Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷外伝 涼古 第三話

2004/12/11 07:47:38
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■前書き
※この物語には霊夢や魔理沙と言ったZUN氏の創り上げた人物は一切登場しません。
※幻想郷世界を題材としたシェアドストーリーに挑戦してみました。
※ZUN氏の創り上げた素晴らしい世界観を霊夢達を使わずに表現できるかがテーマです。
※許容できる方だけ、読み進めていただければ幸いです。
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幻想郷外伝 涼古

 第三話 「午後のティータイム」






「へぇ~、びっくり。紅茶なんて普通においてあるんだ。知らなかったな」

私はお茶を切らしていたことを思い出して、里の御茶屋まで来ていた。
すぐ戻る予定だったからイルイルには留守番させておいたけど、これなら連れて来てあげればよかったかもしれない。
今までは気にも留めていなかったけど、御茶屋は緑茶の葉だけではなく、様々な種類の葉が売られていた。
ビンに入れられて、様々な色の葉っぱが並んでいるのは、見ているだけで楽しい。

「珈琲なんてのもあるよ、涼古ちゃん」

店のお婆ちゃんがそう言って豆の入ったビンを指す。
この間ラヴェンダーの家で飲んだ紅茶がおいしかったから、紅茶に興味を持っただけで、別に珈琲に興味は無かった。
紅茶はおいしいと思うけど、珈琲は苦いだけだ。

「いらないよ。苦いんだもの。それより、紅茶もくださいな。代金はつけといてね」

「はいはい、わかってますよ。里の守り神だからねえ、涼古ちゃんは」

そう言ってお婆ちゃんは、上品に笑う。
こんなにたくさんのお洒落な紅茶を扱う店の店主だ、若いころは上品で綺麗だったに違いない。

「それで、どの葉にするんだい?」

「うーん、よくわからないから、適当にお勧めのを見繕ってよ」

「はいはい。・・・そういえば、さっきまで広場のほうに占い師がいたみたいだよ」

お婆ちゃんはビンの中から葉を摘み、小瓶に詰め替えながらそう言った。

「へえ、占い師?」

「たま~に、里にふらっと現れて、お金を取って占いをしていくんだけど、必ず当たるってもっぱらの評判さ。涼古ちゃん、知らなかったのかい?」

「全然。あまり興味ないもの」

占いもつまるところ魔法のようなものだ。やはりあまり好きじゃない。
他人に未来を言われるのは、気持ちのいいものではない。
でも里の人たちは占いが好きだ。
昔からありとあらゆる方法で、農作物の出来具合や、疫病の危機などを占ってきている。
もうこの里の人たちと占いは、切っても切れないものなんだろう。

「もうどっか行っちゃったみたいだけどね・・・。はい、これ。おいしいよ」

そうして私は、お婆ちゃんから緑茶と、お勧めの紅茶の入った袋を受け取り、お礼を言って御茶屋を後にした。
そうだ。せっかく紅茶を買ったんだから、お洒落なティーカップでも買っていこう。

私は、あの道具屋へ足を向けた。
ついでに、あの鈴の事も頼まなくっちゃ。




    ****




「ただいま~~っと」

道具屋であれこれティーカップを吟味しているうちに、すっかり時間を食ってしまった。
私は大体、買い物は午前中に済ませると決めている。
すぐ帰るつもりだったけれど、いつの間にやら太陽が真上に上っていた。
でもまあ、そのおかげでかわいいティーカップも2脚買えたし、満足。

「おかえり、涼古」
「・・・・・・おかえり」

なんて、なんだか声が二つ聞こえたような気がした。
まさか・・・・・・。
玄関のドアを閉めて、恐る恐る振り返ると、そこには我が家のように寛ぐ黒い魔法使いがいた。

「ラ、ラヴェンダー・・・。あんたなんでここにいるのよ」

ラヴェンダーは私の椅子に座り、足を組んで本を読んでいた。
読書なら家ですればいいのに、なんだってここにいるんだろうか。

「・・・ちょっと里に用事で、ついでに寄ってみただけ」

「ていうか、なんであんた、家知ってるのよ」

「・・・・・・・・・」

ラヴェンダーは得意の無言モードで読書に夢中だった。
はぁ、まあいいんだけどね・・・。

「イルイルもイルイルよ。しっかり留守の家を守ってなさいよ、使い魔失格よ」

「え?尋ねてきた主人の友人を招き入れただけじゃない、なにが悪いのよ」

「・・・何も悪くないわ」

どうやら私の知らないところで、ラヴェンダーとイルイルは仲良くなっているようだ。
そういえばラヴェンダーは、人間というより精霊とかの方が似合っているような気がする。
まぁ少なくとも、完全な人間ではないだろう。

「はー、まあいいわ。紅茶、買ってきたから、淹れてあげるわよ」

「紅茶?珍しいわね」

イルイルは物珍しげに私の買い物袋をしげしげと眺める。
テーブルの上に、買ってきた(ツケだけど)荷物をデーンと置いて開封した。
緑茶に、紅茶、それに2脚のティーカップをテーブルの上に置いていく。
いつの間にかラヴェンダーが読書を中断して、テーブルまで歩いてきていた。

「・・・良い葉っぱね」

ラヴェンダーは長い黒髪を耳にかける仕草をして、紅茶の葉っぱの入った小瓶を摘むと、その栓を丁寧に明けた。

「いい香り・・・」

「今淹れてあげるから、読書でもして待ってなさい」

ラヴェンダーから紅茶の葉っぱを受け取ると、お湯を沸かすために、やかんを火にかける。
5分もしないうちに、湯が沸いた。
と、ここで、重要な事実に気が付いた。

私、紅茶の淹れかたなんて知らないわ・・・。

とはいえ、淹れてあげるといった以上、後には引けない。
まあ、緑茶も紅茶も同じ葉っぱだし、同じように入れても多分、問題無いだろう。
実際、ラヴェンダーだってフラスコに葉っぱを入れて、火にかけていただけだ。
とりあえずポット代わりのきゅうすに紅茶の葉っぱを入れて、お湯を・・・。

「・・・・・・そうじゃなくて」

このシチュエーションは何度目だろうか、またしてもラヴェンダーの細い手で私の行動が防がれた。

「いつのまに・・・」

「・・・ポット、無いの?」

「無いわよ」

ラヴェンダーは小さく「そう」とだけ言うと、きゅうすから葉っぱを取り出して、私の手からやかんを奪い、何も入っていないきゅうすにお湯を注ぎ始めた。

「・・・カップも持ってきて」

なんだか釈然としないまま言われたとおりカップを2脚持ってくる。
ラヴェンダーはカップにも同じようにお湯を注いだ。

「・・・紅茶は淹れる前に、ポットとカップを温めるのよ」

「ラヴェンダー、紅茶の淹れ方なんて知ってるんだ・・・。フラスコでぐつぐつ煮てたくせに」

「あれはただの水分補給用の安い紅茶・・・。こんな良い葉っぱ、適当に淹れたらもったいないわ」

なんだかいつもより饒舌なラヴェンダーが、てきぱきとなれた仕草で紅茶を淹れていく。
いつの間にやら私の小さな家は、紅茶のやわらかい匂いでいっぱいになっていた。
ラヴェンダーの白くて細い手と、無骨なやかんがひどく不釣合いで、思わず笑ってしまう。
これなら、紅茶用のポットとかも買っとくべきだったかな。

「・・・後は、蓋をして蒸らすだけよ」

そう言うとラヴェンダーは、いつの間にやらひっぱりだしてきたお盆にティーカップと紅茶の入ったきゅうすを乗せて、テーブルに移動する。
テーブルの上にティーカップを並べ、しなやかな動作できゅうすから紅茶を注ぐ。
その光景を見ると、なんの変哲も無いただのきゅうすがとてもお洒落なティーポットに見えてくるから不思議だ。

「・・・・・・いただきましょう」

こうして、なんだかよくわからないまま、午後のお茶会が始まった。




   ****




「あ、おいしい」

ラヴェンダーの淹れてくれた紅茶は、ラヴェンダーの家で飲んだ紅茶より数段おいしく感じた。

「良い葉っぱだもの」

私とラヴェンダーは、テーブルに座り、買ってきたばかりのかわいいティーカップを使って紅茶を楽しんでいた。
イルイルはラヴェンダーにティーカップを取られてしまったので、緑茶用の湯のみだ。
それでもイルイルはあまり気にしていないらしい。
服を着ないことに関係しているのか、イルイルはあまり上っ面の見た目を気にしないのかもしれない。

ゴンゴンゴン。
そんな優雅な一時を壊すような、無骨なノックの音が家に響いた。
まったく、いったい誰だろう。タイミングの悪いことだ。
私は椅子を立ち上がり、ドアへ向かう。
ラヴェンダーは、まったく意に介さず、優雅に紅茶の香りを味わっていた。

「はいはい、だれ?」

ドアを開けるとそこには、里の若夫婦がいた。
2人とも息を切らし、焦燥しきった顔をしており、奥さんにいたっては今にも倒れるんじゃないかというほど顔が真っ青だった。

「いったいなにごと?」

どう見てもただ事ではない。
旦那がようやく乱れた呼吸を整えると、話し始めた。

「突然すまねえ、涼古ちゃん。うちの娘が、朝からいなくなっちまって。あちこち探したんだがみつからねえんだ!」

今にも私に飛び掛りそうな剣幕でそう言う。

「と、とにかく落ち着いて。中に入って、詳しく聞かせて」

私はそう言って2人を家の中へ招き入れる。
2人をテーブルの椅子に座らせて、私とラヴェンダーはベッドに移動して腰を下ろした。

「それで、いったいどうしたの?娘さんがいなくなったって?」

ようやく奥さんも落ち着きを取り戻してきたようで、顔色も赤みかかってきていた。

「今日の朝、私たちはいつものように娘に留守番をさせて、畑仕事に行ったんです」

この若夫婦は畑仕事で生計を立てている。
この夫婦だけじゃなく、里のほとんどの人が畑を持っていた。

「それでお昼になって、お昼ご飯を食べようと家に戻ったら・・・。娘がいなくなってて・・・!」

「あちこち探したんだけど、どこにもいねえんだ・・・。もう頼れるのは涼古ちゃんしかいないんだよ」

「う、うーん・・・。そう言われてもねえ・・・」

とは言っても、私の本職は妖怪退治で、人探しはまったくの素人だ。
妖怪に攫われたとかならまた話は変わってくるが・・・。
頼られるのは悪い気はしないけど、私は万能な仙人では無い。

「・・・・・・・・・川原」

と、今まで我関与せずといった様子で紅茶を飲んでいたラヴェンダーが、突然口を開いた。
若夫婦も、今の今までラヴェンダーの存在に、本当に気が付いていなかったようで、突然聞こえてきた声に驚いている。

「・・・川原にいるわ、あなたたちの娘。・・・石積みして遊んでる・・・」

「あ、あなたは・・・占い師さまじゃないか!」

「はぁっ!?」

なんてことだ。

どうやら、たまに里にふらっと現れて、お金を取って必ず当たる占いをする謎の占い師は、よく知っている魔法使いのことだったようだ。




   ****




若夫婦は、ラヴェンダーの「占い」を聞くと、取るものも取らずすっ飛んでいってしまった。
当の占い師様は、2杯目の紅茶を優雅に入れて、これまた優雅に味わっていた。
私も、再びベッドからテーブルに移動し、腰を下ろす。

「まぁ、なんとなく、予想はついていたけど、まさかあんたのことだったとはね・・・」

「・・・今日は、あの道具屋に物を売りに行っただけよ」

どうやらラヴェンダーは、マジックアイテムを精製して、里に卸して生計を立てているらしい。

「・・・私は積極的な魔法は苦手だから、どちらかというと錬金術よりの魔女・・・」

「ふぅん、占いも、その一環なの?」

「別に、そう言う訳でもないわ。ただ「占いをする程度の能力」なだけ・・・・・・」

「なるほどね。でも、実際のところどうなのよ。本当に当たるの?」

ラヴェンダーはカップをテーブルに置いて、自分を抱くように腕を組んだ。
私は逆にテーブルにおいてあった自分のカップを取り、冷めてしまった紅茶を喉に流し込んで、そんなラヴェンダーの仕草を見つめていた。

「・・・・・・占いは、カードや水晶、星や花、そういった手段はいろいろあるけど・・・・・・大きく分けて3つ」

そうしてラヴェンダーの占い講義が始まった。
今日のラヴェンダーは珍しく良く喋る。
ひょっとしたらこっちのラヴェンダーが素なのかも知れない。

「今を見る”千里眼”、未来を観る”予見”、そして過去を視る”幻視”・・・」

そうして私の目を見てこう問う。

「・・・・・・この3つの中で、なにが一番簡単だと思う?」

「うーん、今を見ることかな」

感覚的には過去や未来より、今を見るほうが簡単そうに思える。

「・・・その通り。今は今起きている事柄だから、外れることも無いの・・・。じゃあ、逆に、一番難しいのはどれだと思う?」

「未来?」

やはりまだ見ぬ先の事柄を言い当てるほうが難しいだろう。
しかし、ラヴェンダーは首を横に振った。

「いいえ。一番難しいのは、過去を見ること・・・。未来を見る、ということは、数ある確立の収束先の一つを見るだけ」

ラヴェンダーは再度テーブルからカップを取り、一口紅茶を啜る。

「だから、当たることもあれば外れることもある・・・。でもそれは、起こりえる未来だから、さほど見るのは難しくは無いの・・・・・・」

「ふうん・・・?」

見ればイルイルはいつの間にやらベッドの上でぐーすか寝息を立てていた。
難しい話はパスらしい。

「でも過去は、もう起きてしまった事。それは、人の記憶の中にしかない・・・・・・。どういうことだかわかる・・・?」

過去はもう起きたことで、それは人の記憶の中にしかない・・・。
つまりそれを見るということは、人の記憶を見るということだ。
それ故に、過去を占いのは一番難しい。
なるほど、確かになんとなくわかる気がする。

「なんとなくだけど、わかるわ」

「・・・・・・私の「占いをする程度の能力」は、今と未来は自分の意思で見ることができる。でも過去は、滅多に見れない・・・」

ラヴェンダーは、例えば、と繋げる。

「・・・・あなたが今、知りたがっている、あなたの正体、過去とかね・・・・・・・・・」

「え・・・」

「・・・・・・・・・・・・・でも、偶発的条件が揃った時は・・・・・・」

あなたの過去が、視れるかもしれないわ、と。
ラヴェンダーはぼそりと言って、微笑んだ。

私は何も言えずに、ただ冷め切った紅茶を、飲み込む。
まったく、今日のラヴェンダーは、不気味なくらい良く喋る。




    ****




「・・・・・・ごちそうさま。それじゃ、また」

ラヴェンダーはそれからしばらくして、うちを後にしていった。
外はすっかり夕暮れで、夕日が紅葉の山をさらにさらに紅く染め上げている。

今にして思えば、ラヴェンダーが私の家の場所を知っていたのも、「占いをする程度の能力」を使ったんだろう。
どうやらラヴェンダーに隠し事はできないようだ。


そんなことよりも―――

  『あなたの過去が、視れるかもしれないわ』

ラヴェンダーは確かにそう言った。


私は自分の正体を知りたいのだろうか?
わからない。
少なくとも人間ではないことはもう気が付いている。

じゃあなぜ、自分のことを知らない?
覚えていない?
忘れてしまった?
・・・・・・記憶を封印しているだけ?


でも実は、そんなことはどうだって良かった。


私は今日のような穏やかな日が送れればそれでいい。
いつまでもこの幻想郷で、平和に暮らせれば、ほかには何も、いらない。



例えそれが、仮初の日常でも。

やっと第三話
東方シリーズで言うと体験版で遊べる最後のステージ

ここから物語は始まる かも

もうしばらくお付き合いのほどよろしくお願いいたします
MIZ
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