例の薬の本は意外と早く見つかった。
なんと魔理沙の研究部屋の机に開いて置いてあったのだ。こうなると、間違って薬を飲んでしまったという言い訳などは嘘なのかも知れないとも思う。
雑然として埃っぽい、霧雨邸の一室にてざっとそれに目を通すと、アリスは魔理沙の状況を理解した。目の前に開かれたページには薬の効用について書かれていた。
『三日間程、若返る。人間限定。ただし、人によっては副作用有。副作用の引き起こす症例:自我喪失・魔力喪失・人格分裂・幼児退行・――。また、逆の症例としては:魔力発現・魔力増強・幻視能力発現・筋力増強・半妖化・半霊化・――』
『副作用で発症した症例については、時間の経過と共に治るケースが多いが、治らない事もままあり、解毒剤の使用を一般的には奨励している。製剤過程と材料は以下の通り――』
読むにつれて、どうも魔理沙が自発的に飲んだとしか思えなくなってきたアリスであった。魔力増強やら、幻視力発現などは魔理沙の好奇心を煽って止まないものであるに違いない。
すると、間違えて飲んだというのはやはり嘘である可能性が高く、アリスの心の中はふつふつとこみ上げる怒気で満たされてゆくのだ。だが、今は堪えることしか出来ないのがアリスにとっては歯がゆくてならない。
「材料は集められないものじゃないわね。製薬も三日あれば出来そうだわ」
とりあえず、早く解毒剤を作って魔理沙を元に戻す事が精神衛生上、先決である。あの得意げな嘘つきの後頭部にリング弾を叩きつけてやらなければアリスの気がすまない。それだけでは収まらず、口に唐辛子を目一杯詰めて強制的に咀嚼させるかもしれない。
それらを想像すると、アリスは少しだけ気持ちが晴れていくのを感じた。
その傍らで、魔理沙は不自然な微笑のアリスを見て、少し怯えていた。
やることが決まればアリスの行動は早い。
「じゃあ、あなたは家に居て頂戴」
自宅に戻ったアリスは、魔理沙に留守番を言いつける。森での探索に魔理沙を連れて歩くのは疲れる事に思えたし、お守をしながら採集活動は効率がひどく悪いのが予想できたからである。
「分かったかしら?」
アリスはすぐさま肯定の返事が返ってくると疑わなかった。
しかし、返答は予想外のものであった。
「…嫌」
魔理沙は首を左右に振ったのだ。
「一人は寂しいから、嫌」
なんて子供染みた理由だろう。アリスは手で顔を覆いたくなった。
「いいかしら?あなたの為を思って言っているのよ、早く元の自分に戻りたいでしょ?」
「言ってる事が、よく分かんない」
もしかして幼児退行って現在のことは忘れるものなのかしら、アリスは少し疑う。よくよく考えれば、幼児退行は一時的な記憶の喪失も含んでいる、とも言えないことも無いかも知れない。ただ、アリスからそう見えるのだけの話ではあるが。
「いい?あなたは元々、自信家で―――」
「嫌なのーー!寂しいのは嫌!」
アリスの話の途中だと言うのに、魔理沙は大きく喚いて中断させる。聞くことも断固として拒絶しているようだ。目の端には、薄っすらと涙らしき物が見える。
アリスは、ほぼ背も同じだと言うのに、涙を流してまで駄々をこねる魔法使いの少女を見て、急に言う気が失せてしまった。
「…そこまで言うなら、もう良いわ」
アリスも、魔理沙のためを思って言っている事なのに、そこまで嫌と拒絶されてはどうしようもない。誰のためにこんなに苦労しているのか、全然分かっていないのだ。
それに、こんな状態の魔理沙を見つづけるのも、もう限界であった。
「そうね、あの巫女の所へ預けることにするわ。事情を話せばきっと分かってくれると思うわ。元々仲が良かったみたいだし」
魔理沙は何も言わなかった。アリスはそれを肯定と見なして、魔理沙の手を引いて外へ出た。
博麗神社に着くまで魔理沙は一言も喋らなかった。アリスも口を聞かなかった。
神社の主である紅白の巫女こと、博麗霊夢に事情を話したアリスは、薬が出来たら迎えに来るとだけ言ってから、神社を後にした。
その日は魔理沙が居ないおかげで、アリスは夕刻までに、必要となる材料の半分程手に入れることが出来た。予測通り、このペースでいけば三日間程で出来上がりそうだった。
しかし、家の椅子に座っていても、依然としてアリスの心は暗い深みに沈んだまま、その打開策を求めては魔理沙のことなどを考えていた。
思えば、いささか自分も大人気無かったかもしれない。原因は魔理沙にあるにしろ、目の前に居たのは八歳を満たすかどうかの少女だったのだ。他にも言い方はあったかも知れないし、対処法もあったはずなのに、ああいう態度しか取れなかった自分が腹立たしい。
別にこれは今回に限った事ではないのだ。魔理沙がああなる前でも些細な事で口論になる事が多々あったものだし、その度に激しい自己嫌悪に襲われる。自分はどうして、こう上手く、人と接する事が出来ないのだろう。心のどこかでは人に優しくしたいし、されたいと願っているのに、それが上手く表現できない…。
「はぁ…」
アリスは思わずため息を漏らす。自己嫌悪というものは、どうも処理し辛いものである。
だが今更始まった事では無いし、気にしなければ後二日ほどでこの悩みも解消されるのも事実である。そう考えると、少し気が楽になるのだが、それでもやはり何処か心の一部分がはっきりしない色に染まっているのが分かる。
そんな事をつらつらと考えていると、何処からとなく声がするのが聞こえた。
「―――」
どうやら、玄関の方から聞こえるようである。
アリスは最初、霊夢が面倒見切れないと言って、魔理沙を返却しに来たのかと思った。実際、ありうる話だからである。
だが、玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは魔理沙一人だった。
「た、ただいま…」
「…あら、霊夢は一緒じゃないのね」
「霊夢ちゃんは好きだけど、嫌いだから…」
相変わらず下を俯いたまま、小さな声で話す魔理沙の姿は、何処か愛らしく感じた。所々服が破れているあたり、多分一人でなんとか帰ってきたのだろう。
「まあ、いいわ。これに懲りたら、もう我侭言わない事よ」
アリスは何処か嬉しそうに、人差し指を立てて言った。
「…うん」
そして、魔理沙も少し嬉しそうな顔を見せた。
翌日、アリスは昨日と同じように森に採集活動に出かける準備をし始めた。
問題は魔理沙であるのだが、昨日の件もあってか、今日はアリスが出かける準備をしても黙って何も言わない。逆にそれが、アリスにとってはちくりと心が痛むことなのだが、昨晩偉そうに言ってしまった手前、付いて来ていいわよなどと、言いだせるはずもなかったのである。
その代わりと言うことで、アリスは一つ魔理沙の遊び相手を用意していた。
「それじゃあ行ってくるけど、一応上海人形呼んでおいたから、退屈したら遊んで頂戴」
アリスは赤いワンピースを着た、肩から手首程までの背がある人形を魔理沙の目の前に置いた。テーブルの上に置かれた、まるで自我を持っているような人形を見て、魔理沙は興味深そうな表情を浮かべる。
その人形は綺麗なブロンドを揺らすと、自分のマスターに驚きのような表情を向けると、何やら抗議しているような感じで腕を上下させ始めた。
「分かっているわよ。だけど、今日一日だけだから我慢して、魔理沙の遊び相手になってあげてくれないかしら?」
どうやらマスターには逆らえないらしく、両手を合わせてお願いしているアリスを見ると、諦めた様子でテーブルの上に座った。
「大丈夫よ、夕方には戻ってくるわ」
上海人形がしぶしぶ承諾したのを確認すると、アリスはキッチンを後にした。部屋を出るとき魔理沙が手を振っていたので、少し手を上げて応えた。
この日も材料採取は順調で、夕刻と言わず、午後のティータイムに帰れそうな程であった。
そういう訳で、少し余裕が出来たのもあり、アリスは家の様子を幻視で見ながら採集を続けることにした。
この場合の幻視――魔力を媒介にして物の存在や情報を視覚的刺激に置き換える能力――は、上海人形を通じて行われる。要するに間接的な幻視である。遠距離と言う事もあって、直接的な幻視は疲れるのである。
また、上海人形はアリスの使い魔であるので、情報がより鮮明に伝わる。調子がよければ、視覚情報だけでなく音声も伝わるのだ。
精神を集中し、波長を上海人形のそれと合わせるように試みる。次いで、目の奥が熱を帯びてきたように感じると、目の前にあるはずの無い、同一時刻の光景が少しくすんで浮かんでくる。まるで、セピア色の無声映画のように。
一番に視覚に映ったのは、人形の服を楽しそうに破っている魔理沙だった。
「ちょ、ちょっと、何してるのよ!上海人形も止めなさいよ!」
勿論、届くはずは無いのだが、ついつい焦って叫んでしまう。何せ今破られている服は、危うく魔理沙に黒インクで染められるのを免れたと言う、お気に入りの人形の服であるのだ。
上海人形の視点から見ているので、上海人形が何をしているのかは分からない。ただ動かないあたり、止める気は無いのだと言う事は分かる。
続いて、魔理沙は破った布にアリスの主食である穀物などを詰め込み始めた。時々上海人形も手伝うようにして、穀物類を包むようにして布を丸めていく。綺麗な色の生地がただの布の切れ端と化し、柔らかく小麦や米を包み込んでいる…。
もうここまで来ると、アリスも何も言う事が無くなって、何をしているのだろうと思うだけである。未だ音声は聞こえないから、魔理沙が口を開いていても何を言っているのか分からない。
しばらくして、何処からとりだしたのか、魔理沙は裁縫道具を持ってそれらの布切れを縫い始めた。丁度、球の中に主食を閉じ込めるようにして、細やかに縫い合わせてゆく。上海人形はそれを見て、真似しているが上手くいかないようだ。アリスの視界に映る映像の上海人形の手には指がないからである。当たり前である。
やがて、合計6個程、球状の布製穀物庫が作られた。あれをまた崩して元通りにするとなると、面倒くさいことになりそうである。アリスはそう思っていたところ、音声が途切れ途切れに伝わり始めた。
「ふふふ、出来た」
映像の中の魔理沙は嬉しそうに手のひらにそれらを載せると、一つづつ空中に放り投げ始めた。これを見て、アリスはやっと何を作っていたのか理解した。
「ねぇ、人形さん。私上手いでしょ~?」
魔理沙の手にお手玉が落ちては、次々と空中に鋭い放物線を描く。
アリスの見ている映像が上下に揺れる。どうやら上海人形が頷いたらしい。
「でもね、霊夢ちゃんの方がずっと上手なの。私も霊夢ちゃんに比べると下手なの」
そう話しながらも、魔理沙は回す手を緩めない。
「霊夢ちゃんは凄いんだよ。何でも出来ちゃうの。お手玉だって、将棋だって―――弾幕ごっこだって」
「でも、もっと凄いのはね。それが、すぐに出来ちゃうって、ところなの」
軽い音を立てて、お手玉の一つが床に落ちる。それが合図となって、今まで綺麗な放物線を描きつづけた玉は矢継ぎ早に落ちていく。
「えへへ、失敗しちゃった」
落ちた玉を手でかき集めると、魔理沙は再び回し始める。
「私が、三つ回せた時には、霊夢ちゃんは、六つでね。私が六つ回せた時には、霊夢ちゃんは、十二だったの」
今度は落とさないように、首を傾けて上のほうを見つめながら回している。
「だからね、嫌いなの」
それは、アリスが初めて聞く言葉だった。
「だって、霊夢ちゃん。私のこと、待ってくれないもの。どんどん先にいっちゃうの」
また、軽い音がしてお手玉が一つ落ちた。それにも関わらず、魔理沙は残りの玉を落とさないように上手に回している。
「私が、どんなに頑張っても、霊夢ちゃん、振り返ってくれないんだもん」
しかし、それが決まったことであるかのように、残りの玉も次々と歪んだ軌道を描いて床に転がる。
「すごく、寂しいの」
もう、魔理沙はお手玉を拾い集めようとはしなかった。
「でも、霊夢ちゃんは好きなの」
しばらくしてから、魔理沙は言った。
「だって、格好いいんだもん。憧れだもん。ずっと友達でいたいもん」
そう言って、魔理沙は玉を掻き集めると、何度目かのお手玉を始めた。
「だから私は、頑張るの。霊夢ちゃんに、今よりずっと近づけるように、霊夢ちゃんが何時か、振り返ってくれるくらいに」
彼女は屈託無く笑った。
アリスは幻視を止めると、すぐさま採集活動を再開した。
けれど、結局家に帰ったのは夕刻を過ぎてだった。
家の客間には、手に何か握った魔理沙が疲れて寝ており、側には上海人形がちょこんと座っていた。
「お疲れ様」
アリスがそう言うと、上海人形は頭を上げてマスターを見ると、すぐさまあちこちに散らかっている服の残骸や米粒などを、身振り手振りで言い訳して見せた。
「別に怒っていないわ」
その返事に上海人形は意外そうな表情を浮かべる。お気に入りの服が破られているのにも関わらず、怒るそぶりがないというのが不思議なのかもしれない。
アリスは、上海人形の側に寝ている魔理沙の寝顔を見つめた。
「何時頃寝たのかしら?」
上海人形の体の曲げ方からすると、つい先程である様だった。
「全く、素直な時は可愛いものなのに、どうしたら、ああも捻くれちゃうものなのかしら」
魔理沙の寝顔は穏やかであり、睡眠を妨げるのが悪いほどである。
アリスはその寝顔を見て思う。
きっと、この少女も自信満々な少女も、結局は魔理沙なのよね、と。
そして、この少女も自信満々な少女も、私も、自分を表現するのが下手なのよね、と。
アリスは魔理沙をしばらく眺めた後、自室で薬の調合を始めた。
薬は魔理沙がお腹が空いて起きるまでに完成し、その後、魔理沙が服用したのを見届けると、アリスはお風呂に入る事にした。
「ふぅ~」
アリスは白いバスタブの中で思いっきり足を伸ばす。最近のところ、二日連続で森を歩き通しで、足がむくんでいるのが分かる。
「ふふ、いざと言う時の為に香霖堂で炭酸入り入浴剤を買っておいて正解だったようね」
トレイに置いてある入浴剤の封を切ると、薄い円筒形の固形物質が現れる。それをバスタブに入れると、泡と心地よい音を立てて溶けてゆく。
「う~ん、いい感じだわ」
泡の刺激をふくらはぎや大腿部に受けながら、アリスは両手で筋肉をほぐしていく。
丁度、そんな時である。
「アリスちゃん~何処~~」
嫌な予感を髣髴とさせる例の声が聞こえたのである。ばたばたとそこらを走り回る音も次いで聞こえる。
ここで問題なのは、アリスが返事をしても返事をしなくても嫌なことが起こるのではないか、ということである。案の定、アリスが返事を渋っていると、響く声と足音が大きくなってくるのが分かる。
「あ~、お風呂なんだぁ~」
「そ、そうよ。だ、だから用事があるなら、後にしてくれないかしら?」
しどろもどろになって答えるアリス。だが、足音と声は扉一枚隔てたそこまできている様であり、何故か衣擦れの音が聞こえる。
「じゃあ私も入る~~」
やはり、こうなるのかとアリスは顔を手で覆いたくなった。
声が聞こえた次の瞬間には、ドアが勢い良く開き、そこから一糸纏わぬ姿の魔理沙が飛び出してきた。
「ちょ、ちょっと、前くらい隠しなさいよ!」
何故アリスが照れなければならないのか分からない、と言うほどに当の魔理沙は無邪気な笑みを浮かべて、バスタブの側に立っていた。
「じゃあ、入るよーー」
掛け声を入れると、魔理沙は湯船に跳び込んだ。
ブロンドと白い綺麗な肌の少女が湯船に飛び込むと、その反動でお湯があたりに飛び散って、壁面やアリスの顔にかかった。
「もう!普通に入りなさいよ!」
注意されるも、魔理沙は湯船の入浴剤の泡に興味を持って殆ど聞いている様子が見られない。そう言うアリスも、もう可笑しくて半分笑いながら怒っている。
「お風呂って気持いいね~」
「そうね」
やっと二人が並んで入れる程の広さしかないのに、不思議とこの時は狭いと言う感じはしなかった。魔理沙もアリスも、既に足をバスタブの縁に引っ掛けるようにして湯船に体を沈めている状態である。とても行儀が悪いと言う事で、アリスと魔理沙は顔を見合わせて笑った。
一頻り笑った後で、唐突に魔理沙が言った。
「アリスちゃん」
魔理沙の目はしっかりとアリスを見ては居なかったけれど、アリスも何となく言わんとしていることは分かった。とても可愛らしくて、素直で、素敵な声だった。
「…ありがとう」
しばらくの間、アリスは動けずにいた。と言うのも、魔理沙の動きが全く止んでしまったからである。もしかすると、解毒薬が効いてきたのかもしれなかった。そして、それを知っていて、あの魔理沙は風呂場に乱入してきたのかも知れなかった。
浴室には、炭酸入浴剤の弾ける泡の音と、飛び散ったお湯が垂れ落ちる音だけが響いていた。別に悲しいわけではないのだけど、妙に寂しい音だった。けど、すぐにこの音も分からなくなるような瞬間が、今すぐそこまで来ているということが、アリスには予想出来ていた。
やがて、水の跳ねる音が聞こえるとアリスは首を魔理沙に向けた。
同様に、魔理沙も頭から煙が昇りそうな顔でアリスの方を見ていた。
「わーーーーー。なんで私がお前と入浴してるんだ?!」
「良く言うわ、そっちから入ってきたくせに」
「くそう、夢遊病は副作用の発症例にかいてなかったはずだが…」
「そうそう、その薬のことで良く良く話合いをしたいのだけれど―――」
「それじゃあ、そろそろ私は上がらせてもらうぜ!」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
この後、アリスは魔理沙と何を話したのか覚えていない。ただ、口調と相変わらずの会話センスには、懐かしさを覚えたのは確かである。
「ほら、さっさと帰りなさいよ。あなたのせいで五日間ぶりの読書になっちゃったわ」
「なんだよ、つれない奴だな。人が折角奇跡の生還を果たしたと言うのに」
「九割方私のおかげね」
アリスは魔導書専用の眼鏡を掛けると、魔理沙を追い出しにかかった。
「ほらほら、これ以上私の時間を邪魔すると、この本の角で後頭部殴るわよ」
魔理沙はアリスが手にもつ分厚い本を見ると、そそくさと玄関に向かった。
「分かったよ。全快祝いは今度にしてもらうぜ」
「言われてもしないわよ。大体自業自得もいいとこだわ」
アリスは魔理沙の後に続いて、玄関の外に出る。
そこには既に、箒に跨って暗闇に浮いている魔理沙の姿があった。嫌味なのかと思うほど、顔には自信たっぷりの笑みを浮かべている。
「それじゃあ、長い事世話になったぜ」
「もう、来ないで欲しいわ」
「また、世話になりに来るぜ」
そう言って、魔理沙は箒を自宅へ向ける。
そして、次の瞬間には、物凄い勢いで夜空に飛び出していく魔理沙の姿があった。
―――ばいばい
アリスは魔理沙の背中に掴まって、黒いエプロンドレスを着た小さな少女が手を振るのを見たような気がした。多分、昼間幻視能力を使いすぎたからだわ、と思った。
魔理沙の乗った箒が夜空を縦横無尽に駆け抜けると、まるでその軌跡を描くかのように星屑が生まれた。生まれた星々は、お互いに共鳴するが如く、白く輝き、燃えるように煌く。軌跡は、円を描き、円は花となり、花弁から溢れ出すは光の洪水。
アリスはしばらく、その夜空に広がる、壮大な星の花火を見ていた。
やっぱりあなたは捻くれ者だわ、そう思い、微笑みながら。
アリスの事を100%信用してやった魔理沙が素敵すぎます。
魔理沙がアリスに甘える話って初めてなんじゃないでしょうか?
もちろん利用された事に気付きながらも力を貸してやるアリスも素敵。
こういう関係っていいなあ。
「東方スウィングガールズ」是非読んでみたいです。
前回もそうでしたが今回も終わり方が凄く良い…
スターダストレヴァリエって言葉が自然に浮かんで来たのは自分だけかな?
幼い魔理沙が手を振っている光景が、星屑の幻想という言葉に相応しい気がしました。
魔理沙とアリスの不思議だけど、心がじんわりと暖かくなるお話、堪能させていただきました。
そう、これ!これですよ!あの魔理沙の本音は私の理想そのまま!
素晴らしいお話を読ませて頂いてありがとうございます。
……そういや結局スウィングガールズ見に行って無いや……。
こういうお話は温まるなぁ・・・
それにしても、最後のお風呂場に入ってきた魔理沙が「本来の」魔理沙だと
考えてしまうのは些か穿ち過ぎですかね…。
それがあまりに真っ直ぐで、純粋過ぎて、何だか胸が締め付けられる思いがします。
そんな魔理沙の本音を期せずして知ってしまったアリスも、そんな感情を抱いたのかな、などと思いました。