太陽の暦で言う師走の24日。その日はまあ、下界の人間達はカップル達は記念すべき日として待ち望み、そうでない人間達は自虐的になる日。まあいわゆる所のクリスマスであった。
ここ幻想郷でも、その日を特別な日としているわけではないが、何時の間にやら定着していた日でもある。
そんな、クリスマスイヴのお話。
――――――――――――
「今日も寒いわね……」
レミリア・スカーレットを主とし、その妹と友人、そして従者達の住まう紅魔館。そこの門番達の詰め所にて門番頭でもあり、従者達の中では能力的にナンバー2である紅美鈴は、支給されているコートに身を包みながら今日も門番としての仕事をしていた。
「クリスマスね……はぁ……」
人妖ではあるが、やはり彼女も女性。今日と言う日の意味を知っているため、それを思ってこれで幾度目とも知れない溜め息を吐いた。
「今年も誰かからのプレゼントとかは諦めようかしら」
そしてまたハァと溜め息を吐く。その都度白い息が吐き出され、消えていった。まあ、愚痴(?)を言いつつ門番としての仕事を忘れないのが彼女らしいかもしれない……
空は既に闇が支配しており、その中を綺麗な月がまるで孤独を癒すかのように光を放っている。
美鈴は空を見上げつつ、メイド長の昨夜から最近教えてもらった香霖堂とやらに何故かあった方天可戟―――言い値の給料半月分で了承したら嬉しいのか涙を流してた―――を右手だけで一回転させる。
咲夜曰く「メイド3人で持ち上げるのがやっとだった物をよく片手で扱えるわね」だそうだが……美鈴にとってはこれくらいは朝飯前である。
「それにしても……退屈ね」
「それはサボりたいって意味にとってもいいのかしら?」
「わひゃあっ!!」
いきなり真後ろから聞きなれた声がして美鈴は素っ頓狂な声を上げた。
気を操る程度の能力を持つ彼女に気配を察知させること無く近付くことの出来る存在は彼女の知る限り1人しかいない。
「さ……咲夜、さん?」
後ろを恐る恐る振り向くと案の定、彼女の予想していた女性がいた。言うまでも無くここのメイド長にして完全で瀟洒な従者、だが時々嘘か真か分からないボケをかます十六夜咲夜であった。
「貴女今とてつもなく失礼なこと考えてなかった?」
「き、気のせいですよ」
こめかみから一筋の汗をたらしつつ目を逸らす美鈴。どうやら考えていたようだが、それは今の咲夜にはどうでもいいことだった。
「まあ、いいわ。はいこれ」
「えっ?」
渡されたのは、1つのマフラーだった。
「こ、これって……」
「プレゼントよ。今日ぐらいはまあ、ね」
「あ、ありがとうございます!」
物凄い勢いで頭を下げてお礼を言う美鈴。だが直に「あっ」と絶句して
「あ、あのー、私プレゼント用意してませんでした……」
「別にいいわよ。その代わり今度何か食事ぐらい奢ってね」
「はいっ!それくらいなら!」
「じゃ、私は仕事があるから戻るわね」
「咲夜さんありがとうございました!」
再び頭を下げてお礼を言い、美鈴は紅魔館に入っていく昨夜を見送った。そして
「さてと……頑張りますかね」
マフラーをかけて先ほどとは一転して張り切って門番の仕事を再開した。
――――――――――――
紅魔館の中にある一つの場所。外から見れば館以上の広さを持つこの場所。明かりといえる存在は数える程度の蝋燭の火だけのこの場所。
そこはあの霧の一件以前までは悪魔の妹と呼ばれていた1人のこの館の主の妹の部屋であった場所。そこに1人の来訪者がいた。
来訪者―――レミリア・スカーレット。この紅魔館の主にして永遠に紅い幼き吸血鬼―――は部屋に入って辺りを見回し、目的の相手の姿を見つけてそちらに向かった。
「フラン」
「あ、お姉様♪」
フランと呼ばれた少女―――フランドール・スカーレット。悪魔の妹と呼ばれるレミリアの妹―――は聞き慣れた、だがとても懐かしく思える少女の声に喜び、そしてレミリアに抱きついた。
「こらこら、抱きつかないでよ」
「にひひー。何となくだよー」
咎めつつも嫌な感じはしていないレミリア。そして首に手を回して抱きついたまま笑顔で答えるフランドール。
端から見たら麗しい姉妹であるが、これが少し前まではありえる筈の無かった光景であることは紅魔館住人は皆知っていた。
全てはあの巫女と魔法使いの2人によって、ある意味での均衡が破られたのだから……
「で、どうしたのお姉様?」
「うん?そうね。今日はクリスマスイヴでしょ?だから」
そう言って手に持っていた袋―――両手に収まるくらいの小さな袋だ―――を渡す。
「はい。クリスマスプレゼント」
「いいの?」
「ええ。でも、壊さないでね」
「うん♪ありがとうお姉様ー」
レミリアから離れ、フランは赤いリボンで封のされた袋を一度見てレミリアに視線を移し
「ここで開けてもいい?」
「いいわよ」
それを聞いてフランはリボンをほどき、袋の中身を見る。
中に入っていたのは、ルビーを埋め込んだペンダントであった。
「これって……」
「私とお揃いよ。ほら」
そう言って胸元に隠していたペンダントを見せる。同じ、ルビーを埋め込んだペンダント。但し、フランドールのはチェーンの材質が金なのに対してレミリアは白銀を使っていた。
「あ、ほんとだー」
「大事にしてね」
「はい♪」
満面の―――恐らく彼女を知らない者10人が見ても皆がそう答えそうなくらいの―――笑顔でフランは答えた。
その能力ゆえに495年もの永きに渡ってこの紅魔館の地下に幽閉され、もう完全に狂うのは時間の問題とも言われていた彼女。
そして、つい最近になってあの博麗霊夢と霧雨魔理沙の2人によりその紅魔館地下と言う名の檻から開放された彼女。
そして、いまこの場所で普通の少女と何ら変わらないような笑みを浮かべている彼女。
そんな、フランドールの姿がレミリアの記憶の底から浮かび上がり、消えて行った。
「どうしたの?お姉様?」
「ん?ああ、ちょっとね……考え事をしてたの」
フランドールの言葉に回想から現実に戻り、言葉を返すレミリア。
「ねえねえお姉様。今日は一杯話して欲しいな。外の事」
「ええ、いいわよ」
「ありがとー♪」
まあ、昔の事はいいだろう。今を楽しめばそれでいいのだから。フランにもその思いをこれから教えてあげよう……
そうすれば、彼女が出る事叶わなかった外の世界へと、飛び立つ日も必ずやって来る……
レミリアはそう、心に決めた。
――――――――――――
幻想郷と冥界を結ぶ唯一の場所である白玉楼。そこは当然というべきか、宴会好きな主の西行寺幽々子の計らいによって既に宴会が始まっていた。
プリズムリバー姉妹の演奏に合わせて幽々子が踊り、やれ飲めややれ食えやのどんちゃん騒ぎもいいところな状況。
もう白玉楼にいる幽霊の全てが宴会で盛り上がっていた。
まあ、その宴会が終わった後の後片付けをするのは、彼女の護衛であり白玉楼の庭師である魂魄妖夢の仕事であるのは変わりない。
「はぁ……結局今年もこうなるのね……」
その話に上がっていた魂魄妖夢は宴会の行われている広間の一角で、溜め息を吐きつつこれから確実にやって来る先の出来事に頭を悩ませていた。
「妖夢殿、どうかしたのか?」
「あ、藍さん」
呼ばれたので顔を上げるとそこには主の友人である八雲紫の式神、そして彼女自身も式神を行使する九尾狐の変化である八雲藍がいた。但し、右手に酒の入った瓶、左手に二つのコップを持っていたが……
「いや、この後の後片付けを考えるともう……何と言うか」
「心境、お察しする……」
沈痛な顔で藍は隣に座った。
「だがまあ、紫様が冬眠している状況だというのに宴会に呼んでくれた事には感謝している。橙も喜んでいたしな」
「そう言って貰えると幾らか救われます……多分」
再びハァと溜め息を1つ吐く。
それを見かねて藍は妖夢の肩に手を置き、言った。
「後片付けの件は私も手伝おう」
「えっ?でも……」
「2人でやった方が早く済むしな。それにこんな宴会に誘われたのだ。これくらいの礼はしたい」
「……」
妖夢は沈黙する。確かに藍の好意はありがたい。だが、やはり客人に後片付けをさせていいのだろうか……
葛藤は暫く続き、そして彼女の好意を無駄には出来ないとの結論に至った妖夢は
「じゃあ、お願いします。というかわざわざありがとうございますね」
「いや、構わんよ。友人の式と言うだけで誘ってくれた礼だ」
そう言って藍は自宅から持って来た銘酒「緋蜂―大往生―」を妖夢の間に置いて、妖夢にコップの1つを渡す。
「えっ……あのー……これって?」
「まあ、一杯くらいならいいだろう?」
「……いえ、私……飲めないんですけど……」
「そう言うな」
てきぱきと栓を抜いて藍は自分のコップに酒を注ぐ。
「意外と旨いぞ」
「……じゃあ、一口だけ」
妖夢はコップを持って藍の前に出し、藍はそれを見て妖夢のコップに銘酒「緋蜂―大往生―」を注ぐ。
「では、お互いのこれからの健勝に、乾杯」
「乾杯」
白玉楼の大広間の片隅でひっそりと、2人の宴会が始まった。
――――――――――――
「ふぅ……終わったわね」
「ああ……」
幻想郷に存在する数少ない人間達の住む里。その里の夜道を藤原妹紅と上白沢慧音は赤いサンタクロースを模した衣装を着て歩いていた。
つい先程までクリスマスパーティーでサンタになって子供たちにプレゼントを配っており、後片付けも含めて全て終わらせ、帰路に着いている。
「それにしても、お前がクリスマスを知っていたとはな」
「まあ、伊達に1000年も不死人をやってないわよ。それ位放浪しているうちに知識として入ってたわ」
「ふふ……だが助かったよ」
そのまま慧音はゆっくりと空を見上げる。雲に隠れつつも、時々見え隠れするのは月。だが、それは満月ではなく、13夜か14夜と言ったところである。
「今日が満月でなくてよかったよ……」
「どしたのけーね?」
「里の人達にあの姿を見せたくなかった……」
「そっか……」
複雑な表情で妹紅はそれだけ言ってそれ以上は追求しないことにした。だが、直に笑顔になり
「でもね、私はけーねのハクタク姿も好きよ」
「なっ……バッ……何を言って……!」
「別に、ただ私の本音を言っただけ。私はけーねのあの姿は好きだって」
「二度も言わんでいい!」
「まあまあいいじゃないの」
「……あんなのでも……いいのか?」
顔を紅潮させてそっぽを向きつつポツリと呟いた。
「別にいいわよ。それに、けーねはけーね。ハクタクの時も人間の時もね。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもないわよ」
「……ありがとう」
慧音はそれを聞いて妹紅に聞こえないように小さな声で言ったが、ちゃっかり聞こえていた。
「さってと、帰ろ」
「……ああ」
再び、彼女らは帰路に着いた。違うところといえば、お互いに手を握って歩いている所ぐらい。
――――――――――――
「鈴仙」
「ん?どうかしたのてゐ?」
永遠亭と呼ばれる竹林の置く深くに存在する屋敷。そのある一室にて月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバは地上の兎である因幡てゐに呼び止められたのでそちらを向く。そこには右手に小さな箱を持ったてゐがいた。
因みにその一室にはこの永遠亭の主である月の姫蓬莱山輝夜とその友人で月の頭脳の八意永琳もいる。
「ん」
「んって……クリスマスプレゼント?」
鈴仙の言葉にてゐは首を縦に振った。
「あ、そういえば今日は下界の行事でクリスマスっていうものだったわね」
永琳が思い出したかのように言う。どうやら完璧に忘れていたようだ。流石は蓬莱の薬を飲んだ人間……は、余り関係ないかもしれない。
「どういう行事なのその『くりすます』っていうのは?」
「ええっとですね……単刀直入に言うと、大体この幻想郷のある島国の、遥か西方に位置する国で昔聖人と言われる人が生まれたのが今日らしいです。で、どうやらその生誕日を祝う行事がいつの間にかこの国、果てはこの幻想郷にやって来たみたいですね」
輝夜が問いかけてきたので永琳は何処から仕入れたのか分からない知識を披露した。
「ふぅん」
だが、輝夜はあまりその行事に関心が無いようだった。
その輝夜の表情を見て永琳はてゐと鈴仙の方を見て……違和感に気付いた。
鈴仙のほうには何ら感じるものは無く、寧ろ違和感があるのはてゐ……それも彼女の耳……何やら耳の穴付近に丸いものが詰まっている気がする……強いて言うなら、耳栓……
その「耳栓」の単語が頭に浮かんだ瞬間、永琳はてゐの仕掛けた恐らくこれから発動するであろう悪戯を察知し、自分の耳を塞ぐ。そして輝夜もその永琳の行動を見ていたため、真似して耳を塞ぐ。
てゐの悪戯に気付かないのは最早鈴仙だけである。いや、輝夜も知らないかもしれない。
「ありがとうねてゐ。開けてもいいかしら?」
「ん」
その言葉を肯定と見て鈴仙は箱の蓋を開けた瞬間!!
中に仕掛けてあった大量の爆竹が連鎖的に爆発を起こし、甲高い音を幾度と無く響かせた。
「く、あぁぁぁぁぁ……頭がガンガンする……」
「やっぱり何か仕掛けてあったわね」
「あらあら……イナバったら」
半ば目を回している鈴仙と涼しい顔の永琳。そして何を考えているのか分からないような笑顔の輝夜がいた。
因みにてゐは既に逃走している。
「て、てゐーーーーーー!!」
やがて持ち直したのか、鈴仙はてゐを追いかけて部屋を出て行った。
「全く、ウドンゲは」
「でも、あのイナバも彼女にだけ悪戯ばっかりするわね」
「若しかしたら愛情表現の一種かもしれませんね……多分」
「あら?永琳にも分からないことってあるんだ」
「いや……まあ……」
返答に困る永琳だったが、突然何かを思い出したかのように表情を変えて
「っと、そうでした。姫、メリークリスマス」
「よくわからないけど……めりーくりすます……だっけ?」
「ええ、大したお持て成しも出来ないのが心苦しいですが」
「いいわよ。別に気にして無いから」
「ふふっ」っと微笑みながら言う輝夜。
「そうそう、この前ウドンゲがですね……」
そのまま永琳と輝夜は何ら変わらない雑談に入っていった。
どうやら彼女たちにとってクリスマスとは特に縁がないようである。
――――――――――――
幻想郷の境目に存在する博麗神社。参拝客と言う存在は絶無に等しいその寂れた神社は今現在何故か小さなクリスマスパーティーが行われていた。
「メリークリスマス。霊夢♪」
「……メリークリスマス」
居間でちゃぶ台を挟んで座っているのは言うまでも無くこの神社の巫女である博麗霊夢、そしてもう1人は以外にも人形遣いであり霊夢の友人である魔理沙と同じ魔法使いのアリス・マーガトロイドであった。
「というか何で私がクリスマスを祝わないといけないのよ?宗派が違うのに」
「まあまあいいじゃないの♪」
霊夢の愚痴を問答無用で切り伏せるアリス。何やら顔が怖い感じがするのは気のせいであるから納得して欲しい。というか納得しろ。
「プレゼントは無いわよ」
「別にいいわよ。私は霊夢と一緒に居るだけで嬉しいから♪」
余りに明るいアリスに霊夢は怪訝な表情をする。というか絶対何か企んでいると、霊夢はそんな予感に近いものを感じ取っていた。
「でね……私からのプレゼントなんだけど……」
その言葉を聞いた瞬間、霊夢の中に何やら既視感めいたものを感じた。この先に待っていそうな光景は……思いつくか限りでは1つしかない。即ち……
「プレゼントは私よーーーーー受け取ってーーーーー!!」
「帰れあんたはあぁぁぁぁぁっ!!博麗最終奥義「両儀弾幕結界」!!」
案の定、ルパンダイヴを仕掛けてきたアリスにいつの間にか博麗の家に伝わる最後にして最大の奥義を放っていた霊夢だった。
「私は諦めないわよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
断末魔めいたものを言ているアリスを境内に叩き出して外に出、そのままもう紫の弾幕結界や永琳のルナティック蓬莱の薬と対等に渡り合えそうな弾幕を放って遥か彼方に吹っ飛ばした。
「まったく……魔理沙じゃあるまいし、私はそんな気はないわよ……」
「人の恋路を踏みにじるなんてあんたも酷い女だねぇ」
「……出やがったな不法居住幽霊」
博麗神社の本殿の方から声が聞こえたのでそちらを向くと、そこにはこの博麗神社の祟り神にして、久遠の夢に運命を任せる精神の異名を持つ幽霊の魅魔がそこにいた。
「何だい何だい、折角人(?)が久しぶりに出てきてやったって言うのにその言いザマは無いだろう」
「五月蝿い!というかショバ代さっさと払え!」
「あーあ……まったく、幽霊にまで金品をせがむなんて博麗の血ももう終わりかねぇ……」
「博麗の血は関係ないでしょ!」
いきなり喧嘩口調な霊夢であったが魅魔にはあっさりと躱される。
「そんなことより、今日は人間界でのクリスマスなんだから、偶には他人の思いに応えてあげるってのもいいんじゃないかい?」
「ふん……なんで私が……」
「ま、今日と言う日だけでもね、そういうのもありでしょ」
「もう遅いわよ、アリスはどっか遠くに飛んで行っちゃったから」
そう行ってアリスの飛んで行った方向―――と思われる―――を指差す。
「ふう、素直じゃないねぇ」
「まったく、第一私は基督教徒じゃないってのに……」
魅魔はもう霊夢を説得するつもりは無くなり、この件に関してこれ以上は何も言わないことにした。
「それで、これからはどうするんだい?」
「あ、もう何もすることは無いから寝るわ」
「さいで……」
「じゃ、お休み。さっさとあんたも寝たら?」
「妖怪の時間はこれからだってのに……」
「あんたは幽霊でしょ」
そんな掛け合いをしつつ霊夢は自分の部屋に戻って行った。まあ、そんな事件があった以外はこの頭が万年春の巫女は特に変わっていない。例えそれがクリスマスであろうと。
――――――――――――
場所は再び紅魔館。その中のヴワル魔法図書館にて霧雨魔理沙とパチュリー・ノーレッジは2人っきりのクリスマスパーティーを開いていた。
「メリークリスマス、パチュリー」
「ええ、メリークリスマス」
2人でテーブルを囲んでお互いに今日と言う日を祝う。今日は小悪魔―――パチュリーはリトルと呼び、他の者達は小悪魔と呼ぶ―――はお休みを取っている。
「昔はこんな日を祝うなんてこと無かったのにね」
パチュリーは少々自嘲気味に言う。
「ま、昔のことなんて気にせずに、今を楽しもうぜ」
「そうね」
2人はそうしてバスケットに入っている魔理沙自作の料理を口に運んでいった。
「ご馳走様」
「お粗末様。っと、そうだ」
バスケットを片付け終えて魔理沙は思い立ったかのように懐から小さなラッピングが施された箱を取り出す。
「クリスマスプレゼントだぜ。パチュリー」
「……ありがとう、魔理沙」
パチュリーの目の前にやって来て手渡された魔理沙からのプレゼントを素直に受け取る。その時にお互いの手と手が触れ合ったのはまあ、偶然ではない筈だ。
パチュリーは丁寧にラッピングされた小さな箱を開ける。
そこに入っていたのは……三日月の形をしたヘアバンド。
「昔、私が使っていた奴だけどな。パチュリーに似合うと思って」
魔理沙の照れながらの言葉。
そこへ……パチュリーの頬を流れる一筋の涙。
「えっ……あれ?……」
「お、おい……何も泣くことないだろ……ってもしかして気に入らなかったのか?」
「ううん……何か、凄く……嬉しくって」
「そっか、喜んでくれて光栄だぜ」
魔理沙は右手でパチュリーの頬を流れる涙を拭う。パチュリーは涙を拭われて直に笑顔を見せる。
レミリアにも滅多に見せることの無い、ただ自分を全部受け入れてくれる人だけに見せるその笑顔……それを魔理沙は知ってるため、それが凄く嬉しかった。
「魔理沙……ほんと、ありがとう」
「私も、昨日半日かけて部屋を探した甲斐があったぜ」
「あ……私、プレゼント用意してない」
先ほどの嬉しそうな表情とは一転して一気に暗い顔になる。が、魔理沙は
「ああ、それくらいなら」
と言っておもむろにパチュリーの唇と自分の唇を重ね合わせた。いきなりなことに驚くパチュリーだったが、直に肩の力を抜いて魔理沙に身を任せる。
舌を絡ませる行為はしない。ただ、触れるだけの口付け。だがそれだけでも相手の想いは十分に伝わっていた。
数十秒ほどして魔理沙とパチュリーは口を離してお互いの顔を見詰め合う。
「パチュリー、好きだ……いや、愛してるぜ。誰よりも」
「うん……私も……愛してる」
そのまま再び……2人は唇を重ね合わせた。
終わり……?
おまけ
「ジングルベール、ジングルベール鈴がなる~♪」
「やかましいぃぃぃぃぃっ!!」
博麗神社上空数メートルを飛びつつ歌を歌っていたミスティアの顔面と腹に、霊夢が放った疑似陰陽玉がクリーンヒットした。
今度こそ終わり……
ここ幻想郷でも、その日を特別な日としているわけではないが、何時の間にやら定着していた日でもある。
そんな、クリスマスイヴのお話。
――――――――――――
「今日も寒いわね……」
レミリア・スカーレットを主とし、その妹と友人、そして従者達の住まう紅魔館。そこの門番達の詰め所にて門番頭でもあり、従者達の中では能力的にナンバー2である紅美鈴は、支給されているコートに身を包みながら今日も門番としての仕事をしていた。
「クリスマスね……はぁ……」
人妖ではあるが、やはり彼女も女性。今日と言う日の意味を知っているため、それを思ってこれで幾度目とも知れない溜め息を吐いた。
「今年も誰かからのプレゼントとかは諦めようかしら」
そしてまたハァと溜め息を吐く。その都度白い息が吐き出され、消えていった。まあ、愚痴(?)を言いつつ門番としての仕事を忘れないのが彼女らしいかもしれない……
空は既に闇が支配しており、その中を綺麗な月がまるで孤独を癒すかのように光を放っている。
美鈴は空を見上げつつ、メイド長の昨夜から最近教えてもらった香霖堂とやらに何故かあった方天可戟―――言い値の給料半月分で了承したら嬉しいのか涙を流してた―――を右手だけで一回転させる。
咲夜曰く「メイド3人で持ち上げるのがやっとだった物をよく片手で扱えるわね」だそうだが……美鈴にとってはこれくらいは朝飯前である。
「それにしても……退屈ね」
「それはサボりたいって意味にとってもいいのかしら?」
「わひゃあっ!!」
いきなり真後ろから聞きなれた声がして美鈴は素っ頓狂な声を上げた。
気を操る程度の能力を持つ彼女に気配を察知させること無く近付くことの出来る存在は彼女の知る限り1人しかいない。
「さ……咲夜、さん?」
後ろを恐る恐る振り向くと案の定、彼女の予想していた女性がいた。言うまでも無くここのメイド長にして完全で瀟洒な従者、だが時々嘘か真か分からないボケをかます十六夜咲夜であった。
「貴女今とてつもなく失礼なこと考えてなかった?」
「き、気のせいですよ」
こめかみから一筋の汗をたらしつつ目を逸らす美鈴。どうやら考えていたようだが、それは今の咲夜にはどうでもいいことだった。
「まあ、いいわ。はいこれ」
「えっ?」
渡されたのは、1つのマフラーだった。
「こ、これって……」
「プレゼントよ。今日ぐらいはまあ、ね」
「あ、ありがとうございます!」
物凄い勢いで頭を下げてお礼を言う美鈴。だが直に「あっ」と絶句して
「あ、あのー、私プレゼント用意してませんでした……」
「別にいいわよ。その代わり今度何か食事ぐらい奢ってね」
「はいっ!それくらいなら!」
「じゃ、私は仕事があるから戻るわね」
「咲夜さんありがとうございました!」
再び頭を下げてお礼を言い、美鈴は紅魔館に入っていく昨夜を見送った。そして
「さてと……頑張りますかね」
マフラーをかけて先ほどとは一転して張り切って門番の仕事を再開した。
――――――――――――
紅魔館の中にある一つの場所。外から見れば館以上の広さを持つこの場所。明かりといえる存在は数える程度の蝋燭の火だけのこの場所。
そこはあの霧の一件以前までは悪魔の妹と呼ばれていた1人のこの館の主の妹の部屋であった場所。そこに1人の来訪者がいた。
来訪者―――レミリア・スカーレット。この紅魔館の主にして永遠に紅い幼き吸血鬼―――は部屋に入って辺りを見回し、目的の相手の姿を見つけてそちらに向かった。
「フラン」
「あ、お姉様♪」
フランと呼ばれた少女―――フランドール・スカーレット。悪魔の妹と呼ばれるレミリアの妹―――は聞き慣れた、だがとても懐かしく思える少女の声に喜び、そしてレミリアに抱きついた。
「こらこら、抱きつかないでよ」
「にひひー。何となくだよー」
咎めつつも嫌な感じはしていないレミリア。そして首に手を回して抱きついたまま笑顔で答えるフランドール。
端から見たら麗しい姉妹であるが、これが少し前まではありえる筈の無かった光景であることは紅魔館住人は皆知っていた。
全てはあの巫女と魔法使いの2人によって、ある意味での均衡が破られたのだから……
「で、どうしたのお姉様?」
「うん?そうね。今日はクリスマスイヴでしょ?だから」
そう言って手に持っていた袋―――両手に収まるくらいの小さな袋だ―――を渡す。
「はい。クリスマスプレゼント」
「いいの?」
「ええ。でも、壊さないでね」
「うん♪ありがとうお姉様ー」
レミリアから離れ、フランは赤いリボンで封のされた袋を一度見てレミリアに視線を移し
「ここで開けてもいい?」
「いいわよ」
それを聞いてフランはリボンをほどき、袋の中身を見る。
中に入っていたのは、ルビーを埋め込んだペンダントであった。
「これって……」
「私とお揃いよ。ほら」
そう言って胸元に隠していたペンダントを見せる。同じ、ルビーを埋め込んだペンダント。但し、フランドールのはチェーンの材質が金なのに対してレミリアは白銀を使っていた。
「あ、ほんとだー」
「大事にしてね」
「はい♪」
満面の―――恐らく彼女を知らない者10人が見ても皆がそう答えそうなくらいの―――笑顔でフランは答えた。
その能力ゆえに495年もの永きに渡ってこの紅魔館の地下に幽閉され、もう完全に狂うのは時間の問題とも言われていた彼女。
そして、つい最近になってあの博麗霊夢と霧雨魔理沙の2人によりその紅魔館地下と言う名の檻から開放された彼女。
そして、いまこの場所で普通の少女と何ら変わらないような笑みを浮かべている彼女。
そんな、フランドールの姿がレミリアの記憶の底から浮かび上がり、消えて行った。
「どうしたの?お姉様?」
「ん?ああ、ちょっとね……考え事をしてたの」
フランドールの言葉に回想から現実に戻り、言葉を返すレミリア。
「ねえねえお姉様。今日は一杯話して欲しいな。外の事」
「ええ、いいわよ」
「ありがとー♪」
まあ、昔の事はいいだろう。今を楽しめばそれでいいのだから。フランにもその思いをこれから教えてあげよう……
そうすれば、彼女が出る事叶わなかった外の世界へと、飛び立つ日も必ずやって来る……
レミリアはそう、心に決めた。
――――――――――――
幻想郷と冥界を結ぶ唯一の場所である白玉楼。そこは当然というべきか、宴会好きな主の西行寺幽々子の計らいによって既に宴会が始まっていた。
プリズムリバー姉妹の演奏に合わせて幽々子が踊り、やれ飲めややれ食えやのどんちゃん騒ぎもいいところな状況。
もう白玉楼にいる幽霊の全てが宴会で盛り上がっていた。
まあ、その宴会が終わった後の後片付けをするのは、彼女の護衛であり白玉楼の庭師である魂魄妖夢の仕事であるのは変わりない。
「はぁ……結局今年もこうなるのね……」
その話に上がっていた魂魄妖夢は宴会の行われている広間の一角で、溜め息を吐きつつこれから確実にやって来る先の出来事に頭を悩ませていた。
「妖夢殿、どうかしたのか?」
「あ、藍さん」
呼ばれたので顔を上げるとそこには主の友人である八雲紫の式神、そして彼女自身も式神を行使する九尾狐の変化である八雲藍がいた。但し、右手に酒の入った瓶、左手に二つのコップを持っていたが……
「いや、この後の後片付けを考えるともう……何と言うか」
「心境、お察しする……」
沈痛な顔で藍は隣に座った。
「だがまあ、紫様が冬眠している状況だというのに宴会に呼んでくれた事には感謝している。橙も喜んでいたしな」
「そう言って貰えると幾らか救われます……多分」
再びハァと溜め息を1つ吐く。
それを見かねて藍は妖夢の肩に手を置き、言った。
「後片付けの件は私も手伝おう」
「えっ?でも……」
「2人でやった方が早く済むしな。それにこんな宴会に誘われたのだ。これくらいの礼はしたい」
「……」
妖夢は沈黙する。確かに藍の好意はありがたい。だが、やはり客人に後片付けをさせていいのだろうか……
葛藤は暫く続き、そして彼女の好意を無駄には出来ないとの結論に至った妖夢は
「じゃあ、お願いします。というかわざわざありがとうございますね」
「いや、構わんよ。友人の式と言うだけで誘ってくれた礼だ」
そう言って藍は自宅から持って来た銘酒「緋蜂―大往生―」を妖夢の間に置いて、妖夢にコップの1つを渡す。
「えっ……あのー……これって?」
「まあ、一杯くらいならいいだろう?」
「……いえ、私……飲めないんですけど……」
「そう言うな」
てきぱきと栓を抜いて藍は自分のコップに酒を注ぐ。
「意外と旨いぞ」
「……じゃあ、一口だけ」
妖夢はコップを持って藍の前に出し、藍はそれを見て妖夢のコップに銘酒「緋蜂―大往生―」を注ぐ。
「では、お互いのこれからの健勝に、乾杯」
「乾杯」
白玉楼の大広間の片隅でひっそりと、2人の宴会が始まった。
――――――――――――
「ふぅ……終わったわね」
「ああ……」
幻想郷に存在する数少ない人間達の住む里。その里の夜道を藤原妹紅と上白沢慧音は赤いサンタクロースを模した衣装を着て歩いていた。
つい先程までクリスマスパーティーでサンタになって子供たちにプレゼントを配っており、後片付けも含めて全て終わらせ、帰路に着いている。
「それにしても、お前がクリスマスを知っていたとはな」
「まあ、伊達に1000年も不死人をやってないわよ。それ位放浪しているうちに知識として入ってたわ」
「ふふ……だが助かったよ」
そのまま慧音はゆっくりと空を見上げる。雲に隠れつつも、時々見え隠れするのは月。だが、それは満月ではなく、13夜か14夜と言ったところである。
「今日が満月でなくてよかったよ……」
「どしたのけーね?」
「里の人達にあの姿を見せたくなかった……」
「そっか……」
複雑な表情で妹紅はそれだけ言ってそれ以上は追求しないことにした。だが、直に笑顔になり
「でもね、私はけーねのハクタク姿も好きよ」
「なっ……バッ……何を言って……!」
「別に、ただ私の本音を言っただけ。私はけーねのあの姿は好きだって」
「二度も言わんでいい!」
「まあまあいいじゃないの」
「……あんなのでも……いいのか?」
顔を紅潮させてそっぽを向きつつポツリと呟いた。
「別にいいわよ。それに、けーねはけーね。ハクタクの時も人間の時もね。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもないわよ」
「……ありがとう」
慧音はそれを聞いて妹紅に聞こえないように小さな声で言ったが、ちゃっかり聞こえていた。
「さってと、帰ろ」
「……ああ」
再び、彼女らは帰路に着いた。違うところといえば、お互いに手を握って歩いている所ぐらい。
――――――――――――
「鈴仙」
「ん?どうかしたのてゐ?」
永遠亭と呼ばれる竹林の置く深くに存在する屋敷。そのある一室にて月の兎である鈴仙・優曇華院・イナバは地上の兎である因幡てゐに呼び止められたのでそちらを向く。そこには右手に小さな箱を持ったてゐがいた。
因みにその一室にはこの永遠亭の主である月の姫蓬莱山輝夜とその友人で月の頭脳の八意永琳もいる。
「ん」
「んって……クリスマスプレゼント?」
鈴仙の言葉にてゐは首を縦に振った。
「あ、そういえば今日は下界の行事でクリスマスっていうものだったわね」
永琳が思い出したかのように言う。どうやら完璧に忘れていたようだ。流石は蓬莱の薬を飲んだ人間……は、余り関係ないかもしれない。
「どういう行事なのその『くりすます』っていうのは?」
「ええっとですね……単刀直入に言うと、大体この幻想郷のある島国の、遥か西方に位置する国で昔聖人と言われる人が生まれたのが今日らしいです。で、どうやらその生誕日を祝う行事がいつの間にかこの国、果てはこの幻想郷にやって来たみたいですね」
輝夜が問いかけてきたので永琳は何処から仕入れたのか分からない知識を披露した。
「ふぅん」
だが、輝夜はあまりその行事に関心が無いようだった。
その輝夜の表情を見て永琳はてゐと鈴仙の方を見て……違和感に気付いた。
鈴仙のほうには何ら感じるものは無く、寧ろ違和感があるのはてゐ……それも彼女の耳……何やら耳の穴付近に丸いものが詰まっている気がする……強いて言うなら、耳栓……
その「耳栓」の単語が頭に浮かんだ瞬間、永琳はてゐの仕掛けた恐らくこれから発動するであろう悪戯を察知し、自分の耳を塞ぐ。そして輝夜もその永琳の行動を見ていたため、真似して耳を塞ぐ。
てゐの悪戯に気付かないのは最早鈴仙だけである。いや、輝夜も知らないかもしれない。
「ありがとうねてゐ。開けてもいいかしら?」
「ん」
その言葉を肯定と見て鈴仙は箱の蓋を開けた瞬間!!
中に仕掛けてあった大量の爆竹が連鎖的に爆発を起こし、甲高い音を幾度と無く響かせた。
「く、あぁぁぁぁぁ……頭がガンガンする……」
「やっぱり何か仕掛けてあったわね」
「あらあら……イナバったら」
半ば目を回している鈴仙と涼しい顔の永琳。そして何を考えているのか分からないような笑顔の輝夜がいた。
因みにてゐは既に逃走している。
「て、てゐーーーーーー!!」
やがて持ち直したのか、鈴仙はてゐを追いかけて部屋を出て行った。
「全く、ウドンゲは」
「でも、あのイナバも彼女にだけ悪戯ばっかりするわね」
「若しかしたら愛情表現の一種かもしれませんね……多分」
「あら?永琳にも分からないことってあるんだ」
「いや……まあ……」
返答に困る永琳だったが、突然何かを思い出したかのように表情を変えて
「っと、そうでした。姫、メリークリスマス」
「よくわからないけど……めりーくりすます……だっけ?」
「ええ、大したお持て成しも出来ないのが心苦しいですが」
「いいわよ。別に気にして無いから」
「ふふっ」っと微笑みながら言う輝夜。
「そうそう、この前ウドンゲがですね……」
そのまま永琳と輝夜は何ら変わらない雑談に入っていった。
どうやら彼女たちにとってクリスマスとは特に縁がないようである。
――――――――――――
幻想郷の境目に存在する博麗神社。参拝客と言う存在は絶無に等しいその寂れた神社は今現在何故か小さなクリスマスパーティーが行われていた。
「メリークリスマス。霊夢♪」
「……メリークリスマス」
居間でちゃぶ台を挟んで座っているのは言うまでも無くこの神社の巫女である博麗霊夢、そしてもう1人は以外にも人形遣いであり霊夢の友人である魔理沙と同じ魔法使いのアリス・マーガトロイドであった。
「というか何で私がクリスマスを祝わないといけないのよ?宗派が違うのに」
「まあまあいいじゃないの♪」
霊夢の愚痴を問答無用で切り伏せるアリス。何やら顔が怖い感じがするのは気のせいであるから納得して欲しい。というか納得しろ。
「プレゼントは無いわよ」
「別にいいわよ。私は霊夢と一緒に居るだけで嬉しいから♪」
余りに明るいアリスに霊夢は怪訝な表情をする。というか絶対何か企んでいると、霊夢はそんな予感に近いものを感じ取っていた。
「でね……私からのプレゼントなんだけど……」
その言葉を聞いた瞬間、霊夢の中に何やら既視感めいたものを感じた。この先に待っていそうな光景は……思いつくか限りでは1つしかない。即ち……
「プレゼントは私よーーーーー受け取ってーーーーー!!」
「帰れあんたはあぁぁぁぁぁっ!!博麗最終奥義「両儀弾幕結界」!!」
案の定、ルパンダイヴを仕掛けてきたアリスにいつの間にか博麗の家に伝わる最後にして最大の奥義を放っていた霊夢だった。
「私は諦めないわよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
断末魔めいたものを言ているアリスを境内に叩き出して外に出、そのままもう紫の弾幕結界や永琳のルナティック蓬莱の薬と対等に渡り合えそうな弾幕を放って遥か彼方に吹っ飛ばした。
「まったく……魔理沙じゃあるまいし、私はそんな気はないわよ……」
「人の恋路を踏みにじるなんてあんたも酷い女だねぇ」
「……出やがったな不法居住幽霊」
博麗神社の本殿の方から声が聞こえたのでそちらを向くと、そこにはこの博麗神社の祟り神にして、久遠の夢に運命を任せる精神の異名を持つ幽霊の魅魔がそこにいた。
「何だい何だい、折角人(?)が久しぶりに出てきてやったって言うのにその言いザマは無いだろう」
「五月蝿い!というかショバ代さっさと払え!」
「あーあ……まったく、幽霊にまで金品をせがむなんて博麗の血ももう終わりかねぇ……」
「博麗の血は関係ないでしょ!」
いきなり喧嘩口調な霊夢であったが魅魔にはあっさりと躱される。
「そんなことより、今日は人間界でのクリスマスなんだから、偶には他人の思いに応えてあげるってのもいいんじゃないかい?」
「ふん……なんで私が……」
「ま、今日と言う日だけでもね、そういうのもありでしょ」
「もう遅いわよ、アリスはどっか遠くに飛んで行っちゃったから」
そう行ってアリスの飛んで行った方向―――と思われる―――を指差す。
「ふう、素直じゃないねぇ」
「まったく、第一私は基督教徒じゃないってのに……」
魅魔はもう霊夢を説得するつもりは無くなり、この件に関してこれ以上は何も言わないことにした。
「それで、これからはどうするんだい?」
「あ、もう何もすることは無いから寝るわ」
「さいで……」
「じゃ、お休み。さっさとあんたも寝たら?」
「妖怪の時間はこれからだってのに……」
「あんたは幽霊でしょ」
そんな掛け合いをしつつ霊夢は自分の部屋に戻って行った。まあ、そんな事件があった以外はこの頭が万年春の巫女は特に変わっていない。例えそれがクリスマスであろうと。
――――――――――――
場所は再び紅魔館。その中のヴワル魔法図書館にて霧雨魔理沙とパチュリー・ノーレッジは2人っきりのクリスマスパーティーを開いていた。
「メリークリスマス、パチュリー」
「ええ、メリークリスマス」
2人でテーブルを囲んでお互いに今日と言う日を祝う。今日は小悪魔―――パチュリーはリトルと呼び、他の者達は小悪魔と呼ぶ―――はお休みを取っている。
「昔はこんな日を祝うなんてこと無かったのにね」
パチュリーは少々自嘲気味に言う。
「ま、昔のことなんて気にせずに、今を楽しもうぜ」
「そうね」
2人はそうしてバスケットに入っている魔理沙自作の料理を口に運んでいった。
「ご馳走様」
「お粗末様。っと、そうだ」
バスケットを片付け終えて魔理沙は思い立ったかのように懐から小さなラッピングが施された箱を取り出す。
「クリスマスプレゼントだぜ。パチュリー」
「……ありがとう、魔理沙」
パチュリーの目の前にやって来て手渡された魔理沙からのプレゼントを素直に受け取る。その時にお互いの手と手が触れ合ったのはまあ、偶然ではない筈だ。
パチュリーは丁寧にラッピングされた小さな箱を開ける。
そこに入っていたのは……三日月の形をしたヘアバンド。
「昔、私が使っていた奴だけどな。パチュリーに似合うと思って」
魔理沙の照れながらの言葉。
そこへ……パチュリーの頬を流れる一筋の涙。
「えっ……あれ?……」
「お、おい……何も泣くことないだろ……ってもしかして気に入らなかったのか?」
「ううん……何か、凄く……嬉しくって」
「そっか、喜んでくれて光栄だぜ」
魔理沙は右手でパチュリーの頬を流れる涙を拭う。パチュリーは涙を拭われて直に笑顔を見せる。
レミリアにも滅多に見せることの無い、ただ自分を全部受け入れてくれる人だけに見せるその笑顔……それを魔理沙は知ってるため、それが凄く嬉しかった。
「魔理沙……ほんと、ありがとう」
「私も、昨日半日かけて部屋を探した甲斐があったぜ」
「あ……私、プレゼント用意してない」
先ほどの嬉しそうな表情とは一転して一気に暗い顔になる。が、魔理沙は
「ああ、それくらいなら」
と言っておもむろにパチュリーの唇と自分の唇を重ね合わせた。いきなりなことに驚くパチュリーだったが、直に肩の力を抜いて魔理沙に身を任せる。
舌を絡ませる行為はしない。ただ、触れるだけの口付け。だがそれだけでも相手の想いは十分に伝わっていた。
数十秒ほどして魔理沙とパチュリーは口を離してお互いの顔を見詰め合う。
「パチュリー、好きだ……いや、愛してるぜ。誰よりも」
「うん……私も……愛してる」
そのまま再び……2人は唇を重ね合わせた。
終わり……?
おまけ
「ジングルベール、ジングルベール鈴がなる~♪」
「やかましいぃぃぃぃぃっ!!」
博麗神社上空数メートルを飛びつつ歌を歌っていたミスティアの顔面と腹に、霊夢が放った疑似陰陽玉がクリーンヒットした。
今度こそ終わり……
幻想郷の、ほのぼのとしたクリスマスの在りよう。平和ですねぇ。アリス頑張れ(笑)。
自分としては何故にぱちゅまりのパートだけ必要以上に生クリームを塗ったくりまくったケーキに如く甘々なのかと突っ込みたいところです(笑)。ええ、私は限りなく野暮なヤツですから。
後、重箱の隅レベルですが
>思いつくか限りでは1つしかない。
…「か」がひとつ余計かと。