ブログの方でアンケートを取ったら乙女ゆうか霖が多いという事態に・・・絶対ナズー霖とか魔理霖とか来ると思ってたけど予想外ですた・・・いや、ゆうか霖好きだけど。ではどうぞ。
~小さな世界の思い出物語~
ガラガラと大きな音を立てて荷台を引きずる彼の姿を後ろの木に身を隠しながら見つめる。
そんな事をもう何回繰り返しただろうか・・・長く生きている妖怪は時間という概念が薄いので昨日あったことでさえ何年も前のように感じてしまう。
「今日も異常はないわね・・・」
彼が店の中に入るのを見届けると一息ついて、その場に座り込む。無縁塚から森の入り口までは障害物が多い上に距離もかなりあるので普通に歩いて往復するだけでも疲れる。それを荷台を引きながらも楽々と歩んでいる彼は実はかなりの体力があるのかもしれない。もしくは自分が飛ぶ事に慣れてしまって体力が無くなってしまったか、だ。
そもそも何故、幻想郷の中でも最凶最悪と恐れられる風見幽香が半妖をコソコソ尾行しているのか・・・話はだいぶ前に遡る。
彼との出会いは一言で表すなら偶然と言っていい。その時は仲の良い知り合いがいなく1日の大半をする事もなく向日葵畑で過ごしていた(今もだが).ある夏の猛暑日だった・・・彼と出会ったのは。
人間は体表の30%以上を火傷するか体温42℃を超えれば大体死んでしまう。対して妖怪は身体が沸騰しようが体表の90%の火傷を負おうが、生命力が高い者なら四肢が無くなり臓器が2,3個消し飛んでも生きていられる・・・が、それはあくまで妖怪が人間より死ににくいというだけで冬には寒いと感じるし、夏は暑いと感じる。それを『自分は妖怪のなのだから大丈夫』と勝手に解釈してしまい真夏日や猛暑日でも平気で一日中陽に当たり熱中症で倒れる者もいる。彼女が正にソレだった。日中の温度が40℃を超えていた日にも関わらず花の手入れをしていたからか、本当に・・・いつの間にか・・・自分でも気付かない間に地面に倒れていた。
「・・・?」
段々と狭くなっていく視界の果てに、何かの足が見えた。意識は混濁していたが耳はちゃんと聞えていた為に地面を踏み鳴らす音がどんどん大きくなって、ソレがこっちに来たことが分かった。人間でも妖怪でもどちらでもいい。どうせどっちも自分の顔を見たら逃げるか殺すかしかないのだから・・・。
そしてとうとう視界が全て暗転し、彼女の意識はそこで途絶えた。
「ん・・・ようやくお目覚めのようだな」
意識が戻ると自分が布団で寝ていたのが分かった。やけに温かったからだ。
上半身だけ起こし、声のした方へと身体を向けると一人の男と目が合った。
「貴方が助けてくれたのね。ありがとう」
基本的に強い妖怪ほど普段は紳士的である。困っている時に助けてもらえば子供にも礼はするし、牙を向けて来るのなら獣だろうが一撃で沈める。そんな妖怪の特徴を知らない彼にとって色々危険な噂が流れている彼女が自分に対して感謝したのに、若干驚いた。
「意外だな・・・君のような大妖怪でも、こんな半妖に礼が出来るのか。粗末な布団を使って悪かったな」
「気にしなくていいわ。元々助けてもらえると思ってなかったし・・・そんな事より、どうして私を助けたの?」
目が覚めてから気になっていた事を彼に尋ねる。幻想郷内での自分の評価は最悪だ。人間も動物も・・・(一部を除いて)妖怪ですら彼女を恐れる。唯一自分と対等に話せる人間など、ある花屋の店主ぐらいだったろうか。その店主でも打ち解けるのに何年も掛かったのに、何故目の前の彼は赤の他人で・・・しかも最凶最悪のレッテルを貼られている自分を助けたのだろうか、不思議で仕方ない。だが、そんな彼女の気持ちとは裏腹に彼は特に気にするでもなく、サラっと言い放つ。
「たまたま帰り道に君が倒れていたのを見てしまったからな・・・」
「そんな理由で?起きた時に私が何かするとか思わなかったの?」
「無縁塚の帰り道・・視界の端で君が花の世話をしている姿を何度か見たことがあるんだ。花でも動物でも・・・何かを育てる事の出来る妖怪がそんなに危険だとは思えなくてね」
その言葉はとても真っ直ぐで、しっかりと彼女の目を見据えていた。
「・・・そう」
最後は素っ気なく返したが、ホントは素直に嬉しかった。こんな風に見てくれる者もいるのだと。ただ恐れられているわけでは無いのだと。自然と暖かな感情が込み上げてくる。
「貴方気に入ったわ・・・名前は?」
「森近霖之助・・・ただのしがない半妖だ。名前は長ったらしいから店主でいいさ・・・あっ、それとアレを渡すのを忘れていたな」
彼が自分の名前を明かした後、何か思い出したように立ち上がり部屋の端からある物を取り出した。
「・・・傘?」
霖之助が幽香に向かって、どこにでもあるような傘を渡した。
「ふふん、ただの日傘じゃないぞ。直射日光・紫外線しかも弾幕まで防げる代物だ。スペルカードの種類によっては、その傘から技を発動させる事も可能だ」
彼が自慢気に語る。だが、一方の彼女は嬉しさというよりも、また疑問が込みあがってきた。だが、問いかけようとする彼女より先にその答えを言う。
「昔、趣味で作った物なんだが・・・使い道が無くて困ってたんだ。君ならきっと有効利用してくれると思ってね」
「まあ、そんな能力がホントにあるかどうかは半信半疑だけどお礼は言っておくわ・・ありがと、店主さん」
そう言って彼女は立ち上がる。流石、妖怪だけあって体力の回復はかなり早いのか、もう普通に歩いても平気な様だ。
「傘が壊れたらいつでもおいで・・・修理代は貰うけどな」
「・・・そう、じゃあ大切に扱わないとね」
それから数日たったある日、荷台に無縁塚から持ってきたと思われる道具を引っ提げた彼の姿を遠くから見つけた。思わず木の陰に隠れる。
・・・妙だった。フラフラとした千鳥足で今にも倒れそうだ。不審に思って、音も無く彼の方へと近寄っていく。一方の彼は近づいてくる彼女に全く気付いていなかった・・・否、気付くほどの余力が無かった。さらに近づいてみると、ようやく彼の異変の正体に気付いた。
「ッ!!」
思わず絶句した。遠くから見ると分からなかったが額から血が流れており、厚い服の内側からジワジワと血が染み込んでいるのが分かった。
「ちょ・・・!どうしたのよ、その血!!?」
思わず木の陰から飛び出し叫ぶ。そんな彼女の慌てふためいた姿を見て霖之助は微笑し・・・そして途切れ途切れに答えた。
「・・ああ・・なんで・・も、無いさ・・ちょっ・・と・・妖・・・怪に、襲われ、ただけ、だ・・・。よく・・ある、こ・・とさ・・・」
今にも消えてしまいそうな声で、それだけ言った彼はそのまま気を失った。よく見ると、首や足も怪我をしていた。骨も何本か折れている。
その姿を見た彼女は・・・大妖怪と呼ぶに相応しい『狂気の笑み』を浮かべた。
「そう・・・なら教えなきゃならないわね。私の友人を傷つけたらどういう報いを受けるか・・ね?」
視界一面に広がる並木に向かって呟く。
後日、霖之助から彼を襲った妖怪の特徴を聞き、再恩の道周辺の妖怪を脅・・情報を元にとうとう犯人に辿り着いた。グダグダと言い訳ばかりを並べてこちらの話をロクに聞きもしなかったので、とりあえず半殺しにして「二度と彼に近づかないように」と脅しておいた。
それ以来、また別の妖怪が彼を襲うのではないかと心配になって尾行をするようになったのだ。
彼の姿も毎日見られるし、陰のヒーローになったような感じがして毎日何もなくても飽きる事は無かった。
気がつくと、自身の手に持っていた日傘を優しく撫でていた。
「ッ!」
途端に恥ずかしくなって辺りを2,3回程見回す。これほど視力に全神経を注いだのはいつ以来だろうか・・・周りに植物と岩石しかない事を確認し、ホッと一息つく。
・・・普段の彼女なら気付いていた筈だった。彼女が身体を預けている木の幹から出現していた小さな隙間に・・・・そしてその隙間から覗く三日月のような口角に。
次の日・・・チルノなら日陰から出た瞬間そのまま蒸発しそうな程の気温が正午から続いていた。
温度にして40~50℃・・・外の世界ならともかく幻想郷でこの温度は異常を越して異変と言っても過言ではない。
「熱いな・・・」
昨日は普段より流れ着いた物が多くて全て運びきれなかった為に、今日また無縁塚に朝から来ていた。それが駄目だった。距離の関係上、朝店を出て行くと丁度昼前に無縁塚に着くのだ。
つまり彼が無縁塚に着いて、そこから道具を拾い終わると丁度正午となる・・・そしてそこから荷台を引っ張って帰るとなると間違いなく熱中症で倒れるだろう。
「仕方ない・・・着くのは夜になってしまうが日没まで日陰でジッとしているかな・・」
生憎とこんな辺境な地に来る知り合いはいない。食料や水も完備してはいない為、日が落ちて温度が下がった時に帰るのが安全だと判断したのだろう。近くにあった大木の日陰に入って、こんな時のために持参した本を開く・・・が、流石にこれだけの温度は慣れていない為か体力が普段より削られていた。無意識の内にその場に倒れこみ、そのまま意識を失った。
次に目を開けたとき、西に真っ赤に光る太陽が見えた。丁度日没の時間まで寝てしまっていたらしい・・・体力も気力も十分回復した。埃を払い立ち上がる。
「流石に二回も襲われることもないだろうが・・・さっさと帰るか」
夜の道は昼と比べて段違いに危険だ。人里ですら人気の無い場所では妖怪に襲われることもある・・・帰りは早めておくに越したことはないのだ。
「はっ!ホントにいやがった!!・・・今度は逃がさねえぞ・・・ッ!」
---僕は後悔した。先程の発言が最早襲われると予告していたことを。
世の中には死亡フラグという言葉がある。悪役が改心して主人公側に付いてガラにも無くケーキを買いに行った帰りに後ろから刺されるような、次の戦いが終わったら結婚を約束した軍人がその戦いで絶対に命を落とすような・・・彼の場合、『押すなよ!絶対押すなよ!!』とバラエティ番組で高いところからダイビングをする際に絶対に後ろから背中を押されるのと同じような所業をしているのと同義だった。
霖之助の目の前に現れたのは・・以前彼を襲い、そして幽香によって重症を負わされた鳥族の妖怪だった。背中からは1mはあろう羽根があり、口にはどこに収まっていたのかと思えるほど大きい牙があった。鳥と人間が混ざったような顔は殺意で満ちている。
「(・・くそっ・・・!やっぱり昼の内に帰っておくべきだったか!?)」
以前襲われた時はたまたま拾ってきた「催涙スプレー」や「煙玉」が運の良いことに役立ってくれたが今回はそれらしい物は無い。中途半端な刃物を出しては余計に危険だろう。奇跡的に通りかかった誰かが助けてくれる可能性も考えたが『まずこんな所に誰も来ない上に、妖怪が相手である』という事実に自分が【死ぬ】という現実が突きつけられる。
「死ねッ!!」
「くっ・・・!!」
妖怪の無常な宣告と共に襲い来る牙に反射的に腕を顔を庇う形で出しビクッと目を瞑る。
「・・・?」
だが、その牙はいつまで経っていても彼に届く事は無かった。
ゆっくりと目を開ける・・・彼の瞳に先程までいた鳥の妖怪は映らなかった。代わりに白い袖に包まれた腕が見えた。何がどうなっているのかサッパリ分からず、赤く染まり目立っている腕の先端に自然と目が動く。
「なッ!」
赤く染まった腕のさらにその先に信じられない光景が映った。
どうしたらそうなるのか・・・視界の中に無数にある木をすり抜けて遥か遠くの巨大な岩に、頭を中心として岩に全身がめり込んでいた。頭と口から大量の血が辺りに飛び散っており遠目では生きているか死んでいるかも分からない状態だった。
「ギリギリだったわね・・・怪我はない?立てる?」
絶句してそのまま固まっていた彼の耳にやけに優しい声が聞えた。腰を抜かしてその場に座り込んでいた彼の視界に右手を真っ赤にした少女・・・風見幽香が現れた。ソレを気にしたのか、逆側の手を彼の前に差し出す。
だが、彼はその手を握らなかった。彼女が隠すように下げている右手を掴んで引っ張り立ち上がる。
「・・・怖くないの?」
幽香が疑問と不安が混じったような声で尋ねる。
「僕の命を守ってくれた手だぞ。感謝こそすれ怖がるなんてとんでもないさ」
彼は当然のように答えた。
どれも気まぐれだったが、今まで彼女が誰かを助けたのは何度かあった。迷子で泣いていた子供を人里まで送ったり、森で枯れかけていた花に水をあげてくれた女性を襲った妖怪を倒したり、だがそのどれもが拒絶された・・・否、恐れられた。子供の時は自分がその子を人質に取ったと思われ、女性の時は彼女を守るために倒した妖怪の無残の姿を見て『化け物!!』と恐怖し逃げられた。
何か救っても怖がられた事しかない彼女にとってその言葉は・・・途轍もなく嬉しかった。それ以上に表現しようも無い。しようとも思わない。そのまま時間が止まったようだった。
「・・さて、と、それじゃあ帰るかな。君はどうする?」
「送っていくわよ、貴方だけじゃ夜の道は危ないだろうし・・・」
少し頬を紅潮させながら、視線を外して彼女が答える。
「それは頼もしいな・・・」
彼女の心情に気付いたのか気付いていないのか・・・それ以上は何も言わず素直に頼んだ。
「じゃあ、行くか」「ええ・・・って、ちょ!まっ・・・!」
霖之助が幽香の手を握り歩き始めた。最初は嫌がっていたというより恥ずかしそうにしていたが歩いている内に、いつ間にか笑顔になっていた。
そんな二人の上、月の光をバックライトに空間が引き裂かれ一人の女性が現れた。
「博霊の巫女と戦うかもしれないリスクまで負った甲斐はあったみたいね・・・次は自分の力で何とかしなさいよ・・・」
「・・・・って事も、あったのよねー」
「嘘くせ・・・」「あんたが霖之助さんに初めて会ったのって最近でしょーが」
神社のコタツを囲んで霊夢・魔理沙・紫・・・主に紫が思い出話をしていた。
「あの時は彼だって知らなかったのよ~。大変だったのよ?あの妖怪を幽香がジャストタイミングで倒すように時間計算したりとかして~」
「あんたがねぇ~・・・で、そこから進展は?」
霊夢が興味無さそうに尋ねるが、ミカンの皮を身ごと剥いている事から内心動揺しているのがバレバレであった。
「そうね・・・無縁塚に行くときに少し世間話する程度かしらね」
「うわッ・・・十何年経ってまだそんだけかよ」
魔理沙が信じられ無さそうに言う。100年と生きられない人間にとって十年はかなりのものだ。
だが、そんな魔理沙を軽くスルーし熱いお茶をズズッと一気に飲む紫。そして呟いた。
「いいのよ・・・あんた達と違ってあの二人の時間は長いんだから・・ね」
完
~小さな世界の思い出物語~
ガラガラと大きな音を立てて荷台を引きずる彼の姿を後ろの木に身を隠しながら見つめる。
そんな事をもう何回繰り返しただろうか・・・長く生きている妖怪は時間という概念が薄いので昨日あったことでさえ何年も前のように感じてしまう。
「今日も異常はないわね・・・」
彼が店の中に入るのを見届けると一息ついて、その場に座り込む。無縁塚から森の入り口までは障害物が多い上に距離もかなりあるので普通に歩いて往復するだけでも疲れる。それを荷台を引きながらも楽々と歩んでいる彼は実はかなりの体力があるのかもしれない。もしくは自分が飛ぶ事に慣れてしまって体力が無くなってしまったか、だ。
そもそも何故、幻想郷の中でも最凶最悪と恐れられる風見幽香が半妖をコソコソ尾行しているのか・・・話はだいぶ前に遡る。
彼との出会いは一言で表すなら偶然と言っていい。その時は仲の良い知り合いがいなく1日の大半をする事もなく向日葵畑で過ごしていた(今もだが).ある夏の猛暑日だった・・・彼と出会ったのは。
人間は体表の30%以上を火傷するか体温42℃を超えれば大体死んでしまう。対して妖怪は身体が沸騰しようが体表の90%の火傷を負おうが、生命力が高い者なら四肢が無くなり臓器が2,3個消し飛んでも生きていられる・・・が、それはあくまで妖怪が人間より死ににくいというだけで冬には寒いと感じるし、夏は暑いと感じる。それを『自分は妖怪のなのだから大丈夫』と勝手に解釈してしまい真夏日や猛暑日でも平気で一日中陽に当たり熱中症で倒れる者もいる。彼女が正にソレだった。日中の温度が40℃を超えていた日にも関わらず花の手入れをしていたからか、本当に・・・いつの間にか・・・自分でも気付かない間に地面に倒れていた。
「・・・?」
段々と狭くなっていく視界の果てに、何かの足が見えた。意識は混濁していたが耳はちゃんと聞えていた為に地面を踏み鳴らす音がどんどん大きくなって、ソレがこっちに来たことが分かった。人間でも妖怪でもどちらでもいい。どうせどっちも自分の顔を見たら逃げるか殺すかしかないのだから・・・。
そしてとうとう視界が全て暗転し、彼女の意識はそこで途絶えた。
「ん・・・ようやくお目覚めのようだな」
意識が戻ると自分が布団で寝ていたのが分かった。やけに温かったからだ。
上半身だけ起こし、声のした方へと身体を向けると一人の男と目が合った。
「貴方が助けてくれたのね。ありがとう」
基本的に強い妖怪ほど普段は紳士的である。困っている時に助けてもらえば子供にも礼はするし、牙を向けて来るのなら獣だろうが一撃で沈める。そんな妖怪の特徴を知らない彼にとって色々危険な噂が流れている彼女が自分に対して感謝したのに、若干驚いた。
「意外だな・・・君のような大妖怪でも、こんな半妖に礼が出来るのか。粗末な布団を使って悪かったな」
「気にしなくていいわ。元々助けてもらえると思ってなかったし・・・そんな事より、どうして私を助けたの?」
目が覚めてから気になっていた事を彼に尋ねる。幻想郷内での自分の評価は最悪だ。人間も動物も・・・(一部を除いて)妖怪ですら彼女を恐れる。唯一自分と対等に話せる人間など、ある花屋の店主ぐらいだったろうか。その店主でも打ち解けるのに何年も掛かったのに、何故目の前の彼は赤の他人で・・・しかも最凶最悪のレッテルを貼られている自分を助けたのだろうか、不思議で仕方ない。だが、そんな彼女の気持ちとは裏腹に彼は特に気にするでもなく、サラっと言い放つ。
「たまたま帰り道に君が倒れていたのを見てしまったからな・・・」
「そんな理由で?起きた時に私が何かするとか思わなかったの?」
「無縁塚の帰り道・・視界の端で君が花の世話をしている姿を何度か見たことがあるんだ。花でも動物でも・・・何かを育てる事の出来る妖怪がそんなに危険だとは思えなくてね」
その言葉はとても真っ直ぐで、しっかりと彼女の目を見据えていた。
「・・・そう」
最後は素っ気なく返したが、ホントは素直に嬉しかった。こんな風に見てくれる者もいるのだと。ただ恐れられているわけでは無いのだと。自然と暖かな感情が込み上げてくる。
「貴方気に入ったわ・・・名前は?」
「森近霖之助・・・ただのしがない半妖だ。名前は長ったらしいから店主でいいさ・・・あっ、それとアレを渡すのを忘れていたな」
彼が自分の名前を明かした後、何か思い出したように立ち上がり部屋の端からある物を取り出した。
「・・・傘?」
霖之助が幽香に向かって、どこにでもあるような傘を渡した。
「ふふん、ただの日傘じゃないぞ。直射日光・紫外線しかも弾幕まで防げる代物だ。スペルカードの種類によっては、その傘から技を発動させる事も可能だ」
彼が自慢気に語る。だが、一方の彼女は嬉しさというよりも、また疑問が込みあがってきた。だが、問いかけようとする彼女より先にその答えを言う。
「昔、趣味で作った物なんだが・・・使い道が無くて困ってたんだ。君ならきっと有効利用してくれると思ってね」
「まあ、そんな能力がホントにあるかどうかは半信半疑だけどお礼は言っておくわ・・ありがと、店主さん」
そう言って彼女は立ち上がる。流石、妖怪だけあって体力の回復はかなり早いのか、もう普通に歩いても平気な様だ。
「傘が壊れたらいつでもおいで・・・修理代は貰うけどな」
「・・・そう、じゃあ大切に扱わないとね」
それから数日たったある日、荷台に無縁塚から持ってきたと思われる道具を引っ提げた彼の姿を遠くから見つけた。思わず木の陰に隠れる。
・・・妙だった。フラフラとした千鳥足で今にも倒れそうだ。不審に思って、音も無く彼の方へと近寄っていく。一方の彼は近づいてくる彼女に全く気付いていなかった・・・否、気付くほどの余力が無かった。さらに近づいてみると、ようやく彼の異変の正体に気付いた。
「ッ!!」
思わず絶句した。遠くから見ると分からなかったが額から血が流れており、厚い服の内側からジワジワと血が染み込んでいるのが分かった。
「ちょ・・・!どうしたのよ、その血!!?」
思わず木の陰から飛び出し叫ぶ。そんな彼女の慌てふためいた姿を見て霖之助は微笑し・・・そして途切れ途切れに答えた。
「・・ああ・・なんで・・も、無いさ・・ちょっ・・と・・妖・・・怪に、襲われ、ただけ、だ・・・。よく・・ある、こ・・とさ・・・」
今にも消えてしまいそうな声で、それだけ言った彼はそのまま気を失った。よく見ると、首や足も怪我をしていた。骨も何本か折れている。
その姿を見た彼女は・・・大妖怪と呼ぶに相応しい『狂気の笑み』を浮かべた。
「そう・・・なら教えなきゃならないわね。私の友人を傷つけたらどういう報いを受けるか・・ね?」
視界一面に広がる並木に向かって呟く。
後日、霖之助から彼を襲った妖怪の特徴を聞き、再恩の道周辺の妖怪を脅・・情報を元にとうとう犯人に辿り着いた。グダグダと言い訳ばかりを並べてこちらの話をロクに聞きもしなかったので、とりあえず半殺しにして「二度と彼に近づかないように」と脅しておいた。
それ以来、また別の妖怪が彼を襲うのではないかと心配になって尾行をするようになったのだ。
彼の姿も毎日見られるし、陰のヒーローになったような感じがして毎日何もなくても飽きる事は無かった。
気がつくと、自身の手に持っていた日傘を優しく撫でていた。
「ッ!」
途端に恥ずかしくなって辺りを2,3回程見回す。これほど視力に全神経を注いだのはいつ以来だろうか・・・周りに植物と岩石しかない事を確認し、ホッと一息つく。
・・・普段の彼女なら気付いていた筈だった。彼女が身体を預けている木の幹から出現していた小さな隙間に・・・・そしてその隙間から覗く三日月のような口角に。
次の日・・・チルノなら日陰から出た瞬間そのまま蒸発しそうな程の気温が正午から続いていた。
温度にして40~50℃・・・外の世界ならともかく幻想郷でこの温度は異常を越して異変と言っても過言ではない。
「熱いな・・・」
昨日は普段より流れ着いた物が多くて全て運びきれなかった為に、今日また無縁塚に朝から来ていた。それが駄目だった。距離の関係上、朝店を出て行くと丁度昼前に無縁塚に着くのだ。
つまり彼が無縁塚に着いて、そこから道具を拾い終わると丁度正午となる・・・そしてそこから荷台を引っ張って帰るとなると間違いなく熱中症で倒れるだろう。
「仕方ない・・・着くのは夜になってしまうが日没まで日陰でジッとしているかな・・」
生憎とこんな辺境な地に来る知り合いはいない。食料や水も完備してはいない為、日が落ちて温度が下がった時に帰るのが安全だと判断したのだろう。近くにあった大木の日陰に入って、こんな時のために持参した本を開く・・・が、流石にこれだけの温度は慣れていない為か体力が普段より削られていた。無意識の内にその場に倒れこみ、そのまま意識を失った。
次に目を開けたとき、西に真っ赤に光る太陽が見えた。丁度日没の時間まで寝てしまっていたらしい・・・体力も気力も十分回復した。埃を払い立ち上がる。
「流石に二回も襲われることもないだろうが・・・さっさと帰るか」
夜の道は昼と比べて段違いに危険だ。人里ですら人気の無い場所では妖怪に襲われることもある・・・帰りは早めておくに越したことはないのだ。
「はっ!ホントにいやがった!!・・・今度は逃がさねえぞ・・・ッ!」
---僕は後悔した。先程の発言が最早襲われると予告していたことを。
世の中には死亡フラグという言葉がある。悪役が改心して主人公側に付いてガラにも無くケーキを買いに行った帰りに後ろから刺されるような、次の戦いが終わったら結婚を約束した軍人がその戦いで絶対に命を落とすような・・・彼の場合、『押すなよ!絶対押すなよ!!』とバラエティ番組で高いところからダイビングをする際に絶対に後ろから背中を押されるのと同じような所業をしているのと同義だった。
霖之助の目の前に現れたのは・・以前彼を襲い、そして幽香によって重症を負わされた鳥族の妖怪だった。背中からは1mはあろう羽根があり、口にはどこに収まっていたのかと思えるほど大きい牙があった。鳥と人間が混ざったような顔は殺意で満ちている。
「(・・くそっ・・・!やっぱり昼の内に帰っておくべきだったか!?)」
以前襲われた時はたまたま拾ってきた「催涙スプレー」や「煙玉」が運の良いことに役立ってくれたが今回はそれらしい物は無い。中途半端な刃物を出しては余計に危険だろう。奇跡的に通りかかった誰かが助けてくれる可能性も考えたが『まずこんな所に誰も来ない上に、妖怪が相手である』という事実に自分が【死ぬ】という現実が突きつけられる。
「死ねッ!!」
「くっ・・・!!」
妖怪の無常な宣告と共に襲い来る牙に反射的に腕を顔を庇う形で出しビクッと目を瞑る。
「・・・?」
だが、その牙はいつまで経っていても彼に届く事は無かった。
ゆっくりと目を開ける・・・彼の瞳に先程までいた鳥の妖怪は映らなかった。代わりに白い袖に包まれた腕が見えた。何がどうなっているのかサッパリ分からず、赤く染まり目立っている腕の先端に自然と目が動く。
「なッ!」
赤く染まった腕のさらにその先に信じられない光景が映った。
どうしたらそうなるのか・・・視界の中に無数にある木をすり抜けて遥か遠くの巨大な岩に、頭を中心として岩に全身がめり込んでいた。頭と口から大量の血が辺りに飛び散っており遠目では生きているか死んでいるかも分からない状態だった。
「ギリギリだったわね・・・怪我はない?立てる?」
絶句してそのまま固まっていた彼の耳にやけに優しい声が聞えた。腰を抜かしてその場に座り込んでいた彼の視界に右手を真っ赤にした少女・・・風見幽香が現れた。ソレを気にしたのか、逆側の手を彼の前に差し出す。
だが、彼はその手を握らなかった。彼女が隠すように下げている右手を掴んで引っ張り立ち上がる。
「・・・怖くないの?」
幽香が疑問と不安が混じったような声で尋ねる。
「僕の命を守ってくれた手だぞ。感謝こそすれ怖がるなんてとんでもないさ」
彼は当然のように答えた。
どれも気まぐれだったが、今まで彼女が誰かを助けたのは何度かあった。迷子で泣いていた子供を人里まで送ったり、森で枯れかけていた花に水をあげてくれた女性を襲った妖怪を倒したり、だがそのどれもが拒絶された・・・否、恐れられた。子供の時は自分がその子を人質に取ったと思われ、女性の時は彼女を守るために倒した妖怪の無残の姿を見て『化け物!!』と恐怖し逃げられた。
何か救っても怖がられた事しかない彼女にとってその言葉は・・・途轍もなく嬉しかった。それ以上に表現しようも無い。しようとも思わない。そのまま時間が止まったようだった。
「・・さて、と、それじゃあ帰るかな。君はどうする?」
「送っていくわよ、貴方だけじゃ夜の道は危ないだろうし・・・」
少し頬を紅潮させながら、視線を外して彼女が答える。
「それは頼もしいな・・・」
彼女の心情に気付いたのか気付いていないのか・・・それ以上は何も言わず素直に頼んだ。
「じゃあ、行くか」「ええ・・・って、ちょ!まっ・・・!」
霖之助が幽香の手を握り歩き始めた。最初は嫌がっていたというより恥ずかしそうにしていたが歩いている内に、いつ間にか笑顔になっていた。
そんな二人の上、月の光をバックライトに空間が引き裂かれ一人の女性が現れた。
「博霊の巫女と戦うかもしれないリスクまで負った甲斐はあったみたいね・・・次は自分の力で何とかしなさいよ・・・」
「・・・・って事も、あったのよねー」
「嘘くせ・・・」「あんたが霖之助さんに初めて会ったのって最近でしょーが」
神社のコタツを囲んで霊夢・魔理沙・紫・・・主に紫が思い出話をしていた。
「あの時は彼だって知らなかったのよ~。大変だったのよ?あの妖怪を幽香がジャストタイミングで倒すように時間計算したりとかして~」
「あんたがねぇ~・・・で、そこから進展は?」
霊夢が興味無さそうに尋ねるが、ミカンの皮を身ごと剥いている事から内心動揺しているのがバレバレであった。
「そうね・・・無縁塚に行くときに少し世間話する程度かしらね」
「うわッ・・・十何年経ってまだそんだけかよ」
魔理沙が信じられ無さそうに言う。100年と生きられない人間にとって十年はかなりのものだ。
だが、そんな魔理沙を軽くスルーし熱いお茶をズズッと一気に飲む紫。そして呟いた。
「いいのよ・・・あんた達と違ってあの二人の時間は長いんだから・・ね」
完
流星の回で紫の実態を知るまではむしろ長命な妖怪の力を軽視していた。
幽香の心情や頬を紅潮させたりする姿とか良いですね。
二次創作置き場のそそわで何言ってんの?
気にぜずにこれからもがんばってください
第三者がコメントにコメントを返す事
(コメントはあくまでも、投稿された作品に対してのもののみです)
ゆーかりーん! ……こうして書くと、何だか別人の名前みたいだ。