伏のある展開がないといわれるのは最もかもです。
内容の始まりと終わりはある程度固めてから作っているのですが
それを盛り上げる手法が下手すぎるのが実情です。
それが作れればより楽しめていただけるとは思うのですが
今後そのあたりを考えて見たいと思います。
いたのですが、この作品に目がとまってよかった。
組み合わせが珍しかったっというのもありますが、当たりでした。
低得点をつけてる方達が書いてることも一理ありますが(設定云々はともかく)、私は素直に面白いと思ったのでこの点数で。