Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館のロミオとジュリエット異変 ~底~

2009/12/09 20:35:23
最終更新
サイズ
16.7KB
ページ数
1
閲覧数
1754
評価数
22/75
POINT
4580
Rate
12.12

分類タグ

「咲夜と美鈴が?」
 血相を変えて図書館へと舞い戻ってきた小悪魔から報告を受け、パチュリーは、思わず首を傾げる。
「はい。確かに聞きました」
 咲夜と美鈴の様子を、子細余さず報告した小悪魔は、未だ頬を赤らめていた。
 にわかに信じ難い内容ではある。
 まさか、よりにもよってあの二人が恋仲にあるなど。
「何かの間違いではないの? 大方、二人でロミオとジュリエットの練習でもしていたんでしょう。ほら、あったでしょう。マンチュアへと追放されるロミオが、最初で最後と、ジュリエットと結ばれる一幕。あの場面よ」
 パチュリーは流石と言うべきか、小悪魔の言を、頭から信じるような事はしない。
 半ば、真実を言い当てて見せる。
「いいえ、練習と言った雰囲気では無かったです。美鈴さん、咲夜さんの部屋でシャワーを浴びていましたし。それに……」
 言い淀む小悪魔の言葉の先を、パチュリーは無言のままに促した。
「その……お二人とも、初めてだそうです。今夜が……」
「……そう」
 “ふむ”と、パチュリーは目を伏せて考える。
 小悪魔の報告に間違いがなければ、確かに舞台の練習と言った雰囲気では無い。
「でもねぇ……レミィが気まぐれに舞台を見たいと言い、ロミオとジュリエットの役に、それぞれ咲夜と美鈴が納まった、その日の夜に、当の二人が初夜を迎える? 少し、出来過ぎているわよ」
 最も、紅魔館の主たるレミリアの能力は、運命を操る程度の能力。
 その能力のもとでは、どのような数奇な運命でさえ、実際に起こり得る可能性へと貶られる。
 レミリアの気まぐれの要望に、主役という形で大きく関わった咲夜と美鈴の二人が、何らかの干渉を受けた可能性とて否定は出来ない。
 もし、そうだとするのであれば。
「咲夜と美鈴が恋仲になっても、おかしくは無いのかしら? レミィの能力は、私でもその全容を把握仕切れていないし……」
 思考に没頭するパチュリー。
「あの……これは想像なのですが……ロミオとジュリエットになったからこそ、お二人の仲が進展したのでは無いですか?」
 ふと思い付いたように、小悪魔が言った。
「どういう事?」
 興味を引かれ、パチュリーが問いかける。
「はい。今までお二人の関係に関して、そのような話が、話題に上ったことはありません。つまり、今までお二人の間には、本当に何も無かったのです。これは、仮にの話なのですが……もしお二人が、自分たちですら気づかぬままに、以前から、密かに思い合っていたとしたらどうでしょうか?」
「ふむ。面白い説ね。続けて」
「はい。今回、言うまでもなくお嬢様の気まぐれから、咲夜さんと美鈴さんはロミオとジュリエットを……結ばれぬ恋人同士の役目を、舞台の上で演じる事になりました。私は、ロミオとジュリエットの境遇が、お二人に通じるところがあると思えるのです」
「咲夜と美鈴に、ロミオとジュリエットに通じるところがある?」
 小悪魔が、半ば確信を持って頷く。
「言うまでもなく、妖怪である美鈴さんと、人間である咲夜さんの間に横たわる最大の障害は、種族の差から来る寿命の違いです。同性同士と言う問題も無くな無いですが、それは些細なものですので、この際、無視しても良いでしょう」
 決して軽んじてはならない問題のような気もするが、パチュリーは、あえてそこには触れなかった。
 実際、外の世界では近年、同性間の結婚を認める傾向にあるらしいし、歴史を紐といても、同性同士の恋愛は、さして珍しい話でも無い。
 かく言うパチュリーとて、昔は友人であるレミリアと――本件に関係ない話なので、これは割愛する。
「まあ、私たちと咲夜とでは、流れる時間が違うのは認めるわ」
「ええ。そして、美鈴さんも咲夜さんも、その事に気づいていない筈がありません。なら、どうして自分の気持ちを素直に認める事が出来るでしょう。逃れ得ぬ別れが待っていると判っていて、どうして。人間に恋をした妖怪と、妖怪に恋をした人間。互いに、必死で自分の本当の気持ちに気付いてしまわぬよう、心に蓋をして、あくまでただの友人として接していた筈です。出会った時には既に、家同士の確執から、結ばれる事を許されなかったロミオとジュリエット。互いに思い合いながらも、種族の違い故に、自分の思いから目を背けた美鈴さんと咲夜さん。私には、お二人の姿が、そのままロミオとジュリエットへと重なって見えるのです」
 最早、小悪魔の中では、仮にでも何でもなく、咲夜と美鈴が以前から、お互いを思い合っていたと言う事が確定してしまっていた。
 あげく、二人が種族の違いから来る寿命差に怯え、自分の本当の思いに気付かないようにしていたと言う、一大駄目耽美ストーリーが出来上がってしまっている。
「ふむ。そう言われて見れば、有り得ない話では無いわね」
 小悪魔作、咲夜と美鈴の、的外れな耽美物語に感化された最初の犠牲者が、パチュリーだった。
「でしょう? パチュリー様から、ロミオとジュリエットのあらすじを聞かされた時、美鈴さんは、確かに言っていました。己の命すら省みない、一途な愛に憧れると。恐らく、言葉にはしませんでしたが、咲夜さんとて同じ思いであった筈です。私の予想が正しければ……二人は、あの時気付いてしまったのです。ロミオとジュリエットの物語が、外ならぬ自分たちの境遇の鏡写しである事を。そして、秘めてきた自分の心に――ああ、何と言う悲劇! 偶然にせよ、そのロミオとジュリエットの役割を、自分たちが演じる事になってしまった! 必死に隠してきた、自分の本当の気持ちに気付いてしまったばかりのお二人にとって、こんな残酷な仕打ちがあるでしょうか? いいえ、ありません!」
 反語表現。
 語っている内に、とうとう自分の世界に入り込んでしまった小悪魔。
 推察、憶測ですらなく自分の妄想を語る小悪魔の言葉には、異常な熱が込められている。
「なるほどね。戯曲の主人公たちに自己を投影した二人は、隠して来た思いに気付いてしまった。その結果が、貴女の聞いた、咲夜の部屋での密会だと。一応、それならば話の筋は通るわね」
 パチュリーは、静かに目を閉じた。
「妖怪と人間の恋物語か。先には、確かに悲劇しか待ち受けてなさそうね。個人的には応援してあげたいけれど……今はまだ、あの二人が幸せであることを祝福しましょう」
 はや、パチュリーさえ、小悪魔の話が事の真相だと錯覚している。
「これから、どうしましょうか、パチュリー様?」
「そうね。一応、当人たちの問題ではあるけれど。レミィの耳には、入れるだけは、入れておきましょうか。とりあえず今夜は、ようやく結ばれた二人の初夜だと言う話だし。二人っきりにさせてあげましょう。小悪魔。出歯亀は駄目よ。部屋に戻る時は、咲夜の部屋を避けてあげなさい」
 いらぬ気を利かせるパチュリー。
「はい、承知致しました。好きな人との初めての夜は、特別ですものね。そんな野暮はしませんよ」
 寧ろこの場合、野暮をしてくれた方が誤解も解けて、万事丸く納まったのであるが、そのような事、パチュリーや小悪魔に判りよう筈も無い。
 かくて少なくない疑念は、種族の差を乗り越えてようやく結ばれた二人という、耽美な物語によって覆い隠され、清々しく無視された。
 真相を誤った方向へと作り替えた張本人こと小悪魔は、心から咲夜と美鈴の幸福を願っている。
 何事も自覚が無いのが、一番、質が悪いと言う典型だった。



 翌日。
 咲夜がベッドの上で目を覚ました時、傍らに人肌の温もりを感じた。
 見れば、隣では霰もない格好をしている美鈴が、穏やかな寝息を立てている。
 どうやら、何時の間にか眠ってしまっていたらしい。
 自分の格好も、美鈴と似たようなものだった。
 一糸纏わぬ姿で、ベッドの上で抱き合って眠る二人の少女。
 別段、いかがわしい事をしたわけではないが、さすがに恥じ入るように、シーツを引き上げ裸身を隠す。
「……二人で裸になって、一つの蒲団で官能小説を読むのは、十分にいかがわしい事のような気がするわね」
 誓って言うが、お互いに変わった事はしていない。
 互いの肌にも必要最低限しか触れていないし、口づけなど持っての他。
 最も、触れ合える程近くに人肌の温もりがある状態で、官能小説を読んでいた訳だから、さすがに無反応ではいられない。
 あまつさえ、その本が普段、自分が密かに楽しんでいるものであり、また見せている相手が、自分の良く見知った相手であるのならば、尚更の事。
 咲夜からして見れば、秘め事を美鈴に盗み見られているような、一種、背徳的な昂ぶりを覚えていた。
「……そう言うところは、女よね。私も。どうしようも無く」
 “ちらり”と、隣で寝ている美鈴を盗み見る。
 幸せそうな寝顔が、そこにあった。
 意味もなく、腹が立つ。
「……全く、貴女は。人のベッドで、よくもまあ幸せそうに眠れるわね」
 “はあ”と、溜息を一つつく。
「……襲ってやろうかしら」
 ぽつりと、何とは無しに呟いた。
「んっ……咲夜さん……」
 不意に名前を呼ばれ、咲夜の心臓が、“どきり”と高鳴る。
「な、何……?」
 上擦った声で返すも、当の本人から返答は無い。
 変わらぬ寝息が聞こえるのみ。
 どうやら、単に寝言であったらしい。
 “ほっ”とすると同時、“ふつふつ”と怒りが沸いて来た。
「この……いい加減、起きなさい!」
「えっ……きゃあっ!?」
 咲夜にベッドから蹴り落とされ、美鈴は、存外、可愛らしい悲鳴を上げて転げ落ちる。
「えっ、えっ? 咲夜さん!? 私は一体……」
 今だ状況が把握できていないのか、目に見えて狼狽する美鈴。
 その様子が愉快で、少しは溜飲が下がってくれた。
「起きた? なら早く着替えて、出て行きなさい。誰かに見られたら、誤解されるでしょう?」
「あっ、はい……」
 美鈴が自分の姿と、咲夜の姿とを交互に見つめ、頬を赤らめて頷く。
 どうやら、ようやく現状を把握できたらしい。
 美鈴のそれに負けないくらい、きっと自分の頬は朱に染まっているのだろうなと思いつつ、咲夜はベッドから立ち上がる。
「貴女の服、もう乾いているでしょう。私が戻るまでに、最低限の身仕度はしておきなさいよ」
「はい、ありがとうございます。咲夜さんは、どちらへ?」
「朝のシャワーよ。一緒に、浴びる?」
「えっ!?」
 目に見えて赤くなる美鈴を見つめ、咲夜は急に気恥ずかしくなった。
「馬鹿ね……冗談よ」
 咲夜は、それだけを言って、美鈴の視線から逃げるように、シャワールームへと入る。
 心臓の鼓動は、先にも増して高鳴っていた。



 “ざぁ”と、勢い良く頭の上から、暖かい湯を被る。
 流れる水の音が鼓膜を揺するも、それ以上の大きな音が、身体の内から響いていた。
 心臓の鼓動が、鳴り止まない。
 咲夜は頬を朱に染めながら、しなやかな身体を、シャワーの湯に打たせるままとしている。
 一緒に浴びるかと、美鈴を誘った言葉が、頭の中で繰り返し響く。
「私……どうしてあんな事を……」
 ただの冗談の心算だった。
 まさか、美鈴があんな反応を返すだなんて、思いもしない。
 今日の自分は、何かがおかしい。
 言い知れぬ不安だけは募るものの、その正体が何やら判らない。
 こんな事は、初めてに近い。
 手元で洗剤を泡立てて、ゆっくりと身体を洗い始める。
 きめ細やかな泡が、優しく、咲夜の身体を白に包んでいった。
 タオルを使って身体を洗うと、肌あれの基となる。
 咲夜は、掌にのせた泡を、ゆっくりと身体の上に伸ばしていった。
 咲夜の掌が、自身の、慎ましやかな乳房へと触れる。
 普段であれば、気にも留めず、そのまま泡を伸ばす所。
 しかし、今日に限っては、事情が違う。
「……っ……」
 咄嗟に漏れそうになった甘い声を、唇を噛むことで、何とか噛み殺した。
 シャワールームに満ちる水音に紛れ、その声が、外へと響いた心配は無いだろう。
 しかし、理屈ではそうと判っていても、羞恥の感情は、拭い去れるものでは無い。
 自身の掌が乳房へと触れた瞬間、咲夜の身体を走りぬけた言い知れぬ感覚。
 その感覚が、咲夜の身体と思考を支配する。
 頭から浴びているシャワーの湯が、“とろり”とした蜜へと変じたようだ。
 思考に霞がかかり、吐き出す吐息にも、熱が篭る。
「本当……おかしいわね……今日の、私は……」
 その感覚に襲われたのは、何も初めての事では無い。
 例えば、一人、寝所にて、昨日、美鈴と共に読んだ物語を読んでいる時。
 或いは、年頃の娘ならば、必ずと言っていい程に持っている、ある種の昂ぶりに襲われた時。
 幾度と無く、経験していた。
 無論、その感覚に対し、どのような対処を試みればよいかなど、誰よりも良く知っている。
 他ならぬ自分の身体が、手が、指が。
 思えば、昨晩、美鈴と蒲団の中で、その物語を読んでいる時。
 隣に美鈴の温もりを感じる、何時もとは異なった状況で、確かに自分は、それを求めていた。
 仕方の無い事だとは思う。
 あの状況で、反応しない者がいるものか、とも。
 しかし、だからと言って、一時の欲望に身を任せるわけにはいかない。
 まして、隣に美鈴がいる状況で、まかり間違っても、そんな真似が出来るはずも無い。
 必死になって堪え、ようやくの事で眠りに身を委ねられたのだ。
 それで終ったのだと、内心、安堵していた。
 しかし今、他ならぬ、その感覚に襲われている。
 一人っきりの、シャワールームで。
 咲夜は、自分の身が、既にそれに囚われていることを知った。
 シャワールームの外には、いまだ美鈴がいるだろう。
 それでも、その衝動から逃れる術を、咲夜は他に持ち合わせてはいない。
 堕ちる。
 ただ、そう思った。
 目を閉じて、願う。
 それだけで、世界を流れる時は止まる。
 咲夜の意のままに、世界は、咲夜を残して静止する。
 あれほど五月蝿かったシャワーの水音も、もう聞こえない。
 誰にも見られる心配も、聞かれる心配も無い。
 外にいる、美鈴にさえも。
 咲夜は、よろよろと湯船の中に座り込んだ。
 寒いとは感じない。
 ただ、身体の内に篭る熱だけが、咲夜の吐息に濃く宿され、甘やかな声と共に外に漏れ出していく。
 止まった時の中、何者にも聞かれる心配のないはずの声を、それでも、唇を強く噛んで堪える。
 本当、今日の自分は、どうかしている。
 その困惑さえ、やがて、全身に広がる甘い痺れと共に、意識の彼方へと葬り去られる。
 時の止まった世界。
 その一角、水音の絶えたシャワールームにだけ、密やかな水音と、少女の吐息の旋律とが混じり合い、響いていた。
「……あっ……」
 少女の秘め事に気付いた者は、誰もいない。



「……」
 無言でシャワールームから出てきた咲夜を、身支度を整えた美鈴が出迎える。
 咲夜は、頭からバスタオルを被っていた。
 白く柔らかな厚手の布に隠されて、その表情を、窺い知る事は出来ない。
「……着替えたなら、早く出て行きなさい、もうすぐ、他のメイドも起きてくるわよ。誤解されても、知らないからね」
 そっけない態度で、それだけを言われる。
「あっ……はい」
 美鈴は、咲夜の態度が、なにやらおかしいと感じはしたが、深く踏み込むのは憚られた。
 それが、お互いの為だと思う。
 咲夜に見送られ、美鈴が、咲夜の部屋から、廊下へと出る。
「咲夜さん。それじゃあ――」
 一時の別れの挨拶を告げようとして、不意に、美鈴は、咲夜にその腕を掴まれた。
「咲夜さん……?」
 困惑する美鈴に対し、咲夜が告げる。
「『巡礼様。それは貴方のお手に対して、余りにも悲怒い仰りよう。この様に貴方の手は、しっかりと信心深さを表していらっしゃるではありませんか。もとより聖者の手は、巡礼が触れる為のものです。それこそ手のひら同士の口づけというものですわ』」
 咲夜に不意に告げられた台詞には、覚えがあった。
 ロミオとジュリエットの中の、一幕のもの。
 美鈴は咄嗟に、付け焼刃で覚えた台詞を返す。
「で、『ですが唇は聖者にも巡礼にも、ちゃんとした本物があると言うものです』」
「『いいえ、巡礼様。その唇は祈りを紡ぐ為のもの――』」
「『ああ、では我が聖女様。手の口づけをお許し頂けるならば、どうぞ唇にもお許し頂けませんか――どうかお許しください。私のこの信仰を、絶望に変えてしまわぬように……』」
「『たとえ祈りに絆されても、聖者の心は動きませんわ――』」
 昨日、初めてその内容を知り、一度だけ脚本に目を通しただけの物語。
 それでも、自然と、言葉を唇をついて溢れ、身体は動いた。
 美鈴の腕が、咲夜の両肩を抱きしめる。
「『では、どうか動かずにいてください。祈りの験を頂く間だけ――』」
 脚本では、この次の瞬間、ロミオをジュリエットに口づける。
 他ならぬ、唇に。
 咲夜の唇に、自身のそれを、そっと近づけ、互いの吐息がかかる距離となった瞬間。
 美鈴の動きが静止する。
 凍りつく美鈴を見上げ、咲夜が、うっすらと頬を染めたままに呟いた。
「……しないの?」
「あっ……そのっ……」
 顔が熱い。
 まともに、咲夜の顔を見られない。
 視線を彷徨わせる美鈴を見つめ、咲夜は、“くすり”と微笑む。
「……冗談よ。でも、初めてにしては上手いじゃない。美鈴」
「……もう、咲夜さん。からかわないでくださいよ……心臓に悪いです……」
「ごめんなさい。つい、ね。さて、それじゃあ……」
 咲夜の手が、掴んでいた美鈴の手を解放する。
 咲夜は、美鈴に背を向けた。
「門番の仕事、頑張りなさいよ。あと、本番までには、もう少し、顔を近づけられるようになりなさい。そればかりは、練習あるのみね。お互いに。別に練習中の事故で、少しぐらい唇が触れ合っても、私は気にしないから。今度は、もうちょっと頑張りなさい」
 “さらり”と言ってのけた咲夜の言葉に、美鈴の困惑が頂点に達する。
「あ、あの……咲夜さん? それは、どういう……?」
 無粋な質問をしてくる美鈴に対し、咲夜は、後ろ手に部屋の扉を閉めながら、答える。
「……さぁ? 自分で考えなさい」
「あっ、咲夜さん。ちょっと――」
 無慈悲にも、伸ばした美鈴の手は、閉ざされた扉によって阻まれた。
 美鈴は、しばしその場に立ち尽くした後、歩き去る。
 頭の中を、多くの困惑で埋め尽くして。
 その困惑の最中には、全て、咲夜の姿がちらついていた。
「あれ……? 私……変ですね。どうして、こんなにもドキドキしているんでしょう……?」
 美鈴の呟きを聞きとがめた者は、誰一人として無く、その言葉に答える者も、また存在しなかった。



「咲夜と美鈴が?」
「ええ。小悪魔の話よ。信憑性は高いと、私は判断したわ」
「……にわかには信じがたい話だけれど」
 パチュリー・ノーレッジからの報告を受け、紅魔館の主、レミリア・スカーレットは考え込む。
「そうね。まずは本人たちに、それとなく確認をとってみよう。もし、本当に二人が愛し合っているというのであれば、紅魔館の主として、私にも考えがある」
 レミリアは、自分の従者と、館の門番の事を思い、“くすり”と微笑んだ。
「しかし、水臭いね。そういう事情なら、まずは主である私に相談して然るべきだろうに。まぁ、いい。可愛い従者たちの運命を左右する、重大な問題だ。悪いようにはしない。大人の恋愛というものを知り尽くした、この永遠に紅い幼き月が、初心な二人を祝福してやろう」
「どうするの、レミィ?」
「ふふん。パチェ。この私の膝元で、悲劇的な結末など許さないわ。紅魔館のロミオとジュリエットに、これ以上無いほどのハッピーエンドを用意してあげるよ。まぁ、見ていなさい。運命は、この私の足元に跪く。妖怪と人間との種族差なんか、乗り越えて見せるわ」
 意味も無く尊大なレミリアを見つめ、パチュリーは、“はぁ”と溜息を一つつく。
「あまり、無茶はしないでよ?」
 言っても聞き届けないだろうなと思いつつ、一応、釘だけは刺して置くパチュリー。
「判っているよ。とりあえず、何人かのメイドに、こっそりと、二人の結婚式の準備をさせようか」
 案の定、全然、判っていない。
「待ちなさい。さすがに話が飛びすぎよ」
 パチュリーの指摘にも耳を貸さず、レミリアは、不敵に笑う。
「ふふん。大丈夫よ。遅かれ早かれ、絶対に、その準備は必要になるから。いいから、私に全て任せておきな」
 こうなったレミリアは止められない。
 過去の経験から、そう察したパチュリーは、再び、大きな溜息をついた。
どうも、早苗月翡翠です。
『儚月抄』にならって、上、中、底とお届けした『紅魔館のロミオとジュリエット異変』。
まだ、終りません。一重に、著者の見通しの甘さゆえです。本当にすいません。
次回で、そろそろ本当に完結させないとな、などと思いつつ。

それでは――読んでくださって、どうも有難うございました。
心から、感謝いたします。
早苗月翡翠
http://
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2470簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
お腹いっぱいですw
やっぱりめーさくはいいな!w
9.90名前が無い程度の能力削除
いいのう、いいのう

しかしエロスw 
アチラとの境界が見えるwww
11.90あか。削除
これはいい。とてもいい。

しかし描写がエロいなww
上手い。
13.100名前が無い程度の能力削除
うん、エロい
へたな官能小説よりよっぽどエロい

いいぞもっとやれ
14.100名前が無い程度の能力削除
氏のおかげで右手が忙しいったらありゃしない…
いや、めーさくを執筆してるだけですヨ?
15.100名前が無い程度の能力削除
この胸のときめき…忘れていた何かを…ハァハァ
まさかまだ続きが読めるとは!期待期待!
16.100名前が無い程度の能力削除
エローいw

そして次回のタイトルがどうなるのかひそかに期待w
18.無評価名前が無い程度の能力削除
密通?
19.100名前が無い程度の能力削除
いやっほう!
終わらないことをこれほど喜んだことはないw
ニヤニヤどきどき忙しい話だぜw
20.80名前が無い程度の能力削除
なんというきわどさ・・・
26.100名前が無い程度の能力削除
なんという焦らし作戦

だがそれがいい
30.100名前が無い程度の能力削除
>かく言うパチュリーとて、昔は友人であるレミリアと――
ちょっwなにやってんスかパッチェさんw

続き、楽しみにしています!
31.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんえっちだなぁ…

続きにwktk
32.100名前が無い程度の能力削除
あらゆる意味で読んでいてドキドキだった
続き期待してます
33.100名前が無い程度の能力削除
さあ、レミリアとパチェの話を詳しく!
34.100名前が無い程度の能力削除
描写が生々しいなあw
35.100名前が無い程度の能力削除
続きが気になるっ!レミパチュも気になるっ!
36.50名前が無い程度の能力削除
そのシーンの練習が「初めて」でも何もおかしくないのでは?
冷静な指摘約なパチュリーの疑問持つ部分としては疑問
48.100名前が無い程度の能力削除
こ れ は ひ ど い!

いいぞもっとやれ!
50.100名前が無い程度の能力削除
お嬢様の一肌脱ぎktkr
本人たちの意思にそぐわずに、状況が回り始める所は、
まるで物語のようだww
61.100名前が無い程度の能力削除
俺のJrが蒸着!!
62.100名前が無い程度の能力削除
生々しい。そして、それが良い。
72.100名前が無い程度の能力削除
>かく言うパチュリーとて、昔は友人であるレミリアと――

詳 し く