※ 注意!
・ 割と真面目なミステリーです。死ぬキャラもいるのでご注意を。
・ 今回に限り村人という名目でオリキャラも居ます。メインはけねもこなので目立ちませんが、ご注意を
・ 古畑任三郎をリスペクトしています。そういうのが嫌いな方もご注意を
・『東方キャラがドラマを演じている』『ミステリーの皮を被った娯楽SS』と思って頂き、
ツッコミ所は仏の心で見逃していただけると嬉しいです
・ 続きモノですが短編で完結してるので以前の作品を読まなくても大丈夫ですが、
『閻魔が警察的ポジションでさとりが閻魔に頼まれ捜査をする立場にある。』
『過去永遠亭と紅魔館で殺人事件がありさとりが解決した。』
という2点だけ留意して頂ければよりスムーズに読めると思います。
「えー、もしあなたが殺人を犯してしまったとき、
そしてそれが衝動的で、するつもりが無かった殺人であったとき……
必ず一度はこう思うはずです。『この事を無かったことにしたい。』と……
もし犯罪の事実を無かったことに出来るなら、それは犯罪者にとってとても魅力的なことです。
今回の犯人は、それが出来る人物でして……。」
古 明 地 さ と 三 郎
VS
上 白 沢 慧 音
「あー、いい天気ですね!さとり様!」
ハツラツとした声でさとりに話しかける燐。
しかしさとりは、肩で息をしながらげっそりとしていた。
「ほんと……いい天気ですよね……太陽死ねばいいのに……」
燐にとってはほがらかな陽気の中でのお散歩であるが、さとりにとってはお散歩なんてものではなく、砂漠の中のサバイバルウォークの気分であった。
もちろんここは砂漠でも無ければ真夏でもない。しかし険しい獣道を進むには、さとりは少々軟弱であったのだ。
「もうさとり様、少しは運動しないと……」
「私の担当は頭脳労働ですから。身体の方の労働はあなた達の仕事でしょう。」
「その頭脳労働する場所にすら行けない身体じゃ意味ないですよー。」
さて、そもそも何故こんなにもヘロヘロになりながら歩いているのか。
それは今日、村の守護者上白沢慧音と会う約束をしているからである。
今夜は満月で、慧音の力が最大限に発揮される日であるため、この日の夜慧音は歴史を編集する作業に追われることになる。
今まで明るみに出てこなかった地底の歴史を、さとりの口から聞かせてほしい、それが慧音の願いであった。
さとりは最初は断ろうと考えていたが、燐が猫状態で世話になったと聞き、恩返しもかねてその依頼を了承することにしたのだ。
その結果が、このヘロヘロさとり、略して「ヘロり」である。
「あー!さとりさまー!着いたよー!」
元気にさとり達の遥か前方を歩いていた空が、元気な声でさとり達に叫ぶ。
ようやく長い獣道を超え、人里へとやって来たのだ。
「ふぅ……やっと着きましたか。」
「長かったですねー。」
「えっと、まずは慧音さんの家にあいさつに……」
――お、バカっぽいのがいるな、あいつにしよう。
「え?」
これからの予定を考えていたさとりであったが、ふと第三の目が誰かの心読み取った。
バカっぽいの……もしかしてもしかしなくても、空のことでは無いだろうか
「空!」
さとりが叫ぶ、だがその瞬間に、若い男が空にぶつかりそのまま駆けていく。
間違い無い、あれはスリである。
「燐!急いであの男を!」
「あいあいさー!」
燐は猫型に変身した。人間の姿よりもこちらの方が早く走れるからである。
さとりと空を追い抜き男に追いついた燐は、人型に戻り男を押さえつけた。
「うわ!なんだこいつ、妖怪かよ!」
「このスリめ!逃がさないよ!」
その騒ぎを見て回りの人間達もざわめき始める。
そして、そこに慧音の姿も現れた。
「何が、あったんだ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「申し訳無い!」
慧音によって民宿へと案内されたさとり達。
部屋に入って事情を聞かされ、慧音は頭を下げた。
「いえいえ、結局スッたのは空のガラス玉だけでしたし……」
「だけって何!宝物なんだよ!」
「はいはい。でも、里の治安に問題があるのはいけないと思いますよ。」
「いや、治安はいいんだが、あいつだけが……
五郎という男でな、身寄りも無く寺小屋で世話してたんだが、
一人立ちしたと思ったらこういうことを繰り返すばかりで……
重ね重ね、申し訳無い。」
「もう過ぎたことだからいいですよ。それより、約束の件は……」
「ああ、今はまだ満月が出てないから力は出せないんだ。
8時頃まで待ってくれてもよいだろうか?」
「わかりました、8時ですね?」
「では、失礼する。」
慧音は一礼して部屋を後にした。
現在の時刻は4時、まだ4時間のヒマがある。
「びっくりしたけど、慧音さんはいい人ですねー。」
「そうですね。しかしヒマになってしまいました。外出るのもめんどくさいですし。」
「発想がニートですよ……」
「うるさいですね。あ、じゃあ燐、これやりませんか?」
さとりは部屋の棚に置いてあった将棋版を指差した。
「あ、いいですね!やりましょう!強いですよ?あたいは。」
「ふふ、楽しみですね。」
二人はまったりと、将棋の対局をスタートさせた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
午後5時。民宿の部屋でさとり達がくつろいでいた一方、慧音の家では緊迫した雰囲気が漂っていた。
先ほどさとり達にスリをしようとした五郎が正座をさせられ、
その周りを取り囲むように慧音や村長を始めとする里の有力者6人が立っている。
そして慧音が、悲しそうな顔をしながら五郎に話し始めた。
「……五郎、どうしてまたスリなんかを。この前、反省したと言ってくれたじゃないか。」
「だってよ、あんなトロそうなカモが揃って歩いてたんだぜ?
スッてくれって言ってるようなもんだぜアレは。」
「あの妖怪は古明地さとりといって、地底の妖怪達の中でも特に強い力を持っている。
彼女を敵に回すということは、地底全体を敵に回すことにも繋がりかねないんだ。
仮にこの里に対して地底の妖怪達が攻撃をしてきたら、私の力だけではどうにもならん。」
「んなことはアンタらお偉いさん達の問題だろ。俺には関係ないね。」
慧音が必死に説得をするものの、五郎は聞く耳を持たずふてくされたままである。
慧音は悲しくなった。数年前五郎が寺小屋に通っていた頃は、生意気な部分もあったものの、とても元気ではつらつとした少年だったと言うのに。何故彼がこのようにスリを繰り返すような男になってしまったのか。自分の力の無さを痛感するばかりであった。
「だいたい、アンタだって人のこと言えないだろ。」
「なんだと……?」
「知ってるぜ。アンタが竹林に済む妹紅って奴と仲良くしてるってことは。
んでその妹紅と永遠亭が対立してるってこともな。
ってことはだ、アンタの行為は一歩間違えれば永遠亭と対立する行為ってことじゃない
のか?」
五郎のその言葉を聞いて、慧音の頭に血がのぼった。
「妹紅は関係ないだろう!!」
「お、落ち着いてください!」
声を荒げる慧音、それを見て村長は慧音をなだめようとする。
しかし、五郎は続けた。
「子供の時から気に食わなかったんだよ!アンタのそのエゴっぷりがな!」
「……っ!」
それが、慧音が理性を保つことの出来た最後の瞬間であった。
慧音は棚に飾ってあった刀を手にとり、その刀で……
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竹林にある自宅で寝ていた妹紅に、突然の来訪者が訪れた。あの場に居た里の有力者の一人である。彼は長年この竹林にて山菜取りをしており、案内無しで妹紅の家、そして永遠亭まで辿りつける数少ない人間であった。そのため、あまり人里と付き合いの無い妹紅とも顔見知りであったのだ。
そして彼は慧音の家に来るように妹紅に頼んだ。最初は寝起きということもあり乗り気じゃなかった妹紅も、事情を聞くと鍵もかけずに真っ先に飛び出した。
既に眠気は一瞬で吹き飛んでいた。
「慧音!!」
妹紅が慌てて慧音の家のドアを開けた。その中は、それは悲惨なものであった。
畳、障子、ふすま、机といったあらゆる場所が鮮血で染まり、
その中心には同じく鮮血で真っ赤に染まった慧音が呆然と佇んでいた。
夜になったということもあり、角が生えた姿に変身してしまっている。
「ああ、妹紅か……」
「慧音……これはどういうことだよ。その死体は……。」
「五郎だ……私が、やってしまった……。わたしが……。」
うつろな顔をしながらぶつぶつと呟くように語りかける。
妹紅はこんな慧音の姿を見たのは始めてであった。いつだって、お堅い顔で口元を引き締めていたというのに。
慧音がこのような状態なので、妹紅はその場に居た他の5人に何があったのか事情を聞いた。5人はしどろもどろになりながらもここに至った経緯、慧音の行動を説明する。
しかし、5人はこっそりと話を合わせ、慧音が刀を持つきっかけとなった言葉は伏せておいた。慧音が妹紅のことを取り出されて刀を手にしたことが分かれば、彼女にもダメージを与えることになると判断したからである。
「……なんだ!簡単じゃないか!」
妹紅はポンと手を叩き、明るい表情で言った。
「この事を無かったことにしちゃえばいいんだよ!慧音の力で、出来るだろ?」
その言葉に5人も明るい表情が戻る。しかし慧音は、ゆっくりと首を振った。
「……ダメだ。」
「なんで!出来るだろ慧音の力なら!」
「確かに私ならそれは出来る。しかし、この力は里を守るために使うと決めた力だ。
私自身の罪を消すために使うことは、許されない。」
「何言ってるんだよ!じゃあなんだ、閻魔様に自首するっていうのかよ!」
「もちろん、そのつもりだ。」
「何寝言言ってんだ!アンタがいなきゃ、誰がこの里を守るってんだよ!」
「里の人間を殺めてしまった以上、この罪を償わない限り里を守る資格は無い。」
「資格とかどうでもいいよ!アンタがいなくなったら悲しむ人間が居るんだ!
もちろん、私もその中の一人だ!だから慧音……」
「すまない……こればかりは、誤魔化すわけにもいかないんだ。」
妹紅は慧音の表情を見て悟った。これは今まで何度も見てきた、覚悟を決めた時の表情だと。
そしてこうなった以上慧音は簡単には意見を変えることは無い。
だとしたら……方法は一つしかない。
「慧音……ごめん!」
妹紅は全力で、慧音を殴り飛ばした。
慧音は壁に打ち付けられ、気絶する。
「妹紅さん!何を……」
「大丈夫、気絶させただけだ。あのままじゃすぐにでも閻魔のところに行ってしまう。
みんなだって、慧音を閻魔のとこへなんで行かせるわけにいかないだろ?」
「と、当然だ!慧音様はこの里に必要な人だ!」
「もちろんですとも!」
妹紅の言葉に賛同する5人。その言葉に安心すると共に、再び表情を引き締める。
「慧音は私が、なんとか説得してみせる。だからみんな、私に力を貸してくれ。
私達でこの殺人を『無かったこと』にするんだ。慧音の力無しでも、やるしかない。」
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「はい、王手。」
さとりは燐の陣地の王将の前に金を置いた。
その金を取ろうとしても飛車が待ち構えている。他の場所に逃げようにも取り囲まれている。
この対局は、燐の投了で終わった。
「う~、やっぱりさとり様強いですねぇ。」
「ふふ、あなたがどこに駒を動かそうとしているのか、私にはバレバレですからね。」
「やっぱり心読んでたんですか!どーりでやたら先回りで手が封じられると思った!
ゲームの時ぐらいガチでやりましょうよー遊びなんですから。」
「私は遊びであろうと常に勝利を求める貪欲な妖怪なのです。んふふふ……」
「大人げねぇーー!!」
頭を抱えてうずくまる燐。空は先ほどから椅子にすわりながらうたた寝している。
さとりは気分をよくしつつ、ちらりと時計に目をやった。現在午後6時半。
(慧音さんとの約束まで、あと一時間半……ヒマですねぇ。)
そしてさとりは、再び将棋版を手にとった。
「お燐、もう一局やりましょうよ。」
「あたい疲れましたよー空ともやってみたらどうですか?」
「……あの子は、駒の動きを覚えられません……」
「……ああ………たしかに……」
部屋が、切ない空気で包まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
里の有力者5人、そして妹紅が最初に行ったことは、部屋に飛び散った鮮血をふき取ることであった。
机、台所、水槽、ゴミ箱、あらゆる場所に飛び散った血液を跡が残らないようにふき取る。
妹紅は気絶した慧音を風呂に連れていき、身体をふき取り、服も着替えさせた。
すべての血をふき取ることが出来たのは、30分後のことであった。
「……こんなところかな。みんな、お疲れ様。」
「いえ、慧音様のためならこれぐらい。しかし、一番問題なのはこの死体では……」
「みんな私の能力知ってるだろ?これは私が竹林で燃やしてしまう。
残るのは骨と灰だけ。埋めてしまえば掘り返すバカもいないさ。」
「なるほど……」
「幸い、この五郎には身寄りはいないみたいだから、あとは慧音を説得できれば終わりだ。
このことを誰にも話さなければ、この殺人は『無かったこと』になる。」
「あっ!!」
突然、1人が何かを思い出したように叫んだ。
「そう言えば、今夜慧音様はある妖怪と会う約束をしていたはず……」
「……なんだって?その時間は?」
「確か、8時……」
「あと一時間しかないじゃないか!誰だか分かるか?」
「確か、地底に住むコメイジとか言う妖怪で……」
「……古明地さとり!?」
その名前を聞いて妹紅は戦慄した。彼女が永遠亭や紅魔館の事件を解決したことは妹紅の耳にも届いている。
彼女にこの事件のことを知られたら慧音が犯人であると見破られてしまうかもしれない。
それ以前に、彼女は心を読む能力を持っているのだ。特殊な力を持つ妖怪は彼女の読心をブロックすることも出来るようだが、あいにく妹紅にそのような力は無かった。
ましてやただの人間である他の5人は、会った瞬間に心の中を読み取られてしまうことだろう。
とにかく、さとりをこの部屋に来させるわけにはいかない。
何より、さとりと自分達が会ってはならない。
「……みんな、作戦変更だ。とにかく、さとりをこの部屋に入れないことが第一だ。
あと、私達がさとりに会ってはならない。あいつは心を読む、会った瞬間この事件がバレてしまう。」
「しかし、あと一時間で来てしまいますよ?」
「断りの電話を入れるよ。それは私がやる、慧音と親しい私の方がリアリティが出るはずだ。みんなは、とにかく里の奴らにさとりを慧音の家に近づけさせないようにと指示を出してほしい。でも何故近づけさせないようにするのか、理由は言わない。そうすれば、心を読まれても指示の内容だけしか読み取れないはずだ。
指示を出し終えたらみんなは隠れるんだ。事情を知っている私達さえ会わなければいい。」
「……分かりました。慧音様はどうするのですか?」
「私が竹林に連れていくよ。私の家ならさとりは辿りつけないはずだ。
1人は私と一緒に来て、慧音をおぶっていってくれ。
他の4人はとにかく、急いで村中に指示を出してくれ。始めるぞ!」
妹紅の合図と共に、4人はバラバラに散っていった。それぞれ立場は違えど里への影響力を持った人間達だ。一時間もあれば、村中にその指示を行き渡らせてくれるはずである。
「あと私がすることは、電話と、死体の始末と、慧音を家に連れていくこと……
やることがいっぱいだ。だが、慧音のためだ……やるしかない。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お燐との二局目の対戦中、この民宿の女将さんが部屋に入ってきた。
「あの~、古明地様?お電話ですけど。」
「電話ですか?誰からでしょう。」
「藤原妹紅様からです。」
妹紅……その名をさとりも聞いたことがある。
確か竹林に住む不死人で、永遠亭の姫と対立して、慧音との仲がいいとかなんとか。
さとりは女将に案内され、民宿に備え付けられた電話に出る。
「もしもし?さとりです。」
『ああ、始めまして、妹紅という者です。』
「存じています。えーフランクなしゃべり方でよろしいですよ。
私もその方が気が楽なので。何か用でしょうか?」
『じゃあ失礼して。今私は慧音の家にお邪魔してるんだけどさ、どうにも体調が優れないらしいんだ。
部屋で寝込んでしまってるから、あんたと会う約束は無理そうだって。』
「そうなんですか。彼女は大丈夫なんですか?」
『命に別状があるってわけじゃないけど、結構辛そうだね。
悪いね、わざわざ来てもらったのに。』
「何ならお見舞いにお伺いしますが。」
『いやいや!大丈夫だよ、そこまでさせるのは悪いからさ!』
この時の妹紅の言葉に、さとりは軽い引っかかりを覚えた。
自分に遠慮しているような言葉を発しているが、口調からはむしろ自分に来て貰っては困るような……そのようなニュアンスを感じ取ったのだ。
そもそも先ほど会った時はとても元気そうであったのに、数時間で寝込むほどに悪化するだろうか?
そしてその疑念は、横を通りすがった別の宿泊客の心から確信へと変わる。
(あれがさとり……彼女を慧音様のところに行かせなければいいのね。)
妹紅は会わせないために万全の策を尽くしたが、それが逆にアダとなってしまった。
さとりにこの件について疑念を持たせるきっかけを作らせてしまったのだから。
『もしもし?』
その声で、さとりは自分が長い間黙っていたことを思い出した。
「ああごめんなさい。電波が悪いみたいで……」
『なるほど。じゃあ悪いけど、今夜は……』
「ええ。部屋で大人しくしていますー。
慧音さんにお大事にとお伝えください。」
そしてさとりは電話を切り、女将にあいさつした後部屋に戻った。
部屋には未だ将棋版と睨めっこしている燐、そしていよいよ横になって爆睡し始めた空が居た。
「あ、さとり様。何の用でしたか?」
「ええ、慧音さんが体調悪いから今夜の約束は無し、だそうで。」
「えーせっかく来たのにー。でもまあ……体調じゃしょうがないですよね。
じゃあここで大人しくしてましょう。空も寝始めちゃったし。」
「何行ってるんですか。出かけますよ?」
「え?何処にですか?」
「決まってるじゃないですか。」
さとりはハテナマークを浮かべる燐に対して、ニヤリと笑った。
「慧音さんの家ですよ。」
「へ?」
さとりは、部屋で大人しくしている気などさらさら無かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妹紅は受話器を置いた。伝えるべきことは伝えたものの、気になる点が一つ。
彼女のお見舞いに行くという言葉を断った後の、あの沈黙だ。
(感づかれた……?いや、まさか。)
いくらさとり妖怪とは言え、電話越しに心が読めるとも思えない
あの能力はあくまで一定の距離内に入らなければ発動することもない、妹紅はそう考えていた。実際その通りでさとりは妹紅の心を読んだわけでは無い。ただ、隣を通りすがった宿泊客の心を読んだだけなのだ。
「まぁいいや、さて、大変なのはここからだ。行こうか。」
「はい。」
妹紅と男はそれぞれ死体と慧音を背負い、立ち上がった。
「あ、そうだ、鍵を……」
万が一さとりがやってきた時のため、家にカギをかけておく必要があると感じた。
鮮血は完全にふき取ったが、どこかに見落としがあるかもわからない。しかし……
「……見つからない。」
鍵が置いてありそうな場所を探したが、どこにも鍵は無かった。
慧音に聞かないとわからないだろうが、その慧音が起きると困る状況だ。
「仕方ない、か。このまま行こう。」
妹紅と男は見つからないようにこっそりと慧音の家を後にし、竹林へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さとりは燐を連れて部屋を出た。空は部屋で完全に眠りこけて起きなかったので放置することにしたのだ。そして、早速妨害に会った。
「ほらほら~、子猫ちゃん、猫じゃらしですよー」
「はっ、あたいがそんなものに……にゃ、にゃーん!!」
宿を出ようとしたら女将さんからいきなり猫じゃらし攻撃を受けたのだ。
危うく罠にかかりそうになる燐を引っ張って、なんとか宿を抜け出す。
燐は猫じゃらしにハマったら二時間以上は抜け出せないことは知っていたからだ。
「まったく……」
「すいませんさとり様。でも本当に妨害を?」
「ええ。よっぽど私と慧音さんを会わせたくないようです。
私と会いたくない理由なんて一つしかありません。読まれたくない何かがあるんですよ。
何を隠しているのか確かめるまで引くわけにはいきません。閻魔の使いとして。」
「ただ単に避けられて悔しいだけじゃ……」
「何か言いましたか?」
「いえ別に。」
さとりは道行く人達の心を読む。みな一様に自分を警戒しているのが見てとれるし、
なんとか慧音の家に行かせないようにしているのが分かるが、肝心のその理由は読み取れなかった。
「どうやら指示を出されているだけで、理由は一部の人間しか知らないようですね。」
「知らなければ読むことも出来ないですもんねー。考えましたね。」
「仕方ないです。とにかく進みましょう。」
さとり達は、妨害の意思を持った村人達に警戒されながらも、
慧音の家へと足を進めはじめた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一方、さとりが泊まっていた部屋の前では、比較的身体の大きい男4人が息を潜めていた。
「ほ、ほんとにやるのか?」
「やるしかねぇ。慧音様のためだ。」
「きっと慧音様の命を狙う輩に違いない!」
「じゃあ、行くぞ!」
4人は意を決して部屋に入る。中には空が1人で眠っていた。
「よし、じゃあ担ぐぞ。そーれっ!」
男達は眠っている空を4人がかりで担いで、宿を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
宿を出てから30分。さとりと燐は度重なる妨害に疲れ果てていた。
あっちに行っては通行止め、こっちに行っては工事中、更には店から無理やりセールスをされるなど、あらゆる方法で村人は一丸となってさとり達を妨害していた。
普段は常識があり空のセーブ役でもある燐だが、度重なる妨害で彼女もイライラを感じ始めていた。
「あーもう!さとり様、こいつら全員倒しちゃいましょうよ!!」
珍しく怒りをあらわにする燐。しかしさとりは彼女を止める。
「ダメですよ。私達が人間を攻撃したとあっては、地底と地上の関係にヒビが入りかねない。
ようやく私達がこの幻想郷に見とめられ始めたこの時期に、イザコザを起こすわけにはいきません。」
「でも!!」
―――ウー!ウー!
声を荒げ反論しようとした燐を遮るように、里に設置されているスピーカーからサイレンが鳴り響いた。
『あー、古明地さとりに告ぐ。古明地さとりに告ぐ。おたくのペットはこちらで預かった。
ペットを無事に帰してほしくば、町の入り口付近の空き地まで来い。繰り返す……』
その放送は、先程さとりの部屋に忍び込んだ4人のうちの1人の声であった。
もちろん、預かっているペットとは空のことであろう。
「ペ、ペットってまさか……」
「空でしょうね。まったく……」
「どうしましょう!里の入り口って慧音さんの家とは正反対ですよ!
せっかくここまで来たのに……」
「空が人間にやられるとは思いませんが、行くしかないでしょう。」
「くっ、無事でいてくれよ、お空!」
二人は踵を返し、町の入り口に向かって走り出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妹紅は死体を背負って竹林の奥までやってきた。
死体を地面に寝かせ、自分の右手から炎を出す。
「悪いな……これも慧音のためなんだ。」
そして妹紅は、高温の炎で死体を焼いた。あっと言う間に、死体は骨だけになる。
その横に小さな穴を掘り、骨を埋めた。
「これで、終わりですね。」
「ああ。あとは慧音を連れて私の家に行こう、その後おまえはどうする?」
「自分の家に戻ります。説得する時は二人きりの方がいいでしょうから。」
「大丈夫か?……だよな、あんたなら大丈夫だ。」
妹紅と一緒に慧音をおぶってここまで来たこの男は、妹紅の家に慧音が殺人を犯したことを伝えにきた男であった。妹紅が彼を選んだのも、終わった後一人でも大丈夫だと判断したためである。
「妹紅さん、必ず説得してくださいね。」
「もちろんさ。慧音はまだ私達に必要な存在なんだ。閻魔なんかに渡すもんか。」
妹紅の家へと足を進ませながらも、二人は決意を新たにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ……はぁ……」
「お、お燐、大丈夫?」
空が人間達にやられるわけは無いと思っては居たが、それでも誘拐されたことは事実。
やはり心配なものは心配なもので、自然と指定された場所へ向かう足も速くなっていった。
普段から走りなれているお燐はともかく、この人里へ向かう獣道でもヒィヒィ言っていたさとりが走るとなれば、当然すぐに体力も切れてしまうわけで。
指定された場所につくことには、さとりは汗だくでグロッキーになっていた。
そして、そんな苦労をして到着してみれば……
「あ、おりーん!さとりさまー!こっちこっちー!」
これである。
思わずさとりと燐はズッコけてしまった。
「お空、なんか変なことされなかった?」
「そうそう、ひどいんだよー何時の間にか取り囲まれててさー
びっくりしたからちょっと弾幕を出したらみんな伸びちゃった。」
燐は敵ながら伸びている大男4人に同情した。
お空の「ちょっと弾幕」はまったく「ちょっと」ではないのだ。
それは燐自身が何度も体験して思い知らされていることであった。
「はぁ……はぁ……空……」
「うにゅ?なんですか?」
「お……おでこを……」
「こうですか?」
――ペチン!!
「うにゅー!!」
涙目でおデコを押さえる空を無視しつつ、さとりは息を整え立ち上がった。
「ふぅ……心配して損しました。」
「ですねぇ。でもこれでだいぶロスしちゃいましたよ。」
「もっとガードが固くなってるでしょうしね。どうしましょうか……」
「うにゅ?」
悩む二人と何を悩んでいるかすら分かっていない一人。
「あれ?そこにいるのは……」
とそこに、3人の前に1人の救世主が現れた。
「お姉ちゃんだ。珍しいね、外に出てるなんて。」
無意識を操る程度の能力を持つ少女、そして古明地さとりの妹。
古明地こいしである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妹紅達はようやく妹紅の家へと到着した。
慧音を家の中に入れて、ようやくやるべきことは終わりである。
「お疲れ様。どうする?お茶ぐらいは出すけど。」
「いえ、何時目が覚めても大丈夫なようにここで失礼します。
……協力してくれてありがとうございました。」
「礼を言うのはこっちだよ。私はただ、慧音を失いたくないだけさ。」
「みんなそうです。きっと村でそう思っていない人はいません。」
「……慧音は絶対に説得してみせる。あとは私に任せてくれ。」
「はい。信じてます。」
男は一礼して、踵を返し里へと降りていった。
彼ならさとりに見つかるなんてことは無いだろうと妹紅は思っている。
「さて、と。どーっすかな。慧音頑固だしなぁ。
まずはいかに慧音が里に必要な存在かを説明して……」
妹紅は1人、慧音をどう説得するかを考え始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うわーおもしろーい!みんな気付いてなーい!」
「ちょっとお空!面白がるのはいいけど離れちゃダメだよ!効力切れるからね!」
「そうそう、またさらわれても助けてあげないよー。」
こいしの無意識を操る力は絶大であった。
こいしが能力を発動させている間は村人は誰も歩いているこいしに気付くことは無い。
そしてこいしの傍にピッタリくっついて歩いているさとりと燐と空も、また気付かれることなく堂々と歩けている。
故に、先程まであれほど執拗にされた妨害を一切受けることなく、あっさりと慧音の家の前まで辿りつくことが出来た。
「ここでいいんだね?」
「ありがとうこいし。助かりました。」
「こんぐらいお安い御用だよ。じゃ、私先帰ってるよー。」
こいしは踵を返し、地霊殿へと帰って行った。
こいしを見送ったさとりは、慧音の家の扉に手をかける。
「閉まってたらどうするんですかー?」
「その時はその時……あ、開きました。」
扉はあっさりと開いた。そしてそのまま中へと進むさとり。
「ちょ、ちょっといいんですか!お、おじゃましまーす!」
「おっじゃまっしまーす!」
燐はビクビクしながら、空は無駄に元気よく、さとりの後に続く。
そして3人は部屋の中に到達した。本来ならここで慧音と約束していたはずである。
「慧音さん、居ないよー。」
「うーん……」
空がさとりに報告する。念のためトイレや台所もチェックしたが、慧音はどこにも居ないようだ。
と、そこでさとりと空は、燐が金魚の入っている水槽をまじまじと見つめていることに気付く。
「お燐、どうしたの?食べたいの?」
「違うよ!お空みたいにバカなことはしないのあたいは!」
「でもさっき猫じゃらしに引っかかってましたよね。」
「さとり様までそんなこと言う!そうじゃなくて、見てくださいよ!」
燐は水槽を指差した。金魚ではなく、何も無い水の部分を。
「この水、赤みがかかってると思いません?」
言われてさとりと空もまじまじと水槽を見つめる。
確かに本来なら無色透明であるはずの水が、なぜか赤みがかかっていた。
そして……
「……かすかですが、血の匂いがしますね。」
「まさか、慧音さんに何か!?」
「あれー?おかしいよー?」
動揺する燐をよそに、今度は空が何かを発見したようだ。
「どうしたんですか?」
「ほらコレ。なんかの土台があるけど、上になんにも無いの。」
「あ、あたい知ってるよ。これ刀置くヤツだよ。妖夢の家にあった。」
「でも今は無い……ふむ。」
さとりは額に手をやり、何かを考え込んでいる。
お燐とお空はそれに気付いて、しばらくの間口を開くのをやめた。
「……いったん、外に出ましょうか。」
1分ほどした後、さとりが口を開いた。
その言葉通り、さとり達は玄関の外に出る。
「何か、わかりましたか?」
「……」
燐の問いかけにさとりは答えない。考え込んだままである。
「わ、見て見てお燐!」
「どうしたのさ。」
「ほら、すっごい綺麗な月!」
「わー、満月だねぇ。」
満月……?
さとりはその言葉に反応した。
「今夜は、満月なんですね?」
「ええ、そうですよ?ほら、すっごく綺麗ですよ。」
「なるほど、満月……。」
さとりは月を見ること無く、ただ静かに笑った。
「えー、どうやら妹紅さんを始めとする村の人々は、
総ぐるみで私から慧音さんの犯した殺人を隠そうとしたようです。
しかし、私の第三の目は既にこの事件の真相を捉えています。
さて今回の問題は、私が「いつ」「どこで」「誰の心から」事件の真相を読み取ったのか?
んー前の二つの事件では役立たずだったこの第三の目ですが
今回は非常に役に立ちました。これがあるから『覚り』はやめられませーん。
答えはこの後すぐ。古明地さと三郎でした。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ん……」
「慧音!起きたか?」
妹紅の家で布団をかけられ眠っていた慧音が、ようやく目を覚ました。
周りを見渡すとすぐ、妹紅に問い掛ける。
「なんで私はお前の家に居るんだ!五郎は……早く閻魔の元に……」
「落ち着いてくれ!今から説明するから!」
「とにかく私は自首をする。しなくてはならない。」
「待ってよ!そんなことしなくたって……」
言い争いを始める二人。しかし……
――コンコン
その言い争いを遮るかのように、妹紅の家の扉がノックされた。
まさか、今ここに人が来るわけが無い、そう思いながらも、おそるおそる扉を開けると……
「どーもーこんばんは。古明地さとりです。」
今、もっとも会いたくなかった妖怪がそこには居た。
「おや慧音さんもご一緒ですか。ならば話が早いです。」
「さとり殿……既に分かっているのだな。」
「はい。」
「ま、待ってくれ!」
妹紅は二人の会話を遮った。もはや会ってしまった以上無駄であることは分かっていたが、
それでもあがくしか無かった。認めさせるわけにはいかなかった。
「ありえない。なんでアンタがここに居る。」
「えーこの場所にですか?燐が以前猫の姿で遊びに来てたようなので、案内してもらいまして……」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
「んふふふ、そうですね。あなたは私にこの事件を読まれないように細心の注意を払っていた。
実際に事件に立ち会った5人は隠れさせて、
村人には慧音さんの家に近づけさせないという指示だけをして、
私にこの事件を真相を読ませないようにした。流石手際がいいですね、感心します。」
「じゃあ、なんでここに居るんだ!」
「えー気になりますか?ではお教えしましょう。私が心を読んだのは……この方です!」
合図と共に燐と空が入ってきた。そして空が抱えているものは……
金魚の入った、水槽であった。
「えー、お分かりですね?この金魚さんの心を覗かせて頂きました。」
「そ、そんな……」
「えー見落としてらっしゃったでしょう。動物も心を持っているんですよー?
まぁ無理も無いでしょう。金魚の心なんてあまり意識することも無いでしょうし。
私のような力を持っていないと聞こえることはありませんからねー。
しかし金魚さんはしっかりと記憶してくれてました!あの部屋で起きた出来事を一部始終!
それだけ強烈な出来事だったんでしょうね、この金魚さんにとっても。」
うなだれる妹紅。確かに、金魚のことなんて始めから頭から抜けていた。
これは完全に自分のミスだ。後悔しても後悔しきれない。
しかし、ここで終わるわけにはいかなかった。
すべては、慧音を里に残らせるために。
だからこそ妹紅は、最後のあがきをするために口を開いた
「だから、どうした?」
その言葉に、さとりも思わずにやけ顔を止める。
「ああ、確かにあんたの第三の目とやらは凄いよ。真相とやらが見えたんだってな。
でもな、それで何が証明できるんだ?あんたが「こんな心が読めました」と言って、
それが何の証拠になるんだよ!」
「おい妹紅!もう……」
「慧音は黙っててくれ!それでどうなんだ、証拠になるのか!?」
止めようとする慧音を遮り、さとりに啖呵を切る。
「えー……残念ながら、なりません。」
「……はっ。ほら見ろ。帰りな、私はこれから慧音と話すことがあるんだ。」
勝ち誇った顔をする妹紅。しかし、さとりもまた……
「しかし……」
再び、にやけ顔に戻っていた。
「この事件の証拠なら、あります。」
その言葉を聞いて妹紅の顔から表情が消える。
バカな、嘘っぱちだ。そうであってくれと願うしかできない。
「えー、事件が起こったのは午後5時です。この時間に慧音さんは部屋の刀を使い五郎さんを斬った。」
「………」
始めてはっきりと口にされたが、慧音は口を閉ざしたままでいる。
「その時、大量に五郎さんの血液が部屋中に飛び散った!
慧音さん自身も、多くの返り血を浴びたことでしょう。
そして一時間後、妹紅さんが来た。大事なのはここからです。
その時は6時で、既に夜になり満月が出ていた。慧音さんは変身していたんです。
今の慧音さんの様子を見ると妹紅さんによってふき取られ着替えもしたと考えられますが、
一箇所だけ、血をふき取ることが出来なかった、残ってしまった場所があるとしたら…?」
その言葉を聞いた瞬間、妹紅は理解した。
彼女の身体に残ってしまった『証拠』に。
「慧音さん、変身を解いて頂いてもよろしいですか?」
「……ああ。」
慧音の変身が解かれる。髪は緑から青に戻り、角も消え、
変わりに頭の上に塔の形をした帽子が現れた。
そして、その塔は、鮮血で真っ赤に染まっていた。
「えー……これが、証拠です。」
「いや……でも!!」
「もういいんだ妹紅。もういい。」
まだ認められずあがこうとする妹紅を押さえ、慧音が一歩前に出る。
「私が犯人だ。この手で、五郎を殺してしまった。」
「認めていただき、ありがとうございます。」
一番聞きたくなかった言葉を聞いてしまい、妹紅はがっくりとうな垂れる。
「すまないな、妹紅が迷惑をかけたようで。」
「いえいえ。その分、あなたが早くお認めになってくださってどっこいどっこいですよ。」
「私は言い訳する気も逃げる気も無い、もちろん能力を使う気も無い。
閻魔様のところへ行こう。」
「しかし、里の方はよろしいのですか?」
「捕まえておいて何を言っているんだ。大丈夫、きっと妹紅がなんとかしてくれるさ。
そもそも私は、人間を殺めてしまった。人里の守護者失格だ。」
「そんなことない!!」
うな垂れていた妹紅が顔を上げ、慧音に向かって叫ぶ。
「あんたがどれだけ里を、人間を愛していたかは私が一番よく分かってる!
あんたほどこの里の守護者にふさわしい奴はいない。」
「妹紅……」
慧音は泣きながら叫ぶ妹紅に、ゆっくりと歩み寄った。
「もういいよ。ここまで来たらもう自首するななんて言わない。
だからあんたも、守護者失格なんて言わないでくれ。
あんたがいない間は、私がなんとかする。
だからお願いだよ慧音。罪を償ったら、また戻ってきてくれ。私1人じゃ、荷が重い。」
「………」
妹紅の言葉にも、はっきりとした返事が出せずにいる慧音。
そんな慧音に、さとりもまた歩み寄る。
「この事件を『無かったこと』にするのは、許されることではありません。」
「……ああ、分かっているさ。」
「しかし、今まであなたが里のためにやったことを『無かったこと』にすることもまた、
許されないことだとは思いませんか?」
「……さとり殿。」
「あなたは戻るべきです。罪を償い、再び、この里へ。」
「……待っててくれるか?妹紅。」
「……もちろんさ!大丈夫、寿命の長さには、自信あるから!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも妹紅は笑った。
慧音はゆっくりと妹紅を抱きしめ、
「頼んだぞ、妹紅。」
最大級の信頼の言葉を口にした。そして妹紅を離し、さとりの元へと歩み寄った。
「行きましょう。」
「はい。」
慧音はさとりに手を取られ歩み出した。
罪を償い、再びこの里の守護者として生きていくために。
了
・ 割と真面目なミステリーです。死ぬキャラもいるのでご注意を。
・ 今回に限り村人という名目でオリキャラも居ます。メインはけねもこなので目立ちませんが、ご注意を
・ 古畑任三郎をリスペクトしています。そういうのが嫌いな方もご注意を
・『東方キャラがドラマを演じている』『ミステリーの皮を被った娯楽SS』と思って頂き、
ツッコミ所は仏の心で見逃していただけると嬉しいです
・ 続きモノですが短編で完結してるので以前の作品を読まなくても大丈夫ですが、
『閻魔が警察的ポジションでさとりが閻魔に頼まれ捜査をする立場にある。』
『過去永遠亭と紅魔館で殺人事件がありさとりが解決した。』
という2点だけ留意して頂ければよりスムーズに読めると思います。
「えー、もしあなたが殺人を犯してしまったとき、
そしてそれが衝動的で、するつもりが無かった殺人であったとき……
必ず一度はこう思うはずです。『この事を無かったことにしたい。』と……
もし犯罪の事実を無かったことに出来るなら、それは犯罪者にとってとても魅力的なことです。
今回の犯人は、それが出来る人物でして……。」
古 明 地 さ と 三 郎
VS
上 白 沢 慧 音
「あー、いい天気ですね!さとり様!」
ハツラツとした声でさとりに話しかける燐。
しかしさとりは、肩で息をしながらげっそりとしていた。
「ほんと……いい天気ですよね……太陽死ねばいいのに……」
燐にとってはほがらかな陽気の中でのお散歩であるが、さとりにとってはお散歩なんてものではなく、砂漠の中のサバイバルウォークの気分であった。
もちろんここは砂漠でも無ければ真夏でもない。しかし険しい獣道を進むには、さとりは少々軟弱であったのだ。
「もうさとり様、少しは運動しないと……」
「私の担当は頭脳労働ですから。身体の方の労働はあなた達の仕事でしょう。」
「その頭脳労働する場所にすら行けない身体じゃ意味ないですよー。」
さて、そもそも何故こんなにもヘロヘロになりながら歩いているのか。
それは今日、村の守護者上白沢慧音と会う約束をしているからである。
今夜は満月で、慧音の力が最大限に発揮される日であるため、この日の夜慧音は歴史を編集する作業に追われることになる。
今まで明るみに出てこなかった地底の歴史を、さとりの口から聞かせてほしい、それが慧音の願いであった。
さとりは最初は断ろうと考えていたが、燐が猫状態で世話になったと聞き、恩返しもかねてその依頼を了承することにしたのだ。
その結果が、このヘロヘロさとり、略して「ヘロり」である。
「あー!さとりさまー!着いたよー!」
元気にさとり達の遥か前方を歩いていた空が、元気な声でさとり達に叫ぶ。
ようやく長い獣道を超え、人里へとやって来たのだ。
「ふぅ……やっと着きましたか。」
「長かったですねー。」
「えっと、まずは慧音さんの家にあいさつに……」
――お、バカっぽいのがいるな、あいつにしよう。
「え?」
これからの予定を考えていたさとりであったが、ふと第三の目が誰かの心読み取った。
バカっぽいの……もしかしてもしかしなくても、空のことでは無いだろうか
「空!」
さとりが叫ぶ、だがその瞬間に、若い男が空にぶつかりそのまま駆けていく。
間違い無い、あれはスリである。
「燐!急いであの男を!」
「あいあいさー!」
燐は猫型に変身した。人間の姿よりもこちらの方が早く走れるからである。
さとりと空を追い抜き男に追いついた燐は、人型に戻り男を押さえつけた。
「うわ!なんだこいつ、妖怪かよ!」
「このスリめ!逃がさないよ!」
その騒ぎを見て回りの人間達もざわめき始める。
そして、そこに慧音の姿も現れた。
「何が、あったんだ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「申し訳無い!」
慧音によって民宿へと案内されたさとり達。
部屋に入って事情を聞かされ、慧音は頭を下げた。
「いえいえ、結局スッたのは空のガラス玉だけでしたし……」
「だけって何!宝物なんだよ!」
「はいはい。でも、里の治安に問題があるのはいけないと思いますよ。」
「いや、治安はいいんだが、あいつだけが……
五郎という男でな、身寄りも無く寺小屋で世話してたんだが、
一人立ちしたと思ったらこういうことを繰り返すばかりで……
重ね重ね、申し訳無い。」
「もう過ぎたことだからいいですよ。それより、約束の件は……」
「ああ、今はまだ満月が出てないから力は出せないんだ。
8時頃まで待ってくれてもよいだろうか?」
「わかりました、8時ですね?」
「では、失礼する。」
慧音は一礼して部屋を後にした。
現在の時刻は4時、まだ4時間のヒマがある。
「びっくりしたけど、慧音さんはいい人ですねー。」
「そうですね。しかしヒマになってしまいました。外出るのもめんどくさいですし。」
「発想がニートですよ……」
「うるさいですね。あ、じゃあ燐、これやりませんか?」
さとりは部屋の棚に置いてあった将棋版を指差した。
「あ、いいですね!やりましょう!強いですよ?あたいは。」
「ふふ、楽しみですね。」
二人はまったりと、将棋の対局をスタートさせた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
午後5時。民宿の部屋でさとり達がくつろいでいた一方、慧音の家では緊迫した雰囲気が漂っていた。
先ほどさとり達にスリをしようとした五郎が正座をさせられ、
その周りを取り囲むように慧音や村長を始めとする里の有力者6人が立っている。
そして慧音が、悲しそうな顔をしながら五郎に話し始めた。
「……五郎、どうしてまたスリなんかを。この前、反省したと言ってくれたじゃないか。」
「だってよ、あんなトロそうなカモが揃って歩いてたんだぜ?
スッてくれって言ってるようなもんだぜアレは。」
「あの妖怪は古明地さとりといって、地底の妖怪達の中でも特に強い力を持っている。
彼女を敵に回すということは、地底全体を敵に回すことにも繋がりかねないんだ。
仮にこの里に対して地底の妖怪達が攻撃をしてきたら、私の力だけではどうにもならん。」
「んなことはアンタらお偉いさん達の問題だろ。俺には関係ないね。」
慧音が必死に説得をするものの、五郎は聞く耳を持たずふてくされたままである。
慧音は悲しくなった。数年前五郎が寺小屋に通っていた頃は、生意気な部分もあったものの、とても元気ではつらつとした少年だったと言うのに。何故彼がこのようにスリを繰り返すような男になってしまったのか。自分の力の無さを痛感するばかりであった。
「だいたい、アンタだって人のこと言えないだろ。」
「なんだと……?」
「知ってるぜ。アンタが竹林に済む妹紅って奴と仲良くしてるってことは。
んでその妹紅と永遠亭が対立してるってこともな。
ってことはだ、アンタの行為は一歩間違えれば永遠亭と対立する行為ってことじゃない
のか?」
五郎のその言葉を聞いて、慧音の頭に血がのぼった。
「妹紅は関係ないだろう!!」
「お、落ち着いてください!」
声を荒げる慧音、それを見て村長は慧音をなだめようとする。
しかし、五郎は続けた。
「子供の時から気に食わなかったんだよ!アンタのそのエゴっぷりがな!」
「……っ!」
それが、慧音が理性を保つことの出来た最後の瞬間であった。
慧音は棚に飾ってあった刀を手にとり、その刀で……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
竹林にある自宅で寝ていた妹紅に、突然の来訪者が訪れた。あの場に居た里の有力者の一人である。彼は長年この竹林にて山菜取りをしており、案内無しで妹紅の家、そして永遠亭まで辿りつける数少ない人間であった。そのため、あまり人里と付き合いの無い妹紅とも顔見知りであったのだ。
そして彼は慧音の家に来るように妹紅に頼んだ。最初は寝起きということもあり乗り気じゃなかった妹紅も、事情を聞くと鍵もかけずに真っ先に飛び出した。
既に眠気は一瞬で吹き飛んでいた。
「慧音!!」
妹紅が慌てて慧音の家のドアを開けた。その中は、それは悲惨なものであった。
畳、障子、ふすま、机といったあらゆる場所が鮮血で染まり、
その中心には同じく鮮血で真っ赤に染まった慧音が呆然と佇んでいた。
夜になったということもあり、角が生えた姿に変身してしまっている。
「ああ、妹紅か……」
「慧音……これはどういうことだよ。その死体は……。」
「五郎だ……私が、やってしまった……。わたしが……。」
うつろな顔をしながらぶつぶつと呟くように語りかける。
妹紅はこんな慧音の姿を見たのは始めてであった。いつだって、お堅い顔で口元を引き締めていたというのに。
慧音がこのような状態なので、妹紅はその場に居た他の5人に何があったのか事情を聞いた。5人はしどろもどろになりながらもここに至った経緯、慧音の行動を説明する。
しかし、5人はこっそりと話を合わせ、慧音が刀を持つきっかけとなった言葉は伏せておいた。慧音が妹紅のことを取り出されて刀を手にしたことが分かれば、彼女にもダメージを与えることになると判断したからである。
「……なんだ!簡単じゃないか!」
妹紅はポンと手を叩き、明るい表情で言った。
「この事を無かったことにしちゃえばいいんだよ!慧音の力で、出来るだろ?」
その言葉に5人も明るい表情が戻る。しかし慧音は、ゆっくりと首を振った。
「……ダメだ。」
「なんで!出来るだろ慧音の力なら!」
「確かに私ならそれは出来る。しかし、この力は里を守るために使うと決めた力だ。
私自身の罪を消すために使うことは、許されない。」
「何言ってるんだよ!じゃあなんだ、閻魔様に自首するっていうのかよ!」
「もちろん、そのつもりだ。」
「何寝言言ってんだ!アンタがいなきゃ、誰がこの里を守るってんだよ!」
「里の人間を殺めてしまった以上、この罪を償わない限り里を守る資格は無い。」
「資格とかどうでもいいよ!アンタがいなくなったら悲しむ人間が居るんだ!
もちろん、私もその中の一人だ!だから慧音……」
「すまない……こればかりは、誤魔化すわけにもいかないんだ。」
妹紅は慧音の表情を見て悟った。これは今まで何度も見てきた、覚悟を決めた時の表情だと。
そしてこうなった以上慧音は簡単には意見を変えることは無い。
だとしたら……方法は一つしかない。
「慧音……ごめん!」
妹紅は全力で、慧音を殴り飛ばした。
慧音は壁に打ち付けられ、気絶する。
「妹紅さん!何を……」
「大丈夫、気絶させただけだ。あのままじゃすぐにでも閻魔のところに行ってしまう。
みんなだって、慧音を閻魔のとこへなんで行かせるわけにいかないだろ?」
「と、当然だ!慧音様はこの里に必要な人だ!」
「もちろんですとも!」
妹紅の言葉に賛同する5人。その言葉に安心すると共に、再び表情を引き締める。
「慧音は私が、なんとか説得してみせる。だからみんな、私に力を貸してくれ。
私達でこの殺人を『無かったこと』にするんだ。慧音の力無しでも、やるしかない。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はい、王手。」
さとりは燐の陣地の王将の前に金を置いた。
その金を取ろうとしても飛車が待ち構えている。他の場所に逃げようにも取り囲まれている。
この対局は、燐の投了で終わった。
「う~、やっぱりさとり様強いですねぇ。」
「ふふ、あなたがどこに駒を動かそうとしているのか、私にはバレバレですからね。」
「やっぱり心読んでたんですか!どーりでやたら先回りで手が封じられると思った!
ゲームの時ぐらいガチでやりましょうよー遊びなんですから。」
「私は遊びであろうと常に勝利を求める貪欲な妖怪なのです。んふふふ……」
「大人げねぇーー!!」
頭を抱えてうずくまる燐。空は先ほどから椅子にすわりながらうたた寝している。
さとりは気分をよくしつつ、ちらりと時計に目をやった。現在午後6時半。
(慧音さんとの約束まで、あと一時間半……ヒマですねぇ。)
そしてさとりは、再び将棋版を手にとった。
「お燐、もう一局やりましょうよ。」
「あたい疲れましたよー空ともやってみたらどうですか?」
「……あの子は、駒の動きを覚えられません……」
「……ああ………たしかに……」
部屋が、切ない空気で包まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
里の有力者5人、そして妹紅が最初に行ったことは、部屋に飛び散った鮮血をふき取ることであった。
机、台所、水槽、ゴミ箱、あらゆる場所に飛び散った血液を跡が残らないようにふき取る。
妹紅は気絶した慧音を風呂に連れていき、身体をふき取り、服も着替えさせた。
すべての血をふき取ることが出来たのは、30分後のことであった。
「……こんなところかな。みんな、お疲れ様。」
「いえ、慧音様のためならこれぐらい。しかし、一番問題なのはこの死体では……」
「みんな私の能力知ってるだろ?これは私が竹林で燃やしてしまう。
残るのは骨と灰だけ。埋めてしまえば掘り返すバカもいないさ。」
「なるほど……」
「幸い、この五郎には身寄りはいないみたいだから、あとは慧音を説得できれば終わりだ。
このことを誰にも話さなければ、この殺人は『無かったこと』になる。」
「あっ!!」
突然、1人が何かを思い出したように叫んだ。
「そう言えば、今夜慧音様はある妖怪と会う約束をしていたはず……」
「……なんだって?その時間は?」
「確か、8時……」
「あと一時間しかないじゃないか!誰だか分かるか?」
「確か、地底に住むコメイジとか言う妖怪で……」
「……古明地さとり!?」
その名前を聞いて妹紅は戦慄した。彼女が永遠亭や紅魔館の事件を解決したことは妹紅の耳にも届いている。
彼女にこの事件のことを知られたら慧音が犯人であると見破られてしまうかもしれない。
それ以前に、彼女は心を読む能力を持っているのだ。特殊な力を持つ妖怪は彼女の読心をブロックすることも出来るようだが、あいにく妹紅にそのような力は無かった。
ましてやただの人間である他の5人は、会った瞬間に心の中を読み取られてしまうことだろう。
とにかく、さとりをこの部屋に来させるわけにはいかない。
何より、さとりと自分達が会ってはならない。
「……みんな、作戦変更だ。とにかく、さとりをこの部屋に入れないことが第一だ。
あと、私達がさとりに会ってはならない。あいつは心を読む、会った瞬間この事件がバレてしまう。」
「しかし、あと一時間で来てしまいますよ?」
「断りの電話を入れるよ。それは私がやる、慧音と親しい私の方がリアリティが出るはずだ。みんなは、とにかく里の奴らにさとりを慧音の家に近づけさせないようにと指示を出してほしい。でも何故近づけさせないようにするのか、理由は言わない。そうすれば、心を読まれても指示の内容だけしか読み取れないはずだ。
指示を出し終えたらみんなは隠れるんだ。事情を知っている私達さえ会わなければいい。」
「……分かりました。慧音様はどうするのですか?」
「私が竹林に連れていくよ。私の家ならさとりは辿りつけないはずだ。
1人は私と一緒に来て、慧音をおぶっていってくれ。
他の4人はとにかく、急いで村中に指示を出してくれ。始めるぞ!」
妹紅の合図と共に、4人はバラバラに散っていった。それぞれ立場は違えど里への影響力を持った人間達だ。一時間もあれば、村中にその指示を行き渡らせてくれるはずである。
「あと私がすることは、電話と、死体の始末と、慧音を家に連れていくこと……
やることがいっぱいだ。だが、慧音のためだ……やるしかない。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お燐との二局目の対戦中、この民宿の女将さんが部屋に入ってきた。
「あの~、古明地様?お電話ですけど。」
「電話ですか?誰からでしょう。」
「藤原妹紅様からです。」
妹紅……その名をさとりも聞いたことがある。
確か竹林に住む不死人で、永遠亭の姫と対立して、慧音との仲がいいとかなんとか。
さとりは女将に案内され、民宿に備え付けられた電話に出る。
「もしもし?さとりです。」
『ああ、始めまして、妹紅という者です。』
「存じています。えーフランクなしゃべり方でよろしいですよ。
私もその方が気が楽なので。何か用でしょうか?」
『じゃあ失礼して。今私は慧音の家にお邪魔してるんだけどさ、どうにも体調が優れないらしいんだ。
部屋で寝込んでしまってるから、あんたと会う約束は無理そうだって。』
「そうなんですか。彼女は大丈夫なんですか?」
『命に別状があるってわけじゃないけど、結構辛そうだね。
悪いね、わざわざ来てもらったのに。』
「何ならお見舞いにお伺いしますが。」
『いやいや!大丈夫だよ、そこまでさせるのは悪いからさ!』
この時の妹紅の言葉に、さとりは軽い引っかかりを覚えた。
自分に遠慮しているような言葉を発しているが、口調からはむしろ自分に来て貰っては困るような……そのようなニュアンスを感じ取ったのだ。
そもそも先ほど会った時はとても元気そうであったのに、数時間で寝込むほどに悪化するだろうか?
そしてその疑念は、横を通りすがった別の宿泊客の心から確信へと変わる。
(あれがさとり……彼女を慧音様のところに行かせなければいいのね。)
妹紅は会わせないために万全の策を尽くしたが、それが逆にアダとなってしまった。
さとりにこの件について疑念を持たせるきっかけを作らせてしまったのだから。
『もしもし?』
その声で、さとりは自分が長い間黙っていたことを思い出した。
「ああごめんなさい。電波が悪いみたいで……」
『なるほど。じゃあ悪いけど、今夜は……』
「ええ。部屋で大人しくしていますー。
慧音さんにお大事にとお伝えください。」
そしてさとりは電話を切り、女将にあいさつした後部屋に戻った。
部屋には未だ将棋版と睨めっこしている燐、そしていよいよ横になって爆睡し始めた空が居た。
「あ、さとり様。何の用でしたか?」
「ええ、慧音さんが体調悪いから今夜の約束は無し、だそうで。」
「えーせっかく来たのにー。でもまあ……体調じゃしょうがないですよね。
じゃあここで大人しくしてましょう。空も寝始めちゃったし。」
「何行ってるんですか。出かけますよ?」
「え?何処にですか?」
「決まってるじゃないですか。」
さとりはハテナマークを浮かべる燐に対して、ニヤリと笑った。
「慧音さんの家ですよ。」
「へ?」
さとりは、部屋で大人しくしている気などさらさら無かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妹紅は受話器を置いた。伝えるべきことは伝えたものの、気になる点が一つ。
彼女のお見舞いに行くという言葉を断った後の、あの沈黙だ。
(感づかれた……?いや、まさか。)
いくらさとり妖怪とは言え、電話越しに心が読めるとも思えない
あの能力はあくまで一定の距離内に入らなければ発動することもない、妹紅はそう考えていた。実際その通りでさとりは妹紅の心を読んだわけでは無い。ただ、隣を通りすがった宿泊客の心を読んだだけなのだ。
「まぁいいや、さて、大変なのはここからだ。行こうか。」
「はい。」
妹紅と男はそれぞれ死体と慧音を背負い、立ち上がった。
「あ、そうだ、鍵を……」
万が一さとりがやってきた時のため、家にカギをかけておく必要があると感じた。
鮮血は完全にふき取ったが、どこかに見落としがあるかもわからない。しかし……
「……見つからない。」
鍵が置いてありそうな場所を探したが、どこにも鍵は無かった。
慧音に聞かないとわからないだろうが、その慧音が起きると困る状況だ。
「仕方ない、か。このまま行こう。」
妹紅と男は見つからないようにこっそりと慧音の家を後にし、竹林へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さとりは燐を連れて部屋を出た。空は部屋で完全に眠りこけて起きなかったので放置することにしたのだ。そして、早速妨害に会った。
「ほらほら~、子猫ちゃん、猫じゃらしですよー」
「はっ、あたいがそんなものに……にゃ、にゃーん!!」
宿を出ようとしたら女将さんからいきなり猫じゃらし攻撃を受けたのだ。
危うく罠にかかりそうになる燐を引っ張って、なんとか宿を抜け出す。
燐は猫じゃらしにハマったら二時間以上は抜け出せないことは知っていたからだ。
「まったく……」
「すいませんさとり様。でも本当に妨害を?」
「ええ。よっぽど私と慧音さんを会わせたくないようです。
私と会いたくない理由なんて一つしかありません。読まれたくない何かがあるんですよ。
何を隠しているのか確かめるまで引くわけにはいきません。閻魔の使いとして。」
「ただ単に避けられて悔しいだけじゃ……」
「何か言いましたか?」
「いえ別に。」
さとりは道行く人達の心を読む。みな一様に自分を警戒しているのが見てとれるし、
なんとか慧音の家に行かせないようにしているのが分かるが、肝心のその理由は読み取れなかった。
「どうやら指示を出されているだけで、理由は一部の人間しか知らないようですね。」
「知らなければ読むことも出来ないですもんねー。考えましたね。」
「仕方ないです。とにかく進みましょう。」
さとり達は、妨害の意思を持った村人達に警戒されながらも、
慧音の家へと足を進めはじめた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一方、さとりが泊まっていた部屋の前では、比較的身体の大きい男4人が息を潜めていた。
「ほ、ほんとにやるのか?」
「やるしかねぇ。慧音様のためだ。」
「きっと慧音様の命を狙う輩に違いない!」
「じゃあ、行くぞ!」
4人は意を決して部屋に入る。中には空が1人で眠っていた。
「よし、じゃあ担ぐぞ。そーれっ!」
男達は眠っている空を4人がかりで担いで、宿を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
宿を出てから30分。さとりと燐は度重なる妨害に疲れ果てていた。
あっちに行っては通行止め、こっちに行っては工事中、更には店から無理やりセールスをされるなど、あらゆる方法で村人は一丸となってさとり達を妨害していた。
普段は常識があり空のセーブ役でもある燐だが、度重なる妨害で彼女もイライラを感じ始めていた。
「あーもう!さとり様、こいつら全員倒しちゃいましょうよ!!」
珍しく怒りをあらわにする燐。しかしさとりは彼女を止める。
「ダメですよ。私達が人間を攻撃したとあっては、地底と地上の関係にヒビが入りかねない。
ようやく私達がこの幻想郷に見とめられ始めたこの時期に、イザコザを起こすわけにはいきません。」
「でも!!」
―――ウー!ウー!
声を荒げ反論しようとした燐を遮るように、里に設置されているスピーカーからサイレンが鳴り響いた。
『あー、古明地さとりに告ぐ。古明地さとりに告ぐ。おたくのペットはこちらで預かった。
ペットを無事に帰してほしくば、町の入り口付近の空き地まで来い。繰り返す……』
その放送は、先程さとりの部屋に忍び込んだ4人のうちの1人の声であった。
もちろん、預かっているペットとは空のことであろう。
「ペ、ペットってまさか……」
「空でしょうね。まったく……」
「どうしましょう!里の入り口って慧音さんの家とは正反対ですよ!
せっかくここまで来たのに……」
「空が人間にやられるとは思いませんが、行くしかないでしょう。」
「くっ、無事でいてくれよ、お空!」
二人は踵を返し、町の入り口に向かって走り出した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
妹紅は死体を背負って竹林の奥までやってきた。
死体を地面に寝かせ、自分の右手から炎を出す。
「悪いな……これも慧音のためなんだ。」
そして妹紅は、高温の炎で死体を焼いた。あっと言う間に、死体は骨だけになる。
その横に小さな穴を掘り、骨を埋めた。
「これで、終わりですね。」
「ああ。あとは慧音を連れて私の家に行こう、その後おまえはどうする?」
「自分の家に戻ります。説得する時は二人きりの方がいいでしょうから。」
「大丈夫か?……だよな、あんたなら大丈夫だ。」
妹紅と一緒に慧音をおぶってここまで来たこの男は、妹紅の家に慧音が殺人を犯したことを伝えにきた男であった。妹紅が彼を選んだのも、終わった後一人でも大丈夫だと判断したためである。
「妹紅さん、必ず説得してくださいね。」
「もちろんさ。慧音はまだ私達に必要な存在なんだ。閻魔なんかに渡すもんか。」
妹紅の家へと足を進ませながらも、二人は決意を新たにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ……はぁ……」
「お、お燐、大丈夫?」
空が人間達にやられるわけは無いと思っては居たが、それでも誘拐されたことは事実。
やはり心配なものは心配なもので、自然と指定された場所へ向かう足も速くなっていった。
普段から走りなれているお燐はともかく、この人里へ向かう獣道でもヒィヒィ言っていたさとりが走るとなれば、当然すぐに体力も切れてしまうわけで。
指定された場所につくことには、さとりは汗だくでグロッキーになっていた。
そして、そんな苦労をして到着してみれば……
「あ、おりーん!さとりさまー!こっちこっちー!」
これである。
思わずさとりと燐はズッコけてしまった。
「お空、なんか変なことされなかった?」
「そうそう、ひどいんだよー何時の間にか取り囲まれててさー
びっくりしたからちょっと弾幕を出したらみんな伸びちゃった。」
燐は敵ながら伸びている大男4人に同情した。
お空の「ちょっと弾幕」はまったく「ちょっと」ではないのだ。
それは燐自身が何度も体験して思い知らされていることであった。
「はぁ……はぁ……空……」
「うにゅ?なんですか?」
「お……おでこを……」
「こうですか?」
――ペチン!!
「うにゅー!!」
涙目でおデコを押さえる空を無視しつつ、さとりは息を整え立ち上がった。
「ふぅ……心配して損しました。」
「ですねぇ。でもこれでだいぶロスしちゃいましたよ。」
「もっとガードが固くなってるでしょうしね。どうしましょうか……」
「うにゅ?」
悩む二人と何を悩んでいるかすら分かっていない一人。
「あれ?そこにいるのは……」
とそこに、3人の前に1人の救世主が現れた。
「お姉ちゃんだ。珍しいね、外に出てるなんて。」
無意識を操る程度の能力を持つ少女、そして古明地さとりの妹。
古明地こいしである。
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妹紅達はようやく妹紅の家へと到着した。
慧音を家の中に入れて、ようやくやるべきことは終わりである。
「お疲れ様。どうする?お茶ぐらいは出すけど。」
「いえ、何時目が覚めても大丈夫なようにここで失礼します。
……協力してくれてありがとうございました。」
「礼を言うのはこっちだよ。私はただ、慧音を失いたくないだけさ。」
「みんなそうです。きっと村でそう思っていない人はいません。」
「……慧音は絶対に説得してみせる。あとは私に任せてくれ。」
「はい。信じてます。」
男は一礼して、踵を返し里へと降りていった。
彼ならさとりに見つかるなんてことは無いだろうと妹紅は思っている。
「さて、と。どーっすかな。慧音頑固だしなぁ。
まずはいかに慧音が里に必要な存在かを説明して……」
妹紅は1人、慧音をどう説得するかを考え始めた。
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「うわーおもしろーい!みんな気付いてなーい!」
「ちょっとお空!面白がるのはいいけど離れちゃダメだよ!効力切れるからね!」
「そうそう、またさらわれても助けてあげないよー。」
こいしの無意識を操る力は絶大であった。
こいしが能力を発動させている間は村人は誰も歩いているこいしに気付くことは無い。
そしてこいしの傍にピッタリくっついて歩いているさとりと燐と空も、また気付かれることなく堂々と歩けている。
故に、先程まであれほど執拗にされた妨害を一切受けることなく、あっさりと慧音の家の前まで辿りつくことが出来た。
「ここでいいんだね?」
「ありがとうこいし。助かりました。」
「こんぐらいお安い御用だよ。じゃ、私先帰ってるよー。」
こいしは踵を返し、地霊殿へと帰って行った。
こいしを見送ったさとりは、慧音の家の扉に手をかける。
「閉まってたらどうするんですかー?」
「その時はその時……あ、開きました。」
扉はあっさりと開いた。そしてそのまま中へと進むさとり。
「ちょ、ちょっといいんですか!お、おじゃましまーす!」
「おっじゃまっしまーす!」
燐はビクビクしながら、空は無駄に元気よく、さとりの後に続く。
そして3人は部屋の中に到達した。本来ならここで慧音と約束していたはずである。
「慧音さん、居ないよー。」
「うーん……」
空がさとりに報告する。念のためトイレや台所もチェックしたが、慧音はどこにも居ないようだ。
と、そこでさとりと空は、燐が金魚の入っている水槽をまじまじと見つめていることに気付く。
「お燐、どうしたの?食べたいの?」
「違うよ!お空みたいにバカなことはしないのあたいは!」
「でもさっき猫じゃらしに引っかかってましたよね。」
「さとり様までそんなこと言う!そうじゃなくて、見てくださいよ!」
燐は水槽を指差した。金魚ではなく、何も無い水の部分を。
「この水、赤みがかかってると思いません?」
言われてさとりと空もまじまじと水槽を見つめる。
確かに本来なら無色透明であるはずの水が、なぜか赤みがかかっていた。
そして……
「……かすかですが、血の匂いがしますね。」
「まさか、慧音さんに何か!?」
「あれー?おかしいよー?」
動揺する燐をよそに、今度は空が何かを発見したようだ。
「どうしたんですか?」
「ほらコレ。なんかの土台があるけど、上になんにも無いの。」
「あ、あたい知ってるよ。これ刀置くヤツだよ。妖夢の家にあった。」
「でも今は無い……ふむ。」
さとりは額に手をやり、何かを考え込んでいる。
お燐とお空はそれに気付いて、しばらくの間口を開くのをやめた。
「……いったん、外に出ましょうか。」
1分ほどした後、さとりが口を開いた。
その言葉通り、さとり達は玄関の外に出る。
「何か、わかりましたか?」
「……」
燐の問いかけにさとりは答えない。考え込んだままである。
「わ、見て見てお燐!」
「どうしたのさ。」
「ほら、すっごい綺麗な月!」
「わー、満月だねぇ。」
満月……?
さとりはその言葉に反応した。
「今夜は、満月なんですね?」
「ええ、そうですよ?ほら、すっごく綺麗ですよ。」
「なるほど、満月……。」
さとりは月を見ること無く、ただ静かに笑った。
「えー、どうやら妹紅さんを始めとする村の人々は、
総ぐるみで私から慧音さんの犯した殺人を隠そうとしたようです。
しかし、私の第三の目は既にこの事件の真相を捉えています。
さて今回の問題は、私が「いつ」「どこで」「誰の心から」事件の真相を読み取ったのか?
んー前の二つの事件では役立たずだったこの第三の目ですが
今回は非常に役に立ちました。これがあるから『覚り』はやめられませーん。
答えはこの後すぐ。古明地さと三郎でした。」
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「ん……」
「慧音!起きたか?」
妹紅の家で布団をかけられ眠っていた慧音が、ようやく目を覚ました。
周りを見渡すとすぐ、妹紅に問い掛ける。
「なんで私はお前の家に居るんだ!五郎は……早く閻魔の元に……」
「落ち着いてくれ!今から説明するから!」
「とにかく私は自首をする。しなくてはならない。」
「待ってよ!そんなことしなくたって……」
言い争いを始める二人。しかし……
――コンコン
その言い争いを遮るかのように、妹紅の家の扉がノックされた。
まさか、今ここに人が来るわけが無い、そう思いながらも、おそるおそる扉を開けると……
「どーもーこんばんは。古明地さとりです。」
今、もっとも会いたくなかった妖怪がそこには居た。
「おや慧音さんもご一緒ですか。ならば話が早いです。」
「さとり殿……既に分かっているのだな。」
「はい。」
「ま、待ってくれ!」
妹紅は二人の会話を遮った。もはや会ってしまった以上無駄であることは分かっていたが、
それでもあがくしか無かった。認めさせるわけにはいかなかった。
「ありえない。なんでアンタがここに居る。」
「えーこの場所にですか?燐が以前猫の姿で遊びに来てたようなので、案内してもらいまして……」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
「んふふふ、そうですね。あなたは私にこの事件を読まれないように細心の注意を払っていた。
実際に事件に立ち会った5人は隠れさせて、
村人には慧音さんの家に近づけさせないという指示だけをして、
私にこの事件を真相を読ませないようにした。流石手際がいいですね、感心します。」
「じゃあ、なんでここに居るんだ!」
「えー気になりますか?ではお教えしましょう。私が心を読んだのは……この方です!」
合図と共に燐と空が入ってきた。そして空が抱えているものは……
金魚の入った、水槽であった。
「えー、お分かりですね?この金魚さんの心を覗かせて頂きました。」
「そ、そんな……」
「えー見落としてらっしゃったでしょう。動物も心を持っているんですよー?
まぁ無理も無いでしょう。金魚の心なんてあまり意識することも無いでしょうし。
私のような力を持っていないと聞こえることはありませんからねー。
しかし金魚さんはしっかりと記憶してくれてました!あの部屋で起きた出来事を一部始終!
それだけ強烈な出来事だったんでしょうね、この金魚さんにとっても。」
うなだれる妹紅。確かに、金魚のことなんて始めから頭から抜けていた。
これは完全に自分のミスだ。後悔しても後悔しきれない。
しかし、ここで終わるわけにはいかなかった。
すべては、慧音を里に残らせるために。
だからこそ妹紅は、最後のあがきをするために口を開いた
「だから、どうした?」
その言葉に、さとりも思わずにやけ顔を止める。
「ああ、確かにあんたの第三の目とやらは凄いよ。真相とやらが見えたんだってな。
でもな、それで何が証明できるんだ?あんたが「こんな心が読めました」と言って、
それが何の証拠になるんだよ!」
「おい妹紅!もう……」
「慧音は黙っててくれ!それでどうなんだ、証拠になるのか!?」
止めようとする慧音を遮り、さとりに啖呵を切る。
「えー……残念ながら、なりません。」
「……はっ。ほら見ろ。帰りな、私はこれから慧音と話すことがあるんだ。」
勝ち誇った顔をする妹紅。しかし、さとりもまた……
「しかし……」
再び、にやけ顔に戻っていた。
「この事件の証拠なら、あります。」
その言葉を聞いて妹紅の顔から表情が消える。
バカな、嘘っぱちだ。そうであってくれと願うしかできない。
「えー、事件が起こったのは午後5時です。この時間に慧音さんは部屋の刀を使い五郎さんを斬った。」
「………」
始めてはっきりと口にされたが、慧音は口を閉ざしたままでいる。
「その時、大量に五郎さんの血液が部屋中に飛び散った!
慧音さん自身も、多くの返り血を浴びたことでしょう。
そして一時間後、妹紅さんが来た。大事なのはここからです。
その時は6時で、既に夜になり満月が出ていた。慧音さんは変身していたんです。
今の慧音さんの様子を見ると妹紅さんによってふき取られ着替えもしたと考えられますが、
一箇所だけ、血をふき取ることが出来なかった、残ってしまった場所があるとしたら…?」
その言葉を聞いた瞬間、妹紅は理解した。
彼女の身体に残ってしまった『証拠』に。
「慧音さん、変身を解いて頂いてもよろしいですか?」
「……ああ。」
慧音の変身が解かれる。髪は緑から青に戻り、角も消え、
変わりに頭の上に塔の形をした帽子が現れた。
そして、その塔は、鮮血で真っ赤に染まっていた。
「えー……これが、証拠です。」
「いや……でも!!」
「もういいんだ妹紅。もういい。」
まだ認められずあがこうとする妹紅を押さえ、慧音が一歩前に出る。
「私が犯人だ。この手で、五郎を殺してしまった。」
「認めていただき、ありがとうございます。」
一番聞きたくなかった言葉を聞いてしまい、妹紅はがっくりとうな垂れる。
「すまないな、妹紅が迷惑をかけたようで。」
「いえいえ。その分、あなたが早くお認めになってくださってどっこいどっこいですよ。」
「私は言い訳する気も逃げる気も無い、もちろん能力を使う気も無い。
閻魔様のところへ行こう。」
「しかし、里の方はよろしいのですか?」
「捕まえておいて何を言っているんだ。大丈夫、きっと妹紅がなんとかしてくれるさ。
そもそも私は、人間を殺めてしまった。人里の守護者失格だ。」
「そんなことない!!」
うな垂れていた妹紅が顔を上げ、慧音に向かって叫ぶ。
「あんたがどれだけ里を、人間を愛していたかは私が一番よく分かってる!
あんたほどこの里の守護者にふさわしい奴はいない。」
「妹紅……」
慧音は泣きながら叫ぶ妹紅に、ゆっくりと歩み寄った。
「もういいよ。ここまで来たらもう自首するななんて言わない。
だからあんたも、守護者失格なんて言わないでくれ。
あんたがいない間は、私がなんとかする。
だからお願いだよ慧音。罪を償ったら、また戻ってきてくれ。私1人じゃ、荷が重い。」
「………」
妹紅の言葉にも、はっきりとした返事が出せずにいる慧音。
そんな慧音に、さとりもまた歩み寄る。
「この事件を『無かったこと』にするのは、許されることではありません。」
「……ああ、分かっているさ。」
「しかし、今まであなたが里のためにやったことを『無かったこと』にすることもまた、
許されないことだとは思いませんか?」
「……さとり殿。」
「あなたは戻るべきです。罪を償い、再び、この里へ。」
「……待っててくれるか?妹紅。」
「……もちろんさ!大丈夫、寿命の長さには、自信あるから!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも妹紅は笑った。
慧音はゆっくりと妹紅を抱きしめ、
「頼んだぞ、妹紅。」
最大級の信頼の言葉を口にした。そして妹紅を離し、さとりの元へと歩み寄った。
「行きましょう。」
「はい。」
慧音はさとりに手を取られ歩み出した。
罪を償い、再びこの里の守護者として生きていくために。
了
してやられたので百点あげます。
最後のさとりのセリフが特にいい
ちょっと妹紅側を応援してしまったwww
サスペンス風で面白かったです。次回も期待してます
登場人物がみんな「らしく」て、いいんじゃないでしょうか
もってけ100点!
次は誰かな?
それもちゃんとキャラの特性を活かしてる
文句なく満点です
次も期待してます
よくまとまっていると思います
面白かったです。
とてもおもしろかった。
あと夜が明けるまで自分の意思で変身を解除できるのか?などありますが瑣末なことでした。
金魚とか、まったく思い浮かばなかったwww
面白かったです!
確かにお燐とお空も動物ですしね
しかし、幻想郷に電話機があったとは…