「警鐘だ! 警鐘を早く!」
幻想郷、人間の里。
朝市で賑っていたそこは突如として戦場と化した。
けたたましく鳴り響く鐘の音の、隙間を縫うかのごとく一人のメイドが駆けていた。
彼女の行く先には人の群れがあった。
目的地の目前、彼女は跳んだ。
抜ける隙間もなかった人の壁の上、慣性の力によって彼女はそこを通過し、無事着地する。
粉塵がぼっと吹き上げ、一瞬彼女の姿が見えなくなる。
砂が引き、姿を現した彼女の前には八百屋と書かれた看板があった。
その時、彼女と八百屋の主人の目が合った。
「いらっしゃぁーせええええええええええ!!」
「大・根! くださいなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「へいらっしゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうもおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ありやっしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
金は、払わない。
(何故なら私はメイド長だから……っ!)
忍者刀のごとく、大根を背中に固定しなおも駆ける。
やがて彼女は第二の目的地へと辿り着く。
(チェックポイントは三つ……一気に抜けるっ!)
彼女は、さらに速度を上げた。
「はんぺんをもらおうかしら!」
「へい! 御代は!」
「ないわ! 斬るわよ!」
「お譲りします!」
次!
「こんにゃくをもらおうかしら!」
「今日こそは御代を!」
「ないわ! 刺すわよ!」
「お譲りします!」
ラスト!
「卵をもらおうかしら!」
「もう勘弁してください!」
「うっせえ! おぜう様の餌にすっぞ!」
「お譲りします!」
戦利品はマイお買い物袋へ、それが彼女のジャスティス。
(地球に優しく、人に厳しく……っ!)
大根を背に、買い物袋は腕に。
疾風迅雷の勢いで商店街を走る彼女は、不意に失速する。
突然感じたのは、悪寒。
凄まじい寒気のする空気が、彼女の肌をちくと刺した。
横を向くと、路地裏に"それ"は立っていた。
「おねーさん、おでん好きなのかー」
「何か用かしら……宵闇の妖怪」
「好きなのかー」
「…………」
戦慄が走る。
咲夜の額に汗が浮かんだ。
そう、彼女はいま、おでんの食材を集めている。
それは朝、レミリアの寝室での出来事であった。
─────────
遡ること、一時間。
咲夜はいつものごとく、モーニングティーをレミリアの寝室へと運んでいた。
吸血鬼が朝起きるというのも変な話であるが、そこは置いておこう。
とにかく、彼女は寝室に入った。
「おはようございます。 おぜー様」
「ん、おはよう」
「今日は気持ちのいい朝ですね」
「そうね、溶けそうなくらいにいい天気だわ」
「今から買い物にいく予定ですが、何か食べたいものはありますか」
「おでん」
その時、咲夜に電流走る。
「お……オデゥィン?」
「オデゥィンが食べたいわ、咲夜」
「か、かしこまり……ました」
激しく蠢く動悸を抑えつつも平静を装い、なんとか退室する。
(お、オディーンとは……)
幻の伝統料理、ODEN。
果たして自分にできるだろうか。
かつて文献で読んだことのあるこの料理、瀟洒かつ完璧なメイドとしてのプライドが疼いた。
必ず、ものにしてやると。うまいODENを作ってやると。
彼女の闘志に火がついた瞬間だった。
─────────
「これは、おぜー様に食べさせるためのおでんよ」
「そうなのかー」
路地裏の少女は、なおもニコニコと笑っている。
その笑顔とは裏腹に、咲夜は悪寒の発生源が少女であることに気がついた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
少なくとも彼女は時間を止めていないのだが、それは数分にも、数時間にも感じられた。
見詰め合ったまま、咲夜は動けずにいた。
(背中を見せたら殺られる……っ!)
そう思わせるだけの、オーラが少女にはあった。
(時間を止めたら殺られる)
(距離を取ったら殺られる)
(目をそらしたら殺られる)
いつ終わるかもわからぬ膠着状態。
やがて、先に口を開いたのは少女のほうだった。
「おねーさん……それじゃあ、足りないよ」
「何が?」
とは、言わない。
咲夜は問わずに、次の言葉を待った。
「それじゃあ……おでんとは言えないね」
風が、吹き抜けた。
「どういうことかしら?」
「簡単なことさー」
振り返り、少女は足元に隠してあったそれを取り出した。
(……鍋?)
それは、土鍋であった。
「悪いけど、土鍋くらい……」
「これだよ!」
「そ……それは」
パカっと、蓋を開けたそこには、半透明の液体が溜まっていた。
「お、おでんのだし……ですか」
「正確には、違うね」
正確には、と少女は言った。
「三日三晩煮込んで熟成させた、秘伝の昆布だしなのさー!」
「なっ!」
ここで咲夜、ようやく先ほどの言葉の真意に辿り着く。
おでんは、一日にして成らず。
おでんは前日、前々日と、手間をかけるほど、旨く、味も染みる。
今日、咲夜が作ろうとしていたおでんは即興だった。
その日に作り、その晩に食す。
これが果たして完璧なメイドが作るおでんであろうか。
否、断じて否なのだ!
完璧なメイドは、完璧な食材を持って完璧とす。
その日に作ったおでんなどは、主人に食べさせてはいけない。
「それを……譲ってくれませんか」
「ふふふー」
「私はっ! おぜー様に美味しいおでんを食べさせなくてはいけない!」
「そうなのかー」
「今から三日三晩おでんを煮る事は叶わない! ならばせめて、三日三晩煮込んだだしを使いたいのです!」
「そーなのかー」
「…………」
「…………」
「…………殺してでも うばいとる」
「よかろう、ならばおでんバトルだ」
─────────
「ルールはアリアリの牛すじすじでいかがですか!」
「いや、アリナシのすじ牛すじでいかせてもらおう!」
「っく、今回は私がアウェー……わかりました、そちらに従いましょう」
「では、いくぞ!」
だし昆布特別ルールに則り、先攻はルーミア。
「私のターン! ちくわぶをセットし、ターンエンドだ!」
ぺちっと地面にちくわぶを打ち付けたルーミア。
既にでろんでろんになっていたちくわぶは、砂の地面によく馴染んだ。
「私のターン!」
後攻、十六夜咲夜。
(あのちくわぶはまだ未知数……しかし、あえてカウンターちくわをするほどでもない……ならば!)
「こんにゃくを召喚! プレイヤーにダイレクトアタック!」
大きく振りかぶり、咲夜はルーミア目掛けてこんにゃくを投げつけた。
こんにゃくは見事ルーミアの頬に直撃し、ぶるるんと音を立てた後、落ちた。
「おお、いたいいたい」
水分の付いた頬を拭くこともせず、ルーミアは微笑を浮かべた。
「さて、私のターンだな…………私ははんぺんを召喚、手づかみ状態でターンエンドだ」
ルーミアの手に、純白のはんぺんが握られる。
咲夜はすかさず、追い討ちをかけた。
「私のターン! 野菜具・大根の効果によりはんぺんを地面に!」
背中にあった大根をブーメンランにみたて、ルーミアの腕を打ち抜く。
極太の大根は見事ルーミアの腕を打ちつけ、はんぺんを落とすことに成功する。
「さらに! 卵を召喚し、プレイヤーにダイレクトアタック!」
間髪入れず、咲夜は買い物袋から卵を取り出し、時速150kmで投げた。
ぱぁんと卵の殻が破裂する音が木霊し、ルーミアの顔面を濡らす。
白身のファンデーションがかかったルーミアの顔、その鼻先を黄身が流れ、やがて地面にへと糸を引いた。
「く……くく」
「どう? 生卵の味は!」
「くくくくくく」
「な、何を」
「はーっはっはっはぁ! 愚かなり十六夜咲夜! いや、自称おでんメイド」
「なっ」
「私のターン! 新たに地面にごぼ天を召喚!」
ペチっと、懐から取り出した汁の滴るごぼ天を地面に打ち付ける。
その衝撃でごぼうが飛び出すが、ルーミアは意にも介さない。
「これでちくわぶ、はんぺん、ごぼ天の練り物三種が揃った、これにより、私はこれを使わせてもらう」
「そ、それは!」
「練り物の誓い!」
「ぁ……ぁぁ」
「練り物にされた魚の怨念が、場を包み込む! これにより貴様のこんにゃく、大根、卵は全て無効!」
「さらに! それらと私の食材を全て合わせ、貴様の口にダイレクトアタック!」
「いやぁぁぁぁぁぁ」
地面に落ちて砂利のついたちくわぶ、はんぺん、ごぼ天、こんにゃく、卵、大根。
これら全て、咲夜が食さねばならない。
到底不可能…………"負け"だ。
「私の勝ちだな!」
「なんて……こと」
がくっと膝を折り、うなだれる咲夜。
腕を組み、見下すルーミアの顔は勝ち誇った者特有のいやらしい笑みで溢れていた。
その時である。
「ちょっとまったぁぁぁぁ!」
どこからとおもなく、声がした。
声の方向に二人が顔を向けると、既にそれは二人の背後に回っていた。
「この勝負、ルーミアの負けである!」
「なっ」
驚いたのは、二人である。
勝負が決まった直後に現れた謎の人物、そして言い渡される謎の発言。
「あ、あなたは」
この時、ルーミアのみが気づく。
「おでんバトラー執行委員会名誉会長、四季映姫!」
「……いかにも」
「な、なぜです!」
気に入らないのは、ルーミアである。
突然現れた珍客に、勝利の栄光から一転、敗北の屈辱へと落とされかけている。
「なに、簡単なことだ」
「ちくわぶは、練り物ではない!!」
「なっ」
「いいか!」
ちくわぶとは、と映姫は言う。
「小麦粉・水・塩を合わせて練ったものを棒などに巻きつけて加熱し、竹輪の形に似せて製した食品。
関東などでおでん種として用いる。(広辞苑) である!」
「そ、そうなの……か。 私は、ちくわというくらいだからてっきり」
「全国のおでん事情も知らずに、上辺だけの知識でおでん博士を気取っていたツケがきたようだな! ルーミア」
「う……うわぁぁぁぁぁ」
闇に身を包み、一目散にルーミアは飛び立っていった。
朝なので、とても目立っていた。
咲夜はそれを眺めながら、昆布みたいだなと思った。
「っは、昆布!」
そうだ、秘伝の昆布だし。
急いで振り返ると、優しい微笑を浮かべた映姫が土鍋を掴んでいた。
「はい、どうぞ」
「ぁ……」
満面の笑みを浮かべた映姫から、土鍋を受け取る。
「よいおでんでした、これからもよきODENerとして頑張ってくださいね」
「!? …………はい!」
頭を深く下げ、顔をあげると映姫は既に去っていた。
「さて……」
風が、心地よい。
昆布だしを片手に、咲夜は新たに食材を強奪し直して帰路に付いたのだった。
─────────
「完璧だわ! これぞオデゥィン!」
あれから、帰ってすぐに調理へと取り掛かった。
延べの煮込み時間約5時間。
三日三晩煮込んだものとは比ぶべくもないものの、味はまさしく一流であった。
(それとて、少し多めに作って、後で熟成させれば真の味になるはず)
時計を見ると、既に三時になっていた。
間食を乗せたトレイを持ち、意気揚々とレミリアの寝室へと訪れた。
「おぜー様ぁ、ご機嫌麗しゅうー!」
「ねぇ咲夜」
「はい!」
「やっぱ今日湯豆腐がいいわ」
幻想郷、人間の里。
朝市で賑っていたそこは突如として戦場と化した。
けたたましく鳴り響く鐘の音の、隙間を縫うかのごとく一人のメイドが駆けていた。
彼女の行く先には人の群れがあった。
目的地の目前、彼女は跳んだ。
抜ける隙間もなかった人の壁の上、慣性の力によって彼女はそこを通過し、無事着地する。
粉塵がぼっと吹き上げ、一瞬彼女の姿が見えなくなる。
砂が引き、姿を現した彼女の前には八百屋と書かれた看板があった。
その時、彼女と八百屋の主人の目が合った。
「いらっしゃぁーせええええええええええ!!」
「大・根! くださいなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「へいらっしゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「どうもおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ありやっしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
金は、払わない。
(何故なら私はメイド長だから……っ!)
忍者刀のごとく、大根を背中に固定しなおも駆ける。
やがて彼女は第二の目的地へと辿り着く。
(チェックポイントは三つ……一気に抜けるっ!)
彼女は、さらに速度を上げた。
「はんぺんをもらおうかしら!」
「へい! 御代は!」
「ないわ! 斬るわよ!」
「お譲りします!」
次!
「こんにゃくをもらおうかしら!」
「今日こそは御代を!」
「ないわ! 刺すわよ!」
「お譲りします!」
ラスト!
「卵をもらおうかしら!」
「もう勘弁してください!」
「うっせえ! おぜう様の餌にすっぞ!」
「お譲りします!」
戦利品はマイお買い物袋へ、それが彼女のジャスティス。
(地球に優しく、人に厳しく……っ!)
大根を背に、買い物袋は腕に。
疾風迅雷の勢いで商店街を走る彼女は、不意に失速する。
突然感じたのは、悪寒。
凄まじい寒気のする空気が、彼女の肌をちくと刺した。
横を向くと、路地裏に"それ"は立っていた。
「おねーさん、おでん好きなのかー」
「何か用かしら……宵闇の妖怪」
「好きなのかー」
「…………」
戦慄が走る。
咲夜の額に汗が浮かんだ。
そう、彼女はいま、おでんの食材を集めている。
それは朝、レミリアの寝室での出来事であった。
─────────
遡ること、一時間。
咲夜はいつものごとく、モーニングティーをレミリアの寝室へと運んでいた。
吸血鬼が朝起きるというのも変な話であるが、そこは置いておこう。
とにかく、彼女は寝室に入った。
「おはようございます。 おぜー様」
「ん、おはよう」
「今日は気持ちのいい朝ですね」
「そうね、溶けそうなくらいにいい天気だわ」
「今から買い物にいく予定ですが、何か食べたいものはありますか」
「おでん」
その時、咲夜に電流走る。
「お……オデゥィン?」
「オデゥィンが食べたいわ、咲夜」
「か、かしこまり……ました」
激しく蠢く動悸を抑えつつも平静を装い、なんとか退室する。
(お、オディーンとは……)
幻の伝統料理、ODEN。
果たして自分にできるだろうか。
かつて文献で読んだことのあるこの料理、瀟洒かつ完璧なメイドとしてのプライドが疼いた。
必ず、ものにしてやると。うまいODENを作ってやると。
彼女の闘志に火がついた瞬間だった。
─────────
「これは、おぜー様に食べさせるためのおでんよ」
「そうなのかー」
路地裏の少女は、なおもニコニコと笑っている。
その笑顔とは裏腹に、咲夜は悪寒の発生源が少女であることに気がついた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
少なくとも彼女は時間を止めていないのだが、それは数分にも、数時間にも感じられた。
見詰め合ったまま、咲夜は動けずにいた。
(背中を見せたら殺られる……っ!)
そう思わせるだけの、オーラが少女にはあった。
(時間を止めたら殺られる)
(距離を取ったら殺られる)
(目をそらしたら殺られる)
いつ終わるかもわからぬ膠着状態。
やがて、先に口を開いたのは少女のほうだった。
「おねーさん……それじゃあ、足りないよ」
「何が?」
とは、言わない。
咲夜は問わずに、次の言葉を待った。
「それじゃあ……おでんとは言えないね」
風が、吹き抜けた。
「どういうことかしら?」
「簡単なことさー」
振り返り、少女は足元に隠してあったそれを取り出した。
(……鍋?)
それは、土鍋であった。
「悪いけど、土鍋くらい……」
「これだよ!」
「そ……それは」
パカっと、蓋を開けたそこには、半透明の液体が溜まっていた。
「お、おでんのだし……ですか」
「正確には、違うね」
正確には、と少女は言った。
「三日三晩煮込んで熟成させた、秘伝の昆布だしなのさー!」
「なっ!」
ここで咲夜、ようやく先ほどの言葉の真意に辿り着く。
おでんは、一日にして成らず。
おでんは前日、前々日と、手間をかけるほど、旨く、味も染みる。
今日、咲夜が作ろうとしていたおでんは即興だった。
その日に作り、その晩に食す。
これが果たして完璧なメイドが作るおでんであろうか。
否、断じて否なのだ!
完璧なメイドは、完璧な食材を持って完璧とす。
その日に作ったおでんなどは、主人に食べさせてはいけない。
「それを……譲ってくれませんか」
「ふふふー」
「私はっ! おぜー様に美味しいおでんを食べさせなくてはいけない!」
「そうなのかー」
「今から三日三晩おでんを煮る事は叶わない! ならばせめて、三日三晩煮込んだだしを使いたいのです!」
「そーなのかー」
「…………」
「…………」
「…………殺してでも うばいとる」
「よかろう、ならばおでんバトルだ」
─────────
「ルールはアリアリの牛すじすじでいかがですか!」
「いや、アリナシのすじ牛すじでいかせてもらおう!」
「っく、今回は私がアウェー……わかりました、そちらに従いましょう」
「では、いくぞ!」
だし昆布特別ルールに則り、先攻はルーミア。
「私のターン! ちくわぶをセットし、ターンエンドだ!」
ぺちっと地面にちくわぶを打ち付けたルーミア。
既にでろんでろんになっていたちくわぶは、砂の地面によく馴染んだ。
「私のターン!」
後攻、十六夜咲夜。
(あのちくわぶはまだ未知数……しかし、あえてカウンターちくわをするほどでもない……ならば!)
「こんにゃくを召喚! プレイヤーにダイレクトアタック!」
大きく振りかぶり、咲夜はルーミア目掛けてこんにゃくを投げつけた。
こんにゃくは見事ルーミアの頬に直撃し、ぶるるんと音を立てた後、落ちた。
「おお、いたいいたい」
水分の付いた頬を拭くこともせず、ルーミアは微笑を浮かべた。
「さて、私のターンだな…………私ははんぺんを召喚、手づかみ状態でターンエンドだ」
ルーミアの手に、純白のはんぺんが握られる。
咲夜はすかさず、追い討ちをかけた。
「私のターン! 野菜具・大根の効果によりはんぺんを地面に!」
背中にあった大根をブーメンランにみたて、ルーミアの腕を打ち抜く。
極太の大根は見事ルーミアの腕を打ちつけ、はんぺんを落とすことに成功する。
「さらに! 卵を召喚し、プレイヤーにダイレクトアタック!」
間髪入れず、咲夜は買い物袋から卵を取り出し、時速150kmで投げた。
ぱぁんと卵の殻が破裂する音が木霊し、ルーミアの顔面を濡らす。
白身のファンデーションがかかったルーミアの顔、その鼻先を黄身が流れ、やがて地面にへと糸を引いた。
「く……くく」
「どう? 生卵の味は!」
「くくくくくく」
「な、何を」
「はーっはっはっはぁ! 愚かなり十六夜咲夜! いや、自称おでんメイド」
「なっ」
「私のターン! 新たに地面にごぼ天を召喚!」
ペチっと、懐から取り出した汁の滴るごぼ天を地面に打ち付ける。
その衝撃でごぼうが飛び出すが、ルーミアは意にも介さない。
「これでちくわぶ、はんぺん、ごぼ天の練り物三種が揃った、これにより、私はこれを使わせてもらう」
「そ、それは!」
「練り物の誓い!」
「ぁ……ぁぁ」
「練り物にされた魚の怨念が、場を包み込む! これにより貴様のこんにゃく、大根、卵は全て無効!」
「さらに! それらと私の食材を全て合わせ、貴様の口にダイレクトアタック!」
「いやぁぁぁぁぁぁ」
地面に落ちて砂利のついたちくわぶ、はんぺん、ごぼ天、こんにゃく、卵、大根。
これら全て、咲夜が食さねばならない。
到底不可能…………"負け"だ。
「私の勝ちだな!」
「なんて……こと」
がくっと膝を折り、うなだれる咲夜。
腕を組み、見下すルーミアの顔は勝ち誇った者特有のいやらしい笑みで溢れていた。
その時である。
「ちょっとまったぁぁぁぁ!」
どこからとおもなく、声がした。
声の方向に二人が顔を向けると、既にそれは二人の背後に回っていた。
「この勝負、ルーミアの負けである!」
「なっ」
驚いたのは、二人である。
勝負が決まった直後に現れた謎の人物、そして言い渡される謎の発言。
「あ、あなたは」
この時、ルーミアのみが気づく。
「おでんバトラー執行委員会名誉会長、四季映姫!」
「……いかにも」
「な、なぜです!」
気に入らないのは、ルーミアである。
突然現れた珍客に、勝利の栄光から一転、敗北の屈辱へと落とされかけている。
「なに、簡単なことだ」
「ちくわぶは、練り物ではない!!」
「なっ」
「いいか!」
ちくわぶとは、と映姫は言う。
「小麦粉・水・塩を合わせて練ったものを棒などに巻きつけて加熱し、竹輪の形に似せて製した食品。
関東などでおでん種として用いる。(広辞苑) である!」
「そ、そうなの……か。 私は、ちくわというくらいだからてっきり」
「全国のおでん事情も知らずに、上辺だけの知識でおでん博士を気取っていたツケがきたようだな! ルーミア」
「う……うわぁぁぁぁぁ」
闇に身を包み、一目散にルーミアは飛び立っていった。
朝なので、とても目立っていた。
咲夜はそれを眺めながら、昆布みたいだなと思った。
「っは、昆布!」
そうだ、秘伝の昆布だし。
急いで振り返ると、優しい微笑を浮かべた映姫が土鍋を掴んでいた。
「はい、どうぞ」
「ぁ……」
満面の笑みを浮かべた映姫から、土鍋を受け取る。
「よいおでんでした、これからもよきODENerとして頑張ってくださいね」
「!? …………はい!」
頭を深く下げ、顔をあげると映姫は既に去っていた。
「さて……」
風が、心地よい。
昆布だしを片手に、咲夜は新たに食材を強奪し直して帰路に付いたのだった。
─────────
「完璧だわ! これぞオデゥィン!」
あれから、帰ってすぐに調理へと取り掛かった。
延べの煮込み時間約5時間。
三日三晩煮込んだものとは比ぶべくもないものの、味はまさしく一流であった。
(それとて、少し多めに作って、後で熟成させれば真の味になるはず)
時計を見ると、既に三時になっていた。
間食を乗せたトレイを持ち、意気揚々とレミリアの寝室へと訪れた。
「おぜー様ぁ、ご機嫌麗しゅうー!」
「ねぇ咲夜」
「はい!」
「やっぱ今日湯豆腐がいいわ」
面白い。でも意味不明www
俺も咲夜にはんぺん投げつけたり、投げつけられたりしたいです
もうだめだww
しかし、それもまたエンターテイメント。
あと昆布煮過ぎwww
咲夜さんはメイド長ではなく窃盗団ですね、わかります。
>ちくわって練り物じゃなかったの!?
ちくわ自体は練り物 ただちくわぶは小麦粉からできてる別物なんだよね
もう何でもありだなこの人たちw
咲夜さんはODENerとしては合格かもしれんが、人としては失格という
>よいおでんでした
よくねえっすよ、そこの閻魔!?
ところで、オーディン(Oden)はグングニルを持っていますが 関係ないの、か、なぁ?
声出してワロタwwww
それにしてもテンポもいいし吹いたwwwツッコミが追いつかないwww
それにしても卵を150km/hで投げる咲夜さんマジパネェっす。
とりあえず食べ物は大事にしろw
ちょっと近所のロー○ン逝ってくる
勢いだけで走りきったあなたに完敗。
何が面白いって?よく分からんけど、終始笑いながら読んだからw
全くわからん!
とにかくすごいエネルギーは伝わってきた!
ODENすごい!
ルーミアのほっぺをこんにゃくでぺちぺちしたいです。
>
>(何故なら私はメイド長だから……っ!)
何の理由にもなってねえwww
ここで一気に引きこまれました
もう、え、あれ、うん、面白かったですw
凄まじいまでの勢いから一転して静。そして動。
ちくわぶをぺちっいうシュールな絵を想像するだけでもう笑いが止まらないww
これ誰か映像化してくれないかな。