00.
『拝啓 咲夜へ
早いもので、貴女が居なくなってから十年が経ちました。そちらは何か変わった事はありましたか?
私はいつもどおりです。朝起きて、診療所を開いて、それが終わったら人里へ買い物に行って、後は眠るだけ。一人は誰にも気を使わないので非常に楽です。そんな事、彼女に言ったら怒られるでしょうけれど。
貴女と出会わなければ--』
溜息を一つついて、そこで書くのをやめる。折りたたんだそれを再び封筒にしまい、引き出しの一番上を開ける。ひんやりと冷たい感触が、木で出来た引き出しから伝わった。
ぐっと背もたれに背を預け、視線を右へと向ける。窓の外では、高い青空に溶け込む様に紅葉がはらはらと舞っていた。窓の直ぐ外に立派な木があるせいで、今私が外を眺める窓は閉じたままになっている。とはいえ、眺めるのが華である紅葉なのだから、別段窓を閉じていることによって不自由が生じる事は無いのだが。
視線を反対の壁へと向ける。壁には満月をモチーフにした時計が掛けられており、コチコチと自らの役割を果たしていた。
その長針と短針は、これから私が一日働き始める時刻の数分前を指している。軽く耳を澄ませば、扉の外から話し声が聞こえてきた。
数分早いが、まあ問題は無いだろう。そう一人呟き、立ち上がる。そして玄関へ向かおうとして──ふと、引き出しをそのままにしていた事に気付く。
何年経っても、うっかりする癖は変わらないらしい。そんな自分に苦笑しながら、踵を返し、引き出しに手をやる。先程まで内容を読み返していた手紙とそれを包んだ封筒が目に入るが、そのままぱたん、と引き出しを閉め、今度こそ玄関へと向かう。
あの手紙を出すのは、数日後の事だ。薄情かもしれないが、今は仕事に集中しよう。きっと彼女も、そうしなさいと言うに違いないから。
長針と短針が、頂点で重なる。
そうして、今日もまた、私──鈴仙・優曇華院・イナバの一日が始まる。
01.
珍しく今日は開院前に並びながら話をしていた数人以外に、訪問者はいなかった。最も、ここは医療所なのだから、賑わうよりは皆が健康である方が望ましい。経営と言う面ではよろしくないのだが、そんな事は些細な事だろう。患者の為に医者は必要だが、医者の為に患者があってはならないのだから。
最後の患者のカルテを大きい茶封筒に仕舞い、一番下の引き出しにしまう。と同時に、玄関を叩くノックの音がした。
はい、と返事をするよりも早く扉が開く。そこには、青と赤の服に身を包んだ見慣れた姿があった。
「おはよう。いつもの薬よ」
「おはようございます。今、お茶を淹れますね」
じゃあ一杯だけ、そう言って奥のソファへと向かう師匠--いや、今では先生、と呼んでいる。
「早いものね。貴女が居なくなってもう十年だもの」
「追い出したのは先生ですよ。あの時の先生の顔は一生忘れません。ああ怖かった」
「先生……先生、ね」
「この呼び方になってからは、九年ですか」
先生が座っているソファと台所は丁度反対のため、表情は分からない。けれど、その声色で、なんとなしに感情が伝わってくる。きっとまだ先生の方は、吹っ切れていないのだろう。
十年前の、あの日を。
十年間も、あの事を。
あの日、永遠亭を追い出され、先生を師匠と呼べなくなった時の事を。
お茶を二つ、そして都合よく棚にあったお茶受けも一緒に盆に載せ、ソファへと戻る。向かい合う様にして先生の正面に座り、お茶を手渡す。ほんの少しだけ指先と指先が触れ、なんだか懐かしさを覚えてしまう。
互いにお茶を一口。そしてほう、と息を吐く。意外に外は寒いのだろう、私よりも先生の吐く息の方が大きかった。
「経営は順調?」
「はい。患者も少なく、ミスもありません」
それは経営としてはどうなの、と先生に言われるが、どうせ養うは我が身一つだけだ、困りはしない。仮に医者として暮らしていけなくなったら、畑仕事でも教師の手伝いでもやれば良い。
そう付け加えると、苦笑を浮かべられた。それは、一緒にすんでいた頃にはあまり見られなかった物でもあり、こうして違う生活をしてからは度々見られるものであった。何か思う所があるのだろう。
いや、逆か。
思う所しかないのかもしれない。
なにせ、色々ありすぎた。色々な事があって、様々な事があった。
あれ以来私は先生を先生と呼ぶようになったし、先生は私の名前を呼ばなくなった。まさかかつて師匠と呼んでいた事もうどんげと呼ばれていた事もあったが、それも今では過去の事だ。しかし、師弟関係ではなくなってしまい、名称は変わってしまったけれど、今でも尊敬している事には変わりは無かった。まさか尊敬する人物を名前で呼ぶわけにもいかず、気が付いたらこの呼び名で落ち着いていたのだが、これはこれでなかなか、慣れると呼び心地がいいものだ。
そうして今ではこうして人里で独立して診察所を営んでいる私に、その患者への薬を持ってきてくれる関係になった。先生を師事していた時も今も勉強は欠かさず行っているが、やはり薬学の知識ではまだまだ先生の足元にも及ばないのが実情だろう。
やがて暫くの間、沈黙が続いた。
私が永遠亭を、いわば破門と言う形で出てから十年。最初の一年は一回を除いて全く会う事は無かったので、実際の所は九年の間、先生はこうして私の所へ数日に一回、足を運んできてくれている。それは先に挙げた通り、薬の運搬という営業もあるが、その内の何割かは私の顔を見に来てくれているのであろう。少なくとも私はそう思っている。その内情を直接聞いたわけでもないので、実の所は分からないが、唯の一度だって先生以外の者が、例えばてゐ等が薬を持ってきた事は無かった。だから、そういうことなのだろう。
そして私は更に思った。
(恐らく先生は、また提案するんでしょう)
「ねぇ」
地底の主が居たらくすりと笑っているかもしれない。そう思えるほど、私が考えた瞬間と、先生が言葉を発した瞬間が重なった。
先生がことりと湯のみをテーブルに置き、両手を膝の前に。元々しゃんとしている背筋を更に一つ、伸ばした。私より幾らか上からの真っ直ぐな瞳に、十年前の自分ならきっと動揺していたに違いない、と内心苦笑する。
「永遠亭に、戻ってこないかしら?」
「ありがとうございます。でも……それは出来ません」
真っ直ぐに私を射抜く双眸が、少しだけ、揺れる。反対に、私の視線は湯のみの中だ。とはいえ、決して見つめ返せないと言う事ではない。
湯のみから伝わる暖かさに、つい目を細める。湯のみの中に映る私は、微笑んでいるように見えた。
「決して意地を張っているわけではありません。……実は最初の何年かはそうでしたけど。でも、今ではこの方が落ち着いていられるんです。あ、もちろん永遠亭を悪く言うつもりはありません」
「分かってるわよ……だって、昨日も一昨日も、去年も。同じ断り方じゃない」
なんだか悔しいな、と先生が一言呟く。
はて、悔しいとはどう言う事なのだろうか。
「そこまで貴女に想われて。本当に、幸せだったんでしょうね」
湯のみの中の私は、分からない。微かな波紋が、その表情を消してしまっている。泣いては、いないのだろう。けれど、先程の様に笑っているとも、言えなかった。或いは、笑おうとしている最中、なのだろうか。でもそうだとしたら、果たして私は、何に対して笑おうとしているのだろう。まるで取り繕うかのように、何かから逃げる様に。そんな難しい表情を、何の為に?
こんな時、彼女なら。完全で瀟洒な、あの人なら。
素敵で洒落た事を言えるのだろう。そしてひとしきり大人びたことを言って、耳元で甘い言葉を囁いてくれるに違いない。けれど今は--叶わぬ願いでしかない。
「三日後ね。咲夜の命日」
中途半端で曖昧な。あやふやでうやむやな表情が、湯のみの中にはあった。
02.
時を止める事は出来ても、過去にいく事は出来ないのよ。
そう言ってあの人は私に紅茶を淹れてくれた。
こくりと一口含み、喉に滑らせる。茶葉の香りが程よく鼻腔を抜け、たちまち息を吐いてしまう。
そんな顔を見たのか、くすりと彼女は微笑んだ。それに気付き、私は気恥ずくなって、下を向いてしまう。それは、気の抜けたところを見られたと言う事と、それに気付いた彼女の微笑みを真っ直ぐに見られなかった、と言う事と。果たしてどちらかは分からなかったし、存外両方だとも思えたからだ。
このままでは、また彼女のペースになってしまう。偶には、やりかえしたい、と思った。
「あ、あのね!」
「何、突然」
ぱんと机を叩き、勢いよく立ち上がったは良いものの。何も考えていなかったので、次の句が出てこない。代わりに、右手に何かが触れた事に気付く。そして数瞬遅れて、熱さが伝わってくる。
「熱っ!」
「ああ、もう」
どうやら立ち上がった瞬間、紅茶が零れてしまったらしい。音を立てたわけではないので、大した量を零したわけではないが、それでも自分の手とテーブルクロスを幾らか濡らす程度の迷惑は掛けてしまったようだ。そう思った次の瞬間にはテーブルの上にはティーカップは無く、濡れたテーブルクロスも元通りになっていた。
「ほら、手を貸して」
「え、あ、いや、大丈夫だって」
彼女の手が、私の手を掴む。ひんやりとしていて、気持ちが良かった。見ると手にはハンカチが握られている。遅れて、彼女の手の温もりが伝わって来た。彼女の視線は目下私の手とハンカチに集中しており、いつもより近い。ふわりと、彼女の良い匂いがする。
「もう、大丈夫だから」
「そう。ならいいけど」
これ以上密着していると、大丈夫なものも大丈夫でなくなってしまう。勇気の出ない自分に内心呆れながらも、曖昧に笑ってごまかす。
体温で暖まったハンカチを適当に手中で遊ばせて、ふと思いつく。
そうだ、人里だ。
今のお礼も兼ねて、人里へ誘おう。それで、甘味処に寄ろう。また紅茶を淹れてもらうのは悪いし。それにそれは見様によっては--逢引と呼べない事も、ないと思う。
そんな私の誘いに最初は驚きながらも。
「珍しく貴女の方から誘ってくれるなんてね。お嬢様も神社に向かわれるみたいだし、少ししたら行きましょう」
と、賛成してくれた。私の曖昧なものとは違う、瀟洒で大人の微笑みを浮かべながら。そんな彼女の表情に、時間を止められた訳でもないのに、私は固まってしまう。見惚れてしまう。
--ああ、自分は本当にこの人が好きなんだなぁ。
ぼんやりとそんな事を、考える。
だから次の瞬間に、彼女が踵を返した時に。
そのまま重力に従う様に、どさりと地面へ倒れていく彼女の姿に。
何が起きたかも自分は理解出来なかったのだ。
03.
「パチェの奴、今日は体調を崩してねぇ。今日は二人っきりだよ」
紅茶と淹れると共に、友達--レミリアがそう言ってけらけらと笑う。
こう見えてもあの子と会う前は自分の事くらい自分でやっていた、という言葉通り、淹れられた紅茶も彼女手製のクッキーも非常に美味しいと言える。
あの後、それじゃあ私は行くから、と言い、先生は帰っていった。永遠亭に帰ってくるように言われ、私がそれを断る。それを合図にしていつも先生は帰っていくのだ。そしてその後にこうしてレミリアとお茶を飲む所までが、私の日課になっていた。
ほんの少しだけ寒さが長袖を通して伝わってくるとはいえ、天気自体は非常に良い。空を飛んでも良かったのだが、歩いて訪ねることにしたところ、待ちくたびれていたらしく、門の外でお出迎えを受けてしまった。
十年前の、荘厳さと威圧でデコレーションされた紅い館の姿は、今は無い。何でもあの館の面積と体積はあの人が自らの力で造っていたものだった為、必然的にその姿を保てなくなったのだと言う。加えて、数いた妖精メイドは元々館の仕事をする事はあまり無かったので、この際だから元の生活に戻っても良いと言った所、全員が居なくなったのだと言う。有体に言えば解雇とも言えるし、レミリアがむくれるのを承知で言えば、逃げられたとも言える。
更に付け加えると、これまで門番を務めていた美鈴さんもまた、彼女の元を去ったと言う。最もこちらは妖精メイド達の様にあっさりとではなく、丸一日話し合ったそうだ。自由にしなさいと言うレミリアに対して、残りたいと、門番を務めて初めてレミリアの言う事に首を横に振っていた美鈴さんを、レミリアが優しく諭した時の言葉-今まで有難う。これからは自分の世界を見つけなさい-が未だに頭に残っているが、それを彼女の前で言おうものならたちまち機嫌を悪くするので、私の中に留めておく事にしよう。最も、美鈴さん曰く、この幻想郷を一周旅し終えたら、またここに戻ってきたい。お嬢様には内緒ですけれど。そんな事を私に零していた。
そんな訳で、今この家に住んでいるのは、彼女を含めて四人と言う事になる。彼女以外の内訳は、彼女の親友である、パチュリー・ノーレッジ。そしてその使い(だと思う。詳しい立ち位置は知らないので今度訪ねてみよう)の小悪魔さん。そして彼女の妹である、フランドール・スカーレット。
いつもはパチュリーと小悪魔さんを含め四人でお茶を飲む事が多いのだけれど、病気がちなパチュリーに無理はさせられない。また次に来た時に魔法の話をして貰おう。
「後で顔だけでも見ておくよ」
「そうしてくれると嬉しいね」
ところで、フランドールはこの場には居ない。否、いつも居ない。どうやら、というよりはっきりと直接言われるほどに、私は彼女に嫌われていた。その為、彼女とはこうして安らかな一時を過ごした事は無い。
仕方の無い事では、あるけれど。
悪いのは十年前の私で、
あれから十年後の私が、
何か彼女にしてあげられた訳でもないのだから。
それでも、こうして折角訪ねたのだ。無駄を承知で、フランドールの所にも顔を出してみよう。
彼女の部屋はこのリビングの扉を抜け、二階に上がってすぐ左手にある。逆にパチュリーの部屋は廊下の奥-と言っても十年前と違い、距離にして僅か数メートルだが-にある。さくり、とクッキーを食べながら、どちらを先に訪ねようかと少し迷う。
そんな私に気づいたのか気付かないのか、レミリアがテーブルの端にあった葉書を私に渡す。
「そうそう、美鈴から葉書が来てたわよ」
「ん。ありがと」
まるで幻想郷の全てを描きとるかの様に、美鈴さんはこうして時折レミリアに葉書を出していた。元からの才能なのか、彼女の描く風景画が非常に美しく、あの烏天狗が使うカメラとも引けを取らない出来である。
「相変わらず美鈴さんの絵は上手いね」
「その内請求書が来たりしてねぇ。これからは有料です、だなんて。そんな商売もあるでしょう」
「手が広いと言うか何と言うか」
「良いじゃない。両手くらいで収まるほど世界は狭くないでしょう」
「人一人くらいなら収まるんじゃない?」
「収まってくれるの?」
「収まってあげようか」
「嘘だね」
「嘘じゃないわ」
「嘘だよ」
「嘘だけどさ」
テーブルに肘をつきながら、甘い声を出しながら。レミリアが私の方へしな垂れる。受け入れも拒みもせず、ただ右腕だけを前へ差し出す。その私の手の甲を枕にするように、レミリアが頭を乗せる。柔らかさと温もりと僅かな重み。それだけが私の腕に伝わってくる。開いた左手で、ティーカップを傾ける。レミリアがこうなったら、紅茶など淹れてくれない事は経験上分かっているので、何もしない。
何もしない代わりに、その柔らかそうな髪の毛に、触れてみる。閉じられた眼の感情は、分からない。私がこうしてレミリアの髪に触れる時、彼女が眼を開けていた事は無いからだ。けれど、彼女が触らせてくれるのは髪だけで、耳や頬には触れた事が無い。
私がレミリアに収まらない様に、
レミリアも私に撫でられない。
髪と頬の、境界線。
目には見えないボーダーライン。
それが、私達の立ち位置で、お互いの距離感。
ちくりと、胸が痛んだ。痛んだ胸の奥の奥に、誰かが居た。
そんな思いをかき消そうと、レミリアの頬に触れる。髪とは違う質感を持った、けれど形容すれば同じ柔らかさをもった、熱を帯びたその頬を一瞬だけ--触った。
けれど次の瞬間には私の左手は、彼女に捕まっていた。拒絶だとしたらあまりに弱く握られた私の手は、しかし解けない。身を起し、私を正面から捕らえるその瞳の奥は小波の様に揺れていた。きっ、と真一文字に結ばれた口からは言葉は発せられる事は無い。
やがて、レミリアの方から私の手を離した。と同時に、彼女が席を立ち、窓へと向かう。
秋の昼下がり。陽は雲に姿を隠され、紅葉も、どこか物憂げに散っている。
「兎って、寂しいと死ぬんでしょう?」
それは逸話だ、とは言わなかった。
表情は分からないが、背中越しに感情が伝わってくる。
「……吸血鬼はどうなの?」
「一緒よ。兎と一緒」
真後ろで無い分だけ、斜め後ろから見ていた分だけ。それは見えてしまった。
彼女の頬を、雫が伝った。
「兎だって人間だって……吸血鬼だって。寂しくて死んでしまいそうな時が、あるのよ」
九年と三百六十数日の内、一体彼女は何回死へ誘われたのだろうか。多いのだろうか。少ないのだろうか。
それは分からない。分からないけれど。
一つだけ言える事は、私はあの人の代わりにはなれない、と言う事だろう。
04.
どうして彼女なのだろう、と思った。
他にも人間なら幾らでもいるのに。巫女だって魔法使いだって--何だっているのに。
どうして私は彼女を好きになり、
どうして死は彼女を選んだのか。
理由が無い程理不尽な事は無い。
誰も得しないし、納得出来ない。
許されるのならばこの紅い眼を、今この時だけ緑眼にしてしまいたい。
けれど憎んだり妬んだりする時間も惜しくて、だから私は師匠に頼んだ。てゐにも頼んだ。
--お願いします、師匠。あの人を助けてください!
--手術で治せないのならば、薬を使ってください!
--あの人ももっと生きたいはずです! だから……
--蓬莱の薬を、使ってください。
--お願いてゐ、あの人を救って!
--手術も薬も駄目ならばそれしかないでしょう!
--あの人は人間だから、幸せに出来るでしょう……?
--貴女の力を、使ってください。
てゐに侮蔑と哀れみの眼を向けられても。
師匠に殴られ、口の端から血を流しても。
それでも私は懇願した。畳に頭をこすり付けて、顔を涙と血で濡らしながら、それでも私は哀願した。
まだ、何もしていないのだ。
彼女と同じ服を着て、彼女の仕事を手伝って。
休憩時間には私が団子の作り方を教えて、彼女に紅茶の淹れ方を教わるのだ。
私はうっかりする癖があるから、きっと何かしらミスをするのだろう。
その度に彼女に頭を小突かれて、でも数秒後には微笑んでくれる。
二人でこなせば仕事も早く終わるから、ちょっと人里まで買い物に行こう。
何を買うかメモにちゃんと書いて、二人も好物も忘れない様に。
秋の夕方はもう寒いから、寄り添う様に歩くうちに、肩と肩が触れ合うから。
そうしたらぎごちないけれど、手を繋ごう。手を繋いで、手を結ぼう。
私は恥ずかしがって下を向くけれど、彼女はきっといつも通り。でも、少しだけ顔が赤くなる。
特別な事はいらないから、この内の全部が叶わなくてもいいから。
せめて夢を見させてください。
せめて初恋をさせてください。
好きですと言わせてください。
たったそれだけの願いなのに、叶いはしない。
たったこれだけの想いなのに、届きもしない。
「ありがとう」
ああ、どうかそんな事を言わないで。せっかくこんな世界を恨もうとしていたのに。恨めなくなってしまう。妬めなくなってしまう。
05.
廊下に出て、階段を昇りきった瞬間、殺気が私を襲った。
「月兎が昼から何の用?」
「そういう貴女こそ吸血鬼でしょう」
ぷいとそっぽを向く彼女--フランドール。どうやら先程の殺気は彼女の物らしい。相変わらず嫌われてはいるが、こうして会話をしてくれるだけマシなのかもしれない。それに、レミリアの様に、心の底を隠した接し方ばかりされていたら辛くなってしまう。
甘く脆い会話も良いけれど。
辛く強い視線も悪くはない。
廊下の突き当たりには窓があり、遠めに見ても土砂降りの雨が降っている事は想像できる。きっと今夜は冷えるだろう。
結局パチュリーとフランドール、どちらから訪れようか決めていないまま二階へ来てしまったので、これはこれで好都合と言える。とにかくあの場での第一、と言うか絶対優先事項がリビングを出ると言う事だったので、まぁ良いだろう。レミリアの涙を見るのは辛いし、何より本人に一人にしてくれ、と言われたのだから逆らいようが無い。
「お姉様を泣かせたでしょう」
「見てたの?」
「分かるの」
そう言うフランドールの顔が、一瞬だけ綻ぶ。絆、なのかもしれない。だが、次の瞬間には最初のしかめっ面に戻っていた。
「どうしてあんたは泣かないのさ」
「泣いたわよ。たくさん泣いた」
「だから葬式にも来なかった」
「遅れたけど、行ったじゃない」
「あれは! お姉様が直接あんたを連れてきたからでしょう!」
襟元を掴まれ、そのまま右の壁へ叩き付けられる。身長は私の方が高いのだが、お構い無しだった。その視線だけで私を射抜いて殺せそうな程、強く睨まれる。
「お姉様があんたを連れてこなければ、あんたは来る気はなかったんでしょう! どれだけお姉様が辛かったかあんたに分かんの!? お姉様は葬式の間、一回も泣かなかった! 葬式どころか、咲夜が死んだ次の日から、一回だって泣かなかった! でもあんたは何、十年泣けばもうおしまい!? どうして……」
苦しかったが逆らわず耐える。すると、ふと、首にかかる力が緩くなる。そしてフランドールの手は、私の首とネクタイを離れ、空中を彷徨う。殺す程の強い眼差しも消え、私のスカート辺りにまで下がっていた。
「どうして、泣いてるお姉様に、何もしてあげないのさ……」
あの日。十年前、私は唯泣く事しか出来なかった。そんな私を、レミリアは有無も言わさず紅魔館-最もこの時から名前だけになりつつはあったが-に引っ張った。見たくも無い物を見せられる。そう思った私は暴れてでも帰ろうとしたが、喪主を勤めるレミリアの姿を見て、息を呑んだのだ。否、私だけでなく、幻想郷で彼女を良く知る者ならば、誰もがそう思っただろう。
唯粛々と淡々と。口を真一文字に結び、きっ、と真正面を強く見据えたまま、彼女は喪主としての勤めを果たしたのだ。今思えば、あの時の彼女は必死だったのだろう。目一杯水の入ったグラスの様に、ただ水平を保っていたように見えた。少しでも傾けば--何かが琴線に触れてしまったら、きっとグラスから水が溢れてしまう。そんな危うい状態だったのかもしれない。だからこそ真面目に、それこそ感情でブレないように、機械的に。喪主として来訪者に頭を下げ続けたのだ。
そうして十年間零れない様に耐えていたのかもしれない。
けれど、今の私に、泣いている彼女をどうにかする事は出来るのだろうか。
グラスから溢れた水を拭おうにも、溢れさせたのは私自身だ。濡れた手では、水は拭えない。唯、混じるだけだ。混ざり合って溶け合って、重なり合って。それで許されるのだろうか。
……やめよう。これは全て、言い訳だ。
本当は、そんな難しくは無いのだ。唯、勇気が無いだけだ。
「だからあんたは嫌いなのさ。もっと馬鹿なら、お姉様も諦めるのに。そしたら、とっくにぶん殴ってるのに」
「ごめんね」
「謝らないでよ。せっかくあんたの事もっと嫌いになろうと思ってたのに。嫌えなくなっちゃうじゃん」
ぽすん、と軽くお腹を小突かれる。その手を握ろうと思って、かわされた。
「相手が違うでしょ。早く行きなよ」
「ええ」
パチュリーには悪いけれど、今日は引き返そう。リビングに戻ったところで何を言われるかわからないけれど、それでも、何かをしてあげなければならない。
濡れた手だけれど。私のせいだけれど。
十年前あの人の命を救えなかった分、今泣いている人の涙を掬おう。
「ねぇ」
リビングへ向かう階段へ足を踏み出した所で、呼びとめられる。振り返ると、フランドールは笑っていた。ふん、と鼻で笑うような、皮肉っぽい笑みだけれど、私に対してそう言った表情を向けるのは、初めてだった。
土砂降りの雨は勢いを増し、粒から波へと変わりそうな勢いを見せている。息を吸えば、鼻の奥がすっとする様な寒さが伝わる。
こんな時間に泣いたら、さぞかし身体が冷えるだろう。
「あんたにお礼を言うのは癪だけど……ありがと」
「…………あ」
瞬間、フランドールと、突き当たりの窓の間に。
あの人を見た。
完全で、瀟洒で、大人で……優しい言葉。
フランドールの唇と、あの人の唇が、動いた。
フランドールが驚いた表情をする。そうして初めて、自分が泣いている事に気づいた。
駄目だ、泣くなだなんて思ったところで、ぼやけた視界はどうしようもなく、誤魔化せない。
そのまま転げ落ちる様に階段を降り、ノブを捻り、乱暴に扉を開ける。後ろでフランドールが呼んでいる気がするが、止まれない。
正面にレミリアがいる気がした。見えないけれど、確かにそこにいる気がした。
「どうして泣いてるのさ」
動揺を抑え、なんとかひねり出したかのような声。きっと私も似た様な声になるのだろう。だから喋らずそのまま彼女へ突進した。二人して壁へぶつかる。頭を壁にぶつけて痛むが、今はそんな事はどうでもいい。とにかく、こうしていたかった。
「ズルいねぇ。今更……自分が泣きたいからって」
「うん」
「あの子の事、好き?」
「うん」
「私の事は?」
「……うん」
「本当、ズルい。今更……」
背中を、優しく叩かれる。否、叩くというよりも、あやすと言う方が近いのかもしれない。まるで私は母に眠らされる子供の様だった。
吸血鬼だって人間だって兎だって。寂しくて寂しくて泣きたくなるときがあるのだ。
レミリアの温もりに沈み、まどろむ。
そうして薄れゆく意識の中で、一回だけ、窓の外を見あげた。
その窓の向こうの、空の色。土砂降りだった雨は止み、曇り空を透かす様に月光が輝いている。それはまるで鈍色と言うよりは、まるであの人を想わす様な--
(銀色だ……)
月と薄雲の、僅かな隙間。月と闇と雲の、ほんの小さな空間。儚いながらも、確かに見える。
その名と同じ、月齢28.9の光。
恐らく私はこのまま、眠ってしまうだろう。そうして眠ってしまって、次の日になったら、五人で朝食を取ろう。最近料理を始めたフランドールと私とレミリア三人で作るのだ。意外にパチュリーは料理が下手だから、仲間外れにされて不機嫌になるに違いない。そこに追い討ちを掛ける様にレミリアにからかわれて、きっと顔を赤くするのだ。そんな光景も、悪くない。
そして、家に帰ったら。手紙を書きなおそう。
伝えたい言葉が増えたから。
書きたい内容が増えたから。
届けたい想いが増えたから。
失くした物が大きすぎて、諦めきれずにいたけれど、歩いてゆこう。
手を取り合って、重なって。この幻想郷で生きてゆこう。
『拝啓 咲夜へ
早いもので、この手紙も今年で十枚目となりました。そちらは去年と変わりはありませんか?
今年の異変は、二回でした。どちらもこの幻想郷に新しく来た者達の仕業であり、すぐに二人の巫女や魔理沙によって解決されました。相変わらず飲んで騒いで弾幕を張って……そんなのんびりとした世界です。
そうそう、変わった事と言えば、フランドールが料理に挑戦し始めましたよ。今はまだ簡単な物しか出来ないけれど、素質はあるみたいです。貴方の腕前になるのには、いつの日になるか、楽しみです。
彼女も──』
『拝啓 咲夜へ
早いもので、貴女が居なくなってから十年が経ちました。そちらは何か変わった事はありましたか?
私はいつもどおりです。朝起きて、診療所を開いて、それが終わったら人里へ買い物に行って、後は眠るだけ。一人は誰にも気を使わないので非常に楽です。そんな事、彼女に言ったら怒られるでしょうけれど。
貴女と出会わなければ--』
溜息を一つついて、そこで書くのをやめる。折りたたんだそれを再び封筒にしまい、引き出しの一番上を開ける。ひんやりと冷たい感触が、木で出来た引き出しから伝わった。
ぐっと背もたれに背を預け、視線を右へと向ける。窓の外では、高い青空に溶け込む様に紅葉がはらはらと舞っていた。窓の直ぐ外に立派な木があるせいで、今私が外を眺める窓は閉じたままになっている。とはいえ、眺めるのが華である紅葉なのだから、別段窓を閉じていることによって不自由が生じる事は無いのだが。
視線を反対の壁へと向ける。壁には満月をモチーフにした時計が掛けられており、コチコチと自らの役割を果たしていた。
その長針と短針は、これから私が一日働き始める時刻の数分前を指している。軽く耳を澄ませば、扉の外から話し声が聞こえてきた。
数分早いが、まあ問題は無いだろう。そう一人呟き、立ち上がる。そして玄関へ向かおうとして──ふと、引き出しをそのままにしていた事に気付く。
何年経っても、うっかりする癖は変わらないらしい。そんな自分に苦笑しながら、踵を返し、引き出しに手をやる。先程まで内容を読み返していた手紙とそれを包んだ封筒が目に入るが、そのままぱたん、と引き出しを閉め、今度こそ玄関へと向かう。
あの手紙を出すのは、数日後の事だ。薄情かもしれないが、今は仕事に集中しよう。きっと彼女も、そうしなさいと言うに違いないから。
長針と短針が、頂点で重なる。
そうして、今日もまた、私──鈴仙・優曇華院・イナバの一日が始まる。
01.
珍しく今日は開院前に並びながら話をしていた数人以外に、訪問者はいなかった。最も、ここは医療所なのだから、賑わうよりは皆が健康である方が望ましい。経営と言う面ではよろしくないのだが、そんな事は些細な事だろう。患者の為に医者は必要だが、医者の為に患者があってはならないのだから。
最後の患者のカルテを大きい茶封筒に仕舞い、一番下の引き出しにしまう。と同時に、玄関を叩くノックの音がした。
はい、と返事をするよりも早く扉が開く。そこには、青と赤の服に身を包んだ見慣れた姿があった。
「おはよう。いつもの薬よ」
「おはようございます。今、お茶を淹れますね」
じゃあ一杯だけ、そう言って奥のソファへと向かう師匠--いや、今では先生、と呼んでいる。
「早いものね。貴女が居なくなってもう十年だもの」
「追い出したのは先生ですよ。あの時の先生の顔は一生忘れません。ああ怖かった」
「先生……先生、ね」
「この呼び方になってからは、九年ですか」
先生が座っているソファと台所は丁度反対のため、表情は分からない。けれど、その声色で、なんとなしに感情が伝わってくる。きっとまだ先生の方は、吹っ切れていないのだろう。
十年前の、あの日を。
十年間も、あの事を。
あの日、永遠亭を追い出され、先生を師匠と呼べなくなった時の事を。
お茶を二つ、そして都合よく棚にあったお茶受けも一緒に盆に載せ、ソファへと戻る。向かい合う様にして先生の正面に座り、お茶を手渡す。ほんの少しだけ指先と指先が触れ、なんだか懐かしさを覚えてしまう。
互いにお茶を一口。そしてほう、と息を吐く。意外に外は寒いのだろう、私よりも先生の吐く息の方が大きかった。
「経営は順調?」
「はい。患者も少なく、ミスもありません」
それは経営としてはどうなの、と先生に言われるが、どうせ養うは我が身一つだけだ、困りはしない。仮に医者として暮らしていけなくなったら、畑仕事でも教師の手伝いでもやれば良い。
そう付け加えると、苦笑を浮かべられた。それは、一緒にすんでいた頃にはあまり見られなかった物でもあり、こうして違う生活をしてからは度々見られるものであった。何か思う所があるのだろう。
いや、逆か。
思う所しかないのかもしれない。
なにせ、色々ありすぎた。色々な事があって、様々な事があった。
あれ以来私は先生を先生と呼ぶようになったし、先生は私の名前を呼ばなくなった。まさかかつて師匠と呼んでいた事もうどんげと呼ばれていた事もあったが、それも今では過去の事だ。しかし、師弟関係ではなくなってしまい、名称は変わってしまったけれど、今でも尊敬している事には変わりは無かった。まさか尊敬する人物を名前で呼ぶわけにもいかず、気が付いたらこの呼び名で落ち着いていたのだが、これはこれでなかなか、慣れると呼び心地がいいものだ。
そうして今ではこうして人里で独立して診察所を営んでいる私に、その患者への薬を持ってきてくれる関係になった。先生を師事していた時も今も勉強は欠かさず行っているが、やはり薬学の知識ではまだまだ先生の足元にも及ばないのが実情だろう。
やがて暫くの間、沈黙が続いた。
私が永遠亭を、いわば破門と言う形で出てから十年。最初の一年は一回を除いて全く会う事は無かったので、実際の所は九年の間、先生はこうして私の所へ数日に一回、足を運んできてくれている。それは先に挙げた通り、薬の運搬という営業もあるが、その内の何割かは私の顔を見に来てくれているのであろう。少なくとも私はそう思っている。その内情を直接聞いたわけでもないので、実の所は分からないが、唯の一度だって先生以外の者が、例えばてゐ等が薬を持ってきた事は無かった。だから、そういうことなのだろう。
そして私は更に思った。
(恐らく先生は、また提案するんでしょう)
「ねぇ」
地底の主が居たらくすりと笑っているかもしれない。そう思えるほど、私が考えた瞬間と、先生が言葉を発した瞬間が重なった。
先生がことりと湯のみをテーブルに置き、両手を膝の前に。元々しゃんとしている背筋を更に一つ、伸ばした。私より幾らか上からの真っ直ぐな瞳に、十年前の自分ならきっと動揺していたに違いない、と内心苦笑する。
「永遠亭に、戻ってこないかしら?」
「ありがとうございます。でも……それは出来ません」
真っ直ぐに私を射抜く双眸が、少しだけ、揺れる。反対に、私の視線は湯のみの中だ。とはいえ、決して見つめ返せないと言う事ではない。
湯のみから伝わる暖かさに、つい目を細める。湯のみの中に映る私は、微笑んでいるように見えた。
「決して意地を張っているわけではありません。……実は最初の何年かはそうでしたけど。でも、今ではこの方が落ち着いていられるんです。あ、もちろん永遠亭を悪く言うつもりはありません」
「分かってるわよ……だって、昨日も一昨日も、去年も。同じ断り方じゃない」
なんだか悔しいな、と先生が一言呟く。
はて、悔しいとはどう言う事なのだろうか。
「そこまで貴女に想われて。本当に、幸せだったんでしょうね」
湯のみの中の私は、分からない。微かな波紋が、その表情を消してしまっている。泣いては、いないのだろう。けれど、先程の様に笑っているとも、言えなかった。或いは、笑おうとしている最中、なのだろうか。でもそうだとしたら、果たして私は、何に対して笑おうとしているのだろう。まるで取り繕うかのように、何かから逃げる様に。そんな難しい表情を、何の為に?
こんな時、彼女なら。完全で瀟洒な、あの人なら。
素敵で洒落た事を言えるのだろう。そしてひとしきり大人びたことを言って、耳元で甘い言葉を囁いてくれるに違いない。けれど今は--叶わぬ願いでしかない。
「三日後ね。咲夜の命日」
中途半端で曖昧な。あやふやでうやむやな表情が、湯のみの中にはあった。
02.
時を止める事は出来ても、過去にいく事は出来ないのよ。
そう言ってあの人は私に紅茶を淹れてくれた。
こくりと一口含み、喉に滑らせる。茶葉の香りが程よく鼻腔を抜け、たちまち息を吐いてしまう。
そんな顔を見たのか、くすりと彼女は微笑んだ。それに気付き、私は気恥ずくなって、下を向いてしまう。それは、気の抜けたところを見られたと言う事と、それに気付いた彼女の微笑みを真っ直ぐに見られなかった、と言う事と。果たしてどちらかは分からなかったし、存外両方だとも思えたからだ。
このままでは、また彼女のペースになってしまう。偶には、やりかえしたい、と思った。
「あ、あのね!」
「何、突然」
ぱんと机を叩き、勢いよく立ち上がったは良いものの。何も考えていなかったので、次の句が出てこない。代わりに、右手に何かが触れた事に気付く。そして数瞬遅れて、熱さが伝わってくる。
「熱っ!」
「ああ、もう」
どうやら立ち上がった瞬間、紅茶が零れてしまったらしい。音を立てたわけではないので、大した量を零したわけではないが、それでも自分の手とテーブルクロスを幾らか濡らす程度の迷惑は掛けてしまったようだ。そう思った次の瞬間にはテーブルの上にはティーカップは無く、濡れたテーブルクロスも元通りになっていた。
「ほら、手を貸して」
「え、あ、いや、大丈夫だって」
彼女の手が、私の手を掴む。ひんやりとしていて、気持ちが良かった。見ると手にはハンカチが握られている。遅れて、彼女の手の温もりが伝わって来た。彼女の視線は目下私の手とハンカチに集中しており、いつもより近い。ふわりと、彼女の良い匂いがする。
「もう、大丈夫だから」
「そう。ならいいけど」
これ以上密着していると、大丈夫なものも大丈夫でなくなってしまう。勇気の出ない自分に内心呆れながらも、曖昧に笑ってごまかす。
体温で暖まったハンカチを適当に手中で遊ばせて、ふと思いつく。
そうだ、人里だ。
今のお礼も兼ねて、人里へ誘おう。それで、甘味処に寄ろう。また紅茶を淹れてもらうのは悪いし。それにそれは見様によっては--逢引と呼べない事も、ないと思う。
そんな私の誘いに最初は驚きながらも。
「珍しく貴女の方から誘ってくれるなんてね。お嬢様も神社に向かわれるみたいだし、少ししたら行きましょう」
と、賛成してくれた。私の曖昧なものとは違う、瀟洒で大人の微笑みを浮かべながら。そんな彼女の表情に、時間を止められた訳でもないのに、私は固まってしまう。見惚れてしまう。
--ああ、自分は本当にこの人が好きなんだなぁ。
ぼんやりとそんな事を、考える。
だから次の瞬間に、彼女が踵を返した時に。
そのまま重力に従う様に、どさりと地面へ倒れていく彼女の姿に。
何が起きたかも自分は理解出来なかったのだ。
03.
「パチェの奴、今日は体調を崩してねぇ。今日は二人っきりだよ」
紅茶と淹れると共に、友達--レミリアがそう言ってけらけらと笑う。
こう見えてもあの子と会う前は自分の事くらい自分でやっていた、という言葉通り、淹れられた紅茶も彼女手製のクッキーも非常に美味しいと言える。
あの後、それじゃあ私は行くから、と言い、先生は帰っていった。永遠亭に帰ってくるように言われ、私がそれを断る。それを合図にしていつも先生は帰っていくのだ。そしてその後にこうしてレミリアとお茶を飲む所までが、私の日課になっていた。
ほんの少しだけ寒さが長袖を通して伝わってくるとはいえ、天気自体は非常に良い。空を飛んでも良かったのだが、歩いて訪ねることにしたところ、待ちくたびれていたらしく、門の外でお出迎えを受けてしまった。
十年前の、荘厳さと威圧でデコレーションされた紅い館の姿は、今は無い。何でもあの館の面積と体積はあの人が自らの力で造っていたものだった為、必然的にその姿を保てなくなったのだと言う。加えて、数いた妖精メイドは元々館の仕事をする事はあまり無かったので、この際だから元の生活に戻っても良いと言った所、全員が居なくなったのだと言う。有体に言えば解雇とも言えるし、レミリアがむくれるのを承知で言えば、逃げられたとも言える。
更に付け加えると、これまで門番を務めていた美鈴さんもまた、彼女の元を去ったと言う。最もこちらは妖精メイド達の様にあっさりとではなく、丸一日話し合ったそうだ。自由にしなさいと言うレミリアに対して、残りたいと、門番を務めて初めてレミリアの言う事に首を横に振っていた美鈴さんを、レミリアが優しく諭した時の言葉-今まで有難う。これからは自分の世界を見つけなさい-が未だに頭に残っているが、それを彼女の前で言おうものならたちまち機嫌を悪くするので、私の中に留めておく事にしよう。最も、美鈴さん曰く、この幻想郷を一周旅し終えたら、またここに戻ってきたい。お嬢様には内緒ですけれど。そんな事を私に零していた。
そんな訳で、今この家に住んでいるのは、彼女を含めて四人と言う事になる。彼女以外の内訳は、彼女の親友である、パチュリー・ノーレッジ。そしてその使い(だと思う。詳しい立ち位置は知らないので今度訪ねてみよう)の小悪魔さん。そして彼女の妹である、フランドール・スカーレット。
いつもはパチュリーと小悪魔さんを含め四人でお茶を飲む事が多いのだけれど、病気がちなパチュリーに無理はさせられない。また次に来た時に魔法の話をして貰おう。
「後で顔だけでも見ておくよ」
「そうしてくれると嬉しいね」
ところで、フランドールはこの場には居ない。否、いつも居ない。どうやら、というよりはっきりと直接言われるほどに、私は彼女に嫌われていた。その為、彼女とはこうして安らかな一時を過ごした事は無い。
仕方の無い事では、あるけれど。
悪いのは十年前の私で、
あれから十年後の私が、
何か彼女にしてあげられた訳でもないのだから。
それでも、こうして折角訪ねたのだ。無駄を承知で、フランドールの所にも顔を出してみよう。
彼女の部屋はこのリビングの扉を抜け、二階に上がってすぐ左手にある。逆にパチュリーの部屋は廊下の奥-と言っても十年前と違い、距離にして僅か数メートルだが-にある。さくり、とクッキーを食べながら、どちらを先に訪ねようかと少し迷う。
そんな私に気づいたのか気付かないのか、レミリアがテーブルの端にあった葉書を私に渡す。
「そうそう、美鈴から葉書が来てたわよ」
「ん。ありがと」
まるで幻想郷の全てを描きとるかの様に、美鈴さんはこうして時折レミリアに葉書を出していた。元からの才能なのか、彼女の描く風景画が非常に美しく、あの烏天狗が使うカメラとも引けを取らない出来である。
「相変わらず美鈴さんの絵は上手いね」
「その内請求書が来たりしてねぇ。これからは有料です、だなんて。そんな商売もあるでしょう」
「手が広いと言うか何と言うか」
「良いじゃない。両手くらいで収まるほど世界は狭くないでしょう」
「人一人くらいなら収まるんじゃない?」
「収まってくれるの?」
「収まってあげようか」
「嘘だね」
「嘘じゃないわ」
「嘘だよ」
「嘘だけどさ」
テーブルに肘をつきながら、甘い声を出しながら。レミリアが私の方へしな垂れる。受け入れも拒みもせず、ただ右腕だけを前へ差し出す。その私の手の甲を枕にするように、レミリアが頭を乗せる。柔らかさと温もりと僅かな重み。それだけが私の腕に伝わってくる。開いた左手で、ティーカップを傾ける。レミリアがこうなったら、紅茶など淹れてくれない事は経験上分かっているので、何もしない。
何もしない代わりに、その柔らかそうな髪の毛に、触れてみる。閉じられた眼の感情は、分からない。私がこうしてレミリアの髪に触れる時、彼女が眼を開けていた事は無いからだ。けれど、彼女が触らせてくれるのは髪だけで、耳や頬には触れた事が無い。
私がレミリアに収まらない様に、
レミリアも私に撫でられない。
髪と頬の、境界線。
目には見えないボーダーライン。
それが、私達の立ち位置で、お互いの距離感。
ちくりと、胸が痛んだ。痛んだ胸の奥の奥に、誰かが居た。
そんな思いをかき消そうと、レミリアの頬に触れる。髪とは違う質感を持った、けれど形容すれば同じ柔らかさをもった、熱を帯びたその頬を一瞬だけ--触った。
けれど次の瞬間には私の左手は、彼女に捕まっていた。拒絶だとしたらあまりに弱く握られた私の手は、しかし解けない。身を起し、私を正面から捕らえるその瞳の奥は小波の様に揺れていた。きっ、と真一文字に結ばれた口からは言葉は発せられる事は無い。
やがて、レミリアの方から私の手を離した。と同時に、彼女が席を立ち、窓へと向かう。
秋の昼下がり。陽は雲に姿を隠され、紅葉も、どこか物憂げに散っている。
「兎って、寂しいと死ぬんでしょう?」
それは逸話だ、とは言わなかった。
表情は分からないが、背中越しに感情が伝わってくる。
「……吸血鬼はどうなの?」
「一緒よ。兎と一緒」
真後ろで無い分だけ、斜め後ろから見ていた分だけ。それは見えてしまった。
彼女の頬を、雫が伝った。
「兎だって人間だって……吸血鬼だって。寂しくて死んでしまいそうな時が、あるのよ」
九年と三百六十数日の内、一体彼女は何回死へ誘われたのだろうか。多いのだろうか。少ないのだろうか。
それは分からない。分からないけれど。
一つだけ言える事は、私はあの人の代わりにはなれない、と言う事だろう。
04.
どうして彼女なのだろう、と思った。
他にも人間なら幾らでもいるのに。巫女だって魔法使いだって--何だっているのに。
どうして私は彼女を好きになり、
どうして死は彼女を選んだのか。
理由が無い程理不尽な事は無い。
誰も得しないし、納得出来ない。
許されるのならばこの紅い眼を、今この時だけ緑眼にしてしまいたい。
けれど憎んだり妬んだりする時間も惜しくて、だから私は師匠に頼んだ。てゐにも頼んだ。
--お願いします、師匠。あの人を助けてください!
--手術で治せないのならば、薬を使ってください!
--あの人ももっと生きたいはずです! だから……
--蓬莱の薬を、使ってください。
--お願いてゐ、あの人を救って!
--手術も薬も駄目ならばそれしかないでしょう!
--あの人は人間だから、幸せに出来るでしょう……?
--貴女の力を、使ってください。
てゐに侮蔑と哀れみの眼を向けられても。
師匠に殴られ、口の端から血を流しても。
それでも私は懇願した。畳に頭をこすり付けて、顔を涙と血で濡らしながら、それでも私は哀願した。
まだ、何もしていないのだ。
彼女と同じ服を着て、彼女の仕事を手伝って。
休憩時間には私が団子の作り方を教えて、彼女に紅茶の淹れ方を教わるのだ。
私はうっかりする癖があるから、きっと何かしらミスをするのだろう。
その度に彼女に頭を小突かれて、でも数秒後には微笑んでくれる。
二人でこなせば仕事も早く終わるから、ちょっと人里まで買い物に行こう。
何を買うかメモにちゃんと書いて、二人も好物も忘れない様に。
秋の夕方はもう寒いから、寄り添う様に歩くうちに、肩と肩が触れ合うから。
そうしたらぎごちないけれど、手を繋ごう。手を繋いで、手を結ぼう。
私は恥ずかしがって下を向くけれど、彼女はきっといつも通り。でも、少しだけ顔が赤くなる。
特別な事はいらないから、この内の全部が叶わなくてもいいから。
せめて夢を見させてください。
せめて初恋をさせてください。
好きですと言わせてください。
たったそれだけの願いなのに、叶いはしない。
たったこれだけの想いなのに、届きもしない。
「ありがとう」
ああ、どうかそんな事を言わないで。せっかくこんな世界を恨もうとしていたのに。恨めなくなってしまう。妬めなくなってしまう。
05.
廊下に出て、階段を昇りきった瞬間、殺気が私を襲った。
「月兎が昼から何の用?」
「そういう貴女こそ吸血鬼でしょう」
ぷいとそっぽを向く彼女--フランドール。どうやら先程の殺気は彼女の物らしい。相変わらず嫌われてはいるが、こうして会話をしてくれるだけマシなのかもしれない。それに、レミリアの様に、心の底を隠した接し方ばかりされていたら辛くなってしまう。
甘く脆い会話も良いけれど。
辛く強い視線も悪くはない。
廊下の突き当たりには窓があり、遠めに見ても土砂降りの雨が降っている事は想像できる。きっと今夜は冷えるだろう。
結局パチュリーとフランドール、どちらから訪れようか決めていないまま二階へ来てしまったので、これはこれで好都合と言える。とにかくあの場での第一、と言うか絶対優先事項がリビングを出ると言う事だったので、まぁ良いだろう。レミリアの涙を見るのは辛いし、何より本人に一人にしてくれ、と言われたのだから逆らいようが無い。
「お姉様を泣かせたでしょう」
「見てたの?」
「分かるの」
そう言うフランドールの顔が、一瞬だけ綻ぶ。絆、なのかもしれない。だが、次の瞬間には最初のしかめっ面に戻っていた。
「どうしてあんたは泣かないのさ」
「泣いたわよ。たくさん泣いた」
「だから葬式にも来なかった」
「遅れたけど、行ったじゃない」
「あれは! お姉様が直接あんたを連れてきたからでしょう!」
襟元を掴まれ、そのまま右の壁へ叩き付けられる。身長は私の方が高いのだが、お構い無しだった。その視線だけで私を射抜いて殺せそうな程、強く睨まれる。
「お姉様があんたを連れてこなければ、あんたは来る気はなかったんでしょう! どれだけお姉様が辛かったかあんたに分かんの!? お姉様は葬式の間、一回も泣かなかった! 葬式どころか、咲夜が死んだ次の日から、一回だって泣かなかった! でもあんたは何、十年泣けばもうおしまい!? どうして……」
苦しかったが逆らわず耐える。すると、ふと、首にかかる力が緩くなる。そしてフランドールの手は、私の首とネクタイを離れ、空中を彷徨う。殺す程の強い眼差しも消え、私のスカート辺りにまで下がっていた。
「どうして、泣いてるお姉様に、何もしてあげないのさ……」
あの日。十年前、私は唯泣く事しか出来なかった。そんな私を、レミリアは有無も言わさず紅魔館-最もこの時から名前だけになりつつはあったが-に引っ張った。見たくも無い物を見せられる。そう思った私は暴れてでも帰ろうとしたが、喪主を勤めるレミリアの姿を見て、息を呑んだのだ。否、私だけでなく、幻想郷で彼女を良く知る者ならば、誰もがそう思っただろう。
唯粛々と淡々と。口を真一文字に結び、きっ、と真正面を強く見据えたまま、彼女は喪主としての勤めを果たしたのだ。今思えば、あの時の彼女は必死だったのだろう。目一杯水の入ったグラスの様に、ただ水平を保っていたように見えた。少しでも傾けば--何かが琴線に触れてしまったら、きっとグラスから水が溢れてしまう。そんな危うい状態だったのかもしれない。だからこそ真面目に、それこそ感情でブレないように、機械的に。喪主として来訪者に頭を下げ続けたのだ。
そうして十年間零れない様に耐えていたのかもしれない。
けれど、今の私に、泣いている彼女をどうにかする事は出来るのだろうか。
グラスから溢れた水を拭おうにも、溢れさせたのは私自身だ。濡れた手では、水は拭えない。唯、混じるだけだ。混ざり合って溶け合って、重なり合って。それで許されるのだろうか。
……やめよう。これは全て、言い訳だ。
本当は、そんな難しくは無いのだ。唯、勇気が無いだけだ。
「だからあんたは嫌いなのさ。もっと馬鹿なら、お姉様も諦めるのに。そしたら、とっくにぶん殴ってるのに」
「ごめんね」
「謝らないでよ。せっかくあんたの事もっと嫌いになろうと思ってたのに。嫌えなくなっちゃうじゃん」
ぽすん、と軽くお腹を小突かれる。その手を握ろうと思って、かわされた。
「相手が違うでしょ。早く行きなよ」
「ええ」
パチュリーには悪いけれど、今日は引き返そう。リビングに戻ったところで何を言われるかわからないけれど、それでも、何かをしてあげなければならない。
濡れた手だけれど。私のせいだけれど。
十年前あの人の命を救えなかった分、今泣いている人の涙を掬おう。
「ねぇ」
リビングへ向かう階段へ足を踏み出した所で、呼びとめられる。振り返ると、フランドールは笑っていた。ふん、と鼻で笑うような、皮肉っぽい笑みだけれど、私に対してそう言った表情を向けるのは、初めてだった。
土砂降りの雨は勢いを増し、粒から波へと変わりそうな勢いを見せている。息を吸えば、鼻の奥がすっとする様な寒さが伝わる。
こんな時間に泣いたら、さぞかし身体が冷えるだろう。
「あんたにお礼を言うのは癪だけど……ありがと」
「…………あ」
瞬間、フランドールと、突き当たりの窓の間に。
あの人を見た。
完全で、瀟洒で、大人で……優しい言葉。
フランドールの唇と、あの人の唇が、動いた。
フランドールが驚いた表情をする。そうして初めて、自分が泣いている事に気づいた。
駄目だ、泣くなだなんて思ったところで、ぼやけた視界はどうしようもなく、誤魔化せない。
そのまま転げ落ちる様に階段を降り、ノブを捻り、乱暴に扉を開ける。後ろでフランドールが呼んでいる気がするが、止まれない。
正面にレミリアがいる気がした。見えないけれど、確かにそこにいる気がした。
「どうして泣いてるのさ」
動揺を抑え、なんとかひねり出したかのような声。きっと私も似た様な声になるのだろう。だから喋らずそのまま彼女へ突進した。二人して壁へぶつかる。頭を壁にぶつけて痛むが、今はそんな事はどうでもいい。とにかく、こうしていたかった。
「ズルいねぇ。今更……自分が泣きたいからって」
「うん」
「あの子の事、好き?」
「うん」
「私の事は?」
「……うん」
「本当、ズルい。今更……」
背中を、優しく叩かれる。否、叩くというよりも、あやすと言う方が近いのかもしれない。まるで私は母に眠らされる子供の様だった。
吸血鬼だって人間だって兎だって。寂しくて寂しくて泣きたくなるときがあるのだ。
レミリアの温もりに沈み、まどろむ。
そうして薄れゆく意識の中で、一回だけ、窓の外を見あげた。
その窓の向こうの、空の色。土砂降りだった雨は止み、曇り空を透かす様に月光が輝いている。それはまるで鈍色と言うよりは、まるであの人を想わす様な--
(銀色だ……)
月と薄雲の、僅かな隙間。月と闇と雲の、ほんの小さな空間。儚いながらも、確かに見える。
その名と同じ、月齢28.9の光。
恐らく私はこのまま、眠ってしまうだろう。そうして眠ってしまって、次の日になったら、五人で朝食を取ろう。最近料理を始めたフランドールと私とレミリア三人で作るのだ。意外にパチュリーは料理が下手だから、仲間外れにされて不機嫌になるに違いない。そこに追い討ちを掛ける様にレミリアにからかわれて、きっと顔を赤くするのだ。そんな光景も、悪くない。
そして、家に帰ったら。手紙を書きなおそう。
伝えたい言葉が増えたから。
書きたい内容が増えたから。
届けたい想いが増えたから。
失くした物が大きすぎて、諦めきれずにいたけれど、歩いてゆこう。
手を取り合って、重なって。この幻想郷で生きてゆこう。
『拝啓 咲夜へ
早いもので、この手紙も今年で十枚目となりました。そちらは去年と変わりはありませんか?
今年の異変は、二回でした。どちらもこの幻想郷に新しく来た者達の仕業であり、すぐに二人の巫女や魔理沙によって解決されました。相変わらず飲んで騒いで弾幕を張って……そんなのんびりとした世界です。
そうそう、変わった事と言えば、フランドールが料理に挑戦し始めましたよ。今はまだ簡単な物しか出来ないけれど、素質はあるみたいです。貴方の腕前になるのには、いつの日になるか、楽しみです。
彼女も──』
綺麗で、この世の儚さを感じたようです。
散りばめられ過ぎて、少し話が理解できなかった点があったのと、内容が頭に入りにくい点がありましたが、それを除けば、とても近均整のとれた素晴らしいシリアスストーリーだったと思います。
感銘を受けました。