[小悪魔のメモ帳]
魔法=正常人たちの共同幻想。絶対的多数派の共有する妄想のこと。
魔法使い=共同幻想を一部破壊することによって世界を変革する人たちの総称。ぶっちゃけ奇人・変人・狂人のこと。やらずに三十歳を迎えてしまった方々のことを指すこともある。前者の例については、例えば、通貨を偽造する犯罪者の皆さんを挙げることができる。お金に価値があるという幻想にひびをいれることによって、無限に価値を生み出す魔法使いさんたちである。やらずに三十歳を迎えてしまった方々については、ご愁傷様としか。
アリス・マーガトロイド=七色の魔法使い。基本的には秩序を好む。
フランドール・スカーレット=みんな大好きロリ吸血鬼。今日も元気に気が触れています。
紅美鈴=妹様の靴下を口で脱がせる役目をおおせつかっている。嘘です。
十六夜咲夜=マジカル咲夜ちゃんスター。
パチュリー・ノーレッジ=小悪魔妊娠しちゃう。
聖白蓮=新興宗教の教祖さま。うわ、これだけ書くとなんか危ない人みたいだwww。
霧雨魔理沙=恋色魔法使い。良いところは人間であるところ。ちなみに人間の良いところはすぐ死んでくれるところです。
※生粋の人間である魔理沙さんは職業魔法使いに過ぎず、前述の魔法使いの定義とは異なります。また咲夜さんもコスプレ魔法使いに過ぎませんから同じく。ちなみに他の方々は余裕で年齢30歳を超えてらっしゃると思いますから、経験が無ければやっぱり魔法使いということになるわけです。
とある酒の席で、誰が言い出したか、究極の魔法って何よということが話題にのぼった。
究極魔法とかなにその中二病超ウケルーww
と言い出す人は、不幸なことに誰ひとりいないのが幻想郷の宴の席である。
そこで声をあげたのは、当然、魔法を使う者たちであった。
口火を切ったのは、わりとでしゃばりなところもあるアリスである。
彼女は七色の魔法使いと呼ばれている。
「究極の魔法ね。そんなの簡単よ。それは法律。こんなにも実効力のある魔法はないでしょう。どれだけの人間を突き動かし、不幸にし、幸せにもして、時間を操ったり――これは履行期の問題として扱われるわ――そして強制力を表し――、終局として裁いているのか。法こそが人間種族が作り出した最も権威と正当性と力のある魔法なのよ。ゆえに究極の魔法と言っても過言ではないわ」
一同は押し黙った。
彼女たちの脳内には、ちっこい裁判官の顔が思い浮かんでいたのかもしれない。
しかし、そこで異議を唱えるものがいた。
フランである。彼女は吸血鬼にして魔法少女である。
魔法少女は魔法使いとは異なり、日本文化圏内における戦う美少女のカテゴリーに属する存在であるが、そんなことはともかく、一応魔法に一家言あることに違いはない。
フランは言った。
「アリスが言うことも一理あるとは思うのよ。確かにあの四季なんたらとかいう裁判官のルナティックな耐久力は異常。人をゴミのようにボッシュートしていく様なんて、想像するだけでステキ。うふふ。でも、本当の力は実効力という点にあるんじゃなくて? 本質的な部分を取り出すと、法の最も究極的な部分は、実効性――すなわちパワー、言い換えると権力にこそ求められるのよ」
フランはパンパンと二度手を叩いた。
暗がりから、シュタっと降り立ったのは美鈴である。まるで忍者のような身のこなしだ。
「美鈴。馬になりなさい」
「はひ?」
「いいから、四つんばいになりなさいって言ってるのよ。私の言うことが聞けないの?」
フランの瞳が怪しく輝いた。
薄暗がりの空間の中で、紅く昏い光が灯っている。
口元は半月を描き、不気味なかわいらしさがあった。
美鈴はその場で四つんばいになり、そこにフランはスワっとまたがる。楽しそうに笑いながら、
「どう。これが権力の力よ。人を屈服させるのはいつだってパワーなの。魔理沙だってそう思うでしょ?」
「あー、まあ、弾幕はパワーとか言ってるけどな。そういう意味じゃないぜ」
「でもこういう力があることは誰にも否定できないのよ」
流し目なフラン。
それから美鈴の耳元で囁くように命令する。
「ほら、美鈴。豚のように鳴きなさい」
「ブヒー」
「ひでえフラン。馬じゃなかったのかよ」と魔理沙。
実はこの場にはパチュリーもいるが、パチュリーはチラっと見ただけですぐに本に視線を戻した。どうやら興味がないようだ。
アリスはあきれているが、フランの凶行は今にはじまったことではないので、ここは触らぬ魔法少女に祟りなしという按配らしい。
美鈴にとって救いの手がさしのべられたのは、まったく違う方向からだった。
「フランちゃん。妖怪も人間も皆平等なのですから、そういうことをしちゃ、めっですよ?」
聖白蓮であった。
フランは怒られたことに一瞬、むっとしたようだったが、聖のことはあまり嫌いではないらしい。基本的にかまってくれる人なら好きになれるのがフランの良いところだった。だから、聖のことも本質的には嫌いでなく、むしろ好きに位置する。
今日の狂態はここまで。
フランは子どものように「ハーイ」と言って、美鈴の背からおりた。
立ち上がった美鈴に「ごめんね。美鈴。大好きだから許してくれるよね?」と瞳をうるませて謝罪の意を述べる。
美鈴は感極まって、フラン様のためならうんぬんかんぬんと言いながら、出てきたときと同じように影の中に消えていった。
フランは再び、場の中心に立つ。
「で、そういうことなわけよ。アリス」
権力こそ究極、それこそがフランの言い分だった。
令嬢らしい物言いである。パンツが無ければドロワーズを着ればいいのよ。
「それは違うわね。権力を根拠づけてるのが法なのよ。だから権力は法に及ばない」
「ふふ。ダウト。だったら、革命とかクーデターとかはなんなのよ。権力が最初にあって、後付けでそれっぽい理由をつけるために法があるにすぎないじゃない。それに超法規的措置とかはどういうふうに説明するわけなの?」
「ごく例外的な場合よ。むしろ権力という概念のほうが抽象的すぎて実効的な場面は少ないじゃない。法は存在を認知されているというだけで効力が生じているでしょう。実際の生活の場において役立ってるのは法。権力者の顔なんて知ったこっちゃない人のほうが大多数だけど、殺人とか盗みをやってはいけないと法典に書かれていることは皆知っているわけじゃない」
「範囲が広いからそっちが究極になるわけ?」
「少なくともごく狭い範囲の限定魔法を究極の魔法と呼ぶのはまちがってるわ」
二人の議論は平行線だった。
そもそも究極の定義が曖昧なので議論にならないところではあるのだが、それは酒の席なので、基本的にすべてが曖昧なまま進んでいくものである。
「ここらで私の意見を述べてもよいかしら」
話を和らげるような絶妙なタイミングで割りこんできたのは、またもや聖白蓮である。
聖は春の日差しのようなふんわりとした口調で話しはじめる。
「究極の魔法とはやはり信仰だと思います」
「信仰と狂信は紙一重」
ぼそりと呟いたのはパチュリーである。
「宗教という制度が究極の魔法といってるわけではないのですよ。神の力、仏の力、その究極的な担保となっているのが信仰です。信仰なき神や仏はただの物体に等しい。日本の薄暗がりの空間にあるのは、象徴的な――、ある一枚の紙切れだったりするわけですからね」
「あー、それって神奈子とか諏訪子のこと言ってるわけな」
魔理沙の補足的な説明である。
聖はうなずいた。
「まあ、ここ幻想郷では本人様たちが見えるわけですが、本来、物体としての神様仏様はとても小さいものなのですよ」
「諏訪子に関しては元から小さいけどな」
「ともかく」聖は話をまとめる。「信仰こそが正義を生み、倫理を生み、道徳を生むわけです」
「信仰なき道徳もあるように思うけど」
パチュリーがまたまたボソっと呟く。
聖の額上部には青筋が浮かんでいる。
「あんまり信仰を馬鹿にしていると、南無三しますよ!」
パチュリーは身じろぐことさえしない。少しだけ本から視線をはずし、じっと聖を見ていた。
それから小さく口を開いた。
「信仰が非常に強力なことは認めるわ。なにしろ戦争の理由に使われたり、罪もない人を火あぶりにしてきたのは信仰の力だものね。信仰を正義のよりどころにして、いったい何億人ほど死んだのかしら、その力を抽出できればものすごいエネルギーになりそうね」
「悪にばかり目を向けるのはどうかと思いますが。日常におけるほんの小さな指針に信仰は大きな力になっているのですよ。例えば、情けは人のためならずという言葉は、情けをかけることは良いことであるという信仰があってこそ、ただの利益考量を超えて、実質的な効力を有するのです」
「でも、それって結局、わかんないことを神やら仏のせいにしているわけじゃないの?」フランはうねうね動くレバ剣をいじっていた。「言ってみれば神の権力にひれ伏してるわけじゃない。だから、結局権力にしたがってるというふうに、話をまとめることができるわ」
「なんでもかんでも権力にしたがってるわけじゃありませんよ」
「でも悪いことしたら地獄に落とすとか言うわけでしょ。それって脅しじゃん」
「便法として脅すようなかたちになっていることもありますが、それは信仰の本質ではありません。一心に帰依すること、それが信仰なのです」
「仏のことは知らないけど、ヨブみたいに子ども生贄にささげるまでしなさいって言ってたりするからさぁ、ヤハウェさんは」
「西洋生まれの神様のことなんて知りません」
「でも八百万の中には入っちゃうわけだしなー」と魔理沙は和洋折衷的な考えを述べた。
「咲夜はー?」フランの間延びした声であった。「咲夜のは魔法だっけ?」
「いえ、私のは手品みたいなものですよ。妹様」
「でも、ほら春がなかなかこなかったとき、なんだかまるっこくて、星マークがついたオプション持っていったじゃない。確か――マジカル咲夜ちゃんスターだっけ?」
「な、なぜそのことを引きこもりの妹様が知って!?」
咲夜は明らかに狼狽していた。
マジカル咲夜ちゃんスターは、誰も知ってはならない黒歴史。
いい年した若い女性がマジもんの魔法少女をやるにはきつすぎた。フランぐらいの見た目年齢ならともかく。
「ご、ごほん。えーっとなんのことやら存じ上げませんが、私が考えますに、究極の魔法といえば一番身近なお金ですね。人里での貧弱な貨幣経済には些か心もとないところもあるのですが、それ自体に何の価値もない紙に価値を付与するという、これこそが人間が太古の昔から営んできた原初の魔法と言えるのではないでしょうか」
完全に話題を逸らそうと必死であった。
その話術は、完璧なメイド長らしく、一片の曇りもなく、よどみなく流れ出る清水のようだった。
「フフン。咲夜らしいわね……。ただお金なんて権力があればざっくざくよ。たいして考える必要もないわ」
「御意でございます。妹様。私ごときの浅慮な考えなど、妹様の深謀には遠く及びません。あちらでお嬢様がプリンをねだっているので、私はこれにて失礼させていただきます」
咲夜は身を翻して去っていった。
本当はもう少し粘ることができたかもしれないのだが、咲夜の魔法に対するこだわりはゼロに等しかった。
そもそもマジカル咲夜ちゃんスターについても、霊夢の陰陽玉に対抗した結果だった。今となっては綺麗な思い出のまま閉まっておきたいことであったのだ。
「ところで、パチュリーは何が究極の魔法だと思ってるの?」
またもや尋ねたのはフランである。
パチュリーは面倒くさそうに本を閉じた。いちおう友人の妹の質問なので、パチュリーとしても無碍にできなかったのだろう。
「究極というのはそもそも相性の問題でしょう。五行相克を持ち出すまでもなく水は火に強かったりするわけじゃない。ただ――貴方達が言うところの影響力という面でもっとも偉大なのは、これね」
パチュリーは持っていた本をかかげた。
「なんだぜ? 本ってわけじゃないよな。あ、そうか。文字か?」
「違うわ。言葉よ。すでにあがった法律、信仰、権力は、言語を有する存在でなければありえないわ。だから言葉こそが究極の魔法というわけよ」
一同は、「おお」とどよめいた。
なにかしら答えに近い、そんなオーラを帯びていたように思えたからだ。
「契約は言語の産物。信仰は経典の産物。そして、権力は命令という言語によってなされるわ」
「なるほどな。一理あるぜ」
魔理沙は大きく頷いたようだった。
「パチュリーさんが信仰の本質を経典に限定したのは不満です」
ぷりぷり怒っている熟女、聖。彼女は怒ると怖いが、今回は本気で怒ってるわけではないらしい。言語の重要性を十分に理解しているから、あまり強く持論を展開できなかったのだ。そもそもそうやって説得する際にも、パチュリーが言うところの言語を用いなければならないのだから、まずもって有効は反論は封じられたと言ってよかった。
「さすが七曜の魔女と呼ばれるだけのことはあるわね。私は言葉が究極という理論、さほど悪くない主張に感じたわ」
アリスはわりとあっさりと宗旨替えした。
そもそもアリスは、人形遣いであって、根っからの魔法使いというわけでもないので、魔法についてのこだわりはさほどない。
法律を究極としたのはアリス自身が整然とした秩序を好んだからだ。数学的な秩序に最も近く、それでいてただの空論に終わらない実効力を有するのは法律しかなかった。なので、法律を述べただけのことであって、身をもって法律が究極であると感じているわけでもなかった。
「まあ待て。まだ私の持論を言って無いぜ」
「なによ。最後のトリでも飾りたいの」
「そうだぜ。いいか。おまえら、よーく聞いておけよ。魔理沙さまが究極の魔法を教えてやるぜ!」
その場にいた全員が、魔理沙の言葉を待った。
魔理沙はわざとらしくもったいぶって、沈黙を貫き、ややあってようやく口を開く。
「愛だぜ」
「はぁ、何言ってるのよ魔理沙」アリスが長い嘆息をついた。「いまどき愛なんて、逆にうすっぺらいわよ」
「いいか、アリス。チープなのはよく使われているからなんだぜ。愛は偉大なりってな。よく考えてみろよ。法律も権力も信仰もお金も言葉も、全部、それを使う主体がいないと始まらないだろ。その主体を生み出して増やすのは愛の作用なんだぜ?」
「異議あり」パチュリーが少しだけ手をあげた。「言葉は人を逆に規定する面もあるわ。女らしさ、男らしさ、そしてあなたらしさもね。言葉によって人格が形成されているということをあなたは忘れている。そして、愛は言葉によって伝えられるということも」
「本当にそう思うのか。パチュリー?」
「ええ、私ほど言葉を食べてきた魔女もいないでしょうからね」
「そうかそうか」
魔理沙はいたずらを思いついた子どものような顔つきで、まずはフランのそばに近づいた。
「なあ。フランは私の考えをどう思う。パチュリーと私の見解ではどっちが正しい?」
「えー。でもそうやって聞くのは、言葉の作用なわけでしょ?」
「OKOK。じゃあ、言葉を使わないで聞くよ」
魔理沙は、すいっと、手をあげた。
フランはじっとその手を見た。
空高くあげられた手は、ふりおろされるものとばかり思っていたが、しかしそうはならなかった。
ゆるやかなスピードで徐々に降りていって、最後にはフランの頭に不時着したのだ。
いわゆるなでなでだった。
「あ、あ。魔理沙なんだか恥ずかしいよ」
魔理沙はにやにやしながらフランの頭をなで続けた。これが魔理沙の愛の一撃だったのである。愛の力の前に、フランは容赦なくなぶられ、精神的にも肉体的にも篭絡されていった。
ぽやーんとした表情で魔理沙のことを見つめ、
「やっぱり愛が一番だね」
という言葉がついにフランの口からでることになった。
まことに恐るべき攻撃である。
次に魔理沙は手近なターゲットとしてアリスを見定めた。魔理沙の目がアリスの方を向くと同時に、アリスはその場から逃げ出したが、しかしスピードでは魔理沙のほうが上手で、すぐに追いつかれた、追いつかれたあとは、後ろから抱きついて首もとに頭を預けるようにした。
これだけで、アリスはプシュウという音を立てて崩壊した。完全勝利だった。
聖白蓮に対しては、魔理沙は甘えた。聖はちょうど畳の上に正座して座っていたのだが、そこに傍若無人にもごろごろと甘えるように枕にして座ったのである。
「あらあら……」といいつつも、聖はまんざらでも無い様子。
もともと子どもとおばあちゃん以上に年が離れているふたりである。魔理沙のことはかわいい孫のように思っていたのかもしれない。その魔理沙が年頃の娘らしくにゃんにゃんと甘えてくると、やはり嬉しさを抑えることはできないらしい。
さて、ラスボスはパチュリーだった。
パチュリーは精神的な障壁をいくつも展開して、魔理沙の攻撃に備えた。
「や、やめなさい。話あいましょう」
しかし、魔理沙は一言も喋らない。
言葉を使ってはいけないという制約を設けたのはパチュリーのほうだった。
だから、もはや魔理沙には実力行使しか残されていないのである。
にじりよる魔理沙。
後退するパチュリー。
そして後ろは壁だった。もはや逃げられない。パチュリーは魔法を詠唱しはじめる。だが時間が足りない。
魔理沙に二の腕をつかまれ、パチュリーはついに涙目になる。
むりやりなキス。
そして敗北。
愛の勝利。
かくして宴会は、愛こそが究極の魔法という結論で、いちおうの終結を見たのだった。
「小悪魔。どうして助けてくれないのよ」
「いや、まあ嫉妬はしましたけどね。大罪系はいちおうマスターしてますんで。けれど、あの件についてはパチュリー様のせいですよ。自ら作り出した罠にはまった感じです」
「それでもあなたには、悪鬼の手から私を助ける義務があるでしょう」
「なら、あのとき私の名前を呼ぶべきだったのですよ。パチュリー様はね」
「パニックになることぐらい誰にだってあるじゃない」
「まあ、そうかもしれません。好きな人に迫られると嫌と言えないこともあるでしょうしね」
「なんだか冷たいわね。もしかして怒ってるの? あなた」
「いいえ。しかし――愛を究極の魔法とした結論には遺憾の思いが強いですね。あんな低級な感情を究極とするなんて、本当に正常人たちは多数決で物事を決めるのが大好きなんですね」
「じゃあ、あなたは何が究極だと思っているのよ」
「アリスさんの、人形……、確か上海さんでしたっけ。あの上海さんがよくおっしゃってるじゃないですか。あれ、あれこそが究極でしょう」
「あれ?」
「バカジャネーノ」
つまりは「で?」という言葉に収斂される。
相手の価値をすべて否定することこそ究極だった。究極に孤独で無敵。なぜなら誰も認めないのだから、その価値は絶対化される。
魔法そのものを否定することこそが、究極の魔法なのである。その魔法は誰もが有していると言えるだろう。顕在化することはほとんど無いが、無意識のうちに巣くい、そしていつも内側から虚無の風穴を広げようとしている。無意味なんじゃないか無価値なんじゃないかという内なる声を、誰も抹殺することはできない。
つまるところ、小悪魔はちょっと拗ねていたのだ。パチュリーが簡単に魔理沙に唇を奪われたことに。
小悪魔がツンな態度をとっているので、パチュリーは長い嘆息をついた。
「それじゃあ、愛を認めないあなたには愛は不要ということね。残念だわ。お口なおしはあなたにしようと考えていたのだけれど」
小悪魔の頭についているこうもり羽がピクっと動く。
「あう。パチュリーさま。ご無体な! 嘘です。今のは嘘。愛最強。愛マジ究極!」
「現金ね。あなたもう少し落ち着きなさい」
「パチュリーさまぁぁぁぁぁん。してください。してください!」
「離れなさいよ。うっとうしい」
「愛すごいですから、愛すごいですから」
「知らないわよ。あなた愛は要らないってさっき言ったでしょ。自分の言葉に責任を持つことね」
「撤回させてください」
「却下!」
パチュリーは愛の力を見せつけ、思いのままにふるった。
それは約七分間の短い出来事であったが、小悪魔にとっては無限の業火に焼かれるほどの苦痛をともなう時間であった。
要するに、小悪魔は悪魔にすぎないわけで、愛の威光の前には屈服せざるをえないというわけなのだ。
ひじりおねえちゃんにあいされにいくんだ。
ここの部分で、俺の愛が鼻から溢れて出てきたぞ
やっぱり愛はすげーよ!
話の論理付けと展開の運びもさりげに上手いと。
やはり最後にモノを言うのは力業である。
じゃあ、相手のことを否定するのが最強か?いや、否定する以前に相手も言葉も知覚・認識しすらしなければ…
とか、くだんねぇ事ウダウダ考えてしまった私は確実にオワットル
その言葉がどの様な発声かはわかりませんが、その意味は「私」と「貴方」の二つだろうと言う説です。
そして「愛」も「私」と「貴方」がなければ成り立たず(自己愛も「私(私を愛する私)」と「貴方(私に愛される私)」がなければ成り立たないのではないか?)
小悪魔の「で?」も「私」と「貴方」、つまり否定すべき相手がなければ成り立たないのではなかろうか?
ですので「自他の認識」「自他の区別」「心」「私と貴方」、上手い言葉が見つからず伝えられないのですが、「それ」が私的には「究極の魔法」ではないかと、
この話を読んだら思い浮かびました。
ああ、確かに・・・。厳密に 言えば「境界を生成する」、くだけて言えば「境界をひく」が「それ」に当てはまる「究極の魔法」ではないかと。
「境界をひく」ことにより「私と貴方」が存在し、混沌は秩序と変わり、言葉または名付けるという事も結局は「境界をひく」ための手段に過ぎないのではないかと。
>55 そうかゆかりんは魔法少女だったのか
ゆかりんは魔法少女ではないのでこの話に出番がありませんでしたが、もし出てたら何と答えていたか興味ありますね。
やっぱり愛だよね!
『ちなみに幽香は、怪綺談エキストラEDのあと、予定通り究極の魔法と言う物
を拾得しました。それが何なのかは作者も知りません。
きっと萌える物に違いあるまい。萌ぇ~。』 「稀翁玉」 ZUN「創曲幻想」.txtより
つまり究極の魔法とは萌え(るモノ)だったんだよ!
うーん、話運びもリズムよく読めて、エンタメとしてもかなり良質な短文でしたね。
あとやっぱり小悪魔は悪魔であると、導入文でよぉく理解できたっす。