朝起きたら、雲山が八頭身になっていた。
「えっ」
「えっ」
「なにそれこわい」
雲山は思わず1人で2人分ツッコんでしまったが無理もない。
起きたら八頭身になってたなんて、洒落にならないだろう。
しかも自在に変化させられるはずの体は変化できない。
「ワーオ! こいつはファ●キンだ!」と雲山は思った。
彼は一輪と共用の自室で、いつも起床する時間に目覚め、
顔を洗うために洗面台の前に立ったときに、違和感に気付いた。
鏡に映った雲山は、見紛うことない八頭身だった。
驚愕しながらも、彼は映し出される自身の姿をまじまじと見つめた。
そこに映っているのは雲の様に白い、逞しい肉体。ジ・マッソゥ。
筋肉質でありながら引き締まった、理想的なマッスルボディであった。
それにも関わらず、尻はもっちりもちもちプリンプリンしており、
揉み心地のよさそうな尻だと、我が尻のことながら雲山は感心した。
肉体美とはまさにこのような体のことを言うのだろうと、
雲山はM字開脚のポーズを取りながら思った。
このポーズを含んだ写真集が幻想郷で爆発的にヒットし、
彼が「ウンザン・オブ・ジョイトイ」として
華々しいグラビアデビューを果たすのは、また別の話である。
しかし、何故に自分が八頭身になったのだろうと雲山は考えた。
昨晩、脱衣所でムラサ船長のスケスケパンツを発見してしまい、
こっそり拝借したのがいけなかったのだろうか。
それとも、風呂の湯煙に紛れて白蓮様の豊満なアレコレを
観察していたのがいけなかったのだろうか。
一輪が寝静まった後、あまりの寝顔のかわいらしさに
ほっぺをぷにぷに突っついてニヨニヨしてたのがいけなかったのだろうか。
思い当たるフシがありすぎて、これは何かの罰だと思い、雲山は大きく嘆息した。
そして、これからは真面目に生きていこうと強く心に誓うのだった。
とりあえず、昨晩強奪した船長のスケスケパンツを頭にかぶった。
言葉にし難い大きな幸福感と達成感と充足感に包まれた雲山は、
朝食を採るために皆の集まる居間へ、軽やかなスキップと共に向かったのだった。
◆
「ボンジュール、一輪」
「あ、雲山おは……」
雲山が居間に入った瞬間、コタツで暖を取っていた一輪・村紗・星の時間が止まった。
十六夜咲夜もビックリの「ザ・ワールド」が命蓮寺の居間を覆い尽くした。
なんだ、アレは――
人型の雲山じゃないの――
雲山って二足歩行だったっけ――
一輪なんとかしなさいよ――
無理、っていうかなにこの状況――
私が知るかアホ――!
思わず口に出そうなのをぐっと堪え、三人はアイコンタクトで会話する。
3人が「八頭身雲山」という許容しがたい現実を目の当たりにして硬直していると、
「おはよう、みんな」
ふぁ、と小さくあくびをしながら白蓮が居間に入ってきた。
そして雲山の姿をまじまじと眺めると、聖母のような微笑を浮かべた。
「あら雲山、随分立派になったのねえ」
「…………ぽっ」
雲山は白蓮の言葉を聞き、嬉しそうに頬を赤らめてモジモジした。
この頑固親父、見かけによらず実はシャイなのである。
「聖! どうしてそんなに冷静なんですか!?」
星が思わず声を荒げるが、白蓮はやはり優しげな顔のまま説法を始めた。
「だって、何が変わったというの? 例え如何に筋肉質で八頭身な雲山でも、
雲山が聖輦船に住む、命蓮寺の一員であることは変わらないわ。
それに、生きているものならば人であろうと妖怪であろうと、
歳月を重ねれば変化の一つや二つ、珍しいことでもなんでもないわ。
確かに雲山の変化には、少々驚いたけれど……。
でも雲山が新しい自分の姿を見つけたこと、これは素晴らしいことじゃない」
聖は雲山の方に向き直ると、言葉を続けた。
「貴方が新しい自分を見つけたことを、私は嬉しく思うわ。だから……」
一瞬の間の後、聖は言った。
「おめでとう。雲山」
パチパチパチ、と乾いた音が空間を支配する。
聖が手を叩く音に、やがて星・村紗・一輪の拍手が合わさった。
いやいやいやいや、とナズーリンは冷静なツッコミを入れようとして――止めた。
なぜなら自分の主人である星の、聖を見る目があまりにもキラキラしていたから。
彼女の瞳には、聖への尊敬や憧憬の念しか感じられなかった。
周りを見回すと、星だけでなく一輪や村紗も同様の視線を聖に送っていた。
星に至っては「聖……」とか言いながら大粒の涙を流している。
(お前ら聖の言うことなら何でも間に受けるんかい! このイエスウーマン共め!)
ナズーリンは口に出して毒づく代わりに、げんなりと大きく肩を落とした。
――するとそこで、居間の入り口の扉がガラッと音を立てて開かれた。
「あ、ナズーリンさんちぃーっす!」
居間に入ってきたのは、またしても八頭身の雲山であった。
しかも何故か口調がヤンキーくさかった。
これで八頭身の雲山が計2匹、命蓮寺の居間に集結したことになる。
ナズーリンは軽い眩暈を覚え、こめかみを押さえながら呻き声を上げた。
「どうしてこうなった……」
その後、白蓮の提案により朝食を採ろうということになった。
遅れて来たぬえが、八頭身雲山×2を発見してひと悶着あったものの、
いつもより席がひとつ多い食卓を、皆で賑やかに囲うのであった。
朝食の時点では2匹の雲山で事なきを得たのだが、その後が大変だった。
朝食を終えた一輪が自室に戻ると、八頭身雲山が畳に寝転がっていた。
その数占めて4人。フォーオブアカインドも真っ青の禁忌である。
さらに事件は続く。
村紗のスケスケシースルーを頭にかぶって鬼ごっこをしている雲山が5匹、
朝風呂をしようとしたぬえを風呂場で待ち受けていた雲山が4匹、
星の部屋でエグザイルのタイミングずらして回転する真似をする雲山が6名、
さらにそれに巻き込まれて死亡した雲山が2名、
計17名の雲山が白蓮の手により捕らえられ、南無三された。
しかし、雲山分裂の問題は命蓮寺だけに留まらなかった。
翌日、野生の雲山が幻想郷全土で猛威を振るっているという報告が命蓮寺に届いた。
、
きっかけは、紅魔館の妖精メイドに扮装した雲山12匹が
十六夜咲夜の手により捕らえられ、命蓮寺に送り届けられたことだった。
白玉楼では、妖夢と死闘を繰り広げるも勝負がつかず、
夕陽をバックに川原で妖夢と友情を誓い合う雲山が1匹、
迷いの竹林では、てゐの仕掛けた落とし穴に引っかかってた雲山が3匹、
彼岸では、小町の手違いにより河を渡ってしまった雲山が5匹、
守矢神社では、賽銭箱に奉納されていた雲山が9匹、
地霊殿では、さとりのペットになっていた雲山が12匹、
人里では、寺子屋で慧音の授業を何食わぬ顔で受けてる雲山が15匹、
博麗神社では、縁側で日向ぼっこしてた雲山が21匹、
魔法の森では、アサルトライフル片手にダンボールを被って銃撃戦していた雲山が38匹、
計101体の雲山が、命蓮寺の者の手によって新たに回収された。
101匹ワンちゃんならぬ、101匹ウンちゃん状態であった。
しかも漏れなく全員が八頭身である。酷い話である。
100を超える八頭身雲山が命蓮寺の前に集められた光景を想像してみて欲しい。
「もう私、命蓮寺出てってもいいよね……」とナズーリンをして言わしめるほど、
あまりにも壮絶な光景だった。世はまさに大海賊時代どころの騒ぎではない。
「♪ありったけの雲山ー! かき集めー!」とか歌えるレベルである。
何故これほど雲山が大量発生しているのか原因を突き止めるため、
命蓮寺では緊急の雲山対策本部が設置された。
会議室(星の部屋)に集まった白蓮・星・村紗・一輪・ナズーリン・ぬえの6人は、
バックでエグザイルの回転するやつを踊り続けている雲山6名を尻目に、議論を開始した。
「雲山が後ろでエグザイル踊ってんの止めろよ!」等と言うものはいない。
雲山が頑固者で、一度やると決めたことは譲らないと、皆判っているからだ。
ファンファンウィーヒッザステーステー、という雲山の合唱が響く中、
最初に口を開いたのは、命蓮寺最後の良心ことナズーリンだった。
「どうするんだいこれ! っていうか雲山の管理は一輪、キミの仕事だろう!?
自分の入道の管理くらいしっかりしてくれ!」
しかしそれを聞いた一輪は激怒した。
「管理って……雲山はモノじゃないのよ!? そりゃ確かに私の入道だけれど……。
彼にだって、自由を求める権利があってもいいはずよ!」
ナズーリンも熱くなって反駁する。
「そんなことはわかっているよ! ただ限度って物があるだろう!?
幻想郷中にこんな迷惑を起こしてしまったんだ。それをまず認めてくれ!」
「二人とも、落ち着いて!」
星と村紗が、今にも取っ組み合いを起こしそうな二人の間に割って入る。
白蓮も二人の間に入り、険しい顔でナズーリンと一輪の顔を見回すと、口を開いた。
「落ち着きなさい2人共……! こんな争いをして一番悲しむのは、雲山なんですよ!」
「!」
ナズーリンと一輪はハッとして、エグザイルよろしく回り続ける雲山の方へ顔を向けた。
6人の雲山は、回転を止めることの無いまま、ナズーリンと一輪のことを見つめていた。
しかし、彼はとても悲しそうな表情で、心なしか瞳に涙を溜めているようにも見えた。
「う、雲山……!」
湧き出る罪悪感に、ナズーリンと一輪は言葉を失った。
2人はすまなそうな顔で畳の上に膝をつくと、雲山へ土下座した。
「すまない、雲山……。キミの事をもっとよく考えて、発言すべきだった……」
「ごめんなさい、雲山……! さっきの行動は、入道使い失格だったわ……」
雲山はそれを見ると回転を止め、2人の方へ歩み寄り片膝を突き、2人の肩をポンポンと叩いた。
そして2人が顔を上げると、「いいんだよ」と言うかのようにふるふると首を振った。
宇宙よりも広い雲山の心に、ナズーリンと一輪は思わず号泣した。
「すまない……ありがとう、雲山……!」
「雲山……、ありがとう、雲山……!」
ナズーリン・一輪・雲山の計8人は、膝をついたままひしと抱き合った。
それを見届け、白蓮・星・村紗・ぬえの4人も微笑んだ。
嗚呼、素晴らしきは家族の絆かな――
雲山は心からそう思いながら、そっと瞳を閉じた――
――――――――
――――――
――――
――
「ぬおおおおおおっ!」
雲山は勢いよく起き上がると、布団をはね退け、額に浮かぶ汗を腕で拭った。
カーテン越しの窓から差し込む光は明るく、既に朝であることを示していた。
それにしても嫌な夢を見たものだ、と雲山は思った。
雲山は大きな溜息を吐き、先程まで見ていた夢の内容を思い返す。
自分の体が八頭身になって、100体以上に分裂する夢だったのである。
そんな恐ろしいことが現実にあってたまるかと思い、身震いする。
隣では、すうすうとかわいらしい寝息を立てて一輪が眠っていた。
それを見て、自分が穏やかな日常に戻ったことに安堵した。
――特に予感めいたものがあったわけではない。
ふと雲山は、一輪の使っている鏡台を立ち上がって覗き込んだ。
鏡の中に写っていた自分の姿は、どこまでも果てしなく完全な八頭身だった。
時々笑い声が漏れたりしながら読みましたけど、101体の雲山や
尻の説明とか、こうなった原因を考えているときとか色々と面白かったです。
テンポ良く読み進められました。面白かったです。
エグザイル踊る雲山は想像するだけで吹く。
誤字報告
命蓮寺の居間に終結したことになる。
終結→集結
エグザイル雲山の破壊力が有り過ぎです。ヤベーよ、雲山。
あと、M字開脚キモ過ぎて笑いました。
いやもうシュールとしか言いようがない。
うん、101匹ウンちゃんは酷いと思うんだ。
あと「♪ありったけの雲山ー!」とか。
盛大に笑わせていただきました。
あとがきで腹筋がやべえwwwwwwwww
場面を想像すると笑えます!
とりあえず、そこの四匹、前に出ろ。
3匹くらい飼いたい。
…あ、全部かwwww
単純におかしかったです(作者様の頭がw
何この無限ループwwwwwwwww
俺たちに何を求めてんだwww
笑えばいいと思うよ
りせいの ほうそくが みだれる!!
なにこの雲山こわいwww101匹ウンちゃんこわいwwww
そそわでここまで笑ったのは久しぶりです。有り難う。
異変だなwこりゃwww
船長盗まれ過ぎwww
「隣では、すうすうとかわいらしい寝息を立てて一輪が眠っていた。」
どういう事なの・・・
ウンちゃんって響きがなんかウン●みてーだなとか思ってしまった