秋も終わりが近付ついた頃、博麗神社の境内で事件は起こった。
「霊夢さん、好きです! 私とお付き合いして下さい!」
積もる落ち葉をだらだら掃除していた霊夢は、早苗から告白されて、持っていた箒を落としてしまった。
「……早苗、分社の方はもういいの?」
「あ、大丈夫です。問題ありませんでした。……じゃなくてっ」
定期的に分社の様子を見に来る早苗は、いつも点検を終えた後は、霊夢と軽く雑談し、たまに神社の中に寄ってお茶を飲んでいく。今日もその筈であった。少なくとも霊夢はそう思っていた。
分社の方を見に行った早苗をあまり気にも留めず掃除を続けていたら、まさかの突然の告白。全く予期していなかった事態に霊夢は困惑していた。
(博麗の勘めっ、こういう時に働きなさいよ!)
思わず心中で、ありえない八つ当たりをする霊夢であった。
「さぁ、返事を下さい」
「うっ」
真剣な目を真っ直ぐ向けてくる早苗に、霊夢はたじろぎ、誤魔化しは効かないと悟る。仕方なく霊夢は正直に答えを返した。
「神奈子さむぁ~っ、ずわござまぁ~!」
「ど、どうしたのよ早苗!?」
「おー、よしよし」
博麗神社の分社の様子を見に行った筈の早苗が、号泣しながら帰って来た為、神奈子と諏訪子は驚いた。
何があったのか尋ねるが、早苗はなかなか泣き止まず、そのまま眠ってしまい。結局、事情を聞けたのは夕方になってからだった。
目を覚ました早苗は、腫れぼったい目をまた潤ませながら、何とか事情を説明した。
「……そう、とうとう博麗のに告白したのね」
「頑張ったね、早苗」
そんな早苗を、神奈子と諏訪子は優しく慰めた。二人とも以前から早苗の霊夢への気持ちを知っており、相談にも乗ってあげていたのだ。それ故に早苗の傷心もよくわかった。
「う、うぅ、『そういうの面倒なの』って、『博麗の巫女としての責務もあるから』って、『だからごめん』ってぇ」
「そう、それで早苗も霊夢の言い分は間違ってないと思って、もう何も言えなかったのね?」
「うんうん、早苗は霊夢のことホントに好きだからね。はっきり断られた以上、縋りついて迷惑かけるようなことはしたくなかったんだよね」
「はい、はい」
また目の端に涙を浮かべる早苗の頭を撫でながら、神奈子と諏訪子は顔を見合わせ、頷いた。
その日の夜、早苗が眠ったのを確認してから、守矢の二柱は神社を抜け出した。
分社を使って移動した為、二人は一瞬で博麗神社の境内に着いた。
「諏訪子、引き返すなら今のうちよ?」
「なーに言ってんの、神奈子だけに責任を押し付けやしないよ」
お互いの意思を確かめ合い、笑う二人。そこへ、
「いったい何の責任よ?」
その声に振り向いた二人の前には、寝間着姿の霊夢が立っていた。
「流石は博麗の。私たちの気配に気付くなんてね」
「ま、うちの早苗もいずれはそれぐらい出来るようになるけどね」
「気配なんて全く感じなかったわ。ただの勘よ、勘。……昼間は役に立たなかったけどね。あんたらの用件……早苗のこと、なんでしょ? もしかして復讐しに来たとか?」
ばつが悪そうに頭を掻く霊夢は尋ねた。それに二人は答える。
『違う』
「やっぱり。でもあんたらだって大事な風祝がいなくなったら……って、違う?」
予想が外れたらしい霊夢は少々面食らった。
「まぁ私はそれでも良いんだけどー。『それじゃ早苗が悲しむ』って神奈子も言うしねぇ」
「余計な事は言わないの。……まぁとにかく、あんたに危害を加えたりはしないから」
「じゃああんたら何しに来たわけ?」
本気でわからない、という霊夢に二人はにやりとして告げた。
「いやいや、特にどうこうって程のことではないのよ」
「そうそう、私たちはちょっとあんたにお裾分けをしに来ただけだよ」
「お裾分け?」
「そ、分社を置いてもらってるお礼みたいなもんかな」
そして二人はどこから取り出したのか、たくさんの野菜が入った籠を霊夢の前に置いた。
「これから冬に入るんだから、貯えは必要よね?」
「ま、まぁね」
「はい、あと少ないけど納金ね。分社の場所代とでも思ってよ」
「これはっ」
受け取った封筒の中には紙幣が何枚も入っていた。
「こ、こんなに貰っちゃって、いいの?」
「いいのよ。だって、ねぇ諏訪子」
「ねぇ神奈子」
「な、何よ。何か裏でもあるの?」
「いやいや、そんなことは無いのよ? ただうちには今ちょっと余裕があってね」
「静葉が神社の周りを綺麗な紅葉で飾ってくれてね。おかげで参拝客もいっぱいだったよ、主に妖怪だけど」
霊夢は今秋の博麗神社の様子を思い出す。春こそ満開の桜が綺麗だが、秋では落ち始めた葉が物寂しさを強調しているようだった。
「ところで、夕飯は何食べた?」
「へ?……ご飯と漬け物」
「おや、それだけ? それはいけない。若い娘がそれだけじゃ、身が持たないわよ?」
その言葉に霊夢は何も言い返さなかったが、何も普段からこんな食事内容というわけではない。今日は昼間の早苗からの告白のショックと、それを断った罪悪感から料理をする気にもなれず、食も進まなかっただけだ。
「まぁ多分、早苗のことで悩んでくれたのよね」
神奈子と諏訪子もそこは理解していた。
「と、いう訳でうちの今日の夕飯のおかず、残り物で悪いけどこれもあげるわ」
またもやどこから取り出したのか、二人はそれぞれタッパーを抱えていた。
「まずはこちらのサラダをご賞味あれ」
諏訪子が差し出したタッパーには、見た目にも瑞々しい野菜を使ったサラダが入っていた。
箸まで渡された霊夢、いきなりの展開に戸惑いながらも、渋々サラダを食べた。
「!? これはっ」
その野菜には苦味が無く、むしろ甘さを感じる程だった。歯応えも良く、食欲を促してくれそうだ。食卓の引き立て役どころか、そのままメインにもなれそうである。
「美味しい?」
「その野菜、うちで採れたやつなんだ」
「天狗から山の敷地を借りてね」
「えっ」
かなり高価な野菜なのだろうと思っていたら、まさかの自家栽培。
「まず諏訪子が土を耕やす」
「種を撒いたら、穣子の力で逞しく育つようにしてもらう」
「河童の技術で畑を囲って、害虫が寄らないようにして」
「雛に厄を吸ってもらって、野菜の質が落ちないようにする」
「そして私が天候を操って、風を抑えて日光と雨を適度に与えれば」
「美味しい野菜の出来上がり」
自慢げに話す神様二人に、霊夢は唖然とする。なんだそれは、反則じゃないか、と。
「ではお次はこちらをお食べなさい」
続いて神奈子が差し出したタッパーには、肉じゃががみっちりと入っていた。今度は何も戸惑うこと無くそれに箸をつける。
「……美味しい」
それを食べた霊夢は、意図せずして口から言葉が漏れた。本能で美味いと感じたのだ。
(芋も肉も柔らかい。味もしっかりついてて、でも濃すぎない)
「これ、誰が作ったかは言わなくてもわかるわよね?」
「……早苗ね」
この流れではそれ以外ありえないだろう。
「この芋もうちの畑で採れた物でね」
「でも早苗ほどこれを活かしきれる人はいないよね」
「何たって早苗は実の母親と私と諏訪子の三人から料理を叩き込まれてるからね」
「昔ながらの和食も作れるし、幻想郷の外の料理も知ってるしね」
ごくりと唾を飲む霊夢。
「あ、ところで博麗の。あんた、胸、大きくなりたい?」
「は?」
いきなり明後日の方向に話を変えられて、間抜けな声が出た。しかし霊夢は自分の胸を見て、改めてその平野っぷりに少し落ち込む。
「私の胸を見て。これをどう思う?」
そう尋ねる神奈子に、霊夢は、
「凄く、大きいわ」
と素直な感想を述べる。
「じゃあ私は?」
そう尋ねる諏訪子に、霊夢は、
「凄く、小さ……大きい!?」
「神は自在なのさ」
諏訪子の胸はついさっきまで確かに霊夢と同レベルであった。しかし今は立派なお椀形である。
「じゃあ博麗の。……早苗の胸は?」
もはや冷静な思考が出来なくなった霊夢は、言われるがまま早苗の胸を思い浮かべる。
「大きいわ」
「そうでしょ」
「そうよね」
頷く神様二人。そして、
「改めて訊くけど、あんた、胸は大きくなりたい?」
「べ、別にっ」
「正直に言いなよ」
「……まぁ、ちょっとは」
その言葉を聞いた二人は満足気に微笑み、ボソリと呟いた。
『……神徳』
翌日、日も昇って大分経つ頃、早苗はまだ布団の中だった。前日さんざん泣いたせいで体が重かったのだ。
「早苗、起きて。もうお昼よ」
「う、う~ん、神奈子様~、あと五分」
「誰が神奈子様よ。私は霊夢よ」
「~ん、霊夢~、あと五分……はぇ!?」
その声に慌てて飛び起きる早苗、目の前には笑顔の霊夢。
「れれれ霊夢さんっ、何故ここに!?」
「あんたに用があって来たのよ。勝手に部屋入ったのは悪かったわ。でも『まだ寝てるみたいだから起こしてやってくれ』って神奈子と諏訪子に言われてね」
「そ、そそ、そうでしたか」
寝起きのだらしない姿を見られたくなくて、毛布で身を包む早苗。
「……早苗、昨日はごめんね。突然のことで私も混乱してたの。一晩冷静に考えて、やっと自分の気持ちに気付くことが出来たの」
「へ?」
俯いて言葉を紡ぐ霊夢に、早苗は自分の中に期待が湧くのを感じた。
(そ、そんなっ、もしかして……)
「私も早苗が好きよ。だから昨日の返事、無かったことにしてくれない?」
ぶっきらぼうに、しかし真剣な表情で言う霊夢に、早苗はまた涙を流して抱き付いた。その表情はとても嬉しそうで。
「ほらほら、落ち着きなさいよ。まずはさっさと顔洗ってきなさい」
「あっ、は、はいっ」
そうだった、好きな人の前で自分はなんて恥ずかしい格好をしているんだろう――そう思い、慌てて部屋を出て行く早苗。それを見送って、霊夢は言葉を漏らした。
「罪悪感が凄い」
自分の言葉をあまりにあっさりと受け入れた早苗。
「やれやれ、能天気なんだから。そんなんだから私なんかに簡単に騙されちゃうのよ。昨日の今日でおかしいでしょ、疑いなさいよ」
霊夢は俯いて溜め息を吐く。
顔を洗い、居間にいた神奈子と諏訪子に明るい表情で挨拶をした早苗は、縁側から空を見上げた。すっかり元気を取り戻した様子に、神奈子と諏訪子も安堵する。
秋と冬の狭間で肌寒い風が吹いていたが、空は雲一つない晴れ模様。まるで自分の今の心情を映しているようだ、と思った。すると無償に胸の奥がムズムズしてきて、我慢出来なかったのか、早苗は真上に昇る太陽に向かって高らかに叫んだ。
「やっぱり私は奇跡を起こせるんだ!」
そんな早苗の声は神奈子や諏訪子はもちろん、霊夢にまでしっかり届いていた。
(あぁ~あ、バカみたいに叫んじゃって。恥ずかしいやつ)
そう思いつつも、その声を聞いた途端、頭に早苗の笑顔が浮かび、微笑ましい気分になる。
と、認識した瞬間、霊夢は自分でも無意識のうちに早苗のことを考えていたことに驚いた。自然に、本当にごく自然に早苗のことを考えて温かい気持ちになれていたのだ。
「……なんだ、さっき私の言ったことって、嘘じゃなかったのね」
(バっカみたい……バカね、私は)
なんと、霊夢は本当に早苗が好きだった。告白されても自覚しなかったのに、何故か今の早苗の声でやっと自覚した。まさに奇跡だ。
(……さっきの言葉、もっかい言い直そう)
先ほどの早苗の笑顔を頭に浮かべて高鳴る胸を押さえ、霊夢は今さらながらに顔に熱が集まるのを感じた。
確かにこの盾はパネェ
そしてその神徳を小鬼と天人にも分けてあげてくだしあw
これは面白かった
奇跡って凄いね!
静葉様が葉を紅葉させ落とさなければ土壌に栄養が蓄えられないのだから!
おいしい作物が育つ土壌は静葉様が作っているといっても過言ではないのだ!
それにしても神々の後ろ盾はマジやばいな
お金だけだったら黒いけど、きちんと自分たちのテリトリーをアピールしてるところが強かだよなぁw
そんな神徳のつまった野菜だったら食べてみたい
もちろん早苗さんの手料理はいただいていきますね
後ろ盾が凄すぎwwww
多分彼女らは信仰したりするのは柄じゃないんでしょうw
≫5様
約束された奇跡の職業――守矢の風祝! ありがとうございます。
≫8様
どうもです! ちなみに関係無い話ですが、初めて“許早苗”というフレーズを見かけた時は「許嫁の早苗」っていう意味だと思いましたょ。
≫10様
ハッピーエンドが大好物なのです。
≫11様
も、申し訳ありません!静葉様がいるから人々は生きていられるのですね。 早苗さんマジ羨ましいです。
≫14様
“奇跡”とは常識では考えられない出来事なんですよね。だから早苗さんは常識に囚われてはいけn(ry
≫17様
妖怪の山だけで一つの社会を築いてる――これって凄いですよね。 霊夢に殺されてしまいますょ!?
≫奇声を発する程度の能力様
まさに神のご加護ですね!w
≫25様
神々の後ろ槍……はっ、グングニル!?
≫30様
早苗さんは「気付いたら出来ちゃってました!」ってぐらいの結果オーライ思想ですw
この娘らには死ぬまで幸せに暮らせる呪いをかけてやって下さい。