よう、俺だよ。自機狙いだよ。
いつもダチが世話になってるようだな。
かわすだの、ぶち当たるだの、日々張り合ってるっていう話じゃないか。
……そんなお前さんだからこそ、聞いてほしいことがあるんだ。
突然ですまねえって思ってる。
だけど、どうしても伝えておきたくってな……。
どこから話せばよかったかな。
ああ、そうだ。まだ名乗ってすらいなかったな。
といっても、俺はごく普通の自機狙い。
紫の映える、クールなまん丸ボディってだけで、名前なんてない。
主人もこれまた、名も無き妖精だよ。
ああ、そうだ。俺たち弾丸には、守るべき主人がいるんだ。
俺たちは、生まれてからずーっと、主人の中でじっと座って過ごしてるんだ。
それで、いざって時になったら、主人のために飛んでいくのさ。
そう。それがたった一度きりの、旅立ちの日。
あれから全てが始まったんだ。
もう随分経つかな。主人と仲間が宝探しをするってことになったんだ。
なんでも宝船があるって噂だった。噂は本当で、俺たちも見つけることができた。
空飛ぶ船を探険して、皆で宝を持ち帰るんだって主人はおおはしゃぎだよ。
次々に船に飛び乗っては、宝を奪っていった。
俺の主人は、何か青いものを抱えて喜んでたっけな。
だが、のん気なことは言ってられなかった。
船からの帰り道だった。こっちに向かって、誰かが猛スピードで突っ込んできていたんだ。
「霊夢だ!」
「霊夢が来てる!」
「霊夢って誰!?」
「すっごーく怖い人!」
「泥棒したから、怒りに来たの?」
「嫌だよ、退治されちゃう!」
……ていう感じにな、そりゃもうパニック状態さ。
こうなってしまったら、妖精のやることはもう決まってるもんだ。
「それじゃ、私が霊夢をやっつける!」
「私も! このお宝、もう私のだもん!」
「私もやっつけたい! みんなのお宝を守れー!」
「突撃だー!」
そんな具合になって、交戦する破目になっちまった。
「各自機狙い、目標を捕捉せよ!」
これが、最初で最後の出撃指令だ。
それで、霊夢っつーやつは一体どんなやつなのか、ちらと横目で見てみたのさ。
巫女がいて。白と紅の衣装がまぶしくて。なんつーか、見ほれるような腰つきをしていてな。
ああ。腰がすばらしいんだ。きゅっとした腰が、おいしそうでおいしそうで、たまらないんだ。
その悩ましい腰のラインから、本能的に目を離すことができない。
思わず、つばを飲み込んじまったよ。
それで、俺は……。
……ああ。そのときにゃもう、一目ぼれっつーやつを、しちまってたんだ。
お前さん、知ってるか?
自機狙いってやつは、狙いを決めたら一直線なんだ。
惚れた女にゃ、体張って飛び込んでいくしかないんだよ。
あの女の腰にぶち当たりたい! むしゃぶりつきたい!
そう思った瞬間には、体が動いていた。
「うあああああ! 霊夢、霊夢、レイム! 腰に、腰に触らせろおおおお!」
角度も速度も最高だ。コンマ一度のぶれもなく、主人から飛び出した。
このまま飛び込んでいけば、間違いなく腰にぶち当たる。最高だ。
いの一番にスタートを切ったもんで、仲間の弾は皆、俺の後ろにひっついてる。
だから、そいつらの叫びが背中から聞こえてくるんだよ。
「うひょおおお! 霊夢さん、たまんねっす! お前どけよ、俺が先に行くんだ!」
「出し抜こうとするな! 一定速度を保て!」
「霊夢、今そこに行くからね! ……はあ、はあ。待っててね、ふひひ!」
「誠に美しい腰元で、才色兼備である! 南無三!」
「霊夢さんや! 今年で八十のわしじゃよ! 当たってくれんかのー!」
自機狙いだから、自機ってーのを見ると惚れちまう。皆一緒の悲しい性らしい。
だが俺は、勝利を確信したよ。一番最初に突撃できるのは、この俺なのだから。
ありがてえことに、霊夢はじーっと動かないで待ってるんだ。当然直撃コースってやつだ。
それこそ、一センチでも一ミリでも近づくのが、嬉しくて嬉しくてたまらないんだ。
俺の勝ちだ。このスピード、寸分の狂いも無い角度。誰も避けられるわけが無い。
至福のときが、もう目の前に来ている。
「一番、いただきまーす!」
だが瞬間、ちょんって動かれたもんでね。時間が止まったような気がしたよ。
すーって、霊夢の横を通り過ぎるだけだ。腰は、目の前にあったのに。
どう見ても彼女の体に当たってるはずなのに、当たっていなかった。訳がわからなかったよ。
俺たちにとっちゃ、こっちのほうがよっぽど判定詐欺ってやつだ。
背中から、悔しさと絶望で塗れた絶叫が次々にあがる。
まさに壊滅状態だよ。誰も腰に触れることはできなかった。
撃たれた後の弾のこと、考えたことってあるか?
悲惨なものさ。
俺たち自機狙いは、自機狙いである限り真っ直ぐにしか進めないんだ。
俺の後ろのやつらは根性が無かった。
ランダム弾として、「ふらふらしてやる」って抜けたもんもいる。
ホーミング弾として、「一生霊夢に付きまとってやる」って消えたやつもいる。
でも俺は、根っからの自機狙いでな。変わりたく、なかったんだよ。
猛スピードで地を駆けるもんだから、目の前の景色が、あっという間に後ろに流れていって。
木に何度も直撃しては、貫通してまた進み。
山にだって当たったさ。土を掘り堀り、トンネルこさえて突き進み。
誰かの家の窓を突き破り、道具屋の壁をぶち壊して、ひたすら進んで進んで。そんな毎日だった。
だが正直、どこまで進むのかと思うと、怖かったよ。
この世の果てがあるんじゃないかって。果てが来たら、それで自分は、終わりだから。
でも、ただ自機狙いとして全うしたかった。その一心だったんだよ。
その果てが、あったんだ。
神社の鳥居から先に、どうやっても進めなくなってな。
鳥居の下はただただ、空虚。何にも無いはずで、きれいな空が見えてるんだ。
それなのに、分厚いガラスでも張ってるようで、進もうとしても進めない。
結界ってやつだったらしい。
全く動けないもんだから、生きた心地がしなかったよ。
今度は止まり続ける毎日だった。
何日も風雨に晒されて、何もせず、ただぼーっとしていたよ。
こうやってると、その時ようやく自分の状況に気づいてしまったんだ。
お前さん、分かってくれるかな。
自機狙いっつーのは、狙いが無いと、自機狙いじゃねえんだ。
あの時の俺はすでに、何の狙いも無かったんだ。
ただの、丸い弾だった。
そうしてっと、ある日、ふっと声がかけられた。
「あんた、そこで何してんのよ」
そういって、俺に気づいた女が近づいてきたんだ。
ああ、もちろん霊夢だ。霊夢だったさ。
自機狙いとして、新たな狙いが出来た。そう思ったらもう、嬉しくって。
だが、一瞬で絶望だ。
体がぴくりとも反応しないんだ。
「お前さん、霊夢のはずだよな」
「何よ突然。そうに決まってるわ」
「そんなはずない! おかしいじゃないか、体が動かないなんて!」
もう、どこにも魅力を感じないんだ。
体が自然に惹きつけられないんだ。
その腰つきも、何てこと無い。ただの少女の腰に過ぎないんだ。
正真正銘の全く同じ霊夢であるにも関わらず、だ。
「あの時のお前じゃない! お前を狙おうって、ちっとも思えないんだ!」
「全く状況が飲み込めないんだけど。あの時っていつなのよ、一体」
一通り説明してやった。それで、新たに尋ねた。
俺は自機狙いで、お前を狙っていた。なのに、どうしてお前を狙えないんだって。
自機狙いとして、生きたい。何とかして、理由をつかもうとした。
そうしたら霊夢は、心あたりがある、という顔をしやがった。
俺に詳しく、説明してくれたよ。
それが、俺の人生を動かしたんだ。
聞いてくれるかい、お前さんよ。
曰く、異変みてえな時は霊夢であって、霊夢でないらしいんだ。
神おろしの一種だ。
彼女は体に神を宿して、そいつに操られるようにして飛び回るっつーんだ。
あの時の霊夢の本体は、神だった。今の霊夢は、抜け殻なんだ。
だから俺は聞いたんだよ。
その神は一体、どんなやつなのかって。
なあ、分かっているんだろう。
霊夢を操っていた張本人なんて、分かりきったことだ。
そう、お前さんに決まっているじゃないか。
改めて言おうか。
俺だ。あの時の、自機狙いだ。
何て言ったら伝わるか分かんなくて悔しいけど、俺だよ。
やっと再開、できたな。嬉しいよ。
お前さんにとっちゃ、ただの弾ひとつだ。覚えてなくて当たり前さ。
でもな。俺にとっちゃ、一生のライバルなんだよ。
全力で飛んだ、俺の弾人生をかけた戦いだったんだ。それ制したんだ、お前さんは。
お前さん、覚えてるか?
自機狙いってやつは、狙いを決めたら一直線なんだ。
霊夢の話を聞いた俺は、一生で一度だけの方向転換をした。
自機狙いであり続けるために。そしてお前さんとの再戦を果たすために。
狙いは今、お前さんの腰に合わせている。
もっとも、この結界を壊さないと会えないって話だが、いつか突き破ってみせるさ。
今度は絶対に、お前さんへ飛びついてやる。
それで、あの時みたいに、きれいに避けてほしいよ。
もう一度だけ、俺を自機狙いにさせてほしいんだ。
だからお前さんも、立派な自機でい続けてほしいんだ。
これが言いたくって、言いたくって、随分長いこと悶えていたよ。
でも、言えた。お陰さまで、胸のつっかえがとれたよ。
今度の一戦を、楽しみにしてるからな。
俺のこと、ちゃんと覚えておけよ。うっかりして、あっさりぶち当たるんじゃねえぞ。
俺に会うまで、死ぬんじゃねえぞ。
絶対に会うんだ。約束だからな。約束だから俺も、結界を越えてみせるよ。
夜空の向こうから、お前をずっと見ているから。
だからその……。元気でやれよ。
それじゃあ、またな。
良いお話でした。少なくともボムで無遠慮に点アイテムにされていった数多の同胞達よりかはましだったのかなと。
彼のどこまでも一直線な生き様に、敬礼!!
そしてあとがきの最後www南無三!
来い!受け止めてy(ピチューン
もう自分から当たりに行ってしまいそうだww
て言うかあとがきひでえwwww
ナイス発想!特にあとがき!
結界に突き刺さってるってことは他の弾も…
そして後書きから滲み出る、言いようのない無常感たるや。これは傑作である。
毛玉といい……こいつらといい……泣かせるぜww
よし判った! これからも全力でカスり続けてやる!
つか、文さん何やってるんすかw
っと、点数いれ忘れた
まさか自機狙いの弾が主役な話なんて、人生で初めて見たわw
自機狙い成仏しろよwww
斬新すぎて笑いながら泣いたわっwwww
……写真は魂(たま)を抜き取るって話は本当だったのか……(遠い目
構成がうますぎる。
まさか、敵に回ると、こんなに恐ろしい物だなんて…………!!
とりあえず自機狙い乙
自機狙いが大好きになりました。
あとがきで綺麗に落とすところもすごいです。
文ちゃん写真とっちゃだめーw
あとがきでみごとにオチがついてるのもくやしい
こんなの書きたいwww
あれやりたかっただけじゃねぇかww
文お前実はわざとだろ
目の付けどころが素晴らしい上オチ完備。超久々に創想話に来て良いものを読ませていただきました。
コメント読んでからあとがき見て理解してから、また吹くとは思わなかったw
いやー、良いもの読ませてもらいました。