春先の宝船騒動以降、現在では人里の一角に構え、空を飛ぶ寺として人妖問わず人気を博している妖怪寺、命蓮寺。歴史あるこの寺には、そのことを全く感じさせない、一風変わった一室がある。他の部屋に比べ広々としたその部屋は、壁、床、天井を全て白で統一した、まるでSF洋画に登場する近未来の建物の一室であるかのような部屋なのだ。初めてこの部屋を目の当たりにした者は、この寺が日本の由緒正しい木造建築物であることを、瞬時に忘れてしまうだろう。部屋の中央には、その存在を誇示するかの如き黒色を放つ長机と椅子が並べられている。更に、奥には幻想郷では珍しいホワイトボードが設置されている。ホワイトボードが存在するということは、外界の人間ならば、この部屋の正体が何なのか、すぐに判るだろう。創、この部屋は命蓮寺の会議室なのだ。
今日もまた、次々に妖怪たちが会議室に入室する。妖怪たちに共通すること、それは皆獣の耳や尾が生えているということだ。いわゆる妖獣という分類の妖怪たちである。最終的には、計四人の妖獣たちが集まった。
……あれ?思ったより少ない?
皆が一様に着席する中、最後に入室したこの命蓮寺の住人、ナズーリンは、ホワイトボードの前に立ち、着席する一同に向かって言った。
「諸君、今日はこの命蓮寺によく集まってくれた。感謝する。当同盟代表、ナズーリンだ。それではこれより、第33回ケモッ娘同盟定期会議を行う」
ナズーリンがそう言い切った直後、ホワイトボードに突如として、『第33回ケモッ娘同盟定期会議』の文字が現れた。マジックペンで書かれたものとは思えないほどの達筆である。また、33の数字の上には、可愛らしい文体で『みみ』とルビか振ってある。ギャップ萌えである。
「書記はこれまで通り、人間支部代表、犬咲夜君に務めてもらう」
いつの間に現れたのか、皆が気付くとナズーリンの隣に犬咲夜が佇んでいた。軽く一礼をする犬咲夜。その凛とした表情と佇まいは、流石は完全で瀟洒な従者、その二つ名に恥じない垢抜けた女性だと、この場に居た誰もが感心した。更に、頭部にある二対の犬耳と腰にある犬尻尾が微かに揺れる仕草が非常に可愛らしい。ギャップ萌えである。
咲夜本人は人間であるため、当然の事ながら耳と尻尾は付属品である。しかし、このことを犬咲夜に問い質してはいけない。やたらと偽者というニュアンスを含む言葉に反応して、涙混じりにナイフを飛ばしてくるから。
「さて、早速本題に入る…と言いたいところだが、副代表の八雲藍君、迷いの竹林支部長の鈴仙・優曇華院・イナバ君の姿がないが、橙君、てゐ君、彼女たちはどうしたんだい?」
「は、はいっ!藍様は先日勝手に境界を弄った紫様への説教が終わらないので行けないそうです!」
「鈴仙は今頃お師匠様のモルモットになってると思うよ。無事なのは私だけ」
「ふむ、残念だね。二人は各々の仕事が忙しいのか」
ナズーリンはコンコンと右手の甲でホワイトボードを叩いた。
「それでは本題に入ろう。まずは…皆は最近、この幻想郷に我が同盟とは異なる新たな勢力が誕生したことを、ご存知かな?」
その言葉に、一番に反応したのは、妖怪の山支部長、犬走椛であった。
「角っ娘協商…の、ことですか?」
「ご名答。角っ娘協商とは、伊吹萃香氏、星熊勇儀氏、上白沢慧音氏を中心に活動を行う団体だ。強大な力を持つ鬼2名に加え、参謀を知識人である慧音氏が担うことにより、その勢力を確実のものとしていると聞く。またつい先日、人間支部代表にあの博麗霊夢氏画正式に就任することが決定したらしい」
会議室にどよめきが起こった。博麗霊夢といえばその名を知らぬ者はいない、幻想郷の要となる人物である。メンバーの驚きも一入である。ちなみに、そのどよめきの内容はこんな感じ。
「でもなんで霊夢が角っ娘なのかなぁ?」
「ほら、霊夢さんと萃香様って交友関係があるじゃないですか。あと、霊夢さんがキレて本気を出すことを、俗に鬼巫女と言いますし」
「それもあるだろうけどさ、やっぱり決定打はあれかな。少し前に人里で包丁持って、『わりぃ子はいねぇがーーーー!!』ってやってたの」
「ああ、納得」
どうやら霊夢は自分の仕事ぶりを人里の人達にアピールするようになったようだ。感心感心。
パンパンッと、ナズーリンは手を叩いて声を張った。
「静粛に。このまま角っ娘協商が勢力を拡大し続ければ、間違いなく我が同盟は衰退の一途をたどるだろう。これは深刻な事態だ。」
ナズーリンは真剣な目つきで語る。一方、参加者である橙、椛、てゐの3人は、音是衰退の一途をたどらなければならないのかイマイチ理解できなかったが、『こういうことはその場のノリと勢いが肝心』だということは理解していたので、特に口には出さなかった。皆空気を読むことには長けている。
「そこで、我が同盟も勢力向上を図るため、新たなる妖獣を、このケモッ娘同盟招き入れたく思う。」
新たなる妖獣。それは三人にとって、仲間が増える喜ばしい事であると同時に、いったいどのようなものなのだろうかという緊張を孕む事でもある。3人はゴクリ…と、唾を飲み下した。
「その人物とは……他でもない、私のご主人、虎丸星、だ」
虎丸星。命蓮寺の長、聖白蓮の信仰を一身に受けた、毘沙門天の代理。その大物の名に、3人は思わず息を呑んだ。
しかし、星の姿を脳裏に浮かべた3人は、同時にある疑問点に行き当たった。このケモッ娘同盟にはなくてはならないモノが、星には存在しない。
三人の様子を察したナズーリンは、一呼吸おいてから語る。
「…踏む、どうやら皆考えていることは同じようだね。そう、ご主人は元は妖怪の山に住む虎の妖怪。だが、その容姿には本来あるはずの、虎の耳と尻尾がない。これには訳があって、ご主人は長い間、人間に対して己が妖怪であることを隠さなくてはならなかったんだ。理由は…まぁ、話すと長くなるだろうし、もとよりこの話の方向性が変わってしまうから、割愛」
『大事な部分割愛するなよ』と3人は心の中でツッコんだが、このまま話してしまうとこの会議がイイハナシダナー路線に変わってしまう恐れがあるのは確かなので、特に何も言わなかった。
「聖が復活して数ヶ月、私はご主人に、『いい加減隠さなくてもいいんじゃないか?』と聞いたことがある。しかしご主人は、『えー…恥ずかしいですよ。今更人様の前で見せるなんて…』と言った。この恥ずかしがり屋さんめ」
何処となくナズーリンの表情が悦っているように見えるのは気のせいだろうか。
「現状、このままではご主人を我が同盟に加入させることは不可能。更に加えると、実は私はご主人の耳と尻尾をこの目で確認したことが一度もない。実は元から耳と尻尾は存在しなかった、という可能性は、本人の発言からして限りなく低いはずだが、0ではない。そこで私はある作戦を決行することにした。その名も…」
無駄に長いタメの後、言い放った。
「第1回虎丸星解明作戦(仮)ッ!!」
ナズーリンは熱い叫びと共にホワイトボードをバンッっと叩いた。その直後、そこに書かれていた第33回ケモッ娘同盟定期会議の文字が、一瞬にして、『第1回虎○☆解明作戦(仮)』に変わった。
『虎○☆…反対から読むと…☆○…』と、橙は体から尖った鉄筋を取り出して敵に投げつける黄色いヒトデを思い出しながら呟いた。ホワイトボード全体に目をやると、そのヒトデが右上の隅に描かれていた。あ、やっぱり意識して書いたんだ。
「はいっなずりん代表!」
「なんだね椛君」
「どうして(仮)なんですか?」
「有無、いいところに目をつけたね椛君。実に素晴らしい。本当はもっと格好良いネーミングにするつもりだったんだが、生憎いいものが思いつかなくてね。考えに考えた末、結局妥協して、この名前に(仮)を足して間に合わせることにしたんだ。何かいいネーミングが思いつき次第変更するから期待してくれたまえ」
大袈裟に言う割には大したことではなかった。椛は「はぁ…」と苦笑する。
「作戦の内容はこうだ。まず、私がご主人に接触する。ご主人が私に気を取られている隙に、犬咲夜君が時を止め、ご主人の背後を取り、羽交い絞めにする。時が動き出す時、突然の出来事にご主人は慌てふためくだろう。その可愛らしい姿をいつまでも堪能していたいが、長引くとご主人も反撃してくるだろう。そこで私はご主人の頭部にある花の髪飾りを奪う。恐らくこの髪飾りが、ご主人の耳を隠すのに一役買っているのだろう。隠し続けてきた耳が露になり、ご主人は赤面して狼狽えるに違いない。その姿を…じゅるり……と、そのようなことをしている時間はないな。続けて第二段階に入る。今度は尻尾の確認だ。尻尾は恐らく背骨に沿うように服の内側に隠されているのだろう。尻だと座禅が組めないからね。再び犬咲夜君が時を止め、今度は正面に回り、ご主人に覆いかぶさるように腕を背に回し、裾を掴む。そして、時が動き出すのと同時に捲り上げる。最後に私が露になった尻尾を握り締めれば、作戦は成功だ。この時、犬咲夜君の身を案じれば、悠長に尻尾を確認している時間はない。露になった細長いものを反射的に握り締める、ということになるだろう。尻尾を握られるのが弱点ということは、我々妖獣の常識だからね。尻尾さえ掴んでしまえば、後はご主人を宝塔紛失の件を聖たちにバラすことをネタに脅せば、あれよあれよのうちにご主人は私たちの仲間入りとなるだろう」
さすがは賢将、といったところか。その綿密なる作戦に感嘆の声が上がる中(一部の聞き苦しい点は皆目を瞑った)、てゐからこんな意見がポツリ。
「わざわざそんな手間のかかる今年なくても、最初から尻尾握って弱らせちゃった方がやりやすいんじゃないの?」
てゐの意見に対して、ナズーリンは「はあ……」と大袈裟に溜め息をついた。
「まったく、実に馬鹿だね、君は。最初の段階で羽交い絞めにするのがいいんじゃないか。羽交い絞めにされるご主人…………フフフフフフフフフフフ」
どうやら羽交い絞めに何かしらのこだわりがあるようだ。加えておかしなスイッチが入ってしまったらしい。両手の指ををワキワキと動かしながら、不気味な笑いを浮かべるナズーリンに対して、てゐは「うわぁ…」と一言漏らして顔をしかめた。
一連の流れに興味がないのか、橙はただボーッとホワイトボードを眺めていた。いつの間にかホワイトボードの四角にはエン・ソフとトリックスターとデンタ君が加えられていた。てかデンタ君レベル高いな。と心の中でポツリ。
会議がおかしな方向へ向かっていることを察した椛は、状況を打開すべく手を上げた。
「なずりん代表!星さんの加入は、この同盟にどのような変化をもたらすのでしょうか?」
不気味な笑いをヒタリと止め、すぐさま真剣な表情に戻るナズーリン。
「うむ、実はご主人には我が同盟存続の為に最重要とも言える役割を担ってもらうことを決めている。それは…」
「それは?」
「またいつか宝塔を紛失した際に私に対して耳と尻尾を露にした姿で涙混じりに『ごめんなしゃいなずしゃん……また宝塔を探してきてくだしゃいがおぅ……』と懇願する役割だ」
「至極私事ですね」
ちなみに、星は月に一回の頻度で宝塔を紛失するのだそうだ。うっかりもここまで来ると才能である。
一連の会話を聞いて何を想像したのか、犬咲夜はその凛とした表情はそのままに頬を紅赤くした。恐らく、ナズーリンを自分に、星をレミリアに脳内変換したのだろう。
椛は半ば呆れた様子で発言する。
「もっと他にないんですか?同盟の勢力につながるような役割は」
「そうだなぁ、他の役割は……」
少しの沈黙の後、思考を巡らせていたナズーリンの鼻からツーッと血が流れた。
「発想のベクトルを変えてください」
どうしてこんな変態が代表の同盟に入ってしまったんだろう……ああそうだった。自分に獣の耳と尻尾が生えている時点で、拒否権は無いんだった。
言い知れぬ疲労感と脱力感に襲われ、椛は「はぁ……」と大きく溜め息をつき、がっくりと肩を落とした。
そして、落ちた目線の先に、それを見つけた。
机の下でカメラを構える猫耳の誰かが、レンズ越しにこちらを見つめているのを……
「うわあああぁぁあぁあああぁっ!!!」
あまりのホラー展開に椛は椅子から転げ落ちた。皆も何事かとそちらに視線を送る。
「あやややや。とうとう見つかってしまいましたか」
そう言って机の下から現れたのは、椛の上司、射命丸文だ。何故か猫耳に浴衣という奇妙なルックスでの登場である。
「どっどどどどどしてあやややさまがこっここここ」
椛は先程のホラー展開が相当応えたようで、ひどく動揺していた。言葉が詰まりまくりである。
「え?あぁ、なんとなく命蓮寺からネタの匂いがしたので会議中のこの部屋に潜入することにしたんですよ。それにしても、予想通り、面白いことになりそうですねぇ~」
まるでいたずらを思いついた子供のように、文はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「それにしてもどうしたんですか?その耳ー」
猫耳に興味津々の橙が文に問う。
「ああこれですか?いやぁそれが、先程ここに来る前に、ネタ集めの為に最近流れ着いたらしい巨大な屋敷に潜入したんですけどねぇ、実はそこは幽霊屋敷だったんですよ!そこで心霊写真をバンバン撮ってたら、クリア特典がどうとかで頂いちゃいました♪」
「誰から?」とは聞かない、誰も。恐らく文自身も上手く答えられないだろう。そういうものなのだ。
「あ、後ここに来る途中、早苗さんに会ってこのことを話したんですけどね、そしたら『なんと!眠りの家は幻想郷(ここ)にあったのですね!?』と言って屋敷の方へ駆け出してしまったんですよ。このことについては後日帰還した早苗さんに取材してみようと思います」
嗚呼、早苗は今頃半裸の女に追い掛け回されていることだろう。南無三。
「まぁそれはおいといて、えへへ~♪どうです?似合ってますか~?」
両手にやたらとゴツいカメラを持ち、くるくると小躍りする文。
「はいとっても!これで文さんも私たちの仲間です!」
「やめてください、歳柄にもない」
橙の笑顔がまぶしい。何か椛が失礼なことを言ったような気がするが、気分が良いので気にしないことにした。文はそのまま、『この作戦のことを記事にしてもよいか』という趣旨を込めた視線をナズーリンに送る。ナズーリンはフッと不適に笑った。
「いいだろう。私たちの新しい力を、角っ娘協商の者たちにアピールするいい機会になるからね」
「やったぁ♪」と喜ぶ文。その様子を見て、満足気にうんうんとうなずくナズーリン。
「諸君!作戦は明日決行する!全員出席すること!今日欠席した者たちにも伝えておくように!…今更だが、君たちにはこの作戦に参加する覚悟はあるかい?」
「はいっ!もちろん!」橙が張り切る。
「そもそもこの作戦の中に私たちの名前出てこないじゃないですか」椛がツッコむ。
「もー好きにしてくれー」てゐはいろいろと諦めた様だ。
「よしっ!それでは以上をもって、第33回ケモッ娘同盟定期会議を閉会とする!……あぁ、これも今更なんだが、地底支部長の火焔猫は、『失踪中の古明地こいし氏捜索の為』欠席するとのことだ」
「本当に今更ですね」
こうして会議は終了し、皆それぞれの帰路についた。誰もいない閑寂とした室内には、満面の笑みを浮かべる猫耳レミリアと『れみ☆りあ☆にゃうー☆』という台詞、そして『ネコ科に勝るものはなし』という達筆な文字が添えられたホワイトボードが、静かに佇んでいたという…
そして、翌日。
「それではこれより、第1回虎丸星解明作戦を開始する!」
ナズーリンの開始宣言により、作戦は決行された。結局、良いネーミングは思いつかなかったらしく、名前はそのままに、(仮)が外された。
メンバーは昨日会議に出席した5人。八雲藍、鈴仙・優曇華院・イナバ、火炎猫燐の3名はそれぞれ「紫への説教がまだ終わらない」「実験の後遺症で寝込んでいる」「今度はさとりが失踪した」という理由で欠席した。
「各団員はそれぞれ所定の位置で待機するように!」
橙、椛、てゐの3人の役割は、廊下の死角に隠れて事の成り行きを見守ること。本当にこの作戦に必要のない役割である。一方ちゃんとした役割のある犬咲夜は、時を止めるまで星に見つからないようにするために椛たちと共に死角に隠れた。
そうこうしているうちに、廊下の奥から星が歩いてきた。丁度星ただ1人、シチュウェーションは整った。
「ご~しゅ~じ~んっ」
とてとてっと星に歩み寄るナズーリン。
「おや、どうしたんですか?ナズーリン」
「この間見つかった宝塔、ちゃんと管理してるかい?また無くなると私が大変でねぇ」
ニヤニヤしながら言うナズーリンに対して、星は胸を張って答えた。
「ええ、今度こそ大丈夫ですよ。もうこれ以上あなたに迷惑をかけるわけにはいきませんからね。ちゃんと自室に」
保管してありますよ。そう言おうとした瞬間、星は自分のみ何が起こったのかわからなかった。気がついたときには背後にいる誰かに羽交い絞めにされていて、身動きが取れなかった。
そして、そのことに気がつく前に、
「今だっ!!」
ナズーリンの手が、星の髪飾りを捉えた。
「とったどーーーーーーーーっ!!!!」
星の頭から花の髪飾りが離れていく。直後、星の頭から、髪の色と同じ、黄と黒の二色のふさふさとした毛の生えた2対の二等辺三角形が、ピョコリと姿を現した。
『トラ耳キターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
星を除くこの場にいた5人全員の心が初めてシンクロした瞬間である。星の虎耳の出現は、あまり作戦に乗り気ではなかった椛とてゐの心さえも突き動かしたのだ。
「ああっ!!耳が!ずっと隠」
してきたのに。またしても、星は最後まで言葉を言い切ることが出来なかった。突然、視界が何かに覆われ、同時に服の背中側が捲られた。作戦が第二段階に突入したのだ。
そして、ナズーリンの前に、『それ』は現れた。ナズーリンは『それ』に反射的に手を伸ばした。
『犬咲夜君の身を案じれば、悠長に尻尾を確認している時間はない』
『露になった細長いものを反射的に握り締める、ということになるだろう』
何故か、3人の脳裏に昨日のナズーリンの言葉が甦った。
そしてナズーリンの手は、『それ』を、力強く握り締めた。
ピチューン
『へ?』
突然鳴り響いた、予想外の被弾音。星の背後にいたはずのナズーリンの姿は無く、その代わりに、ピンク色の残機のカケラがポトリと床に落ちた。
星の背後で揺れる『それ』を見て、最初に言葉を発したのは、誰だっただろうか。
「……へ…へにょりレーザー………だ…と…っ!?」
ナズーリンが尻尾だと判断する前に掴んだもの、それは、通常弾幕のへにょりレーザーだった。
「あーーっ!!」という、突然の大声に、椛とてゐはドキリとした。橙はハキハキとした声でこう言った。
「なるほどっ!『ただし弾幕は尻(の上の辺り)から出る』とは、正にこのことだったんですね!!」
橙の爆弾発言に、2人の思考は凍りついた。
その間に、星は「え?…あっ、え…?」と困惑していた。いつの間にか犬咲夜の姿も消えている。
「いやーよく判らなかったことが判るって、すっごく気持ちいいですね!なんかこう、溜まってた毛玉が出てきたみたいな感じで」
笑顔でお腹を摩る橙。この言葉に、2人は心が何かフッと軽くなるのを感じ、朗らかな気持ちになった。
「お前は猫かい!」笑顔でツッコむ椛。
「本当に猫だけどね」笑顔で訂正するてゐ。
「さあ私たちの役目は終わりました!それでは帰りましょう!今帰ろう!すぐ帰ろう!」
『私は何も見ていない。私は何も見ていない』獣の少女達はこの言葉を反芻しながら、後ろで「ナズッ!?ナズーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」と叫ぶ星を残し、いつの間にか彼女たちの輪の中にいた犬咲夜と共に、爽やかな笑顔で、命蓮寺の玄関へと続く長い廊下を駆け抜けていったのであった………
翌日の文々。新聞において、残機のカケラを手におろおろと狼狽える虎耳の星と、『ただし弾幕は尻から出る』の見出しが一面を飾ったという。
今日もまた、次々に妖怪たちが会議室に入室する。妖怪たちに共通すること、それは皆獣の耳や尾が生えているということだ。いわゆる妖獣という分類の妖怪たちである。最終的には、計四人の妖獣たちが集まった。
……あれ?思ったより少ない?
皆が一様に着席する中、最後に入室したこの命蓮寺の住人、ナズーリンは、ホワイトボードの前に立ち、着席する一同に向かって言った。
「諸君、今日はこの命蓮寺によく集まってくれた。感謝する。当同盟代表、ナズーリンだ。それではこれより、第33回ケモッ娘同盟定期会議を行う」
ナズーリンがそう言い切った直後、ホワイトボードに突如として、『第33回ケモッ娘同盟定期会議』の文字が現れた。マジックペンで書かれたものとは思えないほどの達筆である。また、33の数字の上には、可愛らしい文体で『みみ』とルビか振ってある。ギャップ萌えである。
「書記はこれまで通り、人間支部代表、犬咲夜君に務めてもらう」
いつの間に現れたのか、皆が気付くとナズーリンの隣に犬咲夜が佇んでいた。軽く一礼をする犬咲夜。その凛とした表情と佇まいは、流石は完全で瀟洒な従者、その二つ名に恥じない垢抜けた女性だと、この場に居た誰もが感心した。更に、頭部にある二対の犬耳と腰にある犬尻尾が微かに揺れる仕草が非常に可愛らしい。ギャップ萌えである。
咲夜本人は人間であるため、当然の事ながら耳と尻尾は付属品である。しかし、このことを犬咲夜に問い質してはいけない。やたらと偽者というニュアンスを含む言葉に反応して、涙混じりにナイフを飛ばしてくるから。
「さて、早速本題に入る…と言いたいところだが、副代表の八雲藍君、迷いの竹林支部長の鈴仙・優曇華院・イナバ君の姿がないが、橙君、てゐ君、彼女たちはどうしたんだい?」
「は、はいっ!藍様は先日勝手に境界を弄った紫様への説教が終わらないので行けないそうです!」
「鈴仙は今頃お師匠様のモルモットになってると思うよ。無事なのは私だけ」
「ふむ、残念だね。二人は各々の仕事が忙しいのか」
ナズーリンはコンコンと右手の甲でホワイトボードを叩いた。
「それでは本題に入ろう。まずは…皆は最近、この幻想郷に我が同盟とは異なる新たな勢力が誕生したことを、ご存知かな?」
その言葉に、一番に反応したのは、妖怪の山支部長、犬走椛であった。
「角っ娘協商…の、ことですか?」
「ご名答。角っ娘協商とは、伊吹萃香氏、星熊勇儀氏、上白沢慧音氏を中心に活動を行う団体だ。強大な力を持つ鬼2名に加え、参謀を知識人である慧音氏が担うことにより、その勢力を確実のものとしていると聞く。またつい先日、人間支部代表にあの博麗霊夢氏画正式に就任することが決定したらしい」
会議室にどよめきが起こった。博麗霊夢といえばその名を知らぬ者はいない、幻想郷の要となる人物である。メンバーの驚きも一入である。ちなみに、そのどよめきの内容はこんな感じ。
「でもなんで霊夢が角っ娘なのかなぁ?」
「ほら、霊夢さんと萃香様って交友関係があるじゃないですか。あと、霊夢さんがキレて本気を出すことを、俗に鬼巫女と言いますし」
「それもあるだろうけどさ、やっぱり決定打はあれかな。少し前に人里で包丁持って、『わりぃ子はいねぇがーーーー!!』ってやってたの」
「ああ、納得」
どうやら霊夢は自分の仕事ぶりを人里の人達にアピールするようになったようだ。感心感心。
パンパンッと、ナズーリンは手を叩いて声を張った。
「静粛に。このまま角っ娘協商が勢力を拡大し続ければ、間違いなく我が同盟は衰退の一途をたどるだろう。これは深刻な事態だ。」
ナズーリンは真剣な目つきで語る。一方、参加者である橙、椛、てゐの3人は、音是衰退の一途をたどらなければならないのかイマイチ理解できなかったが、『こういうことはその場のノリと勢いが肝心』だということは理解していたので、特に口には出さなかった。皆空気を読むことには長けている。
「そこで、我が同盟も勢力向上を図るため、新たなる妖獣を、このケモッ娘同盟招き入れたく思う。」
新たなる妖獣。それは三人にとって、仲間が増える喜ばしい事であると同時に、いったいどのようなものなのだろうかという緊張を孕む事でもある。3人はゴクリ…と、唾を飲み下した。
「その人物とは……他でもない、私のご主人、虎丸星、だ」
虎丸星。命蓮寺の長、聖白蓮の信仰を一身に受けた、毘沙門天の代理。その大物の名に、3人は思わず息を呑んだ。
しかし、星の姿を脳裏に浮かべた3人は、同時にある疑問点に行き当たった。このケモッ娘同盟にはなくてはならないモノが、星には存在しない。
三人の様子を察したナズーリンは、一呼吸おいてから語る。
「…踏む、どうやら皆考えていることは同じようだね。そう、ご主人は元は妖怪の山に住む虎の妖怪。だが、その容姿には本来あるはずの、虎の耳と尻尾がない。これには訳があって、ご主人は長い間、人間に対して己が妖怪であることを隠さなくてはならなかったんだ。理由は…まぁ、話すと長くなるだろうし、もとよりこの話の方向性が変わってしまうから、割愛」
『大事な部分割愛するなよ』と3人は心の中でツッコんだが、このまま話してしまうとこの会議がイイハナシダナー路線に変わってしまう恐れがあるのは確かなので、特に何も言わなかった。
「聖が復活して数ヶ月、私はご主人に、『いい加減隠さなくてもいいんじゃないか?』と聞いたことがある。しかしご主人は、『えー…恥ずかしいですよ。今更人様の前で見せるなんて…』と言った。この恥ずかしがり屋さんめ」
何処となくナズーリンの表情が悦っているように見えるのは気のせいだろうか。
「現状、このままではご主人を我が同盟に加入させることは不可能。更に加えると、実は私はご主人の耳と尻尾をこの目で確認したことが一度もない。実は元から耳と尻尾は存在しなかった、という可能性は、本人の発言からして限りなく低いはずだが、0ではない。そこで私はある作戦を決行することにした。その名も…」
無駄に長いタメの後、言い放った。
「第1回虎丸星解明作戦(仮)ッ!!」
ナズーリンは熱い叫びと共にホワイトボードをバンッっと叩いた。その直後、そこに書かれていた第33回ケモッ娘同盟定期会議の文字が、一瞬にして、『第1回虎○☆解明作戦(仮)』に変わった。
『虎○☆…反対から読むと…☆○…』と、橙は体から尖った鉄筋を取り出して敵に投げつける黄色いヒトデを思い出しながら呟いた。ホワイトボード全体に目をやると、そのヒトデが右上の隅に描かれていた。あ、やっぱり意識して書いたんだ。
「はいっなずりん代表!」
「なんだね椛君」
「どうして(仮)なんですか?」
「有無、いいところに目をつけたね椛君。実に素晴らしい。本当はもっと格好良いネーミングにするつもりだったんだが、生憎いいものが思いつかなくてね。考えに考えた末、結局妥協して、この名前に(仮)を足して間に合わせることにしたんだ。何かいいネーミングが思いつき次第変更するから期待してくれたまえ」
大袈裟に言う割には大したことではなかった。椛は「はぁ…」と苦笑する。
「作戦の内容はこうだ。まず、私がご主人に接触する。ご主人が私に気を取られている隙に、犬咲夜君が時を止め、ご主人の背後を取り、羽交い絞めにする。時が動き出す時、突然の出来事にご主人は慌てふためくだろう。その可愛らしい姿をいつまでも堪能していたいが、長引くとご主人も反撃してくるだろう。そこで私はご主人の頭部にある花の髪飾りを奪う。恐らくこの髪飾りが、ご主人の耳を隠すのに一役買っているのだろう。隠し続けてきた耳が露になり、ご主人は赤面して狼狽えるに違いない。その姿を…じゅるり……と、そのようなことをしている時間はないな。続けて第二段階に入る。今度は尻尾の確認だ。尻尾は恐らく背骨に沿うように服の内側に隠されているのだろう。尻だと座禅が組めないからね。再び犬咲夜君が時を止め、今度は正面に回り、ご主人に覆いかぶさるように腕を背に回し、裾を掴む。そして、時が動き出すのと同時に捲り上げる。最後に私が露になった尻尾を握り締めれば、作戦は成功だ。この時、犬咲夜君の身を案じれば、悠長に尻尾を確認している時間はない。露になった細長いものを反射的に握り締める、ということになるだろう。尻尾を握られるのが弱点ということは、我々妖獣の常識だからね。尻尾さえ掴んでしまえば、後はご主人を宝塔紛失の件を聖たちにバラすことをネタに脅せば、あれよあれよのうちにご主人は私たちの仲間入りとなるだろう」
さすがは賢将、といったところか。その綿密なる作戦に感嘆の声が上がる中(一部の聞き苦しい点は皆目を瞑った)、てゐからこんな意見がポツリ。
「わざわざそんな手間のかかる今年なくても、最初から尻尾握って弱らせちゃった方がやりやすいんじゃないの?」
てゐの意見に対して、ナズーリンは「はあ……」と大袈裟に溜め息をついた。
「まったく、実に馬鹿だね、君は。最初の段階で羽交い絞めにするのがいいんじゃないか。羽交い絞めにされるご主人…………フフフフフフフフフフフ」
どうやら羽交い絞めに何かしらのこだわりがあるようだ。加えておかしなスイッチが入ってしまったらしい。両手の指ををワキワキと動かしながら、不気味な笑いを浮かべるナズーリンに対して、てゐは「うわぁ…」と一言漏らして顔をしかめた。
一連の流れに興味がないのか、橙はただボーッとホワイトボードを眺めていた。いつの間にかホワイトボードの四角にはエン・ソフとトリックスターとデンタ君が加えられていた。てかデンタ君レベル高いな。と心の中でポツリ。
会議がおかしな方向へ向かっていることを察した椛は、状況を打開すべく手を上げた。
「なずりん代表!星さんの加入は、この同盟にどのような変化をもたらすのでしょうか?」
不気味な笑いをヒタリと止め、すぐさま真剣な表情に戻るナズーリン。
「うむ、実はご主人には我が同盟存続の為に最重要とも言える役割を担ってもらうことを決めている。それは…」
「それは?」
「またいつか宝塔を紛失した際に私に対して耳と尻尾を露にした姿で涙混じりに『ごめんなしゃいなずしゃん……また宝塔を探してきてくだしゃいがおぅ……』と懇願する役割だ」
「至極私事ですね」
ちなみに、星は月に一回の頻度で宝塔を紛失するのだそうだ。うっかりもここまで来ると才能である。
一連の会話を聞いて何を想像したのか、犬咲夜はその凛とした表情はそのままに頬を紅赤くした。恐らく、ナズーリンを自分に、星をレミリアに脳内変換したのだろう。
椛は半ば呆れた様子で発言する。
「もっと他にないんですか?同盟の勢力につながるような役割は」
「そうだなぁ、他の役割は……」
少しの沈黙の後、思考を巡らせていたナズーリンの鼻からツーッと血が流れた。
「発想のベクトルを変えてください」
どうしてこんな変態が代表の同盟に入ってしまったんだろう……ああそうだった。自分に獣の耳と尻尾が生えている時点で、拒否権は無いんだった。
言い知れぬ疲労感と脱力感に襲われ、椛は「はぁ……」と大きく溜め息をつき、がっくりと肩を落とした。
そして、落ちた目線の先に、それを見つけた。
机の下でカメラを構える猫耳の誰かが、レンズ越しにこちらを見つめているのを……
「うわあああぁぁあぁあああぁっ!!!」
あまりのホラー展開に椛は椅子から転げ落ちた。皆も何事かとそちらに視線を送る。
「あやややや。とうとう見つかってしまいましたか」
そう言って机の下から現れたのは、椛の上司、射命丸文だ。何故か猫耳に浴衣という奇妙なルックスでの登場である。
「どっどどどどどしてあやややさまがこっここここ」
椛は先程のホラー展開が相当応えたようで、ひどく動揺していた。言葉が詰まりまくりである。
「え?あぁ、なんとなく命蓮寺からネタの匂いがしたので会議中のこの部屋に潜入することにしたんですよ。それにしても、予想通り、面白いことになりそうですねぇ~」
まるでいたずらを思いついた子供のように、文はニヤニヤと笑みを浮かべた。
「それにしてもどうしたんですか?その耳ー」
猫耳に興味津々の橙が文に問う。
「ああこれですか?いやぁそれが、先程ここに来る前に、ネタ集めの為に最近流れ着いたらしい巨大な屋敷に潜入したんですけどねぇ、実はそこは幽霊屋敷だったんですよ!そこで心霊写真をバンバン撮ってたら、クリア特典がどうとかで頂いちゃいました♪」
「誰から?」とは聞かない、誰も。恐らく文自身も上手く答えられないだろう。そういうものなのだ。
「あ、後ここに来る途中、早苗さんに会ってこのことを話したんですけどね、そしたら『なんと!眠りの家は幻想郷(ここ)にあったのですね!?』と言って屋敷の方へ駆け出してしまったんですよ。このことについては後日帰還した早苗さんに取材してみようと思います」
嗚呼、早苗は今頃半裸の女に追い掛け回されていることだろう。南無三。
「まぁそれはおいといて、えへへ~♪どうです?似合ってますか~?」
両手にやたらとゴツいカメラを持ち、くるくると小躍りする文。
「はいとっても!これで文さんも私たちの仲間です!」
「やめてください、歳柄にもない」
橙の笑顔がまぶしい。何か椛が失礼なことを言ったような気がするが、気分が良いので気にしないことにした。文はそのまま、『この作戦のことを記事にしてもよいか』という趣旨を込めた視線をナズーリンに送る。ナズーリンはフッと不適に笑った。
「いいだろう。私たちの新しい力を、角っ娘協商の者たちにアピールするいい機会になるからね」
「やったぁ♪」と喜ぶ文。その様子を見て、満足気にうんうんとうなずくナズーリン。
「諸君!作戦は明日決行する!全員出席すること!今日欠席した者たちにも伝えておくように!…今更だが、君たちにはこの作戦に参加する覚悟はあるかい?」
「はいっ!もちろん!」橙が張り切る。
「そもそもこの作戦の中に私たちの名前出てこないじゃないですか」椛がツッコむ。
「もー好きにしてくれー」てゐはいろいろと諦めた様だ。
「よしっ!それでは以上をもって、第33回ケモッ娘同盟定期会議を閉会とする!……あぁ、これも今更なんだが、地底支部長の火焔猫は、『失踪中の古明地こいし氏捜索の為』欠席するとのことだ」
「本当に今更ですね」
こうして会議は終了し、皆それぞれの帰路についた。誰もいない閑寂とした室内には、満面の笑みを浮かべる猫耳レミリアと『れみ☆りあ☆にゃうー☆』という台詞、そして『ネコ科に勝るものはなし』という達筆な文字が添えられたホワイトボードが、静かに佇んでいたという…
そして、翌日。
「それではこれより、第1回虎丸星解明作戦を開始する!」
ナズーリンの開始宣言により、作戦は決行された。結局、良いネーミングは思いつかなかったらしく、名前はそのままに、(仮)が外された。
メンバーは昨日会議に出席した5人。八雲藍、鈴仙・優曇華院・イナバ、火炎猫燐の3名はそれぞれ「紫への説教がまだ終わらない」「実験の後遺症で寝込んでいる」「今度はさとりが失踪した」という理由で欠席した。
「各団員はそれぞれ所定の位置で待機するように!」
橙、椛、てゐの3人の役割は、廊下の死角に隠れて事の成り行きを見守ること。本当にこの作戦に必要のない役割である。一方ちゃんとした役割のある犬咲夜は、時を止めるまで星に見つからないようにするために椛たちと共に死角に隠れた。
そうこうしているうちに、廊下の奥から星が歩いてきた。丁度星ただ1人、シチュウェーションは整った。
「ご~しゅ~じ~んっ」
とてとてっと星に歩み寄るナズーリン。
「おや、どうしたんですか?ナズーリン」
「この間見つかった宝塔、ちゃんと管理してるかい?また無くなると私が大変でねぇ」
ニヤニヤしながら言うナズーリンに対して、星は胸を張って答えた。
「ええ、今度こそ大丈夫ですよ。もうこれ以上あなたに迷惑をかけるわけにはいきませんからね。ちゃんと自室に」
保管してありますよ。そう言おうとした瞬間、星は自分のみ何が起こったのかわからなかった。気がついたときには背後にいる誰かに羽交い絞めにされていて、身動きが取れなかった。
そして、そのことに気がつく前に、
「今だっ!!」
ナズーリンの手が、星の髪飾りを捉えた。
「とったどーーーーーーーーっ!!!!」
星の頭から花の髪飾りが離れていく。直後、星の頭から、髪の色と同じ、黄と黒の二色のふさふさとした毛の生えた2対の二等辺三角形が、ピョコリと姿を現した。
『トラ耳キターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
星を除くこの場にいた5人全員の心が初めてシンクロした瞬間である。星の虎耳の出現は、あまり作戦に乗り気ではなかった椛とてゐの心さえも突き動かしたのだ。
「ああっ!!耳が!ずっと隠」
してきたのに。またしても、星は最後まで言葉を言い切ることが出来なかった。突然、視界が何かに覆われ、同時に服の背中側が捲られた。作戦が第二段階に突入したのだ。
そして、ナズーリンの前に、『それ』は現れた。ナズーリンは『それ』に反射的に手を伸ばした。
『犬咲夜君の身を案じれば、悠長に尻尾を確認している時間はない』
『露になった細長いものを反射的に握り締める、ということになるだろう』
何故か、3人の脳裏に昨日のナズーリンの言葉が甦った。
そしてナズーリンの手は、『それ』を、力強く握り締めた。
ピチューン
『へ?』
突然鳴り響いた、予想外の被弾音。星の背後にいたはずのナズーリンの姿は無く、その代わりに、ピンク色の残機のカケラがポトリと床に落ちた。
星の背後で揺れる『それ』を見て、最初に言葉を発したのは、誰だっただろうか。
「……へ…へにょりレーザー………だ…と…っ!?」
ナズーリンが尻尾だと判断する前に掴んだもの、それは、通常弾幕のへにょりレーザーだった。
「あーーっ!!」という、突然の大声に、椛とてゐはドキリとした。橙はハキハキとした声でこう言った。
「なるほどっ!『ただし弾幕は尻(の上の辺り)から出る』とは、正にこのことだったんですね!!」
橙の爆弾発言に、2人の思考は凍りついた。
その間に、星は「え?…あっ、え…?」と困惑していた。いつの間にか犬咲夜の姿も消えている。
「いやーよく判らなかったことが判るって、すっごく気持ちいいですね!なんかこう、溜まってた毛玉が出てきたみたいな感じで」
笑顔でお腹を摩る橙。この言葉に、2人は心が何かフッと軽くなるのを感じ、朗らかな気持ちになった。
「お前は猫かい!」笑顔でツッコむ椛。
「本当に猫だけどね」笑顔で訂正するてゐ。
「さあ私たちの役目は終わりました!それでは帰りましょう!今帰ろう!すぐ帰ろう!」
『私は何も見ていない。私は何も見ていない』獣の少女達はこの言葉を反芻しながら、後ろで「ナズッ!?ナズーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」と叫ぶ星を残し、いつの間にか彼女たちの輪の中にいた犬咲夜と共に、爽やかな笑顔で、命蓮寺の玄関へと続く長い廊下を駆け抜けていったのであった………
翌日の文々。新聞において、残機のカケラを手におろおろと狼狽える虎耳の星と、『ただし弾幕は尻から出る』の見出しが一面を飾ったという。
続き物で書いて欲しいですな。
獣キャラ全員集合してほしかったなあ
あれラプラスの魔じゃないのpc88の
奇跡の力ってすげー
訂正箇所は以下の通りです。
・創→そう
・踏む→ふむ
・有無→うむ
・紅赤く→赤く
・火焔猫→火焔猫燐君
これよりスーパーコメント返しタイム
>2さん
誤字指摘有り難うございます。
当初この話を続きものにする予定はなかったのですが、色々と反省する部分があったので、今度は他のケモキャラや角キャラも混ぜて続きを書いてみようかなと思います。
恐らく、あと2作ほど投稿してからになると思います(汗)
>7さん
ご指摘の通り、他のキャラを避けて話を書いてしまいました。個人的に橙の暴走キャラを引き立てようとした結果、どうしても藍とお燐の存在が障害になってしまって…。申し訳ないです。↑の通り、全員集合のリベンジ作を書いてみようと思うので、もし良かったら気長にお待ちください。
>10さん
すみません、ラプラスの魔について知りませんでした(汗)
そこでググってみたのですが、やだこれすごい面白そうwwホラーRPGとか謎解きとか大好物です!
見る限りだと確かにシチュエーションが似てますね。
>13さん
早苗さんはやれば出来る子だっておじさん信じてる。
あと守矢神社にはテレビとPS2と零シリーズとクロックタワーシリーズがあるっておじさん信じてる。
しかし文ちゃんミッションまでクリアするとは…
とても面白かったです。続きも期待してます。
だが同意
>15さん
原作8巻のアマポーラはTUEEEEでしたね。第二形態カッコよすぎ。
面白かったの一言が私の最大の原動力。有り難うございました!
>18さん
なずりんは何故か紳士なのがよく似合うと思うのです。
もっと変態ナズのSS増えないかなぁ、と思う今日この頃。
気づけばコメント数が過去最高ですね。皆さん有り難う御座いました!
現状として、続きの方は大分話の構成が出来上がってきました。
ただ完成させる前に、当初から予定していた非ギャグもの二本を先に投稿しようと思うので、気長に待ってくださると幸いです。
それではまた。
アレもあとがきの作品のどれかのパロとかだったんでしょうかね?
>20さん
ご指摘有り難うございます。「ただし魔法は尻から出る」のことですね。すっかり忘れていました(汗)
ああ、間違えだらけで恥ずかしい…。
コメント返しの度に懺悔している自分が情けない……。
もっとしっかりした人間になるよう精進します。
しかし星の虎耳ぴょこんには確かに「キタアァアァアアア!」とエキサイトしてしまったわ。
今さらな誤字報告
>わざわざそんな手間のかかる今年なくても