Coolier - 新生・東方創想話

◆― Knowledge ―◆

2004/12/27 20:22:47
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私は、本が好きだ。

本は知識そのもの。
さまざまな情報を著者の見解でまとめてある宝箱だ。
学術書であれ、物語であれ、情報を昇華したものという一点においては、全ての書物は等しいものと言える。

本は文字と記号による表現しか無い為、著者の意図が読み手に伝わりにくい事もある。
また、受け止め方が幾つかある場合もあるが、それらもまた本の面白さの一つだ。


時に納得し、時に疑問に思い、
時に腹を立て、時に喜びを覚える。

そう…
つまり、私にとって本とは―――――





◆― Knowledge ―◆










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――1//


あれは、夏の事だったらしい。

珍しく屋敷に慌しい空気が流れていると思っていた矢先、私の図書館にとんだ珍客が訪れた。


「ここの本の並びは凄いな」


突然現れた少女はそう言うと、目の前に居る私の事などお構いなしで本棚の本をひょいひょいと鞄に詰めだした。


「で、あんた誰だ?」

「………その疑問はおかしくないかしら」

「おかしくないぜ。
 目の前に知らない奴が居るから、誰か聞いた。 これのどこが変なんだ?」

「この部屋の主っていう発想は出ないの…?」


屋敷に不法侵入し、人の使役した小悪魔まで倒してずかずかと上がりこんで来た悪党は、少しも悪びれた様子もなく人の本を勝手に漁っていた。

挙句、このふてぶてしさ。
盗人猛々しいという言葉が一瞬で頭に浮かんだが、言ってもどうせ意味が無いので口にするのは止めておいた。


「そんな事は分かってるぜ。 それで、名前は?」

「パチュリー・ノーレッジ。
 ………普通、名前を聞くんだったら先に名乗らない?」

「あぁ、悪かったな。
 私は霧雨魔理沙。 普通の魔法使いだぜ」


普通の魔法使い
この言葉を聞いた時、私は呆れも怒りも通り越して笑いだしそうになったのを覚えている。
不法侵入や窃盗に謝罪の言葉一つない少女が、名前を先に名乗らなかった無礼を詫びているのだ。
そもそも、目の前の少女は一体自分のどこを見て普通と言っているのだろうか。

まさか、私が図書館に篭っている間に外では強盗が流行っているとか………いや、そんな話は最近書かれた本にも載っていなかった。

矢張り、目の前の少女は普通では無い。
断じて。


「あなた、面白い人ね」

「光栄だぜ。
 ところで、ものは相談なんだが、ここの本数冊私に貸してくれないか?」

「駄目よ」


私は即答した。
だが、その言葉を口にすると同時に分かっていた。

どうせ、この少女は私の回答に関係なく本を持っていくつもりだ、と―――――


「そう――――、か。 残念だ。
 それなら勝手に借りさせてもらうぜ。 無期限で」



   ―――――パチッ…



彼女の前に、二つの珠が現れた。
魔力の塊であるらしいその珠はふわふわと揺らめいて――――――――――


         『イリュージョンレーザー』


刹那、光の剣が奔った。


「!! …ッ!!」

「ほらほら、どんどん行くぜ!!」


身をよじり、私はギリギリの所で光線を避けた。
そんな私を狙い撃ちするかのように(いや、実際狙い撃ちだが)彼女は次々と弾を撃ち込んできた。

呆れた、今のが戦闘(弾幕ごっこ)開始の合図とでも言うのだろうか?
弱そうに見える私をさっさと倒して、さくっと本を奪って行こうって魂胆なのだろう。
彼女はどれだけ自分本位で動いているのだろう―――――


「もう終わりか? ………ん?」



―――――まったく、もう、



「……馬鹿にしないで、もらえる?」



       『火符「アグニレイディアンス」』



思えばあそこで頭にきたのがいけなかったのだろう。
結局私は一撃当てた後、喘息の発作に自由を奪われて敗れてしまったのだ。


まぁ、つまる所。
そんな手痛い敗北が、私と魔理沙の初めての出会いとなったのだ。



今でも、あの時不覚をとった事が悔しくてたまらなかったりする。

それこそ、夢に見るくらい――――――――――――――――――――



鳥の鳴く声が、聞こえた気がした。
もうすぐ目が覚めるだろう。

今日もこの夢のように、無礼な珍客は訪れるだろうか……?










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――2//


「さむ………」


目が覚めた途端、寒さに身を縮めた。
毛布をしっかり被り直して、二度寝を試みる。

今は冬。
あの出来事からは半年近く経っている。
最近ではレミィも妹様も落ち着いて、大きなケンカも無くなっている。

少しつまらない気もするが、それでも平和というものは落ち着かない筈もない。
これで、無駄な事に力を使わずゆっくりと読書に耽る事が出来―――――――――


「パチュリー! 起きてるか~?」


―――――前言撤回。
どうやら私は少し寝ボケていたらしい。
レミィ達が落ち着いたのはいいが、その代わりに私はもっと大きな厄介事を抱える羽目になったのだ。
それが何なのかは、あえて語る必要は無いだろう…


「勝手に上がらせてもらうぜ~」

「待ちなさい、そこのコソ泥小鼠」


ドアの向こうから魔理沙と咲夜の声が聞こえる。
どうやら、部屋の前で弾幕を始たらしい。


「コソ泥か鼠か、どっちか一つにしてくれないか?」

「同じよ。 どっちにしたって排除するもの」


二人が戦う音が五月蝿くて、眠りたいというのに目が覚めてしまった。
仕方ない、今日はもう起きて朝食をとる事にしよう…




















「あら、パチェ。
 今日は早いのね」

「お互い様でしょ」

食卓に着くとレミィが居た。
お互い、こんな早くに起きるのは珍しいが…


「咲夜がいつもより強めに起こしてくれたから、今日はよく目が覚めたわ」

「あれは強烈そうだったわね。 私の部屋の方まで聞こえたもの、その目覚まし」


レミィが悪戯っぽく笑うと、咲夜は少し申し訳なさそうにしながら朝食を並べた。

ちなみに、朝食の準備があるので咲夜は魔理沙を倒しきれなかった。
結局、魔理沙は今私の図書館で本を読んでいる。

残念ながら、咲夜の目覚ましは鼠捕りには使えそうにない。



「そういえば、」


朝食を盛り付けながら、咲夜が思い出したように言った。


「今日は雪が積もってましたよ」

「あら、昨日は寒かったけど雪が降ったの。
 どれぐらい積もってた?」

「う~ん… 私の足で、踝より上ぐらいですかね」


そう言って咲夜は自分の足を指差した。


「それじゃ今日は神社に遊びに行こうかしら」

「どうせ積もってなくても行く気だったんじゃないの…?」

「あらパチェ、そういうのは気分でしょ?
 雪が積もっているから行くの方が、ただなんとなく行くよりずっと面白そうな感じがするじゃない」


たまにレミィはよく分からない事を言う。
兎に角、私は雪などに興味は無いので、さっさと朝食を済ませて図書館に戻る事にした。

ちなみに、朝食のスープは和食を食べてみたいというレミィの要望で味噌汁だった。
不味くはなかったが、パンにはあんまり合わないと思う。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――3//


「………呆れた」


図書館に戻ってみると、魔理沙は机につっぷして寝ていた。
それも、寒くないように暖炉の側で。


「あぁ、ちょっと魔理沙、起きなさい!
 本に涎が着いちゃうじゃない」


魔理沙は何をやっても起きなかった。
それこそ、ひっぱっても叩いても。

まったく、そんなに寝不足ならこんな朝早くから来ないでも良いと思う。


「もぅ… これ、どうしようかしら………」


よく考えてみる。
こんな状態の魔理沙に対する対処法、とりあえず浮かんだのは2つだ。

1.このまま放置。
2.咲夜に外に捨ててきてもらう。

…………むむむ、どちらも甲乙付けがたい気がする。
普段なら迷わず2を選ぶ所だが、流石に雪の上に放置するのはマズい気が…


「…んにゃ………むぅ…………
 パチュリーのむらさきもやし~………」


3.ロイヤルフレア


「…………ううん、落ち着いて考えなくちゃ……」


仕方ない。
後々面倒になるのも嫌だし、とりあえずこのまま放っておく事にした。
涎がつくと嫌だから、本は回収しておいたけど。

ちなみに、机の上にあった本はみんな武具書。
………相変わらず、魔理沙は何を考えてるのか分からない。


「………。 毛布ぐらい、かけてあげてもいいかしら」


自分のベッドから毛布を持ってきてあげた。
落ちないように、肩にしっかりかけて整えてあげると…


「?」


コツン、と、手に何かが当たった。


「あら、魔理沙ってば…」


さっき机の上を片付けた時には気づかなかったが、魔理沙の膝の上には一冊の本が抱え込まれていた。
淡い、淡すぎてほとんど白に近い薄紫色の本。
とても立派な作りの本だが、不思議な事にタイトルが書かれていないように見える。

気になった私は、魔理沙を起こさないようにその本を抜き取って見てみた。


「……やっぱり、何も書いて無い」


その本はずっしりと重いハードカバーの本で、裏にも表にも背にも文字どころか記号さえ書かれていなかった。
その上、鍵までついている。

日記帳だろうか?
いや、違う、こんな大きな本が日記帳なんて思えない。
そもそも、魔理沙が日記をつけるとも思えないし。


「………気になるわね…」


私は、本が好きだ。

この本にはどんな知識がつまっているのだろうか。
見当もつかない。

魔道書だろうか?
それとも、歴史書?
長編物語の一巻かもしれないし、事典という可能性もある。
神学書? 外の世界の本とかだったら嬉しい。
あ、でも私の知ってる本だったらつまらないな。

そんな事を考えているうちに、私は、本にかかった鍵を外そうと魔法を唱えていた―――――





――――――法式、展開

―――鍵種特定、これは……高位の魔法錠?
   また、妙に手の込んだものを…

――――――――魔法の種類は、神霊…

――――何これ、禁典並の封印じゃない



「面白いわね、一体どんな内容なのかしら……?」


すごい。
すごく楽しい。
この本は、読む前から私を楽しませてくれている。


―――――――――――――鍵が、開く


いつしか、私はその本の虜になっていた。

だから、私は、どうしてこういう時に浅慮になるのだろうか。
よく無愛想とか言われるけど、ひょっとしたら私は結構気分屋なのかもしれない。

………うん、あとで心理学の本を読んでみよう。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――4//


「成る程、この雪の原因はあんたな訳ね」


同時刻、香霖堂。
店内には中腰になって、品物を拾っては置き、箱に詰めては片付けている男が一人。

いつもやる気のない店主は、珍しく店の掃除をしていた。


「君にだけは言われたくないな」


不機嫌そうに言い返す霖之助。
ストーブ脇でいつものように茶を飲んでいる霊夢は、そんな姿を物珍しそうに見物している。

確かにこの主人は好き好んで掃除をするようなタマではない。
むしろ、商売っ気もない事も手伝って整理整頓には無頓着な方だ。


「たまには僕だって掃除ぐらいするさ。
 これでも店な訳だしな。」

「明日は矢が降るかもしれないわね……」





――――――――――――しばしの沈黙。
その後で、霊夢はずずずとわざと年寄り臭く茶をすすって言った。


「――――――――――探しもの?」


ピクリ、と、霖之助の背中が動いた。
霊夢としては当てずっぽうで言ったようだが、どうやら図星らしい。


「……どうしてそんな事を聞くんだ?」

「だって、貴方が理由もなく大掃除をするなんて考えられないもの」

「まいったね、そんなに僕は分かりやすいかい?」


目を閉じて、呆れたように霊夢は笑った。


「それで、店中ひっくり返してまで何を探してるの?
 そこまでして探しものしてるなんて、余程の物なんでしょ」

「鏡さ」

「鏡~?」


途端、興味を失ったのか霊夢はそれ以上何も聞いてこなかった。

むしろ、その方が助かる。
あの鏡は少々映りすぎる

僕や霊夢、魔理沙が使ったとしても大した事にはならないと思うが、それでもアレは危険なものだ。
だから僕が処分を頼まれていたのだが、いざ壊すとなると勿体無く感じてしまい、店の隅にしまい忘れていたのだ。
―――――――――――――――――ついさっきまで。


「霖之助さん、そろそろお餅焼けるわよ?」

「鏡開き、という言葉でやっと思い出すとは、我ながら………」

「?」


――――――――あぁ、ちなみに餅は醤油と海苔に限ると思う。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――5//


「……………、ん?」


目が覚めると、そこは見慣れた図書館だった。


「あ、そうか。
 パチュリーを待っててそのまま寝ちゃったんだな、私」


暖炉の上にある時計を見ると、短針は寝る前と逆ぐらいの位置になっていた。
昨日徹夜だったとはいえ流石にちょっと寝すぎたかもしれない。


「ふぁ~……
 おーい、パチュリ~?」


まだ寝たり無いと訴える体を抑え、私は図書館の主を探した。


「パチュリー?」


居ない。
本の間、寝室。


「おい、パチュリー…?」


居ない。
食堂、他の部屋、どこにも。

ザァ… と、風のような音が聞こえた気がした。


「パチュリー………?」


紅魔館中探しても、パチュリーはどこにも居なかった。

そういえば、持ってきたアレも無くなってる。 パチュリーが持ち出したのだろうか?
……いや、パチュリーがアレに興味を示すとは思えない。


「レミリアや咲夜も居ないし、何だか気持ち悪いな……」


まったく今日はどうしたのか、普通のメイドさえ見当たらない。
念のためフランの部屋にも行ってみたが、どうやら寝ているらしい。

まったく、こいつはこいつで何時まで寝ているんだろうか。


「げっ、」

「ん?」


美徳のかけらも感じさせない声に振り向くと、ずぶ濡れの門番が立っていた。


「お、美鈴。
 土砂降りに打たれた上に苦手な奴に会ったような顔してどうした?」

「まさにその通りなんだけど…」


美鈴はガチガチと震えながらタオルで体を拭いている。


「うわ、本当に雨かよ。
 この屋敷はほとんど窓が無いから分からなかったぜ
 あ~、せっかく積もった雪が溶けちまうな…」


道理で、さっきから風の音が聞こえる筈だ。


「で、廊下で何してるのよ。
 お嬢様達なら出かけてるけど?」

「あぁ、やっぱり。
 パチュリーもだろ?」


予想通り、館の連中は出払っているようだ。
殆ど、というか全く外に出ないパチュリーも外出とは、さすがに健康に気を――――――


「へ? パチュリー様は図書館じゃないの?」

「あ?」


――――――使い出した訳じゃないらしい。
美鈴によると、パチュリーが外に出たところは見ていないらしい。


そうなると、いよいよパチュリーが居ないのはおかしい。


雨はますます強くなり、屋敷の中に居ても五月蝿いくらい雨音が聞こえる。

これでは帰る事も出来ない。
手がかりも無いので、仕方なく私は図書館へと引き返す事にした。















「あれ?」


灯台元暗しといった所かだろうか?
図書館に戻ると、拍子抜けする程あっさりとパチュリーの後ろ姿を見つけた。


「なんだお前、一体何処に居たんだよ?」

「―――――ちょっと、ね」


パチュリーはこっちに振り向くと、ゆっくり微笑んでそう答えた。


「? どうかしたのか?
 何か顔が悪いぜ?」

「ううん、何でもないわよ。
 むしろ調子がいいくらい」


と、パチュリーの手に見慣れない本がある事に気がついた。
白くい、いや薄紫色の、大きな本が―――――――――――――――――――


「だから―――――魔理沙。 遊んでくれる?」

「!!?」









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――6//


―――――何故、本を読むのか。

――――――――――何故、本を好むのか。










何も見えない。
何か耳障りな言葉だけが聞こてくえる。









―――――何故、知を求めるのか。

――――――――――何に、その知を使うのか。










五月蝿い。
一体誰だ、そもそも私はどうなったのだろうか?









―――――知っただけで満足なのか。

――――――――――知りたいから知る、などという短絡的な思考の元に知を貪るのか。










だから、五月蝿いと言っているのに。
大きなお世話だ。
私は本が好きなのだ、それの何が悪い?









―――――歪だ。

――――――――――お前は歪。


―――――お前の存在はあまりに虚ろ。









あぁ、もう、本当に五月蝿い。
ここは何処?
何て、暗い………









――――――――――――――― 一生、その部屋に篭って本のみを相手にして生きるのだとすれば、
――――――――――お前は世界にとって必要無く、お前も世界を必要としない。

――――――――――――――――――――つまり、それは生きていない事に近い。










もう厭だ。
誰か、助けて、お願いだから、この声を止めて。











―――――――――――――――お前は無駄だ、存在自体が無駄なのだ。

――――――――――――――――強大な魔力を持ちながら、引き篭もってばかりで。
―――――――――――――何かをする訳でもなく、ただただ時間を食い潰す。

―――――――――永遠に光を見る事のない、惨めで無様な蛆虫。










黙れ。五月蝿い。何で声が出ないの?何故、誰も居ないの?ねぇ、どうして?誰か答えてよ。咲夜?レミィ?ねぇ、誰か居ないの?ねぇってば!助けてよ。なんで、誰も、五月蝿い。聞きたくないのに。どうしてそんな事を言うの?関係ないじゃない。放って置いてよ。本さえあれば私は幸せなの。他には何も要らないんだから。そう、何も、誰も要らない。こんな声なんて要らない。助けに来てくれない友達も。役に立たないメイドも。こんな館だっていらない。要らない。邪魔。五月蝿い。みんな要らない。みんな邪魔。本以外は、みんな、要らない。そうでしょ?私はそうやって生きてきたんだから。そうよ、そう。









――――――――――――――――――――言い返す言葉もなかろう。
―――――――――――――――それも当然だ。

―――――――――――――――――――――それが、真実なのだから―――――――――










五月蝿い五月蝿い五月蝿い黙れ五月蝿い五月蝿い黙れ五月蝿い邪魔だ五月蝿い耳障りな五月蝿い黙れ五月蝿い邪魔だ五月蝿い五月蝿い声が五月蝿い五月蝿い皆が五月蝿い黙れ五月蝿い邪魔だ五月蝿い五月蝿い五月蝿い黙れ黙れ五月蝿い五月蝿い五月蝿い皆が邪魔だ五月蝿い五月蝿い嫌だ五月蝿い黙れ五月蝿い嫌い何もかも五月蝿い居なくなればいいのに黙れ五月蝿い五月蝿い邪魔五月蝿い邪魔五月蝿い邪魔黙れ邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔










――――――――――――――――――― あぁ、もう、皆、消えてしまえばいいのに ―――――――――――――――――――――――――――















そうだ、うん、消してしまえばいいんだ。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――7//


「雨は嫌ねぇ」

「まったくです」


博麗神社。
コタツに入って蜜柑を食べながら、レミリアと咲夜は降る雨をぼやいていた。


「雨ぐらいどうって事ないわ。
 私は、あんたたちの方が嫌なんですけど」

「あ、おかえりなさい霊夢~。
 それお餅?」

「留守の間に勝手に上がり込んでおいて、謝罪の言葉一つないの?」


自分もさっきまで香霖堂で同じような事をやってきた訳だが、それはそれ、これはこれ。
図々しい奴にはキツく言わないといけない。


「そういうのは、自分の友達に言ったらどう?」

「? ……あぁ、アイツ、また図書館に行ってるのね…」


メイドの指摘に、今日魔理沙を見かけてない理由が分かった。
でも、それはそれ、これはこれ。
私には関係ない。


「咲夜、お茶~」

「では、早速お茶を淹れてきますね」

「人の話を聞けっ!」


結局、抗議むなしく半ば強引に悪魔のティータイムに巻き込まれてしまった。










「ふぅ……」


メイドがお茶の準備を整えている間に湯浴みをする事にした。
普段は昼風呂なんて入らないが、突然の雨で随分濡れてしまったから仕方ない。

それに、結構悪くないものだ。


「雨、止まないなぁ…」


また霖之助が何か妙な事をしてるのだろうか?
雪の次は雨。
矢が降らなくてよかったといえばよかった。


「これじゃレミリア達も帰れないし、魔理沙も帰ってこれないわね…
 そういえば昨日、魔理沙が香霖堂で良い槍を見つけたとか言っていたっけ。」


ちなみに、店主が探してたのは鏡だったから別に報告はしていない。


「魔理沙、槍なんかに興味あったかしら?」


少しの間考えてみたが、ものすごく無駄な疑問だと思ったので考えるのをやめた。





雨は降っている。
屋根のある場所と外とを遮断し隔離する雨。
似たような雨が前にあった事を、霊夢はすっかり忘れていた――――――――――――










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――8//


「はぁ… はぁ…
 ―――――ッったく、何考えてるんだアイツ!!?」


紅魔館。
図書館に戻って早々、いきなりパチュリーから不意打ちを食らった私は何とか食堂まで逃げ延びた。
手ごろな柱を見つけて、その影に隠れる。

さっきのパチュリーはどこかおかしい。
あいつは冗談でも至近距離で賢者の石なんて使ったりはしない筈だ。
しかも、弾速もいつもより速かった。


「はぁ… はぁ…… くそッ、残りは1つか…」


かろうじてボムで受けたものの追撃も早く、もう少し逃げおくれていればアウトだった。
………なにより、


「あいつ―――――― まさか、本気で殺す気だったんじゃないよな―――――」


私が逃げてきた通路は、壁も天井も崩れて瓦礫の山になっていた。





『月符―――――――』

「ッ!!」


どこだ!?
体を屈めて、攻撃が来ればいつでも飛び出せるように神経を集中する。

食堂への入り口は二箇所。
闇雲に逃げてきたから、私が来た方と反対から来る可能性もある。
そもそも、今の声は近かった。
擬態系の魔法でも使っているのか?


『サイレントセレナ-Limitless-』

「!? あ――――――――――!!」


光が降り注いだ。

そう、入り口など関係なかったのだ。
パチュリーは突然目の前に現れたかと思うと、またも至近距離から反則級の弾幕を撃ち放った。

まずい、ボムが間に合わな――――――――――――――――――――







       瞬間、虹色の嵐が、目の前の弾を弾き飛ばした。







「!?」

「…ッ!!
 そう。 咲夜もレミィも外に隔離したし、メイドや妹様も魔法で眠らせておいたけど……」


そこには、さっき別れたばかりの門番の姿があった。


「まだ屋敷には貴女が居たっけね、――――――――――美鈴!」


怒るような、見下すような、泣いているような…


「パチュリー様。
 何があったかは分かりませんが、これ以上の破壊行動はお止めください。」

「門番ごときが私に刃向かうの?
 敵うとでも思っているの? 馬鹿ね……」


改めて見たパチュリーの瞳は、驚くほど冷たく感じた。


「――――――――――彩符 極彩颱風」


美鈴は敵に向かい直すとスペルを唱えた。
その姿を見て何とか冷静を取り戻した私は、美鈴の横に立った。


「何よ、邪魔するの?」

「はん、さっきまでガチガチ震えてたくせにえらく威勢がいいんだな」


とりあえず、状況はちっとも飲み込めないがやる事は一つ。
目的も同じ。
ならば、


「目の前のじゃじゃ馬をちょっと黙らせたいんだろ?
 手伝ってやろうか?」

「私はここの門番よ、仕事に部外者の手を借りたとあれば減給ものよ」


美鈴はピシっとそう言った後で、帽子をかぶり直して言い放った。


「だから、お嬢様達には黙っておいてよね」

「考えておくぜ」







「――――――――――――――――ふふ…」


それは、何に対する笑いだったのか。
パチュリーは軽く声を漏らすと、今まで以上の弾幕を繰り出してきた―――――――










雨はますます強くなって、雷さえ鳴りだしたらしい。

雨水は雪と混じり、泥と混じり、汚れた氷塊となって庭のあちこちに塊を転がっていた――――――――――――










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――9//


「はぁ… はぁ… はぁ…」

「ふぅ…… ふぅ……」


共闘を結んで10と6分。
相変わらずパチュリーは本気で、攻撃しては逃げての繰り返しが続いている。


「はぁ… はぁ……
 ……おい、大丈夫かよ?」

「ふぅ……
 そっちこそ、随分まいってるんじゃないの…?」


戦力差は明確。
本気の魔女の前では、武闘妖怪と人間の魔法使いなど赤子同然。


「ねぇ、パチュリー様は一体どうしたの?」

「こっちが聞きたいぜ……」


お互いに何とか呼吸を整える。
相手はまたいつ来るか分からない。

姿を隠し、近くまで来た所で強力な魔法で不意打ちをする。
………あまりにもパチュリーらしくない姑息な手段だ。


「朝、ちらっと見た時は普通だったんだけどな…」

「そういや、朝もやられたんだっけ私…」


朝、紅魔館に来て、美鈴をあしらって、咲夜に挨拶をされて、パチュに図書館でおとなしくしてるよう言われて………


「あ、」

「? どうしたの?」


そういえば、寝て起きたらあの槍が無くなっていた。
そもそも今日は、香霖堂で見つけた古い槍の事を調べに図書館まで来たのだ。


「あの槍…!」

「は?」


もしかしたら、あれは何かのマジックアイテムで、そのせいでパチュリーがおかしくなっているのかもしれない…!



「美鈴、お前ボムいくつ残ってる?」

「え? 3つだけど…」

「なら1つ貰うぜ」


ひょい、っと美鈴からボムアイテムを奪った。
これでお互い2個。
単独でパチュリーに会っても何とか逃げられるだろう。



「あ、ちょっとあんた!!」

「それともう一つ」


美鈴の言葉を遮って、私はあるを提案した。


「いいな? 頼んだぜ」

「分かったけど… 本当に、大丈夫なんでしょうね?」


美鈴の不安を吹き飛ばす為、私はとびっきりの笑顔で言ってやった


「頼りにしてるぜ、相棒」

「誰が相棒よッ!」










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――10//


「――――――あら、」


廊下の真ん中でパチュリー様を迎え撃った。
パチュリー様は、さっきと同じ冷たい瞳で私を見下ろしている。


「魔理沙はどうしたの?」


答える気なんてない。
だって、今のパチュリー様は敵なのだから。

私は一歩前に踏み込むと、キッと相手を睨みつけた。


「ク――――――――――」


また、さっきと同じ。
パチュリー様は軽く笑ってから、強力な弾幕を展開した。



『日符―――――――』



赤い弾の筋が、うねるように幾重にも重なって攻めて来た。
その僅かな隙間をぬって、私は必死に避け続け―――――


『―――ロイヤルフレア-flash-』

「ッ!? さ、『彩符 彩光乱舞』」


瞬間、全ての弾が弾け飛んだ。
甘かった。
今のパチュリー様の弾幕は、「殺す為の弾幕」
避け続けられる筈がなかったのだ。


マズイ、2つしか残ってないボムをもう1つ消費してしまった。
ここは一旦撤退をするしかない。
私の役目は、かく乱と時間稼――――――


『金符 シルバードラゴン-bahamut-』


「そんな!? 早すぎ…ッ
 きゃあぁああああああああああああああああああ!!!」



駄目だ、矢張り甘かったのだ。
今のパチュリー様は止められない。
私には足止めすら出来なかった。

ごめん、魔理沙…

逃げ……て………………










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――11//


何とかパチュリーに見つからず、図書館まで辿り着いた。
あとは、美鈴が時間を稼いでる間に槍を見つけるだけだ。

元凶は恐らくあの槍。
パチュリーは持っていなかったから、おそらくこの図書館のどこかにあるはずだ。
あれを見つければ、パチュリーを元に戻せるかもしれない…!


「どこだ…!?」


無い、無い、無い、無い。
図書室にも、寝室にも、どこにも槍は無かった。

――――と、暖炉の前に毛布が落ちているのを見つけた。
確か、起きたら私にかけてあったものだ。

おそらく、パチュリーが……


「………くそっ!!」


ガン、と壁を殴りつけた。


早く見つけないと、
早く元に戻してやらないと―――――


「探しものかしら?」


―――――取り返しのつかない事になる前に―――――


「…随分と早いお帰りだな。
 ………美鈴はどうした?」

「殺したわ」


――――――――――手遅れに、ならないうちに―――――――――――――――


「………はは……………  冗談、だろ………?
 ライフを一つ潰してやった、って意味だよな…?」

「聞こえなかったの? 殺した、って言ったのよ。」


単純な事だというのに、よく理解できなかった。
いや、理解しても実感が湧かなかった。


「安心して、貴方もすぐ送ってあげるから」


パチュリーの手に光が灯る。
おそらく、一撃で私を殺す気だろう。


腹が、立ってきた。


あっさり死んだ美鈴にではない、
目の前に居る、狂ったパチュリーにでもない。

美鈴の奮戦を無駄にし、パチュリーを救う事も出来ずに、
今こうして殺されようとしている自分自身に―――――――――――――――



「ふ、ざ、けるなぁああああああああああああああああああああああ!!!」

「!?」

『恋符 マスタースパーク』


全身全霊の魔力と怒りを込めて、自身の最強スペルを撃った。
放たれた光はパチュリーを飲み込み、壁を貫き、庭の木々を薙ぎ倒して空に消えていった。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――12//


「う……」

バリアを張っていたらしいが、それでも相当ダメージを与えられたらしい。


「う、ぐ………」

「!!」


と、パチュリーがよろめいた瞬間、ほんの一瞬。
持っている本が槍に変わったように見えた。


「そうか、最初からそこにあったんだな…」

「……………
 魔理沙、私を倒すつもり?」


突然、パチュリーはそんな事を聞いてきた。


「倒す。
 そして、いつものお前に戻してやるよ」



「………………
 ……なら、倒してみせてよ」

「何だって?」


パチュリーに、弱まっていた魔力が再び集まり始めた。


「本しか見ない事が、外に出ない事が!
 そんなにいけないと言うのなら………」

「パチュリー…」

「………証明して見せてよ!!」


パチュリーは錯乱している。
目の前に誰が居るかも分かってないかもしれない。

でも、それでも、

この想いは今までずっとパチュリーが抱えてきたもので、私に倒される事を望んでいる。
それだけは、確かだと思った。


「いくぞ……!!」


辺りかまわず弾幕を撒き散らすパチュリーに、私はあえて正面から向かっていった。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――13//


――――――目の前に、少女が居る。










魔理沙だ。









――――――――――――――――――知っている、よく知った顔だ。





魔理沙が、戦っている。





――――――――――――少女は、真っ直ぐ私に向かってくる。









私は、魔理沙に攻撃をしている。










―――――馬鹿な、知恵も力も、私の方が上だというのに





また、声が、でない。





――――――――――――――――それでも、そんな事関係ないかのように、少女は私の弾幕を避ける。








私は、一体どうなっているのだろうか。









――――――――――――――何故、だろう。










何故、私は、魔理沙を攻撃しているのだろうか。









――――――――――――――――――何故、倒せないのだろうか。





何故、魔理沙はあんな真っ直ぐに前を見る事が出来るのだろうか。





――――――――――――――――――――――――――――何故、倒れないのだろうか。





もう、やめよう。





――――――――――――私は、本気で倒そうと殺すつもりで弾幕を撃っている






こんな事は、もうやめよう。






――――――――――――――――――――――――なのに、少女はギリギリの隙間を見つけては、進んで来る。









多分、私は魔理沙に勝てない。










――――――駄目だ、それはおかしい。





だって、私は弱いから。





――――――――――――私は、少女より強いのだから、勝たなければならない。










魔理沙のまっすぐな瞳を見る事が出来ないくらい、弱いから……









――――――――持てる限りのスペルを一度に使えって、塵も残さず消し去ってやる



『火符 アグニレイディアンス』
『水符 ベリーインレイク』
『木符 グリーンストーム』
『金符 シルバードラゴン』
『土符 トリリトンシェイク』
『日符 ロイヤルフレア』
『月符 サイレントセレナ』
『火水木金土日月符 賢者の石-elixier-』





だから――――――――――――――――――





「甘いぜっ!!」

『恋符 ノンディレクショナルレーザー』




――――――――――――私は、魔理沙に負ける。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――14//


「やったか…!?」


パチュリーの体から魔力が失われてゆく。
ゆっくりと抱きかかえると、薄紫色の本は形を失い水のように床に垂れて落ちて――――――――――――――


「…………」


槍の形に、戻った。

矢張り、これが元凶。
パチュリーを狂わせ、美鈴の命を奪った発端。

………いや、罪なら、これをここに持ち込んだ私自身にあるだろう。


でも、だからこそ、最後は自分の手で始末をつけないといけない。


―――――――――――――――――――――悔しくは、ないか?

と、突然、


「……ん?」


―――――――――――――――――――――あの巫女や、この魔女が羨ましくはないか?




謎の声が、頭の中に響いてきた。




「なに、が………」



――――――――――――――生まれながらの才能、先天的な魔力。


―――――――――――お前がいくら努力した所で、決して彼女達には届かない。





―――――――――――――――――――不公平だとは、思わないか?






「そう、か、パチュリーは、この、声に………」



頭が真っ白になってゆく。

と、同時に、目の前の槍がゆっくりと姿を変え、もう一人の私になった。


「お、まえ、は………」

「私は霧雨魔理沙。
 あんたなんかとは違って、絶対な魔力と才能を持ち合わせた完璧な霧雨魔理沙だ。
 ―――――――あんたはもう、いらないんだよ」

「う……」


足がすくむ。
動けない、体が震える。

目の前の魔理沙は、ゆっくりと私に近づいて―――――――



「魔理沙!!」



―――――――突然の言葉に、我に返った。


「しっかりしてよ!
 何そんな偽者に飲まれてんのよ!!」

「あ… 美鈴?
 お前、無事だったのか?」

「無事じゃないわよ!
 左腕の骨が、メチャメチャになってるんだから…!」



見ると、ダラリと垂れた左腕をかばって歩いている。
どうやら他にも傷は多いようだ。


「パチュリー様も助けられたんでしょ?
 ほら、そんな偽者ちゃっちゃと倒して、終わりにしちゃって!」


と、美鈴は何かを投げてきた。


「ボム…?」

「それが最後の1つなんだから、外すんじゃないわ……よ…」


さすがに限界だったのか、美鈴はその場にガクンと倒れ込んだ。





力が漲ってくる。

そうだ、私はまた途中で投げ出しそうになってしまっていた。
ついさっき自分で始末をつけるって決めたばかりだと言うのに――――――――――――――


「さて、偽者。 覚悟はいいか?」

「私は霧雨魔理沙。 偽者じゃないぜ」

「偽者だ。 それも、程度の低い偽者」


そう言い放って恋符に全魔力を注ぎ込む。


「霧雨魔理沙は、他人を妬んだりしない。
 それは努力で培ってきた自分を否定する事になるし―――――――」

『恋符―――――――』

「何より、私は自分が好きだからな」

『―――――――――マスタースパーク』





偽者の魔理沙は、煙になって消えた。










いつの間にか、空は晴れていた。
差し込む日の光は、庭のあちこちに転がった黒い泥の氷を溶かして流してしまった。

そして―――――――――――――


「―――――――あ、」










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――15//


「…………ん、」


頭がズキズキと痛む。
私は一体どうしたのだろうか。

すぐ近くに魔理沙が立っているのが見えた。

あぁ、壁に大穴が開いている。
魔理沙が開けたのだろうか、全く、後でどうしてくれようか―――――――――





「―――――――――あ、」

「?
 ………うわ…ぁ―――――――」



穴から、空に大きな虹がかかっているのが見えた。

虹の原理なんてとうの昔に知ってたし、本の写真で何度も見たことあった。
なのに、その時、その虹に見とれてしまった自分が居た。

そして、同時に…

今まで抱えて来たしこりが、一気に消えて無くなったような気がした。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――16//


その後は、もう、本当に大変だった。

美鈴は重傷でパチュリーは昏睡状態。
屋敷はボロボロで穴だらけ。

帰ってきたレミリアと咲夜に事情説明を強要されるも、私だってどう説明したらいいのか分からない。
結局、美鈴と口裏を合わせて強い妖怪が攻めて来たという事で何とか落ち着いた。

―――――――信じてもらえたとは思えないが。


ちなみに、霖之助には小言を言われ、霊夢には笑われた。


「本当、散々な目にあったぜ」

「自業自得でしょ」


そして今、大分体調が良くなって来たパチュリーの見舞いに来ている。
もっと怒っているかと思ったが、予想に反して機嫌は悪くなかった。


「そういや、アレの事だが…
 どうやら鏡だったらしいんだ」

「鏡?」


小言と一緒に聞いた話によると、あれは槍でも本でもなく鏡だったらしい。
形は見た者の心を投影し、弱さに働きかけ、自己の強さを見つめ直す試練の鏡―――――

昔、ある魔法使いの一族が作り出したものだったらしい。


「心の弱い者は鏡に呑まれ、狂気に取り憑かれるとか何とか」

「――――私は、弱かったのね」


何故かパチュリーは、どこか楽しげにそう呟いた。


「ねぇ、魔理沙。
 お願いがあるんだけど……」

「ん、何だ?」

「体の調子が良くなったら外に連れて行ってくれない?
 色々のものを実際に見て、感じてみたいの…」

「ようやくその気になったか。
 まったく、今まで何度も言っても聞かなかったくせに」

「そうして…ね。
 私、本を書いてみたいの」


ちょっと意外な言葉に驚きながらも、パチュリーの話を聞いた。


「私が学んだ事や、思った事。
 見た事や聞いた事。
 色々な事をまとめて、一冊の本を作ってみたいの」

「…結局、お前は本なんだな……」



雪は今日も降っている。
幻想郷の春は遠く、まだまだ寒い日が続いてゆく……








数年後、ヴワル図書館に「Knowledge」というタイトルの書物が増える事になるのは、また別の話である

SS修行中の身です。
前のものよりずいぶん長くはなりましたが、そのぶんダラダラとなってしまった感もあり反省しています。

あと、節ごとに視点が変わったり、色々と分かりにくいかも…
次はもっと分かりやすくorz

ともあれ、一生懸命書いてみました☆
碧柳
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コメント



0.6350簡易評価
16.80しん削除
ツールバー見たとき、長そうだったので後にしようと思いましたが
読んでいくと全然気になりませんでした。

一つ一つの文章表現や文体が、とても丁寧に考えられてるように感じます。
こういう、すっきりとした感じのセンスはいいですね。
……自分も見習いたいです。

18.60名無しの美鈴好き削除
美鈴がいい感じで、1美鈴好きとしてうれしい限りです。
22.70色々と削除
修行中でこれだけの作品を書くとは・・・
いや、もう免許皆伝の腕前ですよ(;´Д`)

結構長めでしたが飽きることなく非常に楽しく読ませて頂きました。
GJ(´ω`)b
31.70名前が無い程度の能力削除
いやいや、大変良いものを読ませて頂きました。
気にされているようですが、視点の移動が多いのもそれほど気にはなりませんでしたよ。

偽者に対する魔理沙の台詞でグッと来ました。それでこそ魔理沙ですよね。
またここに来る楽しみが増えたように感じました。
GJです。
40.50shinsokku削除
おおう、良いですな。
長いなんてとんでもない、短く感じてしまう程にスルスルと、実に楽しく拝読いたしました。
魔理沙・パチェの葛藤もまた善哉、でありますよぅ。
同じ修業中の身、お互い精進いたしましょう。
49.7013㌧削除
パチュリー、美鈴、魔理沙それぞれの心情描写がとても上手い。
同じSS書きとして見習うべき点が多くありました。
長さも話がよく纏まっていたので、気になりませんでした。
面白かったです。