※この作品は作品集90の「魔法少女マジ狩るフラン!?」、「魔法少女マジ狩るフランA's」の続編になります。ご了承ください。
始まりは、本当に奇天烈な発想からだったと思う。
最初は嫌々ながらやっていたし、正直なことを言えば、今も恥ずかしくて堪らない。
けれど、支えられ、諭されて、私はこの奇妙な役柄を続けている。
いつの間にか、楽しくなっていた自分。
あの日、あの時、あの場所の、数多くの「ありがとう」が、こんなにも嬉しいものだと初めて知った。
今もまだ恥ずかしいし、失敗だって数えたらきりがない。
けれど、私はこの魔法少女っていう役柄を続けていくのだろう。
支えてくれた仲間。そして今、新たな仲間が増えようとしている。
うん、こうやって私がこれを言うのは初めてかな? みんな、お待たせ。
魔法少女マジ狩るフランStrikerS。
「始まるこぁよ!!」
「行くでガンス!!」
「違うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
……始まります。
▼
夜の帳が落ちた世界で、人間の少女が必死になって逃げ回る。
どうしてこうなってしまったのか、何を間違えてしまったのか、考えても考えても答えが出ない。
慣れた道のはずだった。ほんの出来心でわき道にそれたりしなければ、妖精たちの悪戯に惑わされることもなかったのか。
「あ!?」
バランスを崩して、顔面から倒れこむように転げまわる。
体中をしたたかに打ち付けたせいで、引き攣るような痛みが彼女を苛んだ。
うっすらと、視線だけを上に向ける。
あぁ、そこには少女を見下ろす一対の眼。紛れもない絶望の形が彼女を見据え、ニィッと三日月のように口を歪めた。
そこにいるのは、紛れもない人間。無骨で強靭な筋肉に覆われた屈強な男。
ここ最近、夜に出歩いた女性が無残にも殺される事件が多発していた。
里の者は皆、その残忍性から犯人は妖怪だと誰もが思っていが、蓋を開けてみればなんてことはない、狡賢い人間の犯行。
しかし、だからといって少女の絶望が変わるはずもない。
犯人が妖怪ではなく人間だったからといって、年端も行かぬ少女が大の大人相手にかなうはずもなく、痛みに苛まれる体で逃げても追いつかれるだろう。
何より姿を見られた以上、男がこのまま少女を帰すはずもないのだ。
伸ばされる野太い腕。恐怖に震えた体は、少女の意に反して腰を抜かしたか動いてはくれない。
恐怖に眼をつぶったその時。
「待ちなさい、そこの人間!!」
鈴を鳴らしたような凛とした声が、月夜の世界に響き渡った。
力強く耳に入り込んだのその声は、二人がいる場所よりも上空から聞こえてきたものだった。
男は驚愕に目を見開き上空を見上げ、絶望に震えた少女は希望が現れたのだと歓喜する。
男が、そして少女が見上げる空の先、そこには満月を背後に浮かぶシルエットがひとつ。
赤と黒を基調としたゴスロリドレスは胸元の黄色のリボンでアクセントを加えられ、月に反射して輝く黄金の髪が風に靡く。
フランス人形のような端正な顔立ちに、瞳はルビーのような深紅。その細腕に握られた凶悪な鉄のギミックが、耳障りな機械音を響かせた。
「卑しき人の業を背負いし者よ。さぁ、我が姿を見るがいい。そして恐れ、震えよ!! この私がいる限り、どんな悪事も許さない!!
魔法少女マジ狩るフラン、ここに推参ッ!!」
▼
「いや、やっぱチェーンソーはおかしいって」
麗らかな午後の昼下がり。昨夜の出来事を反芻した現役魔法少女の第一声がそれである。
まだ日は高く上っており、吸血鬼が外を出歩くのには適さない時間帯。しかし、フランにとっては日傘ひとつで出歩けるのでさほど気にはならない程度。
場所は今日も今日とて守矢神社。昨日の犯人逮捕に興奮冷めやらぬ早苗と小悪魔は、彼女の言葉にキョトンとした表情を浮かべることとなったのである。
『えぇ~、そうですか?』
「そうだよ!! 明らかにチェーンソーの存在感が異質じゃんか!! 昨日の犯人をとっ捕まえた後だってあの女の子怯えてたじゃないの!! 主に私にっ!!」
明らかな疑問符を浮かべる二人に、フランが力いっぱい断言する。
先日、犯人をその力量で気絶させたフラン達は少女を保護して人里まで送り、その際に彼女の両親、そして少女の先生である上白沢慧音にお礼を受けた。
もちろん、気絶した犯人を突き出すのも忘れない。あとは人里の人々が犯人の処遇を決めるだろう。
それはいい。それはいいのだが、少女はというとフランに始終怯えっぱなしで、その視線はフランの持つ重金属の凶器に釘付けだったとか何とか。
「大体さ、チェーンソーってそもそもイメージがよくないよ」
「何を言いますフランさん。チェーンソーを装備したことのある方にイメージの悪い方などいません!!」
「じゃあ聞くけどさ早苗、チェーンソーで誰を思い浮かべるの?」
「13日の金曜日なジェイソンさん」
「イメージ最悪じゃないのそれ!!? もっとも有名な殺人鬼じゃん!!? とにかく、チェーンソーはもう無しだからねッ!!」
きっぱりとしたフランの宣言に『えぇぇぇぇ』とあからさまな落胆の声を上げる小悪魔と早苗。
「妹様だってチェーンソー使うときノリノリだったくせに」
「あーあー、聞ーこーえーなーいー!」
そして小悪魔の鋭い指摘に耳を塞いで全力で聞かなかったことにするフラン。
彼女自身、チェーンソー使うときにすごくノリノリだったことを後で自己嫌悪で落ち込んでしまうのである。
情緒不安定な性分がそうさせるのか、感情の浮き沈みの激しい彼女は感情が高ぶると押さえが利かなくなってしまうのだ。
「こんにちわー、フランがこっちにいるって聞いたんだけど?」
「あれ、こいし?」
そんなやり取りをしていると、縁側から聞こえてくるひとつの声。
そちらに視線を向けてやれば、そこには黄色のリボンでアクセントを加えられた黒いハットをかぶった少女が、縁側からフランたちのいる居間を覗き込んでいた。
古明地こいし。地底の地霊殿に住まう古明地さとりの妹であり、フランドール・スカーレットの数少ない親友の少女である。
「どうぞ、こいしさん。上がってもらって大丈夫ですよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて。お邪魔しまーすっと」
柔らかな笑顔を浮かべて早苗が言葉にすると、こいしはにっこりと笑顔を浮かべて縁側から神社に入り込む。
とたとたと慌しく居間に駆け込むと、テーブルを囲んでいる三人に視線を向ける。
「それで、何の話をしてたの? 魔法少女の秘密の打ち合わせ?」
「まぁそんなところですね」
「へー、いいなぁ魔法少女。新聞に写ってたフランは可愛かったし、私もやってみたいなぁ」
「むぅ、からかわないでよこいし」
こいしの疑問に小悪魔が苦笑しながら答えると、彼女はうらやましそうにフランに視線を送る。
すると、フランは気恥ずかしいのか頬を薄く朱色に染め、ムーッとした様子でこいしをにらみつけるが、逆に可愛いだけであまり効果はないようだった。
アレだけ活動してれば情報も出回ると思っていたが、まさか親友にも知られているとは、恥ずかしさで穴に入りたい気分。
見知らぬ誰かに見られるのと、見知っている身内に知られるのとでは恥ずかしさの度合いがぜんぜん違うものである。
そんな中、妙案を思いついたといわんばかりにポンッと小悪魔が手のひらを叩いた。もうすでに嫌な予感しかしない。
「それじゃ、こいしさんもやりますか魔法少女?」
「やるっ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!?」
下心丸見えな小悪魔の誘い。そして即答するこいし。止める間もなかった一連の流れ作業にたまらずフランがツッコミを入れるが、小悪魔が鼻血たらしながらこいしをつれて神社の奥に消えていく。
呆然と二人の背中を見送るフランの肩を、ぽんっと早苗が叩いた。
「心配要りませんよ、フランさん。小悪魔さんなら優しく痛くないようにしてくれますから」
「心配が倍増したんだけど!!?」
「まぁまぁ、落ち着いてください。小悪魔さんはテクニシャンですから」
「誰もそんな心配してないよ!! むしろ心配が二乗された気分なんだけど!!?」
親友が心配なのか頭を抱えて机に突っ伏すフランドール。そんな彼女を視界に納め、くすくすと黒い笑みを浮かべながら悦に浸る東風谷早苗。
「良いですね、その反応。ゾクゾクします」とか何とかものすごい不穏な言葉が聞こえた気がしたけど全力で聞かないことにしたフラン。
そんなこんなで十分が経過した頃、小悪魔とこいしが居間に戻ってくる。
こいしの衣装はやはり、小悪魔が選んだとあってゴスロリと呼ばれるタイプのもの。
しかし、フランのようにドレスのようなものではなく、こいしの普段着の印象を崩さぬままアレンジを加えたような衣装に、さしものフランもほぅっと息をつく。
なんだかんだとこの小悪魔、性格は色々とアレだが服のセンスはぴか一なのだ。
「どうどうフラン、似合ってる?」
「うん、すごく似合ってるよこいし。それにしてもさすが小悪魔、いい仕事してるね」
「あはは、お褒めに預かり光栄ですよ妹様。ご褒美にベッド行きません? こいしさんの着替え手伝ってたらムラムラっぽぅっ!!?」
皆まで言わせずに鳩尾めり込むボディブロウ。奇妙な悲鳴と共に小悪魔の足が一瞬中に浮き、そのまま彼女はドサッと床に倒れこむ。
ビクンビクンと危ない痙攣を繰り返す小悪魔を踏んづけるフランドール。その表情はいうなれば般若そのものである。
「あ、そうそうフラン聞いてよ。魔法少女らしく名乗りも考えたのよ?」
「え、そうなの?」
こいしの言葉に、小悪魔にストッピングを繰り返しながらフランが問い返す。
そのせいか、踏みつけられている小悪魔が恍惚の表情を浮かべていたのを見逃したフランだったが、ある意味見逃していて幸せだったかもしれない。
こいしはにっこりと微笑んで、そしてくるりと一回転。ふわりとフリル付のスカートが動いて、彼女は楽しそうに言葉にする。
「命短し人よ恋せよ、命永し妖しよ恋せよ。愛と恋の魔法少女本気狩るこいし!! 恋焦がれる殺戮がしたいっ!!」
「アウトォォォォォォォォォォォォォ!!!」
こいしの名乗りにフランの絶叫が木霊する。
それも無理らしからぬことだろう。せっかくの名乗りが色々台無しであった。特に後半のせいで。
「いいえ、風祝的には有りです!!」
「何でだよ!!? 物騒極まりないじゃんか!!?」
だがしかし、そこは常識を泉に投げ落とし、「あなたが落としたのは金の常識ですか? それとも銀の常識ですか?」と問いかける女神を張り倒すだろう風祝は一味違った。
フランのツッコミも何のその、早苗はぐっと力強く手を握り締めながら熱く力説し始める。
「恋焦がれる殺戮がしたい。それはすなわち恋している相手を殺して自分のものにしてしまいという欲求の表れ。つまりはヤンデレ思考に他なりません!!
愛と恋の魔法少女と謳い、その恋焦がれる殺戮という言葉がより彼女を表す重要なファクターになっているのです!!
それはつまり、彼女なりの深い愛情表現に他なりません。ならば!! 愛と恋の魔法少女と恋焦がれる殺戮の破壊力は二乗されることでしょう!!
何ですかそれ、萌えるじゃありませんか!! 萌え萌えですよ!!? いまだかつて見たことのない魔法少女像、こいつぁ思った以上の逸材です!!?」
「いや、でもやっぱりあの名乗りはアウトだって」
力説する早苗にちょっと引きつつ、一応そんな主張をしてみるフラン。
何しろ恋焦がれる殺戮がしたいである。物騒なことこの上ない。
「それじゃこいしさんに猫耳をつけて、『命短し人よ恋せよ、命永し妖しよ恋せよ。愛と恋の魔法少女本気狩るこいし!! 恋焦がれる殺戮がしたいニャンっ!!』という名乗りでチェーンソーを装備させましょう!!」
「物騒な部分丸々残ってんでしょうが!! ていうかチェーンソーから離れてくださいお願いしますッ!!」
真顔の早苗にフランのツッコミが炸裂する。げに恐ろしきはこの風祝、今の発言が大真面目ということである。
むしろ、先ほどの名乗りでは語尾が変わっただけで肝心な部分が丸々残っている上に、チェーンソーがプラスされたことで余計に危なくなってしまったのだった。
ゴスロリ衣装を着た少女がにこやかな笑みを浮かべ「恋焦がれる殺戮がしたいっ!」と言いつつチェーンソーを振りかぶる。
想像してみたら完全にホラーである。昨日の少女が怯えていたのにもものすごく納得がいったフランであった。
「疲れてるね、大丈夫フラン?」
「あー、うん。大丈夫大丈夫」
あははーと気のない返事をしてテーブルに突っ伏したままのフランドール。
今度、あの女の子に謝りに行こうと固く心に誓っていると、何を思ったかこいしが何かを決意したような表情になって、フランに声をかける。
「よし、決めた! 私も手伝うよフラン!! 親友ががんばってるんだもの、私も手伝ってあなたの負担を減らさないと!!」
「はいっ!!?」
「良いですねそれ。これからお願いしますね、こいしさん!」
「ちょっ!!?」
こいしの決意に素っ頓狂な声を上げてがばっと跳ね起きるフラン。そんな彼女の声など気にもせず、こいしの参入をあっさりと了承する風祝に、また妙な声が飛び出した。
確かに、こいしのその発言はとてもうれしいものだっただろう。本来ならば。
しかし、しかしである。
名乗りは「命短し人よ恋せよ、命永し妖しよ恋せよ。愛と恋の魔法少女本気狩るこいし!! 恋焦がれる殺戮がしたいニャンっ!!」という物騒極まりなく。
なおかつ装備は杖じゃなくて、チェーンソーというこれまた物騒極まりない重金属のギミック。大木を両断するために生み出されたそれは、人体などたやすく両断するだろう。
しかもこの武器を提供した風祝、何をトチ狂ったか妖怪にも効果があるように霊力稼動の特注品を河童に頼んだとか何とか。
常識を泉に投げ捨てた風祝は色々と最悪だった。
「私、がんばるよフラン。一緒にがんばろうね!!」
「え、あー……うん。そう、だね」
しかしそれを認識していてもなお、フランには太陽のような笑顔を浮かべるこいしの言葉を断るすべを持っていなかったのである。
この親友、発言は色々とアレだが完全な善意からの言葉であり、それを無碍にすることがフランにはどうしても出来なかったのだ。
結果、乾いた笑みを浮かべるのが精一杯で、返答もどこかぎこちなかったがこいしは気にした風もない。
不安だった。というかむしろ不安しかない。でも、楽しそうにしている親友にそのことを告げられるほど、フランは空気の読めない少女ではなかったのである。
かくして、魔法少女に新たな仲間が加わった。
その名は古明地こいし。またの名を魔法少女本気狩るこいし。
確実なことはただひとつ。フランの心労の原因がまた一つ増えたという事実であった。
▼
真夜中の迷いの竹林にて、新たな仲間を加えたフラン達の初仕事は、これまた意外とスムーズに終了した。
今回は藤原妹紅と蓬莱山輝夜の弾幕勝負、というよりもむしろ殺し合いの仲裁。
といっても、本来この二人は不老不死の身。この二人の争いは彼女たちの問題であるため、いつもならフラン達も手を出さないのだが、今回は特別。
何しろ、二人が戦った余波で竹林が燃え始めたのである。そこでフラン達が仲裁に入り、慌てて消火活動を開始したしだいであった。
「いや、悪かったわね。面目ないわ」
「悪いと思うのならもうちょっと考えて戦ってよね。私も人のこといえないけどさ」
バツが悪そうに謝る妹紅に、フランはジト眼で彼女に視線を送るが、自分の地球真っ二つ事件を思い出して深いため息をついた。
心配になってこいしのほうに視線を向けると、早苗と一緒に怪我をした動物の治療をしている最中。
正直ものすごく不安だったのだが、あの分なら大丈夫そうだと安堵の息をこぼす。
「こいしさん、大丈夫そうですね」
「ん、そうだね小悪魔」
いつものマスコット形態の小悪魔がそう言葉にして、フランも微笑を浮かべて同意した。
このまま何事もなく、平和に事態が収集できそうだと思ったそのときである。
「あなたが、巷で噂の魔法少女ね?」
「誰!!?」
その声が耳に届いて、早苗が声を上げる。
あれ、なんかデジャヴを感じるんだけど? などと嫌な予感を胸に抱きながらフランが上空を仰ぎ見た。
そこに、月をシルエットにした一人の女性の姿があり、彼女は堂々とした様子で名乗りを上げた。
「愛と勇気の魔法美少女ヤゴコロムーン!! 月に変わってお仕置きよ!!」
―――『ザ・ワールド』時は止まるッ!!
「ごっぱぁっ!!?」
「小悪魔が吐血したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
果たして一体どれだけの間、時間が止まっていたことだろう。
文字通りの時間が静止した後、正常な時間の流れを取り戻した世界で起こったのは小悪魔の吐血であった。
明らかに体積以上の血液をぶち巻きながら小さな体が大地に落ちる。
フランが必死に呼びかけるのだがすでに虫の息。カヒューカヒューとやばい呼吸を繰り返す小悪魔の様子に、今回ばかりはさすがのフランも心配して上空の存在など気にしていられない。
「……永琳、以前から魔法少女うらやましいなぁとか言ってたけどまさかあなたまで」
「姫、これは私の越えねばならぬ試練なのです。わかってください」
「いや、果てしなくわかりたくないんだけど」
輝夜の哀れむような言葉に、永琳……いやヤゴコロムーンはそんな言葉をつむぐのだが、輝夜にしてみれば激しくわかりたくない試練である。
というか、もはやすでに意味がわからない。なんだよそのセーラー服とか色々ツッコミを入れたいのだが、最も信頼する人物のアレな姿に思考がうまく回らない。
そんな中、彼女に言葉を投げかける猛者がいた。東風谷早苗である。
「あの、永琳さん。ちょっと良いですか」
「永琳じゃない、ヤゴコロムーンよ」
「じゃあ、ヤゴコロムーンさん。ひとつ言わせていただきますけど」
すぅっと小さく息を吸い、早苗は一言。
「それ、魔法少女じゃないです」
などと、なんでもないように口にした。
ぴたっと、ヤゴコロムーンの動きが停止する。徐々に頬が引き攣っていき、ぎりぎりと奇怪な音を立てて首を早苗のほうに向ける。
冷や汗がだらだらと流れ始めているのは気のせいではあるまい。
「……え、マジ?」
「愛と勇気の美少女戦士であって魔法少女ではないです」
ドきっぱりと物怖じせずに言葉にする早苗は、ある意味で幻想郷に馴染んできたいい証拠なのか。
硬直したまま動かないヤゴコロムーン。そしてそんな彼女を痛いものを見る眼から、どんどんかわいそうなものを見る眼になっていく一同。
「そ、そんな眼で見ないで!! 見ないで輝夜!!」
「いや、見るなって言われても……ねぇ、妹紅」
「うん、その……なぁ?」
「こ、こうなったら!!」
そろそろその視線に耐えられなくなってきたか、ヤゴコロムーンはスカートのポケットから小瓶を取り出すとバッと振りまいた。
粉塵が月の光に照らされてきらきらと輝く。それはとてもきれいな光景だったが、すぐにそんなこともいえない状況に陥る。
フラン達の体が、だんだんと動かなくなってきたのである。
「な、これは!?」
「痺れ薬よ。このままあなた達と姫の記憶も消させてもらって、ついでに魔法少女の称号もいただくわ!」
「なんでそんなに魔法少女にこだわるのよ!? ていうか、何で私たちを狙うわけ!!?」
「何でって、マジカルゆかりんがあなたたちを倒せば魔法少女の称号が手に入るって言うから」
「ババアァァァァァァァァァァァァァァ!!!?」
力の限り大絶叫。あの大妖怪、まさか先日の件を根に持っていやがった。
フランの怒りの絶叫ももっともだろう。周りを見渡せば、誰も彼もが痺れ薬にやられたか動けないでいる。
(……ここまでなの)
悔しさに歯を食いしばる。けれど、痺れてしまった体はちっとも動いてはくれなくて。
ここまで彼女を支えてくれた人たちに、なんと謝ればいいのだろう。ようやく、光が見えてきたというのに、こんなあほの様な出来事で皆とのつながりが消えてしまうかもしれない。
それがひどく恐ろしい。けれど、どんなに力を入れても体に力は入ってくれなくて。
あぁだからかなのか、その悔しさに彼女は失念していたのだ。彼女の親友は―――
「そこまでよ」
誰にも気づかれることのない無意識の中を移動できるのだということを。
ヤゴコロムーンの背後、肩口に自らのチェーンソーを押し当てたこいしの言葉は、何処までも冷淡なもの。
「私は無意識を操ることができる。皆に気づかれずにあなたに近づくことも、あなたの無意識を読み取って何を狙っているかを悟ることもたやすいわ」
「そう、か。あなたを見落とした時点で、私の敗北は確定していたということね」
自嘲するように、ヤゴコロムーンは……いや、八意永琳は言葉をこぼす。
その言葉は、どこか懺悔のようでもあって、けれど何処か清々としたものでもあった。
「あなたのお友達はとても頼りになるのね、マジ狩るフラン。今日は、私の負けよ」
「永琳」
ようやく痺れが抜けてきて、ふらつきながらもフランは彼女に視線を向ける。
憑き物が落ちたような表情。ただ、どうしてもフランは聞きたかった。
彼女がどうして、このようなことに及んでしまったのかということを。
「あなた、どうして魔法少女を?」
「ふふ、そうね。ちょっとした憧れ、羨望、色々理由はあるけれど強いて理由を挙げれば―――」
儚い笑顔。その表情にフランはどきりと胸を高鳴らせた。
とても素敵な笑顔。自分には出来ない、大人の女性の笑み。いつか自分にも出来るようになるのだろうかと、つい自問してしまうほどのきれいな笑みのまま。
「なんとなく、暇だったから」
今までの感動が木っ端微塵になる答えをたたき出しやがったのであった。
果たして、その時のフランの様子を、周りを見ていた方々はなんと現していただろうか。
彼女は満面の笑みを浮かべていた。これ以上にないくらい、きれいで、とてもかわいらしい笑顔。
でも、皆さんご存知だろうか。笑顔ってのは本来、野生動物の威嚇行為であるということを。
「こいし、GO!!」
「がってん!!」
その夜、迷いの竹林に『スプラッタァァァァァァァァァァァ!!?』という少女たちの悲鳴が響き渡った。
▼
かくして、今日も魔法少女は空を翔る。
二人だった仲間はいつしか三人へ、そして四人へと増えていった。
楽しく騒がしい日々だったが、それでもフランは満足した日々を送っている。
だがしかし。
「さぁ、今日こそ魔法少女の称号はいただきますわ!」
「ふふん、見た目が子供になってきたって負けないわよマジカルゆかりん!! 本気狩るこいしが恋焦がれる殺戮の舞台へいざなってあげる!!」
目の前で繰り広げられる弾幕勝負とは名ばかりのガチバトル。
相変わらず物騒な言葉を吐きつつ、すっかりチェーンソーが標準武器になったこいしに、大妖怪である八雲紫のガチバトル。
そんな二人の戦いをすすけた様子で眺めながら、フランは盛大にため息をひとつ。
現状に満足はしているが、心労が今までの倍以上になったことを悟っているフランドールは、確実に大人への階段を上り始めているのである。
ちなみに、八意永琳氏は現在はしっかり医者をしつつ、影でヤゴコロムーンとして活躍中だとか。
それを聞いたフランは胸にこみ上げてくるしょっぱい何かを思わず瞳から垂れ流しそうだったが、それは何とか押しとどめて生暖かい目で見守ってあげることにしたとか何とか。
フランドール・スカーレット495歳。今日も魔法少女がんばってますが、時々人生に挫けそうです。
八雲紫→八意永琳と来たら次は八坂神奈子様ですかね?
しかしセーラームーンは輝夜で来ると思ってたので予想外w
続編を激しく待ってます!!!!!!
>「13日の金曜日なジェイソンさん」
実はジェイソンさん一度もチェーンソー使った事がないんだが
ヤゴコロムーンが出た瞬間そんな事どうでもよくなりましたwwwww
もしかして『本気狩る』ってQ―I○Eさんとこの4コマから?
俺、このスペカ取ったらフランちゃんと結婚するんだ・・・
あとチェーンソーと言ったらGoWじゃね?
そんなん現れた日には
竜神様出てきて幻想郷水底に沈むわwwwwwwww
早苗さん……w
前半で本当に人助けをしてるwww
えらいねーフランちゃん。おぢさんがいい子いい子してあげる。ちょっとこっちの裏においで(チェーンソー)
俺たちの幻想狂はどうなっちまうんだw
しかしチェーンソーってあくまで木を切る物だから
あんまり殺戮に向かないって聞いたけど…どうなんだろ
それはとにかく、マジ狩るフランシリーズはいつも楽しみにさせて頂いてます。
それはもう毎日PC前で全裸待機する程度には。
これからも頑張ってふらんちゃんの心労を重ねていって下さい。応援しています。
余談だけど何処となく霖之助ってユーノにキャラ似てるよね。
真面目な方も……二次の扱いも……
・・・・・・次のシリーズでも、ばb・・・年上な人が魔法少女なことやろうとすんのですかねえ・・・?・・・はっ、もしやひじーリンか!?
ただし回転機構に何かが詰まると壊れる、刃の当て方が悪いと切れ味がすぐに落ちる
この2点から1~2秒で対象を切断→整備のような使い方が対人では有効
もっとも、欠点のうち後者は対人使用の場合とくに問題は無いか
やはり嫌がりつつ成り行きでやらされていたフランに嗜虐に似たかわいらしさを覚える。
いやでもけっこぉノリノリだったか。元々。
すでに上で言われてたけど、チェーンソーの殺人鬼と聞いて真っ先にイメージしがちな
殺人鬼ジェイソンさんは、実はチェーンソーを使ったことがないというトリビア。
私もチェーンソーと言えばジェイソンさんでしたが。
どこでこのイメージ拾ったんだっけ、俺。
杖っぽさで言えば刈払機も良いですな。危険度3割増しだけどwww
東方らしさを出したいのならば、東方らしい作品を書いてみてはいかがでしょうか?
特別に再開を待っているというわけでもないのですが、ちょっと疑問に思ったしだいです。
楽しんで創作なされているのなら、気にすることでもないのでしょうが