「本当に、闘わなくてはならないのね……?」
桃色の亡霊が、もう八分咲ほどになった桜を背にし、悲しそうにに問いかけた。
「ええ、それが私……博麗の巫女の存在理由だから」
札を持ち、針を構えた巫女がそれに答える。
「霊夢さん!」
妖夢が悲痛な声を上げるが、巫女はもう答えない。ただ、眼前の敵を睨みすえるだけである。
そして、霊夢は唐突に動き出した。針を牽制に投げ付け、一気に距離を詰めようと地面を蹴る。
対して幽々子は半歩だけ右に動いて針をやり過ごし、逆に突っ込んでくる霊夢の足元に向けて光弾を放つ。
霊夢はその着弾地点を越えるように前方に跳び、さらに針を飛ばす。弾を撃ってすぐ、さらに距離をとっていた
幽々子は、空中の霊夢に向かって死へと誘う必殺の蝶をけしかける。
霊夢が不吉な蝶に取り囲まれ、その姿が確認出来なくなり、その場にいた全員が息を呑んだ次の瞬間、凄まじい
閃光がその中心から迸った。霊夢の十八番、夢想封印である。
傍目には、一進一退の攻防に見えたし、霊夢自身も初めはそう思っていた。しかし、幾つかの重要な事実が、
霊夢の頭からは抜け落ちていた。
一つは、これは「弾幕ごっこ」ではないということ
もう一つは、実体を持たない亡霊相手では、徒手格闘が意味を為さないということ
数十分後、その失敗は、誰の目にも明らかなほどに肥大化していた。
片や、ほぼ無傷な西行寺の亡霊。
片や、全身が薄汚れ、何とか立っていられる程度にまで削られた博麗の巫女。
「貴女、まだやるつもり?今度こそ、本当に死ぬわよ?」
「うるさい!私は、博麗の巫女は、絶対に負けるわけにはいかないのよ!」
ふらふらの体で、霊夢はなおも武器を構えようとする。
「もうやめたらどうだ?」
そんな霊夢を見かねたか、屋敷から白黒の帽子を被ったままの魔理沙が出てきて、言った。
その魔理沙の言葉に、霊夢は振り返り、
「どうしてよ!?目の前で異変が起きているのに……って、え?」
目を疑った。
屋敷から覗く、顔、顔、顔。誰もが例外なく、頬を赤く染めている。
それらに、霊夢は見覚えがあった。
いつの間にやら霊夢の背後に立っていた紫が、一言
「落ち着いて、地上の様子を思い返してみなさい」
霊夢の脳裏には、出発する直前の地上の様子。
春だというのに全く咲くそぶりを見せようとしない、神社の桜。
そして、
「ま、まさか……」
今にも雨が降り出しそうな、どんよりした空。もし雨が降り出したら、桜の花など瞬く間に散ってしまっていただろう。
「……だからね、紫に頼まれて、春度を一時避難しておいたのよ。そしたら、みんなどうして気がついたのかぞろぞろと集まってきちゃって……」
幽々子がすまなさそうに言う。霊夢は呆然としながら、
「つまり、私の、」
「そうよ、貴女の早とちり」
紫が嬉しそうに続ける。
「なんてことなの……」
あまりのことに気力も底を尽き、がっくりと膝をつく霊夢。だが、
「私にも酒を寄越せええええええええええ!」
直ぐに立ち直ると、屋敷へと駆け込んでいくのであった……。