Coolier - 新生・東方創想話

連理の枝

2004/12/23 17:46:40
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―――――祇園精舎の鐘の音。


諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色,盛者必衰の理をあらわす・・・。










 白玉楼に鳴り響く梵鐘の音。常世の春を謳歌する、幽玄なる魂魄たち。



   生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く
     
           死に死に死に死んで死の終わりに冥し




 輪廻の円環のなか、ひとときの休息を得るたましいの群れ。
全ての業から解放された、その者たちは・・・新たなる生へと想いを馳せる。
ふわふわと漂う、のっぺりとしたその霊体からは――――生前の面影は読み取れない。



 ―ありえざる、満開のさくらみち―


冥界の風が ざぁぁぁ・・・・と吹き抜ける。
枝葉を揺らす、死者の風。
舞い吹雪く桜花は―――まるで天上の音楽のように、至上の音色を奏で舞う。
木立の間で戯れる、霊魂たちのこころを慰める・・・・鎮魂歌のように。


さくら舞う参道を、てくてくと歩む一人の少女。
優雅な着物をさりげなく着こなし、両脇を漂う二つの魂魄に灯篭を持たせ、扇のみを持ち、彼女は歩む。



 ―冥い 冥い  常世の庭―


 灯篭は幻想的な明かりで、辺りを照らす。
行く手の視界を閉ざす程に舞い吹雪く、桜花。幻灯が指し示す道を頼りに、少女は歩み逝く。












「・・・・・・ここ、か。」

桜の根元には、淡い紫の花。名も知らぬような、素朴な花。
ひっそりと、つつましく咲く小さな花。
ソレに向かい、少女は囁く。



「ひさしぶり、ね。どう? 此処の景色は。」

花は沈黙したまま、語りえない。



「ふふ・・・そんなに、じとー と見ないでよ? 分かってるわよ。余計なお世話だってことぐらい。」


儚げに揺れる花。



「・・・なんで此処に彼女が居ないのかって? あら、なにも言ってなかったのね。・・・ふふっ、あの白黒らしいわ。」


扇で口元を隠し、少女は可笑しげに笑う。
心なしか、足元の花は怒ったように花弁を膨らませる。
ふいに少女は笑いを潜め、真剣な面持ちで花に向かい――――問いを発す。










「・・・・七曜の魔女。汝は、永遠を望むか?」


厳粛な雰囲気を纏った、少女。
ほんわかした普段の様子とは、あまりにかけ離れたその姿は・・・・・・庭師が見たら、どんなに感激することか。



「・・・・・・。」


花はなにも、語らない。



「・・・・・・・なれば、汝は滅びを望むか?」
























「汝の望み・・・・・・・連理のコトワリ。―――――しかと聞き届けた。」




無言の花から、なにを読み取ったのか。
少女は、花の傍から数歩下がり―――手に持った扇を ぱん と打ち振るう。
桜の舞うなか、少女は詩言を口ずさむ。




「凡そ鐘の声は黄鐘調なるべし、これ無常の調子、祇園精舎の無常院の声なり
 西行寺の鐘、黄鐘調に鋳られるべしとて、あまた度、鋳かへられけれども
 かなはざりけるを、遠国より尋ねいたされけり、浄金剛院の鐘の声、また黄鐘調なり。」



閉じた扇を・・・未練を断ち切るかのように、縦一文字に振るう





「 アタリ。 」




グォーン・・・。


何処からとも無く―――――鐘の音が響く。
耳障りの無い、荘重な響きは余韻を残す事無く・・・掻き消える。











横一文字に薙ぎ払う。




「 オシ。 」




グオォーーーーーーーン・・・・・・・。


 響き渡る鐘の音。
数呼吸の間、遠くに想いを伝えるかのように・・・高音は鳴り響く。















―――ぱん

扇を開き、少女は優雅に舞い始める。






「 ・・・オクリ。 」 





グォォオオォォオオォォォォ・・・・・・・・・・・・・・・・・ン



―――強く、―――弱く  遥か彼方まで鳴り響く余韻。

引いては寄せ、寄せては引いて。

世界の果てまで伝わる――――――――想いの波。





・・・いつしか、花は・・・その幽体を揺らめかせ、淡い燐光を放ち出す。



冥い 冥い  常世の庭。


それは 舞い散る ――――いのちのひかり。


無限の如く   有限の如く

夢幻の如く   幽玄の如く



見果てぬ夢を いま・・・ひとたび。


今度は・・・ずっと ずっと  貴女と共に――――












―――亡霊の姫の舞いは続く。


        賢者の魂が、次なる生に


           ――――――辿り着くまで。













……。
しん
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