Coolier - 新生・東方創想話

とどかざるもの

2009/10/19 01:14:59
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 楽園というものを定義するとしたら、私たちはどんなものをイメージするだろうか。

 毎日が楽しくて時間を忘れてしまう場所。
 外敵が存在せず、毎日お腹一杯ご飯を食べられる場所。
 誰も悲しまず、笑顔だけがあり続ける場所。

 それでも、現実的な考えをする人はこう言うだろう。
 誰も辿り着けないから楽園なのだ、と。
 辿り着けてしまったら、きっと。

 後悔することに、なってしまうから。




 



 明かりの無い世界。
 それでいて、何故かその場にいる彼女たちのは他者の存在をしることができる。
 だってそこは、まだ世界のどこにも生まれていない場所で。
 四大元素の定義さえ、終わっていない世界で。

 そんな、本来生まれるはずの無い世界の中。その世界の中心に浮かび上がった金髪の長い髪を持った女性は、自分を囲むように円状に広がる他の者に聞こえるよう、静かながら通りの良い声を響かせる。自分たちが、何故ここにいるのかを確認するように。

「……お忙しい中、お集まりいただき感謝を申し上げます」

 自分の衣服の裾を掴み、自分を囲む一人一人に丁寧にお辞儀を繰り返していく。
 普段の彼女からは想像できない、そんな丁寧な対応に彼女たちは改めて認識させられる。
 彼女が、本気であるということを。

「本当で一人一人に、細かな確認を行いたいところなのですが。
 懸命なあなたたちであれば、私の考えなどわかりきっているでしょう?
 先日お配りした、あの手紙の内容を読んでいただけたのであれば……」

 そして、わざわざこんな世界に招いたこと。
 それだけで、彼女たち以外に知られたくないという意思が伝わってくるのだから。

「茶番はいい、早く本題に入ってくれないかしら?
 あまり私が屋敷を空けていると、私のメイドが怪しむ」

 薄い桃色の服を着た、幼い吸血鬼が空中に浮いたまま足を組み、生み出したコウモリを使って肘を付いていた。退屈だから話を急かしたわけではない。彼女は、この提案に一番強く興味を示したもの。幼いからこそ、この誘いに一番早く首を縦に振ったもの。
 だから、早く結論が聞きたくてしょうがないのだろう。

「ええ、そうよね。
 私も長々と話をするつもりはない。
 この計画には、あなたたち全員の協力がいるんだもの。一人でも拒否したらこの計画は全てお終い。いつもと同じ毎日を過ごすだけ」

 光の無い世界なのに、全員が全員。その姿と表情を把握できる。
 そんな不可思議な世界。

 もったいぶった口調の大妖怪は、口元を笑みの形に歪めて……
 高らかに宣言する。


「私は、この世界を境界で切り離し、一つの区切りを作りましょう」


 その言葉を受けて、その正面に居た女性が扇子で口元を隠したまま。
 軽く目を伏せて続く。
 静かに、それでも何かを決意するように。


「なら、私はその世界に、新しい命を運びましょう。
 幽霊や霊体へ変換して。もしくは、死亡するはずの命を、かしらねぇ」


 間延びした口調、それでいて意志の強さをかんじさせる言葉。
 それに続いて、黒髪の姫君が長い髪を手で掻き上げながら、鼻を鳴らす。


「境界だけでは、世界を分けるのは不完全。
 何せ時間という大切なものがかけているのだから。
 だから私が、世界を幻想郷の時の流れから切り離し、刹那を永遠として差し上げます」

「では、私は姫様の補助と。
 命が生まれやすいよう世界のバランスを計算し、適した薬を作り上げましょう」

 
 黒い髪の姫君の横に立つ、銀色の神の女性が静かにつぶやく。
 そして土壌という言葉を聞いて、穏やかな微笑を浮かべる緑の髪の女性が、日傘をくるくる回しながら声を上げる。


「なら、大地には緑が必要ね。
 人間や他の妖怪ごときの食料として草花の命が奪われるのは癪だけれど、私の住処を一画に作ってくれるならよろこんで♪」


 
 しかしそれは不思議とその空間に融け、全員の耳に響いた。
 そしてとうとう、話を急かした幼い吸血鬼が紅い目を輝かせる。


「そして私が、世界の運命を狂わせて。
 それが本来のあるべき姿だと、勘違いさせる。
 その膨大な魔力の補助として必要なのが……」

「私ということよ、レミィ」
  
 そこまで微動だにせずに読書を続けていた魔法使いが本から顔を上げ、半眼を親友へと向けていた。それを批判と受け取ったのか、吸血鬼は自信満々に自分の胸に手を当て、横に並ぶ魔法使いへと視線を送る。

「大丈夫よ、私の運命であの小ざかしい閻魔や死神すらこの手の中で躍らせてやる。
 誰にも気付かれないように、確実に」

「……まだ実行すると決まったわけではないでしょう?
 レミィがやりたいというのなら私はそれに従うけれど……
 まだ、自分のすることを理解していながら、声を上げていない人が居るじゃない」

 魔法使いの声が途切れるのと同時に、その場の全員の目が残る一人に集中する。
 黒い、真っ暗な闇の中。
 その指先に炎を遊ばせていた一人の女性へと……

「わかってるわ、自分がどんな役割を求められてここにいるかくらい。
 私がどれほど、重要な位置にいるか……わかってる」

 そう言うと、指先に灯していた火を腕を振ることで消し。
 視線から逃れるように、その場から離れていく。

「しかし、あなたたちはいいの?
 こんなことを少人数で、しかも他の当事者たちにはなんの連絡も無い……
 そんなことを簡単に、決められるわけない」

 両手をポケットの中に突っ込み、長い髪を揺らして立ち去ろうとするその少女。
 その背中へはある種敵意のような視線が一つ向けられていた。
 おそらくそれは、あの幼い吸血鬼のもの。
 それができると知ってしまったから、どうしてもそれを求めたいという。幼い感情。

 しかし、この会合の主催者は、その敵意を広げた傘で隠すようにして……

「そう、この話を承諾するかどうかは個人の自由。
 たとえ実行できなくても恨みっこなしですもの。
 コレは単なる一つの提案。あなたの良心が痛むのであれば、断っていただいても一向に構いませんわ。でも、そんな中途半端な回答では困ります。
 ちゃんと肯定か否定、どちらかの意思をお示しくださいな」

「……少し時間が欲しいの、ただそれだけ」

「では、10日間、じっくり考えて答えを教えていただこうかしら」

 どちらでもかまわない。それは本心からか、それとも偽りか。
 彼女の表情からはそれは掴めなかったが……
 この会合を開催した時点で、彼女の天秤がどちらに傾いているかは明らかであろう。
 そして……同様に……

「ここに来た時点で、あなたの心も傾き始めていると思ったのですけれど」

「……うるさい。
 少しくらい、静かに考えさせてよ」

 それだけ答えた、薄い青の髪の少女の前に主催者は隙間を開き、彼女を竹林へと飛ばす。

 

 見慣れた、青竹が囲う風景の元に落とされた彼女は……
 ただ空を見上げ……

「どうありたいかなんて、そんなものずっと前から決まってるよ。
 でも、それを求めたら……」
 
 緑の天井で覆われ、瞳に映らない空を見上げて、届かない想いを口にしたのだった。






 

 隙間妖怪が求めた期日。
 それまでに答えを準備しないといけない。
 それを知りながら、その少女 藤原 妹紅 は普段と変わらない生活を過ごしていた。ほとんどを竹林の中で過ごし、ときには永遠亭に行きたいという人間を案内する。特別なことは何もしない。日常の生活の中でじっくりと考えれば、答えが自然と浮かんでくるかもしれないと、そんな消極的な希望の元で今日も竹林の中を散歩していた。

 それでも、彼女が求める答えは心の中から湧き出てこない。
 空を見上げても、当然だが振ってくることもない。

「……真剣に考える、か」

 気付けば、すでに7日が経過していて……
 焦りよりも先に諦めが心の中を支配しそうだった。あの隙間……八雲 紫が考えろといっていた内容は妹紅にとって一番考えたくない内容。

 彼女だけではない。
 おそらくあの場に居る誰もが、そうなのだ。
 考えたくないから、それを想像したくないから。馬鹿げた幻想を作り出そうとしている。そして妹紅の中にもそんな馬鹿なことを作り出したいという想いがあった。
 だから……あの手紙。


『本当の楽園を……作り出したいと思いませんか?』


 その言葉と、楽園の内容が書かれたあの手紙に……
 目と心を、奪われた。
 でも、あの場にいる面々と自分の姿を重ね合わせて、少しだけ冷えた頭で考えたら。
 急に手が震えてきた。その震えを誤魔化すために、指ではなく炎に他の者の視線が集中するようにして、素早く手をポケットに入れたのだから。


「はあ、まったくお月様はノンキなものね。
 こんな夜にもいつもと変わらず上がってくるのだから」

 あの会合のことを思い出しながら歩いていると、いつの間にか竹林の出口まで到着してしまっていて、開けた視界の上端には黄色い月が浮かんでいた。周囲をまぶしいくらいに照らす『満月』が。こんなムカムカした夜は輝夜と弾幕勝負でもして気を晴らすのが一番なのだが……
 どうしても参加者の名前を思い出すと、戦う気にもなれなかった。
 明るい月の下に居るというのに、どこかわからない。暗い影の中へと心を持っていかれそうになる感覚。気だるさを全身に纏いながら、妹紅は竹林の近くにある丘へと足を向けたのだった。






 その丘には、いつもは遅いはずの先客が居た。
 普段は薄い青色のはずの髪の毛を、満月の夜だけ緑に染める、上白沢 慧音。満月のときだけ獣人の血が色濃く外に出てしまい、角と尻尾が出現してしまう。
 そんな彼女が満月を見上げながら腰を下ろし、膝を両手で抱え……
 何かを待ちわびるように、スカートの裾から覗く尻尾で、ぺたん、ぺたんっとリズムよく地面を叩いていた。
 その後ろから、妹紅は音を立てないようにゆっくりと歩を進め……
 もう少しで手が触れそうになるくらいの位置から指を振る。

 すると……

 ボゥッ

「う、うわぁ……!?」

 慧音の目の前にいきなり火の玉が現れてそれが、破裂。
 驚いた彼女は迷わず後ろへと後退し、その頭をゴンっと固いものにぶつける。
 混乱する頭を整理することなく、尻餅をついたような体勢で上を見上げると。

「ずいぶん色気の無い悲鳴ね」

 指をゆっくり横に振りながら、微笑む知った顔をそこにあった。
 しかも、うっすら笑みを浮かべている。 

「……うるさいな。
 それに、いつからそんないたずら好きになったんだろうね。永遠亭の兎の病気がうつったのかな?」

 頬を恥ずかしさで薄く染め、目を細めて非難してくる慧音。
 そんな姿を純粋に微笑ましく思いながら、妹紅は小さく頭を下げてからその横に腰を下ろす。すると少しだけ慧音がその身を自分に寄せてきて……
 いつもにはない行動に妹紅は内心驚きつつ、平静を装うように小さく息を吐いた。

「今日はずいぶんと早いのね いつもならまだ人里を護っている時間じゃない?
 あ、それとも歴史の整理中だっけ?」
「ん、歴史の作業は今日は早めにおわったよ。
 人里の方は隠してから、霊夢にお願いしてきた。
 本業だし、ある程度の賃金を払うと約束してね」
「ああ、なるほどね。確かにそれなら安全だ」

 慧音は人里で寺子屋を開きながら、好意で護衛も行っている。八雲紫が人里の人間を襲ってはいけないと妖怪に決まりごとを施し、さらに慧音が護衛をつとめる。二重の守りがあるようなもの。さらには、慧音が自分の能力をフル活用している状態、そんな忙しい状態の彼女がいる人里に近づこうものなら……
 ハクタク化した慧音にぼろ切れのように扱われかねない。
 だから、満月の夜で興奮した状態でも、妖怪たちは迂闊に人里周辺をうろつくことができないわけだ。今夜はその代わりを霊夢がやってくれているという。

 なら、今日はゆっくりできるんだな、と妹紅が心の中でつぶやきその丘に寝そべったとき。
 慧音が月を見上げながら、お決まりの質問を聞いてくる。
 その尻尾をスカートの中にしまい込みながら。

「なあ、妹紅。正直言ってくれていいんだが、私のこの姿は醜いと思うかな?」
「……あのねぇ、慧音。
 その姿になる度に同じこと聞いてるけど、飽きない?」
「すまん、この姿に変わる度自信がなくなるんだよ。
 人間にはあるはずのない二本の角と、獣のような尻尾。妹紅は一緒に居てくれるが、本当は同情しているだけで……本当は嫌なんじゃないか、とね」
「……まったく、いい加減怒るよ。
 だから言っているでしょ。慧音は十分魅力的だって、人間から見ても、たぶん妖怪から見ても」
「……はは、そうか。でもあまり妖怪の男性には好かれたくないなぁ」
「わからないわよ。ほら、妖怪でも人間より男前なのいるかもしれないし。
 私は見たことないけど」

 いつものやり取り、それを繰り返したことで慧音は少しだけ安心したのか。
 さっきしまい込んだ尻尾をおずおずと取り出し、妹紅の手元にぺたんっと置いた。そしてそれをゆっくりと手の甲に乗せて……
 ぺんぺんっと一定のリズムで叩き始めた。
 さきほど、地面を叩いているときと同じリズムだというのに、ずいぶんその背中が楽しそうに見える。寝転びながらその背中を見つめていた妹紅は、見た目だけなら大人に見える女性の甘える仕草に表情を綻ばせた。

「ところで、妹紅。最近人里で見ないが、何か悩み事でもあるのか?」
「……いや、別に。それになんで私が人里に行かないと悩み事をしていることになるのよ」

 いきなりと言えばいきなりの質問。
 一瞬妹紅は、紫から言われた提案が頭をよぎるが……
 知らないはずの慧音がそのことを質問してくるはずがない。心拍数の上がった胸を気にしつつ彼女の言葉の続きを待った。
 そんな彼女に慧音は月明かりを浴びた顔を半分だけ後ろに向けてくる。

「そうだなぁ、ほら、妹紅は悩み事や困ったことがあると一人で抱え込む癖があるだろう?
 この前も輝夜との戦いで負けてから、30日くらい竹林から出てこなかったじゃないか」
「……なんで、そんな日数まで覚えてるのよ」
「ちょうど月が一周したときだったからな、わかりやすかったよ。
 あのときは確か、ボロボロの服で笑いながら。
 第一声が『あ~~すっきりした!』だったから。本当にわかりやすかった」
「……もう、さっき脅かしたの仕返しのつもり?」
「じゃあ、そういうことにしておこうかな♪」

 月に照らされながら、口元に手を当てて笑う彼女。
 その姿は獣人という野生を感じさせない、純粋に嬉しさや楽しさから出る、魅力的な女性の微笑み。妹紅は、その横顔に魅入られてしまったかのようにじっと……
 無言で彼女を見つめ……

 あの夜の。
 あの会合の場に居た、吸血鬼の少女の心を知る。

 これを失いたくないんだ。
 ただ、この時間を失いたくないんだ。
 毎日笑って暮らす、笑顔だけがあり続ける場所を失いたくないんだ。

「ね、ねぇ、慧音。
 私も昔、少し前に尋ねたことを聞いてみたいんだけどさ」

 だから、尋ねる。
 口の中を緊張でカラカラにしながら、それでも気付かれないように……
 でも、少しだけ潤んだ瞳のせいか……

 ほんの少しだけ、声が震えていた。

「永遠の命、というものに心惹かれることはない?」

 たったそれだけの質問をするだけなのに、心が揺れる。
 聞いてはいけないんじゃないかと、彼女を巻き込むことになると。
 心が警鐘を鳴らし続け、頭の中でもう一人の自分が、自分を貶し続ける。


 卑怯者、と。


 それでも、そんな妹紅の言葉を慧音は、微笑みながら受け取り。
 もう一度、月を見上げながら……

 ぎゅっと、尻尾で妹紅の手を押さえつけた。


「妹紅、出会いとは素晴らしいものだ。
 そうは思わないか?」
「……え? ああ、うん……」

 求めた居た答えとは違う、いや、回答ではなく質問が飛んできたことで気の抜けた返事を返してしまう。その返事を慧音は同意と受け取り言葉を続ける。
 ゆっくりと、ゆっくりと、寺子屋の子供に伝えるように。

「あの子ともっと仲良くなりたい。
 あの子ともっと一緒にいたい。
 ずっと、ずっとこれからも一緒に…… 側にいたいという人物に出会ったとき、少なからずそう感じるものだ。でもな、妹紅。私たちは、知っている。
 考えないだけで、頭は理解しているんだよ」
 
 そう、頭で理解しているからこそ。
 誰かをいとおしいと感じたとき、誰もがそのことを忘れてしまう。

「いつか別れることを……
 別れがあることを知っているから、今いる時間を大切にしたいと心から願う。
 ……すまないな、妹紅。
 答えになっていないかもしれないが、これで勘弁してはくれないか?」

「ああ、そうだね。それで十分だ」

 消極的な否定。
 できるだけ、妹紅を傷つけないように、言葉を選びながら吐き出した言葉、これを告げた彼女は一体どんな顔をしているか。
 そんなことを考えるだけで、妹紅の胸は小さく痛んだ。
 こんなことを質問したら、彼女が困ることくらいわかっていたのに。

「……すまない、私は弱い女だよ。
 お前と少しでも長くいたいと願いながら、きっと耐えられない。
 私と親しい里の人が、私よりもどんどん先に死んでいく……
 ハクタクの血を引いているから、今の状態でも私より先に死んでいくものは大勢いるだろう。それを考えるだけでも心が苦しいというのに……
 永遠の命を手に入れてそれがずっと続くと思ったら……
 人里の人たちが異質な目で見るかと思ったら……
 怖いんだよ……怖いんだよぉ……」

 人間が好きな彼女は、人里を捨てられない。
 だから、人里の人間に奇妙な目で見られることを心の奥底で酷く恐怖する。

 妹紅はとうとう耐えられなくなり、上半身を一気に起こすと。子供のように弱々しく言葉を発する慧音の顔を自分の胸に押し付けた。胸に広がる暖かな液体。
 それを感じながら、妹は満月を高く見上げる。


 八雲 紫の問いかけ……
 それに対する彼女の答えは、ここで決まった。
  









「さあ、あなたの回答を教えてくださるかしら?」


 あれから10日後、妹紅がいる竹林にいきなり隙間が開かれ、またあの空間に招待された。
 まだ生まれる前の、作り始めの世界。

 そこは、幻想郷の中の、幻想世界。
 誰もが、笑って暮らせるように。
 誰もが、悲しまないように。

 永遠を約束された閉じた世界。


 八雲 紫 が境界で世界を定義し。

 西行寺 幽々子 が命を移し。

 蓬莱山 輝夜 が時を分け。

 八意 永琳 が大地のバランスを調整し。

 風見 幽香 が緑を生み。

 レミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジ がそんな馬鹿げた世界があると、運命に認めさせる。


 でも、それだけでは足りない。
 これでは足りない。
 一方向だけでは、いつか終わってしまう。

 だから、終わる前に、世界を元に。
 

 最初の状態に『再生』しなくてはいけない。


 だからこそ、人間でありながら蓬莱の呪いに長時間侵された彼女の力が。
 藤原 妹紅の力が必要なのだ。


 だから、配られた手紙にはこう書かれていた。


『本当の楽園を……作り出したいと思いませんか?
 あなたの大切な隣人を失わない。
 そんな真の楽園の構築。
 そのためには、あなたの力が必要なのです』、と。


 確かにそれは、心躍る内容。
 それでも、冷静に考えればその世界は偽りの永遠。
 ただ、同じ時間を繰り返すだけの……
 楽園という名の牢獄。
 
 そんなところに……

 妹紅は、その手紙を高く掲げ、中央に居座る八雲 紫に見せた。
 すでに答えなんて決まっていたから。
 後は、その決意を示すだけでいい。

  
 妹紅は、ただ一瞬だけ手に力を込めて。


 ボウっと


 その手紙を一瞬で焼き尽くす。
 灰になり、目の前を落ちていく切れ端を満足そうに見つめて、妹紅は炎を纏った腕を振る。そして驚くでもなく、ただ淡々とその様子を見下ろす、大妖怪を指差し……
 

「永遠っていうのは、禁忌なんだよ。私がその証拠だろ?」


 晴れ晴れとした笑顔で、そう答えた。
 
 
 読んでいただきありがとうございます。

 分類に自己設定とか二次設定というものを入れたほうがいいでしょうかね。一応寿命というものを考える作品にしてみたのですが。

 誰でも隣人を失いたくないという、そんな意思がある。
 けれども、そのときを止められない。
 止められないならば、作ればいい。

 そんな単純な考えで幻想郷の中に都合のいい幻想郷を作ろうとする。という作品でした。
 それでも永遠の苦しみを知り尽くした彼女だけは、というお話にさせていただきましたのです。
 
pys
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コメント



0.530簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
けねもこは癒されるなぁ
妹紅はこうでなくちゃな
2.70名前が無い程度の能力削除
レミリア辺りからは、報復がきそうな
そんな感じの続編も期待w

誤字報告
この姿に変わる度自身が>この姿に変わる度自信が
ね、ねぇ、妹紅。>流れからいって、慧音では?
5.無評価名前が無い程度の能力削除
>1さん
 あまりこういう恋人のような描写というものを書いたことがないので、あまり自信がなかったのですが、楽しんでいただけたなら幸いです。

>2さん
 おぜぅさまは、どうしてもあの人と一緒にいたいようで。
 というのを表現させていただきました。
 ……続くかなぁ?w

 誤字報告ありがとうございましたっノ 申し訳ない。