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■前書き
※この物語には霊夢や魔理沙と言ったZUN氏の創り上げた人物は一切登場しません。
※幻想郷世界を題材としたシェアドストーリーに挑戦してみました。
※ZUN氏の創り上げた素晴らしい世界観を霊夢達を使わずに表現できるかがテーマです。
※許容できる方だけ、読み進めていただければ幸いです。
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幻想郷外伝 涼古
第四話前編 「家出少女」
夜の幻想郷。
季節はもうすっかり秋で、山々は紅に染まり、雪が一面を白く染めるまでの短い間をせめて色鮮やかに彩らんとしていた。
耳を澄ませば聴こえて来る虫の歌声。
冬を目前にして澄み切った夜空に、月と星が煌煌と輝く。
私は四季の中で一番秋が好きだった。
「・・・涼古」
「ん?なに?」
何故かここ数日、毎日のように我が家に遊びに来るラヴェンダーが、本から顔を上げて私を呼んだ。
遊びに来るといっても、紅茶を飲んでるか、本を読んでるかしているだけなんだけれど。
私の魔法アレルギーも、ラヴェンダーのおかげでだいぶ治ってきたような気がする。
尤も、彼女は魔法使いといっても直接的な魔法は滅多に使わない。
「人間がいるわ。・・・・・・・・・このままだと餓鬼に襲われる」
直接的な魔法が苦手な代わりに、彼女には占いをする能力がある。
時折予言のように少し先のことを言い当てる姿を見ると、なんだかとても神々しく見えるから不思議だ。
初めのうちはいちいち驚いていたけれど、最近はもう慣れっこだった。
「まったく・・・。夜に1人歩きするなんて命知らずな奴もいたものね。どっち?」
ラヴェンダーのおかげで妖怪退治の仕事も前よりずいぶんと楽になっている。
何せ妖怪の居場所や、大体の傾向を全て事前に知ることができるのだ。
「・・・西の方・・・。なんだか様子がおかしい・・・」
私の家からほんの少し東に行くと人間たちが住む里がある。
まあそっちなら人間がいても不思議ではない。
でも西には何もないはずだ。
昼間ならともかく妖怪たちの時間の夜に、1人で出歩いてるなんてよほど訳ありだろう。
「ほっとくわけにもいかないし、ちょっと見てくるわ。イルイル行くわよ」
「はいはい」
私は弓を肩にかけ、ラヴェンダーを家に残して夜の幻想郷へ歩き出した。
****
「しかし、こんな時間に出歩いてるなんていったい何者かしら」
「さあ、自殺志願者か。それともよほど腕に自信があったり」
「だと良いんだけどね」
私とイルイルは月に照らされている幻想郷のあぜ道を歩く。
私たちの足音と話し声、それに鈴の音以外は、虫の鳴き声しかしない静かな夜だ。
だが幻想郷の夜は、その静けさからは想像できないほど危険に満ち満ちている。
妖怪は夜に人間を襲う。
それ故にほとんどの人間は夜に外へ出歩くことはしない。
幻想郷の夜を歩ける人間は、妖怪と対等に渡り歩ける力を持った者だけだ。
そのまましばらく周囲の気配を探りながら歩いていると、月夜の静寂を貫く悲鳴が聞こえた。
私は肩から弓を下げ、悲鳴が聞こえてきた方向へ走り出す。
「涼古、今の声、女の子よ」
「・・・まずいわね」
今の声はどう考えても幻想郷の夜を歩く資格を持った者の声には聞こえない。
全速力で夜の帳を駆け抜ける。
間に合うか?
そして2度目の悲鳴が聞こえた。
さっきより距離は近い。どうやらまだ無事のようだ。
「ッ涼古、あれ!」
前から1人の少女が走ってきた。
少女は肩先まで伸びたブラウンの髪を揺らし、幻想郷ではあまり見慣れないブレザーに、丈の短いスカートを穿いている。
「たっ、助けてー!」
そう叫ぶ少女のほんの少し後ろに、追従するように走る影があった。
不自然に小さい身体、体毛は無く、膨れた腹を躍らせながら4本の手足を使いまるで獣のように走る人影。
あれは餓鬼だ。
私は弓を引いて矢を作り上げる。
「横に避けてッ・・・!」
私の声に呼応するように少女が横に避けた。
瞬間、露になった餓鬼へ矢を射る。
しかし少女ごしに狙いを定めていたため、直撃はせずに餓鬼の前足を吹き飛ばすだけだった。
だがそれで餓鬼は逃げていった。
本能で実力差を感じ取ったのだろう。
もとより餓鬼退治が目的ではないので追撃はせずに尻餅をついている少女の元へ駆け寄る。
「大丈夫?・・・まったく、夜に出歩くなんて命知らずもいいところだわ」
もしラヴェンダーがうちに遊びに来ていなければ、この少女は後数分もしないうちに餓鬼に喰われていただろう。
私は手を差し伸べて少女を立ち上がらせる。
「・・・・・・あ、ありがとう」
少女はスカートに付いたホコリをパンパンと払いながら辺りを見回していた。
見慣れない顔だ。里の人間ではない。
「とにかく、事情はわからないけど、いったん私の家に行きましょう。あまりここに長居するのもよくないわ」
人間の匂いをかぎつけて妖怪がやってこないとも限らない。
私1人ならまだしも、この少女を守りながら戦うのは相手によってはきついかもしれない。
そう判断した私は少女を一度家につれて帰ることにした。
少女は不安そうな顔をしているが、素直に私の後についてきた。
月に照らされた静寂の幻想郷。
聞こえる音は2人の足音と鈴の音だけ。
****
「ただいま・・・っと、良い匂い」
玄関のドアを開けたとたん鼻腔をくすぐるおいしそうな匂いがした。
どうやらラヴェンダーが夕食の支度をしていてくれてるらしい。
ラヴェンダーはああ見えて(というかやっぱりというか)料理がうまい。
ここ最近は、ラヴェンダーが夜まで私の家にいるときは、ラヴェンダーが大体夕食を作ってくれていた。
曰く「涼古に任せると握り飯しかでてこない」とのこと。
まったく、あのふわふわの白いご飯を適量の塩加減で、優しく握ったおにぎりのおいしさがわからないなんてなんて不幸なんだろう。
「お・・・おじゃまします」
私の後に続いて、少女が遠慮がちに入ってきた。
さっきから一言も喋らないでキョロキョロとしている。
餓鬼に襲われたばかりだし、無理もないかもしれない。
「適当に掛けてて。今お茶淹れてくるから」
私はそう言って椅子を指差してラヴェンダーのいる厨房のほうへ歩いていく。
厨房といっても、同じ室内のただ料理が出来る設備のある一角にすぎないけれど。
「・・・おかえり・・・。やっぱり連れて帰ってきたのね」
「そりゃーね。なんだか様子がおかしいし、放っておいたらまた襲われるわよあの子」
ラヴェンダーは長い黒髪を結い上げて、鍋をかき混ぜていた。
私はその横に立って緑茶を淹れる。
すでにお湯は沸いているのできゅうすに注ぐだけ。
ちなみにこの鍋はラヴェンダーが持ってきた物だ。
「シチューにしといてよかった・・・。これなら何人増えても大丈夫だし・・・」
鍋を覗き込んでみると、おいしそうなシチューが煮えていた。
まだ私が家を出てから30分ほどしか経っていないのに、すでに数時間煮込んだように見えるのは何故だろうか・・・。
まあラヴェンダーのやることにいちいち驚いてたらきりが無いことを学習済みなので不問。
ラヴェンダーは直接的な魔法が苦手な変わりに、生活の小技的な魔法をよく使う。
きゅうすから湯のみにお茶を注いで少女の待つテーブルへ戻る。
少女は椅子に座って相変わらずキョロキョロと周りを見回していた。
「お待たせ」
少女の前にお茶を置いて私もテーブルに腰掛ける。
「あ、ありがとう」
言って少女は湯飲みを取って一口啜った。
私もお茶を飲む。
最近の幻想郷は夜になると冷え込んでくるので、暖かいお茶がおいしい。
「あの・・・、ここはいったい、どこ?」
少女が私を見つめてそう尋ねてきた。
あれ、私の家に行くって言わなかったっけ・・・。
「え?私の家だけど」
「いえ、そうじゃなくてっ・・・。場所は?いったいどこなんですか?」
場所?
私の家がある場所を聞いているのだろうか。
「人間の里のすぐ近くの山の麓よ。幻想郷には人間が住む里なんていくつもないからわかるでしょ?」
少女はお茶を一口飲んで、顔を傾ける。
言っていることがわからないとでも言いたげな表情だった。
そうして、少女は口を開いた。
「幻想郷って・・・・・・・・・どこ?」
****
話を整理しよう。
少女の名前は佐倉桜子。年は16。
桜子は、朝いつものように学校へ行って、いつものように帰宅。
そして母親とケンカをして、家を飛び出してきた。
要するに家出だ。
行く当ても無く、夕暮れ時の町を歩いていて、気が付いたら日が落ちて当たり一面真っ暗になっていたという。
そして餓鬼に襲われて、私に助けられて現在に至る。
・・・・・・・・・早い話、幻想郷の外から、迷い込んできたらしい。
幻想郷と外界を繋ぐ結界が、何らかのはずみで歪んで、外界の人間が迷い込んでくることは間々あることだ。
そういった人たちは、気の毒だがほとんどが妖怪に喰われてしまうが・・・。
「にしても信じられない!幻想郷?うわー、すごいファンタジーだわ!」
桜子は自分の置かれている状況をきちんと認識すると、とたんに緊張が解けたのか騒がしくなった。
もともと活発的な性格なんだろう。
初めは疑っていたが空をパタパタと飛んでいるイルイルを見て信用したらしい。
たまにはイルイルも役に立つもんだ。
「あのねえ・・・。あんた、もう少しで妖怪に喰われるところだったのよ?よくそんなのんきなこといってられるわね」
そのイルイルがそう言う。
「それはそうだけどさ、私、小さいころからこういうファンタジックな世界に憧れていたのよ。感動~」
桜子はイルイルをしげしげと眺めながらうっとりとしている。
そうこうしているうちに、ラヴェンダーがお盆に人数分のシチューをのせてやってきた。
「おまたせ・・・・・・」
ラヴェンダーはテーブルにシチューを盛り付けると、髪を結い上げていたリボンをしゅるりと外して椅子に座る。
「わあ、おいしそう」
「・・・・・・いただきましょう」
そうしてなんだかよくわからないままラヴェンダーの作ってくれたシチューを3人(と1匹)で食べ始めた。
騒ぎの元凶はよほどお腹がすいていたのは一目散にシチューを啜っていた。
そういえばこんな大人数で食事をするのは久しぶりだ。
「ああ、紹介しとかないとね。この黒いのはラヴェンダー、魔法使いよ。そいで、こっちの人騒がせなのは桜子」
ラヴェンダーは無口だし、桜子はあまり細かいことは気にしなさそうなタイプだ。
ほおっておいたら互いの名前を知ることは無さそうだったので、いちおう、2人を紹介しておく。
すると桜子はスプーンの動きを止めてラヴェンダーを見つめた。
「ま、魔法使いぃ!?まじ?本物?」
「・・・・・・・ええ」
どうやら魔法使いという点が桜子にとって非常にツボだったようできゃあきゃあと興奮している。
ラヴェンダーはラヴェンダーで相変わらずマイペースだ。
結構いいコンビかもしれない。
「うわー、感動だわ!よろしくね、ラヴェンダーさん。・・・・・・魔法使いとお友達になっちゃった!」
「・・・・・・よろしく・・・」
桜子がラヴェンダーに嵐のように質問をして、ラヴェンダーはシチューを上品に口に運びながらボソボソと答える。
私はなんとなくその光景を眺めていた。
今日の夕食は突然の訪問者のおかげでいつもの3倍は賑やかだった。
****
食事も終わり、私たちは食後の紅茶を飲んでいた。
「それで、これからについてだけど・・・」
まず何より桜子のこれからのことを決めなければなるまい。
本当は食事中に話をしようと思っていたが、いつのまにか会話の主導権を桜子に握られていたので切り出すことができなかった。
「ラヴェンダー、外の世界へ帰る方法ってあるの?」
ここが一番の問題だ。
いくら家出してきたとはいえ、幻想郷へ移り住むわけにもいかないだろう。
家族だって心配しているに違いない。
「・・・・・・あるわ。博麗神社の大結界が、外界へ通じているから、あそこの巫女に事情を話せば通してくれるでしょう」
博麗神社と言うのは幻想郷と外界の境界にある神社で、幻想郷と外界を分かつ結界があるところだ。
「なら安心ね。今日はもう遅いから、明日にでも神社まで連れてってあげるわ」
時間も時間だし、さっき襲われたばかりの人間をまた夜の幻想郷へ出すわけにも行くまい。
明日、朝一番にでも神社に行けば問題ないだろう。
「ええええええーーー!!やだやだやだ!あんな家絶対帰らないんだから!私、幻想郷で暮らす!!」
なんて、桜子はとんでもないことを言い始めた。
「あのねえ・・・そういうわけにも行かないでしょう・・・。家族の人だって心配しているし、それにさっきだって妖怪に襲われたばかりじゃない」
しかし、桜子は嫌だ嫌だの一点張りだ。
まったく、困ったもんだ・・・。
「はぁ・・・。ラヴェンダー、どうする?」
「・・・・・・なんで私に振るの・・・。ま、3日もすれば気が変わるんじゃないかしら・・・」
確かに、今は珍しがって興奮しているが、3日もすれば家が恋しくなるかもしれない。
外の世界がどんなもんかは知らないけど、少なくとも外で生きてきた人間が幻想郷で暮らしていけるとも思えない。
無理に追い出すわけにも行かないし、はぁ、仕方ないか・・・。
「・・・わかったわ。桜子、気が済むまでこの家にいなさい」
「え!いいの!?」
桜子は目を輝かせて身を乗り出してくる。
「ただし、条件。絶対に勝手に外に出ないこと。特に夜は絶対よ」
「うん、わかったわ。絶対守ります。ありがとー!涼古さん!」
そう言って桜子が飛びついてきた。
はぁ、まったく、この子は本当に自分の置かれている立場がわかっているのだろうか・・・。
まったくの異世界に放り出されて、見ず知らずの家に住み着くなんて、度胸があるなんてレベルじゃない。
ひょっとしたら物凄く大物なのかもしれない・・・。
****
そんなこんなで桜子がこの家の住人になってはや3日。
桜子はホームシックになるどころか幻想郷により一層なじんできていた。
尤も、外に出るのは私が里に買い物に行くときついてくるだけだ。
「暇ー、ひまー、ひまあーー」
そして昨日あたりからこの調子だ。
幻想郷になじむにつれて物珍しさも薄まり、退屈が押し寄せてきたらしい。
ほとんど一日中、この狭い家の中にいれば退屈になるのも無理からぬことだった。
ラヴェンダーがいるときは、魔法の話や占いの話に夢中でおとなしいんだけれど・・・。
「そんな暇なら、家に帰ればいいじゃない・・・」
「ええー、嫌よ!もうあの家には帰らないんだから。ねえ、イルイル?」
イルイルはすでに桜子のペット扱いだった。
ブツブツ言いながらも反抗しないところがイルイルらしい。
うむ、大人だぞイルイル。
「涼古さーん、どこか遊び連れてってよー」
「・・・しょうがないわね」
いくら身の安全のためとはいえ、いつまでもこの家に閉じ込めておくのはさすがにかわいそうだ。
と言っても、強制してるわけじゃないんだけど・・・。
まあそれでもたまには息抜きは必要だろう。
私は万が一に備えて弓を取り、出かける支度を始める。
「え!?どこ連れてってくれるの?」
すでに桜子は目の色を輝かせていた。
まったく、この子はいちいち純粋すぎる。
桜子のストレートな感情表現は常々私を苦笑させる。
「この上よ」
****
そうして私たちは山を登る。もちろん、麓に私の家がある山だ。
この山は里では神山として崇められている。
そのため滅多に登る人はいない。
そのせいもあって、まともな登山道なんてあるわけもなく、文字通り道なき道を掻き分けて、それほど急勾配ではない坂を登る。
と言っても、そこまで木々が濃いわけでもないので、山に慣れている私にはどうってことのない登山道だ。
しかし、桜子には少々きついだろう。
とうの桜子は、それでも文句一つださずに、私に必死についてきている。
せっかくの紅葉の木々を見る余裕がないのはかわいそうだがしかたない。
そして、1時間も経つと、私たちは山頂へ到達する。
「大丈夫?桜子」
「・・・うん、大丈夫」
桜子はそう言うが、手を膝につけて肩で息をしている。
あの革靴だ。靴擦れもしているだろう。
それでも文句一つ言わないで、しっかり私についてきた。
始めはただのわがまま娘だと思っていたけれど、桜子は芯の強い子だ。
ひょっとしたら、本当にこのまま、幻想郷に住み着いてしまうかもしれない。
だが、それはだめだ。
「ほら、見てごらん」
そう言って私は桜子を一番眺めのいい場所に連れて行く。
「うわぁ・・・・・・・・」
桜子は始めに一つ、そう感嘆すると、後は一言も喋らずに山から見える幻想郷の風景に魅入っていた。
当然だった。
幻想郷に住む、この光景を見慣れた私でも、ここから見る景色には毎回感動させられる。
紅く染め上がる山々。
抜けるような澄み切った空。
遠くには人の里が見えて、他は手付かずの自然がそのまま残っている。
その合間を縫うように、ところどころに人の家がある。
私のように妖怪と戦える力を持った人間が住む家だ。
ここは、そんな幻想郷を一望できる、数少ない神山だった。
「綺麗でしょ?」
「・・・・・・うん」
吹き上げる風に、私と桜子の髪が舞う。
「この風景は、この島国に生きる人たちの、心の原風景なのよ」
今でこそ隔離されてしまっているが、幻想郷と外の世界がまだ一つだった時期があったはずなのだ。
そして、そのころの外界は、こんな風景だったはずなのだ。
「魂のどこかで、この風景を知っている。だから今のあなたのように、この光景に心を奪われる」
「原風景・・・・・・」
「でもね・・・」
私は桜子のほうに向きなおす。
ああ、やっぱり、この子は幻想郷に似合いすぎる。
「あなたの原風景は、幻想郷じゃない。桜子には、桜子が生まれ育った町があるでしょう。そこにはあなたの帰りを待つ人たちがきっといる。そこが、あなたの原風景」
外から来た娘は、なにを想う。
桜子はただただ幻想郷の風景に、心を奪われていた。
吹き上げる風に揺らされ、弓の鈴がひとつ鳴る。
****
その翌日。
私は里から、妖怪退治の依頼を受けて、朝からそちらへ向かっていた。
桜子を一人で家に残して。
だが、それがまずかった。
「ただいまーっと」
私は桜子がいるはずの家に帰る。
だが、そこに桜子の姿は無く、
何かが暴れたように、散雑として散らばるテーブルやイスの姿があった。
「・・・・・・・・・桜子・・・?」
呼びかけても、応えるものは今この家にいない。
なんてことだ。
桜子が妖怪に、浚われた――――。
■前書き
※この物語には霊夢や魔理沙と言ったZUN氏の創り上げた人物は一切登場しません。
※幻想郷世界を題材としたシェアドストーリーに挑戦してみました。
※ZUN氏の創り上げた素晴らしい世界観を霊夢達を使わずに表現できるかがテーマです。
※許容できる方だけ、読み進めていただければ幸いです。
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幻想郷外伝 涼古
第四話前編 「家出少女」
夜の幻想郷。
季節はもうすっかり秋で、山々は紅に染まり、雪が一面を白く染めるまでの短い間をせめて色鮮やかに彩らんとしていた。
耳を澄ませば聴こえて来る虫の歌声。
冬を目前にして澄み切った夜空に、月と星が煌煌と輝く。
私は四季の中で一番秋が好きだった。
「・・・涼古」
「ん?なに?」
何故かここ数日、毎日のように我が家に遊びに来るラヴェンダーが、本から顔を上げて私を呼んだ。
遊びに来るといっても、紅茶を飲んでるか、本を読んでるかしているだけなんだけれど。
私の魔法アレルギーも、ラヴェンダーのおかげでだいぶ治ってきたような気がする。
尤も、彼女は魔法使いといっても直接的な魔法は滅多に使わない。
「人間がいるわ。・・・・・・・・・このままだと餓鬼に襲われる」
直接的な魔法が苦手な代わりに、彼女には占いをする能力がある。
時折予言のように少し先のことを言い当てる姿を見ると、なんだかとても神々しく見えるから不思議だ。
初めのうちはいちいち驚いていたけれど、最近はもう慣れっこだった。
「まったく・・・。夜に1人歩きするなんて命知らずな奴もいたものね。どっち?」
ラヴェンダーのおかげで妖怪退治の仕事も前よりずいぶんと楽になっている。
何せ妖怪の居場所や、大体の傾向を全て事前に知ることができるのだ。
「・・・西の方・・・。なんだか様子がおかしい・・・」
私の家からほんの少し東に行くと人間たちが住む里がある。
まあそっちなら人間がいても不思議ではない。
でも西には何もないはずだ。
昼間ならともかく妖怪たちの時間の夜に、1人で出歩いてるなんてよほど訳ありだろう。
「ほっとくわけにもいかないし、ちょっと見てくるわ。イルイル行くわよ」
「はいはい」
私は弓を肩にかけ、ラヴェンダーを家に残して夜の幻想郷へ歩き出した。
****
「しかし、こんな時間に出歩いてるなんていったい何者かしら」
「さあ、自殺志願者か。それともよほど腕に自信があったり」
「だと良いんだけどね」
私とイルイルは月に照らされている幻想郷のあぜ道を歩く。
私たちの足音と話し声、それに鈴の音以外は、虫の鳴き声しかしない静かな夜だ。
だが幻想郷の夜は、その静けさからは想像できないほど危険に満ち満ちている。
妖怪は夜に人間を襲う。
それ故にほとんどの人間は夜に外へ出歩くことはしない。
幻想郷の夜を歩ける人間は、妖怪と対等に渡り歩ける力を持った者だけだ。
そのまましばらく周囲の気配を探りながら歩いていると、月夜の静寂を貫く悲鳴が聞こえた。
私は肩から弓を下げ、悲鳴が聞こえてきた方向へ走り出す。
「涼古、今の声、女の子よ」
「・・・まずいわね」
今の声はどう考えても幻想郷の夜を歩く資格を持った者の声には聞こえない。
全速力で夜の帳を駆け抜ける。
間に合うか?
そして2度目の悲鳴が聞こえた。
さっきより距離は近い。どうやらまだ無事のようだ。
「ッ涼古、あれ!」
前から1人の少女が走ってきた。
少女は肩先まで伸びたブラウンの髪を揺らし、幻想郷ではあまり見慣れないブレザーに、丈の短いスカートを穿いている。
「たっ、助けてー!」
そう叫ぶ少女のほんの少し後ろに、追従するように走る影があった。
不自然に小さい身体、体毛は無く、膨れた腹を躍らせながら4本の手足を使いまるで獣のように走る人影。
あれは餓鬼だ。
私は弓を引いて矢を作り上げる。
「横に避けてッ・・・!」
私の声に呼応するように少女が横に避けた。
瞬間、露になった餓鬼へ矢を射る。
しかし少女ごしに狙いを定めていたため、直撃はせずに餓鬼の前足を吹き飛ばすだけだった。
だがそれで餓鬼は逃げていった。
本能で実力差を感じ取ったのだろう。
もとより餓鬼退治が目的ではないので追撃はせずに尻餅をついている少女の元へ駆け寄る。
「大丈夫?・・・まったく、夜に出歩くなんて命知らずもいいところだわ」
もしラヴェンダーがうちに遊びに来ていなければ、この少女は後数分もしないうちに餓鬼に喰われていただろう。
私は手を差し伸べて少女を立ち上がらせる。
「・・・・・・あ、ありがとう」
少女はスカートに付いたホコリをパンパンと払いながら辺りを見回していた。
見慣れない顔だ。里の人間ではない。
「とにかく、事情はわからないけど、いったん私の家に行きましょう。あまりここに長居するのもよくないわ」
人間の匂いをかぎつけて妖怪がやってこないとも限らない。
私1人ならまだしも、この少女を守りながら戦うのは相手によってはきついかもしれない。
そう判断した私は少女を一度家につれて帰ることにした。
少女は不安そうな顔をしているが、素直に私の後についてきた。
月に照らされた静寂の幻想郷。
聞こえる音は2人の足音と鈴の音だけ。
****
「ただいま・・・っと、良い匂い」
玄関のドアを開けたとたん鼻腔をくすぐるおいしそうな匂いがした。
どうやらラヴェンダーが夕食の支度をしていてくれてるらしい。
ラヴェンダーはああ見えて(というかやっぱりというか)料理がうまい。
ここ最近は、ラヴェンダーが夜まで私の家にいるときは、ラヴェンダーが大体夕食を作ってくれていた。
曰く「涼古に任せると握り飯しかでてこない」とのこと。
まったく、あのふわふわの白いご飯を適量の塩加減で、優しく握ったおにぎりのおいしさがわからないなんてなんて不幸なんだろう。
「お・・・おじゃまします」
私の後に続いて、少女が遠慮がちに入ってきた。
さっきから一言も喋らないでキョロキョロとしている。
餓鬼に襲われたばかりだし、無理もないかもしれない。
「適当に掛けてて。今お茶淹れてくるから」
私はそう言って椅子を指差してラヴェンダーのいる厨房のほうへ歩いていく。
厨房といっても、同じ室内のただ料理が出来る設備のある一角にすぎないけれど。
「・・・おかえり・・・。やっぱり連れて帰ってきたのね」
「そりゃーね。なんだか様子がおかしいし、放っておいたらまた襲われるわよあの子」
ラヴェンダーは長い黒髪を結い上げて、鍋をかき混ぜていた。
私はその横に立って緑茶を淹れる。
すでにお湯は沸いているのできゅうすに注ぐだけ。
ちなみにこの鍋はラヴェンダーが持ってきた物だ。
「シチューにしといてよかった・・・。これなら何人増えても大丈夫だし・・・」
鍋を覗き込んでみると、おいしそうなシチューが煮えていた。
まだ私が家を出てから30分ほどしか経っていないのに、すでに数時間煮込んだように見えるのは何故だろうか・・・。
まあラヴェンダーのやることにいちいち驚いてたらきりが無いことを学習済みなので不問。
ラヴェンダーは直接的な魔法が苦手な変わりに、生活の小技的な魔法をよく使う。
きゅうすから湯のみにお茶を注いで少女の待つテーブルへ戻る。
少女は椅子に座って相変わらずキョロキョロと周りを見回していた。
「お待たせ」
少女の前にお茶を置いて私もテーブルに腰掛ける。
「あ、ありがとう」
言って少女は湯飲みを取って一口啜った。
私もお茶を飲む。
最近の幻想郷は夜になると冷え込んでくるので、暖かいお茶がおいしい。
「あの・・・、ここはいったい、どこ?」
少女が私を見つめてそう尋ねてきた。
あれ、私の家に行くって言わなかったっけ・・・。
「え?私の家だけど」
「いえ、そうじゃなくてっ・・・。場所は?いったいどこなんですか?」
場所?
私の家がある場所を聞いているのだろうか。
「人間の里のすぐ近くの山の麓よ。幻想郷には人間が住む里なんていくつもないからわかるでしょ?」
少女はお茶を一口飲んで、顔を傾ける。
言っていることがわからないとでも言いたげな表情だった。
そうして、少女は口を開いた。
「幻想郷って・・・・・・・・・どこ?」
****
話を整理しよう。
少女の名前は佐倉桜子。年は16。
桜子は、朝いつものように学校へ行って、いつものように帰宅。
そして母親とケンカをして、家を飛び出してきた。
要するに家出だ。
行く当ても無く、夕暮れ時の町を歩いていて、気が付いたら日が落ちて当たり一面真っ暗になっていたという。
そして餓鬼に襲われて、私に助けられて現在に至る。
・・・・・・・・・早い話、幻想郷の外から、迷い込んできたらしい。
幻想郷と外界を繋ぐ結界が、何らかのはずみで歪んで、外界の人間が迷い込んでくることは間々あることだ。
そういった人たちは、気の毒だがほとんどが妖怪に喰われてしまうが・・・。
「にしても信じられない!幻想郷?うわー、すごいファンタジーだわ!」
桜子は自分の置かれている状況をきちんと認識すると、とたんに緊張が解けたのか騒がしくなった。
もともと活発的な性格なんだろう。
初めは疑っていたが空をパタパタと飛んでいるイルイルを見て信用したらしい。
たまにはイルイルも役に立つもんだ。
「あのねえ・・・。あんた、もう少しで妖怪に喰われるところだったのよ?よくそんなのんきなこといってられるわね」
そのイルイルがそう言う。
「それはそうだけどさ、私、小さいころからこういうファンタジックな世界に憧れていたのよ。感動~」
桜子はイルイルをしげしげと眺めながらうっとりとしている。
そうこうしているうちに、ラヴェンダーがお盆に人数分のシチューをのせてやってきた。
「おまたせ・・・・・・」
ラヴェンダーはテーブルにシチューを盛り付けると、髪を結い上げていたリボンをしゅるりと外して椅子に座る。
「わあ、おいしそう」
「・・・・・・いただきましょう」
そうしてなんだかよくわからないままラヴェンダーの作ってくれたシチューを3人(と1匹)で食べ始めた。
騒ぎの元凶はよほどお腹がすいていたのは一目散にシチューを啜っていた。
そういえばこんな大人数で食事をするのは久しぶりだ。
「ああ、紹介しとかないとね。この黒いのはラヴェンダー、魔法使いよ。そいで、こっちの人騒がせなのは桜子」
ラヴェンダーは無口だし、桜子はあまり細かいことは気にしなさそうなタイプだ。
ほおっておいたら互いの名前を知ることは無さそうだったので、いちおう、2人を紹介しておく。
すると桜子はスプーンの動きを止めてラヴェンダーを見つめた。
「ま、魔法使いぃ!?まじ?本物?」
「・・・・・・・ええ」
どうやら魔法使いという点が桜子にとって非常にツボだったようできゃあきゃあと興奮している。
ラヴェンダーはラヴェンダーで相変わらずマイペースだ。
結構いいコンビかもしれない。
「うわー、感動だわ!よろしくね、ラヴェンダーさん。・・・・・・魔法使いとお友達になっちゃった!」
「・・・・・・よろしく・・・」
桜子がラヴェンダーに嵐のように質問をして、ラヴェンダーはシチューを上品に口に運びながらボソボソと答える。
私はなんとなくその光景を眺めていた。
今日の夕食は突然の訪問者のおかげでいつもの3倍は賑やかだった。
****
食事も終わり、私たちは食後の紅茶を飲んでいた。
「それで、これからについてだけど・・・」
まず何より桜子のこれからのことを決めなければなるまい。
本当は食事中に話をしようと思っていたが、いつのまにか会話の主導権を桜子に握られていたので切り出すことができなかった。
「ラヴェンダー、外の世界へ帰る方法ってあるの?」
ここが一番の問題だ。
いくら家出してきたとはいえ、幻想郷へ移り住むわけにもいかないだろう。
家族だって心配しているに違いない。
「・・・・・・あるわ。博麗神社の大結界が、外界へ通じているから、あそこの巫女に事情を話せば通してくれるでしょう」
博麗神社と言うのは幻想郷と外界の境界にある神社で、幻想郷と外界を分かつ結界があるところだ。
「なら安心ね。今日はもう遅いから、明日にでも神社まで連れてってあげるわ」
時間も時間だし、さっき襲われたばかりの人間をまた夜の幻想郷へ出すわけにも行くまい。
明日、朝一番にでも神社に行けば問題ないだろう。
「ええええええーーー!!やだやだやだ!あんな家絶対帰らないんだから!私、幻想郷で暮らす!!」
なんて、桜子はとんでもないことを言い始めた。
「あのねえ・・・そういうわけにも行かないでしょう・・・。家族の人だって心配しているし、それにさっきだって妖怪に襲われたばかりじゃない」
しかし、桜子は嫌だ嫌だの一点張りだ。
まったく、困ったもんだ・・・。
「はぁ・・・。ラヴェンダー、どうする?」
「・・・・・・なんで私に振るの・・・。ま、3日もすれば気が変わるんじゃないかしら・・・」
確かに、今は珍しがって興奮しているが、3日もすれば家が恋しくなるかもしれない。
外の世界がどんなもんかは知らないけど、少なくとも外で生きてきた人間が幻想郷で暮らしていけるとも思えない。
無理に追い出すわけにも行かないし、はぁ、仕方ないか・・・。
「・・・わかったわ。桜子、気が済むまでこの家にいなさい」
「え!いいの!?」
桜子は目を輝かせて身を乗り出してくる。
「ただし、条件。絶対に勝手に外に出ないこと。特に夜は絶対よ」
「うん、わかったわ。絶対守ります。ありがとー!涼古さん!」
そう言って桜子が飛びついてきた。
はぁ、まったく、この子は本当に自分の置かれている立場がわかっているのだろうか・・・。
まったくの異世界に放り出されて、見ず知らずの家に住み着くなんて、度胸があるなんてレベルじゃない。
ひょっとしたら物凄く大物なのかもしれない・・・。
****
そんなこんなで桜子がこの家の住人になってはや3日。
桜子はホームシックになるどころか幻想郷により一層なじんできていた。
尤も、外に出るのは私が里に買い物に行くときついてくるだけだ。
「暇ー、ひまー、ひまあーー」
そして昨日あたりからこの調子だ。
幻想郷になじむにつれて物珍しさも薄まり、退屈が押し寄せてきたらしい。
ほとんど一日中、この狭い家の中にいれば退屈になるのも無理からぬことだった。
ラヴェンダーがいるときは、魔法の話や占いの話に夢中でおとなしいんだけれど・・・。
「そんな暇なら、家に帰ればいいじゃない・・・」
「ええー、嫌よ!もうあの家には帰らないんだから。ねえ、イルイル?」
イルイルはすでに桜子のペット扱いだった。
ブツブツ言いながらも反抗しないところがイルイルらしい。
うむ、大人だぞイルイル。
「涼古さーん、どこか遊び連れてってよー」
「・・・しょうがないわね」
いくら身の安全のためとはいえ、いつまでもこの家に閉じ込めておくのはさすがにかわいそうだ。
と言っても、強制してるわけじゃないんだけど・・・。
まあそれでもたまには息抜きは必要だろう。
私は万が一に備えて弓を取り、出かける支度を始める。
「え!?どこ連れてってくれるの?」
すでに桜子は目の色を輝かせていた。
まったく、この子はいちいち純粋すぎる。
桜子のストレートな感情表現は常々私を苦笑させる。
「この上よ」
****
そうして私たちは山を登る。もちろん、麓に私の家がある山だ。
この山は里では神山として崇められている。
そのため滅多に登る人はいない。
そのせいもあって、まともな登山道なんてあるわけもなく、文字通り道なき道を掻き分けて、それほど急勾配ではない坂を登る。
と言っても、そこまで木々が濃いわけでもないので、山に慣れている私にはどうってことのない登山道だ。
しかし、桜子には少々きついだろう。
とうの桜子は、それでも文句一つださずに、私に必死についてきている。
せっかくの紅葉の木々を見る余裕がないのはかわいそうだがしかたない。
そして、1時間も経つと、私たちは山頂へ到達する。
「大丈夫?桜子」
「・・・うん、大丈夫」
桜子はそう言うが、手を膝につけて肩で息をしている。
あの革靴だ。靴擦れもしているだろう。
それでも文句一つ言わないで、しっかり私についてきた。
始めはただのわがまま娘だと思っていたけれど、桜子は芯の強い子だ。
ひょっとしたら、本当にこのまま、幻想郷に住み着いてしまうかもしれない。
だが、それはだめだ。
「ほら、見てごらん」
そう言って私は桜子を一番眺めのいい場所に連れて行く。
「うわぁ・・・・・・・・」
桜子は始めに一つ、そう感嘆すると、後は一言も喋らずに山から見える幻想郷の風景に魅入っていた。
当然だった。
幻想郷に住む、この光景を見慣れた私でも、ここから見る景色には毎回感動させられる。
紅く染め上がる山々。
抜けるような澄み切った空。
遠くには人の里が見えて、他は手付かずの自然がそのまま残っている。
その合間を縫うように、ところどころに人の家がある。
私のように妖怪と戦える力を持った人間が住む家だ。
ここは、そんな幻想郷を一望できる、数少ない神山だった。
「綺麗でしょ?」
「・・・・・・うん」
吹き上げる風に、私と桜子の髪が舞う。
「この風景は、この島国に生きる人たちの、心の原風景なのよ」
今でこそ隔離されてしまっているが、幻想郷と外の世界がまだ一つだった時期があったはずなのだ。
そして、そのころの外界は、こんな風景だったはずなのだ。
「魂のどこかで、この風景を知っている。だから今のあなたのように、この光景に心を奪われる」
「原風景・・・・・・」
「でもね・・・」
私は桜子のほうに向きなおす。
ああ、やっぱり、この子は幻想郷に似合いすぎる。
「あなたの原風景は、幻想郷じゃない。桜子には、桜子が生まれ育った町があるでしょう。そこにはあなたの帰りを待つ人たちがきっといる。そこが、あなたの原風景」
外から来た娘は、なにを想う。
桜子はただただ幻想郷の風景に、心を奪われていた。
吹き上げる風に揺らされ、弓の鈴がひとつ鳴る。
****
その翌日。
私は里から、妖怪退治の依頼を受けて、朝からそちらへ向かっていた。
桜子を一人で家に残して。
だが、それがまずかった。
「ただいまーっと」
私は桜子がいるはずの家に帰る。
だが、そこに桜子の姿は無く、
何かが暴れたように、散雑として散らばるテーブルやイスの姿があった。
「・・・・・・・・・桜子・・・?」
呼びかけても、応えるものは今この家にいない。
なんてことだ。
桜子が妖怪に、浚われた――――。
この単語を軽々使ってしまっては「世界観を霊夢達を使わずに表現できるか」
という挑戦の意味が薄れます。
言葉に頼らず、これが「幻想郷」のお話である必然性を感じさせて欲しい。
今、この作品は東方SSたり得るか否かの分水嶺にあると感じます。
なるべく期待に沿えるようがんばりますので、どうか最後まで書き切らせてください
今後もご意見をよろしくお願いします
幻想郷の主要人物を登場させないという事らしいですが、
個人的にはちょい役で霊夢達が出たりしても面白いんではないかと思われます。
続編、期待しております。