「魔理沙って女の子って感じよね」
「……はあ?」
マーガトロイド邸での優雅なティータイム。
その緩やかな雰囲気の中で、何の脈絡も無く飛び出したアリスの奇言に、魔理沙は眉をひそめた。
「なんかもう、女の子まっしぐらって感じ」
「いや、意味が」
「幻想郷女の子コンテストがあったら、私は迷わず魔理沙に一票を投じるわ」
「落ち着け。仮にそれで一位になっても、ただの女の子ってだけじゃないのか」
「いえいえ、女の子の中の女の子という栄えある称号よ」
女の子の中の女の子。
言うなれば、『男の中の男』みたいなものか?
相変わらずこの妖怪の思考回路は読み解けないなと、魔理沙は深く嘆息する。
「……ていうか、私ってそんなに女の子っぽくないだろ」
「ちょっと耳鼻科行って来る」
「いや待て。別にお前の耳はおかしくなってない」
「じゃあ魔理沙の頭がおかしいんだわ。今すぐ永遠亭に行きましょう」
「だから待て。別に私の頭もおかしくなってない」
「じゃあ聞くけど、あなた本気で自分が女の子っぽくないと思ってるの? 魔理沙」
「え? う、うん。だってほら、言葉遣いとか……」
「…………はぁ」
魔理沙の言葉を聞いたアリスは、やれやれと言わんばかりに、大袈裟に肩をすくめてみせた。
それを見た魔理沙は、なんとなくバカにされたような気がして、少しむっとした表情を浮かべる。
「な、なんだよ」
「魔理沙。あなたはもう少し、自分を客観視できるようになった方がいいわ」
「なっ……」
「分からないようなら教えてあげる」
「…………」
「確かに、魔理沙の言葉遣いは女の子っぽくないわ。そこは認めましょう。でもね、それ以外の全てが、あまりにも女の子なのよ!」
「!?」
ビシッと魔理沙に人差し指を突き付け、声高らかに宣言するアリス。
予期せぬ指摘に、魔理沙は動揺を隠せない。
「な、なにをいってるんだ」
「まずはその外見」
魔理沙に人差し指を向けたまま、アリスはにやりとほくそ笑む。
「お人形さんみたいなふわふわの髪の毛に、可愛らしく整った目鼻立ち」
「っ!? か、かわい……」
「身体は小柄で、思わず抱きしめたくなるような手頃な大きさ」
「な、なにいって……」
「その上、衣装は大きなリボンの付いた帽子に、フリフリのエプロンドレスという乙女仕様」
「あ、う……」
「トドメに、女の子ポイントを三割増しにさせている三つ編み。……これで、女の子性を否定しろっていう方が無理があるわ」
「な、なななな……」
かああっと、みるみるうちに顔が赤くなっていく魔理沙。
アリスはその様子を見ると、満足そうに頷いた。
「それに、恥ずかしくなると、そうやってすぐ真っ赤になっちゃうのも、女の子って感じ」
「う、うううるさい!」
「それから、すぐむきになって、つい大きな声を出しちゃうところも」
「なっ」
「そして更に、これらの女の子要素が、先に述べた男っぽい口調とのギャップにより、一層際立たされている」
「……っ」
「どう? これでもまだ、自分が女の子っぽくないなんて言える?」
「…………」
得意気に尋ねてくるアリスに対し、魔理沙は返す言葉が出てこない。
誠に悔しいことだが、どうにも上手い反論が見つからないのだ。
(……それなら)
だが魔理沙は諦めない。
言葉で反撃できないのなら、別の手段でやり返してやればいいのだ。
魔理沙はガタンと席を立つと、おもむろにアリスのほうへと近付き、その腕をがっしと掴んだ。
「え? ちょ、魔理沙?」
魔理沙がいきなり実力行使に出たものだから、思わずアリスも目を丸くする。
すると魔理沙は赤い顔のままで、ぶっきらぼうに言った。
「……そこまで言うなら、思い知らせてやるよ」
「えっ」
戸惑うアリスの手を引いたまま、魔理沙はずんずんと歩いていく。
魔理沙に引っ張られるままに、ついていくアリス。
程無くして、魔理沙はとある部屋のドアの前に立った。
そこは―――アリスの寝室。
「ま……魔理沙?」
「…………」
魔理沙は無言のまま、些か乱暴気味にそのドアを押し開けた。
そのままずかずかと入っていき、ベッドの前まで来たところで、力強くアリスの手を引っ張った。
「わ」
突然手を引っ張られたアリスは、その勢いで、魔理沙の身体にぶつかりそうになる。
そこですかさず、魔理沙はアリスの両肩を抱き止めた。
そして、そのまま一気に力を加え、アリスをベッドの上に押し倒した。
「きゃ……」
されるがままに、ベッドの上に仰向けに寝かされるアリス。
そのすぐ上で、魔理沙が馬乗りの形になり、アリスの上半身に跨った。
「魔理沙……」
「…………」
その体勢のまま、両者が見つめあうこと十数秒。
やがて、魔理沙が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「……どうだ。こんな狼藉を働く奴が、女の子っぽいか?」
「…………」
形勢逆転、そう言わんばかりの表情で魔理沙は言った。
――しかし、一方のアリスはキョトンとするばかり。
ぽけーっとした眼差しを、魔理沙の方へ向けている。
「な、なんだよ。……なんか、言えよ」
「……魔理沙」
「お、おう」
「……一応、聞くけど」
「?」
「……これで……おしまい?」
「へっ」
意表を突くアリスの発言に、目をパチクリとさせる魔理沙。
「……ど、どういう意味だよ」
「いやだって、狼藉とか言うから」
「……そ、それって」
この先も、と……?
そのとき。
ぼふん、と、再び魔理沙の顔が沸騰した。
それを見て、にやりと口元を歪ませるアリス。
「あらあら」
「う、うぅっ……」
「やっぱり、女の子ねぇ」
「う、うるさい!」
魔理沙に組み敷かれた状態で、クスクスと笑うアリス。
その体勢とは裏腹に、精神的には完全に優位に立っていることを確信しての笑みである。
「……じゃあ、せっかくだし」
「えっ」
「『女の子』の魔理沙に、手取り足取り教えてあげましょう」
「なっ……」
動揺する魔理沙を余所に、アリスはがばっと上半身を起こす。
自然、二人の距離が一気に近くなる。
慌てて仰け反る魔理沙。
すかさずアリスは魔理沙の両肩を押して、そのまま一気に体重を乗せた。
「うわっ」
元々仰け反っていたため、魔理沙は簡単に仰向けに倒された。
そして先ほどとは逆に、今度はアリスが、魔理沙の上に馬乗りになった。
「ちょっ、アリス……」
魔理沙の顔は、もうこれ以上ないというくらいに真っ赤に染まっている。
対するアリスは余裕の笑みで、そのまま一気に、魔理沙に顔を近づけていく。
「……照れちゃって。本当に女の子ねぇ」
「わ、わわわっ」
今や二人の顔は、少しでも顎を突き出せばキスが出来そうな距離にまで近づいている。
魔理沙の思考がヒートする。
「だ、だだ、だめ」
「あら。何がだめなの?」
「だ、だだって、そのあの」
「くすくす」
アリスは笑って、さらにその距離を詰める。
もう数センチも無い。
思わず、ぎゅっと目を瞑る魔理沙。
そして――。
……ちゅ。
「……え?」
恐る恐る、目を開く魔理沙。
すると、ちょうどアリスの首元のあたりが、魔理沙の視界を占めていた。
……そして、おでこに感じる、ほんのり温かい何か。
やがて、アリスはゆっくりと魔理沙から身体を離すと、にこりと微笑んだ。
魔理沙は呆然とした心地で、おでこに手をやる。
まだ温かいそこには、微かな湿りがあった。
「……アリス」
「ふふっ。口にするとでも思った?」
「…………なっ」
アリスの言葉で、魔理沙はようやく、自分がからかわれていたのだと気付いた。
そんな魔理沙の様子を見て、アリスは可笑しそうに笑う。
「ふ、ふふっ……」
「わ、笑うな!」
「だって……『だ、だだ、だめ』とか」
「あ……」
「なんていうか、もう全身全力で『女の子』って感じだったわよ、魔理沙」
「う……」
「本当に、ご馳走様でした」
「~~っ」
ぺこりと頭を下げるアリス。
すると魔理沙は、今にも泣き出しそうな表情になり、そのまま下を向いてしまった。
「あらあら」
対照的に、とても満足そうな笑みを浮かべたアリスは、俯いた魔理沙の頭を、二度、三度と撫で始めた。
「よしよし」
「…………」
魔理沙は、もはや文句を言う気もなくしたのか、何も言わずに、されるがままの状態になっている。
「……ふふっ。これからも可愛い女の子でいてね。魔理沙ちゃん」
「…………」
魔理沙の頭を撫で終え、得意気な顔で言うアリス。
しかし魔理沙は俯いたまま、未だに無言。
アリスはしょうがないわねと溜め息を吐きつつ、ベッドから下りた。
「さ、ティータイムの続きっと……」
そう言って、アリスがドアノブに手を掛けた途端。
ぼふっ。
「!?」
アリスの後頭部に、何か柔らかい物が当たった感触。
「ちょっと、何?」
思わず振り仰ぐアリス。
すると。
「……あら」
そこには、既に魔理沙の姿はなく、大きく開け放たれた窓から、外の風が吹き込んでいた。
備え付けのカーテンが、ばさばさとはためいている。
「……逃げられちゃったか」
アリスは苦笑混じりに、ぽりぽりと頬をかく。
ふと足元を見ると、最後の一矢に使われたとおぼしきクッションが、無体に投げ出されていた。
「……でも」
アリスはそれを拾い上げると、両腕で抱きしめた。
「……恥ずかしくなったらすぐに逃げちゃう、っていうのも……『女の子』よね」
クッションをぎゅっと抱きながら、一人残された部屋でしみじみと頷くアリスだった。
了
そりゃアリスさんもつい弄りたくなるわw
すげぇ良い話でしたwww
畜生www
甘すぎでしょうw
俺達に出来ないことを平然とやってのける!
そこにしびれる、憧れる、手本にするぅ!
今回も大変おいしゅうございました。
つんでれいむと鈍感魔理沙もいいけどお姉さんアリスと乙女魔理沙もいいっ