「さぁ、今日こそ聞かせてもらいますよ」
境内でそう叫んだ私、稗田阿求は真っ白なメモ用紙とペンを片手に今日も博麗神社を訪れていた。
「また来たの?」
「また来ました」
目の前でしかめ面を浮かべた霊夢さんは、竹箒を杖代わりにしながらいかにも面倒そうな顔を浮かべている。
それもそのはず、私がここを訪れるのはこれで三日連続にもなる。
その理由はもちろん、幻想郷縁起の編纂のためである。
「命蓮寺なる新勢力の台頭、この私としては見逃すわけにはいきません。是非このニューフェイスについて教えていただきたいのです」
幻想郷縁起はこの幻想郷に生きる妖怪の詳細を記したもの。妖怪の生態を調べることでその危険性を広める物である。
しかし今では妖怪達が人間に手を出すことはほとんど無くなり、幻想郷縁起の本来の意味合いは薄れている。新たに現れた妖怪も人間に対して敵対的なスタンスを取っているわけではない。
そんな今、幻想郷縁起の記述にこだわる必要は無い。無いはずなのに、私は今日もこうして霊夢さんに頭を下げている。
「って言ってもねぇ」
「お願いします!」
私がこうまでして頼み込む理由は簡単だ。
考えてもみてほしい。これまで何代にも渡って転生し、苦労して手がけてきたこの縁起が今や用無しになってしまっているのである。
それはまるで宿題のプリントをやり終えた後で「宿題なかったことにするわ」だとか、指定された小テストの範囲を勉強した後で「やっぱ範囲こっちにしたから」などと言われるようなものだ。おのれ慧音。許さん。
しかし宿題が無くなっても、テスト範囲が変わっても、そこで勉強したことはいつか役に立つはず。幻想郷縁起だって、いつか役に立つ時が来るはずだ。
私はそう信じている。そう信じているから、今日も幻想郷縁起を編纂し続けるのだ。
くそう、早く世の中乱れろ。妖怪が跋扈するカオスワールドになーれ!
「不穏な匂いをぷんぷん感じるんだけど」
「気のせいですよ気のせい」
「まぁそれはいいけど、とにかく無理よ。あいつらのことは教えられないわ」
しかしこれだけ私が頼み込んでいるのに、今日も霊夢さんは冷たくあしらう。
私がここに来るのはこれで三度目。
三度目の正直、と言うことわざは有名だし、三顧の礼なる故事もある。それらの言葉に則れば必ず成功するはずの今回失敗したら、この先何度来ても失敗してしまうだろう。
ここで失敗するわけにはいかない。
だから私はこの故事、三顧の礼でかの劉備玄徳が諸葛亮孔明に対して行った作戦を取ることにした。
「霊夢さん霊夢さん」
「何よ、駄目だって言ってるでしょ?」
「……黄金色のおまんじゅうでございます」
そう、賄賂である。
とは言ってももちろん劉備が賄賂を使ったなどとは文献には残っていない。
しかし、どう考えても普通の人間なら追い払った客が三度も来たら怒るはずである。三度目の正直よりも仏の顔も三度まで、の方が強いのだ。
押し売り訪問や宗教の勧誘に三日連続で訪れられてブチ切れない者がいるだろうか。いるわけがない。
仏どころかシャカだって怒る。天舞宝輪撃っちゃう。ついでにアテナエクスクラメーションもかましちゃう。一人で。
諸葛亮だってやっぱり怒ったはずだ。この福耳野郎、家でムシロでも織ってろ!手が長いんだよ!などと叫んだ。絶対。
そんな諸葛亮がその日オーケーを出したのは、劉備が差し出した袖の下のせい以外にあるまい。
金は人を変える。諸葛亮の目の色も変える。そしてもちろん、霊夢さんの目の色もだ。
「それじゃ上がらせていただいてもいいですかね?」
「よきにはからえ」
「お茶を所望しますが」
「最高級のを持ってくるわ」
すぐに居間へと案内された私は、今か今かと霊夢さんの到着を待ちわびていた。
右手にはペン、左手にはメモ用紙。完全に準備を終えた私の前に霊夢さんが現れたのは、それから三分ほどしてのことだった。
「先に一言いい?」
「構いませんけど、何か?」
「はっきり言ってこないだの妖怪達のこと、私は殆ど覚えていないわ」
む、黄金が足らなかっただろうか。
これまで語ることを頑なに拒んできた以上は何らかの理由があるのだろうと思っていたが、ここまで露骨な嘘を吐かれるとは思わなかった。
「勘違いしないでね、喋りたくないから忘れた振りをしてるんじゃないわ」
「……と言いますと?」
霊夢さんは小さく息を吐くと、天を見上げた。
つられて見た私に見えるのは、くもの巣の張った天井だけだ。
「無茶苦茶インパクトの強い奴がいたのよ。一人……いや、一体ね」
「そのせいで忘れてしまったと?興味深いですね、霊夢さんを圧倒するほどのどんな怪物が?」
うつろな目で天を見上げていた霊夢さんは、元通りに首を直すと言った。
「いや、まずは順を追って話すわ。最初に出会った奴は……名前が『ナなんとか』。あ、最後にンが付いたわ。『ナなんとかン』ね。ネズミの変化だったわ」
「最初はネズミの妖怪、と。どんな能力で?」
「何かが得意、とか言ってたような……ハウザー?マウアー?何か違うわね。得意技は『ほにゃららザー』よ」
うーん、としばらく頭を抱えた霊夢さん。
流石にこれだけのヒントではこちらとしてもどうしようもない。
「何か特徴的な部分がありませんでしたか?見た目とか、台詞とか」
「鉄の棒を持ってたわね、あとは……『宝物は台所にある』、とか言ってたわね。グルメなのかしら」
グルメで鉄の棒を持っている、と。
名前が『ナなんとかン』で、得意技が『ほにゃららザー』。
何か今引っかかったような。あ、そうか。きっとそういうことだ。
「名前と得意技を逆に覚えているってことはないですか?」
「もしかしたらあるかも。かなり記憶があやふやだし」
となれば間違いない。あれだ。メモ帳に残しておかないと。
得意技は南斗鳳凰拳。名前はサウザー、と。
『今日のは口に合わぬ!』とかよく言ってるし、間違いなくグルメだ。鉄の棒とは槍のことだろう。
「秘孔はやっぱり左右逆だったんですか?」
「は?」
「あ、いえ。なんでもないです」
考えてみれば弾幕戦なら秘孔の位置は関係無い。
ケンシロウも最初から天破活殺撃てばよかったのに。剛掌波でもいいし。
しかし普通は小手調べの雑魚が出てくるべき最初の敵がサウザーとは、命蓮寺とは中々の武闘派集団のようだ。
「最初の敵についてはわかりました。その先は?」
「えーっと、それで逃げる宝船を追いかけていったのよね。そしたら次の奴が出てきたのよ」
「何か特徴は?」
「こっちを驚かせようとしてたんだけど……あまりにビックリしなかったものだから完全に記憶から消えたわ」
「どんなことをしてきたんです?」
「いや、それすら覚えてないのよ」
何それ、超不憫。
「とにかくあれね、存在感が薄い。名前も覚えてないわ」
うーん、流石にこれだけの情報では厳しい。
姿形はおろか、能力すらも覚えていないとなるとどうしようもない。
この先もこんな感じだとすると、これは霊夢さんより魔理沙さんに聞きに行った方がいいかもしれない。
次の妖怪次第ではそうすることにしよう。
「その次はどんな感じでした?覚えてますか?」
「おっさんよ」
「……もう一回言っていただけますか?」
弾幕ごっこ、という枠内からあまりにかけ離れた単語に、私は首を傾げて尋ねた。
「おっさん。ホントおっさん。空に浮かぶおっさん顔。おっさんのむさくるしい顔が突如ドーンて突っ込んでくんの。おっさんの顔が。流石にインパクトでかかったわ。マジおっさんだし」
「……このおっさんのせいで記憶が?」
「そうなのよね。おっさんの顔が頭から離れなくて、その後は散々だったわ。おっさん効果強すぎよ。おっさんゲー。おっさん量産化の暁には幻想郷も危ういわね」
次に現れたのはおっさん、と。
「あぁちょっと待った。おっさんはあれね、あくまでメインの敵が使う能力で出てきてるのよ。敵は女だったわ」
「おっさんを操る能力の女性ですか?またえらく謎な感じですけど」
「じゃあ男だったかもしれないわね。遠目だったし、相手は僧の頭巾を被ってたから顔が見づらかったのよね」
ふむふむ、三番目の妖怪は僧、と。
えーと名前は……
「っと、名前を聞いてませんでした。その僧は名乗ってましたか?」
「おっさんの方は雲山。これは覚えてるわ」
「僧の方は?」
「一……『一なんとか』。あ、名字は覚えてるわ。雲居よ雲居。雲山と漢字が被ってるから覚えてたわ」
名字は雲居、名前は一なんとか、僧、男かもしれない。ここまでくればわかったも当然だ。
偽名を雲居ひょっとこ斎。出家しての法号は一夢庵。前田慶次だ。
「ずいぶんな大物と戦ってきましたね」
「そう?たいしたことなかったけど。おっさんの顔以外」
そうだ、おっさんだ。敵があの男なら、おっさんの正体は一体。
長渕顔の真田幸村か、はたまた莫逆の友・奥村助右衛門か。
伊達政宗は無いだろうし。我が隻眼は人の心が見える(笑)
名前が雲山だから……雲山。山。あぁなるほど。直江山城守兼続。山の字が入ってるし彼だろう。
「この二人相手なら確かにインパクトは強そうですね」
「でしょ?その前の誰かを忘れたり、その後の奴等の印象が薄くなるのも仕方ないわよね」
「間違いないですね。ではこの後はほとんど忘れて?」
「いや、でも話しながら整理してるうちに結構思い出してきたわ」
それは僥倖だ。魔理沙さんにわざわざ聞きに行く手間も省けるし、新たな賄賂も必要無くなる。
敵は七人と聞いているから、これで折り返し。はてさて、次なる敵は一体。
「四番目は水兵よ」
「水兵ですか。ということは……」
「うん。セーラー服を着てたわ。セーラー服と言っても早苗んとこの神が着てた痛々しいやつじゃないわよ」
「その件は忘れましょう」
「ごめん。失言だったわ」
四人目はセーラー服の水兵。ということは船幽霊かなにかだろうか。
「能力は一体?」
「水難事故を起こすとか言ってたわ」
「能力は水、難、事、故……と。特筆すべきところはありました?」
「船長だって言ってたわ」
船長……うーん、思いつかない。
今までの流れから考えれば思い当たりそうだけれど、それならこの後を聞いてからでも遅くは無い。
「次はどんな敵で?」
「虎丸よ」
「相方の富樫は?」
「いなかったわ」
五面の敵は雑魚、と。あいつ富樫が死んだ時しか働かないし。
「さて、それじゃ最後はどうだったんですか?」
「最後は聖白蓮、とか言う奴ね」
「名前を覚えているのは珍しいですね」
「他の奴等が連呼してたもの。人気があるみたいよ」
女性に人気がある、と。
「どんな敵でした?強かったですか?」
「こいつは流石に強かったわ。自分の身体能力を増幅するみたいね」
身体能力で勝負してくる、と。
「聖、って言うからには聖なる力を使ってきたりするんです?」
「んー、そんなわけじゃなかったみたいだけど。いきなり超人になったりしてたわ。スペルは『スターメイルシュトロム』とか『フライングファンタスティカ』とか、その辺りは覚えてるわ」
聖なる超人、ただし聖なると言っても聖属性ではない、と。
あぁ、これは技のネーミングセンス的にもあれだろう。
『スターメイルシュトローーーーム!』ドォォォォォン!で見開き1ページまるまる使っちゃうような感じの人。
いわゆるアテナの聖闘士。聖闘士白蓮。女性にも大人気。主に腐った女性に。
「これで最後、と」
なるほどなるほど。命蓮寺という施設がどういうところなのか、なんとなくわかった気がする。
後はこれをまとめるだけだ。
「今日はありがとうございました」
「ん、もうよかった?流石ね」
「だいたいは、ですけどね」
まぁ、全体的な統一感から言ってもこれしかないだろう。二人目の名前もわからない敵と四人目の船長はいまいちわからないが、その辺りは後日要調査ということで。
魔理沙さんにもその二人に関してだけ聞いておくくらいでいいか。
「それではまたいつか」
「えぇ、今日みたいなことなら大歓迎よ」
手を振る霊夢さんに背を向け、私は神社の階段を下り始めた。
いやぁ、それにしても今日はいい収穫だった。家に帰ったら縁起を更新して発行しよう。
しかし命蓮寺がまさかジャンプフェスタの会場だったなんて。今度遊びに行こ。
次の日、見たことも無いネズミと傘と僧と船長と虎とおばちゃんが来て本気パンチされた。いてぇ。
こういうネタは良い物だ。
おかしいですよ阿Qさん!と叫びたくなった。
グラン・バガンは懐かしい。確かに最終回で船長になっていたっぽい。ジャンプでキャプテンだからと、翼くんや谷口くんでなかったことに安堵。
そしてあとがきのルナ先生、そう言うからにはあっきゅんが脱ぐんじゃろうな!? 脱ぐんじゃろうな!? 大事なことなので二度言い(ムソーフーイン
なんというおっさんホイホイ
しかし雲居さんはうまいこと一致したものです。
車田絵で見開き必殺技の白蓮が脳内で自然と浮かぶのは凄い
いわゆるスービエにやられたw
第四の妖怪との関係から考えて間違いないと思います。
カオスすぎるwwwww
終わったと思って油断したわw
そういやスービエも異界に追放されてたな……でも龍神プログラム入れたロボットかも(ry
もっと何も考えないべき
加速装置とファーストブリットが来るかと思ったが、まさか初っ端サウザー来るとはww
全部分かった私は昭和で言えばギリギリよn(以下スキマ送り
貴方は貴方の道を驀進してください⊂⌒~⊃。Д。)⊃ピクピク
星はやってなくてわからん
>敵は七人と聞いているから、これで折り返し。
最後まで読んで、何でぬえが入っていないのか悩んでしまった自分はサンドバッグにされてきます。
ぶち切れた孔明に袖の下を渡す劉備の図を想像して噴いたwww
斬では直江だろうと7テンなら激アツですが
というか、妖怪たちの本気パンチ食らって死なないとか、絶対病弱じゃないよね、この子。
中盤から最後までの怒涛の集●社攻撃に吹きました。阿求(と作者)の頭は大丈夫か、いいぞもっとやれ。