バンッ バンバンッ
薄い雲に太陽が覆われた、小さな町の中。
視界を覆うような砂嵐が巻き起こるその場所で、今日もいつもどおり銃声が響き渡る。その音が鳴り止んだあとには、乾いた大地に寝転がる命の残骸。
残骸が生きていた証の赤い血液は、貪欲に水分を貪る大地へと奪われ。
その肉体すらも手早く、まるで作業のように運ばれていく。
大きな町であれば、すぐに保安官が飛んでくるだろう。
しかし、こんな辺鄙な、寄せ集めの町にそんな役職の人間などいない。
暴力と金で仮の平穏を保たれている、ただそれだけの世界なのだから。
そんななんの感慨もなく命が荒野に捨てられていく世界に――
フード付きの体を覆うような外套、それに身を包んだ二人の迷い人が姿を見せる。
砂埃を上げながら歩みを進める二人には、歓迎の声はない。人気のないアーチを潜っても世界は変わらず、くすんだ色の壁の建造物が立ち並んでいる。感動も何もない殺風景な風景だけが広がっていた。
そのまま町の中へと歩を進めれば、道端に力なく座り込む浮浪者のような男がいた。その男をなんとなく横目で見ただけだと言うのに『何見てるんだ』と唾を吐きかけられそうになる。治安の悪さがそのまま町の淀んだ空気と直結しているような、荒れ果てただけの空間だった。
それでも二人は暗い雰囲気の町に動揺一つ見せず、ある看板だけを目指し歩く。
初めての町では、そこで情報収集すると相場が決まっているからだ。
そうやって町の中心へと二人が進んでいくと。
ほどなくして、二人の視界に目的の場所が見えた。屋根の部分に『BAR HAKUREI』という文字を掲げる酒場。ただその看板は斜めに傾いているし、手で押してはいるはずのスウィングドアは片側が外れてしまっているような状況。
直すお金がないのか、それとも直す必要がないのか。
酒場は治安のバロメーターとも言われることもあるため、もし後者であればこの町の状況は最悪と言ってもいいかもしれない。
そんな店に二人のうちの一人が戸惑うことなく足を踏み入れ……
「邪魔するよ」
外套のフードの部分を外しながら軽く挨拶をする。
片翼のスウィングドアを押し、余裕の笑みを浮かべる異邦人。
余所者は入ってくるなと言わんばかりに元からいた客が白い視線を浴びせても、その少女は迷いもせず空いたカウンターへ向かって歩き――
バンッ!!
「邪魔するよっ!!」
――そのまま席につこうとしたとき、遅れて現れたもう一人の客人の片割が壊れた両開きの扉を勢い良く開けた。
すると――
ベシッ!!
「うにゅっ!?」
油断していた客人の顔面に、戻ってきた扉がクリーンヒット。
しばらくじっと何かに耐えていた彼女だったが……
「うわああああん、おりん~~~!!」
「はいはい、痛かったねぇ。
私も精神的な意味で痛さ継続中なんだけどさ」
赤くなった鼻の頭を押さえて、フードが弾け飛びそうになるほどの加速で駆け出した。そして先にせきについていた猫耳の少女へと抱きつく。おりんと呼ばれた少女は周囲の失笑を気にしながら、抱きついた頼りない相棒の頭を撫でてやる。
そんな二人の前に、腕を組んだままカウンターの中から近寄ってくる人影があった。
その表情に、嘲りを込めながら。
「悪いけど、この店では魂が燃え尽きるくらいの熱いものしかないの。
水だけしか飲めないお子様なんて、お断りだから」
「おやおや、せっかちなお人だねぇ。まさか注文を取りに来るなんてさ」
燐はそんなぶっきらぼうなマスターの言葉を気にせず、不敵な笑みを浮かべたまま指を一本立てる。
そして片腕で相棒を抱えながら、指を立てている腕をカウンターの上に置く。
「客が着たらまず一杯、どぎついのを出すのが当然じゃないかい?
常識がなってないねぇ、あんた」
「ふん、上等じゃない」
紅白の珍しい服に身を包んだ女性は、燐に視線を向けながら、棚から一本のボトルを取り出してショットグラスへと荒々しく注ぎ込む。それを燐から少しはなれた場所に置いたかと思うと――
「ほら、受け取りなさい」
勢い良くカウンターの上を滑らせた。
常人なら取り落としてしまいそうなグラスを燐は易々と、一滴も零さずに掴んだ。その華麗な手際の余韻に浸ることなく、燐は一気にそのグラスを煽る。
そして嬉しそうに喉を鳴らしながら頭の上の耳を小さく揺らした。
「ん~、かけつけワンショット! やっぱりたまらないねぇ~♪」
「へぇ……
いまのを軽々、か。あなたやるじゃない」
「んふふ~、お姉さんの手際も中々だったよ。もしかしてあんたがここのマスターかい?」
「そう、BAR HAKUREIのオーナー。霊夢って気軽に呼んでくれていいわ」
燐の飲みっぷりに引かれたのか、霊夢は気軽に握手を求めてくる、
そんな彼女に、燐は何故か首を軽く横に振った。
「遠慮しとくよ。あまり親しくなると町を出て行くときに辛くなるからね。
流れ者の性ってところさ」
「へぇ、ポリシーってやつかしら?」
「そんな上等なもんじゃないんだけどねぇ。
ほら、お空。きょろきょろしてないで何か頼んだら?」
周囲の人間たちのざわつきが気になるのか、人もまばらなバーの中を空は忙しなく観察していた。しかし燐に声を掛けられたことで、目の前に立つ酒場のマスターの姿を見つけ元気よく左手を挙げる。
「飲物頼んで良い?」
「どうぞ、でもあんまり気分が盛り下がるようなものを注文したら、追い出しちゃうかもしれないわよ」
「……んー、どんなのだろう」
「体の芯から熱くなるようなのを一気に、それだけでいいよ」
「ん、わかった熱くなるものだね!」
そして、お空は自信満々に胸を張り。
まだ右半身を覆ったままの外套をくしゃくしゃにしながらびしっと霊夢を指差す。
そのあまりの傍若無人さに酒場の中が一気に盛り上がり――
とうとう空はその熱い飲物の名を!
「ホットミルク!!」
すぱぁんっ!
「いたぁっ!?」
その名を叫んだ瞬間。
隣にいた燐が外套の中からスリッパを取り出し、空の顔面を綺麗にはたく。さきほどドアに鼻の頭を強打したばかりだというのに、まさに泣きっ面に蜂。
「いやぁ、ごめんねお姉さん。ちょっとだけ空気が読めない子なだけなんだよ。
空って漢字が名前に入ってるって言うのにさ」
「たぶん関係ないから、それ。
そんなことより、あなたの手の速さの方に驚いたんだけど。
一瞬見えなかったし」
「いやぁ、慣れだね。この子と一緒に旅すると、こういうスキルだけが上達してさぁ。
それに、今のも対して効き目ないしね」
稲妻が走るような俊敏な動きで叩いたのに、そんなことがあるはずがない。
そうやってまだ顔を押さえているはずのお空の方へと首を向けると、
「うー、ホットココアが当たりだったか……」
「いや、そういうことじゃないから」
あっさりと復活していた。
しかもスリッパで叩かれたということを認識していないような口ぶり。答えが外れたということ難しい顔はしているものの、ダメージというダメージは確認できない。さっきのドアを顔面で受け止めたときといい、頑丈すぎる。
そういえば――
風の噂で妙なことを聞いたことがあるような。
「あなたたち、なんでずっと外套着たままなの? そこに掛ければいいじゃない」
霊夢はそんな噂を思い出しながらアゴで入り口の方を指す。そこには他の客人の馬の鞍や外套がかけるための棒が壁に備え付けてあった。服を掛けられるように、ちゃんとハンガーも常備されている。
時間のない客人でもひとまずそこに上着をかけるものなのだが、この二人は脱ごうという仕草すら見せてはいない。
燐は少し困ったように頬を掻きながら、瞳を自分の衣服へと動かした。
「この中身が気になるということかい?」
「正直に言えばそうよ」
「そんなたいそうな物は持っていないし、上等な服も着ていないんだけどねぇ」
「なら、脱いでも問題ないということよね?」
「あ、これは軽率だったねぇ……」
やんわりと逃げるつもりが、的確な一手を打たれてしまった。
燐は観念したように外套に手をかけようとするが。
空の手が横からの伸びてきてそれを止める。
「だめだよ、脱いじゃだめ」
「あら? あなたならその理由、教えてくれる?」
「……言ったら、脱がなくていい?」
「私が納得できたらね」
無理だと、燐は思った。
今の行動はとっさの思いつきの行動でしかない。そんな空に真っ当な根拠など組み立てられるはずがない。頭ではそうやって冷静に判断していた。それでも燐は自分を庇うように手を抑えてくれた行動が、素直にうれしいと感じる。
だからその感情が――
少しだけ空に期待したい。そんな想いを彼女の中に生まれさせた。
「そ、そうだよ!
お燐はね! お燐はね!」
そしてその期待に答えるように、空の中に画期的な案が浮かんでいた。
それならば絶対に外套を脱げと言われない。
店の主として言えるわけがないのだ。
その理由は――
「だって! お燐この外套の下――
素っ裸なんだか――」
「んにゃあああああああ!?」
スパァン スパァン!!
まさしく電光石火。
燐は必死に空の続きの言葉を掻き消そうと、大声を出しながらスリッパを閃かせる。
すばやく一度振りぬいた後、手首のスナップを利かせながら返しでもう一発。
その攻撃でなんとか空の言葉を止めた。
その後、一瞬で茹でダコのように真っ赤になった燐は、空の服を掴んで激しくゆすり始める。
「言うに事欠いて何てことを大声でぇぇぇ!
あたいに妙な固定概念つけないでおくれよぉぉぉ~~~!」
「お、お燐やめ、やめてぇぉぅぅぅうにゅ~~~~っ!」
カクンカクンっと空の首が揺れる中。
今にも恥ずかしさで泣きそうになる燐の肩を霊夢が優しく掴む。
「……わかってるわ、大丈夫」
「お姉さん……」
母親のように柔らかな笑顔を向けてくるマスターの優しさに触れ、燐は空を揺らすのをやめた。そして少しずつ心を落ち着かせて――
「そういう趣味も、ありだから……」
「おねええええさああああん!!」
その笑みはどうやら母親の優しさではなく、何か達観してしまったものだったらしい。
そんな霊夢の声を皮切りに、周囲の客がざわつき始める。
『新しい客人は変態だ』『痴女だ……』
口々につぶやく声を聞くたびに、燐の体温は急上昇していくようだった。
――まずい、これはまずい!
このままでは自分の二つ名に妙なものが付け加えられてしまう。
それだけは絶対に避けなければ。
「わかった、わかったよ! 脱いで証明してあげるよ!
ちゃんと服を着てることを!」
「趣味だからって……脱がなくても……」
「だからお姉さん! 違うってほらほら! 見て!」
燐は椅子の上で立ち上がり、外套を脱ぎすててその下の濃い緑色の衣服を見せつける。
いいものが拝めると思っていた一部の男たちが意気消沈するものの、その行為でなんとかお燐の身の潔白は証明された。
ただ、あるものを全員の目の前に晒す事になってしまったが――
「あ、でもお燐の声だけ聞いてると、本当に変態の台詞だよね」
いつのまにか手に入れたホットミルクを美味しそうに飲む空の脳天に――
三度目のスリッパが振り下ろされたのは言うまでもない。
◇ ◇ ◇
「へぇ、ご主人様の妹を探してるんだ。それでこんな場所まで?」
「そうなんだよ、ねぇ、お燐」
「うん、そうだね……」
なんだか重い空気を纏う、打ちひしがれた様子の燐。
そんな彼女がカウンターの上で突っ伏す横で、何故か意気投合した二人がホットミルクとテキーラのグラスを合わせながら身の上話に花を咲かせていた。
しかしそうやって盛り上がる霊夢と空以外の客人は、二人を冷やかすのをやめて静かにグラスを傾けるだけ。むしろ視線に入れないように避けている様子すら伺えた。
「まったく、頼りない連中ね。
いくら噂の二人組みがここにいるからって、そんなに縮こまらなくても。
こんなに可愛いのに、ねぇ?」
「ね~~♪」
何故こうも酒場の中が静かになってしまったのか。
その原因は燐が外套を取ったことにあった、椅子の上に立ち上がり勢いのままで脱いだ彼女の体から二本の黒い尻尾が生えていたこと。
その黒い尻尾と、赤い髪。
その特徴が最近噂になっている人物と同じだったから。
きっとその名前で騒がれるのが嫌だったから、外套を取りたくなかったのだろう。
「しっかし、噂の『不幸を呼ぶ黒猫』さんがこんな女の子だとはねぇ」
「もうほっといて、あたいのことは……
今は何もやる気が起きないし」
「そうだね、危うくお燐のその名前が――
『不幸を素っ裸で呼ぶ黒猫になるところ――』
スパァンッ!!
「……何もやる気が起きないって言ったくせに」
「……次、そのネタを口にしたら、その羽全部引き抜くよ?」
『不幸を呼ぶ黒猫』と『滅びを運ぶ風』――
この二つ名は、燐と空を指すもので。
最近、いろいろな場所でギャングたちを壊滅させている二人組、そんな噂が流れていた。燐が『黒猫』というのはわかるとして、何故『風』という言葉は空を指すかと言えば――
燐が引き抜くと言ったように、空の背中に大きな翼が生えているから。普段は外套の中で器用に折りたたんでいるせいで何か荷物を背負っているだけにしか見えないけれど。
「噂に聞けば、あんたたち。こっちの腕相当なんだって?」
指を銃に見立て、「ばんっ」と撃つ真似をする。
硝煙をふっと息で消す仕草まで再現してから、一層不機嫌になる燐のあたまをつんつんっと指先で突付いた。
「それくらいしかすることがなかったから、覚えただけだよ。
あたいたちの故郷はずっと、政府のお偉いさんによって隔離されてたからね」
空から聞いた身の上話をまとめると――
二人の出身地は、地上のアンダーグラウンドとなんだか矛盾した言い方をされる地方で、昔流行病が発生した地方でもあるらしい。そのため長期間他の町との物流が途絶え、てっきり壊滅したものだとばかり思われていた地方。しかしその住民たちと領主の娘である『さとり』の活躍によって病魔は姿を消し、三年前に外との行き来が許されるようになったのだという。
そうやって外との交流が復活した直後。
さとりの妹であるこいしが行方不明となり、彼女を探すため使用人だった燐と空が旅に出たということだった。
「そうそう燐ってそういう細かい作業得意だしね」
「お空が大雑把過ぎるんだよ。何度言っても銃の安全装置外すの忘れるし」
「気にしない、気にしない。そういうのって結構気合でなんとかなる!」
気合で何とかなる安全装置って、なんだろう?
それはそれで何か恐ろしい気がする。
とにかく、この二人がその噂のガンマンだとするなら。
少しだけ問題が出てきた。
この町のギャングが黙っていない。ということだ。
保安官のいないこの町を治める、『紅の一味』
それはこの町を隠れ蓑にしている裏世界の連中の名前。彼らにはこの町の誰だって逆らえない。
なぜなら――彼らが一番強いから。強いからこそ彼らが法であり、彼らがこの町そのもの。酒場も店も、すべてその一味から許可を得なければ商売すらできない
「ねえねえ、あんたたち。外は晴れてた?」
だから、霊夢は確認する。
この二人をその連中と合わせないように。
「どうだったかねぇ。お空、あんたたまに空飛んでたからわかるんじゃないかい?」
「んーとね、確か……
薄い雲がずっと続いていたよ。ほとんど晴れ間なんて見えないくらい」
そんな、お空の一言に。
ガタンっと店の中の誰かが反応する。その音に感化されたように、静かにしていたはずのお客たちが机の上に代金を置き我先にと酒場の入り口へと殺到していた。
まるで、何かから逃げようとするかのように。
「……あんたたちも、早く行きなさい」
「え、何々? 薄い雲が張ってたら砂嵐でも来るの?」
「いいえ、そんなものよりもっと厄介なのが――」
霊夢が空の問い掛けに答えようとしたとき。
逃げ出そうと入り口に集まっていた人間たちの口から短い悲鳴のような音が聞こえた。そして時間を巻き戻すように元いた自分の席に戻ったかと思うと、そのまま大人しくなる。
「……立ったり、叫んだり、座ったり。
忙しい人たちだねぇ、この地方の風習か何かかい?」
「いいえ、そんなおかしな伝統はないわ。
奴等が、やってきたのよ」
ザッザッザッ
霊夢が言葉を終えた直後、規則正しい足音と共に誰かがスウィングドアの前に立つ。
そこから覗く足の細さとスカートという服装からして、相手は女性。
単なる客人か何かだと思っている来訪者の二人は知らなかった。
その女性こそが――この町の恐怖そのものであることを。
バンッ!!
「邪魔するわよ!!」
その小さな女性は自分の威厳を示すように、半分壊れたドアを大きな音を立てて開ける。その姿は人間の女の子のように見えるけれど、違う。
蝙蝠のような羽、それが人間でない何かであるかを示していた。
その声に怯える人間たちの中を少女は歩みだそうとして――
ガンッ!!
「う~~~~~っ!?」
勢い良く開けた反動で戻って来たドアにより、顔面を強打。
その場でうずくまってしまった。
『お嬢様!』『お嬢様!』『何やってるのよレミィ……』
心配する部下たちに囲まれた少女。
どう反応していいのかわからない、微妙な空気がその場を覆う中――
「あははっ! 入り口で顔を打つなんて馬鹿ね!」
「……お空」
「……空ちゃん」
「うにゅ? 私変なこと言った?」
お空を生暖かい目で見守る二人が加わり。
妙な空気はより一層濃度を増したのだった。
◇ ◇ ◇
乾いた風が流れる、酒場の前の通り道。
馬が走っても十分安全な広さが取られているそこで、二人の人影が視線をぶつけ合っていた。
「……ふふふ、あなた結構名の知れたガンマンらしいじゃない?
お会いできて光栄だわ」
そのうちの一人。
紅の一味を束ねるレミリア・スカーレットはお気に入りの小型銃を手の中で遊ばせながら、自分に挑む憐れな子羊――いや、小鳥の姿を見据える。
その視線に映された可愛そうな小鳥は少し不安そうな視線を立会人の方へと向けていた。
当然だろう。
相手は、この町で無敗を誇るレミリア。
『運命の女神に愛される悪魔』
裏社会ではそんな通り名で恐れられているほどなのだから。
だから彼女の前に立つものは、勝負を取りやめてほしいと必ず訴える。
今回の相手も、不安な表情を浮かべたまま――燐へと顔を向けた。
「ねえ、何で私。あの扉に頭をぶつけるような子供と勝負しないといけないの?」
悪気はないけど、十分悪意と取られる言葉を無意識に吐く。
すると当然、そのことを気にしている彼女が黙っていられるはずがないわけで――
レミリアは牙を向き、翼を大きく羽ばたかせていた。
「だ、だれが子供か!! 小物風情が!」
「子供じゃないの、私よりすごい小さいし」
「あのね! 私これでも500歳なの! 子供って年じゃないの」
「あ~もう、またそんな嘘ついて……
あのね子供じゃないっていう子は大体子供だって決まってるの! ねえ、お燐?」
その場で同意を求められた燐はというと。
顔を片手で押さえて、尻尾を力なく地面に垂らしていた。
「あー、うん。
やっぱりいろいろ凄いよね、お空は……」
「ホント! ありがと、お燐」
「うん、誉めてないから……」
おもいっきり会話の意味を理解していない相方に向けて、燐はため息を付くことしかできない。
いや、もう一つあったか……
燐は酒場の入り口で心配そうに空を見守る霊夢の横へと静かに移動する。
そして少し背伸びして耳元に唇を持っていく。
「ねえねえ、お姉さん。なんなのさ、あの子は」
「彼女は、レミリア。この町を治めるギャングのボスよ」
「へぇ、あれが噂の。結構やるのかい?」
「ええ、とても恐ろしい相手よ……」
霊夢はそこまで言うと、自分の体を両腕で抱く。
その様子は恐怖を無理やり押さえつけているようにも見える。
「彼女は、レミリアは吸血鬼なの。
だから……だから……
晴れの日は、屋敷の中から出るどころか、窓にすら近づけないし……
雨の日は、流水が怖くて傘を差した状態でも外に出られない……
唯一昼間に外で行動できるのが曇りの日だけという、恐ろしい奴なのよ」
「うん、ごめん。
私の耳変なのかな、全然凄さが伝わってこない」
そんな燐の言葉に、霊夢は驚愕し目を見開く。
「そ、それならこれはどう?
あのレミリアという吸血鬼は、人間の血だけを吸うのよ!」
「うん、吸血鬼だからね」
「そ、それに!!
困ったらこうやって頭を抱えて! うー☆ とか言うのよ!!」
「おねえさんの仕草の方が別の意味で怖い」
「な、なんですって!?
これだけ聞いても、あのレミリアの恐ろしさがわからないって言うの!
さ、さすが腕利きのガンマンというわけね」
「いや、聞けば聞くほど……
近所にいる割と体の弱い子供くらいの印象しか受けないんだけど」
「な、なんてことを……」
燐が素直に感じたことを返しただけなのに、なんだか霊夢は妙にテンションを上げたまま、口元に手を当てわなわなと震え始めた。
「子供より根性のないヘタレミリアなんざ、ワシの小指一本でいてこましたらぁですって!?」
「にゃ、にゃんですとぅっ!?
いやいや、おかしいよね! おねえさん!
あたいそんな口調じゃないよね?
ホント、お願いだから少しだけ落ち着いておくれよ。
ほら、なんかあの子、凄いこっち見てるし!」
霊夢が大声で叫んだせいで、それがレミリアの耳にも届いてしまったのだろう。
なんだか物凄い形相、というかなんか泣きそうな顔で燐を睨んでいた。
それを確認してから、霊夢はなぜか棒読み口調で言葉を続ける。
「あら、大変! このままじゃ~、二人ともあのレミリアと戦ってしまうことになってしまうわ~!
なんて可愛そうなのかしら~」
「……うわ、それが狙いかい。
なんともイヤラシイおねえさんだよ、まったく……」
「そゆこと、だから頑張って倒してね♪ 私の店のために」
もしかしたら、いままでレミリアと勝負してきたガンマンたちはこの霊夢という酒場のマスターに騙されて戦わされたのではないか。
そんな怖い想像を頭の中で浮かべながら、諦めたようにポリポリと後ろ頭を掻く。そして棒立ちしている相方に向けて。自分のガンベルトに納めてあった銃を投げ渡した。
「ほら、お空。あんたの銃だよ。
一応安全装置は解除したから引き金引けば撃てるようになってる」
「やった! ありがとう!」
「うん、喜ぶのはいいけどあたいにその銃を向けないで、素直に怖いから」
空は右手に妙に大きな棒を取り付けたまま、左手で自分の銃を受け取る。その様子は今から決闘を始めようとする者の姿ではない。まるで何かゲームでも始めようとするような。
安全な遊びをするような態度だった。
その挑発じみた行動に、レミリアの我慢はもう限界に達しようとしていて――
「咲夜?」
「はい、なんでしょう。お嬢様」
後ろに控えていた使用人の一人が、静かに前に出る。
それを振り返って確認することなく、レミリアは衣服の中から金貨袋を取り出して後ろに放り投げた。
「棺桶を二つ、準備しておきなさい」
「しかし、あの翼は通常のサイズでは入らないような気がしますが」
「へし折って入れてやればすむ問題だろう? それくらいわからないのか?」
「……申し訳ありません、口が過ぎましたわ。
お嬢様のお言葉のままに準備させていただきます」
時折引きつったように怒りで震えるレミリアの羽。
それを名残惜しそうに見つめながら、咲夜はその場から立ち去っていく。
「美鈴この場は頼むわよ」
「はい、お任せを!」
びしっと額に手を当てて敬礼する美鈴と、その横で冷めた瞳をしたまま立ち尽くすパチュリーを残し、彼女はその空間から一瞬のうちに消える。
文字通り、その勝負を見守る全員の視界から。
「……どちらかというと、あの人間の方が怖い気がするんだけどねぇ」
「あら、意外と鋭いわね。確かに厄介よあの子は。
時間止めるし」
「……早撃ちで使われたら実もフタもない能力だね」
「ええ、だからレミリアもあの子に早撃ち勝負なんてさせないみたいよ。
一応プライドがあるらしいし」
咲夜の能力で盛り上がる空陣営の外野。
しかし、咲夜の能力よりも恐ろしいものを知っているパチュリーはただ、つまらなそうに周囲の映像を眺めていた。だってすべては決まりきったことだから。
あちらの陣営がどれほど策を練ろうが、工夫しようが。無駄なのだ。
知っているから、パチュリーは詰まらなそうに本を取り出し――
「終わったら、呼んで」
それだけ言い残して地面に腰を下ろす。
普通であればそれは、おふざけが過ぎる行動。
それでも美鈴は何も言わず、レミリアの背中だけをじっと見つめていた。
負けるはずのない、ボスの大きな背中を。
「さて、勝負の方法は何がいい?
このまま撃ち合う? それとも、合図が必要?」
「んー、そうだなぁ。
あ、そうそう、アレでいこう! もうちょっと前に出て、三歩離れてからバン! ってやるやつ」
「いいわよ、それがあなたの得意な戦い方なら乗ってあげるわ」
選択肢を与え、得意な勝負を選ばせ。
力づくで、相手をねじ伏せる。
それがレミリアのやり方。微笑を浮かべる悪魔のやり方。
「お空、私が勝負しなくてもいいように頑張るんだよ」
「ん? 何いってるのお燐、私が負けるわけないじゃない」
それを知らない哀れな犠牲者は、まるで子供のような笑顔でレミリアに向かって三歩近づきくるりっと背を向けた。そんな無防備な背中に銃弾を打ち込みたい、という怒りから来る欲望をなんとか押さえながら、レミリアも静かに三つ歩みを進めて、同じように背を向けた。
たった、数メートル程度しか開いていない距離で、背中を向け合う二人。
そんな二人の間に、乾いた風が通り過ぎ砂を巻き上げる。
砂が視界を覆い始める中、立会人から霊夢が合図を送る役として選ばれ、とうとうガンマンの命を懸けた決闘が始まる。己のプライドに命を掛け、指を一度引くことに神経をすり減らす。
「ワン!」
霊夢のその声で、ざわついていたギャラリーが静かになり、二人が一歩を足を進める。
「ツー!」
命を懸けた一瞬、それこそがガンマンの生きる場所。
コンマゼロ秒の世界で、ただ自分の感をだけを頼りに生きる極限の実力世界。
「スリー!」
――もらった!
その世界で、レミリアは勝利を確信した。
霊夢の声が空気を震わせた直後、ほぼタイムラグなしで振り返ることに成功したからだ。
それさえ成功すれば、彼女が負けることはない。
その後は、単なる単純な作業。
そのまま紅い瞳に捉えられた目標に向かって引き金を引く。
なんと簡単なことだろう。
その目標が――
レミリアの視界にいれば、の話だが――
「ど、どこだ!」
さっきまで気配を感じていたはずなのに、三歩目で一瞬のうちに消えたとでもいうのだろうか。
振り返ったレミリアの視界のどこにも、空の影がない。
あるのは空のものと思われる足跡の痕跡だけ。
ならば、考えられるのは。
――上か!
レミリアは慌てて天を仰ぐが、そこにも敵の姿がない。
相手の動きが、思考が、まったくわからない。
こんなことは、初めてだった。
レミリアの不意をここまで打ったというのに、一発の銃弾さえ飛んでこないのだから。
「えーっと、あのぉ、レミリアさん、だったかねぇ……」
彼女が神経を周囲に張り巡らせ空を探しているとき、急に相手側の立会人から声がかけられた。
レミリアは油断なく銃を構えたままそちらに視線だけを向けると、燐が申し訳なさそうに瞳を閉じたまま何故か霊夢の酒場の入り口を指しているのに気付く。
――いや、まさか。
いくらなんでもそんなことはないだろう。
こんな真剣勝負の最中に。
レミリア・スカーレットとの大勝負を前に。
まさか、そんなことは――
ガタン
「うゆ?」
――いたよ、おい。
「ああ、ごめんごめん。さっき三歩目出す前にさ、ホットミルク全部飲んでなかったの思い出して。
やっぱり、残しちゃダメだよね、さとり様もそんなこと言ってたしさ」
「……それで、私との勝負を途中で止めて、ミルクをとったと?」
「うん、そうそう。だって美味しいもん」
「そうか、はは、美味しいか……」
「うん、あなたも一つどう?」
「ふふ、ふふふふ……
このレミリアとの勝負より? ミルク?
はは、あはははははははははははははははっ!!」
笑っている。
大声で、心底楽しそうに笑っている。
お腹を抱えて、羽をピクピク震わせながら、涙を目じりに溜めて笑っている。
なのに――
「うわぁ……」
瞳が、真紅に染まっていた。
遊びの感情が消えうせた、ただ本気で相手を破壊する衝動に駆られた瞳。
そんな目をしたまま、レミリアは静かに霊夢の店を出て行き、元の自分が立っていた位置へ無言で戻る。何も語らず、動かず。
ただ、決戦だけを求める野獣となったまま。
「……へぇ、相手を怒らせ、冷静さを失わせるか。
やるじゃないあの子も」
「いや、おねえさん。お空あれで素なだけなんだけど……」
「あ、やっぱり?
レミリアって、ああいうおもいっきり興奮したときの方が怖い部類の妖怪なのよ。本当はあまり怒らせないまま、油断させた状態で倒すのが一番いいの」
「できればその状態になる前にその情報を聞きたかったねぇ」
そうやって自分で自分を追い込んだことなど知るはずもなく。
「たっだいま~! さあ、もっかい最初からやろうか!」
能天気な空は、左手の指を一本立てて楽しそうに笑ったのだった。
◇ ◇ ◇
――可愛そうな子。
――あそこまでレミィを怒らせなければ、まともな勝負ができたかもしれないのに。
「じゃあもう一回最初から数えるわよ、いい?」
もう一度背中を向けた状態から始める二人。
それでももう勝負は決まっている。
だって、彼女はもう、能力を発動しているのだから。
「ワン!」
その能力はきっと、それを知っているパチュリーにしかわからない。
彼女が『運命の女神に愛される悪魔』と呼ばれる所以。
「ツー!」
ただ、その言葉は少し違う。
本当の意味で正しくはない。
彼女は運命に愛されているわけではない。
「スリー!」
運命を操っているのだから。
3カウント目を聞いた空は、いつものように素早く振り返り。
左手一本で銃を構える。
その先には、なぜか振り向こうとも銃を構えようともしない。
無防備に、背中を向けて棒立ちの背中。
その中心に合わせて。
空は少し疑問を感じながらも、その引き金を引いた。
けれど――
「あれ?」
弾が出ない。
安全装置を確認しても、しっかり外されているし。
弾いた感触もあった。
それでも弾が出ない。
「あら? どうしたの?
もしかして不良品の弾でも入っていたのかしら?」
空が何度引き金を引いても、弾が出ない。
そうやって慌てる空に向けて、レミリアは残酷な笑みを浮かべながらゆっくり振り返り――
その場の全員に見せ付けるように、空の心臓へ銃の先を向ける。
「ウソ……
あたいがしっかり整備したのに……」
燐以外の言葉を失ったギャラリーたちからすれば――
まるでそれは魔法のよう。
もし、空の銃が万全な状態であるなら、すでに勝負は決まっていたはず。
カメのような遅さで振り向くレミリアに勝機など訪れなかったはずなのに、結果はコレだ。
だからきっとレミリアの名はまた知れ渡る。
『運命の女神に愛される悪魔』と。
何度引き金を引いても弾が出ない。
それはレミリアが運命を操ったから。
『その銃からは決して弾が出ない』と。
誰にも気付かれないまま、運命に刻み込んでしまっていた。
だからその銃はもう、二度と働くことはない。
そんな役に立たなくなった銃を諦めるように投げ捨てた空。
勝負を諦めたその哀れな小鳥に向かって、レミリアは冷静に残酷に。
その引き金を――
「しょうがない、こっち使うか!」
――え?
レミリアが引き金を引くその直前。
目の前の空が、右腕にくっつけていた棒を自然な構えでレミリアに向けてくる。
何か嫌な予感がしながらも、レミリアはそのまま弾丸を放ち――
空は、それからわずかに遅れて、『ソレ』を――
ぶっ放す!
「ぎーがーふーれーあああああああああああ!!」
ドンッ!
不恰好な棒。
単なる鈍器にしか見えなかった、その棒。
それの先端から、小さな家くらいなら軽々飲み込んでしまうほど巨大なエネルギーが生み出された。
その暴力的な力の反動で、踏ん張る両足は地面の上に二本の溝を作り出す。
空気抵抗を大きくするために大きく広げられた羽は、巨大な光弾に照り返され――
黒い羽は、まるで青白く輝く天使の羽のようにも見えた。
神々しくさえ映る、その神秘的な光。
だが――
そのエネルギーを向けられた方はたまったものではない。
まるで小石が太陽にケンカを売ったように、レミリアが先に撃ったはずの銃弾はあっという間に消し飛ばされた。だが、それでも足りないと言わんばかりに、光はまっすぐレミリアに向かって襲い掛かってくる。
「え、え? ちょっと、何これ―― 何なのよこれぇぇぇぇぇええええ!」
逃げ出そうとした小さな体を丸ごと飲み込み。
いくつかの家を消し飛ばして飛んでいくその光の弾。
それは空が見つめるその先で大きく膨らんだかと思うと――
ドゴォォォォン……
大地を震わせるほどの轟音を響かせ、その火柱を天高く燃え上がらせながら――
大爆発を起こしたのだった。
◇ ◇ ◇
「えーっと、うん、凄く言い難い事なんだけど、言っていい?」
「うん、いいよ。おねえさん。言ってくれていい」
「わかった。じゃあ、言うからね」
半壊多数、全壊5棟――
瓦礫の山だらけになった町の中心で、霊夢はどこか戸惑うように右手を掲げてから。
恐る恐る、そっちの方向へと右手を振り下ろした。
「一応、撃ったのが速かったから……
レミリアの勝ちぃ?」
何故その宣言が疑問系かと言えば……
「お、お嬢様! お嬢様! お気を、お気を確かに!!」
「美鈴、早く、屋敷に戻って血を持ってきて! 腕に抱えられるだけ全部!
レミィ、しっかりしてレミィ!」
空がぶちかました『ギガフレア』の爆心地でちょっぴり大変な状況になっていたから。
一応早撃ちという命を賭けた勝負で勝利したはずの、レミリアが――
逆に、命の境界をさまよっている状態なのだから。
「……フフフ、フフフフフフフ、あら、お爺様、そんなところにいらしたのね……
綺麗なお花畑……アハハハハ……」
ボロボロになった衣服を身に纏い、半笑いを浮かべたまま危険な台詞をつぶやく。
勝利者陣営とは到底思えない状況であった。
そんな状況を見守る、この爆破事件の張本人はと言うと。
「あれぇ? ちゃんと手加減したはずなんだけどな……」
なんだか怖い台詞をあっさり吐いていた。
が、急にその手が何者かに引っ張られ――
「うにゅ? どしたの、お燐」
振り返れば、唇に一本指を押し当て。
『静かにしろ』という合図を送ってくる相棒がいた。
「お空、もう何もしゃべらなくていいから、私を背負って飛んで。今すぐ」
「え、どうし――」
どうして?
と、言葉を続ける前に、空もその光景に気付いてしまった。
その二人の周囲にいろいろな服装の人間が迫ってきているのだ。
土木工事をするようなラフな服装だったり。
スーツを着込んでいたり。
可愛い制服を着ていたり。
どこかのギャングのような、強面さんだったり。
じりじりと包囲網の輪を詰める人間たちの共通点は、たった一つ。
今の空の一撃で――
家が、瓦礫と化したことだけ――
「……あははははははははっ
ごめんなさああああああああああああああああい!!」
『まてこらあああああああああああ』
そうやって、天高く飛び上がる空と、それを追いかけていく人間たち。
それを他人事のように見送りながら、やっと霊夢は理解したのだった。
空の通り名『滅びを呼ぶ風』の本当の意味を――
「って、感じの演劇にしたいんだけど? どうかな?」
「……お姉ちゃんは別にかまわないけど、こいし。紅魔館の人たちの活躍の場をもっと多く取り入れた方がいいような気がするわ。せっかくの地底と地上の交流なのだから」
地霊殿の大広間の中で、こいしが作り上げた一本の脚本がその場にいる全員に配られていた。
その本には西部劇 ~紅の町の決闘~ というタイトルが記されており、その内容の発表を行っていたというわけである。
「それに、新年のお祝いの席で披露するなら、もう少し家庭的で優しいものの方がいいと思うの」
「え~、そうかなぁ。結構斬新だと思ったんだけどなぁ」
ソファーに腰掛けていたこいしは、隣に座る姉の感想を聞いて不満げに足を揺らした。
「私も悪くないとおもうけれど。
そうね、やはりもう少し私の活躍の場が欲しいところね」
「レミィは目立ちたがりすぎるわよ、少しくらい我慢なさい。咲夜なんてほとんど出番ないのに文句ひとつ言わないじゃない」
「いえ、私は良いのですが、どちらかと言えばパチュリー様のほうが……」
「私はいいのよ、楽だし」
「はぁ……そ、それもどうかと思いますわ」
その対面のソファーには脚本の中の台詞を指差しながら考察するレミリア、パチュリー、咲夜の姿。何故地霊殿にこの三人がいるかといえば。
地上と地下の交流のため、新年の祝いを地霊殿で行う企画を行っていたから。
そのイベントの一つとして、演劇を披露しようということになったというわけである。
しかもその内容が、最近幻想入りしてきた外の世界の演劇の脚本。
『西部劇』を真似ようというもので――
「外の世界の弾幕勝負? おもしろそうじゃない」
こいし発案、レミリア快諾の元で一回目の打ち合わせが開催されているのである。
あくまでもまだ案の状態なので、地霊殿の代表者と紅魔館の代表の計五人だけで。
「ねえ、一ついいかしら?」
そんな中、脚本をじっと読んでいたパチュリーが何かに気付き――
さとりにそのページを見せた。
「ここの部分なんだけれど、空というあなたのペットが攻撃をする場面で。
~攻撃をする振り、もしくは手加減~
って動作の指示が書いてあるじゃない?」
「ええ、書いてありますね」
さとりもその文字を見つけ、こくりっと頷く。
それと同時にパチュリーの心も読んでしまい――少しだけ表情を曇らせた。
「ええ、私の心を読んで理解したと思うのだけれど……
空っていう地獄烏、手加減って意味知ってるのかしら?」
『…………』
なんだか重い沈黙がその場を支配する。
そんなとき――
「あれ? さとり様に、こいし様? 何をしているんです?」
大きな羽をばたつかせながら、ちょうど良く空が駆け寄ってくる。
だからおもいきって、さとりは尋ねてみることにした。
「ねえ、お空。手加減って言葉知ってる?」
「え、手加減ですか? わかりますよ~それくらい! ふふんっ」
すると、自慢気に胸を張って、鼻まで鳴らす。
いつのまにそんな言葉を覚えたのかわからないが、ペットが自分で勉強するのは良い事だと純粋にさとりは喜び。
「えっとですね、手加減の意味はデスネ。
圧倒的な『手』数で攻撃を『加』え、相手の命を削り『減』らすこと――」
「…………」
「――って、こいし様が教えてくれました♪」
ダッ!
「こら、待ちなさい! こいし! こいしーーーーーー!!」
地霊殿のいたずらっ子は、今日も元気である。
色々な場面でにやにやしました。
こいしが教えた手加減の意味とかオチも面白かったです。
面白かったです。
このノリでガチガチの中二展開とかも見てみたい。
タイトルで何か妙だと感じましたがこういうことだったとは!
お空いいよお空
いたずらっ子なこいしに萌えつきましたw
言葉にならないwww
そしていたずらっ子こいしたん素敵