Coolier - 新生・東方創想話

紅美鈴は夜眠る

2009/11/08 01:01:28
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 耳元で何かが風を切るような音がしたので目が覚めた。
 寝ぼけたまま横を見ると門柱にナイフが突き刺さっていた。
 覚醒しきらない頭のせいで状況が飲み込めない。
 きれいに磨かれたナイフの刃が朝日を反射して眩しい。
 このナイフには見覚えがある。いや、見覚えどころかいつも見ているものだ。

 ――ひっ!

 紅美鈴はそこまで考えて飛び上がった。
 毛布を跳ねのけて衣服を整える。
 もちろん今さら取り繕ったところで遅い。
 目の前には腕組みしながらこちらをにらんでいるメイド長の姿があった。

「おはよう。門番さん」

 十六夜咲夜は可愛らしい声に精一杯嫌味を含んで挨拶をしてくる。

「おはようございまふ。咲夜さん」

 寝起きで舌が回らないが言い訳をしなければならない。

「これはですね。小休憩といいますか、うとうとして気付いたら朝だったといいますか。と、とにかく……サボってはいません!」

 無理があった。かえって、咲夜を怒らせてしまった気がする。

「門番のあなたが夜に寝ててどうするのよ!」

「いえ、心配には及びません。寝ていても誰かが近づいてくれば気配でわかりますから」

 ――熟睡していたらダメかもしれないけど。

「本当かしら。頭の横にナイフが突き立つまで起きないのに?」

 ――う、確かに。

 疑いの眼差しを向ける咲夜の手にはしっかりと次のナイフが準備されている。
 咲夜がその気になれば、ゼロ秒後(恐ろしいことにゼロなのだ)には美鈴の額にナイフが届くだろう。

「さ、咲夜さん相手ではしょうがないですよぉ~」

 美鈴が涙目ですがりつくと、咲夜はうっとうしそうに払いのけて、

「もう、しっかりしてよね!」

 ぶつぶつと文句をいいながら館へと戻っていった。
 門柱の側には籠が置いてあった。
 被せてあった白い布を取ると、中にはパンと水筒が入っていた。


 * * *


 昼下がり、天気が良ければ霧に包まれた紅魔館でも気温は上がる。
 吸血鬼でなくてもこの暑さで直射日光を浴びるのはつらい。
 美鈴は塀の影に座り込んで涼をとっていた。
 突然、館の扉が勢いよく開かれる。
 出てきたのは咲夜だった。

「ちょっと、美鈴!」

「な、なんですか」

 また怒っているみたいだ。

「また魔理沙が図書館の本を盗みにきてたのよ。あなた気付かなかったの?」

「あらら、参りましたね」

 そう言いながら、本当は気付いていた。
 二時間くらい前に、ほうきに乗った黒い塊が上空を飛んでいくのを見たのだ。

「『あらら』じゃないわよ。まったく何のための門番だと思っているの?」

「すいません」

 美鈴は苦笑いをするしかない。あきれてため息をつく咲夜。

「ねぇ、咲夜さん。パチュリー様は魔理沙に会えましたか?」

「一戦交えたそうだけど、逃がしてしまったらしいわ。『むきゅー』って悔しがってた」

「そうですか。……じゃあ、良かったじゃないですか」

 美鈴はそう言って咲夜に笑いかけた。
 美鈴の言葉をすぐには計りかねたのか、咲夜は少し黙り込んだ。
 そして「あなたねぇ」と大げさに再度ため息をつく。
 もう咲夜が怒っている様子はなかった。


 * * *


 真夜中、静まり返った紅魔館を背に美鈴は立っていた。
 以前、紅魔館の住人はこれくらいの時間が一番騒がしかったのだ。
 ところが、紅魔異変を起こして巫女と魔法使いに退治されてからというものの、
 すっかり人間基準の規則正しい生活へと変わってしまった。
 昼間に訪ねてくる者も多くなったし、レミリアなどは何かと理由をつけては、
 日傘を咲夜に持たせて神社に遊びに行っている。

 これで良かったのだと思う。
 
 美鈴は腰を下ろすと門柱に背を預けた。
 美鈴はこうしているのが好きだった。ここは美鈴の居場所だった。
 やがて眠気が襲ってくる。
 まどろみの中で、美鈴は自分の体に毛布が掛けられたことに気付いた。
 美鈴に気配も感じさせずこんなことができる者はひとりしかいない。
 こんなことをしそうな者もひとりだけだ。

「ごめんなさい。しゃくやさぁん」

 それは寝言だった。
初投稿です。よろしくお願いします。

美鈴の日常話です。ややめーさく、もしくはさくめー風味。
思った以上に地味な話になってしまいましたが、自分の中の美鈴&咲夜が書けたので満足。
春野岬
meclenicleあっとgmail.com
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コメント



0.4610簡易評価
25.90煉獄削除
いつもの日常という感じが良いですね。
咲夜さんの気遣いや、美鈴の心情や会話なども面白かったですよ。
31.無評価K-999削除
うお、こいつは……
なにか言葉に出来ないときめきを感じてしまいました!
32.90K-999削除
点数入れ忘れ失礼。
39.90名前が無い程度の能力削除
ものごっつありがちだけどそれがいい。
52.80名前が無い程度の能力削除
ツンデレ率高しっ
58.90名前が無い程度の能力削除
いいじゃねえか
62.80名前が無い程度の能力削除
しゅばらひぃ……zzz
66.無評価春野岬削除
コメントしてくださった方、評価していただいた方、読んでいただいた皆さん、
ありがとうございました。

とても励みになります。
また、いつか美鈴&咲夜を書きたい。
67.80カギ削除
日々変わらない日常って、刺激がないから退屈に感じるけど、変わらないからいいんだよね!
…すいません、自分で書いてて意味不明な感想になってしまいました。
贅沢言わせていただくともう少し文章量?が欲しかったです。
73.80名前が無い程度の能力削除
筋は王道だけども、咲夜の美鈴に対する気遣いと、美鈴の粋な見逃しが
ちょっとしたアクセントになってて面白さを出してました。
次も何か書かれるのなら、楽しみにしてます。
74.無評価名前が無い程度の能力削除
って二作目既にありましたね。
ごめんなさい。
100.100名前が無い程度の能力削除
こっこれは・・!
心理描写をあえて細かく書かないことで、文章の合間から滲みでてくる雰囲気が・・
とりあえず好きです。