最近、紫様が熱心に書をしたためられるようになった。
熱心とは言っても、正しくはここ最近、僅かに書をしたためる時間が増えただけなのだが。
食事の前に呼べば、いつも通りすぐにやって来るし、文の内容を考えるあまり上の空になることも無い。
しかし机の前に座り、肘を付き筆を取る時の紫様の表情は真剣だった。
文の内容は、どんな物だろうか。中々目にしたことのない主人の姿を前にすると、聞ける筈が無い。
そんな日々が続いていると、だんだんと私は訳の分からない、もやもやした気持ちを抱えるようになっていた。
原因は分かっている。興味が転じて、我慢に変わったのだ。
他人から見れば、文の内容で悩むなど稚拙なことだろう。
その通りだ。主人の文などに、興味を持つべきではない。
しかし皮肉にも、気持ちを抱え続ける程に、心の中で稚拙な悩みは膨張して行き、ついに私は高ぶる好奇心を、自分の中へと抑え込むこととなった。
そんな中、機会は突発的に訪れた。
「出来た」
ある晩のこと。私は行燈に明かりを灯す為に、紫様の自室を訪れていた。
私の隣で、紫様が声を上げて明かりを灯すと振り向いた。
「おや、書きあげられたんですね」
「えぇ。もう、指先が痛いわぁ」
ふにゃふにゃと、紫様は机の上に身を持たせて脱力した。そんな主人の姿に、私は少しだけ癒しを覚える。
つい頬が緩んだ。
「何を書かれていたんですか? 」
書き終えた今ならば教えてくれるかも知れない。書き終えた後で見せようとしていたのであれば。
「知りたぃ? 」
今度は机に頬を押し付けて、紫様は私を見上げる。机の上に紙が広がって、行燈の橙色の光を受けてそれは絹のように艶やかに光る。
思わず、息を飲みそうだ。
「はい、すごく。紫様が構わなければ、是非ともお聞きしたいですね」
「だーめ」
そう言って、紫様が机の脇に折り畳まれた手紙を摘み上げる。
薄い半紙は、ひらひらと降りて、僅かに吹き込む風だけで揺らされる。
目線を逸らさないと、今にも見てしまいそうだった。
「だと思いましたよ」
やっぱり、ダメか……。もう、諦めるべきなのかも知れないな。このままでは往生際が悪いみたいだ。
「……なんてね。読む? 」
遅れて紫様がクスクスと笑う。
摘み上げられていた文が、私の前に差し出された。紫様は私の前に身を乗り出している。どうやら、私はからかわれていたのだと、気付かされた。
「えぇ。何を書かれてたんですか? 」
「恋文よ」
私は、文を手に取ろうとして、止めた。
「恋文、ですか……? 」
誰に?
何故?
紫様が?どうして?
「えぇ、恋文。読んでみたくない? 私の恋心」
「あ、いや……その」
私は伸ばしていた手を引っ込めた。
何故か? 怖かったのだろうか、紫様の文と、そこに書かれた恋心を見ることが。
いや違う。
私は嫌なのだ。紫様の愛が、自分以外の者に向いてしまうことが。だから目を背けた。
破きたい、なんて思った。
紫様の心を、永劫自分に向けさせていたい。紫様の恋心など、認めない。
その時、私の中のもやもやした気持ちは、晴れるどころがおぞましいまでの、貪欲な独占欲に変わった。
紫様を、滅茶苦茶に心まで犯し尽せば、恋心を掻き消すことは出来るのだろうか。
「誰に、書いたんですか? 」
腕が、文では無い、紫様の腕に向かうのではと思った。それほどまでに、独占欲は強かったのだ。
「……藍、貴女怖いわ」
紫様の言葉で我に返った。そして気が付いた。紫様を見つめる私の目が、細まっていたことに。
「す、すいません! 」
私は慌てて頭を下げた。
紫様に、きっと私の内心を読まれただろう。態度に表れていたんだから。
「……私は、この恋文は誰に対して書いた物では無いわ。中身が無いのよ、ただの落書き」
紫様はそう言って摘まんでいた恋文をくしゃくしゃと丸めて、投げ捨てる。
「紫様……?!」
「そんなもので、貴女の心を掻き乱してしまうなら、こんなもの必要無いわよ」
「……申し訳ありません」
私はやる瀬なさに肩を落とした。
「いいのよ。それにね、藍」
「……はい」
「私は、貴女を大好きよ?」
「え………」
好き?紫様が、私を?
「えぇぇぇぇぇ?!////////」
カバッ!
「あれ?」
部屋が明るい。
そして、何故私は布団に寝てるのだ?
「…あぁ、寝オチか」
完
これを夢オチにするのは勿体ないですよ!?
あと本文中に“(笑)”とか“顔文字”とか“///”を使うと、作品の質が下がってしまいます。
もし使うなら、それなりに工夫しなければなりません。
俺も書き手としては駆け出しの新人で、あまり偉そうなことを言える立場ではないんですが、お互い頑張っていきましょう。
ただ、それだけに惜しい。あっさりと引きすぎた感が否めません。
紫の恋文を、一部だけでも読んでみたかった。そして、それを読んだ藍の、もっとどろどろとした心を描くと面白かったのではないのかなぁと思います。
個人的には好きなんですけど、これギャグかなぁ?
しかしオチ以外は良かった
特に意外性を突かれた訳でもなく、何か胸にモヤモヤしたものが残っただけでした
前半のシリアスな八雲一家のお話を続けて書いていたら80点以上でしたが今回はこれで…
次回作に期待しています
これからも頑張ってください。
あぁ、そう言えばそこの修正をし忘れていました……
ご指摘、感謝の極みであります。
はい!頑張って行きましょう!!
>>7
可ですか!
分かりました!!
>>9
はい。突発的に書き上げたまま、勢いで突き進んだ為に、中身が無いように見えてしまうのは、当然のことですから。
申し訳ありません。
>>10
なるほど……
次は、さらに工夫を凝らした話を書き上げます!!
読んで頂き、ありがとうございました!
>>13
オチがネックでしたか……
高得点、感謝の極みです。
>>15
誠に申し訳ありません……
次こそは、読後感のあるものを書き上げます!
>>17
元々、この落ちで終わらせようと考えていましたので。
執筆に当り、不思議なほど迷いはありませんでした。
>>19
ありがとうございます!
次回作こそ、頑張ります!!
ありがとうございました。
夢オチだとしても、最後にはっきりと夢オチと書かず
本当に夢だったのか、はたまた本当に紫に眠らさせられたのか。
といったような、少しうやむやにして読者に考えさせる表現でもよかったかと思います