Coolier - 新生・東方創想話

センチョはね、水蜜って言うんだ。

2009/10/19 20:26:24
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「では、改めまして。
 わたくし、此処命蓮寺の住職を務める事と相成った、聖白蓮と申します。
 封印から解いて頂き自由になったとは言え、右も左もわからぬ不束者。今後ともどうぞ宜しくお願い致します」



 壇上の上、小さく頭を下げる聖を横目に、そっと立ち上がる。



「ひ、聖! その言い方はどうかと思います!?」
「と言うのは建前で」
「私の前でだけ言ってくナズーリィン!」
「ほ、星、大丈夫! 正体不明にしたから!」
「うぅありがとうぬえ。でも私はショウです」
「何がどう大丈夫なのか。ほら、星の番だよ」



 ……たぶん、気付かれていないだろう。



「え、あ、では、んぅ……。
 きらきら光るお星様、私の名前は寅丸星っ!
 って皆さんどん引きじゃないですかナズゥゥゥリィィィィン!?」



 愛でてるんじゃなかろうか。

 顔面を朱色に染める星を遠目に、微苦笑しつつも歩を進める。
 しゃ……――障子を開くと、小さな音がした。
 老朽化だろうか。

 思い、苦笑する。
 ある訳が、あり得る訳がない。
 この寺の土台は、船。聖が創りだした魔法の船。そう、私の聖輦船。

 私、村紗水蜜は、部屋に集まる皆に気付かれぬよう、そっと静かに外に出た――。





 聖を救出し、寺を建立し……慌ただしかった日々の締めくくり。それが今行われている宴会だ。
 此処、幻想郷ではそういうルールらしい。
 実際に、私たちとやり合った巫女や魔法使い、風祝が参加しているのだから間違いではないのだろう。
 他にも山の上の神々など、関係者がちらほらと。
 のみならず、偶々近くを通りかかった妖怪や人間にも門戸を開いている。

 完成した命蓮寺のお披露目……と言うよりは、単に賑やかな雰囲気を好む聖の意向を尊重しているのだ。





 中の喧騒とは対照的に、外は静寂で満ちていた。
 足を繰りだす度、耳に聞こえてくる音が遠ざかる。
 船首へと辿り着いた今や、無音に近いとすら感じた。

 どうするでもなく、私はただ、青暗い空を眺める。

 緩く吹く風に、髪が微かに揺れる。
 しけってしまうだろうか。
 思い、また微苦笑。

 是は海風じゃない。そも、此処は海じゃない。

 ――逃避から、無駄な感傷に浸っていると自身、思う。

 私とて宴会が嫌いなわけではない。
 人の身だった頃、港に着くたび催された酒宴は今尚胸に留めている。
 封印される前、聖輦船を操り空を駆けた後、仲間たちと飲む酒は格別だった。

 けれど……、――。

 私は、ポケットに突っ込んでいた帽子を引っ張りだし、深く被った。

「うわ!?」

 ――ら、引っ張られた。
 急な事に足の踏ん張りがきかず、傾く。
 重力に……いや、引く意志に逆らわず、私は倒れこんだ。

「ありゃ、えらい簡単に、っと」

 後ろ頭を直撃するのは、床の固さではなく、胸の柔らかさ。
 何時もより視線を上に見上げる。
 元より背は彼女の方が高い。

「貴女と解っていましたから」
「気配は消してたつもりなんだけど」
「聖だったら声をかけるでしょう?」
「星も、まぁ同じくか」
「ぬえならもっと驚かせるでしょうし」
「ナズーリンは甘い囁き」
「で、雲山だとすると――」
「――可能性もないわね」

 くすりと笑いあう。

「と言うのは後付けで」
「やっぱり気配消せてなかった?」
「いいえ。なんとなく、貴女だと思いました」

 一瞬キョトンとした後、



「一輪」



 一輪は小さく頷き、微笑む。

「一緒だね」
「何がです?」
「出ていったの、なんとなく、センチョだと思ったのよ」

 気付かれていたのか。
 そうなんだろうと素直に思う。
 その程度には、共に居る時を重ねてきた。

 私と同じく聖輦船もろとも封印された彼女とは、最も付き合いが長い。

 勿論――。

「雲山も、ですが」
「ん?」
「彼は?」
「自己紹介中」
「貴女抜きで?」
「一発芸も頼んどいた」

 鬼がいる。

「んな顔で見ないでよ」
「いえ、ですが」
「だってさ」
「‘だって‘?」
「センチョが戻ってくるまでの間だけだし」

 ……なるほど。いい返しをする。

 俯く私。
 帽子が抜き取られる。
 一輪は、両手を組み頭の上に乗せ、更に顎を乗せてきた。

 風景と同化したような一輪の青い髪が靡き、私の頬を擽る。

「室内じゃ、被り物は取らないとね」
「船内ですふぎぎ」
「むにむに」

 右頬を抓る手に、そんな可愛い音は合っていない。
 たまらず、私は手を重ねた。
 動きが止まる。

「戻らなくては……いけませんか」

 発した呟きは、自身、呟きなのか問いなのか、わからなかった。

「そりゃね。センチョも当然、愉快な命蓮寺一家の一員なんだし」
「その言い方、星がまた泣きますよ?」
「姐さんが言い始めたんだよ」

 だから泣くんですってば。

 微苦笑する私に、あっけらかんとした笑い声をあげる一輪。
 薄暗い空は、むすりとした雲山の代役の様だ。
 幾重にも交わしたやり取りが此処にある。

 だけれど……いや、だから――。

「一輪は、知っているでしょう?」

 無言。
 代わりとばかりに手を握られる。
 力の割には細い、けれど、長くしっかりとした指。

 肯定と受け取り、続けた。

「私の、忌まわしい過去を……」

 強められる力。
 痛みは、込められた思いか。
 振りほどく事もせず、ただ受け入れた。

 ――すると、微苦笑。

「相変わらず、生真面目だね」

 要領がいいとは言え、基本的には真面目な一輪。
 そんな彼女に呆れた風に言われるのだから、よっぽどなのだろう。
 しかし、事は真面目不真面目で語るものではない。少なくとも、私はそう思う。

 伝えようと口を開く――

「センチョは……いや、」

 ――直前、くるりと振り向かされた。
 一輪の顔が、視界を埋める。
 ゆっくりと口が開かれた。



「水蜜はさ」



 はっきりと、私の名を呼ぶ。
 微笑みに鼓動が走る。
 拙いと思った。

「そ、んな、事……!」

 反論。
 意味がないと内で叫ぶ。
 この表情を見せる一輪は、引かない。

 雲山を頑固親父と呼ぶ彼女だったが、自身、相当な頑固者だ。

「とりあえず、聞いてよ。
 わかってると思うけど、うん、私は知っている。
 水蜜が忌まわしいと思っているなら、そうなんだろうね」

 とりあえずも、何も――



「……姐さんじゃないからね、私は難しい事なんて言えない。

 だけど、ねぇ。
 ソレを知っている私たちは、今でも傍にいるわ。
 うぅん。きっとずっと、一緒。私は、そうだったらいいなって、想う。

 できれば、此処で――この、幻想郷でね。

 貴女は、どう思う? 水蜜」



 ――貴女は、一気に決めるつもりでしょうに。

「だから、水蜜にもちゃんと、自己……なに、急に笑って」
「なに……って。その問い方はずるいんじゃないですか」
「否定されるなんて思ってないから。要領いいでしょ」
「あの、自分で言わないで下さいよ」
「生き残る術は是しかないのよ!」

 何の話か。

 吠える一輪。
 私はくすくすと笑う。
 幾重にも交わしたやり取りは、あぁ、やはり此処にある。

 暫く笑った後、手に力を込め、彼女の意思を此方に促した。

「帽子、返してもらえますか?」
「決めたつもりだったんだけど」
「被っていた方が解り易いでしょうから」
「……ん、そだね」
「でも……詰まったらフォローしてくださいね」

 肩に触れていた手が、そぅ……と口に触れる。

「じゃあ、いけない唇にお仕置きを」

 それはフォローじゃない。

 睨むと、一輪はまたけらけらと笑った。

「なら、上手くいったら褒美をもらえるんですか?」
「へ? あー、考えてなかった。何がいい?」
「もぅ……――戻りましょう」

 繋いでいた手を引く。
 よろける一輪だったが、すぐに足取りを確かにした。
 けれど、よろけたと言う事は、本当に考えてなくて、つまり、今、考えていたと言う事。

 こんな時だけ、要領が悪いんだから……。



 呟きは、きっとまた、届かない――。





 室内に戻ると、聖がレオタードに星が緑色の服に着替え、壇上で騒いでいた。え?

「いっけぇぇぇ星、ハイッパァァァ独鈷杵よぉぉぉぉ!」
「な、南無三っ!!」

 え、何?

「リグルさん! リグルさんは何処!?」
「わ、急に何よ早苗」
「虫型だからか。造形は良くないが、店にあるぜ」
「君が勝手に置いていったんだろう」

 目を輝かせる風祝とは対照的に、突っ込む巫女はうろんげだった。

 けれど、概ね好評なようだ。
 割れんばかりの拍手がフタリへと降り注ぐ。
 ネタが解っていると言うよりは、聖の大胆な衣装と星の羞恥に染まる表情に乾杯と言ったところ。

 或いは完敗か。

 行われているのは一発芸で、どうと言う事もなく雲山がその場を明け渡したのだろう。
 それが証拠に、先に終わっていたと思われる、ナズーリンとぬえも一息ついている。
 喉を鳴らすナズーリンの周りには静電気が視覚でき、詰まるところ《正体不明》。

 そして、頑固親父の気配が此方に近づいてくる。
 一輪が空いている左手をあげた。
 ぱぁんっと乾いた音。



 とても大きくて、広い室内を隈なく響き渡った。



 目が向けられる。

 仲間たちの。
 妖怪たちの。
 人間たちの。



「お集まり頂いた皆さん、お待たせいたしました。
 彼女が、今宵紹介する最後のヒトリ。
 さぁ――」



 聖の音頭に、唾を飲み込む。

 とん、と小さく背を叩かれた。

 叩いたのは、無論、微笑む一輪。



 大丈夫――こくりと頷き、私は口を開いた。



「初めまして。舟幽霊にして、この聖輦船の船長を任せて頂いている、村紗――」



 だって、私も、此処で、ずっと一緒にいたいから。





「――村紗みなみちゅと申します」





 ……。
 …………。
 ………………。

 また、やっちゃった……!



「――センチョはね。
 水蜜って言うんだほんとはね。
 だけどちっぱいから自分の事みなみちゅって呼ぶんだよ」

「それがフォローのつもりですか、いちりぃぃぃん!?」

「可愛いね、水蜜」

「ヤだ嬉しい。じゃないっ!
 あと、誰がちっぱいですか!?
 大きくはありませんが星ほど小さくもないです!!」

「うぉぉぉぉぉい、村紗!?」
「おぉ。これぞ正しく道連れアンカー」
「ナズ、手を打ってないで! ムラサ、星、正体不明になぁれ!」

 雲山が覆ってくれました。たぶん、意味ない。



 騒ぐ私たち。
 乗じる人妖。
 手を合わせる聖。



 ‘超人‘化していた彼女の打ち鳴らす音は大きく、私も含め、一同の視線が向けられた。



「私が寺に居た頃から――人間と妖怪は変わったのかもしれません」

 傍の瓶を掴み、

「誠に賑やかで和顔愛語である!」

 唇にあて、

「いざ、南無三――!!」

 一気に流し込んだ。



 湧き上がる室内。
 そんな中、そっと引かれる手。
 振り向くと、外の空の様な青い髪が頬を擽った。



 あぁ、そうか。
 やはり貴女は要領がいい。
 さっきの、訂正しますね、一輪。



「可愛いよ、水蜜」



 返そうとした言葉は、当然の様に、音にならなかった――。











                      <了>
「みなみつ」って言いにくくないですか。四十二度目まして。

えっと。
船長と一輪のシリアス話の合い間に書いてたら、こっちが先に完成しました。
だって筆休めに本篇やってたら船長自分の名前いわねぇんだもん(文章が繋がっていません。

船長はダウナー系天然で、沈み過ぎないようにするのが一輪。何と言うか、先任伍長。私のイメージです。

あと。名前ネタなので、この際。‘みちしるべ‘です。

以上
道標
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コメント



0.1400簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
みなみちゅ…いいな
6.90名前が無い程度の能力削除
てっきり今まで‘どひょう’かと思っ(ry

いやぁ,相変わらずテンポのよさと小ネタが光るw
船長と一輪のシリアス楽しみにしております。
11.100名前が無い程度の能力削除
これはいい一輪とみなみちゅ。
この二人の絡みはもっと増えるべきだと思います。
12.100奇声を発する程度の能力削除
これは良いみなみちゅwwww
14.90名前が無い程度の能力削除
ナイスフォローです、一輪さん。
16.100名前が無い程度の能力削除
ムラいち増えるといいなぁ、と思っていたら良い一輪さんとみなみちゅセンチョ。
シリアス楽しみにしてます。
21.100名前が無い程度の能力削除
そしてやはり最後はおっぱいwww
25.100名前が無い程度の能力削除
これはいいコンビ!シリアスも楽しみです。
26.80喉飴削除
このコンビは良いですねえ。実に良いです。
この楽しそうな雰囲気、キャラみんな可愛いですし、面白かったです。
30.100名前が無い程度の能力削除
みなみちゅかわいいなw
このふたりいいコンビですわ。
37.100名前が無い程度の能力削除
一輪とムラサ、この2人の絡みは大好きです。
それとこのssの雰囲気も大好きです!
シリアスの方も楽しみにしてますね!