全然足りない。
いや、そんなレベルじゃなかった。言い直そう、チルノの頭くらい足りない。
これは追加を要求しないといけないな。そう思った私は、マネージャーをしてくれている早苗に、
声をかけた。
「早苗、四つ頂戴」
早苗は、一瞬だけキョトンとした顔をし、すぐにひらひらと手を振って、薄い饅頭みたいなもの
を二つ差し出して来た。
「二つで十分ですよ、霊夢さん」
何を言い出すんだ。
そりゃあ早苗には二つで十分、というか、そもそも必要ない。でも、それは、早苗が富める者で
あるからだ。こちとら貧しき者なのだから、いくら最新型でも、絶対に四つ必要である。
「四つよ。二つと二つで、四つ寄越しなさい。あとお茶も」
押し切る。
いつもの早苗なら、少し困ったような顔をしながらも、私のわがままを聞き入れてくれただろう。
けれど、今日の早苗はいつもの早苗ではなかった。
「二つで十分ですよ、わかってくださいよ」
「二つ」のところを強調しながら、お茶だけを突き出して来た。
どうやら、自説を曲げる気は無いらしい。
そういえば、閻魔がよく言っていることに、富める者は貧しき者の気持ちを理解することができ
ない、というものがあった。毎日二千円もらう小学生は、毎日五百円で暮らす父親を理解できない
という例をあげて、持論を展開していた筈だ。早苗と私もこの関係に近いものがある。
となると、どうやって説得すれば良いのだろうか?
絶対に理解してくれない相手に要求を突きつけ、押し通す方法。相手と言うのが、敵であれば、
弾幕で簡単に言うことを聞かせられるのだが、いかんせん早苗は味方である。しかも、彼女なりに
私のことを考えた結果、私の要求を通さないのである。本当に、どうしたらいいのだろう。
そんなことを悩んでいると、いつの間にか私の左右にレミリアと紫が立っていた。
「霊夢丹乃着替、覇阿覇阿」
「貧乳、人類乃宝也」
どこの言語だろうか?
助けを求めようと早苗を見ると、驚いた表情をしている。
どうやら二人の言葉を理解できているらしい。
「早苗、こいつら何言ってるの?」
「霊夢さんを逮捕するそうです」
いきなり何を言い出すのだ。
私は何も悪いことをしていない。
「人違いでしょう」
「「我等憎偽乳」」
「それを着けたら現行犯逮捕。と」
知るか。私は四つ着ける。四つ着けないとビキニは無理だ。というか、乳が断崖のビキニこそ、
確実に逮捕である。だってそうだろう。想像してみればわかる。
豊かな黒髪を持つ、美少女の後ろ姿(顔を見てなくても美少女である。だってモデルは私だ)。
健康的なお尻のその少女がゆっくりと振り返る。ゴクリ。これはとびきりの美少女だぞ、と生唾を
飲み込んで待つ。そして見てしまうのだ。ブカブカで、押すとへこんだまま戻らない胸の布地を。
私がそんな光景を見たら、絶望の叫びを上げてしまうだろう。その叫びっぷりにスカウトされて、
博麗ムンク作「叫び!」のモデルになってしまうじゃないか。
だから、私は二人を無視することに決めた。
「着替え中よ」
そう言い捨てた私は、隣の更衣室に移ろうとパッドとビキニに手を延ばす。
無かった。
「え!?」
私が慌てて振り向くと、紫が「押収」と言いながら何かを食べていた。あぁ、せめて、スキマに
放り込んで欲しかった。なんで食べるんだろうか。おそらく、私が一度身に付けたという一点だけ
が理由なのだろう。
とにかく、これで一週間の努力がパァである。
せっかく今日の”ミス幻想郷コンテント~ポロリもあるよ”に勝つために準備したというのに。
「貧乳白学校水着、最強也」
「お前にはこれがお似合いだ、だそうです」
レミリアが純白の水着を投げつけて来る。その胸部にはお世辞にも綺麗とは言えない「れいむ」
の文字。忘れもしない、それは玄爺の筆跡だった。手が無いから、口にペンをくわえて必死に書い
てくれたのである。
玄爺、元気だろうか?
私は、何かに操られるようにして、その水着を身につけていく。どうやら、まだ着れるようだ。
鏡を見ると、昔のままの私がいた。顔立ちも柔らかく、何がおかしいのか思い切りの笑顔。幼さ
丸出しである。…まだ靈夢だったころ、池で玄爺と一緒に遊んだことを思い出した。
あの頃はこんな喋り方だった筈だ。こう、ちょっと首を傾げて…舌足らずに…
「似合うでしょ~☆」
「良くお似合いですよ、御主人様」と玄爺のしわがれ声が、聞こえた気がした。もちろん思い出
の中の声だろう。でも、それでいいんだ。おかげで大切なことが解った。
玄爺、玄爺、解ったよ、この白水着の意味。私を守ってくれてる!
調子に乗って、昔、玄爺が褒めてくれた色々なポーズを試した。
両腕を胸の前で組んで「この犬!」とふんぞり返ってみたり、イスに座ったまま本を開きつつ、
「ユニーク」と呟いてみたり、片手を腰に当てて、相手に目線を合わせ、叱るようにして「えっち
なのはいけないと思います!」と怒ってみたり。
「れ、霊夢さん…」
その声に振り返ると、袴を湿らせた早苗が地べたにへたり込んでいた。その横ではレミリアと紫
が鼻を押さえながら、血の海に転がっている。
私の可愛らしさにクラッときたのだろう。無理もない。この水着には玄爺の想いが詰まっている
のだ。自分でも恐ろしい程の色気が出ているのが解る。今なら龍神すら色仕掛けで封印できてしま
うだろう。こう、お願いと言わんばかりに胸の前で手を組んで、上目遣いになり、うるうるさせた
瞳で見上げながら死の宣告をするのである。
「お願い!私のために死んで!」
イメージの中で、サムズアップした龍神が自ら身投げしてくれた。最高のイメージトレーニング
である。この方法を使って「お願い!入れて!(票を)」なんて言えば私の優勝で間違いなしだ。
さぁ、勝ちに行こう。そのあと、久しぶりに玄爺に会いにいこう。
力強く踏み出した私の足。
そこへ、早苗が縋り付いた。
「早苗?どういうつもり?」
自分でも驚く程の冷たい声。
「い、いってはいけません!」
「…諏訪子を勝たせるため?」
そうだった。山の神社からは、代表として諏訪子が出ている。早苗は私に協力すると見せかけた
スパイだったのだろう。だとすれば、パッドを四つ渡してこなかったのにも説明がつく。
「ち、違います!」
「なら、離して」
「いやです!」
埒があかない。そう判断した私は早苗の腕を振りほどこうと、足をぶんぶんと振る。
「いくわ!」
「いっちゃだめ!」
「早苗!いかせて!」
「れ、れいむぅ!いっちゃだめなのぉ!」
ぐちゃぐちゃに濡れているというのに、必死で拒む早苗。その諏訪子への想いは尊敬に値する。
けれど、早苗の涙には悪いが、想いなら…私の方が、上だ!
私は早苗の必死の抵抗を突き破る。
「れいむぅ…だめなのにぃ」
泣きじゃくる早苗。それでも、私は更衣室を飛び出した。
「ふるい…」
後ろで早苗が何か言っているが、もう振り向かない。
「白水着は…」
曲がり角を三角飛びで一気に曲がると、正面に出口が見えて来た。
「濡れると…」
私は、シャワーが作り出す水しぶきのカーテンをくぐり抜けて、ステージへと飛び出した。
「透けちゃうんですっ!!!おもいっきり!!!」
コンテスト会場は”鼻血の池地獄”になった。
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冬の地霊殿。
その最下部には、空の能力を使った温水プールがある。
もっとも、現在は事故により封印されているのだが。
「いや~、まさか、”溺死体集めちゃうぜ計画”が、あんな風に潰されるとは、思わなかったよ」
「ちょっとお燐。プール作れって、さとりさまの命令じゃなかったの」
「ああ、あれ嘘」
「なにそれ!?」
怒る空となだめる燐。
どうみてもじゃれ合っているようにしか見えない。
「そういえば、お姉さん怒ってないの?」
「怒ってないわよ、むしろお礼を言いたいくらい」
「「お礼?」」
「なんでもないわ」
空と燐は首を傾げた。
しかし、横で聞いていたさとりは気付かざるを得なかった。
霊夢が狐と同じ性癖を持ってしまったことを。
だから…
「ねぇ、霊夢さん」
「なに?」
「プール、再開してもいいかしら?…またお燐が異変起こすかもしれないけど」
「いいわよ、むしろお願いします」
毎冬恒例となる”地霊殿スケスケ異変”が生まれた瞬間であった。
隠す必要もない幼女が時折装着しているが、それは見えていることよりも数十倍の殺傷能力を持っていることは私の実験結果により証明されている。
今回のように立体的で本来の目的を満足しない場合はどうか。
へこんだとしよう。しかし、そうなることで、「中は偽乳なのではないか」と疑う必要はなくなり、「その下には確かに本物がある。」そう確信ができ明日への希望が持てるのです。
何が言いたいかというと、ぺたんこがつけるビキニは素晴らしい!!
早苗さん。袴がぐちゃぐちゃに濡れちゃうほどになって足腰立たなくなってしまったのですね。
ああ、貧血を起こすほど鼻血を出してしまったのですよ。そう。鼻血ですよ。はい。
作者名で飛びついたのは内緒。
また、コメントを下さった皆様、重ねてありがとうございます。
>>1様
信じて頂けないかもしれませんが、この話はもともと、
靈夢と玄爺の、ハートフルでノスタルジックな匂いのあるロマンスでした。
本文には手を加えたけれど、題名はそのままなので、こういう結果にw
>>2様
ひどいは褒め言葉!
>>7様
除夜の鐘は大切だと、しみじみ感じましたw
>>ぺ・四潤様
その発想は無かった…
早苗さんですが、血まみれで這いつくばって近づいて来るので、
今考えてみると実にスプラッタな光景ですよね…
作者名ですが、実は「履く」と「穿く」を勘違いしていた経緯があり、変わるかもしれませんw
>>14様
エセ中国語か気合いの入った漢文か、どちらにするか迷ったのですが、
楽しんで頂けたようで、エセ中国語にして良かったw
>>15様
エロくないですよ?健全です。
>>18様
で、ですよね。自分ではセーフラインを超えていやしないかと、
常にビクビクしているので、読者様にそう言って頂けるとほっとします。
二人の血まみれで赤スクというのもGJだ!(ただし透けてるw
知ってるか?
漢字で書くとやばいことでも、ひらがなだと案外いけるもんだぜ。
早苗さん=うどん屋のオヤジさん マッチしすぎている?
許せんっ!黒髪キャラはおしとやかでなくては!
また、ノリの良いコメント、大変嬉しいです!
>>21様
除夜の鐘、きちんと聞いて煩悩を払って下さいねw
>>22様
一呼吸置いて、冷静に回答された22様には、感服致しました!紳士ですね!
>>27様
ブレラン、解って頂けて嬉しいです。最近初めて見て、現在のSFと変わらない緻密な作りに驚きました。
うどん屋さんですが、あの適当さは常識に捕われない早苗さんにしか出来ないと思い、出演をお願い致しましたw
>>31様
おしとやかだった黒髪キャラがはっちゃけていくのがいいんじゃないか…w
よくやった。感謝する