何度も見た風景。繰り返される歴史。
彼女は、こんなもののために、こんなもののために私を・・
だけど、もう待つのは嫌だ。今度は邪魔をさせない。
私は、終らせてやるのだ。私を縛る、全ての物を。
そうすれば、歴史は繰り返さない。もう、二度と。
冬の幻想郷。輝夜たちの起こした満月の事件も過ぎ、幻想郷にも雪が降る季節となった。
虫は冬眠し、猫や狐が炬燵で丸くなっている所など、人間界と大差ないのだろうが
氷精が外ではしゃいでいるところを見ると、やはり幻想郷なのだろう。
クリスマスも終わり、もうすぐ大晦日というこの日、八雲 紫は一人、幻想郷のほぼ中心に位置する
大きな岩屋の前にいた。
それはもはや岩屋と言える物ではなく、朽ちて崩れ果てていた。
紫はそれをいとおしむかのような目で見つめ、
「・・ごめんね・・・ゆかり・・。」
一言そう呟くと、隙間から花を一輪、誰かのお墓に供えるかのように添えた。
「・・どうやらアイツが動くみたい・・。でも、止めて見せるわ。それが、あなたとの約束ですものね、ゆかり・・・。」
そう呟くと紫は立ち上がった。アイツのことだ。もう既に端々に影響を及ぼしているだろう。
とりあえずいざという時のための行動だけはしておかなくては。さしあたりレミリア、幽々子、輝夜には
手を打っておく必要がある。あとは・・・・・
「霊夢は・・できれば今回のことだけは関わって欲しくないけど・・。」
どうせあの子の事だ、いわなくても自分で気がつくだろう。そのときに説明すればいい。
「さて、まずは紅魔館のほうから行きましょうか。」
と、ここで、紫は一つの事を思い出した。
―そういえば、家を出るとき藍が何か言っていたような・・・?
まぁいいか、どうせ藍のことだ、最初から期待はしていないだろう。
黙っていれば全部やってくれる。実に有能な式神を持ったものだ。
主人として誇りに思う。
・・本人が聞いたら憤死しそうな台詞を思いつつ、
足早に紫は紅魔館へ向かうことにした。
「ごめんください。」
「あ、え~と、たしか、紫さん・・でしたよね?」
紅魔館入り口にて紫は門番らしき人物に呼び止められた。
きちんと管理されててなかなか感心する。それに引き換え、白玉桜はあれだけ広い庭を持ちながら
まともな警備といえば妖夢位だ。妖夢が休んだらあの庭の管理はどうするのだとあとで幽々子に
言ってやろうと思いつつ、目の前の人物の名前を詮索する。え~っと・・たしか・・
「えぇ、それであってるわ。美鈴さん・・でよろしかったからし?」
「えぇっ!!ちゃんと本名で呼んでくれた・・・♪」
といいつつ、うれし泣きを始める彼女。
―名前ひとつでこれだけ嬉しがるなんて・・・、一体どういう待遇受けてるのかしら?
門番の不憫さに同情しているところに
「あら、隙間妖怪が何の用?」
「ちょっと貴方の主人に用があってね。会わせてくれるかしら?」
突然玄関から聞こえてきた声に対し、美鈴は肩をビクッと震わせたが、紫は気にすることもなく紅魔館の
メイド長・十六夜 咲夜にそう告げた。
「・・・お嬢様がお待ちよ。こっちへ。」
「あら、私が来る事を分かってたのかしら?」
「えぇ、どうもそうらしいわ。」
「・・そう・・・・・・。」
紫は内心舌打ちした。レミリアの能力なら、確かに自分が来ることを予測することもできただろうが、今回は違うだろう。おそらく、私よりさきにアイツが何らかの手を打ったに違いない。思ったより手が早い、こちらも急がねば・・
「着いたわよ。」
ここで紫の思考は一時中断される。応接室らしい立派なドアの前に案内される。咲夜はそのままどこかへ行ってしまった。どうやら、一対一で会話ができるらしい。それは紫にもかなったりだ。
ドアを開けると、そこには開けた空間に、椅子と机がおいてある、本当に何もない部屋だった。レミリアはというと、その席にちょこんと座り、紅茶を啜っている。
「ごきげんよう、八雲 紫。待ってたわ。早速だけど、説明してもらいましょうか?」
「訪ねてきたのはこっちなのにいきなり質問とはぶしつけね。」
紫はレミリアの前の席に座り、正面から見据える。
「そう、ごめんなさい。ではここは訪ねてきた貴方から話を切り出してもらおうかしら。」
「えぇ、分かったわ。もとよりそのつもりだったし。といっても、貴方は既に接触したようだけど。」
紫がレミリアを見る眼が一層厳しくなる。だが、レミリアは臆することもなく
「えぇ、直接黒幕に会ったわけではないわ。使者と名乗るものが突然館に現れたのよ。美鈴や、あまつさえ咲夜にさえ気取られることもなく私の前に。」
レミリアは淡々と話しているが、その内容は聞くものが聞けば驚愕すべきことである。咲夜は紅魔館のメイド長にして、レミリア、フラン、そしてレミリアの友人であるパチェリーを除けば随一の力の持ち主である。紫自身も過去に咲夜に負けたことがあるほどだ。美鈴も、紫はよく知らないが、護衛隊長として、咲夜に次ぐ実力の持ち主らしい(先ほどの様子を見る
限りはとても信じられないが)。
レミリアは続けて
「使者の用件は、 これからすることに一切の手出しをしないこと のみだったわ。」
「で、まさか貴方はそれを受けたの?」
「えぇ、あちらの目的も聞いたけど、幻想郷がどうなろうと私の知ったことではないわ。」
「レミリア、貴方、それは本気で言ってるのかしら?」
紫は自分の感情を高ぶっているのを感じた。レミリアもそれを感じたのだろう。
「まさか。私はこれでも、今の幻想郷が好きなの。それに、私は手出ししないって言ったけど
私以外は手出しも口出しもできるわけよね?」
レミリアはふふんと笑って見せた。伊達に500年生きているわけではない。交渉術においては
まさに紅魔館の当主といったところだろう。
「ま、相手の交渉が杜撰すぎるのよ。もしくは、そこまで計算済みってこともあるかもしれないけどね。」
「相手の罠と百も承知でも、今は戦力は多いほうがいいわ。貴方自身が参戦できないのが残念だけど。」
「どうしても足りなかったら出てもいいわ。」
冗談なのか本気なのか分からない表情でレミリアは笑って見せた。
が、次の瞬間、表情を硬くして、
「でも、私の前に来た使者、只者じゃないわ。実力だけなら貴方の使い魔より確実に上よ。」
「えぇ、分かってるわ。アイツの仲間なら、一筋縄でいくはずがないわ。」
ここで、レミリアが紅茶を口に含み、一息ついてからこう切り出す。
「それで、紫。単刀直入に、今度の敵は、誰?いや、何と聞いたほうが良いのかしら?」
ここで紫も、一息ついてから、レミリアをじっと見つめた。
わずかな静寂を破り、紫の口が開いた。
「アイツ・・・彼女は、神よ。太古の昔、光というものが世界を照らす前から存在した
原初にして終焉の使い手。そして・・・」
「そして、かつて私と初代博麗が滅ぼしたはずの、私の生みの親に当たる存在よ。」
小さな違和感。
だけど誰も気づかない。
少しずつ失われていく日常。
誰も気づくはずがない、異変。
気づく前に、止める前に、終らせるのだ。
続編期待してます。