Coolier - 新生・東方創想話

禁じられた遊び

2009/11/15 10:00:27
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・かなーり無理矢理な解釈含みます。




「お姉様の新しいメイドって人間なんだってね」
「ええそうよ。人間は人間でも、一番強い人間だけどね」
「ねぇお姉様。私ね、普通の人ってつまらなすぎると思うの。興味をなくして、すぐ壊してしまうかもしれないわ」
「私も普通の人は苦手ね。すぐ食料にしてしまうかもしれないわ。その点新しいメイドは優秀よ。何より面白い手品を沢山やってくれる」
「それとね、お姉様。私不幸は大っ嫌いだから、つい壊したくなっちゃうわ」
「そうね。私も不幸は嫌いだからなるべく避けて通るわね。今回の新しいメイドは素晴らしいわ。時間を操って私達を不幸から守ってくれるわ」
「ところでお姉様、その新しい一番強い人間のメイドは手品の得意な時間を操れる人らしいけど、そいつはトランプなの? それとも時計なの?」
「また難しいわね。……そうねぇ。咲夜は12,5よ」
「ふーん、そっか。すごい人なんだね。咲夜かぁ、会いたいなぁ」





1、 禁じられた遊び





「妹が会いたがっているんだ。地下に居るから、会って、話し相手にでもなってやってくれ。正しく会話をすれば、意外と淑女な奴だから問題は無い。もし間違った会話をしてしまったら、そのときはお前の命は無いだろうから、生きたければよく考えて会話をすることだな」





 朝お嬢様からそう言われ、今私は地下の最下層にある大きな扉の前に来ていた。紅魔館の1階からだいぶ深いところにあったその扉は、まるでどこか別の世界へ通じているような圧倒的な威圧感だった。
 私は大きな扉を軽く2回ノックをする。


「だぁれ?」


 中からとても高い可愛らしい声が聞こえてきた。何も無い地下深くだからか、扉の奥の声だと言うのにこだまする。


「メイドの十六夜咲夜ですわ」


 次の瞬間、目の前の大きな扉が大きな音を立てて勢いよく開いた。
 時を止めて後ろに下がっていなければ、大怪我では済まなかったかもしれない。


「来てくれたんだね! 入って、入って! お話しよう!」



 殺風景な部屋の中に入った私は椅子に座らされた。妹様がトトトトと可愛らしく奥に走っていかれたので、何をするのか覗いてみれば、紅茶を入れようとするところだった。
 私が、
「私がやりますよ」
 と言えば、
「今は咲夜はお客様なの。私がもてなすから、咲夜は座ってて。おままごとよ」
 と言われたので素直に座っていることにした。歪な形の、それでも綺麗な羽はどこか嬉しそうに動いている。


 部屋を見回してみると、そこにはほとんど何も無く、大きめのベッドと、ちょっとした台所。本棚と、衣装ケース、それと大きな振り子時計しかない。
 したがって音もほとんど無く、妹様が紅茶の準備をする音と、振り子時計が揺れる音くらいだ。


 ごーん、ごーん。と振り子時計が丁度なったのと同時に、妹様が2つのティーカップとクッキーをお皿に乗せてテーブルの反対側の席に付いた。
「お待たせ! さぁ、お話をしよう! そんなにかしこまらないでいいよ。気楽にして。貴女は私に尽くすよりも、私を楽しませるのが仕事と思ってくれてもいいわ」
「かしこまりました」
「だからかしこまらないでってば」



 妹様との小さなお茶会はとても楽しかった。妹様は色々なことを知っておられるし、言葉遊びもとても面白い。会話を本当に楽しんでいるようだった。
 最近は何をして遊んだとか、お嬢様って実はこんな感じなんだよとか、沢山のことを私に話してくださる。私も妹様を退屈させないように沢山のことを話した。覚えている限りの外の世界のこととか、お嬢様に拾われたいきさつだとか。
 私は口数も少ないし、会話は得意じゃないけれど、でもとても楽しかった。





 色々な話をしていると、不意に時計がごーん、ごーん。と鳴った。
「あ、もうこんなに経ってたんだ。丁度1時間。そろそろお開きだね。最後にいくつかいい?」
「なんなりと」



 妹様は空になった自分のカップを、くるくると指で弄ぶ。


「お姉様が言ってたんだけど、咲夜は一番強い人間なの? うーん、ちょっと質問の意味が微妙か。その枠の中では、一番強いの?」
「一概には分かりませんが、もしかしたらその枠ですと一番強いかもしれませんね」
 お嬢様がそんなことを。嬉しい限りですわ。


「私ね、普通の人ってつまらなくて大嫌いなの。妖怪だろうが、人間だろうが。すぐに飽きちゃって壊しちゃうかもしれないわ」
「はしたないですよ。もし何かにつまらなくなってしまったのなら、咲夜が簡単なマジックを御覧に入れて差し上げますわ」
 私がトランプを取り出して簡単なマジックを見せると、おおっ、と喜んで拍手までしてくださった。


「それとね、咲夜。私は不幸って大っ嫌いだから、壊したくなっちゃうの。不幸を」
「私が時を止めてでも不幸からお守りいたしますわ、妹様」
 指からすっぽ抜けて落ちそうになったカップを、時を止めて妹様の前に置いた。


「できるメイドね。そんな完璧で瀟洒なメイドさんに、質問よ」





 瞬間、私は4人の妹様に囲まれた。急に部屋の空気まで変わる。妹様の雰囲気は先ほどとはまったく異なっており、感じるのは殺気のみ。対峙せずとも分かる圧倒的な力の差。殺される。私はそう思った。



「完璧で瀟洒な咲夜、貴女は時計? それともトランプ?」



 分からなかった。どっちが正しいかなんて全く分からなかった。そして何より、殺されるかもしれないという焦燥感が思考を焦らせる。きっとこの質問の答えを間違えれば殺される。そう思った。


「ねぇ、どっち? 会話に答えないマナー違反は、一番嫌いだよ」


 首に正面の妹様の手が掛かった。軽々と体を持ち上げられてしまう。逃げられない。
「わ、私は……」
「どっち?」


 段々と私の首を掴む力が強くなってくる。苦しい、殺される、答えなければ殺される。でも分からない。


「私が嫌いな人は、皆死んじゃえばいいんだ」


 さらに首が強く締め付けられる。
 私は、苦しい中でやっと声を発した。



「わ、私は……ナイフです。時計でも、トランプでもございません。咲夜はナイフでございます」



 妹様は少し思案顔になった後、また元の楽しげな雰囲気に戻った。
「ふーん……まぁ、50点。お姉様ほどじゃないけど、それも正解の1つね」


 急に妹様の手が首から放され、私は地面に落ちた。ゲホゲホと咳き込む。
 そんな私に妹様が手を差し伸べてきた。恐る恐る手を掴むと、ゆっくりとひっぱられて立ち上がる。妹様の前に私は立った。もうそこにいる妹様から殺気は感じなくなっており、4人いた妹様も、今は1人になっている。


「なんでナイフって答えたの?」


「妹様の、私が嫌いな人は、皆死んじゃえばいいんだという言葉がヒントだと、ぎりぎりで気づけましたわ。嫌いな人は皆死ぬということは、嫌いじゃない人は皆生き残るということかもしれません」
「ふふふ、よく気づいたね、あの状況で。それでそれで?」


 妹様は、再び私を椅子に促す。私もそれに従って座ると、妹様も先ほど座っておられた椅子に座り、身を乗り出して楽しそうに聞いてくる。恐らくは、妹様にとっては今のですら遊び。会話の遊びだったのだろう。


「その少し前に、咲夜のことをある枠では一番強いとおっしゃいました。それは時計とトランプに繋がります。トランプで一番強い、すなわち一番大きな数字は13です。13は忌み数、すなわち不吉を表す数字。トランプを選んでしまったら、咲夜は一番大きな数字を取ってしまうから13になってしまう。つまり、咲夜は不吉、不幸ですわ。咲夜が妹様の嫌いなものになったときに殺されてしまうと考えれば、不幸は嫌いとおっしゃっていたので、これでトランプは違うということになります」
「うんうん」


 今は本当に無邪気な子どものようにうなずく。もし、あそこで間違えた選択をしていれば、どうなっていただろうか。やっぱり殺されていたのだろう。お嬢様が気まぐれで私をお側に置いてくださったように、妹様にとっては気まぐれで私を殺すのだろう。本当に気まぐれの、妹様にとってはほんの遊びのつもりで。


「そうすると一見時計が正しそうですが、時計は規則正しく同じ場所を回り続ける物。規則正しい、すなわち普通ですわ。つまり妹様は普通の人も嫌いなのですから、これもダメですわ。それ以外で答えるしかないので、時計とトランプ以外の私のシンボルと言えば、ナイフくらいしか思い浮かびませんでしたので」
「なるほどねー」


 妹様は腕を組んでうんうんと唸っている。
「おしいなー。本当におしい。でも、うん。気に入りました! 私は咲夜を気に入りました! ここに住んでいる間に100点とれるように精進しなさい! そして私を楽しませなさい! 私からの命令です」


 このとき、改めて理解した。お嬢様のおっしゃっていたことと、このお方がどのような方なのかを。妹様は寂しいに違いない。誰も自分と話をしてくれない。いつからこんなことを始めたのかは分からないけれど、きっとこの遊びで、妹様の問答に対して間違えた答えを言った者は殺されていったのだろう。妖精メイド達の頭で、妹様の遊びをクリアできるとは思えないから、皆避けてもしかしたらここにはメイドすら近寄らないのかもしれない。
妹様から見れば他の人なんておもちゃも同然なのかもしれない。だからきっと、この方は壊すという表現を使うのかもしれない。それは、人と触れ合ったことが無いから。触れ合ったことがあるにしても、お嬢様のように壊れない人だったりしたから、死という概念も良く分からないのだろう。


 まだまだ『かもしれない』ばっかりだけど、少しずつ理解して、私が妹様に色々なことを教えて差し上げよう。そのためにはまず、妹様との会話の相手になってあげなくてはならないと私は思った。



「何を笑っているの。分かった?」
「かしこまりました」
「ふふふ、だからそんなにかしこまらないでってばー」









「ということがありましたわ。もう本当にだめかと」
「ふむふむ。確かに惜しいな」
「と、申されますと?」
「答えだよ。咲夜の答え」
「そういえばお嬢様はもっと素晴らしい答えだったともおっしゃっていましたが、何て答えたのです?」
「12,5ってね」
「12,5ですか」
「そう。時計が普通で、トランプが不幸まではよかったんだ。でも折角1番強い数というのを両方に着目したのに、時計の最強である12が答えに繁栄されていない。12ってのは元々色々な分野で基礎、基準、基本になってる数なんだ。時計は12に行くとまた1に戻ってしまう。12を超えられない物ってこと。つまり、普通じゃなくなるということは12を超えなければならない。しかしトランプは13までしかなく、しかも13を言ってしまえば今度は不幸になってしまう。だから12,5。ジョーカーって答えでも面白いと思うけどね」
「なるほど」
「妹には気をつけてね。いつまた同じ遊びをされるか分からないわよ」

「私がジョーカーなら、お嬢様はトランプで表すとどれなんです?」
「ふふふ、12……クイーンよ。王女って意味もあるけど、完全を表す10より余分にいくつかって意味があるわ。12分に優れている、とかよく言うわよね。貴女が完全で瀟洒な従者なら、私はそれよりも上ってことよ」
「流石です、お嬢様」
「すっかり妹と仲良くなれたみたいね。まぁ、この館にいれば嫌でも身につく能力よ。必死に生きて、必死に馴れなさい」
「かしこまりました」
「ふふふ、いい返事ね」
お嬢様曰く、
「妹はまだいいんだよ、再生すればいいだけだから。パチェがね。紫色の不健康そうな奴いただろう? パチェはつまらないと思うと非常に残念そうな顔をして、残念そうにため息をついて人を無視して本に目を落しちゃうんだ。あれが結構心にぐさりと来る」

こちらでは初めまして。プチとあわせて2作目になります。
妹様の会話大好きです。ただ、エクストラ難しくて、格好いいけどよく分からないというが実際のところです。
お嬢様も同じく。お嬢様もルナティック難しくて、特に緋・天則の会話はルナティック何を言っているかいまいち掴めないです。

でも、そこに痺れるあこがれるゥ。

・少し気になる部分があったので修正いたしました。


>葉月ヴァンホーテン様
ありがとうございます。とっても、とっても嬉しくてなんか上手く言葉に出来ないですが、熱いです(本当に何言ってんだ)。
きっとレミリア嬢はかなり頭のキレるお方に違いありません。

>2様
ありがとうございます。楽しんでいただけたようなので、嬉しい限りです。
今後も色々なジャンルに挑戦したいと思っておりますので、よろしくお願いします。

>3様
うおおお、なんと格好いいお言葉。シビれました。旧作ネタですね。ありがとうございます。
もしかしたらお嬢様は最初から過去を刻む時計にしっかりと今を刻んで欲しくて、絶対に壊れることの無い懐中時計を仕向けるつもりだったのかもしれません。お嬢様のカリスマ計り知れない。
鉄梟器師ジュディ♂(元フクロウちゃん)
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コメント



0.1220簡易評価
1.80葉月ヴァンホーテン削除
上手い……と思いました。
フランの問いに即答したレミリアもすごい。

冒頭に
・かなーり無理矢理な解釈含みます。
と書いてありますが、個人的には
・かなーり頑張って作り込みました。
と書かれても「本当だ! すごい!」
と素直に言えます。
11.100名前が無い程度の能力削除
こーいう言葉遊びは大好きです。
15.90名前が無い程度の能力削除
これはまったく、禁じざるをえない遊戯
で、PuckishなAngelがすばらしい君に静かな瞑りを、とくるわけですな