るんたった♪ るんたった♪
るんるんたった♪ るんたったー♪
楽しげな擬音が聞こえてきそうな程、愉快に山道を行く人影。
腕をぶんぶん振りまわしながら、意味不明の歌を口ずさみ、彼女は行く。
とっておきのおでかけ服、 薄手の白いワンピースが可愛らしい。
みじかく整えられた健康的な髪から ぴょこんと飛び出た黒いねこ耳、おしゃれなピアス。
歌にあわせてふるふると踊るしっぽ。・・・むしゃぶりつきたくなるほど素敵。
全身から「元気!!」と主張するような明るさを放つ彼女は
ふい と後ろをふりかえり、後方の保護者らしき少女に呼びかける。
「藍様、らんさまー。みてみて!ほら!あれ!!」
そう言いながら空を指差す。
元気のいい少女を暖かく見やりながら、少女――八雲 藍は空を見上げる。
「・・・・・・うわぁ・・・。おおきな雲ね・・・。ぷっ・・・あのかたち・・・紫様の鼻ちょうちんみたい。橙、そう思わない?」
「・・・・?あはははははは!ほんとだー。でっかいはなちょーちんだー!!藍様ひどーい!・・・紫様に言いつけちゃおっかなー?」
ぎくり と身をこわばらせる藍。あわてて橙に弁解を試みる。
「うそうそ!今の無し!!いくら人使いが荒くて、わがままばかり言って困るといっても紫様は私の主。そんなことは露ほども思ってないわ!」
「えー?ほんとかなー。この前も藍様『はぁ・・・紫様も、もう少し労わりの心を身につけてくれても・・・・・・はぁ~~~。』とか言ってたし!」
「・・・・!ち、橙!!からかわないでよ!も~」
「あはははは!藍様、顔色青いー。・・・・心配しなくても、誰にも言わないよ?だって・・・二人だけのひ・み・つだもんねー?」
見た感じ藍のほうが大人びているのに、無邪気そうにふるまう橙に 藍は翻弄されている。
橙の言動に困った顔をしながらも、まんざらではないようすの藍。
ときおり橙のみせる どきり とするような輝く笑顔に、内心―――ハァハァしっぱなしだ。
見ているほうが恥ずかしくなってくる程のあまあまぶり、辺りを舞う蝶でさえもその空気にあてられ ぼとぼと地面に墜落するかのような勢い。
完全に出来上がってるようすを「見ていられないぜ」と言わんばかりに、太陽はいつのまにか出てきた雲に顔を隠す。
藍がふと、我に帰り天を仰ぐ。
先ほどまでの晴天が嘘のように、空にはもくもくと雨雲が立ち込めている。
真剣な顔で呟く藍。
「・・・・・・一雨きそうね。」
「・・・・藍様なにかっこつけてるの?(でも・・・真剣な藍様って・・・素敵。)」
・
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・
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・・・どうしようも無いほど、二人の世界にはいってる彼女たちを嘲笑うかのように、空より水滴がしたたり堕ちる。
ポッリ
ポッポッ・・・
ポタタタタ・・・・・・
ドシャアァァアアアアアーーーーーーーー
山の天気と乙女心は変わりやすい。あっというまに雨は土砂降りになる。
ようやく我に帰り、あわてて雨宿りする藍と橙。
付近の山肌には、天の配采か こうなることを見越していたかのように、手ごろな洞窟がぽっかりと口を広げて待っていた。
これ幸いと、駆け込む二人。
ザァアアアアアアアアアアーーーーー
外の世界は一寸先もみえぬ大雨。
―――古の大洪水の再来か、とみまごう程の勢いだ。
さしずめ、この洞窟は箱舟といったところか。
崩壊した世界にふたりきり、取り残されたような面持ちで見詰め合う二人。
既に着ている服はびしょ濡れだ。
となれば、やることはひとつ。
そう、古より連綿と続く風習
すなわち・・・・・・
体を震わす橙。同じく震えながらも、心配そうに彼女を見やる藍。
―――藍は思う。
・・・このままでは、二人とも風邪をひいてしまう。
紫様がいない今・・・私がしっかりしなくては、橙は・・・
真剣に橙の身を案じる藍。
橙をみる眼が少しヤバイ。
ぶるるるる!?
寒気を感じた橙は、藍のほうを見る。
「・・・・・・らん、さま・・・?ど、どうしたの?ちょっと眼が怖いよ・・・!?」
荒い息をつきながら、藍は橙の問いに答える。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・橙。・・・・・フクヲヌイデ、コッチニキナサイ。」
「え?な、なに、よく聞こえなかったんだけど!?って、きゃあw」
おもむろに着衣を放りなげ、一瞬にして全裸になった藍。
手をぷるぷるとさせ、にじり寄る。・・・目指すは愛しい橙のもと。
(・・・・・・こ、こわい・・・。らんさま、ほ、ほんきだ・・・どどど、どうしよう!?こんな藍様、なんかちがうーーー!!!!)
「・・・・サア、チィエェェェン。コゴエタカラダヲ、アタタメアウノヨ?」
「ひっ!い、いやーー!!やめてー藍様ー!?正気にもどってーーーー!!」
眼から妖しいひかりをはなち、ハァァアアァァ・・・・と白い息を吐きながら、そのけものは かよわい少女のもとへ詰め寄る。
・・・じり ・・・じり
・・・じり ・・・じり。
クゥハァアアア・・・・・
興奮のあまり、口から青白い狐火を漏らし―――もはやスイッチの入ってしまった藍は、橙の目前に迫る。
どうなる橙
このまま最後までいっちゃうの?
やばいだろ、それは いくらなんでも
・・・嗚呼、その金毛九尾、白面の獣は 凶兆の黒猫の怯える様を 愉しげに見やり・・・
その恐怖を糧とするかのように ニタリ と嗤いながら 彼女に 手をかけ
ズバシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
唐突に、世界は真っ白に塗りつぶされた。
白い 白い 純白の光輝
いにしえの 邪悪より 世界を救いし 雷神のいかずち
ああ 聖なるかな 聖なるかな
ありとあらゆる邪悪をなぎ払うかのような 破邪の裂光は その山ごと ふたりを 消し飛ばす
光につつまれ、憑き物の落ちたかのような藍。
涙を浮かべ、藍に手をさしのべる橙。
刹那 ふたりのこころは つうじあい
互いに手を伸ばしながら・・・・・・白光に飲み込まれる。
~山麓のどこか~
両手を山・・・のあった方角へ差し出し、ちからの解放の余韻にひたる 黒い少女。
「~~~~くぅ~~っ!!爽快だぜ・・・・。さすが香林の新作・・・いままでの八卦炉とは桁違いだ・・・すごいぜ。」
そのようすに、あきれたように声を掛ける 寝巻きをきた、じと目の少女。
「・・・・・・・・・魔理沙。あなた、まるごと消し飛ばしちゃったら術の練習台にならないじゃない・・・・少しは加減しなさいよ。」
「ああ、すまんな、パチュリー。おまえのぶんまでやっちまったぜ、でも・・・ すごいだろ?これ。」
得意げに小さな物体をひけらかす魔理沙。
そんな魔理沙に向け、軽くためいきをつくパチュリー。
「・・・・・・もう・・・まだ私、水符しか試してないのに。貸し 一よ、魔理沙?」
「わはははは、今度 私の特製魔法薬でも持ってくるぜ。・・・んじゃ、まぁ 的も無くなったことだし、帰るか?パチュリー。」
「・・・・・そうね。はぁ・・・なんか疲れたわ。貴方ってどうして、こう・・・大雑把なのかしら。ブツブツ・・・・。」
ぼやくパチュリーの肩を ぽんぽんと叩き、魔理沙は機嫌よく箒にまたがる。
仲良くその場から飛び去るふたり。
後には“山だったもの”に埋もれる
しっかりと手を繋ぎあった
藍と
橙の
仲良く気絶するすがたが残された。
・・・後日、真相に気がついた八雲一家と
パチェ、魔理沙、アリスの結成した魔法研究サークル・・・通称“パリス”との
幻想郷中を巻き込む、熾烈な弾幕抗争があったとか なかったとか。
アリス「あれ?私は・・・?も、もしかして仲間はずれ!?い、いじめだわーーー!?」
続かないと思う。たぶん。