ガラガラガラ…引き戸独特の音を立てながら雨戸を開き、空を見上げる。
太陽がまだ低い位置にあるのを確認し、満足げに頷く。
普通の人間にとってもまだ早い時間帯。この自分にとっては驚異的な早起きだった。
そのことだけで満足して眠ってしまいたくなるのをぐっとこらえ、紫は朝食の準備を始めた。
急がないと、普通の人間よりもなお早く起きる藍が起きてきてしまう。
普段は付けないエプロンを纏い包丁を握る。
久しぶりに握る包丁はよく手入れされており、自分の手にすぐに馴染んでくれた。
それは、この包丁を使っている者も自分と同じような癖を持つことを意味する。
何十年経っても教え手と同じ癖を治そうとしない学び手に苦笑してしまう。
こういう些細な癖さえも真似したがる藍は、外見こそ大人になったが内身はあの当時のままらしい。
藍は、いつまで経っても甘えん坊だ。
強がってはみせているが、それは今でも変わらないらしい。
そんなことを考えながら作る朝食は、独りで在ったときよりも数倍も楽しさがこみ上げてくる。
あらかたの下準備を終わらせ、その量を見てちょっとだけ反省する。
どうやら少しだけ張り切りすぎてしまったようだ。
まぁ、いい。その分藍に頑張って食べてもらうとしよう。
「…て、何よ藍。人をそんなお化けや妖怪を見るような目で見て怯えてるなんて失礼よ?」
人の気配に振り返ってみると、そこには目を大きくしてわなわなと震えている藍の姿があった。
どことなく青ざめた表情ながら、紫に睨まれていることに気がつくと慌てて口を開いた。
「ゆ、紫様?ついに朝と夜の境界がわからなくなるほどボケが進行し――っ!?」
藍が言い終わらないうちに、その頭上に開けられた隙間からタライが落下してきて藍の頭に直撃する。
「古人は賢いわね。口は災いの元…えぇ、まさにその通りよね」
「……ふぁい」
予想外の攻撃をもろに喰らってしまった藍を見て、紫はにっこりと笑う。
「私だってたまには早起きするし、ご飯だって作るわ。…待ってなさい。もうすぐ出来上がるから」
頭の痛みが引くまでは藍も大人しくしているだろうと、紫は台所に向き直って調理を再開する。
料理があらかた出来上がるころには藍も回復しており、皿などを並べて大人しく待ってくれていた。
頼んでいもいないのに、こういう律儀なところは誰に似たのだろうか。
「…紫様も、作ろうと思えば作れるんですね」
料理の盛り付けをしている最中に藍がぽつりと呟く。
…まったく。こういう捻くれた口調も誰に似たことか。
「あら。藍ったら負け惜しみかしら?」
「そ、そんなんじゃありませんっ」
そう言って紫から目を逸らす藍。
どこか拗ねた表情に、まだ藍もこういった顔をするのかと微笑ましく思う。
「安心しなさい、藍。今はまだ私の作った料理のほうが絶対においしいから。…というか、きっと勝負にもならないほどきっぱりはっきりと私のほうがおいしいわよ」
「なるほど。伊達に年をくってないで――ぐぇ」
「……はぁ。藍、学習能力ないわねぇ…」
藍の上に鉄アレイを降らせながら嘆いてみる。
でもまぁ、昔からよく言うじゃないか。
馬鹿な子ほど可愛い、と。
伸びている藍を尻目に盛り付けを完了させる。
さすがに鉄アレイはやりすぎたのか、真剣に気絶している藍を見て少しだけ反省。
かるく揺さぶって覚醒を促す。
「ほら、藍。せっかく私が早起きして作ったんだから、あったかいうちに食べないと損よ?」
目が覚めた藍と向き合うように座り、手を合わせて食事を始める。
何事もない、まるでそれが日常的な光景だといわんばかりの紫に釣られて藍も手を合わせるが、はたとあらためて違和感に気がついて紫にたずねる。
「あの…紫様?今日は本当にどうしたんですか?」
「どうもしないわよ。私に気まぐれはいつものことでしょ?いいからはやく食べちゃいなさいって」
言われて渋々食事を始める。
口に含んだ瞬間に唸りたくなる旨みに頬が蕩けそうになる。
久しぶりに口にした紫の料理は、紫自身が言うようにまだまだ自分の遥か高みを行っていた。
「こんなにできるなら普段から自分で作ればいいのに…」
ついつい零れてしまった本音に、紫はしてやったりとにたり顔。
「面倒だからやらないのよ。それに、私は自分の作った料理よりも藍の作った料理の方が好きよ?」
「…そ、そんなお世辞には乗りませんよ?」
「とか言っちゃって。本当はまんざらでもないんでしょ?」
う…と耳まで赤くして紫と目を合わそうとしない藍。
そういえば最近は寝ていたり藍が結界の修復に行ってたりであまりこういう会話をしていなかったなと思い出す。
久しぶりに見た顔を赤くする藍に、少しだけ申し訳なく思う。
「藍。今日は結界の巡回はやらなくていいわよ」
「……はぁ。まぁ、巡回は毎日やってるわけじゃありませんが…どうしてですか?」
「それはもちろん、昨日の夜のうちに私が見て回ってきたからよ」
「…………は?」
胸を張って答えたら理解不能といった表情が返ってきた。
「それはもちろん、昨日の夜のうちに私が見て回ってきたからよ」
むかついたのでもう一度言い直してみる。
「…………」
しばらくの沈黙のあと、
「ゆゆゆ紫様のご乱心!?」
失礼な反応が返ってきた。
「…ねぇ、藍?藍は私のことをどんな主人だと認識しているのかしら?」
「さすがに学習したので、その質問についてはノーコメントでお願いします」
さらりと返答されてちっと舌打ちする。
というか聞かれても答えられないことを考えているという時点で、既に処罰ものな気もするが…まぁ、話が誤魔化せたので今回は善しとしようか。
そこで一旦箸を置き、ぐっと体を伸ばす紫。
やはり、こんなに早くから起きているのは久しぶりなので少々辛い。
ともすればそのまま眠りの世界へと旅立ってしまいそうになるのをなんとか我慢する。
藍に悟られないようにあくびをかみ殺し、食事を再開させる。
「……やはり、無理をしていませんか?」
だがやはり、何百年と式をしているだけあって、藍の紫に対する洞察力鋭かった。
だけどまぁ、もう少しくらいなら誤魔化させてくれるだろう。
何百年と式をしているだけあり、紫の限界を一番よく知っているのも藍なのだから。
「主人を疑う式神…ねぇ。はぁ、どこで教育を間違えちゃったのかしら」
「強いて理由を挙げるとしたら、その怠け癖じゃないですか?」
または普段言動があまりにも胡散臭すぎるためか、と付け加える藍。
そんな藍に本日三度目の――今度は前回の教訓を生かして――タワシを数十個落としてから自分の分の食器を片し始める。
「う、うわっ!?紫様、これ地味に嫌です!なんか痛いというか精神的に痛いというか…!」
「バケツに水と毒蜘蛛の嵐じゃなかっただけよかったと思いなさい」
微妙にタワシの埋もれている藍の姿につい笑みが零れてしまう。
このままこうやって藍で遊んでいるのも楽しいが…そろそろ限界が近いかもしれない。
「藍。食べ終わったら縁側にいらっしゃいね」
タワシに悪戦苦闘している藍を少しだけ急かす。
そう。自分にはまだやりたいことがあるのだ。
眠ってしまう前に、どうしても…。
まだ何か叫んでいる藍に背を向けて縁側に向かう。
いつもの定位置に座り、周囲にあるすきまをまさぐる。
「えっと…たしかここら辺だったと思ったんだけど……あ、あったあった」
目当てのものを見つけ出し、取り出す。
太陽の光に当てて保存状態を確認する。
うん、ずっとすきまに入ってただけあって悪くはなっていない。
「…紫様、なんだか楽しそうですね」
見入っているうちにかなりの時間が経過していたのか、不意に後ろから声をかけられる。
そのせいで反射的に取り出したものをすきまの中に放り込んでしまう。
いつもの癖とは怖いものだ。今日はやましいことなんて何もしていないというのに。
「食後のお茶です」
そんな紫の行動には気付いていないのか、藍が緑茶を差し出す。
「ありがとう」
受け取って、一口飲む。
相変わらずため息が出そうなほどおいしいお茶だ。
食後のお茶淹れだけは式としての仕事を任せるずっと前から藍の役割だったため、今では紫よりもずっとおいしいお茶が出される。
…とはいっても、もとより飲めればいいと考えていた紫と、初めて与えられた仕事がそれだった藍とではやる気というものが違ったのだが。
藍が式になって一年しないうちに追い越されてしまって以来、紫は自分でお茶を入れることを諦めていた。
「はぁ…藍の淹れるお茶はおいしいわね」
「そりゃ、出涸らしのお茶を百杯目まで平気で飲むような人の淹れたお茶に比べれば、どんなお茶だっておいしく感じられますよ」
それもそうか。
「むっ…藍がそんな意地悪なことを言うなんて珍しいわね。もしかしてまだ私のほうが料理がうまいんだって知って拗ねてる?」
「そ、そんなことありませんっ!」
藍が必死になって否定して、それを見て紫が笑う。
いつもの光景だけど、それが今日の紫にはやけに新鮮に感じられた。
「……今日は随分とご機嫌ですね」
「あら、さっきは無理をしてそうだって言ってなかったかしら?」
「無理をしてるけど、嬉しそうなんですよ」
紫の隣に座り、自分の分のお茶を飲み始める藍。
――無理をしているけど、嬉しそう。
本当に?
紫は自問する。
自分は今、喜んでいるのだろうか。
「――えぇ、そうね」
自問した答えは、言葉にする必要がないくらい紫にとっては当たり前のことだった。
「私は確かに、喜んでいるのだわ」
そうだ。これは歓喜だ。独りだった頃には感じられなかった幸福という感情だ。
だって、今日は――
「今日は、あなたを創った日…。だというのに、私が嬉しくないわけがないでしょう?」
――藍が、私の声に答えてくれた日ですもの。
「それは、自分が楽を出来るようになった日だから、ですか?」
「藍は意地悪になったわね。昔はそんなこと言う子じゃなかったのに…」
「そりゃそうですよ。だって意地悪なことを言わないと、紫様は本当のことを話してくれませんからね。学習したんですよ」
「可愛くない学習の仕方ね」
「はい。私は、紫様の式ですから」
藍も言うようになった。
しかし尾が九本になるほど成長したのだ。そんなにも長い間自分の式をやっているのだからそれも当然かもしれない。
藍の言う通り、藍は紫を見て育ったのだから。
穏やかな気持ちで庭を眺めながら、紫はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そもそもあなたを創ってからの百年とちょっとは忙しかったからね。今怠惰しているのはきっとその反動よ。
だからそれとこの嬉しいと感じる感情は別のものよ。
私は純粋に嬉しいのよ。
あなたという子が、私の元にやってきてくれたことが…ね」
隣を向いて、微笑む。
「だから今日くらいは私に甘えなさい。あの頃みたいに、ね」
湯呑みを置き、さきほど放り込んでしまったすきまからブラシを取り出す。
それは何百年と藍の尾を毛繕ってきた、紫の一番大切なものだった。
最近は藍もすっかり甘えてこなくなってしまったので、もしかしたらこれが最後のブラッシングかもなと考えながら、藍の後ろに回る。
「まったく。尾の数が増えればいいってものでもないでしょうに…」
その尾を一本一本、その毛一本一本を慈しむように撫で上げる。
藍がちっちゃかった頃は自分の膝の上に乗せてやっていたものだが、今ではもう無理な話だ。
本当に、ここまであっという間に成長してしまった。
自分は少し、怠けすぎてしまったのかもしれない。
そんなことを考えてしまって、苦笑する。
「…紫様」
「なに、藍?」
「……気持ちいいです」
「ま、そうでしょうね。こんなにぼさぼさになるまで放っておくんですもの。言ってくれれば私だってやったのに…あなたは私に遠慮しすぎよ」
「いえ、今まで紫様にずっと甘えてきすぎた感がありましたから…そろそろ、親離れの時期ですよ」
「……そう。寂しくなるわね」
ブラシを持つ手が、少しだけ強く握られる。
親離れをしても式をやめるわけじゃないけど。
自分から離れていくわけじゃないけど…
やはり、自分は怠けすぎていたのだろう。
もっとしっかりと起きていれば、もっとかまってあげることだってできたはず、なのだから。
丁寧に、とても丁寧に最後の一本を撫でつける。
そこに、様々な想いを込めながら。
「――藍」
「なんですか?」
「これが終わったら、私はしばらく冬眠するわ」
「そう…ですか」
「私の部屋の、境界が曖昧になっていた引出しがあったでしょう?」
「…紫様?何を話して――」
「そこの境界を元通りにしてあげる。私が冬眠したらその引出しを開けなさい」
そこには、藍が紫に隠れて練習していた秘術の巻物が入っているから。
「…そこに、式を創る為の秘術が記された巻物があるわ」
藍が息を飲むのがわかる。
もしかして気付かれていないとでも思っていたのだろうか?
紫が話を逸らせたがっていることに気がついて、あえて気付かない振りをして騙されていたことにだって気付いていた。
本当に、いつまで経っても詰めが甘い式神だ。
何年、自分が主人をやってきたのかこの式神はわかっているのだろうか。
たとえ怠けていようと、眠っていようと、自分は藍だけを見続けてきたのだから。そんな自分が、藍が何を考えているのかわからないわけがないじゃないか。
「あなたにはもう、式を創るだけの力があることは私が保証する。あとはただ、その力を後押しできる術式をマスターすればいいだけ」
毛繕いを終えて、最後に…ぎゅっと、藍を抱きしめる。
「親離れ…か。寂しくなるわね」
ぽつりと、呟く。
あのあまりにも小さく心細い声に、藍は思わず振り向く。
「紫様!?」
だけどそこには既に紫の姿はなく、先ほどまで自分の尾を撫でていたブラシだけが、ぽつんと置かれていた。
「紫…様……」
藍が見た紫の最後の横顔。
それが、泣いているように見えて…藍の頬にも、一筋の線が描かれた。
☆★☆★
「ゆ、紫さんにもそんな過去があったなんて……!」
話を聞き終わった鈴仙は、真っ赤な瞳を涙ぐませて打ち震えていた。
「で、次に起きたときには橙がいたわけだけど…鈴仙、ちり紙をあげるからこれで鼻をかみなさい」
「うぅ…ずみまぜん……」
受け取ったちり紙で鼻をかむ鈴仙。
その姿はまさに小動物のよう…て、鈴仙は兎だから小動物なんだけど。
そんなくだらない言い訳をしながら鈴仙をそっと抱きしめてあげる。
泣いている子供を宥めるには、これが一番方法なのだ。
よしよしと背中を撫でてあげながら、ふと気になる物体を見つける。
「…藍。いつまで寝ているつもり?そろそろ起きないと夕食の準備が間に合わなくってよ」
「そう、思うなら……こんなに鉄アレイを降らせないでくださいっ!」
「あら、思ったより元気ね。なによりなにより」
何百と降って山となった鉄アレイの下から元気よく跳ね起きる藍を見てほっと一安心する。
どうやら今夜も食いっ逸れなくて済みそうだ。
「…ていうか、なんなんですか?帰ってきたらいきなり鉄アレイの雨がお迎えなんていくらなんでもひどいですよ」
「ん~。まぁ、いろいろと事情はあるんだけどね…とりあえず、この子のせいってことにしておこうかしら」
「……それは、鈴仙?」
「えぇ、いつもの如くマヨヒガで迷子になっていたから保護してきたんだけど…この子ったら失礼なことをいうのよ。なんて言ったと思う?」
「わかるわけないじゃないですか」
「それがね、『いつも藍さんを苛めてますけど、そこに愛はありますか?』て聞いてきたのよ。まったく、てゐの鈴仙苛めと同じにしないでほしいわね」
「……そんなもの、あったんですか?」
「あったあった。だから如何に私が愛を持って藍に接してるかを証明するために、昔話を少し…ね」
「それと鉄アレイの雨とが結びつかないのですが…」
「鈍いわね、藍。そんなの決まっているでしょう?そんな恥ずかしい話、藍の前で言えるわけないじゃない。だからその間気絶してもらったのよ」
「……そこに愛はあるんですか?」
聞いているうちに虚しくなってきたのか、なにやら泣きが入ってきた藍。
「そこの鉄アレイ分、愛があると考えてくれればいいわ」
想いがたっぷり込められているでしょう?と笑ってみせる。
「うぅ……藍さん、すみません!今までずっとただただ主人の虐待に耐える式としか見てませんでした!まさかお二人の間にそこまで愛があったなんて……!」
「ちょ、ちょっと待て鈴仙!これのどこが愛なんだ!?」
「ふふ…鈴仙、そろそろ時間よ。夕食までには帰らなくてはいけないのでしょう?」
「あ、はい」
「無視か?私は無視なのか!?」
「それでは…お帰りはこの兎の穴からどうぞ」
とりあえず騒ぐ藍を放置しながら、永遠亭までのすきまを開く。
「……あら、そこに見えるは八雲紫。こんな時間にどうしたのかしら?」
そこにはエプロンを掛けて調理をしていた永琳の姿があった。
「えぇ。そちらの子がまた迷子になっているのを見つけたので、届けにきましたわ」
いつもの笑みを浮かべながら鈴仙のほうに視線を向ける。
鈴仙はまずいところを見つかった、というような表情をしている。
「……ウドンゲ。あなた、今日の食事当番でしょう?サボってどこに行こうとしたのかしら」
「え、いや…その……あは、あはは」
「そんなんだからマヨヒガに迷い込むのよ。今日のウドンゲの食事はにんじん一本ね」
「えぇ!?し、師匠!育ち盛りの弟子にそれはひどいですよっ!」
「問答無用。それともなに?私と弾幕りあう?いいわよ。私に勝ったらきちんとした食事を出してあげるわ」
「し、ししょ~!」
二人のやり取りに、紫は思う。
――あぁ。どこへ行ってもこういう光景はあるんだな、と。
「よかったわね、鈴仙」
だから、少しだけ鈴仙に言っておきたくなった。
「え…どうしてですか?」
紫の突然の言葉に、鈴仙は少しだけ戸惑う。
「あなたも、きちんと愛されているっていうことよ」
紫がそう言うと、永琳はそれに同意するように頷く。
「そうよ、あなたは愛されているのよ」
「う、うそだっ!絶対うそだっ!師匠のその顔は絶対に何か企んでるときの顔だ~!?」
「うるさい。いいからはやくすきまを通ってきなさい。八雲さん家に迷惑でしょ」
「痛いっ!師匠、耳引っ張らないで!行きます!自分で行きますから~!」
鈴仙の叫び声とともにすきまが徐々に縮まっていく。
「さて、と…」
一仕事終えた、とばかりに手をぱんぱんと叩き、あらためて藍に向き直る紫。
「ほら、藍。そんなところで拗ねてたってしょうがないでしょ?まったく…いつまで経っても子供なんだから」
いじけていた藍を自分と向き合うように立たせる。
「鉄アレイの件、ほんとにわからない?」
「…え?」
「橙でさえ、いつもしっかりとやることをあなたが忘れていたからお仕置きしてあげたのよ」
「……あ、あ~!」
ようやく思い出したのか、藍がそう言ってから恥じるように顔を赤くする。
「ほら、はやく言いなさい。でないとまた降ってくるわよ」
「わっ、待ってくださいよ。玄関からやり直すくらいの時間をください」
言うがいなや玄関に向かって駆け出す藍。
どうやら一からやり直すようだ。
なら、自分もそれ相応の態度で接してあげなければ。
再び閉められたドアが開かれる。
いつもよりも少しだけくたびれた服を着ながら、それでも笑顔で藍が玄関に入ってくる。
「ただいま帰りました、紫様」
だから自分も最高の笑顔で迎えてやろう。
「はい。お帰りなさい、藍」
今日も幻想郷は、そんな平和な一日だった…。
あなたも、ちきんと愛されているっていうことよ
→あなたも、きちんと愛されているっていうことよ
このほのぼのさが・・・
やはり相変わらず鈴仙はどこでもいぢられる運命ですねえ(笑)
>数十個のタワシ
うわ、地味にすっげぇやな感じ(笑)
あ、それとちょっと指摘。
師匠の呼び方は『鈴仙』でなく『ウドンゲ』では?
照れ隠し(?)に鉄アレイを落とすゆかりんの、何とかわいいことよ。
ゆかりんが過去の身の上話を鈴仙にする、という設定も上手いと思います。
どこかホッと出来たような、そんなお話でした。
ああ故郷の父、母よ親不孝な自分をお許しください・・・
藍、よく生きてたな・・・。