クリスマスキャロル分を含みます。今から映画を見ようとしてる人はネタバレ注意!
どうしてこうなった?私が寝ている間になにがあった?
目が覚めると、我が紅魔館でいっとうにくつろげるはずの部屋が大変なことになっていた。
ああ、思い出せない。この部屋はいつの間にハーレムになったんだろうか。改築した覚えもないのに……いや、したっけか?私のことだからなんとなく思ったことを無意識に運命操作で実現させちゃったかもしれない。なにしろ寝ぼけて能力発動させた前科は両手じゃ足りない私だ。自ら起こしたハプニングには慣れっこだ。
しかし今現在、第六感が「これはまずいぞ」とガンガンに訴えてきていて、原因不明の焦りが私を攻撃している。そう、抜け出せないハーレムなど生殺し的な意味で拷問部屋に等しいし、普通の部屋からハーレムになるまでの記憶と経過がすっとんでいるのは間違いなく異常事態だろう。頭を整理して、解決策を練らなければならないようだ。
「お姉様、本を読んでほしいの」
最愛の妹――フランドールが、私とのお茶会に一冊の本を持ってきたのが始まりだった。本の題名は『クリスマス・キャロル』で時期はずれな気がしたが、
「一緒に読んで予習して本番に備えるの!」
と言われれば読んでやらない理由はない。
悪魔なのにクリスマスするのかよと言うやつには視力検査を勧める。うちの妹の天使のような悪魔の笑顔を見てあらがえるなんてド近眼か超遠視だろう。
天使のような悪魔の笑顔って、それ悪魔じゃねえか!騙されないぜ!などと言うやつは愚か者だ。紳士淑女ならいついかなる時もこの砂糖入りハチミツの笑顔にはスマートに騙されて然るべき、ということを小十時間語らなければなるまい。
もちろんこの笑顔にどっぷりとはまっている淑女・オブ・淑女の私は、フランとひとつのソファにぴったりと寄り添って座り、クリスマスパーティーを紅魔館の全力をあげて盛大に行うために、メイド長の咲夜も隣に座らせた。
そして私は両隣から期待のこもった目で見られながら、朗読を始めた。
無邪気な少女とお淑やかな乙女に囲まれて、私はとても気分が良かった。
『キャッキャッウフフ』という言葉を我が紅魔館で振り分けると、妹が『キャッキャッ』で『ウフフ』が咲夜だろう。
パチェと私は親友という美味しい設定があるが、駄目だ。パチェは本に没頭して心此処にあらず話し半分といった感じだし、そもそも私たちでは話す内容がどうにもアダルトになってしまい、キャッキャッウフフに適してない。フランの幼げで明るいソプラノと、咲夜の深みのあるアルトでぬる甘ったるく奏でられる『キャッキャッウフフ』、これこそ幻想郷最高品質、信頼の紅魔館印だぞと胸を張って言えるものである。
それをステレオで楽しめるこの部屋はまさしくハーレムで……って、ハーレムの前準備は出来てたわけね。でもこの時点ではまだ抜け出せるハーレムだった。出ようとは少しも思わなかったけど。
空気が間延びしてきたのは物語が半分も進んだところだっただろうか?意地悪な主人公が変な精霊に変な夢を見せられているあたりで、フランが私の肩にもたれかかってきた。
話の流れで笑えない場面が続いていたし、さっき食べたおやつは美味しくて(咲夜の作ったものだから当たり前だけど)満腹になって眠くなったのだろう。
ならばそのまま眠らせてやろうと、私は声を小さくして朗読を続けた。
この本はフランのチョイスだろうな。クリスマスと言う単語だけを見て、中身をパチェや小悪魔に確認せず持って来たんだろう。主人公はクリスマスをちっとも楽しんでいないどころか「クリスマスなんてくそくらえ!」なんてことばっかり言っていて、幸せそうにしている人や幸せになりたいと願う人に酷い言葉を投げつけている。
そんなやつが話の軸だから、祭りの前の騒々しさとか楽しみで浮き立つ気持ちの描写が少なくて、この本は資料には到底なりそうにもなかった。クリスマスは人間のする祭りだと思ってたから興味も知識も持っていないけど、主人公のしていることは間違った行為なんだろうと思う。これはさっと目を通すくらいにして、次の本はパチェか小悪魔に用意してもらうことに決めた。
程なくフランの体から力が抜けて私の半身にささやかでふんわりとした体重がかかり、眠りについたのを悟る。寝顔にかかる髪をそっとよけてやると、鼻がぴくりとくすぐったそうに動いた。
今日も、可愛いなぁ。
妹の寝顔を見てにやける私は姉バカで、こんな顔を他人に見られたらカリスマが下がりそうだと危惧する。が、無理に隠そうとしては息が詰まってしまうだろう。凛々しく頼りがいのある姉を維持するのは大変で、とても姉甲斐がある。妹にデレデレして失うカリスマ分など、余所で補填すればいいのだ。妹の可愛さと私の愛は永劫揺らぐものではない。
物語は静かに進む。当たり前だが、主人公は生まれたときから偏屈頑固ジジイだったわけではなく、徐々に思いやりを忘れていったらしい。今現在伴侶も子どもも居ない彼は精霊によって愛に溢れた家族を見せられ、動揺していた。
ふと、思う。私も、もしかしたら。
振り返ったときに家族が居なければ、冷えてしまっただろうか?
苦しく辛いときに支えてくれる家族がいなければ、頑なになってしまっただろうか?
咲夜がふっと立ち上がり「失礼します」と言った次の瞬間、厚地のタオルケットが彼女の手元に現れて、私とフランの膝にかけられた。
どことなく咲夜に似てる気がするタオルケットだ。清潔な匂いで包んでくるところとか、触れていると秋の日だまりのようなふわふわとした切なさが湧いてくるところとかが、そっくりな気がする。
ああ、面白いな。名前に夜を含ませたのに、日だまりの感触に似てる、なんて。
面白くって本当に、手放せないよ。
さりげなく渡された紅茶で体が暖まって。妹の穏やかな寝息と咲夜の優しいほほ笑みに心が温まる。いまこの部屋はどう見ても悪魔の館らしくないだろう。
だけど私は満ち足りた思いで『愛する家族と過ごせるのを幸せと言わずになんと言う?』なんて感じ入りながら、まどろみはじめた。
あー思い出したばっちり思い出した。 フランが寝て、私が寝たんだ。で、その後に咲夜が私の膝を枕にして寝たと。これで間違いないだろう。すっきりした。
が、しかし。原因を思い出しただけでは解決しない問題だったようだ。むしろ思い出して得られたものはほとんど無く、分かったのは『何ものかに眠らされたのではなく、自主的に寝た』ということだけ。悪い情報ではないが少しも有益な情報ではない。
困った。やっぱりどうにもこうにも抜け出せない。身体的には二、三時間同じ姿勢でも耐えられるが、状況が悪すぎる。
まず、フランが私の肩に噛み付いている。どんな夢を見ているか分からないけど、あぐあぐとやわく咀嚼するものだからそれなりに痛い。しかも種族的に顎が疲れにくいため、放っておけばいつまで続くか分からないわけで、痛いのが好きじゃないお姉ちゃんは憂鬱になってくる。
そして咲夜。
私の方を向いて寝ているため、端正で私好みの顔がよーく見える。いつものすまし顔が幼げにゆるんでてすごく可愛くて、おでこにかかる髪をあげると更に可愛く見えて愛情が不夜城レッドしそうになった。
なのに。くそう、なんだこの状況……!
常ならちゅーの一つでもかましてる態勢なのに、状況が悪くて何も出来ないこのもどかしさ。フランのふにっふにの頬にしようとしても微妙に届かず、咲夜にしようとすればフランの頭が私の肩から落ちてしまうだろう。まさにここは生き地獄。神は、居ない。
だから祈ることにした。
神さまが居ないと悪魔稼業はやっていけません、たすけてー!
「ああ良かった門番長!メイド長の居場所を知りませんか?」
「ごめん、知らないなぁ。ご飯の下ごしらえはしてある?してあるなら、それ使って調理し始めていいよ。咲夜さんは私が探しておく」
「分かりました」
目星をつけて館内の気配を探って見ると、いたいた、やっぱりあの部屋だった。人が一人に妖怪が二体で間違いなくあの三方だろう。お菓子がまだ残っていることを期待しながら足を運ぶ。
ノックを二回。二秒待って、失礼しますと一声かけ入室すると、
「神さまっ!」
「へっ?」
お嬢様から神さまと言われた。
肩を妹様にかぶりつかれ、膝に咲夜さんを乗せたお嬢様は身動きが取れなくて辛かったのだろう、とても疲れた顔をしていた。
「災難でしたねぇ」
「まったくよ。地獄を味わった」
「ああだから神様待ちを、ってお嬢様は悪魔じゃないですか」
「太陽が無ければ月は輝けないのと一緒よ。憎かろうともあいつの存在は認めざるを得ないし、利用出来るときにはするべきでしょ」
「それはそれは」
「で、どうにかして頂戴。お菓子つまんでいいよ」
「合点承知致しました」
サクサクサクサク。お嬢様方が好みそうな、りんごの香がほのかにする軽い口当たりのクッキーだ。
私がクッキーを食べる様子を見て、疲弊した顔色にもの悲しささえ漂わせたお嬢様の口にも一枚入れてあげる。もともと貴方のためにと作られたもの、全部食べたりはしませんって。
「良く寝てますね」
「ええ、痛あったかいわ」
「長年お側に居てそのような特殊な性癖があるとは気付けずにいたのは、ひとえに私の不徳の為すところであります」
「気持ちいいとは言ってないぞ」
「でもご機嫌は良さそうです」
ふんと鼻を鳴らしてまぁねと言うお嬢様はさっきからずっと笑っていて、どこかこの状況を楽しんでいるように見えた。
「さてどういたしましょう」
「起こして欲しくはないのだけれど」
「では、妹様を自室へ運びましょうか。咲夜さんを運んでる最中に他のメイドに見られたら何事かと驚かれてしまいますし、態勢的にもこっちのほうが楽になると思います」
「そうね、そうして頂戴」
「では、お運びします」
「頼んだ」
お嬢様が妹様と組んでいる腕をゆっくりとほどいていくと、妹様が頭を動かした。あの噛みつきだと絶対牙が刺さっているはずなのに、お嬢様は涼しい顔している。妹様の小さい体躯の首と膝裏に腕を差し入れ持ち上げると、やはりお嬢様の肩口の妹様に噛みつかれていた部分に血が付いていた。こんな仕打ちを受けてもうめき声一つあげないとは、まこと吸血鬼の愛は紅く底知れぬ。見習いたいけど見習えない姉妹愛だ。
背中でドアを押し開けていると、読書をするお嬢様と横になっている咲夜さんが見えた。滅多に見れぬ珍しいものに感じて、つい凝視してしまう。
けれどその光景は違和感なく部屋に収まっていたから、なんだか嬉しい気分になって部屋を後にした。
「んむぅー」
「起きちゃいました?」
目が覚めると、ゆらゆらした場所にいた。
昨日、パーティーが大好きなお姉様にぴったりなイベントを見つけた。それはクリスマスと言う日(もうすぐらしい!)に家族みんなで集まってする、赤色がメインカラーのお祝いごとらしい。これはとっても良いイベントを見つけたんじゃないかとワクワクして昼前まで眠れなかったから、寝不足になっちゃったみたい。それでいつの間にか眠っちゃって、今は美鈴の抱っこで、多分わたしの部屋に向かってるのかな?
パチュリーが貸してくれた本がつまらなかったわけじゃない。お姉様の優しい声がいけなかったんだ。あの声はわたしをひどく安心させるから、うん、わたしは悪くない。明日また咲夜にお菓子を用意してもらって、お姉様に続きを読んでもらおう。
「明日は美鈴も一緒だといいね」
「そうですねぇ。できたてがやっぱり美味しいですからね」
「お菓子はオマケだよ。目的は、クリスマスなんだから」
ぎゅむぅっと美鈴のほっぺたをつねると、すみまへんと間抜けな声ですぐに謝ってきた。「なにが悪かったかちゃんと分かってる?」
「くりふまふをへんきょうしたいでふ」
「そうだけどそれだけじゃない。けど、おはようのちゅーしてくれたら許してあげる」
「しまふしまふ」
ああそうだ、クリスマスに向けてお菓子作りも勉強しようかな?作れるようになったら、咲夜ばっかりじゃなくてわたしのお菓子が目的になって、わたしのところに来てくれるよね。
つねられて変な顔のまま近寄ってくる美鈴の顔を見ながら、そんなことを思った。
あいかわらずのおでこにちゅー。もどかしいけど、片思い中が楽しいのです、なんて咲夜が言っていたから、もうちょっとだけはこのままでいい。
「紅号に停車命令だよ!目的地を、美鈴の部屋に変更!で、夕食までわたしと一緒に居ること!」
「イエス、マイレディ」
けれどそろそろ我慢の限界。幼稚なキスには飽きてきちゃった。美鈴の首に腕を回して耳元に顔を近付ける。
手に入れたければ、追い詰めにいかなくちゃ。
「今からわたしと遊ぶのだから、覚悟してなさいね?」
……本気を出す予告のつもりで小さくささやいてみたら、びくびくしながら焦られた。はぁ、鈍感相手は先が見えないなぁ。
ふう、読了。これは参考になる良い本だった。クリスマスの盛り上げ方とかそういう俗っぽいことでなく、クリスマスへ向けての心構えを学べた。
それにどこかの神様を祝うのだと思っていたが、それは間違っていたようだ。
この本でクリスマスの本質と祝い方を学べなかったら、私はクリスマスを忘年会込みの宴会として大規模に企画して騒ぎ、そのまま新年会へ強行しただろう。
うん、明日から早速準備にとりかかれば間に合うな。暖炉を作らせて、クリスマスに相応しい料理を作れるように練習させて、勿論プレゼントも用意しなければならないから、私もきっと大忙しになる。
博麗神社でする宴会のような大騒ぎなどせず、暖かく快適な部屋でゲームや雑談に興じ、ワインとターキーを楽しむんだ。いつもと趣向が違うからそれだけで楽しみになってくる。我が家の全員と友人の出来るだけ沢山を呼んで、みんなで祝いたい。きっと素敵なパーティーになるだろう。
にしても咲夜、よく寝てるなぁ。ヒマ過ぎてカチューシャを外してみたけど身動ぎ一つしないし、昼寝しているのをこんなに長時間にわたって見るのは初めてかもしれない。
疲れているのかと心配になり顔を覗きこむと顔色は良くて、額を触った感じ熱もなくて安心する。
……寝やすいように、首回りをゆるめてやろうかな。決してやましい気持ちからではなく、従者の快眠を思っての気遣い。決してやましい気持ちはなく、さりげない優しさから。決してやましい気持ちのない、えっと、とにかくやましさは無いったら無い。普通に考えて、寝るときは首回り楽なほうがいいよね。今更とか考えない。いつだって良い方向に考えるのが人生を有意義に過ごす秘訣だ。
耳をすませて周囲の確認をする。
よしよし大丈夫だ。では。
待ってろ鎖骨、いざゆかん!まずはリボンから――
――ビクッ!
「わぁっ?!」
そうだ胸元と首回り弱かったよねゴメンってびっくりしたぁ!
「……ん」
触れて起こしてしまったかと思ったが、大丈夫だったらしい。やり場の無くなった手で咲夜の髪を撫でる。サラサラで、指に引っ掛からないいつも通りの手触り。しばらく撫でるとどきどきしていたのが落ち着いた。
くそう、熟睡してると思って油断してた。自業自得だけど、情けない声が出てしまったのが恥ずかしい。滅多にない状況に浮かれていたようだった。
「まったくもう、咲夜ったら」
笑っていると咎める声色は出ないものなのか。自分の甘ったるい声にふっと苦笑してしまう。
「……申し訳ありません」
「ん、おはよう。起こしちゃった?」
もうちょっとこの状況を楽しみたくて、起き上がろうとするのを銀髪の上に乗せっぱなしだった手で押さえ付ける。
「すみません、長い時間身動きとれなくしてしまって」
「いいよいいよ。本読んでたし」
「いえ、あの」
「ん?」
なにか言いたそうにしてるけど、なんだろう?きっと言いにくいことだろうけど、あ。さっき私に触られたのが嫌だったのかも?反応もかなり大きかったし、きっとそうだろう。
「首回りをゆるめようとしたんだけど、驚かせちゃってごめんね」
欲望のまま胸元をはだけさせようとしたとは言わず(当たりまえだが)、謝りながら話をすりかえる。先手打って謝ればそれ以上の詮索はしてこないだろうとかも、ちょっぴり思ってたりする。
「いえ、あの」
「んん?それじゃないの?」
はい、と小さな声と首肯。違ったらしい。良かった、ばれてない。
「怒んないから言ってごらんよ」
「起きて、たんです」
「は?」
「寝たふりを、してたんです」
「えっ」
なんと。全然気付かなかった。
「いつから?」
「お嬢様が本を読んでいる間に起きました」
「あー分からないけど分かった」
熱中して読んでいたから気付かなかったんだろうな。
「寝ているお二人が、気持ち良さそうに見えてしまって」
「うん」
「夕食の下ごしらえを済ませて、自分のタオルケットまで用意して」
「いそいそと?」
「はい。膝を、勝手にお借りしてしまって」
「構わないよ。暖かかったし」
それと引き換えに動くのを制限されて地獄を味わったが、幸せな罠だったと思っておこう。喉元過ぎて熱さは忘却の彼方だ。
「何故か離れたくなくて、目が覚めても寝たフリまでして」
「そ、そう」
なにこの可愛い人間……!私と目を合わせまいとする咲夜に悶える。普段の彼女とのギャップが凄まじくて、理性をグングニルのように投げ飛ばしそうになった。寝ぼけ万歳。明日から一日三十分私の前で寝ぼけさせよう。
「本当に、申し訳ありませんでした。すぐに起きます」
「いやいや怒ってないから」
起き上がりたい咲夜と寝ていて欲しい私の力比べが始まる。人間の腹筋と吸血鬼の腕力には当然ながら大きな差があるため、咲夜の体は一ミリも浮かない。しかし彼女は諦めず頑張る。
あ、だんだん顔が赤くなってきた。そんなに私の膝のうえから退きたいか。
「がんこものー」
「お嬢様こそっ」
「いいじゃないちょっとくらい。話したいことがあるから聞いてよ」
「座ってから伺います!紅茶を用意しますから!」
「いらない。何故か離したくないんだもの、ええ、離さないったら離さないわ」
「えっ?」
抵抗していた力が弱まったその隙に、おでこにキスを一つ落とす。
「なっ?!」
「こうするの、ずっと我慢してたのよ?だからもうしばらくここに居なさい」
「――はい」
顔を隠そうとする手を片手で拘束して捕まえた手にキスをすると、咲夜の表情がへにょんとした笑顔に変わった。ここまでやらないと素直になれない彼女に呆れ返りながら、追い討ちで鼻にキスを落として満足する。
「来月、パーティーをしましょう」
「クリスマスパーティーですね。どういったものを用意しましょう」
「一番必要なのは友人知人ね」
「集めればいいのですか?」
「うん、そう。出来るだけ集めて」
いつもの奴らはもちろん、人間、妖精、妖怪、幽霊を問わず片っ端から交流が薄い人も招待すること、と念を押すと怪訝な顔をされた。咲夜のこの反応を見て、目新しいパーティーになることを確信する。
ああ、一ヵ月後が楽しみだ。
「教えてあげるわ咲夜。まず、クリスマスの祝い方はね――」
どうしてこうなった?私が寝ている間になにがあった?
目が覚めると、我が紅魔館でいっとうにくつろげるはずの部屋が大変なことになっていた。
ああ、思い出せない。この部屋はいつの間にハーレムになったんだろうか。改築した覚えもないのに……いや、したっけか?私のことだからなんとなく思ったことを無意識に運命操作で実現させちゃったかもしれない。なにしろ寝ぼけて能力発動させた前科は両手じゃ足りない私だ。自ら起こしたハプニングには慣れっこだ。
しかし今現在、第六感が「これはまずいぞ」とガンガンに訴えてきていて、原因不明の焦りが私を攻撃している。そう、抜け出せないハーレムなど生殺し的な意味で拷問部屋に等しいし、普通の部屋からハーレムになるまでの記憶と経過がすっとんでいるのは間違いなく異常事態だろう。頭を整理して、解決策を練らなければならないようだ。
「お姉様、本を読んでほしいの」
最愛の妹――フランドールが、私とのお茶会に一冊の本を持ってきたのが始まりだった。本の題名は『クリスマス・キャロル』で時期はずれな気がしたが、
「一緒に読んで予習して本番に備えるの!」
と言われれば読んでやらない理由はない。
悪魔なのにクリスマスするのかよと言うやつには視力検査を勧める。うちの妹の天使のような悪魔の笑顔を見てあらがえるなんてド近眼か超遠視だろう。
天使のような悪魔の笑顔って、それ悪魔じゃねえか!騙されないぜ!などと言うやつは愚か者だ。紳士淑女ならいついかなる時もこの砂糖入りハチミツの笑顔にはスマートに騙されて然るべき、ということを小十時間語らなければなるまい。
もちろんこの笑顔にどっぷりとはまっている淑女・オブ・淑女の私は、フランとひとつのソファにぴったりと寄り添って座り、クリスマスパーティーを紅魔館の全力をあげて盛大に行うために、メイド長の咲夜も隣に座らせた。
そして私は両隣から期待のこもった目で見られながら、朗読を始めた。
無邪気な少女とお淑やかな乙女に囲まれて、私はとても気分が良かった。
『キャッキャッウフフ』という言葉を我が紅魔館で振り分けると、妹が『キャッキャッ』で『ウフフ』が咲夜だろう。
パチェと私は親友という美味しい設定があるが、駄目だ。パチェは本に没頭して心此処にあらず話し半分といった感じだし、そもそも私たちでは話す内容がどうにもアダルトになってしまい、キャッキャッウフフに適してない。フランの幼げで明るいソプラノと、咲夜の深みのあるアルトでぬる甘ったるく奏でられる『キャッキャッウフフ』、これこそ幻想郷最高品質、信頼の紅魔館印だぞと胸を張って言えるものである。
それをステレオで楽しめるこの部屋はまさしくハーレムで……って、ハーレムの前準備は出来てたわけね。でもこの時点ではまだ抜け出せるハーレムだった。出ようとは少しも思わなかったけど。
空気が間延びしてきたのは物語が半分も進んだところだっただろうか?意地悪な主人公が変な精霊に変な夢を見せられているあたりで、フランが私の肩にもたれかかってきた。
話の流れで笑えない場面が続いていたし、さっき食べたおやつは美味しくて(咲夜の作ったものだから当たり前だけど)満腹になって眠くなったのだろう。
ならばそのまま眠らせてやろうと、私は声を小さくして朗読を続けた。
この本はフランのチョイスだろうな。クリスマスと言う単語だけを見て、中身をパチェや小悪魔に確認せず持って来たんだろう。主人公はクリスマスをちっとも楽しんでいないどころか「クリスマスなんてくそくらえ!」なんてことばっかり言っていて、幸せそうにしている人や幸せになりたいと願う人に酷い言葉を投げつけている。
そんなやつが話の軸だから、祭りの前の騒々しさとか楽しみで浮き立つ気持ちの描写が少なくて、この本は資料には到底なりそうにもなかった。クリスマスは人間のする祭りだと思ってたから興味も知識も持っていないけど、主人公のしていることは間違った行為なんだろうと思う。これはさっと目を通すくらいにして、次の本はパチェか小悪魔に用意してもらうことに決めた。
程なくフランの体から力が抜けて私の半身にささやかでふんわりとした体重がかかり、眠りについたのを悟る。寝顔にかかる髪をそっとよけてやると、鼻がぴくりとくすぐったそうに動いた。
今日も、可愛いなぁ。
妹の寝顔を見てにやける私は姉バカで、こんな顔を他人に見られたらカリスマが下がりそうだと危惧する。が、無理に隠そうとしては息が詰まってしまうだろう。凛々しく頼りがいのある姉を維持するのは大変で、とても姉甲斐がある。妹にデレデレして失うカリスマ分など、余所で補填すればいいのだ。妹の可愛さと私の愛は永劫揺らぐものではない。
物語は静かに進む。当たり前だが、主人公は生まれたときから偏屈頑固ジジイだったわけではなく、徐々に思いやりを忘れていったらしい。今現在伴侶も子どもも居ない彼は精霊によって愛に溢れた家族を見せられ、動揺していた。
ふと、思う。私も、もしかしたら。
振り返ったときに家族が居なければ、冷えてしまっただろうか?
苦しく辛いときに支えてくれる家族がいなければ、頑なになってしまっただろうか?
咲夜がふっと立ち上がり「失礼します」と言った次の瞬間、厚地のタオルケットが彼女の手元に現れて、私とフランの膝にかけられた。
どことなく咲夜に似てる気がするタオルケットだ。清潔な匂いで包んでくるところとか、触れていると秋の日だまりのようなふわふわとした切なさが湧いてくるところとかが、そっくりな気がする。
ああ、面白いな。名前に夜を含ませたのに、日だまりの感触に似てる、なんて。
面白くって本当に、手放せないよ。
さりげなく渡された紅茶で体が暖まって。妹の穏やかな寝息と咲夜の優しいほほ笑みに心が温まる。いまこの部屋はどう見ても悪魔の館らしくないだろう。
だけど私は満ち足りた思いで『愛する家族と過ごせるのを幸せと言わずになんと言う?』なんて感じ入りながら、まどろみはじめた。
あー思い出したばっちり思い出した。 フランが寝て、私が寝たんだ。で、その後に咲夜が私の膝を枕にして寝たと。これで間違いないだろう。すっきりした。
が、しかし。原因を思い出しただけでは解決しない問題だったようだ。むしろ思い出して得られたものはほとんど無く、分かったのは『何ものかに眠らされたのではなく、自主的に寝た』ということだけ。悪い情報ではないが少しも有益な情報ではない。
困った。やっぱりどうにもこうにも抜け出せない。身体的には二、三時間同じ姿勢でも耐えられるが、状況が悪すぎる。
まず、フランが私の肩に噛み付いている。どんな夢を見ているか分からないけど、あぐあぐとやわく咀嚼するものだからそれなりに痛い。しかも種族的に顎が疲れにくいため、放っておけばいつまで続くか分からないわけで、痛いのが好きじゃないお姉ちゃんは憂鬱になってくる。
そして咲夜。
私の方を向いて寝ているため、端正で私好みの顔がよーく見える。いつものすまし顔が幼げにゆるんでてすごく可愛くて、おでこにかかる髪をあげると更に可愛く見えて愛情が不夜城レッドしそうになった。
なのに。くそう、なんだこの状況……!
常ならちゅーの一つでもかましてる態勢なのに、状況が悪くて何も出来ないこのもどかしさ。フランのふにっふにの頬にしようとしても微妙に届かず、咲夜にしようとすればフランの頭が私の肩から落ちてしまうだろう。まさにここは生き地獄。神は、居ない。
だから祈ることにした。
神さまが居ないと悪魔稼業はやっていけません、たすけてー!
「ああ良かった門番長!メイド長の居場所を知りませんか?」
「ごめん、知らないなぁ。ご飯の下ごしらえはしてある?してあるなら、それ使って調理し始めていいよ。咲夜さんは私が探しておく」
「分かりました」
目星をつけて館内の気配を探って見ると、いたいた、やっぱりあの部屋だった。人が一人に妖怪が二体で間違いなくあの三方だろう。お菓子がまだ残っていることを期待しながら足を運ぶ。
ノックを二回。二秒待って、失礼しますと一声かけ入室すると、
「神さまっ!」
「へっ?」
お嬢様から神さまと言われた。
肩を妹様にかぶりつかれ、膝に咲夜さんを乗せたお嬢様は身動きが取れなくて辛かったのだろう、とても疲れた顔をしていた。
「災難でしたねぇ」
「まったくよ。地獄を味わった」
「ああだから神様待ちを、ってお嬢様は悪魔じゃないですか」
「太陽が無ければ月は輝けないのと一緒よ。憎かろうともあいつの存在は認めざるを得ないし、利用出来るときにはするべきでしょ」
「それはそれは」
「で、どうにかして頂戴。お菓子つまんでいいよ」
「合点承知致しました」
サクサクサクサク。お嬢様方が好みそうな、りんごの香がほのかにする軽い口当たりのクッキーだ。
私がクッキーを食べる様子を見て、疲弊した顔色にもの悲しささえ漂わせたお嬢様の口にも一枚入れてあげる。もともと貴方のためにと作られたもの、全部食べたりはしませんって。
「良く寝てますね」
「ええ、痛あったかいわ」
「長年お側に居てそのような特殊な性癖があるとは気付けずにいたのは、ひとえに私の不徳の為すところであります」
「気持ちいいとは言ってないぞ」
「でもご機嫌は良さそうです」
ふんと鼻を鳴らしてまぁねと言うお嬢様はさっきからずっと笑っていて、どこかこの状況を楽しんでいるように見えた。
「さてどういたしましょう」
「起こして欲しくはないのだけれど」
「では、妹様を自室へ運びましょうか。咲夜さんを運んでる最中に他のメイドに見られたら何事かと驚かれてしまいますし、態勢的にもこっちのほうが楽になると思います」
「そうね、そうして頂戴」
「では、お運びします」
「頼んだ」
お嬢様が妹様と組んでいる腕をゆっくりとほどいていくと、妹様が頭を動かした。あの噛みつきだと絶対牙が刺さっているはずなのに、お嬢様は涼しい顔している。妹様の小さい体躯の首と膝裏に腕を差し入れ持ち上げると、やはりお嬢様の肩口の妹様に噛みつかれていた部分に血が付いていた。こんな仕打ちを受けてもうめき声一つあげないとは、まこと吸血鬼の愛は紅く底知れぬ。見習いたいけど見習えない姉妹愛だ。
背中でドアを押し開けていると、読書をするお嬢様と横になっている咲夜さんが見えた。滅多に見れぬ珍しいものに感じて、つい凝視してしまう。
けれどその光景は違和感なく部屋に収まっていたから、なんだか嬉しい気分になって部屋を後にした。
「んむぅー」
「起きちゃいました?」
目が覚めると、ゆらゆらした場所にいた。
昨日、パーティーが大好きなお姉様にぴったりなイベントを見つけた。それはクリスマスと言う日(もうすぐらしい!)に家族みんなで集まってする、赤色がメインカラーのお祝いごとらしい。これはとっても良いイベントを見つけたんじゃないかとワクワクして昼前まで眠れなかったから、寝不足になっちゃったみたい。それでいつの間にか眠っちゃって、今は美鈴の抱っこで、多分わたしの部屋に向かってるのかな?
パチュリーが貸してくれた本がつまらなかったわけじゃない。お姉様の優しい声がいけなかったんだ。あの声はわたしをひどく安心させるから、うん、わたしは悪くない。明日また咲夜にお菓子を用意してもらって、お姉様に続きを読んでもらおう。
「明日は美鈴も一緒だといいね」
「そうですねぇ。できたてがやっぱり美味しいですからね」
「お菓子はオマケだよ。目的は、クリスマスなんだから」
ぎゅむぅっと美鈴のほっぺたをつねると、すみまへんと間抜けな声ですぐに謝ってきた。「なにが悪かったかちゃんと分かってる?」
「くりふまふをへんきょうしたいでふ」
「そうだけどそれだけじゃない。けど、おはようのちゅーしてくれたら許してあげる」
「しまふしまふ」
ああそうだ、クリスマスに向けてお菓子作りも勉強しようかな?作れるようになったら、咲夜ばっかりじゃなくてわたしのお菓子が目的になって、わたしのところに来てくれるよね。
つねられて変な顔のまま近寄ってくる美鈴の顔を見ながら、そんなことを思った。
あいかわらずのおでこにちゅー。もどかしいけど、片思い中が楽しいのです、なんて咲夜が言っていたから、もうちょっとだけはこのままでいい。
「紅号に停車命令だよ!目的地を、美鈴の部屋に変更!で、夕食までわたしと一緒に居ること!」
「イエス、マイレディ」
けれどそろそろ我慢の限界。幼稚なキスには飽きてきちゃった。美鈴の首に腕を回して耳元に顔を近付ける。
手に入れたければ、追い詰めにいかなくちゃ。
「今からわたしと遊ぶのだから、覚悟してなさいね?」
……本気を出す予告のつもりで小さくささやいてみたら、びくびくしながら焦られた。はぁ、鈍感相手は先が見えないなぁ。
ふう、読了。これは参考になる良い本だった。クリスマスの盛り上げ方とかそういう俗っぽいことでなく、クリスマスへ向けての心構えを学べた。
それにどこかの神様を祝うのだと思っていたが、それは間違っていたようだ。
この本でクリスマスの本質と祝い方を学べなかったら、私はクリスマスを忘年会込みの宴会として大規模に企画して騒ぎ、そのまま新年会へ強行しただろう。
うん、明日から早速準備にとりかかれば間に合うな。暖炉を作らせて、クリスマスに相応しい料理を作れるように練習させて、勿論プレゼントも用意しなければならないから、私もきっと大忙しになる。
博麗神社でする宴会のような大騒ぎなどせず、暖かく快適な部屋でゲームや雑談に興じ、ワインとターキーを楽しむんだ。いつもと趣向が違うからそれだけで楽しみになってくる。我が家の全員と友人の出来るだけ沢山を呼んで、みんなで祝いたい。きっと素敵なパーティーになるだろう。
にしても咲夜、よく寝てるなぁ。ヒマ過ぎてカチューシャを外してみたけど身動ぎ一つしないし、昼寝しているのをこんなに長時間にわたって見るのは初めてかもしれない。
疲れているのかと心配になり顔を覗きこむと顔色は良くて、額を触った感じ熱もなくて安心する。
……寝やすいように、首回りをゆるめてやろうかな。決してやましい気持ちからではなく、従者の快眠を思っての気遣い。決してやましい気持ちはなく、さりげない優しさから。決してやましい気持ちのない、えっと、とにかくやましさは無いったら無い。普通に考えて、寝るときは首回り楽なほうがいいよね。今更とか考えない。いつだって良い方向に考えるのが人生を有意義に過ごす秘訣だ。
耳をすませて周囲の確認をする。
よしよし大丈夫だ。では。
待ってろ鎖骨、いざゆかん!まずはリボンから――
――ビクッ!
「わぁっ?!」
そうだ胸元と首回り弱かったよねゴメンってびっくりしたぁ!
「……ん」
触れて起こしてしまったかと思ったが、大丈夫だったらしい。やり場の無くなった手で咲夜の髪を撫でる。サラサラで、指に引っ掛からないいつも通りの手触り。しばらく撫でるとどきどきしていたのが落ち着いた。
くそう、熟睡してると思って油断してた。自業自得だけど、情けない声が出てしまったのが恥ずかしい。滅多にない状況に浮かれていたようだった。
「まったくもう、咲夜ったら」
笑っていると咎める声色は出ないものなのか。自分の甘ったるい声にふっと苦笑してしまう。
「……申し訳ありません」
「ん、おはよう。起こしちゃった?」
もうちょっとこの状況を楽しみたくて、起き上がろうとするのを銀髪の上に乗せっぱなしだった手で押さえ付ける。
「すみません、長い時間身動きとれなくしてしまって」
「いいよいいよ。本読んでたし」
「いえ、あの」
「ん?」
なにか言いたそうにしてるけど、なんだろう?きっと言いにくいことだろうけど、あ。さっき私に触られたのが嫌だったのかも?反応もかなり大きかったし、きっとそうだろう。
「首回りをゆるめようとしたんだけど、驚かせちゃってごめんね」
欲望のまま胸元をはだけさせようとしたとは言わず(当たりまえだが)、謝りながら話をすりかえる。先手打って謝ればそれ以上の詮索はしてこないだろうとかも、ちょっぴり思ってたりする。
「いえ、あの」
「んん?それじゃないの?」
はい、と小さな声と首肯。違ったらしい。良かった、ばれてない。
「怒んないから言ってごらんよ」
「起きて、たんです」
「は?」
「寝たふりを、してたんです」
「えっ」
なんと。全然気付かなかった。
「いつから?」
「お嬢様が本を読んでいる間に起きました」
「あー分からないけど分かった」
熱中して読んでいたから気付かなかったんだろうな。
「寝ているお二人が、気持ち良さそうに見えてしまって」
「うん」
「夕食の下ごしらえを済ませて、自分のタオルケットまで用意して」
「いそいそと?」
「はい。膝を、勝手にお借りしてしまって」
「構わないよ。暖かかったし」
それと引き換えに動くのを制限されて地獄を味わったが、幸せな罠だったと思っておこう。喉元過ぎて熱さは忘却の彼方だ。
「何故か離れたくなくて、目が覚めても寝たフリまでして」
「そ、そう」
なにこの可愛い人間……!私と目を合わせまいとする咲夜に悶える。普段の彼女とのギャップが凄まじくて、理性をグングニルのように投げ飛ばしそうになった。寝ぼけ万歳。明日から一日三十分私の前で寝ぼけさせよう。
「本当に、申し訳ありませんでした。すぐに起きます」
「いやいや怒ってないから」
起き上がりたい咲夜と寝ていて欲しい私の力比べが始まる。人間の腹筋と吸血鬼の腕力には当然ながら大きな差があるため、咲夜の体は一ミリも浮かない。しかし彼女は諦めず頑張る。
あ、だんだん顔が赤くなってきた。そんなに私の膝のうえから退きたいか。
「がんこものー」
「お嬢様こそっ」
「いいじゃないちょっとくらい。話したいことがあるから聞いてよ」
「座ってから伺います!紅茶を用意しますから!」
「いらない。何故か離したくないんだもの、ええ、離さないったら離さないわ」
「えっ?」
抵抗していた力が弱まったその隙に、おでこにキスを一つ落とす。
「なっ?!」
「こうするの、ずっと我慢してたのよ?だからもうしばらくここに居なさい」
「――はい」
顔を隠そうとする手を片手で拘束して捕まえた手にキスをすると、咲夜の表情がへにょんとした笑顔に変わった。ここまでやらないと素直になれない彼女に呆れ返りながら、追い討ちで鼻にキスを落として満足する。
「来月、パーティーをしましょう」
「クリスマスパーティーですね。どういったものを用意しましょう」
「一番必要なのは友人知人ね」
「集めればいいのですか?」
「うん、そう。出来るだけ集めて」
いつもの奴らはもちろん、人間、妖精、妖怪、幽霊を問わず片っ端から交流が薄い人も招待すること、と念を押すと怪訝な顔をされた。咲夜のこの反応を見て、目新しいパーティーになることを確信する。
ああ、一ヵ月後が楽しみだ。
「教えてあげるわ咲夜。まず、クリスマスの祝い方はね――」
幻想郷はここにあるじゃないか。
レミリアの心情や、三人の雰囲気とか面白いお話でした。
メリークリスマスぃぃいあああああっ!!!
クリスマスパーティ参加したい…!
クリスマスパーティーのお話も読んでみたいですね~。