注意事項
このお話には幻想郷縁起が関係しているため、都合上「東方花映塚」のキャラクターまでしか出ていません。
またタイトルにある「大と並」の解釈には独自の設定も入っています。
上記の内容を確認してOKであれば下へお進み下さい。
大と並の境1
今は朝が少し過ぎたところ。
今日も空は青空が広がっており、一日中過ごしやすい天気を約束するかのような快晴であった。
心地よい風が強すぎず、弱すぎず緩やかに吹いており、道に咲く花や木の葉がサワサワと静かに揺れていた。
そんな頃に人里の入り口で少女三人が仲良くおしゃべりをしていた。
それは特別ではなく、普段ここではよく見かける光景である。その為に誰もそのようなことには気にかけない日常である。
最も少女には違いないが若干人間ではないのが混ざっているがそんなことは関係ない。
「それでは先に行っていますね」
そういうと少女はビュンとその場を立ち去った。
まるで弓から放たれた矢のごとくの早さである。
「おーい、あまりここでは飛ぶな。他人に迷惑がかかるだろう」
「遅いって、もう行っちゃたよ」
残された少女たちの一人は唸り、一人は苦笑した。
◆◆◆
今日も人里はたくさんの人で賑わっている。
今日はホウレン草が安いよー、と威勢のいい声を上げる八百屋の親父がいれば、向かいの魚屋も負けじと声を夕飯は鮎で決まりだー、と上げていた。
その通りを通る人は色々な商品に目を配りながら楽しんで通っていた。
その中を一人の少女が間をぬう様に抜けていった。
もちろん誰一人にもぶつからずに。この少女にそんな失敗はしないだろう。
「さて、何かいいネタが聞けるといいのですが…」
黒髪の少女は誰に言うでもなくつぶやいた。
彼女の名前は射命丸 文。
鴉天狗の一人で文々。新聞の発行者である。
主に住処である妖怪の山とここ、人里に自分の新聞を見てもらうことを生業としている妖怪だ。
そのため人里では他の鴉天狗に比べて普段から多くの人に目撃されているので
『里に最も近い天狗』と言う二つ名がついている。
今日はここで新聞に載せるネタを探しに来たのだが
「慧音さんたちは何も持ってなかったからなぁ~」
先のやり取りを思い出した。楽しい世間話はできたのだが、残念ながら何も聞けなかった。
そこで先ほどの少女が一人、上白沢 慧音が
「わたしは後で阿求殿のところにお邪魔になる予定だが、そんなにネタがないのなら、彼女のところに行ってみたらどうだ?何か面白い話でも聞けるかもしれないぞ?」
言っていたので文も便乗させてもらうことになった。
当面の目的は阿求の家に向かい、何かしらネタを頂くことになった。
ただ、慧音は用事があるらしく後でから行くことになったので、便乗なのに先に行ってしまうということになったのだ。
商店街を抜け住宅地のある一角に迫った時
「…っとと、行き過ぎました」
文は目的地に着いた。
そこには大きな日本家屋がこれ見よがしと立派に佇んでいた。
「相も変わらず立派なお屋敷ですねぇ。さすが良家のお嬢様」
感嘆の声を上げた。
「ごめんくださ~い」
間延びのある声を上げると
「はい、どちらさまでしょうか」
出てきたのはお手伝いさんだった。
「こんにちは。文々。新聞の射命丸ですが、阿求さんはいますか?もしいればお取次ぎをお願いしたいのですが」
「ええ、いらっしゃいますが…少々お待ち下さい」
お手伝いさんが確認しに行った。
さて突然の訪問を阿求さんは受け入れてくれるだろうか、と
思案していると
「どうぞおあがり下さい」
「ありがとうございます」
笑顔で答えた。
どうやら彼女から了承が降りたようだ。
とりあえず無駄足にはならなくなったので、何とかネタを引き出せるように作戦を練りましょうか、考えながらお手伝いさんについていった。
◆◆◆
「こんにちは、文さん」
案内された部屋には一人の少女、稗田 阿求が文机の前に正座していた。
彼女は御阿礼の子で一度見た聴いた事を全て覚える程度の能力者であり、それは初代から阿求の代までの事柄を全て覚えている特異の少女である。
「どうも、こんにちは。突然ですみませんね」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ今日は慧音さんたちが来ることになっているので…」
「ああ、問題ないですよ。さっき慧音さんたちと話していましたし。それと慧音さんから少し遅れるとのことです」
「そうですか、わかりました。それでは来るまでお茶菓子でもいかがですか?おいしいですよ」
「そうですね…では、いただきます」
文はうれしそうに饅頭を一個ほおばった。
それを微笑みながら阿求が見ていると
「そういえば文さんはどのようなご用事があるのでしょうか」
「あ、それはですねぇ、実は今度文々。新聞に載せようと思うネタが何もなくてですね、阿求さんなら何か持っているんじゃないかと思ったのですが」
「う~ん、ないこともないのですが…」
「もう何でもいいんです、ホントに何でも。このままじゃ不味いんですよ~」
さっきまで明るかった文の顔が徐々に暗くなって阿求に抱きついた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください、文さん!?ストップ、ストップ!」
「…ヒック、ウワ~ン」
もう…すごい泣きようである。結構切羽詰っているらしい。
「慧音さんが、…ヒック…阿求殿なら助けてくれる。阿求殿を…ヒック…頼れ、阿求殿を信じろって…フェッ…いうもんですから、もうあなたしか頼れないんですよぉ~」
「分かりました、分かりましたから離れてくださ~い!慧音さん、なんでこの人を私に押し付けるんですか~。しかもいい加減なことを言って~」
もみくちゃになり、阿求が天を仰ぎ友人に不平を言っていると
「誰がそんなことを言った、誰が」
文の首根っこを掴み、阿求から引き剥がすものがいた。
「あ、慧音さん」
「『あ、慧音さん』じゃないだろう!?お前はいったい何をしているんだ!?」
「いやこうでもすれば何かしら出してくれるだろうと思いまして、あははは…」
「あははは…じゃ、ない!!!」
「……っ!!!!!!」
そう言って『ない』のあたりでガツン、と一発頭突きをかました。
少女悶絶中…
「うっわ、痛そう…」
「自業自得だ。それより阿求殿、大丈夫か」
「え、ええ、大丈夫です。助かりました」
「それは良かった」
上白沢 慧音。
人間とハクタクの半獣で歴史に関する能力を持っている。人間時と満月のときのハクタク時では能力は若干異なる。『歴史喰いの半獣』として人里を守る人間に友好的な半獣だ。
そして文を見て気の毒そうに呟いたのが藤原 妹紅である。
彼女は蓬莱人と呼ばれ不老不死の元人間である。長年迷いの竹林に住んでいるが、時々そこで迷った人を人里や永遠亭に送っているため、若干人里の人間とも親密になってきた。
そして慧音の親友である。最近は慧音と一緒にいることで阿求とも親友になった。
「すまないな、遅くなって」
「いえ、十分に間に合っていますよ。時間にも状況にも…」
「そうか、それで用事と言うのは何だ」
「実はですね、ああ、文さん、文さん」
いまだ唸っている文に阿求は柔らかに声をかけた。
「な、何でしょうか…」
文は痛む額を手で押さえながら涙目で阿求の顔を見た。
「文さんにも提供できるお話ですよ」
「えっ、何ですか、何ですか?」
「こいついきなり元気になったよ…」
阿求が提供できると言ったとたんに文は上機嫌な顔になった。
目を爛々と輝かせる文に妹紅はあきれて言った。
「実はこれを見ていただきたいのですよ」
そう言うと阿求は慧音に幻想郷縁起を渡した。
この本には幻想郷に生息する妖怪の種族とプロフィールが載っているのだが、ここにいる者は一度目を通したことがある。それを改めて見せられて如何したのだろうか。
「これがどうしかしたのか?どこか改編でもしたのか?」
「いえ、改編はしていないのですが…。少し八雲 紫の項目を見ていただけますか」
言われたとおりにパラパラとめくり、そのページを見る三人。それで、と慧音が目で合図を送ると
「彼女の危険度と人間友好度はどうなっていますか」
「えっと、不明と普通になっているね」
見た通りの内容を妹紅は答えた。
「そうですね。では質問ですが、紫さんは人間を食べる妖怪ですか?」
「食べるな」
慧音ははっきり答えた。
「ではそれは危険でしょうか、そして人間的に友好と言えますか?」
「ウ~ン、それは危険ですし、あまり友好的と言えないでしょうね」
文が思案しながら天井を見るように答えると
「そう、そうなんです!そして集まってもらったのはそこなんですよ!」
両手を前の畳について三人の前に身をのりだした。今まで話していた大きさの声とは違う、張り上げて言った阿求にみんなはびっくりした。
「実は皆さんの言った通りなのですが、普段の彼女を考えると、いえそこまで仲が良いというわけではないのですが、そんなに友好度は悪くないんじゃないかなと思うんです。でも結構微妙なので言葉を濁すためにわざと『危険度不明』としたのです」
「ふ~ん」
熱弁を振るう彼女に妹紅はそっけなく答えた。
「しかし私は幻想郷を見てきたものとしてこのままでは今までの御阿礼に申し訳なく思いました」
「もしかしてそこで改編をするのですか」
阿求の言葉に文は手を上げて質問をした。阿求は頷くと一枚の白い紙を取り出しみんなの前に広げた。
「これはですね、その改編に当たっての指標となるものです。実は慧音さんと妹紅さんを呼んだのはこの指標を作るためです」
「指標?具体的には如何するのだ、阿求殿」
「いきなり改編しようにも細かいことはやりにくいです。そこで今回考えてもらいたいのは『大妖怪』と『そうでない妖怪』に分けてこの表に書き込んでいこうと思うのですよ」
そう言って阿求は紙の中心に線を一本引いた。右側の欄に『大』とそして左側の欄には『並』と書き込み、これでよしと頷くと
「慧音さんは彼女たちの歴史を見ることができますし、妹紅さんは長年生きてきたから彼女たちのことは根底から分かるでしょう?だからこそ呼んだのです。しかも今日は都合よく文さんまで来てくれたので、今日という日を逃すことはできません」
意気込んでいる彼女に、三人は顔を見合わせた。
「確かに私は彼女たちの歴史を見ることはできるが深く知ることは難しいぞ」
「私も長生きしているとはいえ、大半は竹林で輝夜と殺し合いをしていたしなぁ」
妹紅がそういうと慧音は顔をしかめた。慧音としては長年、妹紅が輝夜と不毛な争いをしていることにあまり良い顔をしないのだ。それは輝夜の従者である八意 永琳も同じことを思っており何かと止めさせようとしたこともあったのだ。 それは今も尚継続中である。
「でも面白そうじゃないですか。これはネタになります」
ふたりは渋い顔をしたが文だけは久しぶりの特ネタだとメモ書きを走らせていた。
改編に燃えている阿求と新聞のネタに輝いている文。こうなった二人は誰に何を言われても止められないのだろう。慧音と妹紅は渋々ながら協力することになった。
とはいえ親友のためだ。何かしら言われても可能な範囲であれば元々手伝う気にはなっていたし、慧音は歴史の編纂者として興味が少しずつ湧いてきた。この件が終わったらまた満月の夜に新たな編纂書が彼女の手によって生まれるかもしれない。
「で、具体的にはどうすんのさ」
と妹紅が質問をすると
「とりあえず皆さんが考え付く妖怪で大雑把に『大妖怪』に当たるものだけをこの表に書き込んでいきます。そして残った妖怪に関してはみんなで持っている情報で討論をしましょう」
阿求は説明しみんなに目を配らせた。
「拾い上げた『大妖怪』の番付はどうするんですか」
「今回それは見送ります。今回ほしい情報はあくまでも『大妖怪』か否かだけなので分類だけに注目してください」
「わかりました」
さっそく文が表に書き込もうした時に慧音が
「阿求殿、そこで提案なのだが私たちが知っている妖怪の中で『大妖怪』に当たりそうな五人をメモに書く。そしてみんなと照らし合わせて二票以上あったものは『大妖怪』にする、という方法をとってみてはいかがだろうか。票が被るという事はお互いが『大妖怪』だと認識しているに当たる。それにそのほうが時間を掛けなくて済みそうだと思うのだが」
と区別するための提案を阿求に投げかけたのだ。
「それは良いですね。妹紅さんも文さんもそれで良いですか?」
「ああ、問題ないよ」
「確かにそのほうが良いですね」
「では早速取り掛かりましょうか」
阿求がそういって、早速四人は取り掛かった。
太陽は真上に昇り徐々に気温も上がってきた。今頃多くの家では昼食に移っている時間帯であろうが、彼女たちは今懸命に『大妖怪』を考えていた。
さて彼女たちが考える『大妖怪』とは誰があてはまるのだろうか。
このお話には幻想郷縁起が関係しているため、都合上「東方花映塚」のキャラクターまでしか出ていません。
またタイトルにある「大と並」の解釈には独自の設定も入っています。
上記の内容を確認してOKであれば下へお進み下さい。
大と並の境1
今は朝が少し過ぎたところ。
今日も空は青空が広がっており、一日中過ごしやすい天気を約束するかのような快晴であった。
心地よい風が強すぎず、弱すぎず緩やかに吹いており、道に咲く花や木の葉がサワサワと静かに揺れていた。
そんな頃に人里の入り口で少女三人が仲良くおしゃべりをしていた。
それは特別ではなく、普段ここではよく見かける光景である。その為に誰もそのようなことには気にかけない日常である。
最も少女には違いないが若干人間ではないのが混ざっているがそんなことは関係ない。
「それでは先に行っていますね」
そういうと少女はビュンとその場を立ち去った。
まるで弓から放たれた矢のごとくの早さである。
「おーい、あまりここでは飛ぶな。他人に迷惑がかかるだろう」
「遅いって、もう行っちゃたよ」
残された少女たちの一人は唸り、一人は苦笑した。
◆◆◆
今日も人里はたくさんの人で賑わっている。
今日はホウレン草が安いよー、と威勢のいい声を上げる八百屋の親父がいれば、向かいの魚屋も負けじと声を夕飯は鮎で決まりだー、と上げていた。
その通りを通る人は色々な商品に目を配りながら楽しんで通っていた。
その中を一人の少女が間をぬう様に抜けていった。
もちろん誰一人にもぶつからずに。この少女にそんな失敗はしないだろう。
「さて、何かいいネタが聞けるといいのですが…」
黒髪の少女は誰に言うでもなくつぶやいた。
彼女の名前は射命丸 文。
鴉天狗の一人で文々。新聞の発行者である。
主に住処である妖怪の山とここ、人里に自分の新聞を見てもらうことを生業としている妖怪だ。
そのため人里では他の鴉天狗に比べて普段から多くの人に目撃されているので
『里に最も近い天狗』と言う二つ名がついている。
今日はここで新聞に載せるネタを探しに来たのだが
「慧音さんたちは何も持ってなかったからなぁ~」
先のやり取りを思い出した。楽しい世間話はできたのだが、残念ながら何も聞けなかった。
そこで先ほどの少女が一人、上白沢 慧音が
「わたしは後で阿求殿のところにお邪魔になる予定だが、そんなにネタがないのなら、彼女のところに行ってみたらどうだ?何か面白い話でも聞けるかもしれないぞ?」
言っていたので文も便乗させてもらうことになった。
当面の目的は阿求の家に向かい、何かしらネタを頂くことになった。
ただ、慧音は用事があるらしく後でから行くことになったので、便乗なのに先に行ってしまうということになったのだ。
商店街を抜け住宅地のある一角に迫った時
「…っとと、行き過ぎました」
文は目的地に着いた。
そこには大きな日本家屋がこれ見よがしと立派に佇んでいた。
「相も変わらず立派なお屋敷ですねぇ。さすが良家のお嬢様」
感嘆の声を上げた。
「ごめんくださ~い」
間延びのある声を上げると
「はい、どちらさまでしょうか」
出てきたのはお手伝いさんだった。
「こんにちは。文々。新聞の射命丸ですが、阿求さんはいますか?もしいればお取次ぎをお願いしたいのですが」
「ええ、いらっしゃいますが…少々お待ち下さい」
お手伝いさんが確認しに行った。
さて突然の訪問を阿求さんは受け入れてくれるだろうか、と
思案していると
「どうぞおあがり下さい」
「ありがとうございます」
笑顔で答えた。
どうやら彼女から了承が降りたようだ。
とりあえず無駄足にはならなくなったので、何とかネタを引き出せるように作戦を練りましょうか、考えながらお手伝いさんについていった。
◆◆◆
「こんにちは、文さん」
案内された部屋には一人の少女、稗田 阿求が文机の前に正座していた。
彼女は御阿礼の子で一度見た聴いた事を全て覚える程度の能力者であり、それは初代から阿求の代までの事柄を全て覚えている特異の少女である。
「どうも、こんにちは。突然ですみませんね」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ今日は慧音さんたちが来ることになっているので…」
「ああ、問題ないですよ。さっき慧音さんたちと話していましたし。それと慧音さんから少し遅れるとのことです」
「そうですか、わかりました。それでは来るまでお茶菓子でもいかがですか?おいしいですよ」
「そうですね…では、いただきます」
文はうれしそうに饅頭を一個ほおばった。
それを微笑みながら阿求が見ていると
「そういえば文さんはどのようなご用事があるのでしょうか」
「あ、それはですねぇ、実は今度文々。新聞に載せようと思うネタが何もなくてですね、阿求さんなら何か持っているんじゃないかと思ったのですが」
「う~ん、ないこともないのですが…」
「もう何でもいいんです、ホントに何でも。このままじゃ不味いんですよ~」
さっきまで明るかった文の顔が徐々に暗くなって阿求に抱きついた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてください、文さん!?ストップ、ストップ!」
「…ヒック、ウワ~ン」
もう…すごい泣きようである。結構切羽詰っているらしい。
「慧音さんが、…ヒック…阿求殿なら助けてくれる。阿求殿を…ヒック…頼れ、阿求殿を信じろって…フェッ…いうもんですから、もうあなたしか頼れないんですよぉ~」
「分かりました、分かりましたから離れてくださ~い!慧音さん、なんでこの人を私に押し付けるんですか~。しかもいい加減なことを言って~」
もみくちゃになり、阿求が天を仰ぎ友人に不平を言っていると
「誰がそんなことを言った、誰が」
文の首根っこを掴み、阿求から引き剥がすものがいた。
「あ、慧音さん」
「『あ、慧音さん』じゃないだろう!?お前はいったい何をしているんだ!?」
「いやこうでもすれば何かしら出してくれるだろうと思いまして、あははは…」
「あははは…じゃ、ない!!!」
「……っ!!!!!!」
そう言って『ない』のあたりでガツン、と一発頭突きをかました。
少女悶絶中…
「うっわ、痛そう…」
「自業自得だ。それより阿求殿、大丈夫か」
「え、ええ、大丈夫です。助かりました」
「それは良かった」
上白沢 慧音。
人間とハクタクの半獣で歴史に関する能力を持っている。人間時と満月のときのハクタク時では能力は若干異なる。『歴史喰いの半獣』として人里を守る人間に友好的な半獣だ。
そして文を見て気の毒そうに呟いたのが藤原 妹紅である。
彼女は蓬莱人と呼ばれ不老不死の元人間である。長年迷いの竹林に住んでいるが、時々そこで迷った人を人里や永遠亭に送っているため、若干人里の人間とも親密になってきた。
そして慧音の親友である。最近は慧音と一緒にいることで阿求とも親友になった。
「すまないな、遅くなって」
「いえ、十分に間に合っていますよ。時間にも状況にも…」
「そうか、それで用事と言うのは何だ」
「実はですね、ああ、文さん、文さん」
いまだ唸っている文に阿求は柔らかに声をかけた。
「な、何でしょうか…」
文は痛む額を手で押さえながら涙目で阿求の顔を見た。
「文さんにも提供できるお話ですよ」
「えっ、何ですか、何ですか?」
「こいついきなり元気になったよ…」
阿求が提供できると言ったとたんに文は上機嫌な顔になった。
目を爛々と輝かせる文に妹紅はあきれて言った。
「実はこれを見ていただきたいのですよ」
そう言うと阿求は慧音に幻想郷縁起を渡した。
この本には幻想郷に生息する妖怪の種族とプロフィールが載っているのだが、ここにいる者は一度目を通したことがある。それを改めて見せられて如何したのだろうか。
「これがどうしかしたのか?どこか改編でもしたのか?」
「いえ、改編はしていないのですが…。少し八雲 紫の項目を見ていただけますか」
言われたとおりにパラパラとめくり、そのページを見る三人。それで、と慧音が目で合図を送ると
「彼女の危険度と人間友好度はどうなっていますか」
「えっと、不明と普通になっているね」
見た通りの内容を妹紅は答えた。
「そうですね。では質問ですが、紫さんは人間を食べる妖怪ですか?」
「食べるな」
慧音ははっきり答えた。
「ではそれは危険でしょうか、そして人間的に友好と言えますか?」
「ウ~ン、それは危険ですし、あまり友好的と言えないでしょうね」
文が思案しながら天井を見るように答えると
「そう、そうなんです!そして集まってもらったのはそこなんですよ!」
両手を前の畳について三人の前に身をのりだした。今まで話していた大きさの声とは違う、張り上げて言った阿求にみんなはびっくりした。
「実は皆さんの言った通りなのですが、普段の彼女を考えると、いえそこまで仲が良いというわけではないのですが、そんなに友好度は悪くないんじゃないかなと思うんです。でも結構微妙なので言葉を濁すためにわざと『危険度不明』としたのです」
「ふ~ん」
熱弁を振るう彼女に妹紅はそっけなく答えた。
「しかし私は幻想郷を見てきたものとしてこのままでは今までの御阿礼に申し訳なく思いました」
「もしかしてそこで改編をするのですか」
阿求の言葉に文は手を上げて質問をした。阿求は頷くと一枚の白い紙を取り出しみんなの前に広げた。
「これはですね、その改編に当たっての指標となるものです。実は慧音さんと妹紅さんを呼んだのはこの指標を作るためです」
「指標?具体的には如何するのだ、阿求殿」
「いきなり改編しようにも細かいことはやりにくいです。そこで今回考えてもらいたいのは『大妖怪』と『そうでない妖怪』に分けてこの表に書き込んでいこうと思うのですよ」
そう言って阿求は紙の中心に線を一本引いた。右側の欄に『大』とそして左側の欄には『並』と書き込み、これでよしと頷くと
「慧音さんは彼女たちの歴史を見ることができますし、妹紅さんは長年生きてきたから彼女たちのことは根底から分かるでしょう?だからこそ呼んだのです。しかも今日は都合よく文さんまで来てくれたので、今日という日を逃すことはできません」
意気込んでいる彼女に、三人は顔を見合わせた。
「確かに私は彼女たちの歴史を見ることはできるが深く知ることは難しいぞ」
「私も長生きしているとはいえ、大半は竹林で輝夜と殺し合いをしていたしなぁ」
妹紅がそういうと慧音は顔をしかめた。慧音としては長年、妹紅が輝夜と不毛な争いをしていることにあまり良い顔をしないのだ。それは輝夜の従者である八意 永琳も同じことを思っており何かと止めさせようとしたこともあったのだ。 それは今も尚継続中である。
「でも面白そうじゃないですか。これはネタになります」
ふたりは渋い顔をしたが文だけは久しぶりの特ネタだとメモ書きを走らせていた。
改編に燃えている阿求と新聞のネタに輝いている文。こうなった二人は誰に何を言われても止められないのだろう。慧音と妹紅は渋々ながら協力することになった。
とはいえ親友のためだ。何かしら言われても可能な範囲であれば元々手伝う気にはなっていたし、慧音は歴史の編纂者として興味が少しずつ湧いてきた。この件が終わったらまた満月の夜に新たな編纂書が彼女の手によって生まれるかもしれない。
「で、具体的にはどうすんのさ」
と妹紅が質問をすると
「とりあえず皆さんが考え付く妖怪で大雑把に『大妖怪』に当たるものだけをこの表に書き込んでいきます。そして残った妖怪に関してはみんなで持っている情報で討論をしましょう」
阿求は説明しみんなに目を配らせた。
「拾い上げた『大妖怪』の番付はどうするんですか」
「今回それは見送ります。今回ほしい情報はあくまでも『大妖怪』か否かだけなので分類だけに注目してください」
「わかりました」
さっそく文が表に書き込もうした時に慧音が
「阿求殿、そこで提案なのだが私たちが知っている妖怪の中で『大妖怪』に当たりそうな五人をメモに書く。そしてみんなと照らし合わせて二票以上あったものは『大妖怪』にする、という方法をとってみてはいかがだろうか。票が被るという事はお互いが『大妖怪』だと認識しているに当たる。それにそのほうが時間を掛けなくて済みそうだと思うのだが」
と区別するための提案を阿求に投げかけたのだ。
「それは良いですね。妹紅さんも文さんもそれで良いですか?」
「ああ、問題ないよ」
「確かにそのほうが良いですね」
「では早速取り掛かりましょうか」
阿求がそういって、早速四人は取り掛かった。
太陽は真上に昇り徐々に気温も上がってきた。今頃多くの家では昼食に移っている時間帯であろうが、彼女たちは今懸命に『大妖怪』を考えていた。
さて彼女たちが考える『大妖怪』とは誰があてはまるのだろうか。
続きを待ってます。
まさかこんな話を見落としていたとは、俺としたことがっ。
うーん、これだから点数避けは勿体ないんだ;
>>夏氏
続きが何とかできました。
感想またよろしくお願いします。
>>ずわいがに氏
面白いという評価ありがとうございます。
これからもそういってもらえるよう努力していきます。