.
「プリンを私に食べさせる権利をあげるわ!」
「帰れ」
魔理沙は玄関の前で自信満々に言い放つレミリアを前に、何のためらいもなく戸を閉じた。
「こら! 開けなさい! 開けてよー!」
「あーあー聞こえなーい」
正午過ぎ、魔理沙邸に響く幼女の声とノックの音、
しかしそれもすぐ止んだかと思うと、代わりに聞こえてくるのは泣き声。
「ひっく……ひっく……」
「……まったく」
戸を開けると、そこにはしゃがみガードの体勢のまま震えるレミリア、なんというカリスマか。
「よっと」
魔理沙は抱きかかえるようにそれを持ち上げると、
室内に運び込んで椅子の上に置いてやる。
「よしよし」
「うー……」
そのまま頭に手をのせて左右にうりうり、
レミリアは涙ぐみながらも、徐々に顔をあげ始める。
「ほれ、カリスマはどうした」
「カリスマ……? はっ!」
カリスマ、その一言の前にレミリアは我を取り戻し、
足を組み頬杖を立て、椅子の上でふんぞり返る。
「私にプリンを献上する権利をやろう」
「いらん」
カリスマが瓦解した瞬間だった。
「うーっ、うーっ」
「そんなに悔しがらなくてもいいだろ」
「だってぇー、プリンが、プリンがー」
「一体プリンがどうしたんだ?」
それは聞くも涙、語るも涙の物語。
「勝手にプリンを食べたら、咲夜がおやつのプリンは抜きだって……」
「どんだけプリン好きなんだよ」
「咲夜よりプリンを優先するぐらいよ!」
「すまん、聞いた私が馬鹿だった」
レミリアは胸を張りながら、プリンへのこだわりを語る、
やれ食す時の温度だの、柔らかさだの、それはまさしく愛であった。
「ゆえにプリンとは全知全能であり――」
「しかしお前にプリンを食わせてやる物好きがいるのかどうかの方が問題じゃないか?」
「だからここに来たのよ!」
「お前は私の家を何だと思ってるんだ!」
「……だって霊夢は貧乏だし、他の人間の家知らないし……」
そう言ってしゃがみガードを再開するレミリア、
魔理沙も再度頭をなでてやるが、今度の防御は強固であった。
「やれやれ、どうすっか……ん?」
ふとノックの音が響く、玄関からではない、窓からだ。
「なんだ?」
音につられて窓に寄ると、そこにちょこんと置かれた一つの器、
その中を覗きこめば、そこには黄金色に輝く食物が。
「これは……プリンか、ははっ、咲夜の奴……」
魔理沙は小さく苦笑いを浮かべ、くるりと振り返った。
「誰がそんなフェイクに引っかかるかー!!」
「なっ!?」
そして同時にブレイジングスターを発動、
今にもレミリアに襲いかからんとしていた咲夜を壁ごと外に吹き飛ばす。
「……っつ、いい対応じゃない」
吹き飛ばされた咲夜はすぐに受身を取り、地面の上を滑る、
体勢を低く取り、ナイフを構えて目の前の敵を睨んだ。
「まったく、いつもいつも邪魔ばかりしてくれるわね」
「お前達が変なちょっかいを出してるからだろ?」
魔理沙は帽子を深く被りながら咲夜を見下ろす、
二人の間に火花が散り、大気がざわめきはじめた。
「なぁ、幼女を愛でる会会員……十六夜咲夜!」
「どうして私達の正義が理解できないのかしら、幼女を守る会会員……霧雨魔理沙!」
互いに一歩で距離を詰め、振り上げられたナイフと振り下ろされた箒が衝突する。
「これがお前達の正義か! そんなにもレミリアを悲しませてしゃがみガードが見たかったのか!」
「無論よ! お嬢様のベストジャスティスはしゃがみガードに他ならない!
それを見るためならばプリンの一つや二つ抜くことにためらいは無いわ!」
「レミリアは……悲しんでるんだぜ! 本気でだ!」
「お嬢様がプリンより私を選んでくださるのならば! こんなことはしなかった!」
「咲夜、お前……くっ!」
二人の戦う音が魔法の森に響く、
そしてそれはレミリアの耳にも届いていた。
「……うー」
レミリアはそっとしゃがみガードを解くと、幽雅に椅子から飛び降りた。
「くすくす、全ての運命の流れは私の掌の中だというのに」
その顔が邪悪にゆがむ、そう、全ては演技だったのだ、
プリンの悲しみも、あのしゃがみガードも。
「そして私の前にはプリンが一つ……ふふ、なんて美味しそうなのかしら」
レミリアが左手で持ち上げるは、窓の傍らに置かれし金色のプリン、
続けて右手に紅いスプーンを作り出し、それをプリンへと突き立てる。
「いただきま――うっ!?」
しかし刺さらない、プリンはそのスプーンを弾いた。
「これは……凍っている!?」
「甘いわレミィ、あなたにそのプリンを食させると思って?」
「――パチェ!!」
七曜の魔法使いが、レミリアの背後で暗く強い視線を送っていた。
「違うわ、今の私はプリンを守る会会長、パチュリー・ノーレッジよ!」
「馬鹿な! プリンを守る会は冷蔵庫のプリンを守るための会! どうして私の邪魔を!」
「あなたが私のプリンを食べたからよ! プリンを愛でる会副会長、レミリア・スカーレット!」
「な……しまった! あのプリンはまさか――!」
「そう、あなたが食べてしまったプリンは、私が大事に取っておいたパッチュンプリン!」
「そんな、そんなことが……!」
レミリアがよろめく、プリンを守る会の者にとって、
他人にプリンを食されるのは宣戦布告と同義。
「だけど……それでもこのプリンは渡さないわ!」
「駄目よレミィ、あなたにそのプリンを食べる資格は無いわ」
「ならば力づくでもよ、あなたに私を倒すことができて?」
「一人ならば無理ね……でも二人ならどうかしら?」
「なっ!?」
室内に新たな気配が現れる、それはレミリアのよく見知るあの顔。
「プリンを守る会副会長、紅……美鈴!」
「お嬢様、あなたの罪はこの私が裁きます!」
「覚悟しなさいレミィ……セントエルモピラー!」
「これがプリンの怒り! 星脈地転弾!」
「ううーっ!!」
もはやレミリアになす術は無かった、
取れる行動はただ一つ、しゃがみガードだけであった。
「……う?」
しかし、不思議にも衝撃は無い、
レミリアが顔をあげると、強固な結界が自らを包んでいることに気づく。
「これは……?」
「待たせたわね」
「ゆ、紫!?」
その突然の登場人物にレミリアは驚く、
紫は結界から身を乗り出しながら、ぽふぽふとレミリアの頭を撫でた。
「八雲紫、あなたはこの戦いに関与する理由はないはずよ」
「そう? プリンを愛でる会の会長として、この状況を見過ごすわけにはいかないのだけど」
「レミリア・スカーレットの犯した罪は大きい、そしてそれは裁かれなければならないわ!」
パチュリーは強く言い放ち、魔力を一目で分かるほどにたぎらせる、
対する紫は扇子を開き、その陰で微笑みながら言い返した。
「あなたに先人の偉大な言葉を送るわ……プリンを食べられる場所に置いておく方が悪いのよ!」
ジャイアニズムである。
「その一言で覚悟は決まったわ、あなたも燃やす!」
「やってみなさい、あなたの火力で焼きプリンが作れるというのなら!」
「おっと、そこまでよ!!」
両者が弾幕を交えようとした瞬間、二人を分かつように巨大な柱が突き立てられる、
突然のことに二人とも空を見上げ、ついでに魔理沙邸は崩壊寸前だ。
「愛でる会、守る会、この両方の会長が揃うのを待っていたわ」
「あら八坂様、こんな所までご出張お疲れ様」
「あなたは……妖怪の山の新しい神だったかしら」
「ええ、しかし今回は別の肩書きで名乗らせて貰うわ、そしてこれをもって宣戦布告とする!」
『っ!?』
八坂神奈子、突如現れた彼女は地に降り立ち、その名を語った。
「私こそは杏仁豆腐を愛でる会会長、八坂神奈子なり!」
『ここに来て現れた新たな勢力、それは杏仁豆腐、
とうとう崩れる幻想郷のプリンバランス、新たなる混沌の始まり、
次回 「中華料理のデザートがプリンでもいいじゃない」 こうご期待』
「っていう運命が見えたからプリン食べさせて」
「駄目です」
―― 完 ――
.
「プリンを私に食べさせる権利をあげるわ!」
「帰れ」
魔理沙は玄関の前で自信満々に言い放つレミリアを前に、何のためらいもなく戸を閉じた。
「こら! 開けなさい! 開けてよー!」
「あーあー聞こえなーい」
正午過ぎ、魔理沙邸に響く幼女の声とノックの音、
しかしそれもすぐ止んだかと思うと、代わりに聞こえてくるのは泣き声。
「ひっく……ひっく……」
「……まったく」
戸を開けると、そこにはしゃがみガードの体勢のまま震えるレミリア、なんというカリスマか。
「よっと」
魔理沙は抱きかかえるようにそれを持ち上げると、
室内に運び込んで椅子の上に置いてやる。
「よしよし」
「うー……」
そのまま頭に手をのせて左右にうりうり、
レミリアは涙ぐみながらも、徐々に顔をあげ始める。
「ほれ、カリスマはどうした」
「カリスマ……? はっ!」
カリスマ、その一言の前にレミリアは我を取り戻し、
足を組み頬杖を立て、椅子の上でふんぞり返る。
「私にプリンを献上する権利をやろう」
「いらん」
カリスマが瓦解した瞬間だった。
「うーっ、うーっ」
「そんなに悔しがらなくてもいいだろ」
「だってぇー、プリンが、プリンがー」
「一体プリンがどうしたんだ?」
それは聞くも涙、語るも涙の物語。
「勝手にプリンを食べたら、咲夜がおやつのプリンは抜きだって……」
「どんだけプリン好きなんだよ」
「咲夜よりプリンを優先するぐらいよ!」
「すまん、聞いた私が馬鹿だった」
レミリアは胸を張りながら、プリンへのこだわりを語る、
やれ食す時の温度だの、柔らかさだの、それはまさしく愛であった。
「ゆえにプリンとは全知全能であり――」
「しかしお前にプリンを食わせてやる物好きがいるのかどうかの方が問題じゃないか?」
「だからここに来たのよ!」
「お前は私の家を何だと思ってるんだ!」
「……だって霊夢は貧乏だし、他の人間の家知らないし……」
そう言ってしゃがみガードを再開するレミリア、
魔理沙も再度頭をなでてやるが、今度の防御は強固であった。
「やれやれ、どうすっか……ん?」
ふとノックの音が響く、玄関からではない、窓からだ。
「なんだ?」
音につられて窓に寄ると、そこにちょこんと置かれた一つの器、
その中を覗きこめば、そこには黄金色に輝く食物が。
「これは……プリンか、ははっ、咲夜の奴……」
魔理沙は小さく苦笑いを浮かべ、くるりと振り返った。
「誰がそんなフェイクに引っかかるかー!!」
「なっ!?」
そして同時にブレイジングスターを発動、
今にもレミリアに襲いかからんとしていた咲夜を壁ごと外に吹き飛ばす。
「……っつ、いい対応じゃない」
吹き飛ばされた咲夜はすぐに受身を取り、地面の上を滑る、
体勢を低く取り、ナイフを構えて目の前の敵を睨んだ。
「まったく、いつもいつも邪魔ばかりしてくれるわね」
「お前達が変なちょっかいを出してるからだろ?」
魔理沙は帽子を深く被りながら咲夜を見下ろす、
二人の間に火花が散り、大気がざわめきはじめた。
「なぁ、幼女を愛でる会会員……十六夜咲夜!」
「どうして私達の正義が理解できないのかしら、幼女を守る会会員……霧雨魔理沙!」
互いに一歩で距離を詰め、振り上げられたナイフと振り下ろされた箒が衝突する。
「これがお前達の正義か! そんなにもレミリアを悲しませてしゃがみガードが見たかったのか!」
「無論よ! お嬢様のベストジャスティスはしゃがみガードに他ならない!
それを見るためならばプリンの一つや二つ抜くことにためらいは無いわ!」
「レミリアは……悲しんでるんだぜ! 本気でだ!」
「お嬢様がプリンより私を選んでくださるのならば! こんなことはしなかった!」
「咲夜、お前……くっ!」
二人の戦う音が魔法の森に響く、
そしてそれはレミリアの耳にも届いていた。
「……うー」
レミリアはそっとしゃがみガードを解くと、幽雅に椅子から飛び降りた。
「くすくす、全ての運命の流れは私の掌の中だというのに」
その顔が邪悪にゆがむ、そう、全ては演技だったのだ、
プリンの悲しみも、あのしゃがみガードも。
「そして私の前にはプリンが一つ……ふふ、なんて美味しそうなのかしら」
レミリアが左手で持ち上げるは、窓の傍らに置かれし金色のプリン、
続けて右手に紅いスプーンを作り出し、それをプリンへと突き立てる。
「いただきま――うっ!?」
しかし刺さらない、プリンはそのスプーンを弾いた。
「これは……凍っている!?」
「甘いわレミィ、あなたにそのプリンを食させると思って?」
「――パチェ!!」
七曜の魔法使いが、レミリアの背後で暗く強い視線を送っていた。
「違うわ、今の私はプリンを守る会会長、パチュリー・ノーレッジよ!」
「馬鹿な! プリンを守る会は冷蔵庫のプリンを守るための会! どうして私の邪魔を!」
「あなたが私のプリンを食べたからよ! プリンを愛でる会副会長、レミリア・スカーレット!」
「な……しまった! あのプリンはまさか――!」
「そう、あなたが食べてしまったプリンは、私が大事に取っておいたパッチュンプリン!」
「そんな、そんなことが……!」
レミリアがよろめく、プリンを守る会の者にとって、
他人にプリンを食されるのは宣戦布告と同義。
「だけど……それでもこのプリンは渡さないわ!」
「駄目よレミィ、あなたにそのプリンを食べる資格は無いわ」
「ならば力づくでもよ、あなたに私を倒すことができて?」
「一人ならば無理ね……でも二人ならどうかしら?」
「なっ!?」
室内に新たな気配が現れる、それはレミリアのよく見知るあの顔。
「プリンを守る会副会長、紅……美鈴!」
「お嬢様、あなたの罪はこの私が裁きます!」
「覚悟しなさいレミィ……セントエルモピラー!」
「これがプリンの怒り! 星脈地転弾!」
「ううーっ!!」
もはやレミリアになす術は無かった、
取れる行動はただ一つ、しゃがみガードだけであった。
「……う?」
しかし、不思議にも衝撃は無い、
レミリアが顔をあげると、強固な結界が自らを包んでいることに気づく。
「これは……?」
「待たせたわね」
「ゆ、紫!?」
その突然の登場人物にレミリアは驚く、
紫は結界から身を乗り出しながら、ぽふぽふとレミリアの頭を撫でた。
「八雲紫、あなたはこの戦いに関与する理由はないはずよ」
「そう? プリンを愛でる会の会長として、この状況を見過ごすわけにはいかないのだけど」
「レミリア・スカーレットの犯した罪は大きい、そしてそれは裁かれなければならないわ!」
パチュリーは強く言い放ち、魔力を一目で分かるほどにたぎらせる、
対する紫は扇子を開き、その陰で微笑みながら言い返した。
「あなたに先人の偉大な言葉を送るわ……プリンを食べられる場所に置いておく方が悪いのよ!」
ジャイアニズムである。
「その一言で覚悟は決まったわ、あなたも燃やす!」
「やってみなさい、あなたの火力で焼きプリンが作れるというのなら!」
「おっと、そこまでよ!!」
両者が弾幕を交えようとした瞬間、二人を分かつように巨大な柱が突き立てられる、
突然のことに二人とも空を見上げ、ついでに魔理沙邸は崩壊寸前だ。
「愛でる会、守る会、この両方の会長が揃うのを待っていたわ」
「あら八坂様、こんな所までご出張お疲れ様」
「あなたは……妖怪の山の新しい神だったかしら」
「ええ、しかし今回は別の肩書きで名乗らせて貰うわ、そしてこれをもって宣戦布告とする!」
『っ!?』
八坂神奈子、突如現れた彼女は地に降り立ち、その名を語った。
「私こそは杏仁豆腐を愛でる会会長、八坂神奈子なり!」
『ここに来て現れた新たな勢力、それは杏仁豆腐、
とうとう崩れる幻想郷のプリンバランス、新たなる混沌の始まり、
次回 「中華料理のデザートがプリンでもいいじゃない」 こうご期待』
「っていう運命が見えたからプリン食べさせて」
「駄目です」
―― 完 ――
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神奈子さま……。
しかもこれ、まさか全部おぜうさまの作り話かwwwww
しかし……幽々子様辺りは、そういうの関係なさそうですねwww
だがプリンを守る会はネーヨwwwなんだそれwww
さてナタデココ派はどこに行けば…
謎の疾走感のまま走りぬいた作者に乾杯!
各勢力ごとに違う派閥がありそうだ、永遠亭は月見だんごかな~w
これはノリで読むお話ですね。考えたら負けなのかなと思いました。
とても楽しく読ませていただきました。
ところでバームクーヘンを愛でる会会長は何処へ……
杏仁豆腐>>>>>プリンだろJK
だがそれがいいwwwwwwwwww
プリンはただぷるぷるしてるだけではないか。杏仁豆腐は変に甘ったるいだけではないか!
最も甘美なフルーツ(笑)は「ところてん」であることを此処に宣言する!
全ての調味料に合いさらに下に絡みつくあの感触は初めてのヴァンヴァイアもといディープキスを思い出させる・・・あぁ・・・コ、コペルニクス!
でも幼女が嗜好の一品ですよn(ピチューン
いずれ来る新たな争いのモノローグなのか……
まあババロアでも食って落ち着きましょうや。
葛切り派はどちらですか?
…あれ?