※早苗がすでに諏訪子を認識しているなど、公式設定と微妙に異なる部分があります。
また、「洩矢神社」「守屋山」は誤字ではありません。
中途半端に実在の名称を使用し、ややこしい事をしてすみません。
日はとうに沈んだ。
諏訪湖北西、天竜川の畔にある洩矢神社は、うらぶれた神社である。
昼間でさえ訪れる人は少なく、夜になれば、いよいよ世間から忘れられた様相になる。
けれども今宵は、いつになく多くの人で賑わい、各々の持つ提灯の光に、常は暗い境内が、今は明るく照らされていた。
神輿を担ぐ法被姿の男達、色とりどりの着物を着た女、子供達。
祭り衆である。
その人間達の中には、東風谷早苗の姿もある。
「ねー早苗、一緒に行こうよー」
そう言う友人達に、早苗はまた、申し訳なさのまじった笑顔を返す。
「ごめんね」
その返事は、すでに三度目になる。
そうやって何度も誘ってくれる事はもちろん嬉しいのだが。
「私、巫女だから、お祭りの日は神様のお側にいないと…」
返事を聞いて、友人達はヤレヤレという様子で顔を見合わせた。
早苗は、ドキリとする。
変な奴、と思われたろうか。
そういう見方をされた事はこれまでにも数え切れないほどある。
また事実、早苗は人が見ることのできないものをその瞳で捉え、感じる。しかし、変な子と思われて平気でいられるほど早苗の心は大人ではないし、物事を割り切れてもいなかった。
「ほんと早苗ってかわってるよねー」
小学校の頃、同じような事を言われて女の子グループからのけ者にされた事があった。
グループの一人の誕生日会と、社の祭日が重なった時であったろうか。
内心卑屈に感じながら早苗は友人達の顔色を伺う。
「変…かなぁ…」
すると友人たちは、笑った。
「そりゃあ、早苗ってば神様を真面目に信じてるんだもん。変わってるよ」
お前は変人だ、と確かにそう言っている。けれど、友人達の笑顔に悪意はないのだ。そこにあるのは、変人に対する拒絶ではなく、友人のちょっと変わった性格に対する愛のある嘲りである。
それを感じて早苗は、ほっとする。
「ま、神社の巫女さんが神様を信じてなかったら、詐欺だろって話だけどね」
「けどさぁ、おとんの知り合いに宮司さんがいるんだけど、その人、神様なんて全然信じてないらしいよ」
早苗が神様を信じている事なんて大した問題ではない、とばかりに少女達の話題はどんどん移り変わっていく。
早苗は、自分の中に根ざしてしまった臆病さを情けなく思う。しかし同時に、自分が持つこの人並みはずれた強い信仰心を、個性として認めてくれる友人達がいることを、幸せに思った。
そして少女達は、姦しく騒ぐ。
「えええ、おかしいじゃん、何よそれ。神社の人がそんなので、いいの?」
「そういうのを聞くと、ありがたみ無くなるよね」
「いや、でも早苗はちょっと信じすぎ!」
「いいでしょべつにっ」
「てかあんたさ、"おとん"って、何人よ?なんで関西弁?」
「じゃあ、そっちはなんて呼んでるさ?」
「え。パパ」
「うわキモッ!」
「ハ!?キモくないし!普通だし!」
祭りの夜を騒がしく彩る少女達、特別でもなんでもない、ありふれた光景がそこにあった。
東風谷早苗も、今はその中にいる。
その日、岡谷市、下諏訪町、諏訪市、茅野市では、年に一度の放瀬祭(ほうぜまつり)が行われていた。
祭りは二日間かけて行われ、各地区から十数に及ぶ神輿が出殿し、二日かけてそれぞれの所在区内を回った後、4箇所ある諏訪大社のうちもっとも近傍の社に神輿入りし、大社神徳の加護を戴いた後再びそれぞれの神輿殿に戻っていく。
一応は諏訪大社も関わる祭りではあるが、音頭をとっているのは各自治体で、あくまで庶民主体の祭りである。
市内を回り各所に溜まった厄を回収して萃め、力の強い諏訪大社でそれらを払ってもらい、さらにそれぞれの神輿に大社の神徳を分けてもらいご利益を地元に持ち帰ろうという、なんともガメツイ庶民根性に溢れた祭りなのだ。
ちなみに、神輿が自宅前を通過する折に、その年に生まれた娘や息子があれば母親がそれを抱いて神輿の下を潜るという風習があるが、その慣わしの意味を知るものはすでにいなくなってしまった。
早苗は小さい頃からこのお祭りが好きだった。
自分もただの一般人として気楽に参加できるからである。
普通、諏訪大社が絡むような規模の大きなお祭りになると、由緒正しい巫女である早苗は舞子役だの祝詞役だの実行者側に立たされる羽目になるのだが、庶民が主体のこのお祭りならばそんな事はない。
適当な着物を着て、何の責任もなく役割もなく、にぎやかな神輿団の後をついて回りながら気楽に楽しめばよい。
早苗の住所は茅野市であるが、早苗はいつも岡谷市川岸東地区の神輿団に加わっていた。
というのもこの神輿団のルートに洩矢神社があるからである。
早苗はいつも、神輿団が洩矢神社に立ち寄った時に一団から離れ、一人で洩矢神社に残る。
その理由の一つには、折り返し地点の春宮でもし顔見知りの宮司に見つかってしまいでもしたら、あれやこれやと役目を押し付けられるから、ということもあるが、一番の理由は洩矢神社に鎮座する洩矢諏訪子である。
早苗の慕う二柱の一方である八坂神奈子は祭りの間、大変活躍している。
次々に秋宮を訪れる神輿に神徳を分け与え、同時に神輿が集めてきた厄を吹き飛ばし、さらに神輿団と共にやってくる大勢の参拝客に加護を与えていく。
信仰が足りないとぼやく常日頃とはうって変わって、とても生き生きした姿を見せる日なのだ。
それに対して諏訪子はといえば、神輿団が洩矢神社を訪れるほんの一時だけは、幼い容姿に似合わぬ落ち着いた微笑で参拝客を迎えるのだが、皆が次の目的地に向かって神社から去ってしまえば、後は祭りが終わるまで静かになった境内で暇を弄ぶ。
境内から外に出ないのは、人間達が祭りを催している間、神様は社から外には出ないという不文律があるらしい。
二柱を慕う早苗としては、諏訪子だけが寂しい思いをするのは我慢ならなかった。
諏訪子にしてみれば、昔からそれが当たり前だったのでどうという事でもないのだが。
いまや早苗にとっては、諏訪子と二人、風にのって響く神輿団の太鼓やその掛け声に静かに耳を澄ませる時間こそが、「放瀬祭」である。
「そろそろ行かないと。置いてきぼりになっちゃうよ」
先程まで少々窮屈そうに洩矢神社の狭い境内をたむろしていた神輿団は、参道を出口に向かい始めていた。
「早苗、本当にこんな薄暗いところに一人で残るの?怖くない…?」
神輿団の持つ明かりがなくなれば、洩矢神社内の光源は、細い参道両脇に申し訳程度につるされた祭り提灯と、小さな本殿の正面に設置されたこれまた小さな電球一基のみである。
本殿と参道の周りは林のように木が乱立しており周りの民家の光はあまり届かない。
夜間に娘が一人でいるにしては、暗闇が強すぎる。
しかし早苗は、きっぱりと、頬笑みさえ浮かべながら首を横にふった。
「大丈夫だよ。だって、神様と一緒なんだから」
これにはさすがの友人達も呆れた顔をした。
「あはは…なんか、すごいねー早苗は…」
さすがにまずかったか、と早苗が内心で苦笑いしていると、友人の一人が本殿の入り口前面に備え付けられた賽銭箱にひょいと10円玉を投げ入れた。
コロッコロン…
ほとんど賽銭が入っていないのか、チャリンとした音は鳴らなかった。
「え、ありが…とう?」
なぜ急に賽銭を、と早苗が首をかしげつつ礼を言うと、少女はパンパンと手を合わせて、神妙な顔で言った。
「早苗が詐欺とかに会いませんように…」
「なによっ、そのお願いは!」
憤る早苗に対して、他の友人達は「ああ…」と、何か納得したような、心配するような、微妙な表情を浮かべた。
「まぁ…やっぱり時々心配になるよね。神様、神様って、ねぇ…」
「天然っぽいとこあるし…」
「もう!ひどいっ」
神様を信じているだけでなぜそんな事を言われなければならないのか、早苗は嘆いた。
そんな様子でだらだらしている間に、神輿団はすでに神社前の道路に出ようとしており、気づいた友人達は早苗だけを残し、慌てて後を追いはじめた。
「暇だったら携帯に電話して」
そう言い残して細い参道を駆けていく友人達に、早苗は一人、小さな本殿の前に佇み、手を振る。
友人達が鳥居をくぐり、道路との間にある三段ほどの階段を飛び降り、神輿団を追いかけて右折していくとその姿は見えなくなった。
途端に、洩矢神社はいつもの寂しさを取り戻す。
暗闇の中、頭上の木々が風に煽られ、サァ…と葉を擦らせた。
「早苗」
木々の唸りを合図にしたかのごとく、本殿から神社入り口に向かって左手にそそり立つ「一の御柱」の影から、諏訪子がヒョコッと現れた。
「諏訪子様、そこにいらしたのですか」
「邪魔しちゃ悪いしね」
早苗の側に立って、神輿団や友人達が消えていった鳥居に目を向ける諏訪子。
「一緒に行かなくていいのかい」
「ええ、私はここにいます」
ゆっくりと、しかしきっぱりと、早苗はそう答えた。
やれやれ、と方をすくめる諏訪子。
「早苗が私を気遣ってくれるのは嬉しいけど…私としては、早苗が友達と一緒にお祭りを楽しんでいる姿を見せてくれたら、それが一番嬉しいのだけどねぇ…」
「………」
そう言われると、早苗は返す言葉に困る。
「こんな寂れた神社の落ちぶれた神様はさ、祭りの夜に一人でいたって、今更寂しいと思ったりなんかしないよ」
そう自嘲気味に笑う諏訪子は、かつてはお水波(すわ)様と崇められ、この諏訪の地全域を纏めていた偉大な水神である。
恐れ多い感情だとは思いつつも、早苗はいっそう不憫になった。
「お祭りの日に人気が無いのは寂しいって、諏訪子様も神奈子様もおっしゃっていたじゃないですか。ですから私は…」
「あら、それは別の話だよ」
え、と早苗は小さく首をかしげた。
「あれは、『例祭の日でさえ、信仰が集まらなくなってきた』って話をしていたんだよ。今日のお祭りは人間が自分達のために行ってるもんだろ?だから、私達を信仰していようがいまいが、皆で楽しく賑やかにしてる姿を見せてくれたら、私らはそれで嬉しいんだよ」
「そ、そうでしたか…」
「だからねぇ、私は早苗が友達と一緒に祭りを楽しんでいる姿を眺める事ができたら一番なんだけどねぇ」
「うう…で、でも」
諏訪子や神奈子にはできる限り従ってきた早苗だが、今はどうしても素直に言う事を聞けなかった。尊敬する二柱の言葉に逆らうほどの強い想いが、胸の内にあるのだ。
「わ、私は諏訪子様といたいのです。お祭りの夜を諏訪子様と一緒にすごしたいのです」
だめですか?とすがりつくように問い詰める早苗に、今度は諏訪子が、うっ、と言葉を詰まらせた。
諏訪子をみつめる早苗の瞳はまるで母親に哀願する子供のようであり…というより、子供の我侭そのものである。けれど、それゆえに瞳は真っ直ぐすぎる強い力を持っていて、諏訪子はつい目を逸らせてしまう。
「も、もぅぅ…早苗はねー…時々そうやって変な直球を投げてくるんだからねー…誰に似たんだろう…げ、神奈子か?」
「普段、お側にいさせてもらっていますから、似てもくるのかもしれませんね」
神奈子に似ている、と言われて早苗はなんだかお尻がむずむずした。そこはかとなく頬も緩んでいる気がする。
「私らを『見る』風祝は久しぶりの事だからなぁ。神奈子なんざ特に大はしゃぎで、早苗が生まれてからずっとくっついてるし…性格も似るかね…」
「諏訪子様と神奈子様とは、誰よりも長い時間一緒いますから」
「早苗の父ちゃんと母ちゃんには聞かせらんないよ…」
諏訪子は難しい顔をした。
「うーん…ねぇ早苗、せっかく良いお友達もできたんだし、やっぱり一緒にお祭りにいってきなよ」
「え…」
自分の気持ちを素直に話して、それを突っ返されたのだ。早苗は見捨てられた子供のような顔をした。
「ああもう!そんな顔をしない!」
「!?」
厳しい顔をしつつ、ビシっと早苗の面を指さす諏訪子。
「いいかい早苗、人間ってのは思春期になるとねぇ、精神的に親元を離れて自分の社会を作っていくもんなんだよ。いつまでもそんなのじゃダメっ」
「そ、そんな事…」
と、叱られる子供のように弱々しかった早苗の表情に、反骨心を宿した力強さが現れる。
「そんな事、諏訪子様に関係ないじゃないですかっ。諏訪子様は私のお母さんじゃないですっ」
「…! そ、そりゃお母さんじゃ…ない、けど…」
お母さんだろうがそうでなかろうが、それは話の内容には関係ないのだが、しかし、諏訪子にとっては思ったよりこたえる反撃だったようだ。
「あれ、なんでこんなにショックなんだろう私…」
早苗は俯いて頬を膨らませているので、諏訪子の様子の変化には気付いていない。
「諏訪子様と一緒にいたいって言ってるだけなのに…なんでダメなんですかっ」
「ああもう、駄々こねる時の神奈子みたいな顔しないでちょうだい…。なんだかなぁ、お母さん気分になってたのかなぁ私…。やれやれ早苗、変な事いってごめんね。勘違いしてたよ」
早苗は、おや、と顔を上げる。
諏訪子は、笑っていた。その笑みは、早苗には照れ隠しのように感じられた。
「…? 勘違い、ですか?」
早苗の言葉には答えず、諏訪子は腕を組んで、念仏を唱える様に独白をする。
「そうだよねえ。早苗は巫女なんだから、神様を大好きなのは当たり前の事なんだよねぇ。私ぁ、ついつい母親みたいな気分になって、それを甘えん坊だと勘違いしちまった。早苗が赤ちゃんの頃から一緒にいたからかねぇ。いやそもそも、だ。早苗が甘えん坊だからどうだっていうんだろう。この子達には甘えん坊やら聞かん坊やら、いろんな子がいるんだ。それが当たり前なんだから。いやはや、たった一人の人間の性質にとらわれてしまうなんて、神様として失格だねぇ。うん、私のほうこそ子離れしなきゃいけないのかも」
早苗は目を白黒させた。
諏訪子の言葉が自分に語りかけている類の物で無い事だけはなんとなく分かったが、語りが突然すぎるのと漠然すぎるのとで、すぐには諏訪子の意図が把握できない。
「な、何をおっしゃっているのか良くわかりませんが…あの、私、甘えん坊ですか」
諏訪子はケロケロと笑いながら、首を振った。
「うんにゃあ、早苗は信心深い良い巫女さんだよ」
「はぁ、ありがとうございます。えと…一緒にいてもよいのですよね?」
諏訪子はまた苦笑いして、「こんなしょぼくれた神様でいいならね」と答えた。
二人並んで狭い軒先に腰を下ろして、三十分も経過した頃である。
祭りの音に耳を済ませていた早苗に、諏訪子が、ぽつりと言う。
「早苗、散歩に行こう」
早苗は、首をかしげる。
「神社を空けるのはご法度では」
「なに、どうせ誰もこないよ」
あははは、と笑う諏訪子。
さすがに一緒に笑う事はできず、早苗はほんの愛想笑いをした。
「は、は…それで、どちらに行きましょう」
「守屋山の山頂に行こう」
「え!」
諏訪湖の湖畔でも歩くのかと思っていた早苗は、守屋山と聞いて驚いた。
守屋山といえば本宮の裏手にそびえる山で、洩矢神社から登山道入り口までは車でも(スムーズにいって)30分近くかかり、さらに登山道を徒歩で一時間以上も登らねばならない。
「飛んでいけばすぐだよ。今は夜だから、高く飛べば誰にも見つからないさ」
「そ、そうでしょうけど…」
神様ならいざ知らず、人間の感覚では日が暮れてから山に入ろうなどというのは命知らずで酔狂な事である。
「な、なぜ急に山へ?」
「昔はよくあの辺りに座って、生物達が諏訪の山々を駆け回るのを眺めたものだよ。昔の事を考えていたら、ふと懐かしくなってきちゃったのさ。さ、行こう」
諏訪子が、問答無用と早苗に手を差し出す。
「え、あ、はい」
早苗は今だ少し戸惑いながらも、その手を握り返した。
神様が行きたいというのなら、理由がなんであれ、自分はただ後について行くだけである。
ふわりと、早苗の足が石畳から浮かび上がる。
二人は、木々に覆われた暗く狭い境内から、天地の星に照らされた果てのない夜空へと飛び立った。
途中二人は、寄り道をするように諏訪湖の上空を飛んだ。
百メートルもの上空を飛んでいると、茅野、諏訪、岡谷まで町の光が大地を覆うのがよく見える。
諏訪湖の西を南北に抜ける中央自動車道の光点は、まさに諏訪と外の世界を結ぶ光の道だと感じられた。
しかし諏訪湖だけは、光の草原の中にぽっかりと暗い大穴を穿っている。
その大穴を足元に見下ろし、今にも吸い込まれそうだと、早苗は少しばかり恐怖を覚えた。
しかしその傍らの諏訪子は、どこか満足げにその闇を見下ろしている。
何を想っているのだろう、と早苗が見つめていると、諏訪子がまたぽつりと言った。
「昔は逆だったんだよ」
「逆?」
「うん。今みたいに電気が無い頃の話さ。お日さんが沈めば、当然大地は一面真っ暗闇さね。その中で諏訪湖は空に瞬く星々の光を反射して光っていたんだ。今は、逆でしょ?人間達はよく頑張ったものねぇ、諏訪湖からそれらの光を引っ張りだしたんだ」
「諏訪湖が、鏡みたいになってたいのですか。そう言えば、天鏡湖という名前を聞いた事があります」
「東北にある猪苗代の湖の別名だったかね。まぁ大昔はどこの湖も天鏡湖といえたのさ。町明かりが強すぎて、今では諏訪湖の星は見えなくなってしまったけどね」
早苗は瞳を閉じて、その光景を浮かべようとした。だがどうしても、今の光景が強すぎて想像を邪魔する。
「私も、その光景を見てみたかったです」
「諏訪湖の星を見た事があるのは私と神奈子だけさ。諏訪湖の星が見えていたころには、早苗ほどの風祝は現れなかったからねえ」
神奈子はどうしているだろうかと、二人は秋宮の方角に顔を向けた。
もちろん夜の暗い大地においては、木々に囲まれた秋宮は、どこにあるのか正確には分からない。
けれど今夜は祭りである。おそらく大社通り交差点から秋宮までの中山道であろう場所に、普段とは比べ物にならないほどの光の数珠がキラキラと輝いて、秋宮の場所を示していた。
「おー。さすがにあちらは賑やかなようだねえ」
「あの光の列は夜店ですしょうね。すごい、あんなにたくさん」
中山道の途中にあるコンビニエンストアの駐車場では、今頃は何か芸事が行われているだろう。
正月の三ヶ日や祭りの間は、その駐車場が丁度いい芸事の広場としてしばしば利用されているのを、早苗は良く知っていた。
「神奈子様、一週間も前から今か今かとウズウズしていましたよ」
今頃神奈子は神楽殿に祭られたお気に入りの御鏡の前で、訪れる神輿団や参拝客を眺めて満足げにふん反りかえっているのだろう。
その姿を想像して、早苗はくすりと笑った。
「神奈子は昔から祭り好きだからねぇ。知ってるかい、祭りの前後はね、諏訪中の御柱が数センチ長くなっているんだよ」
「し、知りませんでした。そんな怪現象が諏訪で…」
「というか一昔前は、神奈子から滲み出る神力で自然と毎日変化してたんけどね。近頃ではそうはいかなくなってしまったよ」
「諏訪子様…」
神奈子と諏訪子が自身の衰えを口にする時、早苗はいつも、巫女である自分に何かできることはないのかと、情け無い思いをしている。
大勢の人間の前で自分が奇跡を実行してみせれば、皆に神様の存在を信じてもらえると考えた事もある。
けれどそれは諏訪子に止められた。
日本の神々の願う信仰とは、人間達が山や空や海を眺めた時に心から自然と溢れてくる畏怖の念がその大元にあるべきで、特異な能力に対して抱く類の念ではいけないと言う。
そもそも人々がそれで敬うのは、神様ではなく早苗個人である。
「そろそろ行こっか」
「あ、はい…。すみません」
つい、口から気持ちが漏れた。
「何を謝るのさ?」
「いえ…」
秋宮を背にして、諏訪湖を南へ飛ぶ。
本宮と前宮の辺りも秋宮と同じく賑わっていたが、平野部から山へ入ると大地の様相は一変した。
光が、全く無い。
諏訪湖以上の闇が足元に広がっていく。
後ろを振り向けば町の光が見えるが、前を向いても横を向いても、空と大地の境目まで、恐ろしいほど広大な日本アルプスの暗闇が広がっていた。
地理的には、飯田や松本の明かりが見えるはずなのだが、角度的に、山が邪魔しているのだろう。
こんな暗闇に一人で放りだされたら…と早苗は身震いをする。
今や、つないだ手の平に感じる諏訪子のぬくもりだけが、唯一の拠り所だった。
そうして諏訪子に導かれるまま飛び続け、とうとう二人は守屋山山頂と書かれた立て札の脇に降り立った。
もともと山頂はそう広くもない岩場であり、さらに暗闇の中でとあれば、もはや歩く事さえ出来ない。
だがそんな暗闇の中でも問題なく周囲が見えているらしい諏訪子が早苗の手を引き、
「早苗、ここに座ろう」
と、手ごろな平岩を選び、並んで腰を下ろした。
早苗は、周囲を見渡した。
自分の周囲からしばらくは、真っ暗でほとんど何も見えない。せいぜい、隣に座る諏訪子の横顔がぼんやりと月明かりに浮かぶだけである。
それでも遠くには、諏訪の町明かりと、八ヶ岳連峰の裾野に広がる、平野部の光が見えた。
「綺麗ですね諏訪子様」
「うん」
百万ドルの夜景とはとても言えないけれど、八ヶ岳連峰から諏訪湖までの夜景は、やはり日常では見ることのできない圧倒的な光景である。まるで、八ヶ岳連峰から染み出した光が段々と数を増しながら諏訪湖に流れ込んでいくかの様に、巨大な一本の光の川に見えるのだ。
「さっきも言ったけど、ずーっと昔、私は良くここに座って洩矢の民が山々を駆け巡るのを眺めていたんだ…。神奈子がきて、人間も増えて…諏訪もずいぶん賑やかになったなぁ…」
早苗は数キロはなれた茅野や諏訪の光に目を奪われていたが、諏訪子の瞳はもっと遠く、はるか彼方の景色を眺めているようだ。
「諏訪子様にとって、ここは大切な場所なのですね」
「うん、本当にそうだよ」
そう言って諏訪子は、枝垂れかかるように早苗の肩に顔を預け、腰に手を回して、寄り添った。
「す、諏訪子様?」
「…ここに座る時はね、いつも一人だったよ。神奈子は諏訪湖の空に浮かんでいるのが好きだし、人間達には私が見えないし」
どぎまぎする早苗に、諏訪子は優しい声で語りかける。
「誰かと一緒に…うんにゃ、早苗と一緒にこうしていられる事が出来て、嬉しいなぁ」
早苗も、少し照れながらのぎこちない手つきではあるが、諏訪子の腰に手を回す。
「…私も、ご一緒できて嬉しいです。最初、山頂にいくと聞いたときは驚きましたけれど…」
「にへへ…」
二人が口を閉じると、時折吹く風の音を除いて、周囲は全く無音になった。
街中の無音と高原の無音はまったく環境が異なるのだと、その時早苗は知った。
街中で言う静かな環境とは、よくよく耳を澄ませば車のエンジン音や風が建物を撫でる音が低周波の波となってひっきりなしに耳を叩いている。
しかし守屋山山頂ほどの高度になれば、そんな街の音は人間に知覚できないレベルまで低下するし、山頂付近では森林限界を超えて木々は少なくなり、耳に届く音を立てる物も少ない。
何より、場所によっては数十キロの視野を得ながら無音の世界を体験することになる。
町明かりがたくさん見えるのに、昼であれば広大な世界が眼前に広がっているのに…しかし無音なのである。
そんな環境にいると人間は、世界から隔絶されて独りぼっちになったような錯覚に陥る。
早苗はすがりつくように、いっそう強く諏訪子の肩を抱き寄せた。
シュ…、と二人の衣服が絹ずれの音を出す。
諏訪子が「ん…」と、息を吐く。
そんな小さな吐息でさえ、はっきりと早苗の耳に届いた。
一人ぼっちでは無いのだと、側にある諏訪子が、そうして教えてくれた。
「諏訪子様、もし私が普通の人間だったら…諏訪子様や神奈子様がお側にいてくださっても私は何にも気づかなかったのですね」
「そうだろうね。どうしたの、急に」
「…東風谷の人間で本当によかったなあって思ったんです」
「…うん。私もそう思うよ」
諏訪子が、よしよしと早苗の頭を撫でる。
子供扱いが恥ずかしい、という感情は全く起こらなかった。
もっと撫でてほしい、と感じる。
「誰にも気づいてもらえないなんて…諏訪子様達もお寂しかったのでは」
「まぁつまらなくはあったけれど、寂しいとは感じなかったよ。神様ってなぁそういうもんだ。…むしろ、寂しいのは、ここ何十年のほうかね」
「え…」
「昔は、たとえ私達の姿が見えなくても神様を想ってくれる人が大勢いた。けど、今はねぇ…」
早苗の脳裏に、恐ろしい想像が浮かんぶ。
「諏訪子様、もし、皆が神様のことを考えなくなってしまったら、神様はどうなってしまうのですか…?」
諏訪子は、事も無げに答えた。
「きっと消えてしまうんだろうね」
「…そんな…」
悲しい顔でうつむく早苗の太腿を、諏訪子が優しく撫でた。
「私達は人間より強いけど、私達を生かしているのはそちらだからね。しかたない。なぁに、心配しなくても早苗のように強く想ってくれる子がいる間は絶対にいなくならないから大丈夫だよ」
早苗は諏訪子の言葉に少し安心したが、それでも、脳裏にある恐ろしい想像は中々消えてはくれなかった。
「神様がいない世界なんて…寂しすぎます。私には耐えられません」
「やっぱり早苗は甘えん坊だね」
諏訪子が元気付けるように笑い、そして、何かを思いついて、ぽんと手を叩いた。
「そうだ、久々に抱っこしてあげるよ。ほら、私の膝の上に座りなよ」
さすがに、抱っこは恥ずかしい。
「え?い、いえ、重いですから、そんな…」
「私は諏訪の人間全員を支えてきたんだよ。娘っ子一人、何が重たいものかね。ほら早く」
「そ、そういう事では、なくて…」
結局、ホレホレとせかす諏訪子に根負けして、早苗は「失礼します…」といってから諏訪子の両足にまたがり、互いに向き合う形で抱きついた。
諏訪子が包み込むように早苗を抱擁する、と思われたが…
「…あーうー、ちょっとおかしいねこれは」
「は、は、は…」
早苗は諏訪子より身長が大きい。
なので、早苗が諏訪子の膝にまたがって抱きつくと諏訪子の顔が早苗の乳房の下に埋もれる形になってしまい、諏訪子が早苗を抱いているというより早苗が諏訪子を抱きこんでいるといったほうがしっくりくる有様になっていた。
「やぁ、いつの間に、あ早苗も大きくなったんだねぇ…」
早苗の顔の前には諏訪子の帽子についているでかい目玉があった。
それが早苗にしみじみと語りかけている。
「お、おかげさまで…」
このままではあまりに話難い。
じゃあ膝枕をしてやろう、と諏訪子が言い出したが、岩場なのでそれも辛い。
もぞもぞと体勢を変えた末、結局、お互いの位置がひっくり返って早苗の膝に諏訪子がまたがる事になった。
「…あのう諏訪子様、なぜ私の方を向いてまたがるのですか。って、ああ、そんな、抱きつかないでください」
こうすると目線の高さは丁度同じになるのだが、二人の顔が異常に接近するので、早苗としてはやはり落ち着かない。恥ずかしくて顔が赤くなって、この姿勢ではお互いに表情が丸分かりで、それを思うとさらに頬が熱くなった。
「いいじゃないの。ああ、早苗の太ももとお胸が暖かい」
「…私も諏訪子様のお尻があったかいです」
むぎゅっと諏訪子が抱きついてきて、しばらく二人は、お互いの体温を感じあった。
鼻腔に入る諏訪子の匂い、全身で感じる諏訪子の感触、微かに聞こえる諏訪子の透き通った吐息、こっそり口づけして感じた諏訪子の首筋の味、視界いっぱいに広がる諏訪子の細いうなじ…一時、早苗の五感は、諏訪子でいっぱいになった。思考が、甘い霞に覆われていく。
「ねぇ早苗」
「…はい?」
「私は思うんだけど、神様を忘れる事はそんなに悪いことじゃないよ」
溶ろけていた早苗の意識が、固まる。
「…なにをおっしゃるのですかっ」
触れ合っていた体を少し乱暴に離し、早苗は半ば非難するような瞳で、諏訪子の顔を刺した。
「お前達はもう、神様に頼らずとも自分達の力だけでこの世界と向き合えるようになってきてるのだよ」
揺れる早苗の瞳を、深い諏訪子の瞳が、見つめ返した。
「以前は、お前達には理解できない事が多すぎた。時々空が薄暗くなってそこから水が落ちてくるのは何故なのか、爆音とともに空に光が走るのはなぜなのか、その光が時折地上に降りて高温をまとったうねる光の化け物になるのは何故なのか、途方も無く大きいこの大地が時折轟音を立てて揺れるのは何故なのか、周期的に空が真っ暗になるのはなぜなのか…。でも今はもう、そうじゃない」
「お、おっしゃっている話がわかりませんよ…」
諏訪子は早苗の言葉には取り合わなかった。
「自分達を取り巻く途方も無く強大な未知の力…大自然、かね。お前達はそれらが恐ろしくて、私達に手を引かれていないと向き合う事ができなかった。けど今やお前達は向き合うどころか、大自然がなんであるか、理解しようとしている。私達の手を借りずとも、一人でやっていけるようになってきたんだ」
諏訪子は強く、早苗を抱いた。
「幼年期を終えて、お前達は成長した。私は誇らしい」
だが早苗は、ほとんど乱暴とも言える力の強さで諏訪子の肩を押して、無理やり上半身を引き離した。
驚いた顔の諏訪子。
早苗は、乱れているであろう自分の表情を隠しもせず、声が震えるのも気にせず、必死に言う。
「諏訪子様、見てください」
早苗は遠くにある町の光を指差す。
諏訪子は腰をひねり、それを見た。
「町明かりなんて、小さいものじゃないですか。周りを見てください。真っ暗で何も見えない世界が、その何百倍もずっとずっと広がってるじゃないですか。諏訪子様がいてくれないと、私、恐ろしくてどこにもいけませんよっ。一人でだなんて…」
早苗の言わんとする事を理解して、諏訪子は首をふった。
「一人じゃないよ。お前達はお互いに協力しあえるじゃないか。あの光が、そうだろう?」
早苗は、今度はしがみつくように諏訪子の体を抱きしめた。
「嫌です。そんなの嫌です。私は諏訪子様がいいです。まだ…私達は子供ですっ」
「人間の話をしているのか、早苗の話をしているのか、わからなくなっちまったねぇ…。ま、神様としては頼ってもらえて嬉しいんだけどね」
しかたいねぇこの子は…と、諏訪子は早苗の背中に手を回し、さする。
それだけで、早苗の不安が少し削られていく。
神やすり、である。
「諏訪子様、なぜ急にこんな話をするのです?」
「ここしばらく、神奈子が信仰信仰と五月蝿いだろう。早苗が影響されないかと心配でね。私の考えも話しておきたかったんだよ。信仰に囚われる必要はないんだから。私ぁ、友達と笑ってる早苗の姿が見たいんだよ」
早苗は、少し怒った。
「今の私のこの気持ちは、信仰だとか神様だとか、そんなの関係ないです。私はただ、諏訪子様と神奈子様と一緒にいたいだけです。側にいる人がいなくなったら寂しいって、当たり前の事を言ってるだけですよ。たまたまその相手が神様だっただけですもん。当たり前の気持ちなのに、なんだか難しい話にされてしまって…こんな寂しい話、しちゃ嫌ですよ…」
「ん…」
諏訪子は早苗の頬を包み込むようにすりすりと両手で撫でた。
諏訪子の瞳が、じっと自分を見つめている。
早苗はなんとなしに、チューされるのではないかと緊張したが、そうはならなかった。
「まぁ、それも人間らしい感じ方だ。しかしね、例え人間同士だったとしてもやはり親離れは必要だと…」
諏訪子が最後まで言い切らないうちに、早苗は言った。
「分かりました。では親離れをするとして、これからは巫女として二人にお使えします」
「いや、だから、それこそ信仰に囚われて…」
言いかけて諏訪子は止めた。
甘えも当然あるだろうが、それだけだとは言い切れない、一人間の心からの信仰による決意が、早苗の胸の内にはもうあるのだと、分かってしまったのかもしれない。
諏訪子が、溜め息を吐きながら、笑った。
「…この、ばかたれ」
つんと、諏訪子が指で早苗の額をつついた。
くすぐったくて、早苗は猫が顔を洗うようにイヤイヤをする。
そうしてしばらく困ったように笑っていた諏訪子は、ふいにすっきりとした顔をして、空を見上げた。
いつもの諏訪子に戻ったようで、早苗は安心する。
「早苗。人間達は一度は神様を忘れるかもしれないけど、お互いに手を取り合う時が必ずまたくると私は思うんだ」
「と、いいますと」
早苗が首を傾げると、諏訪子は腕をかかげてビッと上を指差した。
「空…ですか?」
「そのもっと上だよ」
「えっと…」
「宇宙だよ」
「宇宙…」
「あそこはまだまだ、神様にだって未知の世界さ。人間達があそこを旅するとき、少なくとも始めのうちはきっとまた私達を必要とするよ」
「はぁ。そう…ですか」
ピンとこない話だったので、早苗には相槌を打つことしかできなかった。
「もっとも、今みたいに神様も多種多様にバラバラではいられないだろうねぇ。だんだんと合わさって、この星全体が唯一の神様になるんじゃないかなぁ」
「諏訪子様と神奈子様も、合体しちゃうのですか」
ふむふむと早苗が言うと、諏訪子は、微妙な顔をした。
「いや、変な言い方しないでよ…」
「諏訪子様がそうおっしゃって…」
そうだけどさ、と諏訪子は口を尖らせた。
「まぁそれまで、私は神社の奥で寝ていようかな。お祭りの時とか、早苗が遊びにきた時は起きるけど」
「そんな投げやりな。参拝の方だっていなくなったわけではないのですから、きちんと皆さんの前にいてもらわないと…」
「なぁに、神社で手を合わせる気持ちがあるのなら、実際に神様がいるかいないかは問題ではないよ」
早苗は、神様がそんな態度だから信仰がへるのでは…と思う気持ちが顔にでないよう、意識しなければならなかった。
「早苗や」
「はい?」
「何度も同じことを悪いけど、もう一度これだけはハッキリ言っておくよ。私は、早苗には人間達と一緒に生きてほしいと思っているよ。早苗は少し特別なヒトかもしれないけど、人間として幸せを見つけてほしい」
「…やっぱり今日の諏訪子様は変です。なぜそんな事ばかり言うのですか…。お別れするみたいじゃないですか」
と、早苗は首筋にヒヤリとしたものが流れる。
「諏訪子様?そんな事ないですよね…!?」
悲鳴のような呟きだった。
「…私の思うところを言ったまでさ。せっかくいいお友達ができたのだから、大事にしなよって、ね」
諏訪子はゆっくりと早苗を安心させるように言ったが、諏訪子の返事が一瞬遅れた事が早苗の胸をざわつかせた。
「お願いですから、私の事を思ってくださるのならそんな事を言わないでください。私も何度だって言いますよ。お二人がいなくて、どうやって私に幸せになれというのですか」
「…神奈子に言ってあげな。泣いて喜ぶ」
早苗は、少し俯いて、恥ずかしげに頬を抑えた。
「押し倒されました」
「…ああ、もう言ったのね…私の知らない所で何やってんだ…」
「…あのぅ…」
「うん?」
「諏訪子様は…喜んではくれないのですか…?」
「………」
諏訪子はしばし何かを考えるように目を瞑り…
「きゃっ」
そして早苗は、岩場に押し倒された。
気だるい午後の授業。
前回の席変えの際に運良く窓際の席に座る権利を獲得した早苗は、授業を行う教師の声などどこ吹く風に、窓の外を眺めている。
グラウンドと国道を挟んだすぐ向こうに、静かに広がっている諏訪湖。
本日の天気は快晴で、諏訪湖の湖面は空を映して青くキラキラと輝いている。
天鏡湖…諏訪子との会話を思い出す。
視線を湖面の上空に向けると、そこには神奈子が浮かんでいる。
器用に空中で胡坐をかき、何をするでもなく諏訪を見下ろしている。
早苗のほかには誰もその姿に気づいていないだろうが、諏訪にやってきてからずっと、神奈子はそうしてきたのだろう。
その姿に見とれていると、ふいに神奈子が早苗のほうを向いてヒラヒラと手を振った。
周りのクラスメートや教師に悟られぬように、小さく手を振り返す。
神奈子が、微笑んだ。
早苗は、授業なんか抜け出して、今すぐ神奈子の元へ飛んでいきたいと思う。
諏訪子様の方は今頃どうしているだろうか、と考える。
洩矢神社で寝ているか、ひょっとするとまた守屋山の山頂にいるのかもしれない。
自分もその側にいたい、と早苗は心から思った。
やはり諏訪子の願いには、従えそうにない。
なんといい言葉 感動した
あなたはきっと、書き続けていたら、素晴らしい作家になります。
目を皿のようにして、文章を見返してみてください。
くださっても
洩矢神社・守屋山は(この作品内では)誤字じゃないですよね?実在する地名ですし。
ほのぼのとした生活描写の中に、しんみりとして一抹の寂しさを感じさせる。
とても素晴らしいお話だったと思います。
技術的な面では、改行の位置が気になりました。
間違ってたらすみませんが、Wordか一太郎をお使いでしょうか?
その場合、書き上がったものを全文コピペしてメモ帳に移し、
改行位置を調整してみるとよろしいかと思います。
同時に校正も出来るからなかなか便利ですよ。一度お試しを。
皆様のコメントを目の当たりにし、なんともありがたく気分が
高揚するしだいです。
しかし、誤字脱字については本当に反省しなければと思います。
初期の状態では山ほどの誤字脱字やら、台詞とそれ以外の分が
同じ高さになっていたりやらと、読んでくださった方に申し訳ない…。
まだどこかに残っているのではと戦々恐々。
>18様
洩矢神社・守屋山は誤字ではありません。
誤解の印象を与えるようなややこしいことをしてしまい、
読み手の方への配慮が足りなかったと悔やんでいます。
また文章作成にはStoryEditorというソフトを使用しています。
wordもインストールはされているのですが…。
アドバイスいただいたメモ帳での改行調整を試してみました。
が…どうも行ごとの揺らぎが残っていますね…。
これも…精進します…。
オリ設定な過去話なのに不自然なところも無いですし
読んでいて物寂しさと微笑ましさが入り混じったような気持ちになりました
登場人物の立ち居振る舞いも、映画を見ているように鮮明に意識に描かれました。
それに諏訪子と早苗の会話の内容も、上手くいえないのですが地に足のついた、そのキャラクターの本心と誠実さを感じるものでした。
もう少し改行を多くするとパソコン上では読みやすくなるかと思います。
しかし、読めて本当に良かった。
諏訪子の母性が心に沁みます。
この早苗は実に良い子。
美味しかったわ…
久々に心が動いた文章でした。
神と人に関する考え方だって神奈子と諏訪子では違うし、早苗と接するときの態度も二人それぞれ違うんですよね。
諏訪子の、神様や人に対する考え方にしんみりさせられました。
とても面白かったです。
タグには入ってないけど神奈子様もちょいちょい活躍してるww
何というか公式設定との差異も全く気になりませんし、
早苗さんは甘えん坊で可愛いしお腹いっぱい
諏訪子のセリフひとつひとつに歴史を感じますね