「おはよう、藍」
「おはようございます。今朝はお早いのですね」
表を見ると陽はまだ上りきっていない。無論、目覚めが早い里の人間達から言わせれば早朝とは言えないが、紫様の日常から考えれば遙かに早い目覚めだ。
「失礼な」
「すぐ朝食の支度をしますね」
主の空腹を満たさなければならない。台所に向かうために立ち上がる。
だが、紫様が欠伸混じりの言葉が私の足を止めた。
「ええ、お願い。そうそう食べたら、すぐに結界の修復に出かけますから」
やはり、か。
「でも……それは」
「そう、それはもう話したでしょう? ですから、今はご飯」
紫様は私の反論を自らの微笑に塗り込んでしまうと、早く台所に向かうように手を振った。
その動作に、その笑顔に、押されるように私は廊下へと出た。
紫様の微笑には、威圧するだけの迫力はなかった。むしろ、その弱々しさで私を黙らせたのだ。
なんて、残酷なのだろう。
紫様を知るものは皆、異口同音にこう言う。
「胡散臭い」と。
たしかにそうなのだろう。その真意を、時には真意の有無すらを容易に悟らせない、神出鬼没で悪戯を好む妖怪の中の妖怪だ。
けれど紫様は優しい。
私は胸を張ってそう言える。
初めて出会った時、九尾の狐を退治せんとする人に追われ傷つき、血と泥に塗れて汚れていた私に、「式神になりなさい」と手を差し伸べてくれた紫様の手は、信じられないほどに温かだった。
そして、今。紫様は幾度もそうしてきたようにその温かな手を差し伸べようとしている。
「それ」が流れ込んできたのはごくごく最近のことだ。
幻想郷に流れ込んでくるのは、そのほとんどが外の世界で非とされたものだ。
この狭い世界に住む者の多くも「それ」と同じように、外の世界で忘れ去られ、非常識とされてきた者達だ。だがその彼らが、彼女らが、「それ」におぞまし気な視線を向け、耳を塞いだ。
幻想郷の重鎮達は、新たに入り込んできた異物についての会合を設け、私も紫様の従者としてその場に付き従った。
しかし、会合とは名ばかりだった。
――認めるべきではない。
一人が発した意見に、ある者は一字一句違わず繰り返し、ある者はただ頷き、あまつさえわざわざ口にすべきことではないと言わんばかりに瞼を伏せ溜息を漏らすだけの者さえいた。
彼らの中で答えは既に決まっていたのだ。
「それ」を開いてはいけない。「それ」を響かせてはいけない。
この世の全てから「それ」が否定されようとした瞬間、紫様が言った。
――幻想郷は全てを受け入れるのよ。
全ての視線が紫様に集まる中、私は思わず頭を下げていた。
穏やかな紫様の口調と重鎮達の責めるような視線の気圧差に恐怖を抱いたのか、あるいは主を許してくれるよう請おうとしたのか、それとも紫様にその発言だけは撤回してくれるように願おうとしたのか、あるいはその全てが混ざった行動だったのかもしれない。
結局、紫様が一人で「それ」を請け負い、幻想郷に馴染むかどうか様子を見るということで話は一応の決着を見た。
「ごちそうさまでした」
紫様が箸と茶碗を置く。さっき見せた弱々しさはもう見られない。少なくとも表面上は。
だからこそ、耐えられない。
「紫様、やはり――」
「藍」
紫様はさっきと同じ声音、同じ笑顔で私の言葉を封じようとする。
私は式神だ。主の言うことに口を差し挟むべきではない。それが私の分だ。
ああ、だが、しかし。
「それでは余りに紫様が痛々しすぎます。紫様は、紫様は、妖怪の賢者です。それが、それが……残酷すぎます」
「藍」
叫び、崩れ落ちた私の頭を紫様がそっと撫でた。
「それでも幻想郷は全てを受け入れるのよ? そうでなければ、悲しすぎるでしょう?」
「ゆかり……さま」
いつの間にか流れ出していた涙をそっと拭ってくれる紫様の手は、やはりとても温かかった。
私が泣き止むと、ゆっくりと紫様が立ち上がる。
紫様の言うことは分かる。否定された存在が、肯定されるのが、どんなに救われることか私だって身を持って知っている。
それでも、まだ。
「それじゃあ行ってきます」
紫様の細い指が人差し指で空間を撫でた。
私は最後の悪あがき、と制止しようとする。が、その声は間に合わない。
スキマは、「それ」は開かれた。
「修復は任せておいて」
バリバリバリバリ
「やめてー」
紫様のスキマがマジックテープになった。死にたい。
ほら、俺のサイフだってこんな(バリバリバリッ
もう藍の式もマジックテープにしようZE
確か魔法さ、魔法だけどさぁww
やられたよ…100点!!w
二人の雰囲気とオチの差とか面白かったです。
幻想入りしたからか・・・
バリバリ吹いたwwwwwww
どうしてこうなったw
言葉運び巧かったです。見事に騙されましたw
そういうことかwwww
ちくしょうこんなのでwwwwww
俺が死にたくなったわwwwwwwwww
だが、よりによってこれかwwww
これは予想してなかっただけに爽快。やられたわ
オチがちょっと分からなかった
まさかの展開でしたw
いい意味で騙されたwwww
バリバリバリ
バリバリバリ
バリバリバリッ
面白いなこれwwww
やめてーwww