【注意書き】
タグを見ない、というかたがいらっしゃるといけないので、注意書きを。
タグにも書いてありますが、「オリキャラ少年主人公」となっています。
そんなことわかっていてクリックされたかた、そしてそれでもなお読んでいただけるかたは、このまま下へお進みください。余計な警告でしたね、失礼しました。
オリキャラものが苦手なかたは、すみません、今回のところはお戻りください。またいつかお会いしましょう。
では、以下本文です。
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ぼくには昔から、ずっと研究していることがある。
それは、多くの人がきっと疑問に思っていること。にもかかわらず、多くの人が触れようとしないことだ。
あの慧音先生でさえ、「偶然だろう」と言い放った。しかも、その話が作り出そうとした歴史を消すかのように話題を転換された。
「そのことで思い出した。今度抜き打ちでテストするからね、この前教えた税についてちゃんと勉強しておきなさい」
だとさ。なにがそのことなのか。おかげで、みんなから恨まれたじゃないですか。
でも先生。宣言したら抜き打ちではないんじゃないかな。助かるからいいけど。
いけない、ぼくが研究していることの話だった。
そのことには多くの人が触れようとしないことで、また別の人は考えることすらしない。ひどいことに、「色気があっていいじゃないか」とおっさんたちは言う。ぼくはそう思わないのに。
さて、ぼくの研究していること。それは――なぜ幻想郷には女性が多いかだ。
正確な統計は出せないけれど、圧倒的に女性が多い。
幻想郷の有名人だってそうだ。
博麗の巫女さん、魔法使いさん、そして慧音先生。ほかにもいっぱい。
男の人は、ぼくの行きつけのお店にいる店長さんくらいしか知らない。よく話を聞いてくれるやさしい人だから、特別に覚えているのかもしれないけれど。
それに、失礼ながらきれいな女性が少ないこともふしぎだ。有名人はみんなきれいだけど、里に住んでる人はあんまり。お化粧荒いし、仕事帰りのおっさんみたいにお酒を飲んでいる。ケンカだってする。
なのに働かない。働くのは数少ない男たちだけだ。とにかく、ぼくの抱いている女性イメージと比べると、あの人たちは女性らしくない。
ちなみに、ぼくのママもゴリラだ。
女性ってもっと、博麗の巫女さんみたいに清楚なんだと思っていたのに。まぎらわしい。
このことを考えはじめると、いつも考えこんでしまう。いくらなんでもふしぎだ。慧音先生はそうでもないと言ったけれど、ぼくはふしぎだと思う。
気になって、考えこんで、答えは出てこなくて。でもやっぱり、気になって。
歯に詰まったものが取れなくても、諦めきれないのと同じような気持ちだった。
きっと歯に詰まったものを取ることほど簡単じゃないだろうけれど、ぼくは決意した。いっそ、このぼくが真実を見つけようと。
というわけでぼくは、たった一人で研究していたのだった。
【日本史のパンドラ】
そんなこんなで、ずっと研究してるわけだけど。
まったく答えは見えてこないし、やっぱり偶然なんじゃないかと思うようになってしまった。最初は張り切ったものだけど、だんだんとやる気を失ってくる。
妥協へ繋がる細道でもいいから、さっさとここから抜け出したい気持ちにさえなってしまう。
ただ、長年の研究の成果だ、一応説はあるにはある。
だけど、はっきりとした確信をもてない。紙にでも書き出して、もう一度整理をはじめてみよう。
ぼくが考えたのは、『弱肉強食説』だ。
異変を解決、または異変の原因になってきた人たちはみんな強い。しかも、みんな女性だ。体力的な面は例外として、本当は女性のほうが強いんじゃないか。
そういえば、外の世界ではかつて魔女狩りという惨劇があったらしい。魔『女』ということは、やはり裁かれたのは女性が多かったのだろう。
つまり女性は、魔力を宿しやすい。そういうことなんじゃ、ないだろうか。
幻想郷には妖怪が多いから、みんな強くなくちゃいけない。強い女性が生き残るのは当たり前、といえる。
でも、そこまで極端になるかなあ? そもそもこの説はなにも知らない子どものぼくが考えたことに過ぎない。学者が聞いたら手を叩いて笑うだろう。
というところで、ぼくはずっとループしている。
やはり、もっと知識を持つ存在が必要だ。本当は一人で解決したい。でも、答えを知りたいという欲求が限界にまで達していた。いや、この疑問から抜け出したいという気持ちかもしれない。
では、いったいだれが助けてくれるだろうか?
慧音先生は――だめだ。諦めてる。というかなぜかその話題をしたがらない。それにまたテストを追加されるのもイヤだ。
ほかの大人もきっとあてにならない。慧音先生の反応が、普通の人の反応だろうから。
だったら――そうだ、あの人がいるじゃないか!
ぼくはさっそく、その方向へと駆け出した。
◆
「まいどあり!」
霖之助さんは一冊本を買っただけで、すごくよろこんでくれた。ぼくの内なる考えに気づくこともなく。
自然を装って、ついでにこのままあの話に持ちこもう。
かくかくしかじか、っと。
「なるほど。ぼくも昔、考えたなあ」
苦笑いのような、子どものイタズラを見守る大人のような笑顔で言った。迷惑そうにも見える。見えるけれど、やっぱりそうじゃない。どっちかというと気の毒な人を見る目だ。
ぼくはかわいそうな子じゃないよ?
まあいいや。いまは そんなこと、どうでもいい。
まさかこんなところに偉大な先人がいたなんて。手を合わせて感謝したい気分だった。
なんという好都合!
「でもねー、見つからなかったんだ」
「そうですか」
あっさりと道は断たれた。ぼくは頭を下げて、霖之助さんに背を向ける。無愛想かと思ったけれど、「ごめんね」と気まずそうに謝る霖之助さんを見たくないというのもあった。そうすれば余計に気まずくなるから。
「いや、待てよ……」
霖之助さんは帰ろうとするぼくを引きとめようと、思い出したように一言つぶやく。
さらに、歯の隙間に風が通り抜ける音がするほど息を吸った。「すー」という音は静かなお店の中に、一瞬で広がった。
なにかしゃべろうと しているようだ。本当にいいのかどうか迷うかのように、霖之助さんはすこし考えこんだ。でもやっぱり、口を開いてくれた。本当にやさしい人だ。
「君は確か、――村という人里に住んでたよね?」
「ええ、はい」
霖之助さんは納得したようにうなづいた。「ちょっと待って」と一言いい、カウンターのうしろにある本棚から一冊の本を取り出す。
「やっぱりね」
首をかしげたぼくに、本を渡してくれた。
そこには、説得力がありそうなことがたくさん書いてある。たとえば、○○をたくさん食べる習慣のある人々には、女の子が生まれやすいだとか。
よくわからないけれど。
「チュウゴクという国のコナンショウには、女性しか生まれない村があるらしいよ。
きっとそこと同じ理論なんじゃないかな。
ほら、これはその土地の調査結果なんだけど、ここの人と食べてるもの似てるんじゃないか?」
どれどれ。
うん、たしかにそうだ。材料の名前はちがうものの、ぼくらが普段食べているものとそっくり。
つまり――女性が多いのはこういう理由?
なんだ、もう発見されていたのか。
ぼくの正直な落ちこみを慰めるように、霖之助さんはぼくの肩を叩いて言った。
「でもこれはすごいよ。
閉鎖的で近代的でない幻想郷だからこその結果だしね。食生活も必然的に似てくるんだよ。あくまで人間の、ことだけどね。妖怪はわからないな。
だが君は将来、立派な学者になるかもしれないな」
「いやいや、そんなことないですよ。ぼくはただ、気になったことを調べてただけですし」
霖之助さんは静かに笑う。理知的な男性らしい褒めかたで、100点のテストをママに持っていったときよりも うれしかった。
「いや、そういう人こそが将来大物になるんだよ。
でも、まずは身近な勉強が大切かな。
明日寺子屋で抜き打ちテストするんだ、って慧音先生が言ってたよ」
霖之助さんの言葉を聞いた瞬間、ぼくの足は入り口へと向かっていた。
「……霖之助さん、ありがとうッ!」
「こちらこそ。将来大物になって、労働者に課された税をすこしでも安くしてね」
と、霖之助さんはつぶやいた。冗談のようで、冗談に聞こえなかった。
ぼくはその言葉を聞きながら、お店を出ようとして扉のところでつまづいた。森近霖之助さんの軽い笑い声を聞きながら、家へと急いだ。
家へと向かいながら、ぼくはぼんやりと考えていた。
税のことだ。霖之助さんは相当高いって言ってた。もし、本当にぼくが偉い人になったなら。絶対、税制度を改正させよう。
勉強もいっぱいしないといけないけれど、がんばろう。きっと、みんな望んでいるから。
そのための第一歩、明日のテストだ。まずそれをしっかり勉強して、ゆっくりでいいから進もう。
……しまった、教科書寺子屋だ!
◆
なんとか、なりそう、か、な?
ニヤニヤした先生に配られたテストは、案外むずかしくない。昨日ママの出してくれたおやつのおかげで、勉強を頑張れたからだ。
ゴリラママの、男が無理をして女の声を出すときのような低くかすれた声と、顔半分にもなるでっかいくちびるのキスは気持ち悪かったけれど。そして頬ずりするな、ひげが痛い。剃れ。
まあいいか。結果的に助かったわけだからね。
さて、次の問題だあ。
テスト冊子のページをめくる。さっき確認していたのだけど、これが最後の問題みたいだ。
おや、表がある。むむむ、こいつは手ごわそうだぞ。最後の問題らしいむずかしいさだ。
そのときぼくは、ただならぬ絶望をふと感じた。ただむずかしいから、という理由じゃないと思う。
「この問題に出てくる税制度は幻想郷でも採用されているやつだから、答えられないと恥ずかしいぞー?
最近、改革すべきかそうじゃないかで議論が巻き起こってるしなー。
むずかしいだろう、むずかしいだろう?」
先生がたのしそうに言う。「先生、いじめはいけないんだよー!」とかだれかが言ったような気がする。そんなこと どうでもいい。いや、それどころじゃないと言うほうが正しい。
なんだろう、今。なにかが心の中で引っかかったような気がする。
まさか。
『将来大物になって、労働者に課された税をすこしでも安くしてね』
霖之助さんの言葉が、真理を包むカーテンを一瞬めくった。
まさか、まさか。
ぼくはかすりかけた真理におびえて、ペンを持つ手が震えてしまう。今までやっていたふつうのことが、死に繋がる危険なことだったとわかったときのような。
ぼくはこわくてこわくて、テストに集中できなくなった。「まさか、まさか」と何人もののぼくが悲鳴をあげる。
カーテンの向こうには、黒い太陽があった。
「はい、やめ!」
ぼくはテストを回収する先生を、ただ見送る。回収がおわり、代表の生徒が号令をかける。
起立、礼、先生さようなら!
ぼくは寺子屋から飛び出す。みんながこっちを見た。でも気にしていられない。
昨日、霖之助さんのお店に走ったときよりも早く走る。行き先は――市場だ。
よく見るんだ。たぶん、ぼくの推理は正解している。そこにいるおばさんたちは、どこからどう見ても――。
◆
まるで知らない世界へと飛び込んだかのようだ。すべてが なくなった。
崩壊した。いや、崩壊させたのだ。
ぼくは失望を隠せずに、とぼとぼと夕方の道を歩いていた。
家にたどり着いて、ゆっくりと扉を開ける。扉の向こうに、妖怪が待ち伏せしているような気持ちで。
「おかえりッ! お帰りのキスの時間ね!」
ママがいっぱいの笑顔でこっちに近づいてくる。遠くにいるときでさえ、ママはたくましい骨格をごまかせていない。それが、近づいてくると――。
ああ、短いひげの草原が迫ってくる。でっかいくちびるがプリンのように揺れ、二、三滴の液が飛ぶ。
ねえママ。一つだけ聞いていい。
ぼくは、どうやって生まれてきたの?
そんな疑問に、ママが答えるはずがない。だって、心の中に浮かんだんだもん。
それは口に出そうなのに、出てこない。壊れかけの真理を本格的に壊すのがこわいんだ。
くちびるが迫ってくる。
もう逃げられない。すでに、テリトリーに踏みこんでしまったのだ。
幻想郷に住む人たちは、なんで女性が多いのを気にしないんだろう。そう思っていた時期がぼくにもあった。今、ぼくにも答えがわかった。
筋肉が迫ってくる。相変わらずたくましい。ブートキャンプとやら でもやっていたのだろうか。
ママの腕にある、女の生首の刺青がぼくを睨んだ。
ぼくもやがて大人になって、この世界を達観するだろう。ぼくが死ぬまでに、幻想郷の秘密を探ろうとする子を見つけるかもしれない。
もう助からないぼくの使命は、その子を救うことだ。
かつて先生が、ごまかすようにぼくを救ってくれたときのように。
黒いスキンヘッドが、窓から差し込む夕日を跳ね返す。ママの頭に、小さな赤い太陽が浮かびあがった。
もしかすると霖之助さんもまた。ぼくに真実を教えまいとして、ぼくが真実を発見したと言うことにしてくれたのだろうか。きっと、そうだったんだ。
そして、えらいえらいと持ち上げた。ぼくがもう、この真実に興味を持たないように。
ありがとう霖之助さん、ぼくもあなたみたいな大人になるよ。そしてあなたが、助けることのできなかった分多くの人を助けるよ。
ぼくは、将来絶対に税を改善させる。
ああ。
くちびるが、もう近い。
◇ あのテスト
問い
次の表は、外の世界における10世紀の農民の戸籍に関する調査結果である。これを見て問題に答えよ。
男 56人
女 389人
なぜ、これほど女性が多いのか。必ず「税」という言葉を使い、50字以内で答えなさい。ただし、「税」という言葉は何度使ってもよいが、使用した場所には下線を引くこと。
模範解答
当時農民たちに課されていた税は男のみが負担することになっていたので、女だと偽れば税を免除されたから。(50字)
◇
「そんなことがあってね」
すこし身勝手すぎたと反省する。相手のことも考えずに、べらべらと昔のことをしゃべってしまった。おかげでぼくの話を長々と聞かされた彼女は黙りこんでしまう。
「幻想郷って、本当にふしぎだよね」
話の締めということで、当たり前のことをひとつ。それでも彼女はなにも言わない。
謝ろうとしたとき、彼女は顔をあげる。必死の顔だ。そしてなみだ目。
その理由は、すぐにわかった。
「じつは、わたし……」
ああ、そうか。あなたも彼らと同類でしたか。あははは。
幻想郷はどこまでも、ふしぎに満ちていた。
そういえば。
幻想郷は外の世界の人にとって、理想郷だと聞いたことがある。
きっとふしぎが満ちているところ、そして夢に満ちているところに惹かれるのだろう。まるで、子どもが描いた世界のようだから。
だけど忘れちゃいけない。
つねに危険は、すぐそばにあるのだから。
おんなのこだと偽っているという可能性があるわけか……。
いいことじゃないか!
しかし里の女性率高かったのかなあ。
まさか、彼女達の中に……はいないよね。たぶん……
これはひどい
なーに、真実のためさ。
あんな可愛い娘達が女の子なわけがないじゃないか。
あんな可愛い娘達が。女の子なわけがないじゃないか。
性別なんて些細なことさ。
だからリグルに抱きついてくるよ。