Coolier - 新生・東方創想話

彼女の黄昏とプラスチックダイアローグ【Ⅵ】

2009/10/12 03:45:42
最終更新
サイズ
12.25KB
ページ数
1
閲覧数
750
評価数
2/15
POINT
840
Rate
10.81

【彼女の黄昏とプラスチックダイアローグ/2時間2ヶ月2100万年の一夜茸】






【山は笑う。滴る。装う。そして眠る】

もう1、2年で、十代も終わる頃だったろうか。秋で、晴天だった。

[魔理沙]

その日、私はいつものようにキノコを拾って、拾って、拾っていた。量が要るヤツだったのだ。これがなければ私の魔法は成り立たないとまでは言わないが、とにかく必需品で消耗品だった。その時、人形劇の帰りなのか、手押し車をガタゴト言わせながら、アリスが道の向こうからやってくるのが見えた。ちょうどいい、何か上手いことを言ってアリスにも手伝わせよう。そう思い、声をかけようとしたが、それより一瞬速く、こちらに気づいたアリスが「あら魔理沙」と言ってきた。

「どうしたの?貴女のことだから、散歩って事はないでしょうけど」
「ああ、うん。まぁ、確かに散歩じゃないな」

先手を打たれたせいか、何となく場の支配がアリスに持ってかれたようで口ごもる。アリスは不思議そうに私を見た後、視線を私の後へと逸らした。

「ああ。キノコを採っていたの。随分と沢山採ったのね。それも食べられないものばかり」

考えてみれば、こういう下準備を同業者に見られるというのは何となく気恥ずかしい。キノコを使った魔法はアリスの専門外だからまだ良いが、これが知識だけはあるパチュリーだったら、多分声をかけていなかったと思う。

「ま、キノコは食べるだけのもんじゃないのさ」
「私は食べるのも好きじゃないけど」
「好き嫌いは良くないぜ。アリスは結構偏食なところあるよな」
「洋食をばっさり捨てる奴に言われたくない」
「単に和食派なだけで、別に食べられないことはないんだが」

せっかく話題がキノコにいっているのに、手伝えの一言が出てこない。普通に言ったって手伝うわけないけれど。そもそも人がこんなに大変そうにしているんだから、アリスの奴も気を遣ってくれればいいのに。ここは嘘でも「大変そうね。手伝いましょうか」と言い出すべきところだろう。私ならそうする。もちろん、採った分は貰うが。

なんだか面倒になってきて、もうアリスに手伝わせるのを止めようかなと考えていると、不意にアリスがとことこ近づいてきた。なんだなんだと思っている間にみるみる距離を詰められて戸惑う。アリスのパーソナルスペースはお澄ましの彼女のらしいというか案の定というか、他の連中に比べてけっこう広いから、普段は手の届く位置なんかには入ってこないのだ。そのアリスが珍しく至近距離にいて、しかもどう見ても機嫌良しとは言えない態度で眉をちょっと寄せて、「やっぱり」とぽつり言うもんだから、わけもなくこっちに非があるような気がしたのも仕方のないことだと思う。謝るかどうかはさておいて。

「な、なんだ、やっぱりって?」
「また伸びてる」
「は?」
「背。去年辺りで止まったのかなって思ってたから。まだ大きくなるなんて、ね。ほら、前は霊夢に比べて全然変わらなかったじゃない。だから、このままずっと小さいのかなぁって思ってたんだけど」

「なんだ、成長遅かっただけなのね」

大分抜かれたわねぇ、と言葉の響きだけは感慨深そうではあるが、同じぐらいお前に見下ろされるのは気にくわないという視線も感じた。おそらく霊夢に抜かれ始めた頃から、扱いが年下のそれになったのが影響しているに違いない。大した違いはないのだが、例えばレミリアと同じようにあしらわれたのが不満なのだろう。自身の幼さを隠さないレミリアはあまり気にしていなかったが、アリスの方はそうでもないらしい。気にする方が却って子供っぽい気がするが、実際アリスの方が若い妖怪だと言うから仕方のないことなのかも知れない。

自分にとっては当たり前のことなので特に何とも思わなかったが、なるほど指摘されてみれば、こうして常にアリスの旋毛が見えるというのもこれまでなかったことで。とはいえ、気軽に飛べる身である以上、それほど新鮮な世界というわけでもない。まぁ、例えば妖精なんかに背を抜かれて見下ろされるような事があったら、結構複雑な気になるかもしれないけれど。

そう思って試しに顔見知りの妖精が成長した姿を想像しようとしたが、アイツらの大人っぽいのってどんなだよと、と疑問になる一方で、何度思い描こうとしても萃香の巨大化みたいなのしかならなかった。

「まぁ、一長一短だよな。出せる力は上がったけど、その分大きい的だし」
「……結局、弾幕(そこ)に行き着くのね」

相変わらずみんな戦闘に饑えているのね、と呆れたように微笑うが、アリスだって人のこと言えないだろうと突っ込む。

「違いないわね」
「だろう?」

笑い合いながら、なんだか、少しだけ引っかかるものを感じた。
この一連の会話の隣にあって、けれど少し意味合いが違う感覚に首を捻る。

「なんだろうな」
「魔理沙?」
「なんでもない」

なんでもない、さ。






そんなアリスとの一件から数日経った日。その日もやっぱり晴天で、秋は終わりかけだった。いつものように神社で霊夢をからかっていると、不意に霊夢は「そうだ」と言って立ち上がった。

「なんだ?異変か?」
「ちょっとね」

一回奥に引っ込むと、布と裁縫箱を持って戻ってくる。手にしていた布は紅と白。今霊夢が身につけているのと同じ巫女装束の色だった。どうやら新しく仕立てるらしい。軽くほつれを直すくらいならともかく、一からなんて、いつの間に出来るようになったんだろう。

「珍しいな。買わないのか」
「練習。まぁ、まだ大丈夫だろうけどね」

妙な言い回しだった。

「なんだ?とうとうアイツが霊夢には物を売らないとでも言ったのか?」
「あんたも似たり寄ったりじゃない。ああ、泥棒は家業なんだっけ」
「家業じゃない。いや、私はいいんだ、私は」

よく見ると、霊夢が着るには布地が小さいように思えた。

「私のじゃないわよ」
「じゃあ誰のだよ」
「さぁ?名前はまだ知らないけど。これを着るからには巫女なんでしょう」
「巫女語を話さすな。私は魔法使いだ」

いや、だからさ。

霊夢はほんの少し手を止めて、

「あと数年したら次のが決まるから、その準備をしなさいって」

明らかに誰かの指示らしい言葉をさらりと言って、さぁこれでわかっただろうと作業に戻ってしまった。実際それで全て了解できたので、私は「ああ、なるほど」とどことなく間の抜けた声を出したが、それを霊夢がちゃんと聞いていたかどうかは怪しいものだった。会話は途切れたが帰るタイミングにも思えなくて、霊夢も何も言わないし、湯飲みはまだ空じゃない。「ふーん」と限りなく独り言に近い事で口をぼそぼそとさせて、とりあえずごろりと横になった。空が見えた。縁側だから当たり前のことなんだが。空は高かった。今は秋だからやっぱり当たり前なんだけど。

――――――――なんだろう、な

そのまま、いつの間にか寝入っていた。




【暗転】


どうしても、届かない強さがあることには気づいている。だから、強がることでその隣にいようと足掻いている。


【暗転】


「ねえ、貴女はどうするの?」

酷く興味がないような、それでいて誤魔化しは許さないというような、そんな不思議な声だった。いつものように本を物色していた魔理沙は、その本達と声の主――――パチュリー・ノーレッジ――――の方を振り返る。珍しいことに彼女は本から完全に顔を上げていて、答えが得られるまでは続きを読まないとでも言うように本を閉じ、その表紙に手を置いていた。よくわからないが、その態度は真剣そのもので、彼女はなにか義務感のようなものに突き動かされでもしているようだった。

「どうするって、なにがだ?」
「貴女の今後のこと。選択肢はいろいろあるけど、ものによってはそろそろ取りかからないと」
「今後?」
「単刀直入に言うと」

パチュリーは、そこで何故か視線を魔理沙のずっと後の方に遣り、

「人間を止めるつもりはあるの?」

初めて聞く、よく通った声で問うた。

「……ああ」

急にどうしたんだろという気持ちと、確かにそろそろはっきりさせてもいいかなという気持ちが、不意にどっかから転がり出てきた。その二つが魔理沙の周りをぐるぐると回って、どうにも腹の据わりが悪い。なんだろう、と魔理沙は思った。なんだろう。なんで訊かれることを、こんなにも嫌だと思っているのだろう。

「そういう話か」
「そういう話よ」

答える義理はないんだから、決まってないなら別に答えなければいい。反射的にそんな考えが浮かぶのと同時に、

「別に、答えたくないなら答えなくてもいいわ」

ほぼ同じようなことを、パチュリーに言われた。一瞬、ほっとする。ほっとする?

「でも」
「でも?」
「答えは、出てるのね」

そう、なにやら自己解決したらしく、役目は果たしたとばかりにパチュリーは本を開くと、後はもう顔を上げなかった。一方的に会話を打ち切られ、魔理沙はなにか言おうかと口を開いたが、このまま放っておいてくれるならそれもいいかと思い直し、それから暫くした後、忍び足でそこから立ち去った。


――――――――なんだろう、な


自分はなんの答えを出しているのだろうか。魔理沙にはわからない。



【暗転】



眠りから覚める音を、初めて聞いた気がした。


「起きた?」
「……ああ」
「涎、拭いたら?」
「え」
「嘘よ」
「おい」
「うなされてたようだから、ちょっとしたジョークをと思って」
「え?」
「寝言、たくさん言ってたし」
「げ」
「嘘よ」
「おい」
「だからジョークだってば。ちなみに、うなされていたのは本当だから」
「えー?」
「いや、ほんとほんと」
「なんか、最近誰かに似て性格悪くなってきたな」
「誰かって誰よ」
「さてな」
「あんたも大概ね」



            自分はなんの答えを出しているのだろうか。魔理沙にはわからない。



――――――――わからない?本当に?

「うわっ」

突然、ひやっとした物を顔に押しつけられた。

「って、なんだ、手ぬぐいか」
「それで顔拭きなさい」

かなり前から用意していたのだろうか。深まり行く秋の中で使うには、ちょっと冷たすぎるぐらい冷えていた。不意打ちの攻撃に眠気がいっぺんに飛んで、おまけに考えていたこともどっかに飛んでいった。



冬になった。

各自材料持参で鍋をやるというので、魔理沙はいつものようにキノコ類を持って神社へと向かった。てっきりかなりの人数が集まるのかと思っていたのだが、魔理沙を待っていたのは霊夢と鬼は当然として、何故か隙間妖怪とアリスの4人きりだった。

「最早当たり前のようにいるなぁ、お前」

冬の間は姿を見せないはずのこの妖怪とは、実のところ魔理沙はあんまり話が合わない。それはアリスも同じはずなのだが、妖怪と距離を置きたがる人形遣いには珍しいことに、紫のことは苦手にしていないようで、このことは普通の魔法使いにとって何年も前から解せない謎の一つである。解こうと思ったことなど無いのだが。


外では音もなく雪が降っている。


鍋が空になった。まだ物足りないなぁと思っていると、紫が隙間から蜜柑を一山取り出した。サトリじゃあるまいし、まさか心を読んでるんじゃなかろうかと魔理沙は一瞬身構えるが、特に意味もないことなのですぐに力を抜いた。この妖怪はいろいろと規格外だと思う。仮に読めたとしても、この場にいるのはあまりそういったことが気にならない連中だ。


適当に選んだ蜜柑は、何だかえらく酸っぱかった。


雪見酒でもしましょうか、と巫女が言って、それはいいねぇと鬼が答えた。

「お前は最初から飲んでるじゃないか」
「気にしない気にしない」

霊夢とアリスが立ち上がり、障子を開け放つ。丁度雪は止んだところだったようで、今は薄雲の向こうに月を見つけることが出来た。一昨日が満月だったから、今日は十七夜だ。雪と月とは豪勢じゃないかと思う。寒いのだけは頂けないが。肩を竦めていると、こちらを見てアリスが笑った。そういえば、こいつが寒そうにしているところはあんまり記憶に無い。どうせ魔法か何かだろう。効果の範囲をこの部屋中にしてくれればいいのになぁと恨めしく思っていると、不意に灯りが消されて驚いた。霊夢だった。反射的にした瞬きの後、慣れてきた目の中には淡く光る雪景色が飛び込んできた。淡いと言っても、先程とは比べものにならないほどはっきりと白い輪郭が見える。

「悪くないな」

こんなにゆっくりと雪見をするのは久々だ。

「あんたは寒がりだものね」
「おまけに夜はあまり出歩かないし」

熱した酒が目の前に置かれる。はて、いつの間に準備されていたのだろかと思ったが、こういう疑問は今更なので、すぐに手に取り、まずはみんなで一杯。私は洋酒の方が、という人形遣いの声は華麗に流された。雪見にワインはないだろうと魔理沙は思う。湯気を立たせた液体を嚥下し、それが胃に落ちていくのを感じて、ほうっと息を吐いた。寒さがほんの少し遠ざかる。うむ。今日は気分良く酔えそうな気がした。

気がつくと鬼も隙間妖怪も人形遣いもいなくなっていた。背中にある畳の感触に寝入っていたことに気づき、魔理沙はのろのろと身を起こした。灯りは消されたままで、相変わらず雪は光っていた。月明かりがあると言うことは、それほど時間は経っていないらしい。居なくなるのは結構だが、一言ぐらいあってもいいじゃないかと思ったが、アリスはともかく他二名は普段から神出鬼没が売りみたいな奴らだ。そんな気遣いなどあるわけがなかった。そしてアリスの方は気遣いから魔理沙に黙って退散したのだろう。そういうことにしておこう。

「起きたの?」
「うん」
「涎が…」
「その手には乗るか。妖怪じゃあるまいし、この暗さで見えるわけないんだぜ」
「あら」

ちょっとだけ、霊夢が笑った声がした。魔理沙はその笑い声に目を閉じて、それから開けて霊夢を見た。雪景色を背に、柱に身を預けた霊夢は、一人上機嫌に杯を傾けている。淡い月明かりが作る影は、やっぱり淡くやわらかで、それはそのまま、この夜の全てだった。





霊夢が、そこにいた。






ああ、と魔理沙は、思った。



「そうか」
「魔理沙?」
「いや、うん。そっか、そうだよな」


ああ、そうか。
なら、仕方ないな。
魔理沙はようやく揃った欠片を丁寧に繋いで、出来上がったそれに心中、笑いを零した。


――――――――これだったんだな

本当、単純なことだったな。

「なあ」
「うん?」


一呼吸、おいた。そして、霊夢に笑いかけた。


「やっぱりさ、霊夢はそうやって神社(ここ)でグダグダしてるのがお似合いだ」


――――――――ここでそうやっている巫女は、お前だけで充分だよ









だから、霧雨魔理沙が生涯、時に行った抵抗は、丹の服用、それのみに留まったのだった。














                                                                              .
この作品は、


(次回の予測のヒントになる危険性の為、省略します。完結したらこっそり追加されます)



上海アリス幻樂団ワールドと皆さまの励ましで出来ています。




>>――――――――これだったんだな
>続きと少し被りますが、だから魔理沙は霊夢だったんでしょうか…。時に対するささやかな抵抗はあれど。
>幸か不幸かなんて短絡的なものに議論を落とし込みたくはないですが、
>魔理沙はそれなりに満足していったんじゃないかと思いました。
>そしてアリスは…うあー想いを馳せればそれだけ泣けてきます…
これだったんです。
プラダイの初期プロットは2005年からあったのですが、新しい情報が出る度に、寿命を伸ばす方法が増えていくので悩みました。
ただ、魔理沙は霊夢がいないと退屈らしいので、こんな理由もありかなぁと思いました。
このシリーズの魔理沙は幸せだったと思います。それはアリスも同じだと思いますよ?

追記の追記

誤字指摘、コメント感謝します。

>卵を入手しなかったら、こういうお話になるのか
>これはアリスには、ぜひとも入手してもらわないと
>とはいえ、こういう魔理沙も違和感ない
>アリス視点だと、切なさ爆発だけど
卵を買わない場合はこんな感じです。
他のシリーズが好きって方には、楽しみづらい話かも知れませんね。
アリス視点だとちょっと寂しい展開です。
ただ、あっちの話が無いことになっているなら、アリスの魔理沙への気持ちも、またあっちとは違うんですが。
歪な夜の星空観察倶楽部
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.640簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
>――――――――これだったんだな

続きと少し被りますが、だから魔理沙は霊夢だったんでしょうか…。時に対するささやかな抵抗はあれど。
幸か不幸かなんて短絡的なものに議論を落とし込みたくはないですが、
魔理沙はそれなりに満足していったんじゃないかと思いました。
そしてアリスは…うあー想いを馳せればそれだけ泣けてきます…
9.100名前が無い程度の能力削除
卵を入手しなかったら、こういうお話になるのか
これはアリスには、ぜひとも入手してもらわないと
とはいえ、こういう魔理沙も違和感ない
アリス視点だと、切なさ爆発だけど

もしかしたら
おまけに考え事ていたことも→おまけに考えていたことも
アリスはともかく他に二名は→アリスはともかく他(の)二名は
やぱっり淡くやわらかで→やっぱり淡くやわらかで
グダグダしてるがお似合いだ→グダグダしてるのがお似合いだ
かも