咲夜は一言でいい表せば、涼しげな女であった。
腰をシャンと伸ばし、赤い廊下を迷いない足取りで進めば、たおやかに跳ねる銀髪が挙動に花を添えた。
生来そなわる品の良さと、叩き上げを感じさせる洗練された作法が、彼女により確かな優雅さを与えた。
紅魔館の十六夜咲夜といえば鬼のメイド長で通っているが、実際に会えばその風評が与える印象との違いに驚くことだろう。目元は切れ長だが、見目麗しく、なにより瞳は、無遠慮な癇癪とは無縁な穏やかさが宿っている。
それは、当然だ。彼女の叱責は出来の悪い妖精たちに向かっていない。常に、出来なかった妖精たちに仕事を割り振った自分に、その怒りが向かうのだ。彼女がただの尖った人間ではない理由はそこだ。
無論それは不出来な部下を叱らないということでも、閉じるのが役割のくせ、広く大らかな心を持ちすぎた門番に嫌味を言わない、ということではない。
出来る事をやらなければ叱るが、出来ないことは命じない。そういう、人を見る目が確かな、それでいて穏やかささえ備えている、人格の長じた女だった。
身体つきも、すらりとしていて、身のこなしに無駄が無い。これで若き社長秘書とでも言うのなら様にもなった。
その咲夜が、目下こうしてテラスを目指すのは彼女の主人が命じたからだった。
歩くと、しゃなりしゃなりと、瀟洒が音を立てて、咲夜は茶色い扉の前にたどり着いた。
ここはテラスへと続く扉だ。二回ノックをすると中から返事が返ってきた。
「失礼します」
言って咲夜は入室後、軽く頭を下げる。
広い部屋に、しっかりと通る咲夜の声が響き渡った。天上が高く、日を嫌う主人のために作られたここは、テラスというより講堂に近い。
幾つかある白いテーブルに彼女の主人がすわっていた。客人を何組も迎えられるテラスの中央にぽつんと座して、表情にはわずかばかり物憂げな陰りがある。
幼げに見える主人、レミリアの前には飲みかけの紅茶が置かれていた。湯気の立たないそれは咲夜が淹れたものではなく、レミリアがすこし前からここで談話していたことを示すものだった。
はて、と気付くことがある。
咲夜の形のいい眉が、すこし歪んだ。
今日の組み合わせはとかく珍しい。気まぐれな妹様はともかくとして、滅多に図書館を出ることのないパチュリー様と、なんと門番までもが自分の入室を待っていたのだ。
円形のテーブルには紅魔館を代表する面々が席についている。
白いテラスに射した月の光が、服装のカラフルな色彩を浮かび上がらせる。積み木のおもちゃみたいな色だな、なんて咲夜は思った。
さすがにこの一同が、テラスに入ると共に、一斉にこちらを見れば、咲夜とて内心すこしは怪訝な顔をしたくもなる。
しかし実際にはおくびにも出さず、桃色のドレスに身を包んだ吸血鬼の前にまで歩き、普段通りに言った。
「お嬢さま、何かご用でしょうか」
妹様と美鈴が顔を見合わせた。どうしたことだろう。
この二人が仲睦まじくお茶をすることは多々ある。近頃では妹様と美鈴が庭を駆ける姿など伺えるほどだ。そういった光景を、昔の紅魔館を知る自分は、微笑ましく眺めている。
レミリアは眉間の皺を一層深くして、視線を床に落とした。こちらを見定める視線を感じて、咲夜の不審は一層深まった。
深く息を吐く主人を見て、ここまで来れば、自分にもこの場がただのティータイムではないと分かる。
長い沈黙に耐えかね、咲夜が再び声をかけようとしたときだ。
七曜の魔女に促されて、レミリアはようやく動き出す。
レミリアは一度だけ咲夜の瞳をジッと見つめ、無言で、テーブルの下から分厚いものを引っ張りだした。
咲夜に見えないようにしていたのだから、きっと膝の上に置いていたのだろう。
「咲夜……ぎ、ょ…」
レミリアの声は小さくて、よく聞こえなかった。
いや、それより、目線がそれに釘付けになって離れない。
呼吸が止まり、鼓動が早まり、レミリアが手にもった、四角いそれに咲夜はひどく動揺した。
なぜだ、なぜそれが残っている。なぜ、ここにそれがあるのだ。
咲夜をして驚くことがあった。それの正体を確かめたとたん。
「ひぃ!」
思わず咲夜は素っ頓狂な叫び声をあげていた。
「咲夜…。かぞ…ぎ、よ…」
頭がグルグルと回った。
妹様がこちらを見ている。狂気が宿るはずの瞳は、今はみっともない自分を映す鏡となっている。
全身から一気に、嫌な汗が流れた。咲夜の顔は青ざめて、まるで病人のようになった。心臓の鼓動に、胸を抑えて、膝を折りそうになる。
風景がぐにゃぐにゃに曲がって、視界が歪んだ。殆ど立っていられない状態で、貧血を何倍もひどくした感覚が襲い掛かる。
ここに来て、ようやくレミリアの言葉がはっきり耳に届く。
「咲夜。……家族会議よ」
それは本だった。机の上に置かれたノート、咲夜が書いて、とうの昔に忘れてしまったものが、今レミリアの手で蘇った。それも、最悪の形で。
次々にまずい記憶が蘇ってくる。
タイトルはこうだった。
『私の考えた、最凶の吸血鬼†††』
それは咲夜の黒歴史ノートだった。
咲夜だって、そうだった。そういう時期はあったのだ。
なにしろ幼いころから、吸血鬼に仕えていたのだ。それもメイドとしてだ。
吸血鬼のメイドなのだ。吸血鬼の館のメイド。真紅の血の滴る館、その、時間を操る銀髪のメイド。
「瀟洒で完璧な従者……ふふふ…」
咲夜は不気味な微笑を浮かべた。くつくつと楽しさが湧き上がる。
捨てたはずの、思考遊びの懐かしい感覚が心に蘇る。しかし皮肉なことに、それを一瞬で冷めさせたのも過去の記憶だった。
痛々しい赤いノートの装丁が否が応でも咲夜を現実に引き戻す。
もう咲夜は大人だ。体面がある。
ノートにはタイトルと一緒に、やたらと耽美な吸血鬼が描かれていた。
どこかお嬢さまに酷似している。髪の色が違うくらいか。勿論描いたのは昔の私だろう。
……正直、此度のティータイム、嫌な予感しかしなかった。
中に書かれていることが何だったのか正確には思い出せないし、予想もできないが、何しろ思春期の少女の思考は軽はずみで繊細、どこにでも簡単に想像の世界へ飛び立ってしまうものだ。とにかく今の自分には不利なことが揃えて載っている辞典のようなものと考えて間違いはない。
所謂これは黒歴史ノートというやつだ。夢見がちな年頃の人間がポエムだの架空の世界の設定だのというのを書き綴った、その遺物である。失くしたと思っていたのに、今更何故。
表紙からしてひどい自己嫌悪だ。
理由はともあれ速やかに排除しなければならない。せっかくどこからか持ってきたお嬢さまには悪いが、処分させてもらおう。
咲夜はひとり頷いた。
とは言え時間を止めて回収しても、お嬢さまに再び持って来いと命じられれば元の木阿弥。中身をすり替えようものならバレたら大目玉。
こんなノート一冊のために、普段は尊大なお嬢さまも、今は初心の乙女のように咲夜の様子を伺っている。
なんとも気まずいものだ。
「ねえ…ねぇ、ちょっと咲夜。聞いている? 取り合えず席について頂戴。このノートについて貴方と話があるわ」
咲夜はノートを睨み付けた。
生憎咲夜もそのノートにお話がある。先に、一緒に焼却炉まで来て欲しい。
どうやらお嬢さまは、私を主役に家族会議をしたいらしい。紅魔館のメンバーもここに揃えて、みんなで咲夜と話し合おうという魂胆だ。
この歳でそんなもの冗談ではない。なんとしても、この場の流れが出来上がる前に、断ち切るしかないわね。
咲夜は瀟洒にごまかすことにした。
主人に偽ることと言えど、それが主人の心の平穏のためであれば咲夜は嘘をいとわない。
埋没した思考の海から立ち上がり、机の正面に座るレミリアに、咲夜はいかにも穏やかに微笑みかけた。
「あら、お嬢さまが読書などとはお珍しい。その本がどうか致しましたか」
「ええ。実はこの本ね、我が紅魔館について書かれたものなのよ」
「それはそれは」
表情を微塵も崩さず咲夜は続ける。
「えぇ、問題あり……なのよ」
「この館の事情に詳しいなどとは。つまり、内部の者が書いた書物だと?」
吸血鬼の館は秘匿すべき神秘で満ちている。
レミリアのためなら咲夜はたとえ焼ける鉄板の上でも鉄面皮を保てるだろう。
「それでね、これを書いたのは実は貴方で」
「まあ、お嬢さま。違いますわ。紅魔館の内部犯である以上、見せていただければ私の手の内です。この筆跡……給仕部隊のメイね。またあの子ったら、空想癖が治らないんだから。今度言って聞かせますわ」
咲夜はすぐさま言葉を遮った。
ある程度この妄言ノートの内容はバレているものとして、すぐさま話を終わらせる戦略を実行。
つまり人のせいにする。
何しろ見目麗しいレミリア様。普段、あまり正体の知れない恐ろしい吸血鬼だからこそ、そういった妄想で、自分好みの主人の設定を頭に描く子は多くいる。不謹慎だが止められまい。
居もしないメイドを一人でっちあげて、咲夜はさらりと言った。なにせ人事権はメイド長にある。
この発言で、お嬢さまは納得した表情を…。してくださらなかった。
「咲夜。これ貴方の部屋から出てきたのよ」
「まぁ、メイったら。あの子また人の部屋の押入れにそんな本を詰め込んだのね」
「裏に IzaYoi†沙玖夜 って書いてあるんだけど」
「全くあの子は…。あれほど私の名前を私の筆跡で本の後ろに書きなぐって放置するなと言ったのに…」
そろそろ苦しくなってきた。だいたい人の部屋にこんな不発弾を投機するメイドがいたら、私は殺している。
ほんとにしょうがない子ね、メイは。
しょうがないのは幼いころの私よ。誰よ、メイって。
咲夜が唇を噛んでいると、レミリアはすこし顔をうつむけて、居辛そうに言った。
「誰も押入れの中とは言ってないわ」
あうち。
「それに、ごめんなさい咲夜。もう、中身はぜんぶ見てしまったのよ。貴方のだって……知ってるの」
咲夜は、寿命を縮めた。
当時の私は世間へのアウトローを気取る思春期のロッカー。自分の能力への理解が得られず苦悩していたといえば聞こえはいいが、実際は周りの人間に私は吸血鬼の子供なのよと吹聴して家を飛び出した電波少女だ。
まあ今考えれば、そして本当に出会ったのがお嬢さまだったからよかったものの。
とにかく当時の私の吸血鬼への心酔ぶりったらやばいくらいだろう。きっと痛々しい青春の欠片がここぞとばかりに散りばめられてるに違いあるまい。
気まずいのは周りもだ。
赤にカラフルにピンクに緑。咲夜は絶望的な気分になった。これを、ノートを全部皆に見られているのか。そして家族会議か。
いっそナイフで手首を切ろうかと愚考したとき、意外なことに、最初に沈黙を破って声をあげたのは、パチュリーの朗らかな笑い声だった。
なんとか気力を振り絞り、咲夜は尋ねる。
「パチュリー様、いかがなさいましたか」
「ふふっ…。いえ、ただ、いつもの完璧な咲夜も、こんなに色んな表情ができるんだなって。中々可愛いわ」
「…なんのことでしょうか」
咲夜はその言葉にはっとする。すぐに顔を取り繕って、普段の、ポーカーフェイスに、堅い口調でパチュリーに向き直った。
「嘘。またすぐその顔。歳相応に焦ってたくせに」
「そのようなことはありません」
「さしずめ肉親に日記を見られた女の子ってとこね」
「ご冗談を。私のことを若輩の小娘とは納得いきませんわ」
「分からない? あなたなんて娘みたいなものよ、咲夜。残念ながら、私はもう百歳過ぎよ」
明らかに言っている内容は挑発的なのだが、表情は妙にやさしげだったので咲夜は調子が狂った。睨もうにも、すこしも陰のない顔をされては張り合いが無い。
ねむたげな瞳に、緩慢な口調が相まって、なぜかお日様の光に当たりながら喋っているような気がして、気持ちが和らぐのだ。
「じゃあ私はその五倍はおばあちゃんで、ってことなのかしら。パチェ」
「…あら。そうは言ってないじゃないレミィ」
隣の席からレミリアが口をだす。
咲夜が重ねてきた努力の歳月をあざ笑うかのように、紅魔館の古い友人たちは言い合った。
いくら短い寿命の中で研鑽を重ねてもたどり着けない、まるで、使い込んだ道具のような、古い、歴史さえ感じさせる重厚な雰囲気が二人にはあった。
厳格というわけではなく、ただの軽口が、言葉より深いところで、ピタリと合った歯車のように噛みあって心地よく、聞くものを安心させた。
目を張ってフランドールが、私も、私も、咲夜のおばあちゃん、と騒いで、それに加わる。
美鈴がそれを笑いながら諌めた。
レミリアは、一口紅茶に口付けした。
「あらそういえば、年齢といえば、美鈴。貴方いつになったら正体を教えてくれるのかしら」
言って、視線を移す。
出し抜けに話題を振られた美鈴は、口をつけていた紅茶をテーブルに置いて応えた。
赤い髪を指で梳きながら、困った風でもないのに、困ったような口調で話す。
「あはは、それはお教えできないと約束したじゃないですか。ほんと、勘弁してくださいよ」
その後、紅魔館ではお決まりとなる古参の妖怪、美鈴の正体探りで、彼女をつつきながら茶菓子を減らした。からかいがいがあるキャラクターだ。
レミリアの視線の追求にも、美鈴はさらりと応えた。
返答がてら、クッキーの皿から新たな一枚取り出してそれを紅茶に浸すと、その部分がじんわりと色が変わり、口に放り込んで頬張る。
行儀の悪い方法でお菓子を食べる美鈴は、意地悪な主人の注文に頭を掻いて笑顔になったり、隣にいるフランドールから視線を受けると、すぐ、紅茶に浸したクッキーを彼女の小さな口に詰め込んだりした。
「んぐっ…。あれ? 美鈴って何の妖怪なの? 分からないの、忘れちゃったの?」
「龍ですって。カッコいいドラゴンですよー。ほら、龍って書いてありますし、頭の星に」
「あっ、ほんとだ」
要するに、普段通りの紅魔館のお茶会になってしまった。
目的もなく続いたお喋りの時間は、消費されるクッキーの量に比例する。その際、比例定数はフランドールと美鈴の参加次第。これもいつのも法則だ。
ポットに手を伸ばした美鈴に、クッキーを紅茶の中に落とすフランドール。
このままでは落ち着かない。
場を諌めるためにレミリアはすこし大きめの声を出す。
「さあ、今は美鈴より、咲夜の話よ」
言われて我に返ったくらいだから、咲夜はすっかり和やかな空気にあてられていた。
午後のお茶の時間といわれても差し支えなく、体が自然に新しい紅茶を用意しようとしていたところだ。
「そうよ、お姉様じゃなくってわたしだって役に立てるんだから!」
「咲夜さん。なんだかよくわからないですけど、私も同僚のよしみですよ」
咲夜は皆の様子を見回した。ケロっとしたもんだった。
案外、これ、そんなに大した話ではなないわね。
焦っていた自分がバカみたいだ。
仕方ない。ここまで言われては。こんなノート、青春の失敗談として一笑に付して頂くのも、お嬢さま方の暇つぶしになるかもしれない。
降参、という風に肩をすくめて頭を数度、横に振ると、観念して、咲夜は新しい紅茶を淹れることにした。
「さて、咲夜。このノート、あなたが書いたのよね。これの内容なのだけど……」
トントン、と、分厚く、丁寧に装丁された蔵書をレミリアの細い指先がつついた。
厚紙が何重にもなっていて、手作り感が強い真っ赤な本だ。
「はい、お嬢さま。確かに過去の私が執筆致しましたわ」
過去の、というところを咲夜は強調した。
「読んでみたわ」
「はいお嬢さま。馬鹿なことが書いてありますでしょう」
人間の子供ってそんなものですわ、と咲夜はすこしだけ恥ずかしげに言った。
「この序章って、まずあるでしょ…?咲夜」
咲夜には応えず、そういって、レミリアはそっと表紙を捲った。
顔を覗かせたのは、のたうつような、奇妙に格好をつけた蛇のような文字だった。様子を見るに、微妙にヘタだ。
『この書を求める者、引き返すが良い。ここに記憶(しめ)されたるは数多の人妖を屠り去り、その身に神の咎を受けた神代の魔物。其(そ)は黄昏(ラグナロク)への序章也(なり)。正気を保ちたければ、去るがいい。封じぜられし禁断を識(し)らば、また貴方も永久(とこしえ)の闇に身を堕つことになる。エイメン』
ふむふむ、執筆者は、永劫の銀月、十六夜咲………へ?
この文章と共にまず現れたのは、男性化したレミリアが、全裸で鎖に巻き付かれている姿だった。
およそ人間には見えぬ細身の長身。サラサラのストレートヘアー。背後からは悪魔の羽と天使の羽が六枚も生えている。
舌で自分の血を舐めとり、流し目でこちらを見つめている。例によって片目しか描かれていない。
指の関節は変な方向に曲がっていて、両手で自分をしっかと掻き抱いている。
下半身には、なんというか、幼い咲夜の想像だけで描かれた男性のアレがついていた。
六枚の羽の背後には、巨大な剣が背負っており。柄の部分は髑髏と天使があしらわれている。
目はでかい。わー、まつげ長いわこいつ。
セリフの吹き出しがあった。
『俺にちかづくな』
レミリアがぱらぱらとページをめくっていくと、次は詳細にキャラクターの設定が記載されていた。
文章より絵が多い構成らしく、ところどころレミリアのような吸血鬼が巨大な剣を構えながら、半裸で他のキャラと絡み合っていた。
色鉛筆で豪快に色づけされた資料は濃密で自由奔放だ。どれも過剰にカッコよさという要素がデフォルメされて詰め込まれている。
というか、ここまで来ればもはやギャグ。
敵の武器を一瞬で、剣技で細切れにして、『スポンジのように……いや。フッ、あの女の髪のように柔らかだぜ』。
非常にシュールだ。一体どういうことだろう。
さて内容はというと。
何しろこのお方、無理矢理、敵にキスして聖魂を補充しないと、吸血鬼としての力を発揮できないらしい。
聖魂とは、全ての魂に宿る清らかさ、要は純粋な恋心だ。そして敵を惚れさせてから、倒す。
それゆえ、敵と戦ったあとに必ずキスシーンが入るんだそうだ。だから半裸なのか。準備オッケイね。
吸血鬼なのに神聖な神との子供だったせいで、常にジレンマに悩んでるみたい。
その代わり全力を出せば無敵みたい。でも全力を出すと死んじゃう苦労の多い生物だ。
名前はブラッディ・スカーレットさん。必殺技は亜空分離切断剣イミナリティースレイヤーで、いかなる因果も断ち切るマイクロブラックホールを発生させる防御不能の剣術だ。
剣術か?
咲夜はにっこりと笑ったまま凍りついた。額からすごい勢いで汗が垂れはじめた。
ひどくまずいと思っているのに、口元は笑みを保っていた。というより、ぜんぜん動けなかった。
……しょうじき、なめてましたわ
そりゃ正気を疑われるわ、こんなもの。
ああ、そういえばこんなこと書いた記憶が、というのと、連鎖的に次の内容を思い出し、背筋を毛虫が這う。
この ──序── と書かれた文章の始まりに、フランドールとパチュリーはすでに目を通している、というより本の内容を予め読んでいるのだろう。だからこそこんな苦い顔をして咲夜から視線を外している。
思わず、咲夜すら文章から顔を背けた。この薄っぺらい紙の上には、咲夜の人格を疑うだけの材料が充分乗っかっている。
美鈴だけは、彼女の赤髪をテーブルにパサっと乗っけて、文章をじっと読み込んでいた。
恐らく彼女は相談役としてここにいるのだろう。咲夜の友人、同僚として。だから、このノートのことは今初めて知ったのかもしれない。
「………」
ああやめて。もう見ないで美鈴。それは私が書いたんだけど、私が書いたんじゃないのよ。
「……ふむ」
それでも美鈴は止まらない。切ないくらい願っても、目の前では、神妙な顔をした門番が真剣にノートと向き合っている。
再び、ページを捲る音だけが響く。
ちょっとやめて。ほんとにやめて。これで今から家族会議だろうか?
それは会議とは呼ばない。魔女裁判だ。絶対に、一方的な糾弾で咲夜をつるし上げるつもりだ。有罪前提で咲夜を扱い、心を正すつもりだ。それは矯正施設って呼ぶんだ。
みんな、そんな顔しないで。
そして美鈴は口を開いた。
「あの、これ…もしかして、何かの危険な魔道書なんですか?」
咲夜の口がひくついた。
「いいえ美鈴。この本自体には何の魔力も宿っていないわ」
「え…? でもここには、見たら駄目だって書いて。それに邪悪な姿絵がさっきから…」
「さっきも本人が言ったけど、この書籍は咲夜が書いたものよ」
「咲夜さん、魔道書を書くことができたんですか。初めて知りました」
「いいえ、違うわ。ただの本よ。問題は内容にあるのよ。私たち…妖怪のこと、こういう風に捉えてたんだって、ね…その。その姿絵もどうやら私がモデル、らしいの」
その言葉に、今度は美鈴が一瞬ひくついた。
レミリアは言い辛そうに、微動だにしない咲夜を毅然と見つめた。
「最初に、序幕で、こう書かれていたから、見ちゃいけない日記みたいなものかなって。本当はこれを見た時も最初は驚いて、黙っていようと思ったけれど、貴方の悩みを放っておけないって思ったわ」
「悩み…? 咲夜さん悩みがあったんですか?」
不可解だった美鈴の顔が、心配げな色を帯びる。
やめて。だから、見ないで。今、目下の悩みはあなたの純粋な視線よ。
確かにそのノートは、どんな魔道書より、私にとっては恐ろしい。
ほら、序章に引き返そうって書いてあるんだ、引き返そう。
「この本でも、私について度々言及されている箇所もあるのよ。お嬢さまは、こうだったらいいのに、って。美鈴、貴方の項もあるわよ?」
「そうだったんですか…」
静かに納得し、美鈴は咲夜を一瞥し、またノートに目を通し始める。
その姿は友人の秘密を知り、出来れば力になろうという頼もしさが感じさせた。
「まかせてください。咲夜さん。私は咲夜さんと違って妖怪ですけど、人間のあなたを信頼しています。きっと力になります」
「美鈴はそう言ってくれると思っていたわ。パチェもよろしくね。貴方の知識、頼りにしてるわ」
「勿論。咲夜は大事な紅魔館の一員よ」
「フランもよ?」
「はい、お姉さま」
三人はしっかりと心の手を組んで、団結した。お互いに頷きあい、普段厳しい上役たちが、唯一種族が人間の咲夜を理解し、埋めがたい家族の溝を埋めようと決意する。
当然のように彼女達は咲夜の心配をしてくれているのだ。
咲夜は不覚にも泣きそうになった。ちょっと嬉しく、かなり哀しく、壮大に恥ずかしく、甚大に居た堪れない。
信頼と決意の混じった三人が大真面目に自分を心配してくれている。三対の熱い瞳に射抜かれ、咲夜は口が詰ってしまった。
ああ、この人らは、皆そうなのだ。小さい頃からいざというときは、まるで本当の肉親のように私を守ってくれた。
排斥と差別に苦しみながら、ようやくこの幻想郷にたどり着き、同じように異端である自分を導いてくれた。
彼女たちに心配をかけるわけにはいかない。こんな行き違いはすぐにでも解こう。いつもの私たちを取り戻すのだ。
なにしろ彼女たちは自分自身が強いため、未知を過剰に恐れることも、自然を信奉することもない。
つまり、人間のように幻想を頭に描くことがないのだ。これらの咲夜の妄想ノートを、本当の願望だと思い込んでいる。
勇気を口火に咲夜は言う。
「違うんです。お嬢さま。ひどく誤解されているようです」
「ええ。ええ。全部、私には全部分かっているわ。ねえ咲夜。怖がらないで? 何があろうと私たちは貴方の味方よ?」
レミリアは言った。
「たとえ貴方が私たち妖怪に恐れを抱いていようと、私はそれさえ認めようと思うわ。私はね、貴方にこの館に馴染んでもらおうと努力してきたけれど……」
物憂げな顔をしていたレミリアがふと、寂しそうな、それでも、いっそう優しそうな顔をして咲夜の手を取った。
咲夜は口に出せずに必死に訴えた。
こんなノート。長い人生を一日に例えれば、子供時代という夢から覚めるときの、ほんの寝言みたいなものなんです。
「変よね…次第に貴方が自分の子供みたいにって、大切な存在だって思うようになった。だからね、貴方が館を出たいって言うのなら止めない。貴方がどこにいても、元気なら、私はただ、もうそれでいいのよ…」
ああ、駄目だ。お嬢さまがおばあちゃんモードに入ってしまわれた。
小さな手の平が、私の家事で傷んでしまった手をそっと包み込む。
ちきしょう。優しさが心に痛いですわ。
お嬢さまにこんな顔をさせるなんて、過去の私、一体どんなことを書きやがったのかしら。
「お嬢さま…。私はこの館を出たいと思ったことなど一度もございません」
「咲夜…。無理しなくても」
「無理など、していません。お嬢さまに仕えることこそが私の生き甲斐です」
思わず語気を強めそうになるのを抑えて、咲夜は言った。努めて冷静に。それが、メイドの生活で身に付けた習慣だ。振舞うべき目標でもある。
いつだってお嬢さまのために完璧に。それを態度で示すことこそ、一番の忠誠になる。
「申し上げますがお嬢さま。私はこの館での生活に満足しています。確かに皆様に改善して頂きたい点はないでも、ないのですが、出て行くつもりなど毛頭ございません」
反論ないように咲夜は続ける。はっきりと一片の誤解もないようにだ。
「それともお嬢さまは私に、出て行けと仰いますか」
「そんなこというわけないじゃない!」
咲夜は澄ました顔で言い切った。
対して突然、レミリアは切なげに叫んだ。
「な、なんで…咲夜は、そんなこと言うのよぉ…」
え、なに。お嬢さまどうしたの。
そんな悲しそうな顔しないでください。別に、皮肉で言ったんじゃ、全くないんだから。
「私もその言葉、信じていますよ。私も、この紅魔館が守りたくて、ずっと門に立ち続けています。それも、背中を預けられる咲夜さんがいるからこそです」
「い、いえいえ。美鈴、貴方まで何言ってるのよ。出て行くなんて、そんなつもり本当にないんだったら」
レミリアは、すぐさま立ち直り、美鈴からノートをうばい取った。
白く細い腕に力を込めて、悲しさを戦う勇気に変えて、強い口調で話し始める。
「分かったわ。みんな聞いて。咲夜が私に対して誤解があるのよ。ここの記述、見て頂戴」
そういって、小汚く描き汚れたノートの一角が指差された。
『狂気の幼い月、封印されし運命のイデア、レミリア・スカーレットについて』
一瞬意識が遠のいた。
ああ…これは紅魔館の人物、キャラクター紹介の記述だ。
初めて来た紅魔館。初めて見た身近な妖怪の存在に、鼻息荒く、想像九割で彼女らの生態を創造した記憶がある。
ステータスとか、書いたはずだ。
「私には週に三度も血を求めて無差別に人間を虐殺する発作もないし、目に付いただけで神様を殺したり、可愛い物を見るとつい首を捻じ切りたくなる癖も無いわ。妹を虐待して力を得ているって、絶対間違って…」
レミリアは一瞬言葉に詰った。
「あ…ご、ごめんなさいフラン…貴方には……違って、とも、言い切れなくて。もしかしたら咲夜には虐待とか、そう、見えてたのかもね…」
「そんな、お姉様はそんなことしないよ!!」
「えぇ…。ありがとうフラン」
叫んで、妹様が必死に糾弾した。
妹様は真っ直ぐに咲夜の目を見たので、咲夜は驚いた。うまく弁明しようにも、妹様は、悲しい想像に目元が潤んでしまわれている。
咲夜は言葉に窮した。これは当時、少なからず本当に思っていたことだ。
「咲夜!お姉様はわたしにそんないじわるしない!違うよ!」
「分かっています。分かっていますわ」
「絶対よ。今度そんなこと言ったら、いくら咲夜だって、許さないんだからね!」
机を乗り出しそうになった妹様を、他の面々が慌てて止めた。そんな設定書いてたのか私は。
咲夜としては、もう、ただ違う、違うと言うより他にない。妹様の小さな体には、お姉様への大好きがたくさん詰っていて、それが咲夜に突き刺さった。
咄嗟に、絶対違う、と言い切れないのもつらかった。フランドールに関して知らなかった当時は、本気で楽しんで閉じ込めているもの、と。
待て、フランドールだって。
確か、その項に関しては。
妹様が暴れたせいで、ノートのページが次に捲れていた。
そこに書かれていた文章は、順番的に妥当なものだった。
『地下牢に封じられし、永遠の月の奴隷、フランドール・スカーレットについて』
フランドール・スカーレット。狂気に囚われた吸血鬼。姉の出来損ないと罵られた彼女には、確かに欠落している部分がある。
それは、全ての生き物に対する優しさだ。彼女は宝石の翼で人を突き刺し、血をすする事にしか存在意義を見出せない禁忌の存在である。
この紅魔館のメイドはいずれ全て彼女の餌となる運命にあるのだ。実は紅魔館とは、妖怪達の人間飼育所でもあるのだ。
イビツに歪んだ愛で、姉は彼女を閉じ込め、だが殺せないため、人間を生贄にし続ける。
かくゆう私、十六夜咲夜もその一人だ。いずれ惨殺の宴の主賓になるだろう。
ああ、なんという悲しき定めだろう。しかし私はこれに戦わなければならない。
この吸血鬼破りのヴァンパイヤーリバスターで必ずや…
「咲夜さんッ!!」
その項に移行して、妹様の表情が目に見えて曇った。
内容は言わずもがな。今見ればひどすぎる。よくある病的な設定が、現実の人物について言及されると、どれほど自分勝手に装飾されるのかよくわかった。
このノートを見た妹様は、どれほど動揺したことだろう。今日の茶会まで悩んだことだろう。
だが咲夜は、ページの最後まで目を通すことができなかった。
美鈴が叫んで、テラスのテーブルを強く叩いたからだった。
内容を見て、ノートについて知らなかった美鈴は、中を理解すると、見る間に顔を上気させた。
「アンタなあ!いくらなんでも、書いていい事と悪いことがあるって分からないんですか!」
「え…!いや、その…」
彼女は本気で怒鳴っている。呆気に取られたのはレミリアとパチュリーだ。
普段大らかな彼女が怒るところなど私だって滅多に見たことない。
呆然と、怒りを叩きつけてくる彼女に、何の反応も返せなかった。
「め、美鈴落ち着いて…。咲夜が怖がってるわ…」
「お嬢さま。失礼ですが、今はとめないでください!」
レミリアを振り払い、美鈴が大きく目を見開いて、椅子から立ち上がり、目前まで迫った。
「さあ言ってください!咲夜さん、何のつもりがあってこんなもん書いたんですか!適当なことを言ったら、それこそ、許さないからな!」
咲夜は気圧されて、言葉に詰りながら、なんとか声を出す。
「えと…。そ…」
「なんですか」
「そ、そんなの…。私にも」
分かるわけない、じゃない…。
もう昔のことだし、覚えてもいないし。
「ちゃんと答えて下さい。咲夜さん。これを見たフランドール様がどう思ったのか、聡明なアナタなら分かりますよね」
「ええ」
「なら、答えて」
「……」
「まさか本当に、書いてあるこんな事を思ってたわけじゃないですよね」
「当然よ」
なんとしていいものか。どれだけ悩んでも、頭から答えは出てこない。あえて言うなら、悲劇のヒロインを演じて楽しんでた、というところだ。
視界の端に妹様の姿を捉えた。美鈴の怒りに戸惑っているが、自分への誤解に対する、悲しみのほうが勝っているようだった。
シンと静まったテラスは咲夜に解答を要求しているが、何を考えようにも判然とせず、こちらを見続ける美鈴に思考の大部分は支配された。
彼女を見ていると、咲夜はまるで父に叱られる少女のように小さくなった。
普段の彼女の様子とかけ離れていて、怖い。
「その、ノートに書いてあることは嘘…です」
「…うそ? 何のために」
「ええ美鈴。そう、そうよそうなの。全部私の妄言なの。こうだったら良いのにな、とか妄想して楽しんでただけ、なの」
「良かったらって、フランドール様が…ですか」
「あ、いえ!そ…そうじゃなくて。願望じゃなくて、純粋な想像というか…勿論、実際にはなって欲しくないことばかりよ?」
こんな苦しい言い訳で納得してくれるはずがない。美鈴の不審な眼差しは、相変わらず、あまり晴れなかった。
大体、当時の咲夜と今の咲夜は殆ど別人だ。気持ちなどわかるはずない。
咲夜の瀟洒もなりを潜めて、言葉に詰ってばかりしどろもどろで要領を得なかった。
昏々と悪い空気が積もって、ノートのページを捲られて、また質問に答えるたびに、咲夜は暗い気分になった。
次第に、気遣うお嬢さまたちの言葉にも、嫌気がさしてくる。向こうは厚意でも、こちらには余計なお世話なことが多い。美鈴は怒ったままだし。妹様も沈んでいる。
なにせ実際に悩んでなどいないのだ。かと言って周囲の心配を跳ねつけては、本当にロックな私に戻りかねない。
同時に感じたのは怒りだ。阿呆な昔の自分と、その創作物をそのまま信じてしまわれたことだ。
自分がそんなに信頼ならないだろうか。説明しても信じてもらえず。
そんな、世迷いごとのようなノートの方が、今の私の言葉より重いのだろうか。
確かに未熟者かもしれない。悠久の時を生きてきたお嬢さま方には、私など幼子に過ぎないのかもしれない。
だが、生きている日々を全力で完璧にあろうと務めてきたのだ。それだけは疑って欲しくない。
三人が、私の恋のポエムの内容について議論を始めたとき、ついに、激情に身を任せるしかなかった。
「なんですお嬢さま方だって、こんな、ノートなんて引っ張り出して、こんなもの信じて!」
「なっ…ちょ、咲夜?」
「昔のことでしょう!大昔でしょう!もう十年も前でしょう!どこの世界に子供の落書きを見て、嘆く親がいますか!」
真っ向から、真っ赤なノートを指差して叫んだ。
もはや完全に敵と化しているその禍々しい赤表紙にはシュールな裸の吸血鬼。
当時はこれでご飯何杯でもイケた。今は……今は、……なによ。
「私の恋はシャボン玉…ふわりと飛んで…儚く消える。待って、今度こそ分かったわ。これが示唆するのは」
「おやめくださいパチュリー様も!晒し首ですわこんなの、そのノートより、今の私を見てください!」
テーブルにティーカップを叩きつけるように置くと、お嬢さまのお気に入りだったそれが、すこし欠けてしまった。
「さ、咲夜…」
「お嬢さま。確かにそこに記されているのは愚にもつかない戯言。かつて本気でそんな事を考えてた時期もあった。でもね、誰だってそんなところはありますわ。カッコつけて、括ってみて、ありもしない想像の中ではいつでも主人公で。でも、それって普通でしょう!」
「……そうね。その通りね」
「なんで私は、こんなことで怒らなきゃいけないのよ…!情けなくて涙も出ないわよぉ…」
レミリアは取り乱した咲夜に、一度、深く頷いた。
その様子を見て、咲夜は自分が次第に冷静に戻っていくのを感じた。
なんだ私は、子供か。動揺して、ほんとにみじめだ。
自分のために真面目に会議してる彼女たちが馬鹿らしくて、なんだか反発したくなった。言われなくても分かっていることで、こう何度も叱られて、どうしようもなく腹が立った。
その幼稚な思考がまた、咲夜自身を苛立たせる。
何が、変なんだ。私が変なら、みんな変じゃないか。お嬢さまだって、スペルカードにだっさい名前つけてるではないか。大人気なく思った言葉を咲夜は苦心して飲み込んだ。
全く。しかし随分お嬢さまに失礼な態度を取ってしまった。咲夜は後悔せざるを得ない。
「分かった。咲夜、貴方がそこまで言うなら、私たちはこのノートより今の貴方を信じるわ」
「お嬢さまだって、スペルカードに、だっさい名前つけてる癖に…」
レミリアの眉がピクリと跳ねた。
そして、言いたいことは多々あるがレミリアは全てを飲み込んでいた。眦を押さえ、しかし、こちらの言葉に納得してくれた。
その光景に安堵した。レミリアの中で不審より信頼が勝り、沈んだ咲夜の感情の内に、すこしの光明が見えた気がした。
その時、隣の席に座る妹様がぽつりと呟いた。
「たった十年前じゃ、ないの?」
不意打ち気味に放たれた言葉はたぶん、耳に深く響いたと思う。
そして頭の奥まで届いていった。
だから悲しむでも嘆くでもなく、咲夜は理解した。
そうか。なんでこの会議など起こったのか。
この人たちにとってはやっぱりまだ私なんて子供のままなのか。
私にとってはすでにこんなノートを書いてたのは若い頃の、大昔の話だ。しかし、この人たちにとっての十年は短い。せいぜい人間にとっての一、二年。
ならば、つい最近咲夜が書いた本が出てきたということになる。
妹様の発言に何か言えるものはいなかった。
「何も、ね…」
レミリアが独り言のように、囁く。
「何も咲夜が子供のままで。このノートに記されてる事、全部、本当に思ってるなんて考えてはいないの」
「…はい」
テーブルの上に肘を置き、レミリアは両手を組み合わせた。
咲夜はそれに応える。
「最初はあり得ないって思ってた。ノート。ただの言葉遊びだって。でも、私は思い返したの。私、今の咲夜の何を知っているのかなって」
「はい」
「…だって人って、信じられない速さで成長するわ」
「……」
「そしたら、どんどん不安になってきちゃって…。五百年も生きているけど、雇ったのなんて初めて…だし」
人間を、という単語を咲夜は無音の内に聞き取っていた。
告白するレミリアの顔は、不安げに揺れていた。
「だから本心が聞きたくて。…ねえ咲夜。貴方はこのノートに書いてあるようなこと、望んでないのよね」
「当然です。お嬢さまが望む私、それが私です」
「そう。ありがとう。しっかり聞いた。だから、それを信じるわ」
レミリアはじっとこちらを見据えた。言った言葉を嘘にしないため、咲夜はそれにしっかりと応じる。
やがて静寂を経て、その赤い瞳が緩み、冗談混じりの色が入った。
「そんなに堅苦しくなくていいのよ。いつも言っているけど、貴方、完璧すぎ」
「まあ。私など…」
「今日みたいな、咲夜の恥ずかしいところを見るのも、たまには良いかなって思うわ。意外性って大事よね。やだな。やっぱり歳かな」
「本当にもう…。二度と御免ですわ」
ふっと息を抜く吸血鬼の正面で、ようやく咲夜も、硬くこの場を強張らせていた何かが抜けつつあるのを感じた。
思春期の私に打ちのめされた私たちは、ようやく決着を見た。
妹様がお嬢さまに続いて、彼女特有の空気への敏感さで、暗い雰囲気を払拭すべく声をあげる。
「もうー!咲夜びっくりしたんだよ。最初にこれ見たとき、すっごい悲しくなっちゃったんだから!」
「ええ妹様。そうでしょうとも…」
「でもこれは嘘なんだよね?わたしが咲夜を壊しちゃうわけないのにね!」
羽もバタバタと翻る。
無理のあるはしゃぎ振りに、子供っぽい彼女にすら、気遣われていた自分に、咲夜は気がついた。
「勿論ですわ。フランドール様が、人間を無差別に殺して戯れることなどもありません」
「でしょ!ちゃんとお行儀よくしてるもん。咲夜はちゃんとわたしのこと好きだよね?」
「それは……」
周りが、咲夜を見守るように囲んでいる。
先ほどから不機嫌だった美鈴が、今はすこし和らいだ態度を取っている。
今後たとえ私が過ったことをしても、彼女は私を見捨てないだろうか。
見ればそれは本当に思春期を抜け切る前の自分を導いてくれた美鈴の顔だった。不満を聞いて、世間を憎んだ私の孤独に感応してくれた大人の女性だった。彼女は幼い咲夜のお姉さんだったのだ。
頼りがいがあるようで、間が抜けているようで、要するに何時もの美鈴に戻っていた。
完全に信頼してくれたかどうかは微妙なところだ。でもきっと見捨てはしないだろう。
急に、三人に見つめられていることが恥ずかしく感じられる。
困った咲夜は、目を合わせず答えた。
「はぁ。やだやだ、美鈴、言ってやって」
「咲夜さんは、妹様が本当はやさしい女の子だって、知ってますよ」
美鈴の優しげな声を聞いて妹様は咲夜を見た。
「…ほんと?」
「はい。まあ、…大体、そんな感じですね」
咲夜は頷いた。
レミリアも含めて、柔らかい視線を浴びると、どうにも居辛くて仕方ない。
誤魔化すように咲夜は大きくため息をついた。
「はぁー…疲れた。気疲れしてしまいましたわ」
「咲夜さん。結局この魔術書…じゃなかった。ノートってなんだったんですか?」
「悪夢よ美鈴。忘れなさい」
「あっ、悪夢って…」
「いいからもう悪夢ってことで。勘弁して頂戴」
言って、みんな揃って苦笑い。お嬢さまは特に、お疲れ様、と目配せする。
一人だけ置いてきぼりにされた魔女はぶつくさと不平に呼応した。
紫色の寝巻きの下で、珍しく、論理的ではない不満が洩れる。
「嫌ね。相変わらずおいしいところはレミィがもっていってしまうもの」
「当然。咲夜はわたしの従者よ」
「久しぶりに焦った咲夜が見れたのに、惜しいわ。慰める役は全部レミィ」
「そうですよー。私だって久しぶりに咲夜さんを怒って、悪いですけど、懐かしかったんですから。何しろ最近立場が逆転して…」
いらないところで、美鈴がパチュリー様に加勢した。
「どういうことよ美鈴。大体ね、貴方が普段からちゃんと仕事を…」
「あっ。え、いやこれはですね…」
咲夜は自分で言っておいて、若干苦笑した。
新しい紅茶も必要だ。すっかり舌が乾いてしまった。
席に座りなおして、ポットから若干冷めた最後の余りを出し切って、淹れ直す準備を整える。
まあどうにか、片がついた。本日の家族会議はこれにて終了。
色々と気まずい場面もあったが、どうにか家族の仲は元通りである。
まず凝った肩をほぐしたら何をしよう。今度こそ危なげな物品を始末するため、押入れの整理をしよう。
満足げなお嬢さまが、みんなを見ていた。
おまけ
「ふぅ。それで、こんな馬鹿な会議をしようなんて最初に言い出したのは誰なんです。大体一目見て、あんなノート真実には程遠いと分かるでしょうに」
咲夜が一息ついて、なにげなく、話題を振ってみた。
すると示し合わせたように、お嬢さまはパチュリー様を見た。美鈴はパチュリー様を見た。妹様はパチュリー様を見た。
パチュリー様は空を見上げた。
仕方ないので、全員が微妙な顔してパチュリー様を見た。
「別に、責めているわけではありませんよ」
視線を向ければ、魔女は、すぐに会議の開幕と変わらぬ表情、変わらぬ仕草で落ち着き払っていた。
先ほどは乱れなく論理的に黒歴史ノートを分析し、率先して意見を言っていた、憎い相手である。
「……厨二病って知っているかしら?」
「いいえ」
咲夜は首を横に振った。指を立てて、パチュリー様は講釈を始める。
「人間が思春期に罹患する精神病よ。症状自体は様々だけど、周囲の大人の対応次第で、その子の将来に大きな影響を与えることがあるらしいわ」
「それでこんな晒しあげを?」
「怒らないで頂戴。悪かったわ咲夜。確かにこのノートに記されていることには、アナタへの心配の他に若干、内容への興味があったことを告白するわ」
「…どういうことですか」
その後のパチュリー様の細々とした説明を聞けば、その病気にかかると人格が曲がってしまって、悪くすれば一生ものになるようだ。
なんでも不良や引きこもりという種族にクラスチェンジして、家庭内で粗暴な振る舞いを始めるのだとか。
肉体的ではなく、精神的な疾患であることも紅魔館の面々を苦しめた。私には博麗神社に行くといって、お嬢さまはわざわざ永遠亭にまで訪ねたそうだ。
その際、ノートを薬医師に見せたところ、達観した表情で、切なげに『処置なし』と診断され、またレミリアの不安は増した。
……ちょっと待ってください。このノート、館の外に持ち出したんですね。
やめ、やめて咲夜。顔が怖いわ。私よかれと思って。
許しませんお嬢さま。今度からどんな顔であの薬師と会えばいいんですか。
パチュリー様自身、症状に対する知識は少なく、とにかく大事に至っては事だと、親身になっての相談をお嬢さまに持ちかけられた結果がこの家族会議だそうだ。
その厨二病とやらがどれ程の被害を起こすのか戦々恐々だったようで、だが蓋を開ければなんでもなかった。
これは咲夜の勘だが、親身になって相談するのが一番この病気を悪化させる促進剤、兼、起爆剤だと思われる。
「ちなみにパチュリー様。記述への興味とはどのようなものでしょうか」
「人間が恐れる至高の吸血鬼像よ。妖怪はそういうのに惹かれるの。内容はこう。その者は漆黒の闇より生まれでた吸血鬼。新月の闇に真の力をその身に宿す。ツェペシュの原型となった最古の吸血鬼と神を祖にもつ。その力は、満月のレミリア・スカーレットが100体いようとも、5秒もかからず葬り去ることができる。太古の血脈を持つ、吸血鬼の存在数を調整する調停者(バランサー)。ありとあらゆる吸血鬼の最後の一人として生まれた最凶最後の…」
「もういいです結構です!その辺りの細かい描写は仰らなくて充分です!」
イミナリティースレイヤーが私の心を大きく切り裂いた。
なによお嬢さまを100体って。どんなよ。
憂いを帯びた表情で、パチュリーは続ける。
「だからこうして皆に意見を求められる場を、私は心のどこかで望んでいたのかもしれない…」
どこを見るでもなく呟いた。
「ごめんねっ☆」
とたん、パチュリーは可愛らしい笑顔で、右手の指を立たせてポーズを取った。
別にそんな流れでも空気でもなかった。
笑いを取る場面でも、かと言って、空気を和ませたい時でもない。
全員が、表情を変えずにパチュリーを見た。
「小悪魔……あとで殺す……」
ネグリジェが憎しみと羞恥に染め上がる。
「待って咲夜!パチェを怒らないであげて!貴方のためを思ってのことなのよ!」
「分かっています」
弁明するお嬢さまを諌める。その病気のために、皆が私を思って動いてくれたわけだった。悪い気分ではない。
咲夜としても、すでにひどい状況から開放された。
まあ、またこの日陰か、こいつは何時も私の仕事を増やす。という気持ちもないではなかったのだが。
少なからずお嬢さまも同罪である。
咲夜はレミリアの罪を問えない。ならば、同じ罪状のパチュリーにも怒れなかった。
美鈴はもとより、妹様にも、あとで一度、とても苦いお茶をお出ししてやるくらいが関の山だろう。
咲夜は見回した。
慣れ親しんだ顔。安心してたり、焦ってたり、あるいはこうして馬鹿らしい会議に興じられる家族のあることは、私にとって幸せなことなのかもしれない。
二度と御免だけれど、またこうして付き合ってみたいとも思える。
この幸運の運命に、寿命の違う家族たちに、喜んで最後まで寄り添って生きていこうと思う。
そしてこの家族会議という制度は、恐ろしく成功率が低いものだと簡単に予想でき、その数少ない成功例になれたことに咲夜は感謝した。
「なぁに、咲夜ったら笑っちゃって?」
「ふふ……いえ。なんでもありませんわ」
自室に帰ったら、お嬢さまが主役の百合モノ中編恋愛小説は燃やしておこう。
天を仰ぎ、咲夜は思った。
でも、フィギュアだけは処分するの絶対にいや。
そんな簡単に、この病気は治らない。
──────── Ex ────────
今日から咲夜はクールに、瀟洒に、より完璧な人生を歩むと決めた。
もはやこんなノート、紅魔館の信頼を勝ち得た私には、なにも恐れることはないだろう。
もうこれに苦しめられることはあるまい。
咲夜は黒歴史ノートに一瞥くれて、心中で別れを告げた。
なんとなくやる事のなくなった場を、コホンと咳を一回して、パチュリー様がノートを片手に呟いた。
「ん…どれ。オリジナルの魔術まで書いてあるのね。この魔法使えるのかしら」
「ふふっ、ご冗談を。適当に書いたものですわ。それ」
「まぁまぁ。これで何も起きなければ、この本が嘘だって証明になるでしょう? レミィも私もばんばんざいね」
「おやめくださいな」
「ふむ……我、光より生れ落ちた無垢の刃。夜の眷属の墓標となるべく、大地より召還されし剣、『ディスアースセイヴァー』」
いや、大丈夫。もうこんなので私は動じない。
「なになに。闇属性に大ダメージで、おかしいわ、出ないわね。ディスアースセイヴァー」
「…当然です。何かが起これば逆に恐ろしいですわ」
「そもそも闇属性って何かしら。夜の眷属を指すの、咲夜?」
「いえ、そんなもの存じません」
むしろMP消費なしで闇属性じゃない私に大ダメージしそうなんだけど。なんて経済的。
「それにディスって否定を意味する接頭語よ。いいのかしら? 冒頭で地の剣を否定しちゃって」
「…知りません」
発音がカッコよかったからよ。なんとなくよ。
理由なんてあるわけないじゃない。何か小ばかにした顔をされている気がする。アンタだってノーレッジだけ英語でしょ。
「あ、パチェ。じゃあ次、私がやってみたいんだけど…」
お嬢さまの無垢な瞳が若干輝いた。
「な、何をおっしゃるんですかお嬢さま」
「咲夜が作った呪文なんて。なんだか可愛いわ…」
「どうしようもありませんわ。こんなもの価値はありません」
子供の作った、つたない工作を見る母親というのだろうか。幼い顔立ちのお嬢さまが嬉しそうに頬を染めた。その可愛らしさといったら、ない。
だがお嬢さまは止まらなかった。口からは表情と反対に、凶悪な呪文が発音される。
「遍く全て、土に還れ。倫理の法に縛る敵を打ち砕くべく、過ちのパトスから零れ落ちた一滴、今絶対なる死を届けん『ブレイク・オブ・ロウ』」
「ぐっ…!あ、これ……」
学校の数学教師が嫌いで作ったやつだ。何カッコつけてんのよ当時の私。
髪の長さに文句言われただけでしょ。殺すことないじゃない。
一言ごとに、痛々しい記憶とかも蘇ってきてやばいわ。聞いてられない。教室でこの呪文、教師に向かって叫んだ時の沈黙が…。
いやいや。やっぱ本当はもう駄目。お願いだから自作の呪文詠唱しないで。
耳が。耳が痛い。
ふふふ…喜びなさい昔の私、その呪文はすごい威力よ!
奇妙な顔をして……いや、面白がってノートを覗き込む魔法使いたちに咲夜は叫びかかった。
「ど、どうやったって出ませんわ。もうおやめください、パチュリー様、その呪文で魔法が使えることはありません」
「出ない…おかしいわね…。七曜の魔女のプライドに関わるわ」
「じゃ、じゃあこんどわたしがやってみるー!」
「い…妹様!」
「えーっと……其は穢れなき羽の悪魔、偽りに侵され、誓いは千切れ、されど求める千年の恋心、純白の魔力、唯一の無属性魔法、『ミレニアムラブウィンド』!」
「ですから!おやめください妹様!お願いだから、その呪文、やめてください!後生ですから!」
穢れない恋心を力の源にする咲夜の呪文が、テラスに目一杯鳴り響いた。
ついに限界を迎えて、顔を真っ赤にした咲夜はノートをひったくろうとした。殆ど半泣きになっていた。
しかしパチュリーとフランドールは手を放さない。
きゃーきゃー騒いで、ノートが引っ張りだこになった。
「返してください!私のノートです!」
「やぁよー!面白いものー!」
まずい。このままでは呪文の横に書いた、ラブウィンドに関するエピソードも見られてしまう。
クラスのK君ごめんね。私の歪んだ初恋のラブレターを許して。
開発した当時は、十年後の自分に攻撃を与える時間差魔法とは夢にも思わなかっただろう。すごい呪文だ。
居た堪れないとかそういうレベルではない。
「くらいなさい美鈴!えと、これなんて読むのかな……双剣滅散魔神断裂連鎖斬り(ツインバスタースラッシュ)!」
「あははっ。やられましたー」
テラスに次々と赤裸々な呪文が響き渡る。
絶対。次元。禁忌。存在確率の否定。概念攻撃。質量操作。事実上防御は不可能。神の顕現。リミッター解除。本気を出せば世界が滅びる。因果律。理想郷。
「いやぁぁあああ!聞きたくないです!もう本当にやめてください!!いっそ殺して!」
「おおっ。咲夜さん、見てください。面白いですよー」
「そりゃアンタらにはね!」
咲夜は髪をかきむしり、両手で真っ赤な顔を覆った。そして膝からくだけていく。
「え、どれどれ美鈴」
「見してっ。お姉さまわたしにも見して」
楽しげな美鈴の声に皆がノートに集まる。いつの間にかお前もか美鈴。
女ってやつはこれだから。人の秘密には蜜蜂のように群がる。
お嬢さま方、絶対私をからかって、楽しんでいるでしょう。
こんちきしょう。こうなったら瀟洒を貫き通してやる。笑われてなるものか。クールにシカトしてやりますわ。
「最終ページは咲夜さんのキャラクター紹介になっている」
「あっ。ほんとだ。咲夜こんなに…スーパーガールだって」
「将来の理想の自分像ってとこね。厨二病…的なってことかしら」
全員あっけらかんと笑った。
「あははっ、でもこれって」
そのイラストが、ちらっと咲夜にも見えた。
笑いを堪えて、ぷくっと膨れていた頬から、全員一致の笑い声が聞こえた気がした。
『すっごいナイスバデ…』
「知らんわぁぁぁ!そんなの咲夜かいてない、知らない!知らないったらぁー!」
咲夜はそこら中にナイフをぶん投げまくった。
そういえば、ノート何処いったのやら
古傷ががりがりとえぐられましたw
咲夜さんw
厨二な咲夜さん可愛いよ咲夜さん。
くっ…静まれ俺の右腕…
おばあちゃんモードに入ったレミリアに笑いました。
基本、過去って恥ずかしい。それを人に知られるなど……いやぁ恐ろしいなぁ(苦笑)
とっくに咲夜ちゃんのライフは0よ!
…。
アレどうしよう……。
最後の魔法の呪文のくだりはひたすら笑わさせてもらいましたw
お嬢様のお母さんっぷりがすごく暖かくて可愛くて、新しい何かに目覚めそうです。
うん、この冬休みに実家でやる事は決まったな。
なんだろうこの気持ち…。
こっちは読んでるだけで「あががががが」と叫んで携帯をへし折りたい気分になった。
なんというか、さとり様に容赦なくトラウマをえぐられる気分をバーチャル体験できた。
もうやめて! 俺のライフはとっくにゼロよ!!
面白かったです。
今年は早めに帰るか
こんな咲夜さんも可愛くていいね
頭が痛いです……あんな小説書いてた自分燃えろどうせすぐあとであきらめるんだから……
だって向き合える勇気がないんだもん……。
これから覚悟を決めて読み直してきます。
多分この作品一生忘れられないな。
美鈴がキレるあたりとか胸が張り裂けそうだ…