―――逢魔ヶ時、紅魔館門前。
魑魅魍魎達が動き出す黄昏交じりの二色の空。悪魔が棲むと云われる館の門前。
奴らは集まり、恐怖の集会を開こうとしていた……
* * * * * * *
「集まったわね?」
化け物達は頷いた。
「では……えっと、何回目だっけ?」
「193回目だよ」
「おう、そうだ。じゃあ……第193回、最強会会議を始める!」
氷精―――チルノは立って宣言した。
「では大ちゃん。出席取って」
「はい」
翠髪の大妖精が点呼を始めた。
「会員番号3、ルーミアちゃん」 「うい」
「4、リグルちゃん」 「はーい」
「5、ミスティアちゃん」 「はいはい」
「6、橙ちゃん」 「はい」
「7、フランちゃん」 「はーい!」
「8、てゐさん」 「はいよ」
「9、萃香さん」 ・・・
「10、メディちゃん」 「あい」
「11、諏訪子さん」 ・・・
「12、こいしちゃん」 「はーい」
「13、キスメちゃん」 「はい」
「14、くうちゃん」 ・・・
「15、ぬえちゃん」 ・・・
一通り点呼が終わり、チルノは欠席者を確認した。
「萃香と諏訪子、お空、ぬえの事情聞いてる人は?」
「はーい」
こいしが手を上げる。
「お空は今日夜勤なので無理っぽ。お姉ちゃんも意地悪だね」
「むぅ……しゃーない」
「はい」
「橙は誰の?」
橙が手を上げた。
「萃香様は今日紫様にお呼ばれされてたよ」
「まったく、優先順位を間違えてるな!」
「チルノちゃん……」
それはない。
「あとは?」
誰も手を上げない。チルノはやれやれと溜息をつき、ソッポ向いてる二人を見た。
「……ルーミア、てゐ」
「知らないウサ」
「めんどい」
ふざけやがって、とプッツンしそうになるチルノを大妖精とリグルが押さえる。
ミスティアが溜息をつき、てゐに硬貨を投げてやった。
「山の神様は会合。トップの、さね」
「キィ! 初めから言いなさいよ! 現金な奴め。
それにしても、アイツも優先順位間違えてるようね!」
「だから……」
それはない。
「で……ルーミア」
「めんど」
ジー……
皆の視線が集まる。ウっ、と気後れするルーミア。頭を掻きながら、やれやれと影を跳ばした。
数分後。
「あ」
「何? わかったの?」
「家族(命蓮寺)とすき焼きパーティーしてる」
「なんぞ! ……まあ、仕方ないね」
「いいの!?」
大妖精だけが、流石チルノちゃん! と微笑む。
「よし! じゃあ、始めよう。今日の顧問はメーリンよ」
「好。宜しくね」
役者は揃った。最強の会議が今始まる……
* * * * * * *
紅美鈴はコッペパン片手に彼女達のやり取りを眺めていた。
メイド長から渡された今日の献立はコッペパン、生ハム、砂糖水。
他のファミリーは食堂でオードブルなのに……何故、自分だけ愛の無い料理なのだろう。
副長に聞いたら「……自分のしたこと思い出したらどうっすか」とジト目で見られた。
なんかしたっけ?
頭を悩ませながら、美鈴は顧問活動を続けた。
『顧問』と言えば聞こえがいいが、要は態の良い監視だ。
この最強会……初めはチルノが「カッコいいから作る!」と言ってスタートしたものの、今や、何故か組織一つで国一つ落とせる戦力になってしまっていた。
加え、各所の『御令嬢』や『頭(かしら)』が所属している。
いろんな意味で『もしも』があっては大変だ。
故にこれを按じたある組織が、監視がてらに顧問を置くよう各所に通達したのだ。
今日の担当は自分。
他には、寺子屋の先生。魔法の森の人形遣い。『山』の河童。地底の鬼。新しくできた寺の尼さん……等々。
確かに厄介事ではあるが……見てる分には微笑ましい。一部を除いて。
因みに紅魔館の敷地で会議する際は妹様も参加される。
本当は毎回参加させてあげたいのだが……色々あるのだ。『まだ早い』だの『危険』以外に。
会議の場所は毎回異なるのだが、椅子や机は毎回同じものを使う。どういうことかというと……
「ミスチー、お水ちょうだい」
「はいはい」
ミスティアの屋台。アレを毎度会場へ引っ張っている。
大変そうだが彼女曰く。
「いいんです。迷惑かけてますからこれくらい。御店も開かせてもらってますし」
だそうだ。
会議終了後、彼女はそのまま屋台を営業する。
いつもは森に腰を置いているようだが会議後で紅魔館門前や『山』の滝付近、地底への入り口で提灯を点けると異常なまでに儲かるらしい。
なんとも……美味しい話だ。
「んじゃ、今日の議題は……なんだっけ?」
「決めてないじゃん」
妹様につっこまれ、頬を掻くチルノ。
「んー……何か話し合いたいことある奴いる?」
沈黙。
チルノはやれやれね、と溜息をついた。お前が会長だろうが……
「しょうがない。ちょっと考えるから、休憩よ!」
はーい、と一斉に散る。
美鈴は一応『顧問』として、皆にあまり遠くに行かないよう注意をした。
なんとも、これで組織になってるんだから大したものだ。組織というより、多目的の暇人クラブだな。
ある程度纏まって談話している彼女達の中へ、美鈴は入っていった。
* * * * * * *
「んー……どうしよう」
「チルノちゃん、相変わらず無鉄砲なんだから」
「ま、それがチルノだけどね」
こちらは屋台組。ミスティアの屋台のカウンターで話し合いをしていた。
チルノ。大妖精。ミスティアの三名だ。
「うっす! やってますか?」
「おう、メーリン。ねえ何か良い案、ない?」
「ははは。会長なんでしょ。自分で頑張りなさい」
「むぅ……」
腕を組み、ブツブツ悩むチルノ。
こういうのは見ていて飽きない。子供(そんな年齢とは程遠いが)の自主活動は見ていて楽しい。
必死にメモ帳に何か書いているチルノに苦笑する大妖精とミスティア。
この二名は精神的に『お姉さん』なのだと思う。
チルノの補佐、というか面倒見の良い大妖精と営業の仕込みをしつつ、声をかけるミスティア。
美鈴は『昔』の咲夜を思い出していた……『昔』の。
「大変だね」
「ん?」
ミスティアに声をかけられる美鈴。
「『顧問』だよ。面倒でしょ?」
「いやいや、楽しいモノよ。お堅い連中の会議に出るより、こっちの方が楽しいって」
「ふふふ。そうね……はい」
「お、サンキュー。みすちー」
握り飯を一つ。あまり夕飯を食べてない美鈴にとって嬉しい限りだった。
「いいのいいの。まあ、チルノにヒントでも出してやって」
「んぐ」
「何時まで経っても、悩んでそうだからね」
「あいよ。女将さん」
コップ一杯の水を飲み干し、チルノの肩を叩いた。
「なんぞ?」
「なんか思い付いた?」
「候補はね」
「どれどれ」
メモ帳を見る。汚いものの頑張って書いた字が書いてあった。
『レミリアのカリスマこうざ』。『すわこのぼうしのなぞ』。『さとりにじゃんけんでかつ方法』。
「……」
「どうだ!?」
どうもこうも、碌なのが無い。
お嬢様のカリスマ講座―――論外。有頂天になる。図に乗る。無駄に金がかかる。
諏訪子様の帽子―――タブーだ! 触れるな、危険!!
さとりさんにジャンケンで勝つ―――できなくもないけど……この子らじゃ無理(一部除き)だ。
「……大ちゃん」
「私は無理だよって言ったんだけど……ね」
苦笑い。このままでは拙いので、美鈴は助言を入れた。
「チルノ、例えばだけど」
「うむ」
「普段あまりお話しない子の悩みを聞いてあげるとかは?」
「さっき有るか無いか聞いたじゃん。誰も手挙げなかったよ」
随分舌が回ること。美鈴も苦笑した。
「んとね……ああいう風に聞くと手挙げ難いんだよ。そうじゃなくて、チルノが指名してあげなきゃ」
「指名ねぇ」
「会長さんでしょ?」
「……おう」
どうやら納得したようだ。
チルノの頭にポンと手を乗せ、他の子達を見に行くことにした。
* * * * * * *
「お腹空いてきたね」
「そういえばまだ食べてなかった」
こちらは丸くなってお話中。
妹様にこいし、橙、メディスン、キスメ。なんとも微笑ましい。
ただルーミアだけ、ボーっと煙草を……煙草を?
「ルーミア」
「何? って、おいおい」
美鈴がルーミアの煙草を取り上げた。
「最強会特例約束事1、会議中煙草を吸わない(ルーミア限定)」
「今休憩中じゃん」
「それでも。『顧問』の私が怒られます」
「そうなの? 形だけの『顧問』のくせに……あ、はいはい。わかりました」
「よろしい」
美鈴が煙草を消し飛ばす。それを見てルーミアも止むを得ず諦めた。
まったく油断も隙もありゃしない。
「あ、そういえば」
「どうしたの?」
橙が外の世界のブランドロゴが入ったバックからタッパーを取り出す。
はい、と切り株の上に広げた。
「どうしたの? わ! お菓子だ!」
「こいし、食べていいよ。皆もどうぞ」
なんとも香ばしい香りが漂った。
「これ、なんて食べ物?」
「私、初めて、見る」
メディスンとキスメが興味深そうにお菓子を見つめる。
私知ってる! と妹様が自慢げに説明した。
「スウィートポテトでしょ。前に咲夜が作ってくれた」
「お姉ちゃんも前に作ってたなぁ。材料なんだっけ? 黄色人種?」
こいしちゃん……やめなさい。
「お芋だよ。さつまいも。この前、穣子様からお裾分けしてもらったの」
「へー……誰? ミノリコって」
「こいし。神様。すんごい、偉いの」
「よく知ってるね、キスメ」
「えへ」
なんか、見てて、疲れが取れる。このままキスメを詰所に飾りたい……
美鈴はそんな莫迦なことを考えながら、橙から一つ頂いた。
「おいしー!」
「うん! いいなぁ。狐さんはなんでもできるから、お菓子作りも上手ね」
妹様が世辞を述べた。しかし―――
「違うよ」
「え?」
「これ、紫様が作ったの」
―――橙の口から予想外の言葉が飛び出した。
「へー! ゆかりん凄いね!」
「ゆかりん、可愛い!」
妹様、こいしちゃん……飼いならされてやがる。大賢者をゆかりん扱いしないでください。
「ゆかりんって?」
「スキマ、妖怪」
こちらはこちらで純粋だこと。キスメ、純粋無垢なメディちゃんにNGワードを教えないで頂きたい。
一方……
「なん……だと……」
ルーミアは持っていたお芋を落とした。
「橙。何かの間違いでしょ? あのグータラが。
あ、そうか。藍が風邪でも引いて……」
「失礼な……違うよ。紫様、今主婦業にハマってるんだって」
それは意外だ。
あの件(八雲藍シリーズ)以来、本格的に女に目覚めたか?
「……どうせ、三日坊主ね」
「そんなこと言わないの。橙、もう一つもらってもいい?」
「どうぞ、いっぱいあるので」
わいわいとお菓子に集る少女達。
いや、まさに少女達だ。見た目、十歳前後の彼女らは見てて保養になる。うん。
お嬢様もこれくらい素直なら……
そんな不可能な願いを美鈴は考えてしまった。
「ねえ。主婦業って何?」
「ん?」
「私もわかんない」
「私、も」
メディスンが美鈴の服を引っ張った。こいしとキスメも?マーク。
「主婦業っていうのは……そうねぇ」
「奥さんするってことだよ」
「奥さん?」
「えーと……」
橙のフォローも虚しく、メディスンにはわからないようだった。
妹様が言葉を足す。
「母様だよ」
「母様……」
「ああ、お母さんね」
「??」
こいしとキスメは、なんとなくわかったようだ。メディスン未だピンとこない。
「私、知識でしか、知らない」
「そっかぁ……キスメとメディは仕方ないね」
こいしはフムフムと腕を組む。
「え? こいしはわかるの?」
「へ?」
「母様」
今度は妹様が?マーク。
「わかるよ。お母さんでしょ」
「うん。その……いるの?」
「え、いるよ」
……
「「ええっ!?」」
「なんで? お父さんだっているし」
妹様と橙が目を丸くした。
キスメは知っていたらしい。とかいう私―――美鈴も知ってはいた。尤も、父親しか会ったことなが。
二人の仰天っぷりにメディスンは不思議な顔をした。
「ねえ、ルーミア」
「ん?」
「なんで二人は驚いてるの?」
「ああ……」
先程落としたお芋の砂を払い、ルーミアはメディスンの問いに答えた。
「人間……まあ、彼女達は人間じゃないけど。自分が知らないことを知ると驚くものなのよ。
それが予想外、想定外のことなら尚更ね」
「んー……?」
「要は、こいしとさとりに『ママ』がいたって事に驚いてるの」
「ルーミアは知ってたの?」
「ああ……二度と会いたくないけど」
説明終わり。しかし、まだよくわかってないようだった。
メディスンには兎角『母親』について説明しなければ話が進まないようである。
そこで美鈴はメディスンに助言した。
「メディ」
「何? めーりん」
「わからないことがあったら、皆に聞いてみなさい。会長に言えば皆で教えてくれるわよ」
「チルノに?」
「ええ」
わかった、と頷き屋台の方へテクテク歩いていった。
「ふーん。『顧問』らしいじゃない」
「……『顧問』ですから」
クククというルーミアの笑いが癪に障ったが、メディスンに免じて許してやることにする。
美鈴は残り二人の所へ向かった。
* * * * * * *
「……無理だって」
「でも……でしょ?」
こちらは向うそっちのけで、深刻な話をしていた。
リグルとてゐ。
「どうしたの?」
「あ、美鈴さん」
リグルが振り向く。なにやら紙を広げていた。幻想郷の見取り図?
「……何してるのかな?」
「えっと、その……」
「アンタも聞くかい?」
てゐが真面目な顔をして、小枝を回した。
「……」
「まあいいさ。話を続けるよ、リグル」
「あ、うん」
てゐの小枝が魔法の森を指した。
「アンタの勢力が此処。そして……此処……此処……更に此処に展開している」
「うん……」
順を追って竹林、『山』、湖と指す。
「縄張りを定めることに私は反対しないよ。ただ……増えすぎさね」
「……でも」
「あのねぇ、言っとくけど竹林(ウチ)の蟲がこれ以上増えるようなら駆除するって師匠(えーりん)言ってんの。どうする気?」
「どうするって言われても……」
リグルがシュンとなって俯いていた。
「私の一存じゃ決められないし……皆と話し合わないと」
「甘い」
「痛!」
てゐに小枝でおでこを小突かれ、リグルは涙目になった。
「あのね、私は善意で相談乗ってあげてるの。いい? ちょっと見なさい」
地面に大小様々な円を描いていく。その中で二、三、四番目に大きな円を指す。
「四番目が紅魔館(ここ)。三番目が『山』。二番目が永遠亭(ウチ)。そして―――」
一際大きな円を指した。
「―――これが蟲妖(アンタ達)。わかるでしょ。正直黙認できないの」
「だって……私が勝手に決めちゃ……」
「はぁ。あのね……リグル。貴女、『蟲姫』でしょ? 勝手も何も最大決定権あるんだから!」
「でも……」
リグルはてゐの怒気に押されて、膝を抱えてしまった。
「これ以上増えたら……私らが動かなくても、『上』が蟲達を地底送りにするわよ。いいの?」
「ッ!? それは……」
「だから、相談乗ってあげてるんじゃない。で、貴女はどうしたいの?」
「……もうちょっと、待ってよ」
てゐはリグルの優柔不断な態度が気に喰わなかった。再び小突く。
「痛いって……」
「今度、摂政(アイツ)連れてきなさい! もうなんでアンタが『姫』なのよ……」
「そんな……ごめん……」
今にも泣き出しそうなリグル。
「泣き言はいいから。今度永遠亭(ウチ)と調印を……」
「はい、ストップ!」
「うおばら!」
美鈴がてゐの首根っこを持ち上げた。美鈴はてゐをジト目で睨んだ。
「てゐ……最強会約束事その5」
「勢力争い並び協定を持ち込まない、ね……はいはい。わかったよ」
てゐはくるりと宙返りし、屋台の方へ歩いていった。
落ち込んでいるリグルにそっと手を差し伸べる
「リグル、貴女もよ」
「ごめん、なさい……」
未だにションボリしている。まったく、これでは楽しい会議が台無しだ。
こういうことの無いように『約束事』を作ったのだが……特例以外判断が難しいので、迂闊に手は出せない。
チルノとの約束で『顧問』は極力関与しないことになっているが、『上』は今の様な幻想郷を揺るがしかねない話し合いのストッパーとして『顧問』を置いている。
『顧問』になっている妖怪らは、勿論彼女達の自主性を尊重したいのだが……難しいものだ。
「ほら、元気出す! それにああいう相談は霊夢にしなさい。一応、中立なんだから」
「……でも、霊夢、動いてくれないの」
「あの怠け巫女……」
「二人を怒らないで」
「え?」
リグルは美鈴の裾を引く。
「博麗の巫女は然るべき時に動くし、てゐだって『賢人』なのに相談乗ってくれてるんだから……」
「リグル……」
この子は妖怪としてはまだ若い。
しかしそれなりに力がある所為で……『女王』となった。『為ら』ざるを得なかった。
「あ、美鈴さん。心配しないで……大丈夫だから」
「はぁ……うりゃ!」
「うわぁ!」
美鈴はリグルの足を持ち肩車した。
「な、何すんの?!」
「今の貴女は何?」
「え?」
突発的な問いにうろたえるリグル。美鈴は二カッと笑って歩き出した。
「会員No.4。リグル、でしょ?」
「あ……うん!」
やっとリグルの顔に笑顔が戻った。二人はそのまま、皆の方へ戻った。
その後、数名順番に肩車を強要させられたのだった。
* * * * * * *
「では、今日の議題について!」
やっと議題が決まったらしい。チルノは紅魔館から借りた黒板に漢字を一文字書いた。
「今日は『苺』について、」
「チルノちゃん、上要らない……」
「……失礼。『母』について話し合うわ! 皆、メディスンを納得させるまで検討しなさい!」
「「「「「「「オー!!」」」」」」
「「……オゥ」」
「えへへ、宜しく」
これでいい。彼女達が楽しむ為の最強会だ。
俗世の迷い事や『上』の事情なんぞ、入ってはいけない。
「それではまず、『母』というのは―――」
彼女達はこうじゃなくっちゃね。
美鈴は一人微笑んだ。
* * * * * * *
「―――うし! こんなところでどうだ? メディスン君」
「うん! 大体わかった。ありがと!」
「よし! んじゃ、まず今日はこれで終わりよ。起立!」
一同が立ち上がった。
「これで193回、最強会議を終わる。お疲れさまでした!」
「「「「「「「「「「お疲れさまでした」」」」」」」」」」
じゃあねじゃあね、と散り散りに飛んで行く妖怪達。
同時にミスティアが提灯に、ルーミアが煙草に火を点けた。
「さて……やりますか」
「あら? 休憩しないの?」
「そんなに疲れなかったからね。残ったのは……チルノとルミャにてゐ、フランも呑んでく?」
「え……いいの」
嫌な思い出(スカーレットなファミリーのお話)が、想起する。
「ダメです!」
「えー、メイ。一杯だけ」
「私が監督不行きで怒られます。今日は館にお戻り下さい」
「ぶー」
口を尖らせる妹様。可愛い顔をしてもダメなモノはダメだ。
「ははは、しょうがないね。はい、フラン」
「え、ありがとう! みすちー!」
八目鰻を一串渡してやる。美味しそうに噛みついた。
「それで我慢なさい。今度、お姉さん同伴で来たらいいわよ」
「あ! そっか。お姉様連れてくれば!」
「今日は昼間起きてたので、もう寝てますよ」
「叩き起こしちゃダメ?」
「……寝起きのお嬢様相手に喧嘩したいのなら」
「……辞めとこ。んじゃ、皆バイバイ!」
妹様は手を振って館の中へ入っていった。
ミスティアが割烹着に手を通しながら、手を振った。
「さて、お疲れさん」
「んあ? お疲れ」
チルノがカウンターに座る。連られてルーミアも座ろうとしたが、てゐに止められた。
「はぁ、なんか無駄に疲れた。ちょっとルーミア……煙草止めてよ」
「てゐが詐欺辞めたら、辞める」
「詐欺じゃない。お布施さね」
ルーミアは渋々、煙草を揉み消した。
「チルノ、今日呑んでくの?」
「ん?」
ミスティアに聞かれ、チルノは首を横に振る。
「ご飯だけ頂戴」
「はいさ。ルミャは?」
「塩と焼酎お湯割り」
「てゐは?」
「同じで。めりーん、アンタも呑むの?」
「あ。後で行くー」
美鈴は本日の勤務終了を告げる為に御機嫌斜めなメイド長の下へ向かうのだった。
楽しい会議の後の、お姫様(咲夜)の機嫌取り。
なんとも、複雑な夜ですこと。
「咲夜さーん! 会議終わったから呑みいこう! 奢るからー!」
* * * * * * *
「てゐ」
「ん?」
ルーミアはカウンターから離れ、外の切り株に座り一服やっていた。
てゐは塩串を頬張りながら背中で返事をする。
「あんまり、リグルを虐めない」
「……別に、ただの相談よ。それに現実を教えてあげてるだけ」
「彼女の境遇も察してあげなよ」
ルーミアの吐く煙草の煙は、彼女の闇の様に黒かった。
チルノとミスティアは知らんぷり。場は弁えてるし、変な詮索もする気は無いようだ。
「あまい」
「悪かったね」
「システムさ。増えたら、減らす。減ったら、増やす。
永遠亭(ウチ)の姫さんや紅魔の『人間』みたいに住む場所を広げられるんなら文句は言わない。
でもね……あ、みすちー、ポン酒頂戴……蟲達にそんな大そうな能力持ちはいない。
そして……あの子は姫なのさ。しかも蟲の」
「……知ってるさ」
ミスティアからコップを受け取る。
ルーミアも煙草を消してカウンターに戻って来た。
「地底でいいっていうなら、いくらでも移動させてやれる。
でもリグルはそれを望まない。一部の蟲にとっては最悪の環境だからね」
「だから、永遠亭と手を結んで住処を分けてもらえ、と?」
「悪くは無いと思うけど?」
ルーミアは呑みかけの焼酎を傾ける。
ぬるくなったお湯割りは何とも微妙な味がした。
「それこそ、ダメだね。ああダメだ。裏があることぐらい妖精だってわかる」
「……大した問題じゃないよ」
「ただでさえ多い勢力を、更に大きくする気か? 永遠亭は?
それにだ、お宅の姫さん、選民意識強いだろう」
「なんとか丸め込むさ」
「希望的観測ね」
「……やけに突っかかるじゃない」
「いや、何……『友人』が困ってるからね。構いたくなるんだよ」
クククと嘲笑するルーミア。てゐは横目で、宵闇妖怪を睨んだ。
暫時、無言。八目鰻の焼ける音だけが無性に響いた。
「アンタら……莫迦だね」
「ん?」
「あ?」
チルノ。
「リグルはそんなに弱くないよ」
「ははは、言うじゃないか。氷精さん」
「組織ってもんに所属しないアンタにはわからないだろうが、」
「わからないさ。わかりたくも無い。アタイは自由で気楽だから」
お冷の入ったコップに氷を追加する。
「確かに、アタイが知らないところでゴダゴダはあるのかもしれないけど……
それでもリグルは弱くないし、幻想郷(ここ)がそんな窮屈な場所じゃないってことだけはわかってるよ」
「……」
「あまちゃんね……」
チルノはそうかもね、と苦笑した。釣られて三名も苦笑する。
「紫じゃないけど……幻想郷は全てを受け入れるんだ。でもそれはそれは残酷なこと。
だけどそんなことに縛られたくないから、だからアタイは作ったんだ。最強会を。
難しいことは抜きで、皆楽しく遊べるように、ね。
アンタらも組織だのなんだのの面倒を忘れたいから入ったんでしょ?」
「……まあ」
「私は関係ないけどね」
やけに賢しいチルノに、てゐはにべもなかった。酒の所為もあるのか言葉が見当たらない。
ルーミアも平然を装ってはいたが、チルノの聖人君主の様な考えの前には頭が上がらなかった。
ニシシ、と鼻高らかな氷精に女将が突っ込んだ。
「ほんと、惚れ惚れするわね。おバカさん」
「なんと!」
「褒め言葉よ。チルノ、皆アナタみたいに強くは無いの。
そこを考えなきゃダメよ。それができれば本物の『最強』だけどね」
「むぅ……」
今度はチルノが腕を組んだ。
ミスティアは頑張れ、とお水を足してやった。
「ま、難しいことはこれくらいにして……呑みなさいな。御三方」
「……みすちーには敵わんね」
「ククク、まったくだ」
「むぅ。アタイは強いけど、まだ最強じゃない……どういうことなの?」
「考え過ぎ。おバカ妖精」
「なんぞ!」
「褒め言葉、褒め言葉」
ルーミアはチルノの頭にポンと手を乗せる。ちぇ、とチルノは冷水を一気に飲み干した。
二名は莫迦らしくなって、焼酎を割らずに注文する。
女将は程々にと注を入れ、空を見上げた。澄んだ空だ……
「もうすぐ冬ね」
「うん」
「レティ、そろそろじゃない?」
「……うん」
「よかったね」
「まあ……ね」
ちょっと赤くなる。チルノに三名はニヤニヤ。
その後、美鈴が紅魔館メンバー数名を引き連れてくるまでレティの事でからかわれる会長であったとさ。
魑魅魍魎達が動き出す黄昏交じりの二色の空。悪魔が棲むと云われる館の門前。
奴らは集まり、恐怖の集会を開こうとしていた……
* * * * * * *
「集まったわね?」
化け物達は頷いた。
「では……えっと、何回目だっけ?」
「193回目だよ」
「おう、そうだ。じゃあ……第193回、最強会会議を始める!」
氷精―――チルノは立って宣言した。
「では大ちゃん。出席取って」
「はい」
翠髪の大妖精が点呼を始めた。
「会員番号3、ルーミアちゃん」 「うい」
「4、リグルちゃん」 「はーい」
「5、ミスティアちゃん」 「はいはい」
「6、橙ちゃん」 「はい」
「7、フランちゃん」 「はーい!」
「8、てゐさん」 「はいよ」
「9、萃香さん」 ・・・
「10、メディちゃん」 「あい」
「11、諏訪子さん」 ・・・
「12、こいしちゃん」 「はーい」
「13、キスメちゃん」 「はい」
「14、くうちゃん」 ・・・
「15、ぬえちゃん」 ・・・
一通り点呼が終わり、チルノは欠席者を確認した。
「萃香と諏訪子、お空、ぬえの事情聞いてる人は?」
「はーい」
こいしが手を上げる。
「お空は今日夜勤なので無理っぽ。お姉ちゃんも意地悪だね」
「むぅ……しゃーない」
「はい」
「橙は誰の?」
橙が手を上げた。
「萃香様は今日紫様にお呼ばれされてたよ」
「まったく、優先順位を間違えてるな!」
「チルノちゃん……」
それはない。
「あとは?」
誰も手を上げない。チルノはやれやれと溜息をつき、ソッポ向いてる二人を見た。
「……ルーミア、てゐ」
「知らないウサ」
「めんどい」
ふざけやがって、とプッツンしそうになるチルノを大妖精とリグルが押さえる。
ミスティアが溜息をつき、てゐに硬貨を投げてやった。
「山の神様は会合。トップの、さね」
「キィ! 初めから言いなさいよ! 現金な奴め。
それにしても、アイツも優先順位間違えてるようね!」
「だから……」
それはない。
「で……ルーミア」
「めんど」
ジー……
皆の視線が集まる。ウっ、と気後れするルーミア。頭を掻きながら、やれやれと影を跳ばした。
数分後。
「あ」
「何? わかったの?」
「家族(命蓮寺)とすき焼きパーティーしてる」
「なんぞ! ……まあ、仕方ないね」
「いいの!?」
大妖精だけが、流石チルノちゃん! と微笑む。
「よし! じゃあ、始めよう。今日の顧問はメーリンよ」
「好。宜しくね」
役者は揃った。最強の会議が今始まる……
* * * * * * *
紅美鈴はコッペパン片手に彼女達のやり取りを眺めていた。
メイド長から渡された今日の献立はコッペパン、生ハム、砂糖水。
他のファミリーは食堂でオードブルなのに……何故、自分だけ愛の無い料理なのだろう。
副長に聞いたら「……自分のしたこと思い出したらどうっすか」とジト目で見られた。
なんかしたっけ?
頭を悩ませながら、美鈴は顧問活動を続けた。
『顧問』と言えば聞こえがいいが、要は態の良い監視だ。
この最強会……初めはチルノが「カッコいいから作る!」と言ってスタートしたものの、今や、何故か組織一つで国一つ落とせる戦力になってしまっていた。
加え、各所の『御令嬢』や『頭(かしら)』が所属している。
いろんな意味で『もしも』があっては大変だ。
故にこれを按じたある組織が、監視がてらに顧問を置くよう各所に通達したのだ。
今日の担当は自分。
他には、寺子屋の先生。魔法の森の人形遣い。『山』の河童。地底の鬼。新しくできた寺の尼さん……等々。
確かに厄介事ではあるが……見てる分には微笑ましい。一部を除いて。
因みに紅魔館の敷地で会議する際は妹様も参加される。
本当は毎回参加させてあげたいのだが……色々あるのだ。『まだ早い』だの『危険』以外に。
会議の場所は毎回異なるのだが、椅子や机は毎回同じものを使う。どういうことかというと……
「ミスチー、お水ちょうだい」
「はいはい」
ミスティアの屋台。アレを毎度会場へ引っ張っている。
大変そうだが彼女曰く。
「いいんです。迷惑かけてますからこれくらい。御店も開かせてもらってますし」
だそうだ。
会議終了後、彼女はそのまま屋台を営業する。
いつもは森に腰を置いているようだが会議後で紅魔館門前や『山』の滝付近、地底への入り口で提灯を点けると異常なまでに儲かるらしい。
なんとも……美味しい話だ。
「んじゃ、今日の議題は……なんだっけ?」
「決めてないじゃん」
妹様につっこまれ、頬を掻くチルノ。
「んー……何か話し合いたいことある奴いる?」
沈黙。
チルノはやれやれね、と溜息をついた。お前が会長だろうが……
「しょうがない。ちょっと考えるから、休憩よ!」
はーい、と一斉に散る。
美鈴は一応『顧問』として、皆にあまり遠くに行かないよう注意をした。
なんとも、これで組織になってるんだから大したものだ。組織というより、多目的の暇人クラブだな。
ある程度纏まって談話している彼女達の中へ、美鈴は入っていった。
* * * * * * *
「んー……どうしよう」
「チルノちゃん、相変わらず無鉄砲なんだから」
「ま、それがチルノだけどね」
こちらは屋台組。ミスティアの屋台のカウンターで話し合いをしていた。
チルノ。大妖精。ミスティアの三名だ。
「うっす! やってますか?」
「おう、メーリン。ねえ何か良い案、ない?」
「ははは。会長なんでしょ。自分で頑張りなさい」
「むぅ……」
腕を組み、ブツブツ悩むチルノ。
こういうのは見ていて飽きない。子供(そんな年齢とは程遠いが)の自主活動は見ていて楽しい。
必死にメモ帳に何か書いているチルノに苦笑する大妖精とミスティア。
この二名は精神的に『お姉さん』なのだと思う。
チルノの補佐、というか面倒見の良い大妖精と営業の仕込みをしつつ、声をかけるミスティア。
美鈴は『昔』の咲夜を思い出していた……『昔』の。
「大変だね」
「ん?」
ミスティアに声をかけられる美鈴。
「『顧問』だよ。面倒でしょ?」
「いやいや、楽しいモノよ。お堅い連中の会議に出るより、こっちの方が楽しいって」
「ふふふ。そうね……はい」
「お、サンキュー。みすちー」
握り飯を一つ。あまり夕飯を食べてない美鈴にとって嬉しい限りだった。
「いいのいいの。まあ、チルノにヒントでも出してやって」
「んぐ」
「何時まで経っても、悩んでそうだからね」
「あいよ。女将さん」
コップ一杯の水を飲み干し、チルノの肩を叩いた。
「なんぞ?」
「なんか思い付いた?」
「候補はね」
「どれどれ」
メモ帳を見る。汚いものの頑張って書いた字が書いてあった。
『レミリアのカリスマこうざ』。『すわこのぼうしのなぞ』。『さとりにじゃんけんでかつ方法』。
「……」
「どうだ!?」
どうもこうも、碌なのが無い。
お嬢様のカリスマ講座―――論外。有頂天になる。図に乗る。無駄に金がかかる。
諏訪子様の帽子―――タブーだ! 触れるな、危険!!
さとりさんにジャンケンで勝つ―――できなくもないけど……この子らじゃ無理(一部除き)だ。
「……大ちゃん」
「私は無理だよって言ったんだけど……ね」
苦笑い。このままでは拙いので、美鈴は助言を入れた。
「チルノ、例えばだけど」
「うむ」
「普段あまりお話しない子の悩みを聞いてあげるとかは?」
「さっき有るか無いか聞いたじゃん。誰も手挙げなかったよ」
随分舌が回ること。美鈴も苦笑した。
「んとね……ああいう風に聞くと手挙げ難いんだよ。そうじゃなくて、チルノが指名してあげなきゃ」
「指名ねぇ」
「会長さんでしょ?」
「……おう」
どうやら納得したようだ。
チルノの頭にポンと手を乗せ、他の子達を見に行くことにした。
* * * * * * *
「お腹空いてきたね」
「そういえばまだ食べてなかった」
こちらは丸くなってお話中。
妹様にこいし、橙、メディスン、キスメ。なんとも微笑ましい。
ただルーミアだけ、ボーっと煙草を……煙草を?
「ルーミア」
「何? って、おいおい」
美鈴がルーミアの煙草を取り上げた。
「最強会特例約束事1、会議中煙草を吸わない(ルーミア限定)」
「今休憩中じゃん」
「それでも。『顧問』の私が怒られます」
「そうなの? 形だけの『顧問』のくせに……あ、はいはい。わかりました」
「よろしい」
美鈴が煙草を消し飛ばす。それを見てルーミアも止むを得ず諦めた。
まったく油断も隙もありゃしない。
「あ、そういえば」
「どうしたの?」
橙が外の世界のブランドロゴが入ったバックからタッパーを取り出す。
はい、と切り株の上に広げた。
「どうしたの? わ! お菓子だ!」
「こいし、食べていいよ。皆もどうぞ」
なんとも香ばしい香りが漂った。
「これ、なんて食べ物?」
「私、初めて、見る」
メディスンとキスメが興味深そうにお菓子を見つめる。
私知ってる! と妹様が自慢げに説明した。
「スウィートポテトでしょ。前に咲夜が作ってくれた」
「お姉ちゃんも前に作ってたなぁ。材料なんだっけ? 黄色人種?」
こいしちゃん……やめなさい。
「お芋だよ。さつまいも。この前、穣子様からお裾分けしてもらったの」
「へー……誰? ミノリコって」
「こいし。神様。すんごい、偉いの」
「よく知ってるね、キスメ」
「えへ」
なんか、見てて、疲れが取れる。このままキスメを詰所に飾りたい……
美鈴はそんな莫迦なことを考えながら、橙から一つ頂いた。
「おいしー!」
「うん! いいなぁ。狐さんはなんでもできるから、お菓子作りも上手ね」
妹様が世辞を述べた。しかし―――
「違うよ」
「え?」
「これ、紫様が作ったの」
―――橙の口から予想外の言葉が飛び出した。
「へー! ゆかりん凄いね!」
「ゆかりん、可愛い!」
妹様、こいしちゃん……飼いならされてやがる。大賢者をゆかりん扱いしないでください。
「ゆかりんって?」
「スキマ、妖怪」
こちらはこちらで純粋だこと。キスメ、純粋無垢なメディちゃんにNGワードを教えないで頂きたい。
一方……
「なん……だと……」
ルーミアは持っていたお芋を落とした。
「橙。何かの間違いでしょ? あのグータラが。
あ、そうか。藍が風邪でも引いて……」
「失礼な……違うよ。紫様、今主婦業にハマってるんだって」
それは意外だ。
あの件(八雲藍シリーズ)以来、本格的に女に目覚めたか?
「……どうせ、三日坊主ね」
「そんなこと言わないの。橙、もう一つもらってもいい?」
「どうぞ、いっぱいあるので」
わいわいとお菓子に集る少女達。
いや、まさに少女達だ。見た目、十歳前後の彼女らは見てて保養になる。うん。
お嬢様もこれくらい素直なら……
そんな不可能な願いを美鈴は考えてしまった。
「ねえ。主婦業って何?」
「ん?」
「私もわかんない」
「私、も」
メディスンが美鈴の服を引っ張った。こいしとキスメも?マーク。
「主婦業っていうのは……そうねぇ」
「奥さんするってことだよ」
「奥さん?」
「えーと……」
橙のフォローも虚しく、メディスンにはわからないようだった。
妹様が言葉を足す。
「母様だよ」
「母様……」
「ああ、お母さんね」
「??」
こいしとキスメは、なんとなくわかったようだ。メディスン未だピンとこない。
「私、知識でしか、知らない」
「そっかぁ……キスメとメディは仕方ないね」
こいしはフムフムと腕を組む。
「え? こいしはわかるの?」
「へ?」
「母様」
今度は妹様が?マーク。
「わかるよ。お母さんでしょ」
「うん。その……いるの?」
「え、いるよ」
……
「「ええっ!?」」
「なんで? お父さんだっているし」
妹様と橙が目を丸くした。
キスメは知っていたらしい。とかいう私―――美鈴も知ってはいた。尤も、父親しか会ったことなが。
二人の仰天っぷりにメディスンは不思議な顔をした。
「ねえ、ルーミア」
「ん?」
「なんで二人は驚いてるの?」
「ああ……」
先程落としたお芋の砂を払い、ルーミアはメディスンの問いに答えた。
「人間……まあ、彼女達は人間じゃないけど。自分が知らないことを知ると驚くものなのよ。
それが予想外、想定外のことなら尚更ね」
「んー……?」
「要は、こいしとさとりに『ママ』がいたって事に驚いてるの」
「ルーミアは知ってたの?」
「ああ……二度と会いたくないけど」
説明終わり。しかし、まだよくわかってないようだった。
メディスンには兎角『母親』について説明しなければ話が進まないようである。
そこで美鈴はメディスンに助言した。
「メディ」
「何? めーりん」
「わからないことがあったら、皆に聞いてみなさい。会長に言えば皆で教えてくれるわよ」
「チルノに?」
「ええ」
わかった、と頷き屋台の方へテクテク歩いていった。
「ふーん。『顧問』らしいじゃない」
「……『顧問』ですから」
クククというルーミアの笑いが癪に障ったが、メディスンに免じて許してやることにする。
美鈴は残り二人の所へ向かった。
* * * * * * *
「……無理だって」
「でも……でしょ?」
こちらは向うそっちのけで、深刻な話をしていた。
リグルとてゐ。
「どうしたの?」
「あ、美鈴さん」
リグルが振り向く。なにやら紙を広げていた。幻想郷の見取り図?
「……何してるのかな?」
「えっと、その……」
「アンタも聞くかい?」
てゐが真面目な顔をして、小枝を回した。
「……」
「まあいいさ。話を続けるよ、リグル」
「あ、うん」
てゐの小枝が魔法の森を指した。
「アンタの勢力が此処。そして……此処……此処……更に此処に展開している」
「うん……」
順を追って竹林、『山』、湖と指す。
「縄張りを定めることに私は反対しないよ。ただ……増えすぎさね」
「……でも」
「あのねぇ、言っとくけど竹林(ウチ)の蟲がこれ以上増えるようなら駆除するって師匠(えーりん)言ってんの。どうする気?」
「どうするって言われても……」
リグルがシュンとなって俯いていた。
「私の一存じゃ決められないし……皆と話し合わないと」
「甘い」
「痛!」
てゐに小枝でおでこを小突かれ、リグルは涙目になった。
「あのね、私は善意で相談乗ってあげてるの。いい? ちょっと見なさい」
地面に大小様々な円を描いていく。その中で二、三、四番目に大きな円を指す。
「四番目が紅魔館(ここ)。三番目が『山』。二番目が永遠亭(ウチ)。そして―――」
一際大きな円を指した。
「―――これが蟲妖(アンタ達)。わかるでしょ。正直黙認できないの」
「だって……私が勝手に決めちゃ……」
「はぁ。あのね……リグル。貴女、『蟲姫』でしょ? 勝手も何も最大決定権あるんだから!」
「でも……」
リグルはてゐの怒気に押されて、膝を抱えてしまった。
「これ以上増えたら……私らが動かなくても、『上』が蟲達を地底送りにするわよ。いいの?」
「ッ!? それは……」
「だから、相談乗ってあげてるんじゃない。で、貴女はどうしたいの?」
「……もうちょっと、待ってよ」
てゐはリグルの優柔不断な態度が気に喰わなかった。再び小突く。
「痛いって……」
「今度、摂政(アイツ)連れてきなさい! もうなんでアンタが『姫』なのよ……」
「そんな……ごめん……」
今にも泣き出しそうなリグル。
「泣き言はいいから。今度永遠亭(ウチ)と調印を……」
「はい、ストップ!」
「うおばら!」
美鈴がてゐの首根っこを持ち上げた。美鈴はてゐをジト目で睨んだ。
「てゐ……最強会約束事その5」
「勢力争い並び協定を持ち込まない、ね……はいはい。わかったよ」
てゐはくるりと宙返りし、屋台の方へ歩いていった。
落ち込んでいるリグルにそっと手を差し伸べる
「リグル、貴女もよ」
「ごめん、なさい……」
未だにションボリしている。まったく、これでは楽しい会議が台無しだ。
こういうことの無いように『約束事』を作ったのだが……特例以外判断が難しいので、迂闊に手は出せない。
チルノとの約束で『顧問』は極力関与しないことになっているが、『上』は今の様な幻想郷を揺るがしかねない話し合いのストッパーとして『顧問』を置いている。
『顧問』になっている妖怪らは、勿論彼女達の自主性を尊重したいのだが……難しいものだ。
「ほら、元気出す! それにああいう相談は霊夢にしなさい。一応、中立なんだから」
「……でも、霊夢、動いてくれないの」
「あの怠け巫女……」
「二人を怒らないで」
「え?」
リグルは美鈴の裾を引く。
「博麗の巫女は然るべき時に動くし、てゐだって『賢人』なのに相談乗ってくれてるんだから……」
「リグル……」
この子は妖怪としてはまだ若い。
しかしそれなりに力がある所為で……『女王』となった。『為ら』ざるを得なかった。
「あ、美鈴さん。心配しないで……大丈夫だから」
「はぁ……うりゃ!」
「うわぁ!」
美鈴はリグルの足を持ち肩車した。
「な、何すんの?!」
「今の貴女は何?」
「え?」
突発的な問いにうろたえるリグル。美鈴は二カッと笑って歩き出した。
「会員No.4。リグル、でしょ?」
「あ……うん!」
やっとリグルの顔に笑顔が戻った。二人はそのまま、皆の方へ戻った。
その後、数名順番に肩車を強要させられたのだった。
* * * * * * *
「では、今日の議題について!」
やっと議題が決まったらしい。チルノは紅魔館から借りた黒板に漢字を一文字書いた。
「今日は『苺』について、」
「チルノちゃん、上要らない……」
「……失礼。『母』について話し合うわ! 皆、メディスンを納得させるまで検討しなさい!」
「「「「「「「オー!!」」」」」」
「「……オゥ」」
「えへへ、宜しく」
これでいい。彼女達が楽しむ為の最強会だ。
俗世の迷い事や『上』の事情なんぞ、入ってはいけない。
「それではまず、『母』というのは―――」
彼女達はこうじゃなくっちゃね。
美鈴は一人微笑んだ。
* * * * * * *
「―――うし! こんなところでどうだ? メディスン君」
「うん! 大体わかった。ありがと!」
「よし! んじゃ、まず今日はこれで終わりよ。起立!」
一同が立ち上がった。
「これで193回、最強会議を終わる。お疲れさまでした!」
「「「「「「「「「「お疲れさまでした」」」」」」」」」」
じゃあねじゃあね、と散り散りに飛んで行く妖怪達。
同時にミスティアが提灯に、ルーミアが煙草に火を点けた。
「さて……やりますか」
「あら? 休憩しないの?」
「そんなに疲れなかったからね。残ったのは……チルノとルミャにてゐ、フランも呑んでく?」
「え……いいの」
嫌な思い出(スカーレットなファミリーのお話)が、想起する。
「ダメです!」
「えー、メイ。一杯だけ」
「私が監督不行きで怒られます。今日は館にお戻り下さい」
「ぶー」
口を尖らせる妹様。可愛い顔をしてもダメなモノはダメだ。
「ははは、しょうがないね。はい、フラン」
「え、ありがとう! みすちー!」
八目鰻を一串渡してやる。美味しそうに噛みついた。
「それで我慢なさい。今度、お姉さん同伴で来たらいいわよ」
「あ! そっか。お姉様連れてくれば!」
「今日は昼間起きてたので、もう寝てますよ」
「叩き起こしちゃダメ?」
「……寝起きのお嬢様相手に喧嘩したいのなら」
「……辞めとこ。んじゃ、皆バイバイ!」
妹様は手を振って館の中へ入っていった。
ミスティアが割烹着に手を通しながら、手を振った。
「さて、お疲れさん」
「んあ? お疲れ」
チルノがカウンターに座る。連られてルーミアも座ろうとしたが、てゐに止められた。
「はぁ、なんか無駄に疲れた。ちょっとルーミア……煙草止めてよ」
「てゐが詐欺辞めたら、辞める」
「詐欺じゃない。お布施さね」
ルーミアは渋々、煙草を揉み消した。
「チルノ、今日呑んでくの?」
「ん?」
ミスティアに聞かれ、チルノは首を横に振る。
「ご飯だけ頂戴」
「はいさ。ルミャは?」
「塩と焼酎お湯割り」
「てゐは?」
「同じで。めりーん、アンタも呑むの?」
「あ。後で行くー」
美鈴は本日の勤務終了を告げる為に御機嫌斜めなメイド長の下へ向かうのだった。
楽しい会議の後の、お姫様(咲夜)の機嫌取り。
なんとも、複雑な夜ですこと。
「咲夜さーん! 会議終わったから呑みいこう! 奢るからー!」
* * * * * * *
「てゐ」
「ん?」
ルーミアはカウンターから離れ、外の切り株に座り一服やっていた。
てゐは塩串を頬張りながら背中で返事をする。
「あんまり、リグルを虐めない」
「……別に、ただの相談よ。それに現実を教えてあげてるだけ」
「彼女の境遇も察してあげなよ」
ルーミアの吐く煙草の煙は、彼女の闇の様に黒かった。
チルノとミスティアは知らんぷり。場は弁えてるし、変な詮索もする気は無いようだ。
「あまい」
「悪かったね」
「システムさ。増えたら、減らす。減ったら、増やす。
永遠亭(ウチ)の姫さんや紅魔の『人間』みたいに住む場所を広げられるんなら文句は言わない。
でもね……あ、みすちー、ポン酒頂戴……蟲達にそんな大そうな能力持ちはいない。
そして……あの子は姫なのさ。しかも蟲の」
「……知ってるさ」
ミスティアからコップを受け取る。
ルーミアも煙草を消してカウンターに戻って来た。
「地底でいいっていうなら、いくらでも移動させてやれる。
でもリグルはそれを望まない。一部の蟲にとっては最悪の環境だからね」
「だから、永遠亭と手を結んで住処を分けてもらえ、と?」
「悪くは無いと思うけど?」
ルーミアは呑みかけの焼酎を傾ける。
ぬるくなったお湯割りは何とも微妙な味がした。
「それこそ、ダメだね。ああダメだ。裏があることぐらい妖精だってわかる」
「……大した問題じゃないよ」
「ただでさえ多い勢力を、更に大きくする気か? 永遠亭は?
それにだ、お宅の姫さん、選民意識強いだろう」
「なんとか丸め込むさ」
「希望的観測ね」
「……やけに突っかかるじゃない」
「いや、何……『友人』が困ってるからね。構いたくなるんだよ」
クククと嘲笑するルーミア。てゐは横目で、宵闇妖怪を睨んだ。
暫時、無言。八目鰻の焼ける音だけが無性に響いた。
「アンタら……莫迦だね」
「ん?」
「あ?」
チルノ。
「リグルはそんなに弱くないよ」
「ははは、言うじゃないか。氷精さん」
「組織ってもんに所属しないアンタにはわからないだろうが、」
「わからないさ。わかりたくも無い。アタイは自由で気楽だから」
お冷の入ったコップに氷を追加する。
「確かに、アタイが知らないところでゴダゴダはあるのかもしれないけど……
それでもリグルは弱くないし、幻想郷(ここ)がそんな窮屈な場所じゃないってことだけはわかってるよ」
「……」
「あまちゃんね……」
チルノはそうかもね、と苦笑した。釣られて三名も苦笑する。
「紫じゃないけど……幻想郷は全てを受け入れるんだ。でもそれはそれは残酷なこと。
だけどそんなことに縛られたくないから、だからアタイは作ったんだ。最強会を。
難しいことは抜きで、皆楽しく遊べるように、ね。
アンタらも組織だのなんだのの面倒を忘れたいから入ったんでしょ?」
「……まあ」
「私は関係ないけどね」
やけに賢しいチルノに、てゐはにべもなかった。酒の所為もあるのか言葉が見当たらない。
ルーミアも平然を装ってはいたが、チルノの聖人君主の様な考えの前には頭が上がらなかった。
ニシシ、と鼻高らかな氷精に女将が突っ込んだ。
「ほんと、惚れ惚れするわね。おバカさん」
「なんと!」
「褒め言葉よ。チルノ、皆アナタみたいに強くは無いの。
そこを考えなきゃダメよ。それができれば本物の『最強』だけどね」
「むぅ……」
今度はチルノが腕を組んだ。
ミスティアは頑張れ、とお水を足してやった。
「ま、難しいことはこれくらいにして……呑みなさいな。御三方」
「……みすちーには敵わんね」
「ククク、まったくだ」
「むぅ。アタイは強いけど、まだ最強じゃない……どういうことなの?」
「考え過ぎ。おバカ妖精」
「なんぞ!」
「褒め言葉、褒め言葉」
ルーミアはチルノの頭にポンと手を乗せる。ちぇ、とチルノは冷水を一気に飲み干した。
二名は莫迦らしくなって、焼酎を割らずに注文する。
女将は程々にと注を入れ、空を見上げた。澄んだ空だ……
「もうすぐ冬ね」
「うん」
「レティ、そろそろじゃない?」
「……うん」
「よかったね」
「まあ……ね」
ちょっと赤くなる。チルノに三名はニヤニヤ。
その後、美鈴が紅魔館メンバー数名を引き連れてくるまでレティの事でからかわれる会長であったとさ。
EXボスこんなに集めちゃダメwww
臨界量がテラヤバス
ルーミアが一般的に二次創作で見るイメージとかけ離れてるwww
そーなのかーの一言もないwwwだがそれがいいwww
古明地夫妻…ベアード様っ
ところで氏の書く命蓮寺組が気になります
1番様・・・たとえExだろうが6ボスだろうが、心は子供なのです。逆に1ボスだろうが中ボスだろうが大人もいます。
14番様・・・チルノは幻想郷の最たる幻想だと思うのです。
16番様・・・ルミャはExとか莫迦とか、そういう次元じゃないと思います。そーなのかーって1回しか言ってないし。
古明地夫妻は……ふふふ。
聖輦組ですか。何かリクエストとかあったりします?あればメール下さいな。
ルーミアやチルノの雰囲気が、なんか一般的な二次創作のイメージと全然違うww
しかし、いつも作品に伏線だらけでアレコレ勘繰るのがなんだか楽しくなってきましたよww
シンサクマダー?w
ところでこれは誤字?
>めりーん
チルノは最強なんですよ、いろんな意味で。でも同じくらい、脆いのです。
ルミャは、リボンとかExとかそんなの関係無く……まあ楽しみにしていてください。
マンキョウさんのルーミアにはこれが合う……キャールミサーン
そんなことよりマッサージのことについてくわしkうわなにいsw
マッサージ? 普通のマッサージですよ。ただみょんちゃんが敏感で……おや、誰か来たようだ。