「どうしたのよ、今日はやけに呆気なかったわね」
「……言い訳はしないわ」
焼け野原のど真ん中。
妹紅は崩れた衣服を整えながら、輝夜はボロボロのまま仰向けに倒れたまま会話をしている。
すでに、数時間に及ぶ殺し合いは終わっている。
辺りは焼き払われ、上空から竹林を見れば、そこだけポカリと丸く開いているだろう。
それはまるでミステリーサークルの如く。
「そう。なんだか疲れてるみたいだけど、それが原因?」
「……言い訳はしないわ。でも、まぁ、その通りよ」
よっ。と、輝夜は上半身を起こしながら頭をかいた。
「最近、永琳の所にやけに患者がくるのよね。里で病気でも流行ってるのかしら」
「あぁ―――そういえば、確かに最近仕事が多いわね」
「さすがの永琳も、猫の手が借りたいみたいで私も手伝ってるのよ」
「……猫の手にもなるの?」
「なるの」
確かに永琳の足元にも及ばない知識だが、それでも長い間一緒にいるのである。
それなりに、見よう見まねでどうにかやっている。
まぁ、7割が永琳に「いらないことするな」と突っぱねられる結果になるのだけれど。
そこまでわざわざ妹紅に言う必要は無いだろうと、輝夜はぐっと飲み込んだ。
「で、そのお手伝いをしてるせいで疲れてて、今日は本気だせなかったってわけ?」
「だから言ってるでしょ。言い訳はしないって。それはそれ、これはこれよ」
「…………」
まぁ確かにそれはそれだし、これはこれなんだろうけども。
それでも妹紅としてはあまり面白くない。
せっかくの、2人きりの空間なのだ。
周りの事を何も考えず、ただ単純に相手に殺意だけを向ける、幸せな空間。
別に自分に人を殺す願望があるわけじゃなく、輝夜相手にだけできる、輝夜とだけできる楽しい遊びである。
それが、永琳だとか、人里に流行る病などで邪魔されるのは、どうも面白くないのだった。
「(―――って、なんでこんな恋煩いみたいなことを考えてるのか私は)」
「? どうしたの妹紅。苦虫を噛み潰して煎じて飲んだみたいな顔して」
「そんな事頼まれてもしないよ」
「あら、妹紅にはお似合いよ?」
どういう意味だ。
と、悪態をつこうとした瞬間。
一歩足を踏み出した瞬間のことだった。
「ヘクチッ」
「…………」
「ヘクチッ!」
可愛らしい声が聞こえる。
どこから? なんて聞いたところで、妹紅じゃない限りそれは輝夜のものでしかない。
目を丸くする妹紅に対し、輝夜はすこし頬を染めながら鼻をすすった。
「うー、誰かが噂してるのかしら。それとも患者の誰かからうつされ……」
妹紅は駆け出した。
所変わって、永遠亭。
若干疲れた顔をした永琳と、その肩を揉む鈴仙が居間にいた。
「ふぅ……それにしても、本当に厄介みたいね。この風邪は」
「そうですね。ここ最近、こんなに大勢の患者さんはあまり来ませんでしたしね」
「いっそ、人里の方に簡単な診療所でも作ろうかしら」
「え。師匠、そちらに住むんですか?」
「あら、私とは誰も言ってないでしょ? お願いね、うどんげ」
「え、そんな師匠ぉ~」
楽しそうに笑いあう2人。
きゃっきゃうふふとしてる2人の耳に、なにやら大きな音が聞こえる。
あえて例えるなら、フルマラソン大会のスタート直後みたいな音である。
「し、師匠?」
「……何事かしら。敵襲?」
「え、そんな、まさか月からの刺客じゃ……」
「そんなはずはないけど……」
ズドドドドドその大きな音が近づくにつれ、ズドドドドドドドドドドド緊張感を高める2人。
そして、ズドドドドドドドドその音がすごく近くまでやってきたズドドドドドドドその時―――
ズドドドドドドドドドドドッ!!!!
「エ――――――リ―――――――ンッ!!!!」
ズドドドドドドドドドドドッ!!!!
「うわぁ」
うわぁ。と言う他なかった。
そこには、輝夜をまるで米俵の如く担ぎ、ものすごい形相で走ってくる妹紅がいた。
まさに必死に感じである。死なないくせに。
「ちょっと師匠、どうしたんですかアレ」
「私に聞かれても……輝夜が一緒ってことは、いつもの情事は終わったんじゃないの?」
「じょ、情事……いえ、でも妹紅の顔すごいですよ」
「いつもの事じゃない」
「え、あ、確かにそうですけど……」
「えーーーーりーーーーーん!!!!!!!」
「ヘクチッ」
ん? と、顔を見合わせる2人。
よく見れば、チラリと見える輝夜の顔が若干赤い。
永琳は少し頭をかかえながら、目の前で急停止した妹紅を見た。
「た、た、た、大変だ!! 輝夜が風邪ひいた!!」
「……ウドンゲ、輝夜の部屋で準備してきてちょうだい」
「あ、はぁ。わかりました」
ちょっとだけ予想外な妹紅の反応に、永琳はちょっとだけ頭が痛かった。
「バカ違うッ! とにかく火をくべてればいいの!」
「ウサー ウサー」
「ちょっと永琳の準備はまだ!?」
「今薬を取りに行ってるわよ。少しは落ち着いたら?」
「落ち着いてるだろっ! まったく。これだから永遠亭の連中は!」
「……ねぇ妹紅」
「バカしっかり寝てろっ! 風邪はひき始めが肝心って慧音が言ってたぞ!!」
「…………」
輝夜の部屋は、大混乱だった。
薬を取りに永琳が部屋に向かうと、妹紅があれよこれよと指示を出し始めたのである。
やれ火をくべろ。だ。
やれもっと温かくしろ。だ。
やれ氷の準備はないのか。だ。
傍目に見て落ち着きは無いのだが、妹紅は落ち着いているという。
妖怪兎は妹紅の指示で動きまわり、鈴仙ははぁとため息をつきながら座りこんでおり、てゐは隅っこの方でニヤニヤしているだけである。
それはまさに大混乱だった。
と、そこへ。
「はいはい。みんな落ち着きなさい。妹紅もよ」
パンパン! と手を叩きながら永琳が返ってきた。
手にはなにやらいろんな道具がはいった箱がぶら下がっている。
永琳の到着に、兎達もほんのちょっとだけ安心そうな顔をする。
「遅いぞ永琳」
「あなたがせっかちなだけよ。それより輝夜、ちょっと起きれる?」
「え。うん」
プリプリと怒る妹紅をしり目に、永琳は輝夜の上半身を起こし、簡単な診察に入る。
熱は、思ったよりもある。
汗もかきはじめている。
呼吸も少し荒い。
なるほど確かにこれは、
「風邪。ね」
「……やっぱり。大丈夫なの? その、最近の流行り病とは違うの?」
「それとは違うわ。大方、手伝いに疲れてお腹出して寝てたんでしょう」
「ちょ、永琳……」
恥ずかしそうにする輝夜だが、力が入らないのも本当なのでだらりと崩れるだけだった。
実際に風邪だと診断されてしまうと、あぁやっぱり。と精神的にも弱ってしまう。
妹紅と一緒の時はまだ大丈夫だったのだけど。と考えながら、輝夜はそのままグテッと横になった。
「そうか。ならまぁ、大丈夫か」
「甘いわね」
「え?」
鈴仙やてゐ、妖怪兎達も含めてホッとしていた所に、永琳の冷たい一言が飛ぶ。
妹紅は思わず、永琳の腕を思い切り掴んでいた。
「どういう事だ」
「……蓬莱人が、普通の風邪にかかると思う?」
「ッ!」
「これはちょっと、まずいわね」
永琳の真剣な目つき。そして物言いに、妹紅は掴んでいた手を離した。
それを確認してから、永琳は話を続ける。
「そもそも、蓬莱人が風邪をひく事自体稀だから、治療法もあまり伝わってないのよ」
「そんな……」
「あら、私を誰だと思ってる?」
「……月の頭脳、八意永琳」
「分かってるじゃない。私にかかれば、この程度。ちょちょいのちょいよ」
永琳のその言葉に、今まで曇っていた妹紅の顔がぱあっと晴れた。
そしてそのまま両手をがっしりと握る。
「大丈夫なんだな!? 輝夜は大丈夫なんだな!?」
「大丈夫よ。私に任せなさい」
「――――よかった……」
本当に、心底。
嬉しそうに妹紅はそう言った。
普段そんな顔を見たことのない輝夜以下永遠亭の面々は、少々面食らってしまう。
それほどに、嬉しそうな笑みだった。
「……でも、ちょっと材料が必要なのよ」
「なにっ! 任せろ、私が取りに行ってあげるわ!!」
「そう。それじゃあ今から言う材料を取ってきて」
「おう!」
「まずは、龍の頸の玉 」
鈴仙がブフォッと思いっきり噴き出すが、妹紅には聞こえていない。
「次に、仏の御石の鉢」
てゐがゲラゲラと笑いだす。それでも妹紅には聞こえていない。
「そして火鼠の皮衣、燕の子安貝、蓬莱の玉の枝。以上よ」
「よし、これを持ってこればいいのね」
「ええ。何処にあるかは分からないけど、がんばってね」
「友人のためよ、任せて!!」
言うや否や、妹紅はバサッと飛び出した。
静まり返る部屋。
一番初めにそれを破ったのは鈴仙だった。
「あ、あの、師匠」
「なに?」
「その……今の説明って、全部でたらめ……ですよね?」
「全部じゃないわ。輝夜は風邪なのは本当よ」
永琳の言葉に、鈴仙がガクッと項垂れる。
大体は、聞いてる時点でおかしいと感じていたのだ。
主に、蓬莱人が普通の風邪にかかると思う? の辺りから。
「この間、あの子うちに風邪で診察にきてたのにねぇ」
「ですよね」
「よっぽど、混乱してたんじゃないのかしら。ねぇ、輝夜?」
永琳の振りに、ふと輝夜の方を見てみれば。
布団を頭まで被っていた。
きっと恥ずかしがっているのだろうと、鈴仙は少し笑みをこぼす。
「……あいつ、私の事友人だって」
「言ってたわね」
「そんな事、思ってもないくせに」
「あら、そうかしら?」
「……私たち、そんな仲じゃないのに」
「本当に?」
「…………」
「2人で夜な夜な情事に出かけるなんて。友人どころか立派な恋人よ」
「そんなんじゃないわよ」
すっ。と、輝夜が布団から顔を出す。
風邪のせいで赤いのか、恥ずかしくて赤いのか。真っ赤な顔で。
「私たち、仲が悪いのよ」
「嫌よ嫌よも好きのうち。って言うでしょ」
「うぅ……」
「まぁなんにせよ、妹紅は2人の時間を誰にも邪魔されたくないし、輝夜のためなら無理難題も集めれちゃう。って事よ」
「……愛ですねぇ」
「愛だねぇ」
「愛ねー」
「……」
ボスッと。輝夜は再び布団に顔を戻した。
「あなた達、治ったら覚えときなさいよ」
―――とまぁ、そんな話のオチ。
いつまで経っても帰ってこない妹紅。
妖怪兎達はさっさととっぱらって、普通の風邪薬を飲ませ、今は鈴仙が永琳特製のおかゆを輝夜に食べさせているところだった。
「遅いですね、妹紅」
「まったく。無いものをいつまで探してるのかしらね」
「いえいえ。きっと妹紅の愛のパワーで見つけてくるわよ」
「……気味が悪いわ」
と。
言ってるちょうどその時妹紅が帰ってきた。
ドカッと襖を開け放った妹紅は、特に何も持っていなかった。
まぁそりゃそうだよねぇ。みたいな顔の4人とは対象に、妹紅はブスッとした顔つきである。
「あら、遅かったわね妹紅。それでどう? 材料は見つかった?」
「…………」
ブスッとした顔のまま。妹紅はポケットから手を出した。
その手には、綺麗な玉のついた枝が握られていた。
「「「「え?」」」」
「ごめんな、輝夜。これしか見つけれなかった」
「……永琳」
「……はい」
「……妹紅の愛が怖いわ」
「…………はい」
「……言い訳はしないわ」
焼け野原のど真ん中。
妹紅は崩れた衣服を整えながら、輝夜はボロボロのまま仰向けに倒れたまま会話をしている。
すでに、数時間に及ぶ殺し合いは終わっている。
辺りは焼き払われ、上空から竹林を見れば、そこだけポカリと丸く開いているだろう。
それはまるでミステリーサークルの如く。
「そう。なんだか疲れてるみたいだけど、それが原因?」
「……言い訳はしないわ。でも、まぁ、その通りよ」
よっ。と、輝夜は上半身を起こしながら頭をかいた。
「最近、永琳の所にやけに患者がくるのよね。里で病気でも流行ってるのかしら」
「あぁ―――そういえば、確かに最近仕事が多いわね」
「さすがの永琳も、猫の手が借りたいみたいで私も手伝ってるのよ」
「……猫の手にもなるの?」
「なるの」
確かに永琳の足元にも及ばない知識だが、それでも長い間一緒にいるのである。
それなりに、見よう見まねでどうにかやっている。
まぁ、7割が永琳に「いらないことするな」と突っぱねられる結果になるのだけれど。
そこまでわざわざ妹紅に言う必要は無いだろうと、輝夜はぐっと飲み込んだ。
「で、そのお手伝いをしてるせいで疲れてて、今日は本気だせなかったってわけ?」
「だから言ってるでしょ。言い訳はしないって。それはそれ、これはこれよ」
「…………」
まぁ確かにそれはそれだし、これはこれなんだろうけども。
それでも妹紅としてはあまり面白くない。
せっかくの、2人きりの空間なのだ。
周りの事を何も考えず、ただ単純に相手に殺意だけを向ける、幸せな空間。
別に自分に人を殺す願望があるわけじゃなく、輝夜相手にだけできる、輝夜とだけできる楽しい遊びである。
それが、永琳だとか、人里に流行る病などで邪魔されるのは、どうも面白くないのだった。
「(―――って、なんでこんな恋煩いみたいなことを考えてるのか私は)」
「? どうしたの妹紅。苦虫を噛み潰して煎じて飲んだみたいな顔して」
「そんな事頼まれてもしないよ」
「あら、妹紅にはお似合いよ?」
どういう意味だ。
と、悪態をつこうとした瞬間。
一歩足を踏み出した瞬間のことだった。
「ヘクチッ」
「…………」
「ヘクチッ!」
可愛らしい声が聞こえる。
どこから? なんて聞いたところで、妹紅じゃない限りそれは輝夜のものでしかない。
目を丸くする妹紅に対し、輝夜はすこし頬を染めながら鼻をすすった。
「うー、誰かが噂してるのかしら。それとも患者の誰かからうつされ……」
妹紅は駆け出した。
所変わって、永遠亭。
若干疲れた顔をした永琳と、その肩を揉む鈴仙が居間にいた。
「ふぅ……それにしても、本当に厄介みたいね。この風邪は」
「そうですね。ここ最近、こんなに大勢の患者さんはあまり来ませんでしたしね」
「いっそ、人里の方に簡単な診療所でも作ろうかしら」
「え。師匠、そちらに住むんですか?」
「あら、私とは誰も言ってないでしょ? お願いね、うどんげ」
「え、そんな師匠ぉ~」
楽しそうに笑いあう2人。
きゃっきゃうふふとしてる2人の耳に、なにやら大きな音が聞こえる。
あえて例えるなら、フルマラソン大会のスタート直後みたいな音である。
「し、師匠?」
「……何事かしら。敵襲?」
「え、そんな、まさか月からの刺客じゃ……」
「そんなはずはないけど……」
ズドドドドドその大きな音が近づくにつれ、ズドドドドドドドドドドド緊張感を高める2人。
そして、ズドドドドドドドドその音がすごく近くまでやってきたズドドドドドドドその時―――
ズドドドドドドドドドドドッ!!!!
「エ――――――リ―――――――ンッ!!!!」
ズドドドドドドドドドドドッ!!!!
「うわぁ」
うわぁ。と言う他なかった。
そこには、輝夜をまるで米俵の如く担ぎ、ものすごい形相で走ってくる妹紅がいた。
まさに必死に感じである。死なないくせに。
「ちょっと師匠、どうしたんですかアレ」
「私に聞かれても……輝夜が一緒ってことは、いつもの情事は終わったんじゃないの?」
「じょ、情事……いえ、でも妹紅の顔すごいですよ」
「いつもの事じゃない」
「え、あ、確かにそうですけど……」
「えーーーーりーーーーーん!!!!!!!」
「ヘクチッ」
ん? と、顔を見合わせる2人。
よく見れば、チラリと見える輝夜の顔が若干赤い。
永琳は少し頭をかかえながら、目の前で急停止した妹紅を見た。
「た、た、た、大変だ!! 輝夜が風邪ひいた!!」
「……ウドンゲ、輝夜の部屋で準備してきてちょうだい」
「あ、はぁ。わかりました」
ちょっとだけ予想外な妹紅の反応に、永琳はちょっとだけ頭が痛かった。
「バカ違うッ! とにかく火をくべてればいいの!」
「ウサー ウサー」
「ちょっと永琳の準備はまだ!?」
「今薬を取りに行ってるわよ。少しは落ち着いたら?」
「落ち着いてるだろっ! まったく。これだから永遠亭の連中は!」
「……ねぇ妹紅」
「バカしっかり寝てろっ! 風邪はひき始めが肝心って慧音が言ってたぞ!!」
「…………」
輝夜の部屋は、大混乱だった。
薬を取りに永琳が部屋に向かうと、妹紅があれよこれよと指示を出し始めたのである。
やれ火をくべろ。だ。
やれもっと温かくしろ。だ。
やれ氷の準備はないのか。だ。
傍目に見て落ち着きは無いのだが、妹紅は落ち着いているという。
妖怪兎は妹紅の指示で動きまわり、鈴仙ははぁとため息をつきながら座りこんでおり、てゐは隅っこの方でニヤニヤしているだけである。
それはまさに大混乱だった。
と、そこへ。
「はいはい。みんな落ち着きなさい。妹紅もよ」
パンパン! と手を叩きながら永琳が返ってきた。
手にはなにやらいろんな道具がはいった箱がぶら下がっている。
永琳の到着に、兎達もほんのちょっとだけ安心そうな顔をする。
「遅いぞ永琳」
「あなたがせっかちなだけよ。それより輝夜、ちょっと起きれる?」
「え。うん」
プリプリと怒る妹紅をしり目に、永琳は輝夜の上半身を起こし、簡単な診察に入る。
熱は、思ったよりもある。
汗もかきはじめている。
呼吸も少し荒い。
なるほど確かにこれは、
「風邪。ね」
「……やっぱり。大丈夫なの? その、最近の流行り病とは違うの?」
「それとは違うわ。大方、手伝いに疲れてお腹出して寝てたんでしょう」
「ちょ、永琳……」
恥ずかしそうにする輝夜だが、力が入らないのも本当なのでだらりと崩れるだけだった。
実際に風邪だと診断されてしまうと、あぁやっぱり。と精神的にも弱ってしまう。
妹紅と一緒の時はまだ大丈夫だったのだけど。と考えながら、輝夜はそのままグテッと横になった。
「そうか。ならまぁ、大丈夫か」
「甘いわね」
「え?」
鈴仙やてゐ、妖怪兎達も含めてホッとしていた所に、永琳の冷たい一言が飛ぶ。
妹紅は思わず、永琳の腕を思い切り掴んでいた。
「どういう事だ」
「……蓬莱人が、普通の風邪にかかると思う?」
「ッ!」
「これはちょっと、まずいわね」
永琳の真剣な目つき。そして物言いに、妹紅は掴んでいた手を離した。
それを確認してから、永琳は話を続ける。
「そもそも、蓬莱人が風邪をひく事自体稀だから、治療法もあまり伝わってないのよ」
「そんな……」
「あら、私を誰だと思ってる?」
「……月の頭脳、八意永琳」
「分かってるじゃない。私にかかれば、この程度。ちょちょいのちょいよ」
永琳のその言葉に、今まで曇っていた妹紅の顔がぱあっと晴れた。
そしてそのまま両手をがっしりと握る。
「大丈夫なんだな!? 輝夜は大丈夫なんだな!?」
「大丈夫よ。私に任せなさい」
「――――よかった……」
本当に、心底。
嬉しそうに妹紅はそう言った。
普段そんな顔を見たことのない輝夜以下永遠亭の面々は、少々面食らってしまう。
それほどに、嬉しそうな笑みだった。
「……でも、ちょっと材料が必要なのよ」
「なにっ! 任せろ、私が取りに行ってあげるわ!!」
「そう。それじゃあ今から言う材料を取ってきて」
「おう!」
「まずは、龍の頸の玉 」
鈴仙がブフォッと思いっきり噴き出すが、妹紅には聞こえていない。
「次に、仏の御石の鉢」
てゐがゲラゲラと笑いだす。それでも妹紅には聞こえていない。
「そして火鼠の皮衣、燕の子安貝、蓬莱の玉の枝。以上よ」
「よし、これを持ってこればいいのね」
「ええ。何処にあるかは分からないけど、がんばってね」
「友人のためよ、任せて!!」
言うや否や、妹紅はバサッと飛び出した。
静まり返る部屋。
一番初めにそれを破ったのは鈴仙だった。
「あ、あの、師匠」
「なに?」
「その……今の説明って、全部でたらめ……ですよね?」
「全部じゃないわ。輝夜は風邪なのは本当よ」
永琳の言葉に、鈴仙がガクッと項垂れる。
大体は、聞いてる時点でおかしいと感じていたのだ。
主に、蓬莱人が普通の風邪にかかると思う? の辺りから。
「この間、あの子うちに風邪で診察にきてたのにねぇ」
「ですよね」
「よっぽど、混乱してたんじゃないのかしら。ねぇ、輝夜?」
永琳の振りに、ふと輝夜の方を見てみれば。
布団を頭まで被っていた。
きっと恥ずかしがっているのだろうと、鈴仙は少し笑みをこぼす。
「……あいつ、私の事友人だって」
「言ってたわね」
「そんな事、思ってもないくせに」
「あら、そうかしら?」
「……私たち、そんな仲じゃないのに」
「本当に?」
「…………」
「2人で夜な夜な情事に出かけるなんて。友人どころか立派な恋人よ」
「そんなんじゃないわよ」
すっ。と、輝夜が布団から顔を出す。
風邪のせいで赤いのか、恥ずかしくて赤いのか。真っ赤な顔で。
「私たち、仲が悪いのよ」
「嫌よ嫌よも好きのうち。って言うでしょ」
「うぅ……」
「まぁなんにせよ、妹紅は2人の時間を誰にも邪魔されたくないし、輝夜のためなら無理難題も集めれちゃう。って事よ」
「……愛ですねぇ」
「愛だねぇ」
「愛ねー」
「……」
ボスッと。輝夜は再び布団に顔を戻した。
「あなた達、治ったら覚えときなさいよ」
―――とまぁ、そんな話のオチ。
いつまで経っても帰ってこない妹紅。
妖怪兎達はさっさととっぱらって、普通の風邪薬を飲ませ、今は鈴仙が永琳特製のおかゆを輝夜に食べさせているところだった。
「遅いですね、妹紅」
「まったく。無いものをいつまで探してるのかしらね」
「いえいえ。きっと妹紅の愛のパワーで見つけてくるわよ」
「……気味が悪いわ」
と。
言ってるちょうどその時妹紅が帰ってきた。
ドカッと襖を開け放った妹紅は、特に何も持っていなかった。
まぁそりゃそうだよねぇ。みたいな顔の4人とは対象に、妹紅はブスッとした顔つきである。
「あら、遅かったわね妹紅。それでどう? 材料は見つかった?」
「…………」
ブスッとした顔のまま。妹紅はポケットから手を出した。
その手には、綺麗な玉のついた枝が握られていた。
「「「「え?」」」」
「ごめんな、輝夜。これしか見つけれなかった」
「……永琳」
「……はい」
「……妹紅の愛が怖いわ」
「…………はい」
愛ってすげぇwww
わざわざ島まで行ったのかw
不可能を可能にしたwww
2828が止まらないww殺し愛こそ至高である!!
GJです。