オリキャラ視点で進みますので、苦手な方はご注意ください。
気にしないと言う方は、この先二百由旬↓
夜雀の歌声~ border of salvation
ただただひた走る。その行為に意味はない。しかし走らざるを得ない。そんな状況。暗く深い森。木々の合間からさす月光だけが唯一の光源。
「一体ここは何処なんだ!誰か!」
俺の叫びは虚しく暗闇の中で響くだけだった。さっきまでいた女は何処いった?なんで森の中なんだ?疑問はつきない。答えもない。
「はあ…はあ…」
息が切れる。
どれぐらい走っただろうか?学生の時鍛えた体力は酒と煙草のおかげであっという間になくなってしまった。足元がおぼつかない。足元を覆う草や羊歯に足を取られ思うように走れない。全く意味が分からない。なぜ俺はこんな森の中を走っている?
「ぜえ…ちくしょうどうなってるんだ!」
怒鳴ったところで意味はなかった。辺りからは一切音はなく、ただ、木々のざわめきと梟のホーホーという鳴き声のみ。俺はズボンのポケットから携帯を取り出した。何度見ても圏外のまま。
「ここはなんなんだよ!」
まったく見知らぬ夜の森。
見知らぬ森?
「そうだ…GPSだ…」
最近の携帯は優秀だ。GPSで自分の位置なんてすぐわか…
画面に、計測不可の文字。
「なんだよなんでだよGPSってのは何処でもわかるもんじゃねえのかよ!」
携帯を地面に投げた。
一瞬の後悔。しかし怒りの衝動のほうが強かった。携帯が地面にぶつかり、無機質な音が響いた。やはり最近の携帯は優秀だ。俺が投げたところで壊れもしなかった。それが余計俺を苛立たせた。足をあげ、携帯を力の限り踏みつけた。
バキッ。
小さな音だったが、確かに何かが壊れる音だった。
「…くそ…何してんだ俺…」
怒鳴って走って、喉がカラカラだった。木の幹に背をあずけ、座り込む。もう立っている気力すらなかった。上からしつこくホーホーと梟が鳴いている。
「気持ち悪いんだよ!どっかいけ!」
踏まれて二つに割れた携帯を真上に投げつけた。バサバサっと翼の音。やがて沈黙の帳だけが辺りを支配していた。
「鳥ごときが…」
なんでだ。なんでこうなった…
そうだ。なんでこんなに俺は必死になっているんだ…
ははは馬鹿らしい。
「死のうとしてたのにな。なんでこんなに必死なんだ俺…ははは…はははははは!」
笑いがこみ上げてきた。
俺はポケットからマルボロとライターを取り出すと、クシャクシャになったタバコに火をつけた。ライターの明かりで一瞬辺りが照らされた。どうにも見た事がない植物が多い。もちろん植物に詳しい訳じゃないが、何か懐かしい感じすらしてきた。
タバコのおかげか、少し落ち着いてきた。そして思い出す。
よくある話だ。自分の人生に絶望したんだ。他人からすれば、おいおいそんな理由でかよって思われるかもしれないが。俺とっちゃ文字通り死活問題だった。
今世はここまで、来世にご期待くださいなっと。
なのに。
「あの女だ…あいつが悪いんだ…あいつのせいだ!」
…
そう。死ぬと決意するのは簡単だけど、いざするとなるとなかなか決心つかないものだ。なんどか未遂を繰り返し、そう四度目だ。
今回が四度目のはずだった…
四、死。
自殺するにはいい数字だ。
俺はとある橋の上から下をボーっと見ていた。下には高速道路が通っており、車が何台も何台も通りすぎた。
「はっ、悩みなさそうにスピード出しやがって」
ここから飛び降りればまあ死ぬだろう確実に。
後、俺に必要なのはここから飛び降りる勇気。
まあなんだ。
とりあえず一服してからにしようか。
そう考え、タバコを取り出そうとした時。
「本当に愚かしいわね。自ら棺桶に入ってあまつさえあんな速度を出すなんて。あなたもそう思わない?」
後ろから声。
「な、だ、誰だよあんた!」
こんな辺鄙なところに人はいないはず。大体さっきまで人っ子一人いなかったのに。後ろに、女が立っていた。夜なのに日傘を差して、派手で怪しげな服を着ていた。見た目は怖い程の美人だったが、どこかぼやけているように見えた。
「私達は愚かな人間に絶望した。力に溺れ技術に頼り、自分のことまで他人に委ねてしまった。だから逃げたのよ。だから隔絶したのよ。おかげで快適だわ。最近は色々と問題はあるけど、こちらに比べれば些細な事」
女はこちらの話をまったく聞かずに喋っていた。しかもわけがわからない。俺は何人かこういうやつを見たことある。
宗教にはまったやつか。
クスリをやりすぎたやつだ。
狂ってるって点では一緒だ。
「おい、俺は忙しいんだ!消えろ!」
「死んだところで存在は消えない。魂は消えない」
「な…何いってんだ!おい!いい加減にしな…」
「貴方を救いにきたのよ」
まるで時が止まったように俺は錯覚した。
通り過ぎる車の音も消えた。
世界が灰色になった。
沈黙が痛い。
「た…助けなんていらねえよふざけんなよ!」
声を発した瞬間、世界は戻った。
なんだったんだ?今のは…
「自殺はよくないわ。もったいない」
「誰だよお前…なんで自殺するってわかったんだよ…」
「貴方は本当に可愛いぐらい愚かね。こんな所で自殺以外することあるかしら?」
「ち、警察に通報したのか?くそ…まだ決心はついてないんだよ!」
「クスクス…警察なんて呼んでないわ。言ったでしょ?私は貴方を救いに来た」
薄気味悪い笑いを浮かべたまま女が手を俺の方に差し伸べた。
なぜだか知らないが、俺には確かにその手は救いに見えた。
…
俺は。
俺は!
救いなんてのは求めていないのに。その後、気付いたらこの森にいた。ただ、恐怖と混乱に陥り、闇雲に走った。だがもう疲れた。もうこのまま死のう。
そんな時。
またホーホーと梟の鳴き声が聴こえる。
「はっ…なんだ俺が死ぬのを待ってるってか?」
そう思うとなんだかやりきれなかった。鳥ごときの餌になるために生きてきたんじゃない。せめて人間らしく、死にたい。
そう決心し、俺は再び立ち歩き始める。後ろからずっと梟がついてくる。しかも段々その数が増えているような気がしてきた。五月蝿い羽音に鳴き声。まるで俺を追い立てるように。自然と早歩きとなり、いつのまにか俺は走っていた。
「くそどんだけいやがるんだ!」
俺は後ろを振り向く。そばに落ちていた枝を拾い、投げた。
「くんじゃねえよ!人間様をなめるなボケ!」
またばさばさと翼の音。
一瞬で森が静かになった。
「はあ…はあ…ざまあみやがれ!」
叫び。体力を無駄に使っただけだった。ただ惰性のまま歩く。方向も何もわからない。しかし、そのうちかすかにだが歌のような何かが聞こえてきた。
「うん…?う、た?歌か?人か!」
俺は一目散にその方向へ走った。もしかしたら人に会えるかもしれない!誰かに会える。それはこの森でやっと現れた救いへの指針に思えた。いやそうに違いない。走るにつれ段々と歌声がはっきりと聞こえるようになった。それは走っている自分の鼓動に合わせるように、早く、強くなっていった。
「人だ!きっと人がいる!助かった!」
不思議な歌だった。魅力的な歌だった。今まで聞いたどの歌より扇情的で魅惑的だった。足がもつれそうになりながらも必死で走った。息が切れるだとかそういう事はどうでも良かった。
とにかく前へ。歌の方へ。救いの方へ。
もう少し。もう少しで!
その瞬間。目の前が真っ暗になった。
「 な・・・…ぎゃっ!」
走ってる最中にいきなり目の前が見えなくなったせいで、思いっきりこけてしまった。何度も地面を無様に転がった。土と草と血の混じった味が口に広がる。
気付くとすぐそこで聞こえていた歌がピタリと止んだ。相変わらず真っ暗だった。それでもそこに誰かいるのは気配で分かった。
「た、助けてくれ森で遭難したんだ!」
声がしゃがれている。俺は必死に立とうとするが暗闇のせいでバランスを保てず、尻餅をついてしまった。
「手、てを貸してくれ、前が見えないんだ!なんでだよさっきまでみえ…ひぃ!」
その気配が近づいたと思うと、何か鋭い物を喉に突き立てられた。
「な、何するんだ!」
「手を貸す?それは無理ね」
先ほどの歌声と同じ声。それが少女の声だと気付いた。しかし、そこに幼さだとか慈悲だとか優しさだとかそういうものは一切含まれてなかった。なんだどういう事だ一体何が起きている?震えが止まらない。そのたんびに鋭い何かがちくちくと首を刺す。それにもう一つ、何かの気配がする暗闇の中の声が、二つ。
「見た感じ外来人みたいね」
「そうなのかー初めて見た。変な服」
「私の歌で捕まえたんだから私が貰うからね?」
「半分こしようよ仲良く」
「あんたと仲良くなった覚えはないけどね」
「手伝うから」
「…うーん仕方がない」
なんだなんだどうなってるんだ?話が見えない前も見えない。
ばさばさばさばさと鳥の羽ばたき。
いつからいたのか梟の鳴き声が聞こえ始めた。
まるで何かを待っているかのように。
「はいはい、そんな騒がなくてもちゃんとあげるから」
「お、おい!助けてくれ!まず何かわからねえが喉に突き立てるのやめてくれ!」
俺の必死な声も空しく、二人の少女らしき声の主は俺抜きで話を進める。
「というかさー人って襲ったら駄目なんじゃなかったっけ」
「外来人はいいのよ多分ね」
「ふーんまあいいけどねー」
「バレなきゃ平気よ。死人に口無しってね」
明らかにおかしい会話だ。襲う?外来人?どういう事だ。なんなんだ。なんなんだ!
「えーとまず何からだっけ?」
「まず、血抜きしないと。あーあ爪が汚れる」
「た、助け…」
次の瞬間。
喉に突き立てられた何かが喉に刺さり、さらに横に引かれた。
驚きと痛みに挟まれながら、俺は目の前の暗闇に落ちていくのを感じた。
…
ああ本当に愚かしい。
自殺などすれば、それは即地獄行きを意味する。自ら地獄行きを選択するなど…
そう。だから。
私は救おうこの人間を。
その命を粗末にするのなら。せめて妖怪達の餌となるがいい。
妖怪に食われた人間が即地獄行きになることはない。
だからこその救い。
「幻想郷は貴方のような人間も受け入れるわ」
私の言葉に分かりやすいぐらい食いついてきたその男はみすぼらしく汚かった。
そこにどんな理由があろうとかまわない。
彼が死のうというのなら私はそれを有効活用するまで。
「幻想郷は全てを受け入れるわ。自らを死に追い込む、哀れで愚かな人間でさえ、ね」
終り
もっと純真無垢な子供か、何の落ち度もない善人を使うというのが一つの解ではありますが