Coolier - 新生・東方創想話

病人ふたり

2009/12/04 10:40:22
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――ねえ早苗、お願いだから返事をしてよ

それは今でも憶えている。
この腕が、胸が、体が、私を構成する全てが、あの出来事を憶えている。

――神様。早苗が、早苗が大変なんです

早苗の体から熱が急速に奪われていく。
それに反比例するように、早苗の顔の赤みは増していき、息も絶え絶えで、閉じた目を……開けてくれない。
早苗の顔はもう微笑んでいない。
ただ苦しみに耐える悲痛な彩りに染められているだけだ。

――さなえ、だれでもいいからさなえをたすけて

「……っ!」

私は、その瞬間に現実に戻ってきた。
寝覚めははっきり言って最悪だ。

「あ……っと、ここ……は」

ちなみに、私が今いる場所は山の中腹にある私の家ではない、

そう、ここは――

「守矢の……神社」

今の私は、何時も早苗が愛用してい青と白の装束に袖を通し、身を包んでいる。
今の私は、守矢神社の僕として動く存在なのだから。

それが、二柱の神と早苗からのお願いだから。

「さ、そろそろ」

――早苗の所に、いかなきゃ。









季節の移り目というものはどうしてこう厄介を引き起こすのでしょうか?

「けほっ……」

頭が熱くて息苦しくて体の節々が痛い。
典型的な風邪の症状にうんざりしながら、私は窓の外を見る。

空は憎らしいほどの快晴。
昨日の雨が嘘のように、青くて蒼くてあおい空。
こんな日は、みんなで弾幕を興じるも良し。ただ風に身を任せて自然と一体になるも良し。

まあ、そんな事は風邪を引いてダウンしてる私には関係ないのですが、

「こんな時季に雨の中でどろんこファイトなんかすれば、人間は体調を崩して当然です」
「したくてしたわけじゃないんですけど……」

そんな私に心配するような呆れたような声をかけたのは、諏訪子様でも神奈子様でもありません。
私の大切で、大好きな人。

「巫女服を着用したのは初めてですが意外と動き難いですね」
「文さんの服、まだ乾いてませんから」

私の愛用の巫女服を着用して現れたのは、他の誰でもない。
鴉天狗の射命丸文さん。
何時ものシャツとミニスカートは今頃、私の家の庭の物干し竿に吊るされているでしょう。

「よく似合ってますよ」
「胸はスカスカですけどね」
「あの……文さん?」
「なに?」
「もしかしなくても怒ってますか?」
「怒る?私が?早苗に対して?ふふっ……どうして?」

確かに文さんは笑っています。
ああ、でも目は笑ってません。
本気です。本気と書いてマジというぐらいに目が据わってます。

「私が怒るわけ無いじゃないですか。突如早苗が『ずぶ濡れ烏な文さんをよこせ!』と叫んで訳も解らず土砂降りの雨の中に叩き落されたとしても怒るわけ無いじゃないですか」
「あうぅ……」

え、笑顔が怖いです。
きっと語尾に音符マークがつかんばかりにノリノリですが、受け手としては怖くて堪りません。
でも……でもですね文さん。文さんも悪いんですよ?
あの日は雨が振っていました。土砂降りの大雨でした。
それでも、文さんは私に会いに来てくれる約束を守ってくれました。凄く嬉しかったんです。
そんな私の想いを文さんは知らないでしょうけど。

でも、現実は酷いですよね。
『風を操る程度の能力』を最大活用して、文さんは一滴の雨にも濡れずに神社の脇の東風谷宅に来訪しましたよね?
裏切られました。私は文さんに裏切られました。大切な事だから二回もそう感じちゃいました。
ずぶ濡れの文さん。
水に濡れた衣服が文さんの肢体にぴたりと張り付き、えも言わぬ色香を漂わせる文さん。
そして、そんな文さんが風邪を引かぬよう、やさしくやさしく一枚づつ文さんの衣服を脱がしてあげて、雨に打たれて冷たくなった体をバスタオルと場合によっては人肌で温めようとしたのに。
それなのに……それなのに……!

だから、あのアクションは当然で必然で運命だったんです。
今思い返すと確かに無茶苦茶ですが、突き詰めて言いますと、雨に濡れた文さんを見たい。これ一点です。
椛さんならきっとこの想いを理解してくれると思います。

「変なこと考えてないで、早く風邪を治すことですね」
「……は~い」

思考を読まれた?
顔に出てたのでしょうか。むぅ、今日の文さんはちょっと厳しいです。

「まあ早苗のこういう弱い所を守れるのは……その、嬉しい事ではありますが」

前言撤回。
やっぱり、文さんは可愛いです。

「えへへ」
「可愛く笑っても駄目。ほらほら良い子なら早く寝なさい」
「……独りぼっちに、しないで下さいね?」

こくりと頷いた文さんを確認して、私は改めて目を瞑った。
本当はゆっくり文さんと一緒に居たいのですが、今の私は体を治さなくてはならない身。
文さんに付きっ切りで看病して欲しいと我侭を通した事に申し訳なささを感じながら、少しずつ私の意識は遠のいて行きました。










「早苗。まだ……起きてますか?」

早苗が目を瞑って暫くして、私はそっと早苗に声をかける。
勿論、目覚めさせたら意味は無いのでとても小さい声で……ですが。

「……」

反応は、ない。
今度は人差し指を早苗の唇へ軽く当ててみる。

「ん~……」

……ちょっぴり、舐められました。

「ん……っ」
「ッ~~~!?」

訂正、指、咥えられました。
こう、ナチュラルにパクッと指を咥えないでお願いだから。

「あ、あややややややや……!!」

いやいや待て待て落ち着きなさい、冷静になるのよ射命丸文。
早苗は寝てるのよ、無意識の行動なのよ、だからそっと指を引き抜いて……

「……むぅ~」

私の指が早苗の舌という呪縛から解き放たれたのと同時に、早苗の眉間が僅かに歪んだ。

「ホントに寝てる……のかしら?」

すぅすぅと可愛らしい……らしいじゃなくて可愛い寝息を静かに立てつつ、早苗は微動だにしません。
とりあえず、寝てると判断してもいいと感じたので、近くにあった手拭いで指を拭う。

「……ふぅ」

早苗の思わぬ反撃でマッハで稼動中の心臓を落ち着かせる。
早苗が眠ってしまった以上、私は誰に話すわけでもなく自分に問いかける。

――脆い。

それが今の早苗を見た私の正直な感想だった。
今日は永遠亭の薬師の薬のおかげで普通に話せたが、昨夜はとてもそのような状態じゃなかった。
ほんの十分ほど、早苗につき合わされる様な形で土砂降りの雨の中、互いが泥塗れになるまで取っ組み合った。

別に殴りあったわけでも弾幕ごっこをしあったわけでもなく、ただ小さい子供同士がじゃれあう。
そんな他愛も無いやりとりだった。

その直後だった、早苗が倒れたのは。
原因は、季節の変化による体調不良……らしい。

そんな状態で下着まで水浸しになるほど雨の中にいたのが完全に止めになった。
と、八意薬師は言っていた。
まったく同じ体験をした私はどうか?肉体はまったく問題ない。
だが早苗は、たったあれだけの事で今は床に伏せている。

早苗は人間だから、生身の人間だから。

「死んじゃうかと……思った」

私は……怖い。
年齢を若く見せるつもりは無いが、私も齢1000を越える妖怪だから、それなりに多くの人間や妖怪と出会ってきた。
早苗を失うのが怖い。
始めてなんだ。
私は、私という個と、ここまで深く強く向き合った“人間”に出会ったことはない。
そうでなければ、新聞なんて書けない。
もっと正しく言うなら人と妖が相容れる訳が無い。
そう……信じていた。

「早苗に出会うまでは」

だって、好きなんです。
早苗の一挙一動が愛しくてたまらない。
早苗が私の名前を呼んでくれるだけで、見つめてくれるだけで、隣に居てくれるだけでいい。
恋は盲目という言葉は嫌いだったが、自分がそうなるとはまったく思っていなかった。

でも、それは悪い事でも嫌な事でもなかった。

それが、ほんのすこし前の私だった。

「早苗……」

ほんの少し前から、私は考えるようになった。

何故、私は妖怪で早苗は人間なのだろう?と。

早苗が私を好きと言ってくれたあの日。私が早苗を好きと言ったあの日。
その時は、そんな事を考えることなんて無かった。
ただ早苗が私を好きだと言ってくれた事、私の想いを早苗がちゃんと受け止めてくれた事が私の中の全てを支配していた。
けど冷静になるにつれ、少しずつ、ほんの少しずつじわじわと心を蝕む何かに気がついた。

それはとてもドス黒く、決して考えてはいけないこと。
でも、決して避けては通れない問題。

「早苗……」

私は穏やかな寝息を立てている早苗の髪を手で掬いながら考える。
今の私の体勢は馬乗り。
傍から、寝込んでいる早苗に何かやましい行為をしようとするように見えるかもしれませんね。
勿論、体重をかけたら早苗が起きるので、膝を立てて接触自体は行ってはいませんが。
そして、じっと早苗の首を見つめる。

細い。

女の子だから当然だけど、早苗の首はとてもか細い。
妖怪の私が力を込めればへし折ることも容易いだろう。

「色、白いね」

何時までも、一緒に居たい。
ずっと一緒に居たい。
でも、それはきっと出来ない。

「早苗……ずっと……」

私はあのメイドの様に時を止めるなんて芸当は出来ない。
だから苦しませないためにも一撃で極めた方が早苗のためかもしれない。

呼吸を整えて、ゆっくり、ゆっくりと早苗の上着に手をかける。
起こしてしまったらいらぬ誤解を招く可能性が非常に高い。
だから、時計の秒針が進む速度よりも遥かに遅く、滝に飲まれて舞い散る無数の落葉の中からたった一枚を拾い上げる精密さを持って、私は早苗の胸元をはだけさせた。

多分、今私がしていることはきっと早苗を酷く傷つける。
それでも、私は、私の内に潜む衝動を止められない。
理解は出来るが、理性は効かない。そんな気分だ。

「綺麗……でも」

ほんのりと光る肌、ほのかに香る早苗の匂い、程よい大きさで形も整った乳房。
それはまるで、禁断の実。知恵ある者が手にしてはならない禁忌の果実。
そしてそんな早苗の胸に、私は飢えた獣の如く荒々しく牙を突き立てようとしている。

目的は一つ。たった一つ。

「この純潔を穢したら、早苗は未来永劫私だけの……もの」

ああ、解る。
ニヤリと口がげひた笑みに歪むのが。
胸の奥が、腹の底が、頭の芯が、ドス黒く染まっていく感覚。
早苗の全てを手にしたい。私の物にしたい。私の、私だけの色に染めたい。
八坂の神に頼る所なんて見たくない。
洩矢の神に懐く所なんて見たくない。
にとりや椛と楽しそうに話しているのが嫌だ。

私が、私だけが――!

「ん……」

それは、ホントに僅かな動作。
ただ、寝返りをうっただけ。
でも……

「ッ……!?」

その挙動に、私は転がるように横に倒れ、尻餅をついたように無防備にへたりこんだ。

――今、私は、なにをやろうとした。

「あ……っ」

――早苗に対して、なにをしようとした。

「うぁ……っ」

――早苗の家族である二柱の神様を、私はなんて眼で見ていた。

「……っ!」

――早苗に勝るとも劣らない大切な友をも、私は見下した目で見ていた。

「うぅ……あぁ……あ……っ!」

体に満ちていたどす黒さは今はない。
今居る地面が砕けて今にも奈落に叩き落されそうな不安定感。
指先はチリチリするし、口の中はカラカラで、目の奥が熱くて堪らない。

居られない。
私は、此処には居られない。
もう此処に、この場所に、神社に、山に、居られない。居ることが出来ない。

二柱の神の、にとりの、椛の、早苗の側にはもう居られない。

「なにしてんの?」
「!?」

へこたりながらも部屋から逃げ出そうとする私の後ろから、早苗でも私でもない第三者の声が響く。

――そこには、間違いなく洩矢の神が佇んでいた。










「……で」
「はい」

とりあえず、顔面蒼白だったブン屋を早苗の部屋から連れ出して、居間まで連れて来た。
ものすごい怯えていたので茶を煎れに行ってる間に逃げ出すかと思ったが、おとなしく座って待っていたのは正直ちょっと驚きだった。
しかし、逆を考えるとちょっとまずい兆候かもしれないなぁ。
普段飄々としてるブン屋がここまで思いつめた表情をしてるというのは、結構レアというか重大な事かもしれない。

よっこらしょっと、横に腰を下ろす。
とりあえず、情報を引き出すためのけん制として軽く一言。

「寝てる早苗の服を脱がして、何やろうとしてたわけ?」
「え、なっ!さ、さっき“なにしてんの”って、見てなかったん……じゃ?」

やっぱり引っ掛かったか。
ふふん、私そんなに甘くないよ?

「あんなの嘘に決まってるじゃない。……欲情でもしちゃった?」
「……それなら、まだ救われてましたよ」

……ん~?
少しは反応があったけど、やっぱりまだしゅーんとしてるね。

「……ねえ、神様。どうして人間って脆くて弱いんでしょうね」
「いきなり何?昨夜の事をまだ気にしてるの?らしくない」

いや、この子にとって無視する事は出来ない事なんだろうな。
そういえば、早苗がぶっ倒れてるのを見つけた時と似たような顔だ、よく観ると。
……神奈子をなだめるの、大変だったなぁ。あの親バカ子煩悩め。

「だって早苗はさ、人間じゃん。人間として生まれた以上倒れるし、人間として死ぬんだよ」
「早苗は現人神……なんでしょう? でしたら」

ああ、やっぱりそう思ってるのか。
とりあえず、否定しておくかな。

「肉体は人間だから関係ないよ。それに、その果てに残るのは“神”として独立した“東風谷早苗”であって、貴女の大好きな“現人神”の“東風谷早苗”じゃないよ」

それとも、外見が同じであれば貴女は満足?っと付け加えておく。
それで「はい」とか言った日には、早苗には悪いけど神隠しにあってもらわないといけないからね。

「それは、だって、その……でも」

……どうにも歯切れが悪い。
だけど、なんとなく思いつめてる理由を察する事が出来た。

この閉鎖的な山に属してる以上、薄々感じてはいたが……

「どうして早苗は自分を置いて逝ってしまうんだろう?とか考えてるでしょ」
「あ……」

ブン屋の表情が更に青く染まった。
図星か。
ブン屋である以上あまり親身になるような人間を作らなかったのが原因かな?

大体人間に好意を抱いた人外は、こういう苦難を味わうのよねぇ……
私はもう慣れちゃったし、涙もとっくに枯れ果てたけど。

「神様は……」
「ん?」
「神様は、自分を一番信仰してくれている早苗が……今までの日常を捨ててまで幻想郷まで付いて来てくれた早苗の終わりを考えたりしないんですか?」
「早苗が初めてって訳じゃないしね~」

そう。
それは通過儀礼なんだ。
私達神と呼ばれる者が、妖怪と呼ばれる者達が、人という脆弱な存在と心を通わせてしまった時に必ず味わわなければならない、痛み。

「それでも淡白すぎじゃありませんか!?」
「一々巫女の死に悲しんでたら、心が死ぬよ?」

そうは言ったが、最初の風祝が死んだ時、私は泣いた。
三日三晩、泣いた。
神としての勤めを果たせと言った神奈子に、血肉を分けた子が死んで、悲しまない親はいないと口論した事もあった。
でも、今はそれも遠い昔だ。
三代ほどの世代交代で、悲しみは無くなった。
寂しいという想いは浮かぶものの、悲しいという想いは感じなくなった。
それが酷くおぞましかったが、自分は神という異種族なのだと理解した。

だから今、目の前に居る妖怪少女がとても眩しかった。

「でも――」
「優しいね、お前は」

涙目になりながら、なおも私に食い下がってくるブン屋を、私は無意識の内に抱きしめていた。
それは暗闇に怯える幼子を宥める様に。
それは娘の為に真摯に泣いてくれる人に感謝を伝える為に。

私が早苗の為に泣いてくれる彼女に今出来る事は、これが精一杯だった。

「あ……」
「私はもう、流す涙はとっくに枯れ果てちゃった。でも、お前は早苗のために泣いてくれる」
「あ、当たり前です!」
「早苗の為にに怒ってくれる。……それが、とても嬉しくて、羨ましい」

そこからは、私もブン屋も無言だった。
暫くして、顔を私の胸に埋めてすすり泣く声が聞こえてきた。

「その思い詰めた顔を見れば、全てじゃないけど解るよ。……口にもしたくない、思い返したくも無い考えをしちゃった事に」
「あ……ぅ」

早苗が起きてきたら非常に、ひっじょ~に厄介だが、道を示してあげるのも神様のお勤めと言うことでなんとか切り抜けよう。

「泣くなら私じゃなくて早苗の胸で泣きなさい。……あ。抱きしめたのは私か」
「あの、もり……いえ、諏訪子様」
「な~に?」
「ありがとう……ございます」
「いいよ。酷な事を言うかもしれないけど、決して絶望はしないで、早苗と一緒に居てあげてね。ずっと……」










私はその後、諏訪子様に全てをお話した。
早苗が倒れた事をきっかけに自分の中の想いがどす黒く変質してしまった事。
早苗を自分の物にしたくて、心の中で友すら切り捨てようと考えてしまった事。
それが酷く嫌になり、全てを捨てて逃げようとした事。

全てを、諏訪子様にお話した。
あんな姿でも、やはり彼女は神なのだ。
私なんかよりずっと長く生きている存在なのだ。

微笑みながら真剣に私の話を最後まで聞いた彼女はただ一言。

「早苗の側に居てあげて」

ただその一言だけ、私に訴えた。
だから今、私は此処に居る。

こっそりと部屋の中を覗き込み、早苗が起きているか確認をする。
少なくとも、私があの悶々と鬱屈していた時と部屋の中は何も変わっていなかった

「ちゃんと寝てるようですね。……ね、念のために」

私は今更だが前後左右を確認すると、早苗の枕元へ座り早苗を見つめる。
そして、前髪をそっと左右に分けて、柔らかそうな早苗の唇に、私の顔近づけて――

「……ん」

やっぱり柔らかい。
じゃなくて!

「ね、寝てますね。完全に寝てますね」

わ、私は何をやってるんでしょうか?
寝てるかどうかを確認するために……その……ちゅ、ちゅーだなんて。
でも、これだけやっても早苗は反応一つしません。

「寝てる時ならこういう事もできるのになぁ……」
「起きてる時にやってくれないのは困ります」










目を覚ました時、文さんは部屋に居なかった。
呼びかけても反応が無い。
お手洗いか手拭いを換えに行ったのかと暫く待っていたが、何時までたっても戻ってこない。
布団から出て文さんを探しに行っても良かったけど、文さんが約束を守ると信じたかったのでずっと待っていた。
それでも、文さんは一向に戻ってこなかった。

寝たふりをする必要は無かったかもしれないけど、そのお陰で文さんとキス出来たらから役得としましょう。
でも、まだまだ満足できません。
だから、私はちょっとだけ強気なお願いに出ようと考えた。

「ああ、人肌が恋しいなぁ……文さん、一緒に寝ませんか?」
「え?でも……」

この期に及んでまだ躊躇いますか。
寝てる恋人から唇を奪ったと言うのに……
ならば、こちらも切り札を使わざるをえませんね。

「独りぼっちにしないってお願い、破りましたよね?」
「その、それを言われると……あの……」
「人肌、恋しいなぁ」

数分後、文さんは私が悪いんだもんねと、静々と私の布団の中に入って来てくれました。
私は別に悪いとか傷ついたとか、口先だけで全然思ってないんですけど、文さんと密着できるので利用させていただきました。

「……早苗、顔近い」
「さっきキスをしておきながら何を……それに、文さんが可愛いから意地悪したくなるんです」
「……あやや」

え~っと文さん。
ごめんなさい、いきなりですがもう辛抱堪りません。
今日は一日寝ていたせいで、ろくに文さんとお話してなければおさわりもスキンシップもなしでしたから。

「ああ、もう、文さん可愛すぎ!」
「あやや!?」

はぁ……
やっぱり文さんをぎゅっとするのは堪りません。
私より何倍も長く生きてるのに、私より何倍も強靭な妖怪なのに、抱きしめると折れてしまいそうなこの華奢な体。二律背反というか素晴らしい矛盾を含む魅惑のボディ。

「え、ちょ、早苗?何やって、え、あ、やめっ、あんっ」

ぷつん。と、頭中で何か飛びましたよ。
やめっとか、あんっとか、そんな頬染めて言わないで下さいよ。

「あ~やさん」
「さ、さなえ……さん?」

無駄、無駄ですよ!
その服はいつも私が着用してる装束です。
それこそ、物心付く前からの愛用品。
どこをどうすれば脱がせられるかなど、百も承知!

ほーら、そうこうしてるうちに文さんの上着は布団の外ですよ~
擬音をつけるならすぽーんって音がぴったりなぐらいスッキリと丸裸にしました。

あ、やっぱり文さんの肌は張りがあって尚且つモチモチしてます。
同性から見てもやっぱりいいです。

はい、もう無理、限界……!




















「文さ~んすき~」
「うん……」
「だいすき~」
「うん……」

神奈子です。
現在夕餉を食しているところです。
が、早苗が今まで以上に天狗にべったりです。

「いやぁ……モテる人はつらいねぇ……」
「せめて口元ぐらい隠してください、諏訪子様……」

何故か、諏訪子も天狗を可愛がってます。
おちょくるより可愛がるだよ、あの言い回しは。

……ん?

というか、こいつ今諏訪子様って言ったよ?
昨日までは洩矢の神様なんて余所余所しかったのにいきなりフレンドリーだよ?

「あ~!諏訪子様、目の前で私から文さんを取ろうとしないで下さい!」
「いいじゃない、あやや~可愛いぞ~」

そもそも、諏訪子も何でそいつを甘やかしてるの?というより、前より妙に打ち解けてる?

い、いけない!
今この場で確実に私だけが浮いている!
何か、何かいい話題は無いものか……!

……あった!

「ところでブン屋」
「はい?なんでしょうか?」
「さっきから胸抑えてるみたいだけど怪我でもしたのかい?」

ブン屋、何故そこで石のように固まる。
早苗、何故そこで頬を染める。

「ねえ神奈子」
「な、何よ」
「帰れ」

え?え?え?私の居場所無いの?神様なのに?
私の神社なのに!?

私は今日ほど、ブン屋を憎く思ったことはない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
半年ぐらいの三作目です。
この遅さを何とかできないものかと。
シリアスが書ける人が羨ましいです。
そして、毎度の事ながら作風が安定しないと言うかなんというか……

【追伸】
ご指摘がありましたの誤字を修正しました。

原点回帰的に頭を使わないような話が書きたくなりました。
そんな今日この頃。
マサキ
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コメント



0.1040簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
あやさな…新しい!

あと最後のほう意志→石かと
8.100名前が無い程度の能力削除
おぉ、新しいカプ
……なーんか妬ましいんですが、どうしたものでしょう
では点数は儚き少女のために
10.100名前が無い程度の能力削除
哀れ神奈子……。
12.90名前が無い程度の能力削除
ちゅーちゅーされたんですか?
されたんですね?
えろーーーーーーーーーーーーい!
13.100奇声を発する程度の能力削除
これは何とも素晴らしいあやさな!!!
あと神奈子様……。
14.100名前が無い程度の能力削除
すごくいい
16.90名前が無い程度の能力削除
待ってました!
文句なしの100点です!
19.90名前が無い程度の能力削除
↑90点じゃねぇかwwww

まあそれはともかく、面白かったです。
できれば次回も甘々なのを期待します。