・( )の中は妹紅の心中です。
ある日のこと。
藤原妹紅は里内をぶらついていた。足りなくなった日用品と、いくらかの嗜好品を買う為だ。
簡単に目当ての品を買い揃え、家路に着こうとしていたのだが……
……妙だった。
今日は周りの眼がおかしい。
確かに久しぶりに里へ来たものの、自分があまり此処へ顔を出さないのは住民皆わかっているものだろう。
ただ、珍しいモノ見る視線では無かった。かといって殺意を帯びた刺々しい視線でもない。
なんか、こう……ソワソワする。
男衆はそんなでも無いのだが、女衆の眼がおかしかった。まるで『色男』を見るかのような……
兎角、疑問を覚えながらも一応里に来た際は顔を出すようにしている半獣―――上白沢慧音の下を訪れることにした。
「こんちわー」
勝手知ったる他人の家。ノックもせずに扉をスライドさせた。
「けーね。邪魔するよ」
返事がない。ただ奥の方でゴチャゴチャ話声がする。
妹紅は居間へ向かって歩き出した。
「慧音? 上がったよ」
「―――も、妹紅!? い、いらっしゃい。一声かけてくれよ。吃驚するじゃないか」
「声かけたって……お?」
「こんにちは。妹紅さん」
物腰柔らかな女性。小兎家の当主―――小兎姫が居間に座っていた。
「今ね、丁度アナタの話を―――んん!」
「何でもないぞ! それより久しぶりだな! 何日ぶりだ!?」
「一昨日会ったばっかりでしょ……」
姫の口を押さえながら、目が泳いでいる慧音。
怪しい……
「そういえばさ、なんか里の連中、特に女なんだけど……私を見る目が変なんだ」
「え、あ……気の所為さ。うん、気の所為。それより今度の宴会の件だが―――」
「んんんん! んん、んんんんん!」
明らかに動揺している慧音ちゃん。そして暴れる姫さん。
妹紅はふと、小兎姫が何か持っているのに気がついた。
「何それ? 本?」
「い、いや! これは私の詩集だ! あまりの乙女チックなポエミーに、姫さんがホイホイ喰いついたのだよ」
「んんんん! んんん、んんんんんんん!?」
明らかに、嘘、だ。
「……ふーん。ねえ、私にも見せてよ」
「ダメだ!! わ、私の繊細な心の叫びを覗く気か!?」
「何よ、繊細な心の叫びって……」
「……ん、んんん」
妹紅は小兎姫と目を合わせた。
―――……キラン!
小兎姫から妹紅へのキラーパス! 慧音、カット失敗!
妹紅は本の題名と作者を見た。
「何々……『永遠日記 - 作:幸兎 監修:月姫』? 小説じゃん。何が詩集よ」
「あッ!」
「ぷはっ。ああ、苦しかった。でもいい臭い御馳走さま。
きっとその本の所為で妹紅さんを見る眼が変ったんですよ、はい」
「この本が……?」
やっと解放された小兎姫。慧音は、あっちゃー……と天を仰いだ。
妹紅は本を開いた―――
* * * * * * * *
〈始めに〉
この物語は実際の出来事を基に小説化したものだ。
ただ、二人の関係はあまりにバイオレンスすぎる故に、私は編集・監修者の下『修正』を入れながら執筆にあたった。
多少表現を『代え』、読み易くしたつもりである。
* * * * * * * *
「へー。随筆みたいなもんかな。でもなんでこんな曖昧な表現してるの?」
「姫……逃げるぞ」
「え?」
* * * * * * * *
人妖、出会いは唐突で何時運命の人と巡り合うものかわからない。
彼―――フィジーラ・モコータン(……どう考えても、私)に至っても同じであった。
彼が何時幻想入りしたかは定かではないが、予てからの『思い人』であった彼女―――ホライズン・カグーヨ(どう間違えても、輝夜)姫と此処、幻想郷で巡り合った。
きっと……運命なのだろう。
これは出会った当初の二人の関係である。
《↓本文》 《↓真実》
「輝代……」 (輝夜……)
「モコターン……今日も来たの?」 (妹紅……今日も来たの?)
「いいだろ……別に」 (いいだろ! 今日こそ殺してやる!!)
当時の姫君は真性の引籠りであった。
頻繁に出歩く『姫』というのも想像できないが、この頃は特に外に出なかった。
この頃、永久亭(捻りが無いほど、永遠亭)参謀―――ヤイココル・エリーン(原型崩す気ないだろってくらい、永琳)は姫を表に出そうとしなかった。
姫君もその考えに賛同。己の足で亭の敷地外から出ようとしなかった。
故に彼は客人として亭から優遇されていた。エリーンが公認していたのである。
尤も、彼女らは彼の事を暇つぶしの遊具程度にしか思っていなかったのだが……
「ん……」 (クッ!)
「あ……ちょっと。いきなり、がっつかないで」 (チッ……いきなり全快ね)
「いいだろ」 (フン。嘗めるな)
「や、だ、あ……服が汚れ、ちゃう……んっ」 (待ってよ。服が破れるじゃない)
「気にしない」 (知るか)
この頃の二人の関係は本当に『身体』だけ(殺し合い的な意味)の関係であった。
片や念願の『思い人』(殺人対象)。片や退屈な日常を発散させるための『オモチャ』。
歪んでいるが互いに満足する為に、身を任せあっていたのである(殺し合い的な意味ね)。
「ふふ……本当にアナタのお父様に瓜二つね」 (ふふ……そのしつこさ、きっと血筋ね)
「五月蠅い! 父上の話は……するなッ!」 (五月蠅い! 父上を馬鹿にするな!)
「ああっ! んぅ……つ、よい……」 (クッ! 強い……)
モコターンは自分の父親の話をされるのが嫌で仕方なかった。
父を弄んだ女を、今自分が追いかけている(殺人対象ね)。何という莫迦げた話。
カグーヨの心中は、行動言動とは裏腹に複雑であった。
表面上は彼を弄ぶ雌狐を演じているが……本心は彼に『償い』をするつもりであった。
あの子の心を荒ませたのはこの私が原因。
もしそれが晴れるのであれば、罪に穢れしこの身を好きなだけ貸してやろう……
そう考え、彼に身を任せていたのであった。
「あぁ! すごい、すごいわモコターン!!」 (あはは! 楽しいわね妹紅!!)
「くそ! 黙ってろ!」 (くそ! 黙ってろ!)
「んん……じゃ、あ……えい!」 (ふふ……それじゃ、えいッ!!)
「くっ……ああ! や、ばい」 (うわ! やるわね……)
モコターンは自分の『想い』を思う存分ぶつけた(殺し合い的な意味だから)。
もはや狂っていると言ってもいいほど激しい行為(殺し合い的な意味よ)。
飢えた獣の様にカグーヨの柔肌へがっついた(殺し合い的な意味だって)。
カグーヨは慰めた。彼の『想い』を受け止めた。
壊れてしまったモコターンの心を再び元に戻す為に……
「くそ! くそ! うぅ……」 (畜生ッ! 痛いッ!)
「いい、のよ、モコターン……好きなだけ、求めてきて」 (いいのよ妹紅! 好きなだけかかって来なさい!)
「この……!」 (この……喰らえ!)
「ああ! いいわモコターン! んぅ、もっと、もっとおぉ!」 (ああ! 流石妹紅。でも、それで終わり?)
「はあ、はあ……」 (はあ、はあ……五月蠅い)
背徳的な行為(殺し合い的な意味って言ってんでしょ)は時間を増し、さらに激しくなる。
服は破け、美しい珠の様な肌が露わになっていく。
歪んだ二人は互いの肌の温もりを求め続けた(……殺し合いだってーの!)。
この頃は、見るに堪えなかった。
長年二人を見て来た私―――イナフ・テウィー(なんでもっと変えないのってくらい、てゐ)から言わせれば只の自慰行為にしか見えなかった。
彼は分かっていたのだろう。この行為に意味は無いと。
姫は分かっていたのだろう。慰めるつもりが、実は慰めて欲しかったのだと。
「カグ……ヨぉ……!」 (輝……夜ォ!)
「いい、のよ。モコ……ん! 好きな、だけ……ああ!」 (いいのよ妹紅! どっからでも……うわっ!)
「いい、かげんに……しろォッ!」 (嘗め……るなッ!!)
「んんんぅ! もっと! もっと頂戴!!」 (きゃあ! ……こ、このぉ!!)
「黙、れ! ……ああぁ!! もう……うッ!」 (速い!? キャッ! うわああ!!)
「あはは! もう、イっちゃったんだ……」 (あはは! もう死んじゃったの?)
「はあはあ……まだだ、よッ!!」 (はあはあ……まだだ!)
「え、あ、無理無理無理! そんなのって……あああああ!」 (え……あああああ!)
「ふぅ……あ……」 (よっしゃ! あ……)
この日は二人同時に果てた(相撃ちってことです、はい)。
二人のこの関係は数百年続いた―――
* * * * * * * *
途中まで読み、妹紅は全力で飛んだ。自分が買い物していたことも忘れて飛んだ。
何処へ? 勿論……作者の下へ。
数分ぶっ飛ばし、作者が居ると思われる場所―――永遠亭に着いた。
守衛の門番妖兎にガンを飛ばし、勝手にズカズカと敷地内へ上がり込む。
そして―――
「因幡ァ!! 輝夜ァ!!」
有らん限りの大声で叫んだ。
それはもう、子供が聞いたら泣いて逃げるくらいドスを利かせて。
「も、妹紅さん!?」
「……へにょり。二人を連れてきなさい!」
「い、今、文屋から……その取材を受けてて……」
「何の!?」
「……本の」
ブチッ……―――
「今すぐ、私の前に二人を連れて来なさい……さもなくば永遠亭を消し炭にするわ!」
「ええ! そんな……もっと温厚に、」
「アンタもあの本読んだんでしょ!?」
「まあ……でも、此処を燃やさせるわけにはいきません!」
「……そう」
果敢にも目の前の爆発寸前のダイナマイトに挑むウサ耳少女―――鈴仙・優曇華院・イナバは幻視の眼を使って妹紅を撃退しようと対峙した。
が……
「……あぁん?」
「……利かないの」
「あのね……私、今怒りで周りが見えてないの……幻視とか魔法とか……んなもん利くかァ!!」
「きゃああ!」
ありえない。どのくらいありえないかって言うと、ギャグ補正くらいありえない。
何を言っているかわからないけど、そのくらい非常識だ。
加え、鈴仙は雲山宜しく妹紅の眼(メンチ)力に蹴落とされ腰を抜かした。
スナック感覚で自分の耳を齧ってくる姫様並に恐ろしかった。
「邪魔するよ……」
「ひえっ……」
今にもちびりそうな鈴仙を後目に永遠亭に上がり込んだ。
* * * * * * * *
「―――ほうほう。つまりお二人のこのベストセラー小説は輝……月姫さんの実体験から来てると」
「ええ。始めは歪んだ愛だった二人が、時を刻んでいくうちに真の愛を見つけ出すの!」
「……あはは。では幸兎さん。これはなかなか過激な『表現』で描かれていますが、其処の所は何故ですか?」
「『嘘』は書いてないウサ。民衆は刺激を求めている。ニーズに合った『脚色』をしたつもりさね」
永遠亭・謁見の間。
そこに三つの人影が並んでいた。
一つは文屋―――射命丸文。一つは謎のベストセラー作家、『幸兎』。もう一つはその監修者、『月姫』のものだ。
この日、文は巷で流行りの恋愛小説、『永遠日記』の取材に来ていた。
無論、明日の記事にする為に。
「そうですか……では最後に―――」
―――ドーンッ!!
「輝夜ァ!」
「ゲッ! 拙い!」
「あ、もこぐやああああん!」
襖を突き破って妹紅は突入した。
振り向いた『月姫』の顔に突き刺さるような膝蹴りを入れ、次に『幸兎』の胸倉を掴んだ。
「テメェ因幡……覚悟はできてるんでしょうね?」
「な、なんのことだかわからないね」
「惚けんな! コレだコレ!!」
妹紅は慧音の家から持ってきた本を掲げた。
「ああ……それね」
「何だと!?」
「で?」
「コレ書いたのお前だろ!!」
「さあ。知らないね。第一ペンネームなんだし誰だかわかるわけ―――」
「よくぞ見破ったわね! 妹紅!」
「……阿呆が」
なんと大人気作家『幸兎』と監修者『月姫』とは―――因幡てゐと蓬莱山輝夜だったのだぁ。びっくり。
「第一なんだこれ? 殺し合いのはずが……その……アレな表現に……」
「え、よく聞こえない。もこたん、なんて言ったの?」
「だからその……アレな……」
「アレってなーに?」
「……」
ニヤニヤしながら迫ってくる輝夜に挿絵のページ(永琳作のきわどーい絵)を開いて顔面に叩きつけてやった。
「文屋」
「……はい」
「焼き鳥にされるか。今の取材のメモを渡すか。どっちがいい」
「どうぞ」
躊躇なく取材メモを渡す文。
一様もしないうちに燃え尽きた。
「で、ではまたお邪魔します! ごゆっくり!!」
「あ、逃げた」
「さて……お前ら、言い訳(遺言)を聞くわ」
二人の頭を鷲掴みにする妹紅。
「誰も本名でなんか書いて無いよ!」
「そう……来世はもっと上手なネーミングを考えなさいね。あと、なんで私が『男』なのよ!」
「あら? 逆の方が良かった? 男な私が妹紅を……えへへ」
「爆ぜろ」
右手の輝夜の頭部が吹っ飛んだ。すぐに復活。また掴む。
「ひ、表現の自由ウサ!」
「だからってプライバシーがあるでしょ?」
「妹紅! 私達の愛は民衆に知らしめる必要があるわ!」
「ヴオォルケェイノオオオオオオォォアアアッ!!」
「「ぎゃあああああ!!」」
その日永遠亭に火柱が立った。
* * * * * * * *
翌日、文々。新聞、エンタメ面にて。
―――人気作家『幸兎』。大火傷により新刊発売未定?!―――
「幻想郷ブックランキングにて5週連続1位を獲得していた『永遠日記』。
その作者『幸兎』さんが先日、新刊の発売を先延ばしにすると発表した。
理由ははっきり伝えられていないが、氏は何らかの原因により大火傷を負ったと言われている。
なお、作者は需要が大きいようならば、なんとかして続編を出版したいと述べている。
(略)
文々。新聞では先生へのファンレターを預かっています。
ファンレターを出したい方は気軽に声をおかけください。連絡先は―――」
おもしろかったですw
姫様の愛が痛いwww
ちょっと出てた小兎姫さんすら伏線に見えてくる不思議。
こんちはーの誤字?
最近わざと『わ』にする人がいるけど(訳が分からん)、この後に「こんにちは。」というのがあるので一応
>利かないの?
「効かない」の間違い・・・なのかな?わかんねww
3番様、たぁ様・・・ありがとうございやす!
5、14番様・・・書いててカリカリ鳴ってました。姫様の愛は歪んでますねぇ(棒
こっとんは伏線でした。すいません。
8番様・・・「いつだって、私が苦労する……鬱だ。死のう……ちょ、てゐ! 押すな! し、死ぬ!」
11番様・・・是非に、やっていただきたいw
10、16番様・・・ありゃ、ご指摘ありがとうございます。
次は星組を書けたらいいなぁ、と。でわ!