Coolier - 新生・東方創想話

中有に少女達のアルカディア (5)

2004/12/18 00:47:17
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「ご無事で!お怪我はありませんか?!」
 抱き締めていた手が緩むと、フランドールは半分だけ振り返ってメイドの少女を見やった。そこには、いつもの無邪気な笑みが変わらずに浮かんでいる。
 まるで、何に対してそう訊ねられているのか理解できていないように、僅かに首を傾げるフランドール。それを見て、少女は安堵を浮かべ、
「…愚問でしたわね。私ったら、取り乱したりして。」
 と苦笑混じりに呟いた。
 そこへ、
「さーすがフラン様。心配なんかしたあたしらが馬鹿みたいですねー。」
 と、とぼけた調子で同じ感想を言いながら、もう一人のメイドの少女が、さっき拾い上げた本を片手に歩み寄った。そして、フランドールに親指を立てると、片目を瞑って笑う。
 フランドールもそれに応え、親指を立てると、白い歯を見せて笑った。何のことかやっぱり分かっていない様子だが、多分、そんなことはどうでもいいのだろう。
 そして二人は拳を作って合わせる。
 まるで今まで殴り合いの喧嘩でもしていたような仕草だったが、この元気なメイドとフランドールとは気が合うらしい。
 二人の間にあるものは、主従関係という絶対的ながらも無機質な間柄に過ぎない筈だが、まるで姉妹のように見える。隣で穏やかに笑いながら見守る少女にも、同じ事が言えた。
 メイドの少女は、二人とも持っている雰囲気こそまるで違うが、その笑みはそっくり同じだった。
 それは、封建社会のような対価を前提とした利害関係に基づく主従でもなく、何らかの要因で隷属を強制する主従関係でもないからなのだろう。
 紅魔館には給金は無いし、フランドールはその気になれば人間を強制的に隷属させる方法──”人間としての”致死量まで血を吸い上げることだ──も持ち合わせているが、それを行使したわけでもない。
 強いて例えるなら、純粋に恩顧関係のみに基づいた主従だと言える。いや、そのような概念的な枠組みで括る事さえも、難しいように思われる。

 異形の怪物に真っ直ぐ突っ込んでいった二人に、命が惜しくないのかと尋ねたら、きっと二人ともこう答えたことだろう。
「もちろん。」
 そして二人とも、その答えに満面の笑顔を添えて、嘘偽りの無い本心であることを証明してくれるに違いない。
 今、愛すべき主の姿に、晴れやかな笑みを向けているように。


 呆然と佇んでいた小悪魔はようやく我に返る。
 あまりに巨大な魔力に当てられたこともあるのだが、それよりも信じられなかった。
 二人のメイドは、急な夕立に家路を急ぐかのように、降り注ぐ魔法弾の中をまったく怯むことなく走っていったのである。その身体能力は、小悪魔の想像以上のものだった。
 しかし、一歩間違えれば確実に命を落としていた筈なのに、なぜそう笑っていられるのか疑問で仕方がない。
 それを振り払って、状況を何とか把握しようとする。
 館内は、椅子が倒れた程度で、後は普段と変わっている所は見当たらない。フランドールが本気ではなかったこともあるだろうが、貴重な文献を守る為に配置された防衛設備は、驚くほど堅牢だった。
 今度は表情を引き締めて、小悪魔は二人のメイドと笑い合っているフランドールの元へと歩み寄る。
「ちょっとあなた、どういうつもりですかっ!あんな──」
 言いかけて、小悪魔は声にならない悲鳴を短く上げて言葉を詰まらせた。
 ほんの僅かな時間だったが、異常な程の殺意が漲った目で、二人のメイドがこちらを睨み付けたからである。しかも、もう当然のようにぴったりと息が合っている。
 説明するまでもなく、それ以上言うなという意思表示だ。
 先程までの笑顔はどこへ行った。
 小悪魔は唾を飲み込むと、もう一度口を開く。
 それでも続けようとしたのは、図書館の秩序を守るという彼女の使命感が突き動かした結果なのだろう。それは賞賛に値するだろうが、少々愚かしいと言える。
「助けてくれたことは礼を言います。…ですが!!図書館であんなに凄い魔法を──」
 そこまで言った所で、小悪魔は短く呻くと、崩れそうになった身体をすんでのところで何とか堪えた。
 後ろから、穏やかな笑みと共に延髄に手刀の一撃。前からは、勝気な笑いと共に鳩尾に肘。二人のメイドは、俊敏かつ鮮やかな連携で小悪魔の口を封じた。
 というかこの二人、まったく対照的な性格のように思えて、やっぱり絶妙のコンビネーションだ。流石は腕利き揃いのメイド達の一員、伊達に紅魔館に勤めてはいない。
「ああーっと!!すいません、フラン様は図書館は初めてですよね。」
「まあ、そうでしたわ。フランドール様には今までご案内する機会がありませんでしたものね。」
 強引かつ白々しく、話の流れを変えにかかる二人。そこでようやく、痛いのを我慢していたちょっと鈍感な小悪魔も重大な事に気が付く。
 自分よりもさらに背の低い、真っ赤なドレスの可愛らしい少女。
 赤を纏えるのは、この館では二人しかいないのではなかったか。そのうちの一人は、言うまでもなく館主であるレミリア・スカーレットだ。
 改めて少女の姿を見やる。
 紅玉のように鮮やかな真紅の両眼に、背中には二枚の翼。そして、先程の尋常ではない凄まじい魔力──。
「ま、まさか…レミリア様の妹様──フランドール様ですか?」
 小悪魔が恐る恐る訊ねると、
「気付くのが遅いよ…。この館の者なら、赤い服を着ている方がどなたなのかすぐに分かるだろうにさぁ…。」
 と、蜂蜜色の肌をした少女は呆れたように呟き、小悪魔の身体から一歩離れた。
 つまり、それまではいつでも一撃で落とせる位置に立っていたということなのだが、そんなことはどうでもいいとして。
「そんな危険な本を放置しているなど、管理不行き届きなのではありませんか?」
 同様に一歩離れて、長い髪の少女も横目で小悪魔の姿を見ながら、鼻白むようにそう口にする。
 いつでもどこでも、隙なく無駄なく容赦なく、腕利き揃いのメイド達は緻密で華麗な連携を見せるのだ。
「あうう…。」
 反論の余地が無い言われ様に、小悪魔は肩を落としてうな垂れた。

「──で!あなたは誰?お姉様のお友達??」
 会話が途切れたところで、それまで参加できなかったフランドールが急に問い掛けると、小悪魔はまたも重大なことを思い出し、畏まって一礼した。
「失礼しました、フランドール様。…私は、このヴワル魔法図書館の司書を務めている──ええと、その…位階が低いので名前とかはないんですけど…。」
「お姉様と仲良しなの?その翼、お姉様のものにそっくり。」
「あー、いえ、私はパチュリー様にお仕えしている身で…、ええと…。」
 小悪魔はどう説明したらいいのか良く分からない。
 彼女は、この図書館の管理責任者であるパチュリーに召喚された身であり、レミリアに直接仕えているわけではないからだ。
 加えて、パチュリーはレミリアとは友人同士であり、立場的には仕えているわけではない。小悪魔としては、この図書館を含む紅魔館そのものを支配しているレミリアに敬意は払っても、服従する理由は無いというのが本音なのだ。
 だが、それはあくまで本音であって、もちろんそんなことが許されるわけがない。
 彼女達、闇に生を受けた悪魔の階級構造はそれはもう絶対的なもので、生まれてから滅ぶまで変わることがない。下が上に逆らうなど、それこそ天地が引っくり返っても決して許されないのである。
 そうでなくとも、彼女が最も苦手としている、レミリアの側近侍従達がそれを見逃すはずがないのだ。
 ちょっとでもレミリアのことを悪く言おうものなら、どこからともなく現れて拉致られた上に、人気の無い所でよってたかっていいようにおもちゃにされてしまう。
 特にレミリアの側近中の側近、筆頭侍従であり、メイド長を兼任している咲夜ときたら──。
(ああっ!やだー!あんな目に遭うのはもうやだー!!)

「ねー!どうなの?」
 急にフランドールに話し掛けられて、恐ろしい回想──というか妄想──は中断した。
 ちょっと考え込むと、そのままずるずると深みにはまって行くのが小悪魔の悪い癖だ。おかけで、今日のように仕事をしている時でも手が止まることがしばしばで、能率の悪いことこの上ない。
「…ああ、いえいえ!私のような下級の悪魔がレミリア様と仲良しなど畏れ多い…。レミリア様は、よくこの図書館にお越しになられますが。」
「そうなの?お姉さまがよく来るなら、私もここに来ようかなぁ?──でも、すっごい図書館だね~。」
 フランドールの一言に、小悪魔はぱっと顔を輝かせた。
「そうですとも!ここは幻想郷はもちろん、世界はおろか多元宇宙でも有数の大図書館なのですよ。」
 えっへん、と胸を張る小悪魔。
 別に彼女の業績ではないのだが、司書としての使命感溢れる彼女の茶目っ気だと思って、大目に見てやって欲しいところだ。
「何かお探しの本があれば、私がご案内しますから。なにしろ、奥のほうは地図がないと迷っちゃいますし、ロープが張ってあるところから先は探索中なので、何が起こるか分かりませんし。」
 深くは突っ込まないようにしておこう。責任者ですら、蔵書の全部を把握しているとは言えないのだ。
「さっきみたいな、面白い物が出てくる本はもっとないの~?」
「と、とんでもない!あれは私の管理が不徹底だった落ち度もありますが、本来は鍵をかけて厳重に管理しておくんです。勝手に持ち出してはいけません。」
「えー、つまんなーい。」
 フランドールは拗ねたように頬を膨らませる。が、すぐに笑顔に戻ると、
「でも、こんなに広いところがあるなんて知らなかったよ~。ここならみんなで遊べるし、私のお気に入りもお姉様に見て頂けるわ。」
 と、ぱたぱたと翼を羽ばたかせながら飛び上がった。

 ここに至って、小悪魔はようやく気が付く。

 フランドールは、図書館の本に驚いたり喜んだりしているのではなく、回廊よりも高さがあり、なおかつ強力な魔法設備を多数備えている、お気に入りの遊びを繰り広げるにうってつけの場所が新たに見つかったことに喜んでいるのだ。

  -10-

「ちょっとお待ち下さい!図書館では魔法は禁止なのです!そこにも書いてあるでしょう!」
 そう言って、小悪魔は整理済みの蔵書の目録カードが収められた、小さな抽斗がたくさん並ぶ棚を指差す。
 そこにあった貼り紙には、『館内では静かに、火気厳禁、魔法禁止、飛行禁止』と書かれており、さらにその下に『手品も禁止!』と、付け加えるように赤い字で殴り書きがされていた。誰に宛てて書かれたものかは説明するまでもない。
 ちなみに、全蔵書の目録が完成するのは五百年後の予定である。
「ええー、そんなのつまんないよー。」
 フランドールは、またもあからさまに不満の色を浮かべた。
「規則で定められているのですから、いくらフランドール様でも譲れません。」
 小悪魔がそう強い調子で言うと、成り行きを見守っていた二人のメイドもさすがに黙っているわけにいかず、再度その口を封じようと動く。
 ──いや、動こうとしたのだが、驚きの表情と共にその足が止まった。
 正確には、止めざるを得なかったのだ。
 フランドールが、二人のほうは見ずに軽く手を挙げて制止したのである。
 ここ紅魔館では、レミリアの意向の次には当然フランドールの意向が尊重されるのだが、彼女がそのような形で意思を伝えるのは極めて異例のことだった。
「だって、さっきあなただって魔法を使ったじゃない。自分は魔法を使ったのに、私はダメなんておかしいよ。」
「そ、それは緊急事態の為、やむを得ない処置でした。それに、私は実際に発動させたわけではありません。」
 その言い分は屁理屈もいいところで、著しく説得力を欠いている。フランドールの顔に、ますます不満の色が濃くなった。
 それを見るや、メイドの少女二人は顔を見合わせて眉をひそめ、さらに肩をすくめる。
 いつも素直で元気いっぱい、誰に対しても笑顔を絶やさないフランドールが、そこまで不機嫌そうな表情を覗かせるのも異例中の異例である。
「とにかく!駄目なものは駄目なんです!ここの規則なんですから、フランドール様でも従って頂きます!!」
 そう宣言した小悪魔の姿に、二人のメイドは揃って手で顔を覆うような仕草をした。
 彼女がパチュリーに心酔しているのは先刻承知だったが、フランドールをないがしろにする程まで向こう見ずだったとは、まったく予想外だ。というか、先程の魔法の技を見て、まだそんな台詞を吐けるあたりが大物を予感させる。
 図書館の秩序を守るという彼女の司書としての使命感が、西から日が昇るようなことがあっても決して覆ることのない筈のヒエラルキーに逆らい、位階の高い同族相手に真っ向からそう言わせたのだろう。
 恐らく、眼前にレミリアがいても同じ事を言っていたに違いない。
「う~~~」
 フランドールは、まるで子犬が唸るように怒気を含んだ不満の声を上げる。
 それ以上、この無礼な小悪魔に問答は不要と感じたのかもしれないが、たぶん言い負かすための語彙を持ち合わせていないだけ、というほうが可能性大だろう。
 その様子を見て、二人のメイドは顔を見合わせて頷くと、
「フランドール様、あたしは仕事が残っているので、すいませんけど失礼します。」
「私もそろそろお仕事に戻らなくてはなりませんので、申し訳ないのですが失礼致します。」
 と口を揃えた。
「そう?それなら行っていいよ、私はもう少しここにいるから。」
 興味なさそうに一瞥してフランドールがそう告げると、二人のメイドの少女はお辞儀をしてから、全速力で風のように階段を駆け上がって図書館から出て行った。
 呆然とそれを見つめていた小悪魔は、急に情けない顔になる。
 制止する二人に歯向かってまで我を張ったというのに、まさかこの局面で紅い悪魔の妹をなだめてくれるとでも期待していたのか。
 もしそうだとしたら、虫の良すぎる話だ。

 フランドールの身体が宙に浮かぶ。そして、おもむろにポケットに手を突っ込むと、赤いカードを一枚取り出した。
 それを見て小悪魔は顔を引きつらせるが、いつこうなってもおかしくないやり取りが繰り広げられていたのに、少々遅かった位である。
 まさかその覚悟も無かったとは、無謀というか向こう見ずというか、実に愚かしい。

 でも、ここに至っては、もう今さら後戻りなんてできるわけがない。
 踏み込んだら最後、やり直しの効かない一本道。
 出口目指して駆け抜けるしかない弾幕遊戯。

 赤い光の輪がフランドールの身体を取り巻くように現れ、スペルカードが発動の準備に入ったことを示す。
 小悪魔は奥歯を噛み締めて、毅然とした表情で宙を漂うフランドールの顔を見据えた。


 突風のように魔力の奔流が吹き上がる。
 ゆっくりと、フランドールが風に身を任せるように両腕を上げると、その背中のあたりから輝く光球が天井に向けていくつも放たれた。
 一際巨大な光球を中心に、たくさんの小振りの光球を引き連れるようにして、高い天井へと駆け昇って行く。
 風に舞うシャボン玉の親子のようだ。

 だが、天井に到達した大小の光球は、そこで儚く壊れて消えたりはしない。
 まるで光が反射するように、今度は真下に急峻な角度を描いて降り注ぐ光球の群れ。

「くっ…!!」
 小悪魔は紙一重のところを、身体を捻るように飛び上がってくぐり抜けた。
 直後、光球が床に着弾し、閃光と共に衝撃波が吹き上がる。
 間髪を入れず、フランドールは半回転して両腕を水平に突き出した。
 その手の先から三つずつ、またも巨大な光球が生まれると、小さな光球を引き連れて、左右の書架目掛けて弾き出されるように飛び出していく。

 空中で小悪魔が体勢を立て直したのと、第二波の光球の群れが壁のようにそびえ立つ書架に当たるのは、ほぼ同時だった。
 狙い済ましたように、左右の光球の群れが運動のベクトルを逆方向へと反転させ、挟み込むように襲い掛かる。
 翼を翻して後ろに飛ぶと、彼女の目鼻をかすめるように光球が交差し、それぞれ反対側の書架に激突して爆炎を上げた。

 まるで宙に踊っているように、フランドールが腕を振り上げる。
 第三波。
 閃光が煌くと、泡のように湧き上がった大きな光球が、無数の小さな光球を引き連れて、放物線を描きながら降り注ぐ。
 続け様にフランドールが腕を振り下ろすと、彼女の下に向かって一斉に第四波となる光球の群れが走り、床に浅くバウンドすると、すくい上げるように小悪魔めがけて殺到する。
 その轟音が咆哮なら、襲い掛かる獰猛なエネルギーは、小悪魔を噛み砕かんとする猛獣の牙か。
 左右に続けて上と下。
 まさしく十字砲火だ。

 だが、それほど力は無いといっても、仮にも悪魔の眷族である。動態視力と反射神経は、人間のそれを大きく上回っている。
 悪魔の少女は、膝が胸にくっつくくらいまで身体を丸め、斜め上目がけてくるくると回るように突っ込んで行く。
 自殺行為のように思われるが、そちらのほうが間違いだ。
 後ろに動ける空間が無ければ、これほどの弾幕を避けることなど不可能である。
 後ろが壁では、そちらに退いて避けることができず、回避運動が大幅に制限されてしまうのだ。

 間隙を縫うように、腹を括ってそこへ飛び込む。
 息を止めて。
 目を瞑るな。
 そして最後は祈れ。

 文字通り、針の穴を通すような空中のアクロバット。
 抜き身の刃が肌をかすめるような感覚。
 落下する光弾の切れ目を絶妙なタイミングですり抜け、即座に脚を大きく開いて、下から迫る光弾を飛び越えるようにくぐす小悪魔。
 上下が入れ替わった光弾の群れは、それぞれ天井と床で炸裂し、眩い光を撒き散らした。


「すごい、すご~い!!」
 フランドールは手を叩いて歓声を上げた。
 よもや、自分の魔法を全部避けられる者とこんな所で出会えるなんて、想像もしていなかったのだろう。さっきまでの不機嫌そうな表情とは打って変わって、いつもの天真爛漫な笑顔がフランドールに戻る。
 だが、対する小悪魔は額に汗を浮かべ、厳しい表情を崩していない。
 まあ、当然と言えば当然である。自業自得のような気もするが、白刃を踏むような思いでフランドールの魔法の中を飛んだのだ。並の神経でできることではない。
 もちろん、フランドールに言い返した時点で、並外れた神経の持ち主であることは既に周知と言えよう。
 そこで笑い返したら間違いなく大物なのだが、残念ながら彼女はその全く逆を行った。
「ううう~…静かにしなくちゃいけない図書館でなんてことを…!これ以上は、たとえフランドール様でも看過できません!」
 人差し指を向けて宣言する小悪魔。
 機嫌が直ったところで、素直に謝っておけばこれで済んだのかもしれないが、図書館を神聖視する小悪魔にとってフランドールの狼藉は許し難い。
 例えそう思っても、顔で笑って心で泣いて、というのが大人の分別というものだが、彼女はまだまだ子供だった。

 いや──小悪魔もまた、フランドールと同様に純粋すぎたのだ。

 となると、もう怖いもの知らずである。
 フランドールは目を細めてせせら笑う。
「どうするの?」
 せっかく見つけた遊び相手、ここで終わりにしては勿体無い。
 そんな思惑が読み取れる不敵な笑いは、挑発以外の何物でもなかった。おそらく、謝った所でフランドールは笑顔のままそれを許しはしなかっただろう。
 その挑発を無視したのか、それとも気が付かなかったのか、小悪魔は言葉では答えず、代わりに胸のポケットから一冊の手帳を取り出した。使い込まれた感じのする、皮製の手帳である。
 フランドールが僅かに眉を上げる。
 小悪魔が、ページの間に挟まっていた物を取り出すと、掲げて見せたのだ。
「図書館とは、先人の英知を守り、それに学ぶための場所です!──わ、私だって、ここに来てからたくさん勉強したんですからっ!!」
 それを聞いてフランドールは、幼い顔に不似合いなその不敵な笑いをより一層大きくすると、舌で唇を軽く濡らした。
 小悪魔は顎を僅かに引いて悪魔の妹を見返す。
 両脚から螺旋を描いてせり上がる魔力の渦が、その身体の周りに赤い魔力紋様を生み出してゆく。やがてそれは、小悪魔の身体を巡る円環へとその姿を変える。

 言って聞かぬなら、実力行使。
 踏み込んだら最後、やり直しの効かない一本道は、どちらから入っても同じ事。
 赤い光は戦いの狼煙。
 いや、華やかな少女達の戯れの時間を告げる時計の鐘か。

 小悪魔の手には、光り輝く一枚のカードが収まっていた。

(つづく)
すいません(まだ言うか)。

でも、私の中のフランドールはこんな感じの子です。

完全に当初の予定を見失ったまま、勝手な解釈と独自設定でお届けして参りましたが、書いてみたら前作以上に長くなってしまいました。
そして、東方弾幕風スクリプトまで作った(本当)、小悪魔のスペルカード。ここまでやっておいて一体どこで落とすつもりなのか、なんだかやり過ぎのような気もしてきましたが、やってしまったからには最後まで行きたいと思います。
何か怒られそうで、ちょっと内心ビクビクしていますが…オリキャラ否定派の方々には申し訳ないです。

お読み下さっている皆さん、いつもありがとうございます。今さら何も言いませんので、どうぞ最後までお付き合いください。
MUI
[email protected]
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コメント



0.2220簡易評価
7.60名前が無い程度の能力削除
弾幕に突っ込んでいく小悪魔の決意は、まさしく東方シューター。
前回がヤマだと思っていたらいい意味で裏切られました。さすがEXステージは長い!w
10.60おやつ削除
子悪魔かっこいい…!!
私も打倒妹様を目指す者の一人として、この戦いは見逃せません。
子悪魔の下克上は、まさに私の未来のテストケース!!
25.60とっきー削除
相変わらず話の強弱のつけ方が凄いと思いました。一転して穏やかな雰囲気になったかと思えば、再び弾幕。そしてさらに展開しますか!
その場に居合わせたかのような臨場感溢れる描写がお見事です。もちろん、最後まで見届けますよ。

>人気の無い所でよってたかっていいようにおもちゃにされてしまう。
>(ああっ!やだー!あんな目に遭うのはもうやだー!!)
この部分がものすごく気になります(笑)。