綺麗な月が浮かんでいた。
あれは、三日月だろうか―――
幻想郷に春が訪れて十日ほど経った夜。
私、霧雨魔理沙は風情あふれる夜の散歩に出かけて―――
「――まったく、あの妖怪どもは迷惑って言葉を知らないのか?」
―――と、言うのは嘘。
本当は単なる妖怪退治の帰りだ。
簡単に片付くかと思いきや意外にも曲者で、おとなしくさせるのにかなり手間取ってしまった。
まったく、猫やら狐やら狸やら。
動物はどうも節操がなくていけない。
「まあいい。
今日は空も澄んでるし、このまま夜の花見と洒落込むとするか」
そんな独り言を吐きながら冥界の階段を降り切った時―――
「あら?」
「げ、」
あんまり、
というか、ものすごく会いたくない顔と出くわしてしまった。
◆― 夜桜と、二人の魔法使い ―◆
「で、何で着いて来るんだ?」
面倒だから無視したというのに、律義にもものすごく会いたくない顔―――アリスは魔理沙の後にぴったり着いてきた。
「別に着いて行ってる訳じゃないわ。 貴女が、私の進路と同じ方へ行ってるの」
「途中から現れておいてそれはないんじゃないか?」
「あのね…… 私から見れば、途中から現れたのは貴女の方なんだけど」
下には闇、上には月と星。
暗がりを劈く二つの影は、静かに、そして疾く。
ただまっすぐに空を滑り続けている。
遠くに見える境目は、夜空と山の境界だろう。
夜の方が明るく山の方が黒いというのは、全く、不思議な話である。
「ずいぶん暖かくなったわよね」
「弾幕るか? ――――――――――、は?」
挑発と同時に出たのは、世間話。
予想外の内容に、魔理沙は拍子抜けした。
「ほら、春を奪ってる奴が居たんでしょ?
冥界に。」
「あぁ、この前おとなしくさせて来たんだが」
「一緒に花見までしてたわね」
「見てたんなら来れば良かっただろ…」
「……………」
言葉を交わしている間も、二人の速度は変わらない。
――いや、いつの間にか魔理沙に並んでいるアリスは、若干スピードを速めたのかもしれない。
「それで、弾幕らないのか?」
「嫌よ。 今日はおろしたてのお洋服なんだから」
アリスは自慢するようにスカートの裾をつまんで見せた。
ひらひらと揺れるその服は青と白を基調にしたドレスで、つまるところ―――
「いつもの服と同じだろ?」
「全っ然違うわよ!!」
実際、ほとんど変わってないように見える。
そんな感じで話す事数十分。
あまりにまったりとした会話に、魔理沙はついにしびれを切らした。
「――――――なぁ、何か用があるんじゃないのか?」
当然の言葉だろう。
自他共に認める犬猿の仲である二人が、特に理由もなく世間話をしている。
この異常な状況が、魔理沙としては何とも心地が悪かった。
「貴女に用は無いわよ」
「だったら、何で着いてくるんだ?」
「最初に言ったじゃない。
貴女が、私の進路と同じ方へ行ってるって」
アリスは、軽く笑いながらそう答えた。
何を企んでいるのか、何が楽しいのか。
――――楽しいといえば、二人で話しながら飛ぶっていうのも、これはこれで退屈しないで楽しいものかもしれない―――
そう思うと、さっきまでの心地悪さは何処かへ消えてしまっていた―――――――――
「―――、見えてきたな。」
名も無い山の頂に、その巨木はあった。
樹高は50メートルを越すだろう、それは、春が来て満開の花を咲かせている桜の樹だった。
普通の桜とは比べ物にならない程に大きく、どこか西行妖にも似た―――でも、ただの桜。
「悪いが、ここでお別れだ。 私はこの樹に用があるんでな」
「あら奇遇、私もよ」
「―――――――――は?」
そんな魔理沙の声を聞いて、とうとうアリスは笑いだした。
「ふふ、魔理沙?
この季節にこのあたりで行く場所なんて、限られてると思わない?」
「―――――ぇ、」
考えてみる。
この辺りは、冥界の入り口にも近く幻想郷の中でも辺境中の辺境。
正直、周りには何も無い。
つまり―――――――――
「お前も、花見って事か?」
「ええ」
「最初から、私もこの桜に向かうって分かってて、知らん顔してからかってたのか?」
「そうよ」
アリスは楽しそうに笑っている。
「この…… いい根性だな!! アリスッ!!」
『恋符 マスター―――――――』
「あらあら、このぐらいで怒るなんて精神鍛錬が足りないんじゃなくて?」
『魔符 アーティフル――――――』
『――スパーク!!』
『――サクリファイス!!』
「――――――――はぁ、疲れた……」
10分後、かつて無い程全力で撃ち合った弾幕ごっこは終了した。
「魔理沙、あんたちょっと撃ち過ぎじゃないの…?」
「挑発してきた方が悪い。
っていうか、お前も新しいスペル撃ちまくってただろ?」
「五月蝿いわね、何を使おうが私の勝手でしょ?」
「お前、言ってること滅茶苦茶じゃないか…?」
そんな凄まじい弾幕ごっこの中でも、すぐそこにある桜の樹には一発も当ててないのは、腕なのか運なのか。
とにかく、二人は手近な大きい枝に座り込んだ。
「でも、貴女が一人で花見なんて珍しいわね。
霊夢あたりを強引に連れて行きそうなものだけど―――――って、まさか、貴女、」
「お前こそ五月蝿い。」
そう、花見は理由の半分。
魔理沙は新しい符を研究する為に、こんな辺境にきていたのだった。
「へぇ~、ここが魔理沙の秘密の特訓場ってわけね。」
「う…… 霊夢も知らないってのに…」
魔理沙は完全にアリスのペースに飲まれてしまった。
が、ここで一つ疑問が浮かんだ。
「…………ん?
でも、そう言えばお前も花見目的でここまで来たのか?」
「―――――――――――――、」
と、ここまで勝ち誇っていたように笑っていたアリスの顔が固まった。
「――――つまり、そういう事か?」
「……………………ええ」
格好がつかないせいか、急にアリスはしおらしくなった。
アリスはアリスで、桜の花びらで人形を作ろうと来ていたらしい。
結局、二人とも言葉にするのも恥ずかしい秘密の特訓に来ていたのだった。
「で、成果はどうなの?」
「撃ち合っただけじゃ何ともな。
まぁいいさ、まだ春は来たばかりだ」
「桜の季節なんて短いものだと思うけど」
つたない会話は、夜明けまで終わる事は無かった………
綺麗な月が浮かんでいる。
あれは、満月だろうか―――
「待たせたな」
「ええ、待ったわ」
夏の終わり、アリスは魔理沙の家を訪れた。
満月を元に戻すため、新しい敵を倒す為に―――
「そういえば、前に秘密の特訓の成果は出たの?」
「恥ずかしい表現をするな!
………まぁ、お前ぐらいなら一発で吹き飛ばせるぐらいのモノなら出来たぜ。」
「あら奇遇。
私の上海人形も随分と強くなってね。
多分、貴女ぐらいなら一撃ね」
「……ウォーミングアップといくか?」
「いいわよ。 でも、負けたら恨むのは自分にしてね」
彼女達は仲が悪い。
会うたびにケンカをして、憎まれ口ばかり言い合って―――
『魔砲 ファイナル―――――――
『魔操 リターン―――――――
―――犬猿の仲以外に、その関係を表すならば―――
―――――スパーク!!』
―――――イナニメトネス』
それは、多少歪んでるにしろ紛れもなく親友という奴なのだろう。
Welcome the Eternal night...
永遠の夜は、きっと、二人によって破られる。
あれは、三日月だろうか―――
幻想郷に春が訪れて十日ほど経った夜。
私、霧雨魔理沙は風情あふれる夜の散歩に出かけて―――
「――まったく、あの妖怪どもは迷惑って言葉を知らないのか?」
―――と、言うのは嘘。
本当は単なる妖怪退治の帰りだ。
簡単に片付くかと思いきや意外にも曲者で、おとなしくさせるのにかなり手間取ってしまった。
まったく、猫やら狐やら狸やら。
動物はどうも節操がなくていけない。
「まあいい。
今日は空も澄んでるし、このまま夜の花見と洒落込むとするか」
そんな独り言を吐きながら冥界の階段を降り切った時―――
「あら?」
「げ、」
あんまり、
というか、ものすごく会いたくない顔と出くわしてしまった。
◆― 夜桜と、二人の魔法使い ―◆
「で、何で着いて来るんだ?」
面倒だから無視したというのに、律義にもものすごく会いたくない顔―――アリスは魔理沙の後にぴったり着いてきた。
「別に着いて行ってる訳じゃないわ。 貴女が、私の進路と同じ方へ行ってるの」
「途中から現れておいてそれはないんじゃないか?」
「あのね…… 私から見れば、途中から現れたのは貴女の方なんだけど」
下には闇、上には月と星。
暗がりを劈く二つの影は、静かに、そして疾く。
ただまっすぐに空を滑り続けている。
遠くに見える境目は、夜空と山の境界だろう。
夜の方が明るく山の方が黒いというのは、全く、不思議な話である。
「ずいぶん暖かくなったわよね」
「弾幕るか? ――――――――――、は?」
挑発と同時に出たのは、世間話。
予想外の内容に、魔理沙は拍子抜けした。
「ほら、春を奪ってる奴が居たんでしょ?
冥界に。」
「あぁ、この前おとなしくさせて来たんだが」
「一緒に花見までしてたわね」
「見てたんなら来れば良かっただろ…」
「……………」
言葉を交わしている間も、二人の速度は変わらない。
――いや、いつの間にか魔理沙に並んでいるアリスは、若干スピードを速めたのかもしれない。
「それで、弾幕らないのか?」
「嫌よ。 今日はおろしたてのお洋服なんだから」
アリスは自慢するようにスカートの裾をつまんで見せた。
ひらひらと揺れるその服は青と白を基調にしたドレスで、つまるところ―――
「いつもの服と同じだろ?」
「全っ然違うわよ!!」
実際、ほとんど変わってないように見える。
そんな感じで話す事数十分。
あまりにまったりとした会話に、魔理沙はついにしびれを切らした。
「――――――なぁ、何か用があるんじゃないのか?」
当然の言葉だろう。
自他共に認める犬猿の仲である二人が、特に理由もなく世間話をしている。
この異常な状況が、魔理沙としては何とも心地が悪かった。
「貴女に用は無いわよ」
「だったら、何で着いてくるんだ?」
「最初に言ったじゃない。
貴女が、私の進路と同じ方へ行ってるって」
アリスは、軽く笑いながらそう答えた。
何を企んでいるのか、何が楽しいのか。
――――楽しいといえば、二人で話しながら飛ぶっていうのも、これはこれで退屈しないで楽しいものかもしれない―――
そう思うと、さっきまでの心地悪さは何処かへ消えてしまっていた―――――――――
「―――、見えてきたな。」
名も無い山の頂に、その巨木はあった。
樹高は50メートルを越すだろう、それは、春が来て満開の花を咲かせている桜の樹だった。
普通の桜とは比べ物にならない程に大きく、どこか西行妖にも似た―――でも、ただの桜。
「悪いが、ここでお別れだ。 私はこの樹に用があるんでな」
「あら奇遇、私もよ」
「―――――――――は?」
そんな魔理沙の声を聞いて、とうとうアリスは笑いだした。
「ふふ、魔理沙?
この季節にこのあたりで行く場所なんて、限られてると思わない?」
「―――――ぇ、」
考えてみる。
この辺りは、冥界の入り口にも近く幻想郷の中でも辺境中の辺境。
正直、周りには何も無い。
つまり―――――――――
「お前も、花見って事か?」
「ええ」
「最初から、私もこの桜に向かうって分かってて、知らん顔してからかってたのか?」
「そうよ」
アリスは楽しそうに笑っている。
「この…… いい根性だな!! アリスッ!!」
『恋符 マスター―――――――』
「あらあら、このぐらいで怒るなんて精神鍛錬が足りないんじゃなくて?」
『魔符 アーティフル――――――』
『――スパーク!!』
『――サクリファイス!!』
「――――――――はぁ、疲れた……」
10分後、かつて無い程全力で撃ち合った弾幕ごっこは終了した。
「魔理沙、あんたちょっと撃ち過ぎじゃないの…?」
「挑発してきた方が悪い。
っていうか、お前も新しいスペル撃ちまくってただろ?」
「五月蝿いわね、何を使おうが私の勝手でしょ?」
「お前、言ってること滅茶苦茶じゃないか…?」
そんな凄まじい弾幕ごっこの中でも、すぐそこにある桜の樹には一発も当ててないのは、腕なのか運なのか。
とにかく、二人は手近な大きい枝に座り込んだ。
「でも、貴女が一人で花見なんて珍しいわね。
霊夢あたりを強引に連れて行きそうなものだけど―――――って、まさか、貴女、」
「お前こそ五月蝿い。」
そう、花見は理由の半分。
魔理沙は新しい符を研究する為に、こんな辺境にきていたのだった。
「へぇ~、ここが魔理沙の秘密の特訓場ってわけね。」
「う…… 霊夢も知らないってのに…」
魔理沙は完全にアリスのペースに飲まれてしまった。
が、ここで一つ疑問が浮かんだ。
「…………ん?
でも、そう言えばお前も花見目的でここまで来たのか?」
「―――――――――――――、」
と、ここまで勝ち誇っていたように笑っていたアリスの顔が固まった。
「――――つまり、そういう事か?」
「……………………ええ」
格好がつかないせいか、急にアリスはしおらしくなった。
アリスはアリスで、桜の花びらで人形を作ろうと来ていたらしい。
結局、二人とも言葉にするのも恥ずかしい秘密の特訓に来ていたのだった。
「で、成果はどうなの?」
「撃ち合っただけじゃ何ともな。
まぁいいさ、まだ春は来たばかりだ」
「桜の季節なんて短いものだと思うけど」
つたない会話は、夜明けまで終わる事は無かった………
綺麗な月が浮かんでいる。
あれは、満月だろうか―――
「待たせたな」
「ええ、待ったわ」
夏の終わり、アリスは魔理沙の家を訪れた。
満月を元に戻すため、新しい敵を倒す為に―――
「そういえば、前に秘密の特訓の成果は出たの?」
「恥ずかしい表現をするな!
………まぁ、お前ぐらいなら一発で吹き飛ばせるぐらいのモノなら出来たぜ。」
「あら奇遇。
私の上海人形も随分と強くなってね。
多分、貴女ぐらいなら一撃ね」
「……ウォーミングアップといくか?」
「いいわよ。 でも、負けたら恨むのは自分にしてね」
彼女達は仲が悪い。
会うたびにケンカをして、憎まれ口ばかり言い合って―――
『魔砲 ファイナル―――――――
『魔操 リターン―――――――
―――犬猿の仲以外に、その関係を表すならば―――
―――――スパーク!!』
―――――イナニメトネス』
それは、多少歪んでるにしろ紛れもなく親友という奴なのだろう。
Welcome the Eternal night...
永遠の夜は、きっと、二人によって破られる。
この2人の場合、魔理沙の方がいろんな面で1歩2歩リードしてそうなイメージがあるのですが、このお話のように、全くの対等関係というのもいいものですね。
絶対に他人に努力をしている姿を見せないところが、
いかにもこの2人らしいと思いす。