Coolier - 新生・東方創想話

幻染録①~永『久』の氷~

2009/11/14 02:47:54
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 ※この話は私の書いたオリキャラ幻想入り作品の続編ではありますが、とりあえずここから物語が始まります。タイトルは仮です。以後変更ありかもです。
 ささっとあらすじを載せてありますのでこの話から入ってくださっても構いません。
 前の作品を読みたい方はタグの『幻染録』からどうぞ。


 あらすじ
 霖之助は無縁塚で一人の人間を拾う。それは外の世界から来た人間でここがどこかもわからない。とある理由によって中途半端な幻想入りをしていた彼女を霖乃助は外の知識のため……ではなく彼女を幻想郷に慣れさせるために香霖堂で雇うことにする。彼女は外の世界の名前を捨てて『霖(ながめ)』と名乗ることにした。そして何 故か謎の光る球体が彼女に協力を誓ったのだった。


  ◇:霖之助視点 ◆:霖視点 ○:話の主役視点 となっております。


 ◇
 こんなものか。
 一枚の紙に書いた文章を読む。
 彼女が来てからの大まかな概要だ。
 自らを『霖之助』と記すのは少々こそばゆいが仕方がない。
 これは記すのが僕であっても彼女の物語だ。
 光る球体については彼女が詮索をやめると言い出したため半端な付け足しになってしまったが。
 まぁ始まったばかりの話だ。膨らむものも膨らむまい。
 最初の一筆は僕が書いたものの、基本は霖の口から聞いたことを書き記している。
 それは幻想郷を『外』から見た重要な書物になりえるだろう。
 まぁ幻想に染まることで外からの視点、という点では違ってきてしまうかも知れないが。
 その点は書き手である僕の視点を合わせることで変わってくるだろう。
 外の品物を扱う僕ならば他とは違う考えを持てるだろうから。
 とりあえずは彼女の純粋な視点をそのままに書こう。
 それが幻想郷のためになる。
 しかし幻染録とは。自分でつけたとはいえあまりに率直な名前すぎただろうか。
 だが未来に残るであろう文書ならば簡潔さが重要だろう。
 とりあえずはこの名で書き記していこうと思う。
 そう考えていると店の入り口がガラリと開き、
「森近さん。入口の掃き掃除終わりましたけれど」
 件の外の世界の少女、霖が箒を持って入ってきた。
 正直に言えば魔理沙に言われるまで少年だと思っていたんだがれっきとした女性である。
 魔理沙より小さい小柄な体躯。体は細く弱弱しい。
 髪は短く薄い茶髪。銀縁の眼鏡をかけている。
 幻想郷に来てまだ1週間しか経っておらず、やっと空気に慣れてきた印象を持てる。
「ありがとう。朝支度をしてくれるか。僕はいつも通り少しで構わないよ」
 無論人間であるため僕のような半妖とは違い食事は必須である。
 そのため少しの朝食と夕食は用意するようにした。
 従業員ではあるが客人なのだからしっかりと用意すべきなのだろうが。
「わかりました。えっと、白米と漬けておいた白菜がありますね」
 調理場でごそごそと壺を弄る。
 最初は火の焚き方もわからなかったが・・・・・・
 人間、適応力というものはあるものだ。僕が言うことではないけれど。
 
 茶碗半分ほどの白米と少量の漬物。それが彼女の朝食だ。
 お世辞にもいい食事とは言えないだろう。
 僕自身食事に対してはあまり必要としなかったのが香霖堂に食物自体が少なかったのが要因だが彼女は文句の一つも言いはしない。
 気を使っているのか本心なのか。
 漬物を齧る顔は笑顔である。
 僕は漬物を飲み込み、酒を少し口に入れる。
 朝酒は良くないとは思うのだがこの漬物は酒に合うのだ。仕方ない。
「今日はまた店番でしょうか? 森近さん」
 こちらを見てくる霖。
 最初の2日で店のことを仕込み、後の4日間は店番と埃落としなどを頼んでいた。
 まぁ3日目には霊夢、4日目には魔理沙がやってきて連れて行ったのだが。
 もう店については教えることもないだろう。
 正直この香霖堂は雑貨屋な上にマジックアイテムなどでもない限り彼女のほうが品物の扱いを心得ているのである。
 だから今日は特別な仕事を与えようと思う。

「お使いを頼めるかい?」

 そういうと霖はキョトンとした顔をした。
「私でも行ける場所でしょうか?いかんせん土地勘がありませんし」
 博麗神社と香霖堂しか行ってない彼女には仕方のないことだ。
 今回のお使いというのもさほど難しいものではないだろうとは思うが・・・・・・
 朝食を終え、自分用にお茶を注ぎ始めた彼女に僕はお使いを言い渡す。
「魔法の森を抜けたところに霧の湖という場所がある、そこまで行ってきてくれないかな?」
「湖ですか? えっと何をすれば? 水でも汲んでくればよろしいので?」
 まぁそうだろう。
 湖に行けと言われて何をすればいいのかと考えればそういう答えが出るものだ。
「いや。魔理沙がうちが手伝いを雇ったって言い回ったらしくてね」
 広告を回すという意味では良かったが・・・・・・。
 確かに集客が見込まれるのなら嬉しいが霖が危険になる可能性は考えていないのだろうか?
 妖怪にも聞こえていたなら狙われるだろうに。
 そんな考えは知る由もなく霖は目を輝かせていた。
「私を幻想に染めるために協力してくださっているのですね・・・・・・魔理沙さん」
 感無量といった感じだ。
 魔理沙はおもしろ半分でやっていそうなものだが。
「その話を聞いたうちの常連客が物の配送を依頼してきてね。ぜひ君に頼みたいそうだ」
 依頼主はあの紅魔館のメイド長。
 今回は茶葉。本来なら彼女一人で里に下りて買えるだろうに。
 まぁ彼女目当てなのだろう。
 魔理沙はおそらく外の世界の人間だということも言いふらしていそうだ。
「常連客のお方ですか・・・・・・粗相のないようにしないと」
 笑顔から一転難しい顔をする。
 自意識過剰なのだろうか、彼女は霊夢や魔理沙といる時よりも感情を見せてくれる。
 信頼してくれているからだろうと思うが。
「そこまで緊張することはないだろう。彼女は幻想郷の中では常識のある方だよ」
 しっかり代金を払うあたり。
 そういえば霊夢や魔理沙の持ち去り癖を話したら霖は目を丸くしていたな。
 あんな常識のある方達がそんなことするはずがない――――だったか。
 あの二人に聞かせてやりたいものだ。
 そうすれば多少なりとも改善が見られるとだろう。
「えっとその方は妖怪なのですか? だとすると妖怪に会うのは初めてかと」
「君は一度宵闇の妖怪に出会っているけどね。ちなみに彼女は人間だよ。心配しなくていい」
 あぁそうでした、と手をたたく。
 あの時は妖怪の存在すら疑っていたわけだから仕方がないと言えばそうなるが。
 今にして思えばあの時彼女は食べられていた可能性が高い。
「そうでしたか。了解いたしました。でしたらそのお仕事やらせていただきます」
 立ち上がり茶碗と湯呑を片付ける。
 僕が指定した茶葉を手に取り茶筒に入れる。
 客に売る時用のそこそこ立派な茶筒。
 一番立派なものでない辺り仕事がわかっている。
 立派なもの過ぎると客は引いてしまう。
 貧相すぎると店の評は落ちてしまう。
 それがわかるのは彼女が外の世界で少しでも店を営んでいたからだろう。
「魔法の森は妖怪や妖精も出るだろう。用心してくれ」
 そういうと霖は懐から一枚の札を出す。
「霊夢さんの話だとこのお札を見せびらかしていれば大丈夫だそうですが・・・・・・」
 彼女が持っているのは霊夢の霊撃札だった。
 まぁ魔法の森にいる妖怪や妖精には霊夢の恐ろしさは伝わっているだろう。
 飢えた妖怪、それも相当に常識のないやつでもない限りは襲わないはずだ。
 妖精に至っては警戒心が強いだろうし大丈夫だろう。
 
 ――――――妖精?

 僕の中で『ある妖精』が浮かんだ。
 あの妖精には霊撃札の脅しは通用しないだろう。
 故に伝えねばならない。
 あの湖にいる普通ではないあの妖精を。
「霖。魔法の森の道中は安心かもしれないが霧の湖についたら気を付けてくれ」
 僕の言葉に本気の色を感じ取ったのか固い顔をする。
「危険な妖怪がいるのでしょうか?」
 危険。確かに危険だ。あの妖精には脅しは通用しないから。
「あぁ。だから注意してくれ。霧の湖に住む氷の妖精、」
 一区切りしてはっきりとその名前を伝える。
「チルノには。彼女には交渉は通用しない」
 彼女は話を聞きはしないだろう。
 脅しも聞きはしないだろう。
 何故なら・・・・・・理解してくれないからだ。




 ◆
 一人で香霖堂の外に出るのは初めてのことだ。
 霊夢さんに連れられて博麗神社に。
 魔理沙さんの箒に乗って魔法の森を見下ろしたけれど。
 自分の足だけで魔法の森を歩くのは初めてのこと。
 森は昼間なのに薄暗い。そして人気が全くない。
 正直怖かったがこれは仕事だ。こなさねばならない。
 とりあえずこれから向かう先のこと、会うお客様のことを考えよう。
 このまま川沿いに歩いて行けば着くらしい霧の湖。
 その名の通り常に霧に包まれた湖らしい。
 外の世界じゃあり得ないことだ。
 その辺がやはり幻想郷たる所以だろう。
 大きさはあまり大きくないらしいけれど妖精住んでいて島があるらしい。
 そして会うお客様はその島にあるお屋敷の方だそうだ。
 名前は確か十六夜咲夜様。
 なんでもそのお屋敷でメイドをしているのだとか。
 香霖堂を贔屓にしてくださるらしいため失礼はできない。
 想像してみるがあまりうまく浮かばない。
 メイド、というもの自体見たことがないのも理由の一つだろう。
 でも幻想郷の方々を考える、ということが私にはまだできない。
 まだ幻想郷に対する知識が少なすぎるからだ。
 事実魔理沙さんの姿は意表を突かれたし(典型的な魔法使いの姿は印象が強かった)、
 霊夢さんの巫女服も僕の知る巫女様の服とは大分趣が違った。
 巫女服については森近さんが作ったらしいのだけど・・・・・・。
 あそこまで薄着にする理由があったのだろうか?
 まぁそこは幻想郷の理屈があるのかも知れない。
 森近さんの話では五行などの知識も必要なのだと言っていたし。
 そうこう考えていると一軒の家が見えてきた。
 誰かいるだろうかと近づいてみると扉が開いて
「霖じゃないか。こんなとこでどうしたんだぜ?」
 魔理沙さんが出てきた。その手には大量のキノコがある。
「ここ、魔理沙さんのお宅なんですか?」
 尋ねると魔理沙さんは手をあげて答えてくれた。キノコが落ちる。
「あぁ。それよりどっかにいくとこなのか?」
「えぇ。えっと、霧の湖はこっちでいいんでしょうか?」
 森の奥を指さす。すると魔理沙さんはニカリと笑って、
「あぁ。でもどうして湖に行くんだ? 何か用事でもあるのかよ?」
 私に近付いてきた。
 その顔は『おもしろそうなものを見つけた』といった顔。
「森近さんに頼まれまして品物の配達です。茶葉なんですが」
 心当たりがあるように魔理沙さんは頷く。
「宣伝効果ありってことだな。恐らく相手はレミリアか咲夜だろ?」
「お知り合いなのですか?」
「前に一騒動あってな。それからの縁だぜ」
 キノコを置いて(地面にだけど)腕を組む魔理沙さん。
 あまりいい関係ではないのだろうか?
 そう訊ねてみると、
「いや? あいつらはそんな悪いやつらじゃないぜ? しっかり反省したし」
 それを聞いて少し安心した。
 常連客だと言っていたけれど恐れていたのも事実だったからだ。
「正午が約束の時間ですので失礼しますね。そろそろ行かないと」
 そういうと魔理沙さんは了解して見送ってくれた。


「あなたが雇われたお手伝いさん?」
 私が森を抜けて霧の湖に着くと声が聞こえた。
 どこかと思って辺りを見回すと、
 目の前がぶれて女性が現れた。
 どうやって現れたのか。
 何かの能力なんだろうか?よくわからないけれど。
 言い方は悪いけれども霊夢さん達よりも大人な女性だ。
 青を基調とした服、これがメイド服か――――を着ている。
「はい。『霖』と申します。貴女が十六夜咲夜様ですか?」
 目の前の女性はニコリと笑うと
「えぇ。私が紅魔館でメイド長をしている十六夜咲夜よ。咲夜でいいわ」
 と自己紹介をしてくれた。
 少し怖い印象があるもののしっかりとした人に見える。
「咲夜様、頼まれた品物です。紅茶の茶葉をお一つですね」
 咲夜様は茶筒を手に取り蓋を開け、香りを嗅ぐ。
「これならお嬢様も喜ばれるでしょう。ありがとう霖」
 茶筒の代わりに布袋を渡してくれた。
 お金だろう。金属の音がした。
「ありがとうございます。以後も香霖堂を御贔屓にお願いします」
 と笑顔を返すと咲夜様は怪訝な顔をした。
「どうかいたしましたか?」
「いえ。あの香霖堂の店主さんとは大分違う方だったものだから」
 そういうと私のことを上から下へと眺めて、
「あなた外の人間なのでしょう? 外では何を?」
 どういう意図の質問だろうか?単なる興味だろうか?
「えっと、祖父と骨董品を扱っておりました。商いの術はそこで学びました」
 商いの術、なんて古臭い言葉が出た。
 時折祖父の言葉が移って古い言い方をしてしまう。
「炊事や洗濯の管理はあなたが?」
「えぇ一応は。人並みとも言い難い内容ではありますが・・・・・・」
 そう、と言うと咲夜さんは踵を返して
「わかったわ。とりあえずまた今度お話しましょう。それではまた」
 とまた目の前がぶれると咲夜様は消えてしまった。
 あっという間だったがこれでよかったのだろうか?
 とりあえず代金はもらったので帰ることにしよう。
 

 
 そう考えていると霧の向こうから何かが飛んできた。
 避けられたのは奇跡としか言いようがなかった。
 気づいて真後ろに倒れると目の前にあるものが突き刺さっていた。

 氷柱だろうか?
 にしては大きすぎる。私の座高くらいある巨大な氷の柱。
 それが急に飛んできたのだった。
 何事かと慌てていると飛んできた方向から人影が見えた。
 出てきた人影は私よりも小さく。
 さきほどの氷柱のようなものが背中に6本浮いていた。
 彼女は手を腰に当てふんぞり返って


「ここを通りたければ通行料を払え!」
 と言い切った。

「私今から反対側に帰るところなんですが・・・・・・」

「――――え?」
 微妙な空気が流れる。
 何と言えばいいのだろうか。
 格好つけたつもりなのだろうけど完全に空回りしてしまっていた。
「えっとこの先に用事があるんじゃないの?」
 女の子は不思議そうに聞いてくる。
「用事はたった今済ませたところでして。後は帰るだけなのですけど」
 気まずいなぁ。
「うぅ。せっかくかっこよく出てこれたのに」
「不意打ちで一撃は格好いいとは言い難いと思いますが・・・・・・」
 ううと唸る彼女はプカプカと浮いていた。
 これが妖精というものなんだろうか?
 とりあえず苦悩している彼女を見つつ懐からお札を取り出す。
 霊夢さんからもらった霊撃札。
 魔法の森を通ってきた時は妖怪や妖精が出てこなかった。
 霊夢さんの話だと弱い妖精なら怯えて出てこないらしいけど。
 そう考えるとこの子は強い妖精なんだろうか?
「だって館のメイドと話してたじゃん! だから邪魔してやろうと思ったのに!」
「咲夜様ですか?えっとあの方はお客様なのですけど」
 私の言葉にキョトンとする妖精さん。
「お客様? お客様・・・・・・?あぁ、お客様!」
 何か考えることがあったようで思い出したようにパッとした顔になる。
「あたい知ってる! あそこのメイドは時々森の向こうから変なもの買ってくる!」
 変なものってまさか香霖堂の品物のことじゃないだろうか?
「たしか前に亀の甲羅を買ってきてた! こーちんどーってとこだった!」
 ビンゴでした。
 しかし亀の甲羅って・・・・・・森近さんも変わったものを集めたものだ。
「正しくは香霖堂です。私はそこで居候をしているものです」
「ふーん・・・・・・あ! 魔理沙が言いふらしてたやつか!」
 嬉しそうにクルクルと回る。
 テンションの高い妖精さんだな。ものすこく元気だ。
 と考えていると妖精さんはこちらを見て、
「なら弾幕ごっこで勝負だ!」
 とこちらに手をかざす。
 すると一直線に大量の氷柱が飛んでくる。
 慌てて後ろに下がると、
「逃げるなんてひきょーもののすることだぞ!」
 と怒ってきた。
 弾幕ごっこって避けるものだった気がするのですけど。
「私は弾幕を作れないんです! だから弾幕ごっこはできません!」
 と言い切ると妖精はまたもキョトンとした顔をした。
「え?だって館のメイドと勝負してたんじゃないの?だから邪魔しに行ったのに」
「いえだから咲夜様はお客様で・・・・・・」
 話が一周してる。話を全く理解されてない。
 頭が良くない、というよりはその場の勢いで動いているのだろう。
 妖精はまた少し考えるとうぅと唸って、

「もうわけわからない! とりあえず凍っちゃえ!」
 と一枚の札(カードかな?)を取り出す。
 するといきなりものすごい冷気が流れ込んできた。
 それと同時に彼女の左右から大量の氷柱が私目がけて飛んでくる。
 私はとりあえず話をしなければと彼女に近づいていった。
 もちろん避ける技術なんてない。
 それに怖がられたらだめだ。
 だから私はまっすぐに歩いていった。
 ただ真っすぐ。彼女の目の前まで。




 ○
 なんだこの人間。
 霊夢や魔理沙とは全然違う感じがする。
 なんかスカスカだ。
 目の前にいるのにうすーい感じがするわ。
 なんだかわからないけど霊夢とかの知り合いみたいだし倒してしまっても大丈夫だ。
 この人間は妖精が仕切る霧の湖に入ってきたんだ。
 あたいが倒しちゃいけない理由がない!
 それに軽く弾を飛ばしてみたけど避け方がヘタクソだ。
 それならこれで十分ね!
 氷符『アイシクルフォールEasy』!
 見事あたいの氷の弾幕はあの人間の方向に飛んでいく。
 さっきの避け方じゃ避けれないはずだ。
 いっぱいの氷柱があの人間を攻撃する。
 するとあの人間は急にあたいの前に近寄ってきた!
 あたいの弾幕が怖くないのか!
 だけど何故か氷柱は人間のほうに飛んでいかないで人間の後ろの方に飛んで行ってしまった。
 もしかしてどこに飛んでいくのかわかってるのか!
 なんて考えていると人間はあたいの方を見て、
「霧の湖の氷の妖精・・・あなたもしかして」
 なんか思いついたみたいが、そんなことさせるか!
 弾幕の数を増やす。でも人間には当たらない。
 あたいと人間の周りに氷柱でカーテンができている中人間は言った。


「あなたはチルノ様ですか?」


 ――――え?
 今人間はなんて言った?
 チルノ様? 様!
 あたいを様付で呼んだ!
「えっと違いましたか?森近さんからチルノには気をつけろと言われましたので」
 森近って言えば・・・・・・あの変な物を扱ってる店の店主だ!
 あの店主は魔理沙よりすごいって誰かが言ってた。(※知識的な意味です)
 その店主があたいを怖がってるんだ。
 ってことはあたいは魔理沙よりすごいんだ!
 あたいは弾幕を止めて人間の前に行く。
「そう! あたいが氷の妖精チルノだ!」
 えっへんといばってみせる。
 すると人間はあたいに興味があるみたいで
「あなたがチルノ様ですか。森近さんには危険だと言われていたもののお会いしたいとおもっていましたよ」
 あたいに会いたかったなんて・・・・・・なんて変わった人間だろ?
「あんた名前は? このチルノ様が直々に聞いてやろう」
 すこし偉ぶっても大丈夫そうだ。
 だってあたいの方が強いんだし。
「申し遅れました。『霖』と申します。以後よろしくチルノ様」
 ながめ?何が長いんだろ?
 まぁそんなのはどうでもいいや。
 でもやっぱり様付けで呼ばれると嬉しい。
「しかしすごい弾幕でしたね。私初めて見ましたよ」
 笑顔でながめはそう言った。
 あたいの弾幕はそんなすごいのか!
「そうか?あたいの弾幕はそんなすごいか?」
 そういうとながめはニコニコとした顔で
「えぇ。私が今まで見た弾幕の中で一番すごくて綺麗でした」
 と言った。(※霖は霊夢からの稽古程度の弾幕しか見たことがありません)
 つまりそれは・・・
「つまりあたいが最強ってことね!」
「いえ、私が見ただけのことで・・・・・・」
「でもすごかったんでしょ?」
「はい・・・・・・氷のカーテンが綺麗で・・・」
 ながめの目がキラキラ輝いていた。
 あたしの弾幕を見入ってくれた。
 それなら!
「よし! ながめをチルノ様の手下1号にしてあげる!」
 えっへんといばってみた。
 するとながめは顔を顰めて、
「手下・・・・・・ですか」
 まぁいいか、と言って頷いた。
 



 ◇
 しかし大丈夫だろうか?
 自分で行かせておいて言うのも難だが心配だ。
 霖が朝方に出かけて今は夕刻。
 そろそろ日も沈んでこようかと言った時間だ。
 さすがにそろそろ帰ってこないとおかしいのだけれど。
 頼んだのは茶葉を届けるだけのはずだ。
 往復するだけならここまで遅くはならないはずだが・・・・・・。
 紅魔館にでも誘われただろうか?
 だとすればこうも遅くなるのも頷ける。
 だがあのメイドがそんなことをするだろうか?
 主の命ともあれば即実行しそうなものだが、あの主もさすがに雇い主の僕に言わずに攫う真似はしまい。
 
 そう考えると・・・・・・妖怪に襲われたのか?
 霊夢の霊撃札を恐れない妖怪のレベルはそうそう現れないと思うんだが。
 名のある妖怪ならば多少なりとも交渉は通用するだろうからそんな容易に人は襲わないはず。
 言い方は悪いが香霖堂の人間だとわかれば手は出さないだろう。
 霊夢や魔理沙と関係があるのがわかりきっているから。
 
 ならそれこそチルノに会ってしまったのだろうか?
 彼女のことだ。霖が商品を渡しているのを見ただけで勘違いの一つでもしそうなものだからな。
 確かに妖精として警戒心が強いという意味では素晴らしいと言えるんだけど。
 彼女は少々理解力に欠けるところがあるからな。
 弾幕を飛ばして霖を攻撃していたのなら・・・・・・
 考えたくもないな。正直避けれるはずもない。
 するといきなり入口のドアが開く。帰ってきたのだろうか。
「よう香霖。森で取れたキノコを・・・・・・ってなんだその残念そうな顔は」
 魔理沙が渋い顔をする。そんな顔をしていただろうか?
 三角帽にキノコを詰め込んで入口で立っている。
 キノコの匂いが店中に広がった。
「足で扉を開けるのはやめてくれと言ってるだろう?」
「両手がふさがってるんだ仕方ないだろ」
 魔理沙はズカズカと中に入ってくると帽子の中のキノコを調理場のザルに開けてドカリと椅子に座った。
「今日はキノコ鍋だぜ」
「そうかい。ありがたいね」
 僕の返事が気に入らなかったか魔理沙はムスッとした顔をして、
「なんだよ。せっかく来てやったってのに」
「食料については嬉しいんだが・・・・・・正直今は気が気でないものでね」
 僕は魔理沙に事情を説明した。
 朝方にお使いを頼んだこと。
 紅魔館からの依頼だったこと。
 その霖がまだ帰ってこないこと。
 それを話すと魔理沙は呆れた顔で僕を見た。
「さすがに過保護過ぎだぜ。確かに心配なのはわかるんだが・・・・・・」
「彼女が弾幕に対する対抗策がないのは事実だろう?」
「まぁそうだけど。あいつのことだ。チルノが来ても笑って対応してそうだぜ」
 確かにそうだが・・・・・・不安でならない。
 過保護とも言われたものの彼女は外の世界の人間だ。
 幻想郷がわからない以上どんな事態になっているかもわからないのだ。
「まぁのんびり待とうぜ? 鍋は来てからでも作るさ」
 というと魔理沙は店の品物を物色し始めた。
 魔理沙は心配していないのだろうか?
 まぁ霖のことを信用しているのかもしれないが。

 そう考えていると入口の扉が開き、
「すみません・・・・・・遅く・・・・・・なりました」
 霖が帰ってきた。
 何があったか息があがっており疲労困憊といった感じだった。
「ほらな? 心配することなかったじゃないか」
 霖の姿を見て魔理沙がニヤリと笑う。
「どう見ても普通の状況じゃないけれどね。お使いは無事終わったかい?」
 僕が声をかけると彼女は慌てて袋を僕に手渡す。
「通貨の基準がわかりませんので正しい額かはわかりかねますけれど・・・・・・」
 袋の中身を確認する。確かに茶葉に見合った額が入っていた。
 そういえば貨幣については教えていなかったな。教える項目が増えたようだ。
「うん。問題ないね。お疲れ様霖。奥で休むといい」
「今日の夕飯はキノコ鍋だぜ」
 というと霖はまた店の外に出て行ってしまった。
 どうしたのだろうか?店の外に何かあるのか?
「えっと霧の湖で森近さんが話していたチルノ様に出会いまして・・・・・・」
 会ってたのか。しかし帰って来ているということは避けたのか?
 だからあんなに疲れているのだろうか?
「色々ありまして・・・・・・これをいただきました」
 と言いながら霖が出したのは奇妙なものだった。
 いや奇妙・・・・・・ではなくわかりづらいものだ。

 それは氷。
 一抱えもある大きな氷でひんやりとした冷気を感じる。
 色は若干青く、普通の氷ではないことが伺える。
 この氷を湖の妖精であるチルノからもらったというのか?
 正直ただの氷にしか見えないのだけれど・・・・・・

「チルノ様曰く『永久氷』だそうです」
 永久氷?
 その言葉と共に僕は自らの能力を使って確かめてみた。
 能力によれば、
 名前は『永久氷』、用途は『物を冷やす』らしいのだけど。
 これでは普通の氷と同じだ。
「見たとこ普通の氷だけど何が違うんだ?」
 魔理沙が不思議な顔をして霖を見る。
 霖は調理場に行くとヤカンを持ってきた。
 中にはお茶用にとお湯がたっぷり入っている。
 すると霖はそれをその氷にかけ始めたではないか。
 ジュゥゥゥゥと言う音と共に白い湯気が上がる。
 何がしたいのかよくわからない。
「ほら? すごいですよね? さすがは氷の妖精様です」
 氷は全く融けていなかった。
 かける前の大きさで冷気を出し続けている。
 いやむしろかけたお湯をも凍らせて体積を増やしている。
「なるほど。絶対に融けず永久にその形を保つ氷、『永久氷』か」
 確かにチルノの力なら不可能ではないだろう。
 妖力を籠めた氷。だから妖力が尽きない限りその形は継続される。
 なんとも便利なものだな。
「チルノ様からもらったのはよかったのですけどこの氷重くて・・・・・・持ってくるのに時間がかかりました」
 霧の湖からここまでこの大きな氷を担いできたのか。
 それならばここまで疲れているのも頷けるというものだ。
 しかしよくあのチルノとそこまで仲良くなれたものだ。
 僕では話が通じず匙を投げるところだが。
 魔理沙もそう思ったようでニヤニヤと笑いながら
「どうやってチルノと仲良くなったんだよ?あいつ人の話なんて聞きゃしないのに」
 と聞き出す。すると霖は微笑んで、
「まぁ色々ありまして、チルノ様の手下一号となりまして。話をしていたらくださいましたよ」
「ふむ。中々に使えそうだね。物の保存に一役買いそうだ」
 それにしても手下一号とは。一体どんなことが起こったのだろうか。
 その辺は鍋をつつきながらでも聞くとしよう。
「んじゃ鍋の用意するから待っててくれよ」
 と魔理沙が調理場の奥に入っていった。
 僕はこの氷を見ながら、
「どこに置こうか・・・・・・冷気を最大限に活かすなら密閉した箱でもあればいいんだけど」
 と呟くと霖はズイと体を近づけてきた。
「それならいいものがありますよ。確かこの辺に・・・・・・」
 と店の品物をガサゴソと探り始めた。
 自分で言うもの難だが探す仕草が似てきたな。僕に。
 と考えているうちに彼女は大きな箱のようなものを取り出してきた。
「香霖堂にはあると思っていたんですけど・・・・・・ほんとにあってびっくりしました」
 木の箱で扉は2つ。上の扉を開けると小さいスペースに鉄柵のようなものが敷いてあり、下が見える。
 下の扉をあけると大きなスペースになっており、物が大量に入るようになっている。
 僕は小物入れ程度に使っていたんだが・・・・・・。
「『初代冷蔵庫』。氷を上の段に載せて下の段を冷やす品物ですね」
 確かにその品物の名前は『冷蔵庫』で用途は『物を冷やして保存する』だったがいまいち使い方がわからなかった品物の一つである。
 なるほど。上に氷を置くことでその冷気を利用するのか。
 確かに融けないこの氷にはピッタリのアイテムだ。
 外の世界の人間様々だな。
「これは写真でしか見たことがなかったのですけど・・・・・・使用方法を知っていてよかった」
 霖はホッと胸を撫で下ろしてした。
 ともかくこれでストーブとは対極の冷やすことのできる物ができたのは収穫だ。
 僕の生活はより一層よくなることだろう。
 僕はその中に一升瓶を一本突っ込んだ。
 
 しかし僕はこの『永久氷』について一つ思うところがあった。
 基本的に永久、というものは存在しない。
 物には限りがありいつかすべては壊れるものだ。
 そう考えるとこの氷にもなにかしらの欠陥があるはずだ。
 まぁ、それについては今考えることでもないだろう。
 何か起こるまで有意義に使わせてもらおう。
 しばらくすると調理場からドタバタと音がして、
「できたぜ! 特製キノコ鍋!」
 調理場から魔理沙が鍋を持ってくる。
 机の上に断熱用の御座を敷き、鍋を置く。
「おいしそうですね! 魔理沙さんありがとうございます!」
 霖は目を輝かせて鍋を見ていた。
 やれやれ。さきほどまで息を切らしていたのに。
 まぁ腹の虫が鳴くのも仕方ないだろう。
「どんどん食べていいぜ。おかわりもあるからな」
 鍋におかわりか。どれだけ持ってきたんだ魔理沙は。
 そう思いながら僕はさきほど『冷蔵庫』に入れた一升瓶を取り出した。
 さほど長い時間を入れていなかったためそこまで冷えてはいなかったが。
 熱い鍋に冷たい酒は不思議と合うものだった。


 ここからは後日談になる。
 この冷蔵庫、重宝していたのだがすぐに使えなくなってしまった。
 何故なら永久氷が融けてしまったからである。
 僕が思っていた懸念の通りの結果だった。
 理由はチルノの体力が尽きたこと。
 遠くにある氷を維持し続けた結果力を使い果たしたのだそうだ。
 湖の大妖精がチルノをかかえて香霖堂に入ってきた時は驚いたものだ。
 疲労によるものだったので店で適当な薬を飲ませて湖に帰した。
 薬の代金は永久氷の使用料でチャラだろう。
 元気になったチルノはまた氷を作ると言い出したが、霖の説得により諦めてくれた。
 また倒れられては困るのだ。
 彼女は霧の湖の妖精を仕切っているのだから。
 まぁ適度に霖との交流を続けてくれれば僕としても霖としても良いことだ。

 この件で彼女が『妖精』について知ったのであれば幸いである。
5作品目です、白麦です。
今回からタイトルを付けてみました。この回から本格的に幻想郷との関わりを持たせていこうと思っております。
そのための①なのですが。わかりづらいですね。
ここからも読めるように軽くあらすじを入れたつもりですがわかりますでしょうか?
今回はチルノが主役・・・だったはずなのに出番少ないですね。なんというかチルノの視点が書きづらくて・・・
咲夜さんも数行だけのチョイ役でしたし。
咲夜さんに関しましては後々紅魔館組として話を作るつもりです。

次に致しましてはこのシリーズではないSSを書こうと思っております。
作品批評をお願いしたします。

楽しんでいただけましたら続きも読んでくださいな。

追記:点や誤字などを少し修正いたしました。コメントによりご指摘ありがとうございます。
白麦
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コメント



0.620簡易評価
2.90たぁ削除
GJ
7.無評価名前が無い程度の能力削除
後書きで毎回のように批評やアドバイスを頼んでるのに、過去に言われたことを直そうとしないのは不思議です。
18.無評価名前が無い程度の能力削除
>立派なもの過ぎると客は引いてしまう。

それが日本の普通の客ならな。
ただ、いいトコのお嬢様(少なくともレミリアは外国籍だわな)のお使いに
「あえて一番より劣るものを出す」のは失礼じゃないかね。
そのへん霖之助あたりが気付きそうなもんだが