「いいかげんにしてよ!」
魔理沙が本を片手に、窓に足を掛けた時である。パチュリーは叫ぶようにそう言った。
「すぐに返すぜ」
「あなたはいつもそう言うわ」
パチュリーは怒りの矛先を魔理沙に向けていた。パチュリーが感情的になることはめったにないことで、魔理沙は少し驚いた。
「なに、いつものことじゃないか。何かあったのか?」
パチュリーは魔理沙を無視し、本棚の陰に隠れていた小悪魔を呼んだ。
「はい、何でしょうか?」
「……今後、魔理沙の立ち入りを禁止するわ。咲夜にもそう伝えてちょうだい」
「……はい、わかりました」
「おいおい、待ってくれ。本を返さないだけで何もそこまで――」
「無断借用、不法侵入、おまけに借りた本を返さない。外の世界なら牢屋行きよ? さあ、その手の本を返して、家に帰りなさい」
魔理沙は何も言わずに、その本をパチュリーに返した。小悪魔は、魔理沙を図書館の外に連れ出した。
「すいません、今日はパチュリー様、機嫌が良くないようで……」
「いや、少し調子に乗りすぎたみたいだな」
魔理沙は紅魔館を出た。明日になれば、また図書館は開く。そう魔理沙は思っていたが、それはどうも甘い考えだったようである。後日図書館を訪れてみると、図書館は「魔理沙立ち入り禁止」状態になっていた。
◇
「うらめしや!」
「いや、怖くないぜ」
魔理沙と小傘である。小傘は決まって「うらめしや」と驚かしに来るので、魔理沙はいつも「怖くない」と言って追い払うことにしていた。いつもは大人しく帰るのだが、今日の小傘はちょっと違うようだ。
「ね、どうやったら驚いてもらえるかしら?」
「うん、そうだな……」
妙案が魔理沙の頭をよぎった。
「よし、こういうのはどうだ? ある家の窓を叩くんだ。コンコンってな。すると、家の者は何かと思って窓の外を見るだろう? その時、窓の外に何もなかったらどう思う?」
「はてな、だね」
「外には何もない。空耳かと思って部屋に戻ると、またその音がする。しかし外には何もない。どうだ、それって怖くないか?」
「怖い怖い! でもどうやって?」
小傘は目をキラキラさせている。
「窓の外を見る時、とりわけその音の原因をさがす時、上はほとんど見ない。上に音の原因があるとは思わないからだ。だから、ターゲットが窓の近くに来たら、真上に飛べばいい」
「なるほど、ありがとう、やってみるわ!」
「ちょっと待て、少し練習してみようじゃないか。あそこでやってみよう」
魔理沙は大図書館を指さした。
「パチュリーは動かないだろうから、ターゲットは小悪魔だな」
「よし、頑張るよ!」
小傘を見送ると、魔理沙は館に侵入し始めた。そう、魔理沙の目的とは、小悪魔の注意を小傘に向けさせ、その隙に本を借りる(盗み出す)ことだった。
◇
「コンコン、コンコン」
「パチュリー様、何か音がするんですけど……」
「ちょっと見てきてちょうだい。盗人は追い払いなさいよ」
閉まったカーテンを開けると、何かが上に飛び上がった。いや、「何か」ではなく、あれは小傘という妖怪だ。小悪魔ははっきりとその姿をとらえていた。
「……どういうつもりかしらね?」
「わかりません。私がカーテンを開けると、飛んで行きました」
「コンコン、コンコン」
またあの音だ。パチュリーは立ち上がった。
「私も見に行くわ」
パチュリーが窓を見ると、やはり小傘は飛んだ。しかし窓の近くから見上げれば、その姿は丸見えだった。
「なるほど、見つかっていないつもりなのかしら?」
「何のために?」
「私たちを怖がらせるため、かしら? しかし、この状況、ちょっとわかってきたわ」
「?」
パチュリーは本棚に向かうと、一冊の本を取り出した。そしてそれに魔法をかけ始めた。
「それは、魔理沙さんがこの前持っていた……」
「そうね」
魔法をかけ終えると、パチュリーはいつもの椅子に戻った。小悪魔もパチュリーと一緒にいた。
「コンコン、コンコン」
窓は音を立てている。そして、図書館の扉が、静かに開いたのを、パチュリーは感じていた。
◇
「魔理沙」
「うお、パチュリー!」
「先日、私はあなたに立ち入り禁止を命じた。その理由を教えてあげるわ。ここ大図書館には色々な本が並んでいる。その中には、危険な魔法書も混じっているのよ。この前あなたが持ち出そうとした本、あれもその一種で、使い方を誤れば、あの本はこの世界のあり方を変えてしまう。そういった本をあなたは軽い気持ちで外に持ち出す。私はそれに耐えられなかったのよ」
「これって、そんなに危険な本なのか?」
魔理沙は本をパラパラとめくった。あるページが開かれた時、その本は光を放ち、大図書館を白に染めた。
「いけない、魔法が!」
パチュリーは叫んだ。魔理沙は必死で本を閉じようとしたが、その本は閉じることなく光を出し続けた。
「パチュリー……何が起きたんだ」
「太陽を隠す魔法よ。ああ、私たちは一生、黒い太陽を見ることになるわ……」
「そんなばかな!」
魔理沙は窓際に走る。窓には小悪魔が立っていた。魔理沙が窓から空を見上げると、そこにあったのは――。
「黒い太陽……」
魔理沙はショックのあまり、気を失ってしまった。
◇
「あなたの姿を見て、魔理沙は気を失ったのよ。自信を持っていいわ」
そう言われると、小傘は嬉しそうに照れ、空に帰って行った。
「黒い太陽ですか。良く考えましたね」
「小傘のあの音は、入れ知恵としか考えられなかったわ。となれば、それは魔理沙だろうという予想が立つ。その目的は、本、特に先日私に返したあの本だろうと私は考えたわ。そうだとすれば、ちょうど小傘の持っている傘が太陽をすっぽり隠していることと、危険な本という話を結びつけて、魔理沙にお仕置きしようという考えに至るのは当然ね」
「流石です、パチュリー様。ところで、本にかけた魔法は何だったのですか?」
小悪魔がそう訊くと、パチュリーは笑った。
「ただの光ね。そう、いわば演出。小傘を黒い太陽に思わせるためには、魔理沙の心理状態を大きく崩す必要があった。いかにも危険な本らしい光が必要だったのね。また、強い光は人間の心理状態に強くかかわってくるわ。加えて、私の説明。これらが魔理沙の冷静な判断を奪った、ということでしょう」
「ただ……小傘をほめたのは失敗でしたね。またコンコンってされますよ?」
「ええ。だけど、日食を見せてくれるという点では、面白いかもしれないわね」
そう言って、パチュリーは再び笑う。
魔理沙が本を片手に、窓に足を掛けた時である。パチュリーは叫ぶようにそう言った。
「すぐに返すぜ」
「あなたはいつもそう言うわ」
パチュリーは怒りの矛先を魔理沙に向けていた。パチュリーが感情的になることはめったにないことで、魔理沙は少し驚いた。
「なに、いつものことじゃないか。何かあったのか?」
パチュリーは魔理沙を無視し、本棚の陰に隠れていた小悪魔を呼んだ。
「はい、何でしょうか?」
「……今後、魔理沙の立ち入りを禁止するわ。咲夜にもそう伝えてちょうだい」
「……はい、わかりました」
「おいおい、待ってくれ。本を返さないだけで何もそこまで――」
「無断借用、不法侵入、おまけに借りた本を返さない。外の世界なら牢屋行きよ? さあ、その手の本を返して、家に帰りなさい」
魔理沙は何も言わずに、その本をパチュリーに返した。小悪魔は、魔理沙を図書館の外に連れ出した。
「すいません、今日はパチュリー様、機嫌が良くないようで……」
「いや、少し調子に乗りすぎたみたいだな」
魔理沙は紅魔館を出た。明日になれば、また図書館は開く。そう魔理沙は思っていたが、それはどうも甘い考えだったようである。後日図書館を訪れてみると、図書館は「魔理沙立ち入り禁止」状態になっていた。
◇
「うらめしや!」
「いや、怖くないぜ」
魔理沙と小傘である。小傘は決まって「うらめしや」と驚かしに来るので、魔理沙はいつも「怖くない」と言って追い払うことにしていた。いつもは大人しく帰るのだが、今日の小傘はちょっと違うようだ。
「ね、どうやったら驚いてもらえるかしら?」
「うん、そうだな……」
妙案が魔理沙の頭をよぎった。
「よし、こういうのはどうだ? ある家の窓を叩くんだ。コンコンってな。すると、家の者は何かと思って窓の外を見るだろう? その時、窓の外に何もなかったらどう思う?」
「はてな、だね」
「外には何もない。空耳かと思って部屋に戻ると、またその音がする。しかし外には何もない。どうだ、それって怖くないか?」
「怖い怖い! でもどうやって?」
小傘は目をキラキラさせている。
「窓の外を見る時、とりわけその音の原因をさがす時、上はほとんど見ない。上に音の原因があるとは思わないからだ。だから、ターゲットが窓の近くに来たら、真上に飛べばいい」
「なるほど、ありがとう、やってみるわ!」
「ちょっと待て、少し練習してみようじゃないか。あそこでやってみよう」
魔理沙は大図書館を指さした。
「パチュリーは動かないだろうから、ターゲットは小悪魔だな」
「よし、頑張るよ!」
小傘を見送ると、魔理沙は館に侵入し始めた。そう、魔理沙の目的とは、小悪魔の注意を小傘に向けさせ、その隙に本を借りる(盗み出す)ことだった。
◇
「コンコン、コンコン」
「パチュリー様、何か音がするんですけど……」
「ちょっと見てきてちょうだい。盗人は追い払いなさいよ」
閉まったカーテンを開けると、何かが上に飛び上がった。いや、「何か」ではなく、あれは小傘という妖怪だ。小悪魔ははっきりとその姿をとらえていた。
「……どういうつもりかしらね?」
「わかりません。私がカーテンを開けると、飛んで行きました」
「コンコン、コンコン」
またあの音だ。パチュリーは立ち上がった。
「私も見に行くわ」
パチュリーが窓を見ると、やはり小傘は飛んだ。しかし窓の近くから見上げれば、その姿は丸見えだった。
「なるほど、見つかっていないつもりなのかしら?」
「何のために?」
「私たちを怖がらせるため、かしら? しかし、この状況、ちょっとわかってきたわ」
「?」
パチュリーは本棚に向かうと、一冊の本を取り出した。そしてそれに魔法をかけ始めた。
「それは、魔理沙さんがこの前持っていた……」
「そうね」
魔法をかけ終えると、パチュリーはいつもの椅子に戻った。小悪魔もパチュリーと一緒にいた。
「コンコン、コンコン」
窓は音を立てている。そして、図書館の扉が、静かに開いたのを、パチュリーは感じていた。
◇
「魔理沙」
「うお、パチュリー!」
「先日、私はあなたに立ち入り禁止を命じた。その理由を教えてあげるわ。ここ大図書館には色々な本が並んでいる。その中には、危険な魔法書も混じっているのよ。この前あなたが持ち出そうとした本、あれもその一種で、使い方を誤れば、あの本はこの世界のあり方を変えてしまう。そういった本をあなたは軽い気持ちで外に持ち出す。私はそれに耐えられなかったのよ」
「これって、そんなに危険な本なのか?」
魔理沙は本をパラパラとめくった。あるページが開かれた時、その本は光を放ち、大図書館を白に染めた。
「いけない、魔法が!」
パチュリーは叫んだ。魔理沙は必死で本を閉じようとしたが、その本は閉じることなく光を出し続けた。
「パチュリー……何が起きたんだ」
「太陽を隠す魔法よ。ああ、私たちは一生、黒い太陽を見ることになるわ……」
「そんなばかな!」
魔理沙は窓際に走る。窓には小悪魔が立っていた。魔理沙が窓から空を見上げると、そこにあったのは――。
「黒い太陽……」
魔理沙はショックのあまり、気を失ってしまった。
◇
「あなたの姿を見て、魔理沙は気を失ったのよ。自信を持っていいわ」
そう言われると、小傘は嬉しそうに照れ、空に帰って行った。
「黒い太陽ですか。良く考えましたね」
「小傘のあの音は、入れ知恵としか考えられなかったわ。となれば、それは魔理沙だろうという予想が立つ。その目的は、本、特に先日私に返したあの本だろうと私は考えたわ。そうだとすれば、ちょうど小傘の持っている傘が太陽をすっぽり隠していることと、危険な本という話を結びつけて、魔理沙にお仕置きしようという考えに至るのは当然ね」
「流石です、パチュリー様。ところで、本にかけた魔法は何だったのですか?」
小悪魔がそう訊くと、パチュリーは笑った。
「ただの光ね。そう、いわば演出。小傘を黒い太陽に思わせるためには、魔理沙の心理状態を大きく崩す必要があった。いかにも危険な本らしい光が必要だったのね。また、強い光は人間の心理状態に強くかかわってくるわ。加えて、私の説明。これらが魔理沙の冷静な判断を奪った、ということでしょう」
「ただ……小傘をほめたのは失敗でしたね。またコンコンってされますよ?」
「ええ。だけど、日食を見せてくれるという点では、面白いかもしれないわね」
そう言って、パチュリーは再び笑う。
ただ、話の雰囲気がよく分からずに首をかしげた自分が居ました。
いたずらの話といえば三月精とかを思い浮かべますけど、小説でもいたずらの話ならではの描写が欲しいと思いました。
そこらへん頑張ってください。
パチュリーの方が一枚上手ですね。
小傘はええ子だなぁ。ニヤニヤ。
小傘かわええ