~マヨヒガ~
だだだだだ・・・・・・つるっ!すてーん。
元気よすぎて、廊下の何も無いところで足が滑り、転倒する橙。
「~~~うー・・・いてて、・・・・もー!藍様ていねいに磨きすぎー!!ほんっと、まじめなんだからー!」
お尻をさすりながらぼやく橙。
「・・・・でも、そんな藍様が・・・・・・ぽっ。・・・・はっ!そんなこと言ってる場合じゃ!・・・よしっ」
ぽーっとしていた頭をぶるぶると振り、目的を思い出す。
ここは、この家の主の篭る寝室。趣のある障子戸には
“睡眠中。ごはんと宴会以外、立ち入り禁止!”との符が、でかでかと貼ってある。
そんなことはまったく気にせず、橙は戸に手をかけると、えいやっ とばかりにいきおいよく開け放つ。
すぱーーん!!
小気味よい音をたてて開いた戸に ひょこんと首をつっこみ呼びかける。
「ゆかりさまー!ごはんだよー・・・ってあれ?いない?」
きょろきょろと部屋を見回す橙。しかし、どこにも紫の姿は無い。
押入れや書机の引き出し、本棚のスキマなどを捜索する橙。
「ゆかりさまーごはんだよー。ほらほら!はやくしないと冷めちゃうよー?」
・
・
・
「ふにゅ?おっかしいなー?いっつもご飯以外は、ぐーぐー寝てるのに。う~ん。」
くびを傾げつつ、彼女はお茶の間に戻る。
「ねぇーらんさまーーーゆかりさまいないよー?」
橙のこえを受け、台所からでてくる割烹着姿の藍。
ふきんで手を拭きながら、紫がどこからか持って来た――壁に掛けてるカレンダーをみる。
今日の日付には、きれいな赤丸が印されている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、もうそんな頃だったわね・・・・・・。」
そっと呟きつつ、少し顔を曇らせる。
「・・・・・・橙、今日は紫様は大事な御用でおでかけだから、ご飯たべたら・・・裏山にハイキングでもいこっか?二人きりで。」
ぱぁああぁぁ・・・・
その言葉をうけ、満面の笑みを浮かべる橙。心の中で“・・・・ウホッ。”と呟いたかどうかは、定かではない。
「うんうん!!いくいくーーー!!!!やったぁーーー!」
はしゃぐ橙をやさしく見守りながら、藍は彼女の主のことを思う。
(・・・・・・紫様。もういい加減、彼女も許してくれたのでは・・・。今は昔のまま、とはいかなくとも・・・彼女にはいつでも逢えるではありませんか・・・。)
心中で、いまだ癒えぬ過去の傷をひきずり続ける主に・・・・・・深いためいきをつく。
(・・・・紫様・・・・・。)
なにも知らぬ橙は無邪気に藍をせかす。
「さぁさぁ!はやく食べよ!らんさまー!」
「・・・・そうね。ふふ、今日はたのしい一日になりそうね・・・。」
ところはかわり、博麗神社。
いつも縁側でぽややんとお茶をすすっている紅白の巫女の姿は無く、
人も寄り付かぬ山奥で―――長年放置され、寂れた境内には、ひとりの少女の姿があった。
紫と白を基調としたゆったりした道服に身を包む彼女は、
てくてくと―――寂れた境内を後にし、長い山道を下る。
獣道じみた参道は、次第に踏み均された山道へと移りゆく。
そして長い山道を抜け、人里に出た頃。
そこには紫の着物をまとう、妙齢の女性の姿があった。
落ち着いた雰囲気を醸すその女性は、過疎化の進んだ山村を抜け・・・・
やがて、無人の駅に辿り着く。
日に一本しか運行されない電車が、まるでその女性の到着を出迎えるかのように着駅する。
「・・・・・・・・。」
言葉も無く、当然のように古びた電車に乗る女性。
発車する電車。
――あとには人影の無い、寂れた無人駅が残される。
がたん ごとん
がたん ごとん
単調な音でのんびりと進む電車。
まるで時代に取り残されたかのような風景。
それでも車両は、次第に多くの人間たちの住む都へと・・・・確実に歩を進める。
いくつかのターミナルを経由し、女性の乗る電車は――いつのまにやら、サラリーマンや学生の溢れる近代的な車両になっていた。
楽しげに笑いあう学生らしき少女たち 携帯電話で頭を下げながら話し込む中年 ゲームや漫画の話に熱中する少年たち
うとうと船を漕ぎながら座席にもたれる老人 周囲を遮断しメールをうつ女性 泣き喚く赤ん坊 それを必死にあやす母親
たくさんの人間。たくさんの日常。たくさんの・・・・人生。
「・・・・・・・。」
それらが、みえているのか いないのか
一言も発することなく、ぼうっと視線を漂わせながら彼女は――――八雲 紫はただ、座席にすわりつづける。
“――――次の停車駅はー 終点ー・・・・駅ーー。お忘れ物の無いようにー・・・・”
終点を告げるアナウンスが車内に流れる。
茫洋と視線を目の前に向ける紫。
ふと気づくと、彼女の前には一人の少女の姿があった。
目に涙を浮かべ、縋り付くように目前の女性を見つめる・・・少女・・・というには幼すぎる女の子、幼稚園ぐらいだろうか。
可愛らしい服には、ちょこんと名札が掛かっている。
何気なくその―――たどたどしい手書きの文字―――を見やり、 驚いたように目を見開く。
・・・・・・・・かぶりをふり、そっと苦笑する紫。乱れた内心を鎮めつつも、こころに湧き上がる感慨は隠せない。
――――これも・・・なにかの縁、か・・・・・・・。
よっと、座席を立ち 目の前の少女の前に屈みこみ、やさしく訊ねる。
「・・・お嬢ちゃん、どうしたの?お母さまから、はぐれちゃったのかしら?」
今にも泣きそうだった女の子は、その曇りない純粋な眼で―――紫の目をみながら答える。
「・・・ぐすっ。・・・・うん。きがついたら・・・おかあさん、いなくて、わたしだけ、う・・うう・・・」
気丈に涙をこらえ、紫にことばを返す。
その様をやさしく見守りながら、紫は一つの提案をする。
「そっか・・。・・・・・ね?おねぇちゃんが一緒に、貴方のお母さん・・・探してあげよっか?」
「・・・・・ほんと?・・・・ぐすっ・・・・・・・・・・ありがとう・・・。おばちゃん。」
ぴくっ。
紫の顔が、少しひきつった。
だが、内心に吹き荒れる暴風をおくびにも出さず、
―――普段の彼女では・・・・有り得ないほど寛大に、女の子に言葉をかける。
「・・・・・・おねぇちゃんよ。わかる?お・ね・え・ち・ゃ・ん。ふふふ・・・貴方は賢そうだから・・・・・・解るわよねぇ?」
「・・・・・う、うん。ありがとう・・・・・おねぇちゃん。」
「うふふふふ、いい子ね。私、賢い子は好きよ?」
今の言葉は空耳だ。
鋼の心で、紫は自制する。
そんなたわけた言葉は・・・あの歴史喰いの牛女にでも喰わせてやればよいのだ。
いくら、今の姿が大人びているとはいえ・・・・・。よりにもよって・・・。
・・・・・・よそう。それより今はこの子だ。早く済ませねば・・・・今日という日が、終わってしまう。
今日は・・・自分の足で、あの場所まで行くのだから。無駄なことをしている暇など無い。
しかし、いま 紫がしようとしていることは・・・・・・彼女にとって、無意味なこと。
―――ただの自己満足でしかない。
・・・・だが、それをいえば・・・・
自分の行動原理に矛盾を感じながらも、彼女は迷わない。
やると決めたことは、必ずやり遂げる。
もう、二度と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・後悔しないために。
ぷしゅーーー
ドアが閉じる。すべての乗客を吐き出し、列車はしばしの休息にはいる。
ちらり、と午睡する列車を省みて ほんのすこし・・・羨ましげな表情をもらす紫。
だが、すぐに踵を返し
女の子の手を引き、まっすぐ前へと歩き出す。
そう、そのおんなのこ――――――――――“悠々子”のために。
どれだけ時間が掛かろうが、彼女と―――おなじ響きの名をもつこの子に、つらいおもいを させないために―――
・・・・・・・幽々子、ごめんね?貴方のきえた“あの場所”に着くのは・・・
――――ちょっと遅くなりそうだわ。
でも、必ず。 ・・・・かならずいくから。
――――もう、にどと こうかい しないために――――
彼女はとても弱く―――――つよいひと。
―――幻想郷でも
―――外の世界でも
―――今も
―――昔も。
・・・・そして、これからも。
紫が生前幽々子が消えた(死んだ場所に向かう日・命日)だと言う
事は解ったのですが、だからこそその場所に辿りついてからも、
オリキャラとの絡みも含めて見て見たかったかも。
妄想が連鎖したなら、一度立ち止まってストーリーを組み直せるか
どうかを推敲する事をお勧めします。
出来た作品を直ぐにUPしたいと言う気持ちは解りますが、もう
少し見つめ直すと、きっともう一ひねり二ひねり出てくると思い
ますよ。
しん様の歌うような文章は、私は大好きです。
一度完成された物語が見たいと思いますので、頑張って頂きたいです。
出来上がってからもうちょっと見直すとより良い文になると思います。