Coolier - 新生・東方創想話

抱いて Hold on Alice

2009/11/18 22:24:31
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「うぅ……さ、寒い。寒くて死ぬぜ」

 冬の足音がひたひたと近付く、十一月の或る夜の事。
 魔理沙は布団の中で、がたがたと震えていた。

「こ、こんなに寒いと凍死してしまうぜ」

 がちがちと歯を鳴らしながら、魔理沙はこの寒さを乗り切る方法を模索する。

「一刻も早く手を打たないと、即席冷凍魔法使いの出来上がりだ」

 毛布にくるまり、両手に息を吹きかけつつ、魔理沙は思考を巡らせる。

 そして。

「……あ」

 程無くして、魔理沙の頭に妙案が浮かんだ。


「――アリスに、暖めてもらおう」



 
 ……十分後。

「ということで、来ました」
「いや、来ましたじゃなくて」

 大きな枕を小脇に抱えた、パジャマ姿のお隣さん。
 その表情は、ニッコニッコと満面笑顔。
 そんな深夜の珍客を前に、アリスははあと嘆息する。

「あのね、魔理沙」
「うん」
「今はまだ、十一月よね」
「うん」
「……こんな時期から寒さに音を上げていたら、あなた、一月や二月はどうやって乗り切るつもりなの?」
「その頃になったら、ずっとここで暮らすから問題ない」
「いや、それちょう問題あるから」
「大丈夫だぜ。私一人増えたくらいで何が変わるってもんでもなし」
「いや、だからそういうことじゃ……はあ」

 一方的過ぎる魔理沙の提案に、一応の異を唱えてみたアリスだったが、当の提案者の魔理沙は、相変わらず嬉しそうにニコニコ笑っているだけ。
 これこそまさに、暖簾に腕押し、糠に釘、ってやつだ。
 アリスは諦観の境地で、毛布をめくって魔理沙用の入り口を作ってやった。

「……もういいわ。ほら、早く入りなさい」
「うん」

 魔理沙はとてとてと歩き、いそいそとベッドに上がると、開けてもらった入り口から、毛布の中に身体を滑り込ませた。
 そして、持って来た自分の枕をアリスの枕にぴったりとくっつけ、同時に、自分自身も、ぴったりとアリスにくっついた。
 というか、抱きついた。

「つめたッ!?」

 思わず悲鳴を上げたのはアリスである。
 無理もなかった。
 この寒空の下、魔理沙は、パジャマの上にコート一枚羽織っただけ、という格好で飛んで来たのだ。
 それで身体が冷えていないわけがなかった。

 そして、そんな魔理沙にはっしと抱きつかれたのは、つい先ほどまで、毛布の中でぬくぬくしていたアリスである。
 アリスは、急激に体温が奪われていくのを感じた。
 アリスはがたがた震えながら、必死の抗議の意思表示を試みた。

「ささささ、さささむいわ、魔理沙」
「アリスあったかい」

 聞いちゃいねぇ。

 魔理沙はそんな抗議などそ知らぬ顔で、一層強く、アリスにぎゅっとしがみついた。
 まるでコアラの赤ちゃんのように、両手両足でアリスを拘束している形だ。

「うぅ……ささささむいいい……」
「大丈夫だよ、アリス。私がこうやって暖めてあげるから」

 魔理沙は至極ご満悦といった表情で、アリスをぎゅうっと抱きしめる。
 いやだからね、あなたが私の体温を奪っている張本人なんだけどね。
 なんて言葉を口にしてもあんまり、というか全く意味ないだろうな、と悟ったアリスは、震える両手を魔理沙の背中に回すと、そのまま強く抱きしめた。
 もうどうせなら、少しでも魔理沙と密着する面積を増やして、奪われた熱量を取り戻すことに賭けよう、との判断からだ。

 
 ……そうやって、抱きしめあうこと暫し。

 漸くアリスの寒さも消え、魔理沙が来る前と同じくらいの温もりを取り戻すに至った。

 そんな折、魔理沙が小さく呟く。

「……アリス。まだ起きてる?」
「……ええ。何?」
「いや、えっと」
「…………」
「……もしかして、怒ってるかな、とか」
「…………」

 いつになく、殊勝な言葉を吐く魔理沙。
 出来れば最初に抱きついた時点でそう思ってほしかったが。

 アリスは溜め息混じりに答える。

「……べつに。もう怒ってないわ」
「あ、じゃあやっぱり、ちょっとは怒ってたんだ」
「そりゃあ、ちょっとは」

 だってマジ寒かったしね。
 アリスはぼそっと付け加える。
 
 そんなアリスに対し、これまたいつになく小さな声で、魔理沙はぼそりと呟いた。

「……ごめん」
「…………」

 まったく、いつもこれくらい素直になれないものかしら。
 アリスは心の中で盛大に嘆息する。

「……アリス?」

 一方、アリスが無言でいるため、不安そうにその名を呼ぶ魔理沙。

 ……やれやれ。

 アリスは、そんな魔理沙の頭を、がばっと胸元に抱き寄せた。
 
「わっ……」

 突然自分を包んだ弾力に、思わずうろたえる魔理沙。
 アリスは漸く、いつもの調子を取り戻した口調で囁く。

「……バーカ。柄にもないこと、言ってんじゃないの」
「…………」
「ちょっと図々しいくらいの方が、あんたらしくていいわ」
「……アリス」

 アリスの胸に顎を乗せたまま、じっと上目遣いで見上げる魔理沙。
 アリスはなんとなく気恥ずかしくなって、再びその顔を自分の胸に押し込めた。

「わっぷ」
「……ほら、子供は夜更かししないでさっさと寝る!」
「……ふぁい」

 胸元から、くぐもった魔理沙の返事が返ってきた。
 その調子がなんだか可笑しくて、アリスはくすりと笑みを零す。

 そして、このままだと魔理沙が窒息しかねないので、頭を押さえつけていた腕を少し緩めてやる。
 すると魔理沙はもぞもぞと動き、先ほどのように、胸に顎が乗る位置で落ち着いた。
 どうやらこの位置が気に入ったらしい。

「……おやすみ、魔理沙」
「……おやすみ、アリス」

 そうして間もなく、二人はまどろみの中に落ちていった。

 
 肌寒くも人恋しい、そんな秋の夜の一幕。

 二人の魔女の夜が、更けていく。




お久しぶりです。
前作の後書きに書いたように、年内はもう投稿できないかな、と思っていたのですが、少し時間が空いたのと、短めのネタを思いついたのとで、この度投稿させて頂きました。

作品の内容としては、前に書いた『抱いて Hold on Marisa』の逆verといった感じになりましたので、タイトルもそのまま引用する形にしました。

それでは、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。
まりまりさ
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コメント



0.2380簡易評価
9.90名前が無い程度の能力削除
冬はくっつけるから暖かいですね
10.100名前が無い程度の能力削除
ちょっと心が温かくなった。
13.100名前が無い程度の能力削除
寒いねと 話しかければ 寒いねと 答える人の いる暖かさ
16.60名前が無い程度の能力削除
貴方の書くマリアリはなぜか平気なんですよね。ただ甘いだけの話って基本的に苦手なはずなんですが。不思議。

ということでお帰りなさい。待ってました。
今回は少し短い、薄いということでこの点数で失礼。
23.100奇声を発する程度の能力削除
心がポッカポカ!!!
28.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙かわいいよ魔理沙。
貴方の書く魔理沙はかわいすぎる。
31.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずいいマリアリ。
33.90スウィ削除
おかえり!!あなたの描くマリアリを待っていた!

ところでアリスの雰囲気がちょっと変わったような……魔理沙のデレが増したせいかな?
37.100アリサ削除
待ってました……お帰りなさい。これからも応援しています。
41.90名前が無い程度の能力削除
あったかいなり~
61.100非現実世界に棲む者削除
二人の温かい温もりはとろけるくらいに、甘かった。